利益測定構造の一表式
―簿記会計導入教育手法の開発―
A Formula for Income Measurement Structure : Development of
an Instructive Method for the Introductory Stages
of Bookkeeping and Accounting
寺戸節郎 遠藤真美
SetsuroTERADO MasamiENDO
複式の記録・計算という複式簿記特有の記録・計算方式は,簿記の学習者にとって新しい原理であ る.しかも,それと不可分に学習される2欄形式と加法的減法による記録・計算形式は,学習者にとっ てなじみがない.しかし,実際の学習では原理の探究よりも経済事象の記録・計算技能修得に重点が 置かれる場合が多い.その結果,利益計算構造に関する問題が必ずしも解明されないまま,学習段階 が進むにつれて学習者の関心は記録・計算パターン修得に移行する傾向がある. したがって,簿記学習の導入段階での複式記録・計算の仕組みの理解が重要になる.それは,その 後の会計理論の学習とその応用を可能にするためにも必要である.本稿では,簿記・会計の導入単元 における利益測定構造学習のための記録・計算の具体的様式について考察する.それは,標準的様式 と接合性を有する一方で,ベクトル形式および正負の符号を採用し,2欄形式および加法的減法は用 いない. キーワード:複式記録・計算 データ処理単位 ベクトル形式 簿記・会計原理探究1.はじめに
資産の増加は何故借方記入となるのか1),という素朴 な疑問は,簿記を初めて学習する者であればだれでもが 抱くであろう疑問である.その場合,学習者は資産の増 加が左右2欄式の記録形式の左側に記入される根拠,さ らにはそもそも左側が借方と呼ばれる根拠を知りたいの である.それは,簿記の学習者が当然抱く疑問と言って よいであろう. そのような疑問は,導入段階において学習が進むに連 れて次々と生じてくるであろう.たとえば,負債の増加 は何故貸方記入となるのか,出資による資産の増加は何 故同時に貸方にも記入されるのか,経営活動による資産 の獲得とその対価としての資産の費消は何故同時に貸方 にも記入されるのか,といった疑問である. 記入の左右やそれぞれの呼称といった複式簿記の生成 史に関する問題2)を除けば,それらの疑問が生じる原 因は,複式の記録・計算という複式簿記特有の記録・計 算方式が簿記の学習者にとって新しい原理であることに ある.しかも,多くの場合に複式記録・計算と不可分に *経済学教室 **山梨県立第一商業高校 学習される,2欄形式と加法的減法を用いる標準的な記 録・計算形式は,学習者にとってそれ以前にはほとんど なじみがない. しかし,簿記の学習内容には,複式記録・計算方式に 基づく経済事象の記録・計算技能修得が含まれ,実際の 学習では原理の探究よりもそちらに重点が置かれる場合 が多い.その結果,上記の疑問のうち利益計算構造に関 する問題が必ずしも解明されないまま学習段階が進む. それにつれて学習者の関心は,複式記録・計算方式の本 質から経済事象別の具体的な記録・計算パターンの修 得に移行する傾向がある. したがって,簿記学習の導入段階での複式記録・計算 という記録・計算方式の仕組み,すなわち学習者の疑問 との関連で言えば,資産・負債,資本・収益・費用それ ぞれの増減ないし発生記入の相対的位置関係の理論的根 拠の理解が重要になる.また,財務会計における利害調 整のための会計情報伝達の基本的手段は,複式簿記によ る記録から作成される財務諸表である.よって,その後 の会計理論の学習とその応用を可能にするためにも複式 記録・計算を理解しておくことが必要である. そこで本稿では,高等学校の商業科目の「簿記会計」 を手がかりとして,簿記・会計の導入単元における利益測定構造3)学習のための記録・計算形式の具体的様式 について考察する.特に,当該様式は標準的様式と接合 性を有する一方で,2欄形式と加法的減法は用いられな い.また,加減および転記の煩雑さを軽減するために, 表計算ソフトウェアの利用が可能な様式とする.
ll.フロー記録と利益計算
1.財のフローと資本価値 企業が保有する財の総体価値は,企業ないし所有者と それ以外の第三者に帰属する.よって,保有財の総体価 値のうち企業帰属分は,保有財の総体価値から第三者帰 属分を控除して求められる.しかし,保有財の総体価値 は,保有財の個別価値合計と必ずしも一致しない.さら に,保有財の帰属を直接識別することは一般に困難であ る.そこで,第三者に帰属する負の価値を有す財を擬制 することによって企業帰属分が測定される.すなわち, 資本価値は純資産額として定義される(資本等式). 一方,企業活動の投入・産出は,必ずしも1会計期間 内に収支に還元されない.その結果,資本財をはじめ保 有財のストックが会計期間の間で繰り越される.よって, 資本価値増減を測定するには各財のストックの計算,し たがって,その個別フローの記録が必要である.その際, 負債は,保有財総体価値の第三者帰属分の変動を相殺す ることによって,資本価値増減の識別を可能にする. 以上から,財の個別フローを記録単位とする場合,財 のフm−一記録は,財のクラス,フロー価値,時点から構 成される.インフローに+,アウトフローに一を,さら に負の価値に一を付すならば,資産と負債のフロー価値 は次のように表記できる. 4/3 3 5 5 7 7 10 10 12 12 15 現 金 売掛金 商 品309 備 品 買掛金 (−309) 借入金 200 (−200) 170 一158 一20 −504 20 504 一一 i−109) 経営活動による1会計期間の資本価値増減額(純損益) は,その期間の財のフロー価値額を集計することによっ て得られる.これは,上の例に続く財のフローに関して 次のように示すことができる.15181820202222252830計
現金一109342 −104
売掛金 商 品 備 品 買掛金 借入金 資 一320 一(−100) 100 本一109 342−320−104 100 100−−100 −34 一34 3 −3 129 −100 70 33520
−200 −100 3−3 −4 他方,期首ストック量に期間内フロー量合計を加えた のが期末ストック量である.よって,1会計期間の資本 価値増減額は,期首と期末の資本価値を比較することに よって確かめることができる(財産法).上記の例では この関係は,次のようになる. 期首ストック インフロー フロー 期末ストック アウトフロー 資 産 負 債 + 価値額 +(一価値額) 一 価値額 一(一価値額) この表記は,次の例のように,そのまま表計算ソフト ウェァでの入力式として利用することができる.従来か ら表計算ソフトウェアを利用する簿記・会計テキスト4) はあるものの,それらは加算・減算および転記の自動化 を目的とするにとどまっている.標準的な記録・計算形 式がそのまま踏襲されているので,導入段階における利 益測定構造について学習者の理解を助けることは,とり たてて期待できない. 現 金 売掛金 商 品 備 品 借入金 買掛金 資 本 700 700 一129 70 335 20 −100 −200 −4 571 70 335 20 −100 −200 696 2.フローの記録と実在勘定 物質財と同様に非物質財も,前項の表記を用いてその フローを記録することが原則として可能である.しかし, 非物質財は不可視であり,ストックを識別することが困 難である.また,サービスやエネルギーは,インフV一 とアウトフローがほぼ同時にかつ一定期間連続的に生じ る.よって,それらの連続的個別フローを記録すること は,技術的にも経済性の点からも同様に困難である. したがって,これらの財の個別フローの記録は,通常行われない.対価となる財のフローが記録されるだけで ある.すなわち,前者の財については財のクラスに対応 する勘定(実在勘定)が設定されない.たとえば,サー ビスについてこの関係は次のようになる. インフロー アウトフロー 記 録 ることが必要である.それにより,財のフローの全体集 合から資本価値増減に作用する財のフローの部分集合が 識別される.その結果,データ処理は,財のフローの記 録・計算から資本価値増減の計算が分化することによっ て,前者と後者の2系列になる.この関係は,前節の例 では次のようになる. サービス: 提供 +価値額 受入 +価値額 対 価:
受取
支払
+価値額 一価値額 一価値額 +価値額 一(一価値額)一(一価値額) 一価値額 一価値額 +(一価値額) +(一価値額) 従来,「簿記会計」の導入段階では,この点が必ずし も強調されなかった.しかし,それを明確にしておくこ とは,後の費用財フロー,特に用役フローに基づくキャッ シュ・フローの配分の根拠を理解する前提として重要で ある.たとえば,前項の例で4つのフローが,順番に利 息の支払い(20),従業員への給料支払い(25),手数料 の受け取り(28),諸雑費の支払い(30)であるとする と,キャッシュ・フローとサービスの関係を次のように 明きらかにすることが必要である. 20 25 28 4/3 5 7 10 12 15 18 20 22 25 28 30 現 金 200 売掛金 170商品309−158 504 −320
備 品 20 買掛金(−309) 一(−109) 借入金 (−200) 資 本 12 一20−504−109 342−104 100−34 3 −3 一100 一(−100) 22 −4 −34 3 −3 その場合,取引の記録は,インフロー財のクラス・価 値,アウトフロー財のクラス・価値,時点から構成され る.取引の類型別の記録の構成は次のようになる.対応価値 インフロー
アウトフロー 30現金
一4 −34 +3 −3
サービス: インフロー+4 +34 +3 +3 アウトフロー−4 _二3.4−一一一 一3_.一一一一一一一二3_.一一一 亘’甲禾’’’’”“6−’”:401’5iO・30L’5皿.取引記録と利益計算
1.取引の記録 財の個別フU一の集合は,対価関係(取引)によって 分割することができる.財のフローの対価関係は,財の インフローとアウトフローの対応,フロー価値の均衡に よって分類できる.フロー価値の均衡は,資本価値増減 に対する中立性を意味する.したがって,フロー価値が 均衡する対価関係にある財のフローの組は,資本価値の 期間的増減額測定のための集計対象から除くことが可能 である.それによって,計算に必要なフローデータの数 を削減することができる. 均衡する対価関係にある財のフローの組を識別するに は,データ処理単位を財の個別フV−一から取引に拡張す 交 換均 衡 不均衡 非交換不均衡 不均衡 財クラス,+価値,財クラス,一価値,時点 財クラス,+価値,財クラス,一価値,時点 財クラス,+価値, 時点 財クラス,一価値,時点 交換取引の記録は,フロー記録の組からなり,非交 換取引の記録の構成は,フローの記録の構成と同じ である.しかし,均衡交換取引は資本価値の期間的 増減の計算から除かれるので,その記録は,資本価 値増減に対する中立性の情報を含んでいれば足りる. インフロー一価値とアウトフU−一価値の均衡性がその 情報である. 一方,不均衡取引は資本価値増減の計算に含まれるの で,その記録は,不均衡取引を抜き出すための情報およ び増減資本価値に関する情報を含むことが必要である. 増減資本価値は,インフn一価値とアウトフロー一価値の 和である.よって,インフロー価値とアウトフロー価値 の不均衡価値は,フロー価値の不均衡性および増減資本 価値の情報を有す. インフロー価値とアウトフロー価値および不均衡価値 は均衡するので,資本価値増減内容ないしクラスを示す 勘定(名目勘定)を設定してそれを不均衡取引記録に含 めることによって,取引記録の形式が統一される(貸借 均衡原理).それによって,記録においても,財のフロー の記録から資本価値増減の記録が分化することによって対 応 インフロー アウトフロー一一 対 応 インフロー アウトフロー 交 換 財クラス,+価値, 非交換 財クラス,+価値, 増減一{一価値} クラス, 財クラス,一価値, 時点 増減一{+価値一価値} クラス, 増減一{+価値},時点 クラス, 財クラス,一価値, 時点 2系列になる.その場合,不均衡取引記録の構成は上記 のようになる. また,資本価値増減に作用するフローを再度集計する 場合と比べて,資本価値増減計算に必要なデータをさら に削減することができる.これらの関係は,上記の例で は次のようになる.
A BCDEFGHIJKLM
4/3 5 7 10 12 15 18 20 22 25 28 30 交 換 貨幣財 非交換 貨幣財,非貨幣財 1現 金 2売掛金 170 3商 品 一158 6借入金 7販売益 一(D2+D3) 8受取手数料 9給 料 10雑 費 11支払利息 342−4 −34 3−3 一320 一(Hl+H3) 一11 一K1 一L1 一M1 財のフローから取引へのデータ処理単位の拡大,なら びにデータ処理および記録の2系列化の根拠,すなわち 「増減表」による記録・計算から複式記録・計算への移 行の根拠は,従来の「簿記会計」の導入段階では必ずし も強調されなかった.しかし,それを明確にしておくこ とは,記録・計算に関する資産・負債と収益・費用の関 係および後の不均衡交換取引の営業収益と費用の分離の 根拠を理解するうえで重要である. 非貨幣財 貨幣財,非貨幣財 2.不均衡取引の記録と名目勘定 交換取引においてインフロー非貨幣財の価値額をアウ トフP一貨幣財の価値額で測定することを前提とすれば, フロー価値不均衡を生じる取引・フn一財の組合せは次 のようになる.フロー価値不均衡性を基準にして増減資 本価値を記録・計算する場合,不均衡価値額としては, 非交換取引ではフロー価値総額,不均衡交換取引ではフ ロー価値差額がそれぞれ記録される. ところが,資本価値増減を業績尺度として計算する場 合,フロー価値総額に対するフロー価値差額の関係が重 要である.よって,不均衡交換取引の増減資本価値記録 は,さらにインフロー価値とアウトフロー価値の記録に 分割される場合がある.それにより,取引記録の形式は 不均衡取引の間および不均衡取引と均衡取引の間でも統 一される.その結果,増加資本価値と減少資本価値の和 として増減資本価値が計算される(損益法). この増加資本価値と減少資本価値の分離により,情報 の充実とならんでデータ処理効率の改善が期待される. それは,一方で資本価値増減計算に必要なデータをむし ろ増加させることになる.しかし,営業収益・費用に関 しては,不均衡交換取引記録の分割の情報充実効果が相 対的に大きいと考えられる. 資本価値増減は,経営活動または持分変化による財の フローから生じる.したがって,資本価値増減データ全 体から持分変化による資本価値増減データを分離し,経 営活動による増加資本価値データおよび減少資本価値デー タを集計することにより,前者による資本価値増減が測 定される.両データを区分する基準5)が定まるとして, 上記の例で期首に資本拠出があったとすると,これらの 関係は前項の例では次のように示される.A BCDEFGHIJKLMNO
4/1357101215182022252830計
1現 金700 2売掛金 3商 品 170 158 6借入金 7資本金一B1 8売 上 一E2 9受取手数料 10売上原価 一E3 11給 料 12雑 費 13支払利息 14純損失 342−4 320 一34 3 −31004 170 −478 :ラ66 ”:i’i−”@ 二亘
一M1 −3 −13 478 −L1 34 −N1 3 −J1 4 −4ただし,014=一{(08+09)+(010+・・+013)}. 費用財のフロー インフロー アウトフロー一 以上のことから,資本価値増減内容の表記および当該 表記と財のフロー,ストックに対する関係(試算表等式) は次のようになる6) フロー一 価値増加 価値減少 ストック 資 産 負 債 資 本 (利一_益L 収 益 費 用 利 益 +価値額 一価値額 +価値額 一(一価値額)+(一価値額) (一価値額) 一{一価値額}一{+価値額}一{+価値額} 一{+価値額} 一{一価値額} {+価値額一価値額}
IV.キャッシュ・フローの期間配分
1.実在勘定データに基づく配分 不均衡交換取引に関する資本増減価値データの処理で は,非貨幣財アウトフn一データに基づいて資本減少価 値(費用)データが生成される.一方,その対価である 貨幣財インフローは,非貨幣財アウトフローにともなっ て発生するので,資本増加価値(収益)データも非貨幣 財アウトフローに基づいて生成される.ところが,交換 取引での非貨幣財インフロー価値額を貨幣財アウトフロー 価値額で測定するとすれば,不均衡取引での非貨幣財ア ウトフロー価値は,当該非貨幣財インフロー一の対価とし ての貨幣財アウトフn一価値に等しくなる. したがって,経営活動に起因する資本価値増減の計算 は,非貨幣財(費用財)フロー,ないしそのデータに基 づくキャッシュ・フローの期間配分としての側面を有す る.棚卸資産のように財の個別的価値フローが記録され る非貨幣財については,キャッシュ・フローは当該フロー データに基づいて配分される.他方,財の個別的価値フ ローが記録されない非貨幣財については,キャッシュ・ フローは非貨幣財価値フローそのものに基づいて配分さ れるほかはない.しかし,前者の場合,フローデータ量 は膨大になる.そこで,手作業によるデータ処理を前提 として,必要データ量を減らして処理の負担を軽減する ために,非貨幣財価値ないし資本減少価値に関してデー タ処理の簡略化7)が行われる.これは,次のように示す ことができる. (フローデータによる処理) 貨幣財 一貨幣財アウトフV−一額 +貨幣財インフロー額 費用財_一一一土貨幣財zウ上2P二額.._一一二貨幣財zウ上7P二額収益
一{+貨幣財インフロー額} 費 用 一{一貨幣財アウトフロー額} (簡略化処理) 貨幣財 一貨幣財アウトフロー額 +貨幣財インフロー・額 費用財一____.一一.一一一一一一一___一.._一収益
一{+貨幣財インフロー額} 費 用一{一貨幣財アウトフロー額} 簡略化したデータ処理の場合,非貨幣財の個別フロー は記録されない.よって,会計データから非貨幣財のア ウトフロー価値および会計期末のストック価値を算出す ることは不可能である.したがって,会計期末の当該財 のストック量をフロー量記録および実地棚卸記録から確 定することが必要である.周知のように,それらに基づ いて非貨幣財アウトフロー価値が次のように修正される. すなわち,キャッシュ・アウトフローが非貨幣財アウト フロー量に基づいて配分される.非貨幣財のアウトフU−一 量が個別フロー記録から集計されるのか,期末ストック 量から逆算されるのかは,当該財の重要性に依存する. アウトフv一 ストック 貨幣財 費用財一一一 収 益 費 用 一{+期末ストック額} 一一土期末吐ック額 非貨幣財の個別フロー数が多ければ,個別フU 一一記録 省略による負担軽減効果は,当該修正データ処理の負担 とは比較にならないほど大きいであろう.しかも,増加 資本価値の記録についてはフローデータに基づく配分の 場合と同じであるので,営業収益情報の内容に変化はな い.よって,不均衡交換取引記録の分割によって一旦増 加した必要データ量は,再び削減される. この点を明らかにすることは,「簿記会計」の導入段 階での,商品売買取引に関する分記法8)から(3分割) 総記法への移行の根拠を学習者が理解するうえで重要で ある.従来は,両者のキャッシュ・フロー配分基準の違 いが強調されている.すなわち,個別フロー価値を計算 する分記法の方が,期間フロー価値を一括して計算する 総記法より非貨幣財アウトフV−一価値計算の負担が大き いことが,分記法の実行可能性が低い根拠とされる.しかし,商品種類,取引の数が同一である場合の処理デー タ数の違いも考慮されるべきである.増加資本価値,減 少資本価値の分離と非貨幣財フm一データに基づく配分 の組合せ(売上高・売上原価表示法9))は,次のように 両者とそれぞれ共通項を有す.したがって,同一商品種 類,取引数のもとでの,分記法・総記法間の記録すべき デー一タ数の比較が可能になる. インフロー 財のフロー アウトフロー 貨幣財 +貨幣財インフロー額 費用財 +貨幣財アウトフU一額 一貨幣財アウトフロー額 前受収益一±⊥ご貨幣財五クn纈}一ニー(一二貨幣財インフm−一額〕一一.
収益
一{+貨幣財インフロー額} 費 用 一{一貨幣財アウトフロー額} 増加資本価値・減少資本価値 配分基準 結 合 分 離 貨幣財 費用財 前払費用 収 益 費 用 +貨幣財アウトフロー額 一貨幣財アウトフ匪額 一貨幣財アウトフロー額 フローデータ 分記法 費用財フロー 売上高・売上 原価表示法総記法
一貨幣財アウトフロー額 +貨幣財アウトフロー額 一{一貨幣財アウトフロー・額} しかし,そのことは,逆にデータ処理の自動化によっ て情報処理の負担が軽減されれば,個別の減少資本価値 の計算・記録データ数削減が記録・計算方式選択の決定 的要因ではなくなることを意味する1°).手作業による処 理のもとで記録・計算の簡略化をもたらす同一パターン の計算・記録の反復は,自動化にはむしろ適している. したがって,記録・計算の実行可能性は,記録・計算方 式選択の規範的基準ではない.経済価値フローがいかに 忠実に記録されるか,あるいはどのような情報が伝達さ れるかが重要である. 2.費用財フローに基づく配分 データ処理の負担が大きい場合,非貨幣財フローはキャ ッシュ・フロー配分の基準選択のひとつの対象である. しかし,連続する個別的な増減資本価値の記録が技術的 に困難な場合,キャッシュ・フローは非貨幣財フローに 基づいて配分するほかない.ストックは記録されても連 続的な価値フローが記録されない資本財,既に述べたよ うにストックも通常は記録されないサー一ビスやエネルギー などが,それらの財に含まれる. 非貨幣財の連続的フロー価値およびストックが記録さ れない場合,前項の例のように非貨幣財フロー価値をス トックおよび一方のフローの記録から逆算することはで きない.よって,フロー量の物的記録または,契約履行 の度合を表す経過時間などのフロー量代理変数に基づい て非貨幣財フロー価値が計算される.それらを基礎とし てキャッシュ・フローは,1会計期間について一括して 配分される.フロー価値およびストックが記録されない 場合の非貨幣財フローと資本価値増減,キャッシュ・フ ロー配分の関係は,次のようになる11). 貨幣財 費用財 未収収益.一, 収 益 費 用 貨幣財 費用財 +貨幣財アウトフロー額 +減少資本価値 未払費用+(一減少資本価値) 一貨幣財アウトフロー額 +増加資本価値 一{+増加資本価値} 一{一貨幣財アウトフロー額} 一減少資本価値 収 益 費 用 一{一減少資本価値} ただし,インフロー額は増加資本価値額に,アウトフロー額は減 少資本価値額に等しい. しかし,前受収益および前払費用について「簿記会計」 では,貨幣財フローを直ちに資本増加または減少として 記録する方式のみが学習対象とされてきた.しかし,そ の方式と上記の記録方式とでデータ数に差はないと考え られる.したがって,この場合こそ,前項で述べたよう に,経済価値フローがいかに忠実に記録されるか,ある いはどのような情報が伝達されるかが記録・計算方式選 択の基準となると考えられる.その意味で,上記の方式 は選択対象のひとつとなりうる. 他方,ストックが記録される資本財の場合には,非貨 幣財の連続的価値フローや物的生産能力フローの代理変 数である生産量や時間などに基づいて,減価12)が計算 される.記録は,財フローに基づいてキャッシュ・フロー が配分される他の物質財の場合の,アウトフロー価値の 記録と同様である.すなわち,次のようになる.費用財のフU一 インフロー アウトフU一 貨幣財インフロー 非貨幣財アウトフロー 貨幣財 一貨幣財アウトフロー額 資本財 +貨幣財アウトフロー額 一貨幣財アウトフロー額 費 用 一{一貨幣財アウトフロー額} ただし,アウトフロー額は減少資本価値額に等しい. 貨幣財 +貨幣財インフロー額 費用財 繰延費用一一_二貨幣財アウトフロー額一一一 収益一{+貨幣財インフロー額} 費 用 一{一貨幣財アウトフ”v一額} 一貨幣財アウトフロv・額 一一一±貨整i財アウトフロー額 3.収益対応性に基づく配分 前項までに示された財のフローおよび資本価値増減の 記録・計算方式は,従来の標準的方式に比べて,学習が 進んだ段階での「簿記会計」に関する学習者による内容 理解を容易にすることに寄与しうるであろうか.ここで は,キャッシュ・フローのより複雑な配分についてそれ を検討する. 期間的業績の尺度として損益数値を活用する場合,経 営活動の成果としての増加資本価値とそのための犠牲と しての減少資本価値が期間的に対応することが必要であ る.したがって,非貨幣財フローないし当該フローデー タに基礎を置くキャッシュ・フロー配分は,フロー価値 の期間的対応性によって制約を受ける.その関係は,次 のように示すことができる. 貨幣財インフロー 非貨幣財アウトフロー 貨幣財 費用財 引当金 収 益 費 用 +貨幣財インフロー額 一貨幣財アウトフロー額 土一(.二貨幣財アウトフロL.Xfi)一ニー{一二貨幣財アウトフロー額} 一{+貨幣財インフロー額} 一{一貨幣財アウトフロー額} びそれらと資産,負債とのそれぞれの異同が明確になら ない.
V.むすび
貨幣財 費用財 +貨幣財インフロー額 一貨幣財アウトフロー額 繰延費用一{+貨幣財アウトフロー額}+{+貨幣財アウトフロー額} 収 益 費 用 貨幣財 費用財 引当金 収 益 費 用 一{+貨幣財インフロー額} 一{一貨幣財アウトフV一額}一{一貨幣財アウトフロー額} 一{+貨幣財アウトフロー額} +貨幣財インフロー額 一貨幣財アウトフロー額 +{一貨幣財アウトフロー額}一{一貨幣財アウトフP一額} 一{+貨幣財インフV一額} 一{一貨幣財アウトフロー額}一{一貨幣財アウトフU・一額} 一{+貨幣財アウトフU一額} ただし,インフV一額は増加資本価値額に,アウトフロー一額は減少 資本価値額に等しい.フU 一一発生順は,それぞれ非貨幣 財アウトフロー→貨幣財インフU−一(繰延費用),貨幣 財インフm−→非貨幣財アウトフロー(引当金)である. これに対し,従来の標準的方式13}では,上記の関係が 次のように示される.しかし,その場合,非貨幣財フロー ないしフローデータに基づくキャッシュ・フロー配分が フロー価値の期間的対応性から受ける制約は,明かにな らない.したがって,繰延費用,引当金計上の根拠およ 本稿で検討した簿記・会計の記録・計算の様式は,形 式上は,従来の標準的な2欄形式および加法的減法に代 えて,ベクトル形式および正負の符号を採用したに過ぎ ない.しかし,その利点は,単に学習者にとって正負の 符号による加算・減算の方がなじみ深いということにと どまらない.この様式は,財のフロ「の記録と増加資本 価値,減少資本価値の記録,すなわち資産,負債フロー の記録と収益,費用,資本の記録の違いを明確に示すこ とができる. たとえば,財の個別フロー集計の結果としての利益と 資本価値増減のみの集計の結果としての利益の関係,資 産・負債と費用・収益,資産・負債と資本,費用・収益 と資本の関係などについて学習者は疑問をもつ.しかし, 上記のような特質を有す記録・計算様式による学習は, 財フロー,資本価値増減という両系列の記録の,そのよ うな対応関係の理論的根拠を理解することを容易にする. その一方で,経済価値およびインフロー,アウトフロー の組合せの結果としての符号の正負は,経済価値増加側 と減少側を表す.当然,ベクトル形式の記録における正 負と従来の標準的な2欄形式の借方,貸方は対応してい る.よって,2つの記録・計算様式を結び付けることは 困難ではない.また,標準的2欄形式の利点であるイン フロー,アウトフローそれぞれの一覧性は,演算後の値 の正負に応じて記録を区分することで,ベクトル形式の 場合でも十分確保できる.さらに,正負の符号の導入は, 表計算ソフトウェアの入力形式と経済事象の記録形式の 統合を可能にする.したがって,本稿で検討した記録・ 計算様式は,簿記・会計教育と情報処理教育の連動に資 する可能性を有する.導入段階のどこまでこの様式を用いるかは,確かに今 後検討を要す課題である.しかし,この様式によれば, 簿記・会計の学習者が初期の段階で抱く利益計算構造に 関連する疑問を,より理論的に解消することが可能であ る. 注 1)平林(1993),89頁. 2)これについては,木村・小島(1956),1編,馬場 (1987),7章などを参照. 3)斎藤(1988),3,4章,寺戸(1993)を参照. 4)谷田(1990),本田(1992)などを参照. 5)分離の基準の必要性については,斎藤(1988),65− 66頁参照. 6)この関係は,本項の例では次のように示される. フVコーt 期首ストック価値増加 価値減少 期末ストック/計 8)分記法による記録は次のようになる. インフロー アウトフロー 現 金 売掛金 商 品 備 品 買掛金
借入金
資本金一一 売 上 受取手数料 売上原価 給 料 雑 費 支払利息 純損失 0 1345 0 170 0 813 0 20 0 −(−109) 一一旦一一一一一一.ニー(ニユoo)一 一.旦_一_二{二迎一一一一 一(−478) 一(−34) 一(−3) 一(−4) 515−519 一774 −100 −478 (−309) 一.(−200) −700 −512 −3 57170
33520
−200 一二10旦. 一一二69旦一一 一512 −3 47834
3 4 −4 7)この関係は,前節の例では次のように示される.A
1現 金 2売掛金 3商 品C DE FGH I
35710121518
・一一@ 一504 342170
5買掛金(−309)8売上
一E2 −Il
10売上原価一C5 −G1O P
30 計
… −200 … 170 335 335 一309 一512 一〇3 478 貨幣財 一貨幣財アウトフロー額 +貨幣財インフロー額 費用財_一一一±貨幣財z妊元:額一一_一一一二貨整財塑卜塑三額利益 一{+貨幣財インフロー額
費 用 一貨幣財アウトフロー額} 9)呼称は,安平(1992),73頁による.あわせて山口・ 罵村(1974),80−81頁,中瀬(1991),240−251頁も 参照. 10)これについては,大矢知(1988),5頁,中瀬(1991), 250 一 251頁を参照. 11)中瀬(1991),251 一 257頁を参照. 12)資本財の減価原因については,馬場(1987),313− 317頁を参照. 13)その方式では,非貨幣財フローと資本価値増減,キャ ッシュ・フロー配分の関係は,次のようになる. 財のフロー インフロー アウトフロー一 貨幣財 +貨幣財インフロー額 費用財 +貨幣財アウトフロー額 一貨幣財アウトフロー額 前受収益土く二貨整財インフロー額}.._一一一一一一一.__一___一一一一一 収益一{+貨幣財インフロー額}一{一貨幣財インフロー額} 費 用 一{一貨幣財アウトフロー額} 貨幣財 一貨幣財アウトフn一額 費用財 +貨幣財アウトフロー額 一貨幣財アウトフP一額 前払費用,._一一一一一一一一一一.一一.__一一一,.__一一一一一一一一土貨整財アウトフロー額. 収 益 費 用 一{+貨幣財アウトフP一額}一{一貨幣財アウトフロー額} ただし,インフロー額は増加資本価値額に,アウトフロー額は減少 資本価値額に等しい.インフロー額は未増加資本価値額に, アウトフロー額は未減少資本価値額に等しい. 参考文献 大矢知浩司「簿記愚考」『企業会計』40巻ll号(1988年 11月),4−7頁. 木村和三郎・小島男佐夫『改訂簿記学入門』(森山書店, 1956年). 斎藤静樹『企業会計一利益の測定と開示一』(東京大学 出版会,1988年). 谷田英男・谷田浩志『1−2−3会計』(産能大学出版 部,1990年). 寺戸節郎「利益測定構造とその学習」『山梨大学教育学 部附属教育実践研究指導センター研究紀要』1号(1993 年4月),81−88頁. 中瀬忠和「会計における認識と事実:一歩前一取引記入は《事実》どおりを記入するのか一」『商学論纂』32 巻5・6号(1991年3月),237−262頁. 馬場克三『会計理論の基本問題』(森山書店,1987年). 平林喜博「簿記教育失敗談」『経営研究』44巻1号(1993 年5月),89−95頁. 本田忠彦『Lotus 1−2−3パソコン簿記』(誠文堂新光 社,1992年). 安平昭二『簿記一その教育と学習一』(中央経済社,1992 年). 山口年一・罵村剛雄『体系簿記論1一基礎取引処理編一』 (税務経理協会,1974年).