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平成 30 年系統分類シンポジウム「微生物の系統とその機能が織りなす複雑なタペストリー」

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Microb. Resour. Syst. Dec. 2018 Vol. 34, No. 2

平成 30 年系統分類シンポジウム

「微生物の系統とその機能が織りなす複雑なタペストリー」

コンビーナー 花田 智 (首都大学東京大学院理学研究科)  日本微生物資源学会第 25 回大会は,つくば市小野川にある国立環境研究所において,3 桁には届かな かったもののそれに近い参加者を集めて大々的に行われた.この大会の最終日に当たる 6 月 15 日(金)の 午前に,「微生物の系統とその機能が織りなす複雑なタペストリー」と銘打った系統分類部会主催のシンポ ジウムが同所大山記念ホールにて開催された.シンポジウムのタイトルが些か仰々しく今となっては鼻白 む思いではあるが,当時は「系統分類学や微生物資源の寄託・分譲に関する研究や業務が微生物学研究の 進展に深く関与していることを再認識する機会を設けたい」との熱い想いの下に,恥を承知で私自身が提 案したものである.  さて,本シンポジウムのタイトルである「微生物の系統とその機能が織りなす複雑なタペストリー」が 指し示しているのは,原核生物の大きな系統全体に同一の代謝や機能が広く散在(または汎在)している ということである.系統分類学的研究の発展に伴い,すべての微生物はその系統に基づいた客観的な体系 で分類されるようになって以降,それが「歴然たるファクト」として代謝・機能が系統横断的に存在して いることが明らかとなってきている.実際,バクテリアにおいては呼吸や硫酸還元,脱窒,光合成という 生存のために重要なエネルギー獲得系ですら,いくつかの系統群(門またはドメイン)を跨いで散在して いるのである.まさに微生物の多様性は,系統を縦糸に,それらの機能を横糸として織られた複雑怪奇な “タペストリー”と喩えることができるだろう.どうしてこのような怪しげな模様が描かれることになった のか,そしてどのような機構がこれを形作ったのであろうか,不思議で仕方がないと考えているのは私ば かりではないだろう.  このような極めて興味深い“複雑なタペストリー”という問題を取り上げて,参加者とともに討議する シンポジウムを企画するにあたり,話題提供者として 3 名の勢いのある高名な専門家,製品評価技術基盤 機構(NITE)・NBRC の森 浩二先生,東京大学・大気海洋研究所の吉澤 晋先生,そして筑波大学・生 命環境系の野村暢彦先生を学会の外からお呼びした.各講演者からは,それぞれ「硫酸還元能の描く“複 雑なタペストリー”」「ロドプシンが織りなす“複雑なタペストリー”」そして「微生物間相互作用にみられ る“複雑なタペストリー”」という大変興味深い「原核生物の代謝機能の“複雑なタペストリー”」が話題 提供されることになった.  本シンポジウムの冒頭では,企画者(コンビーナー)である私自身の趣旨説明と本シンポジウムの呼び 水として用意した講演「酸素非発生型光合成の“複雑なタペストリー”が行われた.植物や藻類,シアノ バクテリアの光合成として知られる「酸素発生型光合成」だけではなく,酸素の発生を伴わない光合成,す なわち「酸素非発生型光合成」というものがこの地球上には存在する.この「酸素非発生型光合成」は「酸 素発生型光合成」に先行して出現したと考えられているが,バクテリアの大きな系統樹上の様々な系統に その存在が認められている.「酸素発生型光合成」がシアノバクテリア門だけに限定されているのと対照的 Microb. Resour. Syst. 34(2):113─116, 2018

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花田 智 系統分類シンポジウム報告 ─ 114 ─ に,6 つの細菌門に散在しているのである.更には,「酸素非発生型光合成」は異なる構造を持った 2 種類 の光合成器官(光化学系 I と光化学系 II)があり,それらがばらばらにまとまりなく 6 つのバクテリア門に 分散しているのだ.このことが光合成器官の進化過程の解明を難解なものとしており,酸素非発生型光合 成が“複雑なタペストリー”といわれる由縁なのである.光合成器官の進化過程では,光化学系 II が先に 出現し,古地球の環境により適応した光化学系 I がその後に現れたとする仮説と数回の遺伝子水平伝播が その進化に重要であったという解釈を本講演で述べさせて頂いたが,酸素非発生型光合成の進化に関して は,様々な考え方があり,未だ議論の渦中にあると言ってよい(写真 1).  2 人目の講演者は,NITE・NBRC の森 浩二先生であり,「硫酸還元能の描く“複雑なタペストリー”」 という演題で,バクテリアのみならずアーキアにも見られる硫酸還元能の系統学的多様性とその複雑な進 化プロセスに関する話題提供があった.硫酸還元は別名「硫酸(塩)呼吸」とも呼ばれ,酸素の代わりに 硫酸(塩)を用いる嫌気呼吸の一様式であり,系統的に広く分布した嫌気条件下での主要なエネルギー獲 得様式のひとつである.バクテリアでは Proteobacteria 門に属する Desulfovibrio 属や Firmicutes 門の Desulfotomaculum 属 な ど が 硫 酸 還 元 菌 と し て 有 名 で あ る が, そ れ 以 外 の 門(Nitrospirae 門 や Thermodesulfobacteria 門)や Thermodesulfobiaceae 科にも同様の嫌気呼吸様式が散見される.硫酸還元 の起源や進化に関しては,その電子伝達に関係する 3 つの酵素である ATP スルフリラーゼ,APS 還元酵 素,亜硫酸還元酵素の遺伝子配列の解析結果から,それはバクテリア起源であり,遺伝子の水平伝播によっ てアーキアに伝わったと考えられてきた.しかし,更なるゲノム・メタゲノム解析により,亜硫酸還元酵 素遺伝子が従来の硫酸還元菌以外のバクテリアやアーキアの中にも存在することが明らかとなってきてお り,バクテリア間はもとよりバクテリアとアーキアの垣根を越えて,より頻繁に遺伝子水平伝播が起きて いる可能性が強く示唆され始めている.嫌気条件下で極めて有利なエネルギー獲得様式である硫酸還元は, 起源こそ未だ明確に示すことはできていないものの,細菌とアーキアに属する様々な微生物間で水平伝播 を繰り返し,進化し続け,微生物全体に広く分散してきたことが明らかになってきているのである(写真 2).  クロロフィル型光合成とは異なるもうひとつの光合成様式である「ロドプシン型光合成」の研究で世界 の先頭集団を走る中堅研究者,東京大学の吉澤 晋先生が 3 人目の講演者として登壇し,「ロドプシンが織 りなす“複雑なタペストリー”」について語った.光エネルギーを利用してプロトンを生体膜の外側に排出 する膜タンパク質(プロトンポンプ)であるバクテリオロドプシンは好塩性アーキアに特有のものである と考えられてきたが,海洋性細菌を初めとした様々なバクテリアでも同様の光駆動型プロトンポンプが発 写真 1 第 1 講演者(花田 智)の発表風景 写真 2 第 2 講演者(森 浩二)の発表風景

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Microb. Resour. Syst. Dec. 2018 Vol. 34, No. 2 見され,これらはプロテオロドプシンと名付けられた.また,このプロテオロドプシンはバクテリアだけ ではなく海洋性アーキアからも検出されることが分かっており,逆にアーキア型バクテリオロドプシンが バクテリアの系統で見つかることもある.つまり,ロドプシンという光駆動型プロトンポンプの系統は,分 類群ごとにきれいに別れるものではなく,混じり合って存在しているのだ.このバクテリアとアーキアの 垣根を越えた混在こそ,繰り返し起きた遺伝子水平伝播によって描かれた「ロドプシンのつづれ織(タペ ストリー)」と呼ぶに相応しい.また,プロトンの排出を行うものだけではなくナトリウムイオンの排出や 塩素イオンの取り込みを行う類似の光駆動型ポンプがバクテリアにもアーキアにも広く存在しており,そ れらを含めすべての光駆動型ポンプが同一の起源を持っているものと予想できる.しかし,その起源がど のような共通祖先にあるのかは未だ定かではなく,その系統進化学的研究の進展を興味深く見守りたい (写真 3).  シンポジウムの最後を飾って頂いたのは微生物相互作用研究の第一人者である筑波大学の野村暢彦先生 であった.バイオフィルムという薄膜状の細胞集団を形成して生育するバクテリアは環境中に数多くいる. このバイオフィルムの形成にはある種のシグナル物質(アシルホモセリンラクトンなど)を介した細胞間 の相互作用が不可欠である.また,このシグナル物質は,同種の細胞同士だけではなく系統的に離れた生 物間であっても,互いに作用し合い,協調または競争することもある.このような「微生物間相互作用に みられる“複雑なタペストリー”」が織りなされてきたのには,細胞同士が長きにわたって連携するために シグナル物質をあたかも“言葉”のように取り交わしてきたからに他ならない.バクテリアの細胞は一見 独立しているように見えて,互いにコミュニケートしているのだ.また,グラム陰性だけではなく陽性の バクテリアにおいて,細胞死する際に細胞膜の一部が小胞化して分離することが明らかとなっている.こ の小胞をメンブレンベシクル(MV)と呼ぶが,その中にシグナル物質が含まれていることが確かめられて いる.この細胞膜小胞,すなわち MV が細胞死を遂げた細胞から他の細胞にシグナルを伝達する役割を果 たしているのだ.また,この MV が運ぶことができるのは,シグナル物質だけではない.ゲノムの一部を 小胞内部に含むこともあり得るので,遺伝子を他の細胞へ(同種だけではなく,種の垣根を越えて)運ぶ ことだってできるだろう(写真 4).  各講演者からの話題提供を終えての総合討論では,「微生物の系統とその機能が織りなす“複雑なタペス トリー”」に関し,どうしてこのような怪しげな模様が描かれることになったのか,そしてどのような機構 がこれを形作ったのかといった興味深い問題が討議された.“複雑なタペストリー”の形成には,やはり遺 写真 3 第 3 講演者(吉澤 晋)の発表風景 写真 4 第 4 講演者(野村暢彦)の発表風景 写真提供:国立環境研究所 湯本康盛氏.

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花田 智 系統分類シンポジウム報告 ─ 116 ─ 伝子水平伝播が深く関わっているということ,そして多くの機能遺伝子がバクテリアとアーキアの垣根を 易々と越えて伝播されること,更にはそれが日常的と呼べるほどに頻繁に起きている可能性があることな どが議論の結論として挙がった.また,その水平伝搬を介在するものとしてバクテリオファージといった ウイルス粒子だけではなく,最終講演者である野村先生が発見された MV と呼ばれる細胞膜小胞が運搬体 (ビークル)となっている可能性もあるとの極めて示唆に富む意見も出た.  しかし,このような複雑な機能多様性に関して進化学的議論ができるのは,やはりその礎として微生物 の「体系だった系統分類」が確立してきたからに他ならない.本学会(そして,旧日本系統分類研究会)の 会員がこれまで一意専心に行ってきた系統分類学的研究や菌株保存業務が,その確立に果たしてきた役割 は極めて大きいのではないだろうか.もし,本シンポジウムがすべての参加者にそのことを再認識させる 小さな契機となり得たとするなら,コンビーナーとして至上の喜びとなるのだが,皆様はどのように感じ られたのだろうか.  概要 大会名:日本微生物資源学会第 25 回大会 日 時:2018 年 6 月 15 日(金)9:00-10:50 場 所:茨城県つくば市・国立環境研究所大山記念ホール (1)「酸素非発生型光合成の“複雑なタペストリー”」  花田 智(首都大学東京) (2)「硫酸還元能の描く“複雑なタペストリー”」  森 浩二(NITE・NBRC) (3)「ロドプシンが織りなす“複雑なタペストリー”」  吉澤 晋(東京大学) (4)「微生物間相互作用にみられる“複雑なタペストリー”」  野村暢彦(筑波大学) (5)総合討論 (敬称略)

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