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東北大学遺伝生態研究センター通信 No. 41

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Academic year: 2021

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著者

東北大学遺伝生態研究センター

発行年

1998-08

(2)

遺伝生態研究センター通信 No.41

東北大学

′ 、 ′ ー\

∼/ター通信

1998. 8. No.41

多重共生と藻類の多様性

神戸大学内海域機能教育研究センタ-  川井 浩史 この5年から10年くらいの間に 「多重共生による新しい藻類の成 立」という考え方が一般化したこ とで, 「藻類」または「植物」の とらえ方は一変した. 20年くらい 前,筆者が植物学を専攻する大学 院生だった頃の藻類学や植物分類 学の教科書では,藻類の進化系統 樹は,きまって根元にらん藻類が あり,扇形にひろがって,現在み られる様々な藻類群(緑藻類,紅 藻類,褐藻類など)に進化すると いうものであった. もちろん当時すでにミトコンド リアや葉緑体,そして教科書によっ ては核も外来生物の細胞内共生に より成立したという説は紹介され ていたし,共生によって新しい光 日     次 合成生物が誕生するという考え方 が,ことさら新しかったわけでは ない.しかし,そのことがこれほ ど繰り返し,いろんな藻類でおこっ ており,また自分が研究対象とし ている藻類にまで影響がおよんで くるとは,思いもよらなかった. 筆者は藻類の中でも,もっぱら 「褐藻類」 (要するにコンプやらモ ズクの仲間である)を研究対象と してきた.大型になる藻類には緑 藻類,紅藻類,褐藻類などがある が,そのうち陸上植物と系統的に つながる緑藻類は比較的いろんな 領域の研究に用いられてきた(緑 藻類の単細胞の種であるクラミド モナスは現在でも最もよく調べら れた,あるいは研究者人口の多い 多重共生と藻類の多様性         一一神戸大学内海域機能教育研究センター 川井 浩史 1 環境・遺伝子型・表現型の間を結ぶ関係のもう一つの見方 「遺伝子型一環境相関」一        一一一東京都立大学大学院理学研究科生物学 工藤 洋 4

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これに対し,紅藻類や褐藻類は どちらかというとマイナーであり, 生物学の歴史の中であまり日の目 を見たことはない.しかし,それ でも細胞壁をもち,複雑な体制を もつ褐藻類は立派な「植物」だっ た. 「光合成はするものの,緑色 べん毛虫類(コナヒゲムシという 名前がついている)として原生動 物の中に含められるクラミドモナ スなんかよりはずっと由緒正しい 植物である」,と植物学を志すも のの一人として誇り(?)をもっ ていた.ところが,である.だん だん旗色が悪くなってきた. 分類上,褐藻類は黄色植物と呼 ばれるグループの中に含められる. これは緑藻類や陸上植物をまとめ て緑色植物と呼ぶのに対応してい る.黄色植物の中には褐藻類のほ か,珪藻類,黄金色藻類,黄緑色 藻類などの主に単細胞性のものが 含まれるが,褐藻類は単細胞性の 種が知られていないため,これら のどれかに起源をもつと考えられ てきた.このうち形態などのデー タからは黄金色藻類が最も近いと されているが,このグループの多 くのものは混合栄養(すなわち光 合成による独立栄養のほか採餌に よる従属栄養もする)も行う.つ まり植物であるとともに依然とし て原生動物の性質ももっているの である. その後,様々な藻類で分子系統 や細胞構造の詳細な研究が進むに つれて, 「原生動物がらん藻また はそれに類する原核の光合成生物 緑体が成立した(一次細胞内共生 と呼ぶ)」のと同様に, 「別の原生 動物が真核の光合成生物(っまり 植物の細胞)を細胞内共生させる ことで新しい葉緑体を獲得し,様々 な藻類が進化してきた(二次細胞 内共生と呼ぶ)」ということが常 識になってきた. 現在知られている藻類の系統群 のうち,ミドリムシ藻類,クリプ ト藻類,黄色植物, -プト藻類, 渦鞭毛藻類,クロララクニオ藻類 などはそれぞれ独立しておこった 二次細胞内共生により葉緑体を獲 得して,成立したとされている (図-1).渦鞭毛藻類ではさらに 二次細胞内共生により成立した藻 類を共生させて葉緑体としている ものすらいる.緑藻類や紅藻類は いずれも一次細胞内共生により葉 緑体を獲得したとされているが, その共生が別々の時におこったの かどうかについては定説はない. いずれにせよ,このような経過か ら,筆者の研究対象とする褐藻類 J はクラミドモナスなどよりははる かに最近まで原生動物だった生物 群(今ではストラメノパイルと呼 ばれている)が先祖であり,あま り由緒正しい「植物」ではないと いうことになってしまった. しかし,災いは転じて福となさ なければいけない. `このような 「藻類」の起源に関する認識の変 化は,一方で藻類の多様性に関す る研究に大きな希望をもたらして くれた. 「藻類」が独立した共生 の後に進化したとすると,様々な

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遺伝生態研究センター通信 No.41 ミトコンドリアを もたない真核生物 /(ヽ ′\\

極言誉肇窪産詣豊

∼ -__■_-..一.._.._-_-__--__- / 図1.植物 の系統と葉 緑体の起源 藻類のもつ「植物」的な性質はそ れぞれ全く別の進化上の起源をも つことになる.いかにも「植物」 らしい性質として,葉緑体に関わ る遺伝子の制御,光合成や走光性・ 屈光性のメカニズム,細胞壁の進 化,液胞の発達などがあげられる が,これらはいずれもそれぞれの 藻類群で独立して進化してきたは ずである.そうするとこれまでに 調べられていない藻類のグル-プ には全く新しい,生物学的におも しろい現象が潜んでいる可能性が 高いということになる. 実際,筆者が関わってきた研究 の中でも黄色植物では緑色植物や 動物と異なり,リボソーム遺伝子 の構造に違いがみられたし(具体 的には5SリボソームRNA遺伝子 が他のリボソームRNA遺伝子と 同じ部分で反復しているか否か), 走光性に関わるメカニズムでも光 受容色素の種類,受容器官の構造 と機能は藻類の系統群ごとに特徴 的である.同じように細胞壁の形 成過程や構造は藻類の系統群ごと に著しく異なるし,現在,遺生研 で共同利用研究させていただいて いる細胞内の高濃度の硫酸イオン 蓄積といった現象も緑藻類や紅藻 類では例がなさそうである. 「陸 上植物や緑藻類で調べられていた/ 現象を他の藻類群で調べても単な る枚挙的な研究に過ぎないので は」,という不安は杷憂にすぎな いのである.研究者のみなさん, この宝の山をぜひ御自分の手で掘っ てみてください. 3

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Research Center for Inland Seas email:[email protected] http://www.kurcis.kobe-u.ac.jp/index.html

環境・遺伝子型・表現型の間を結ぶ関係のもう一つの見方

「遺伝子型一環境相関」 東京都立大学大学院理学研究科生物学  工藤  洋 1.はじめに 生物個体群は多くの形質におい て変異を内包している.この生物 個体群が存在する自然条件におい ては,さまざまな環境条件が時間 的・空間的に変動している.生物 の変異は,この変動環境に対して 必ずしもランダムに配置されてい るわけではない.特に,機能をも つ形質におては,環境変動と無関 係に変異が分布することの方がま れであろう.自然界においては, 特定の遺伝的な変異が特定の環境 に偏って存在している場合が多い のである.このような個体の遺伝 子型と環境の空間分布との問の関 係を「遺伝子型一環境相関」と呼 ぶ. 研究室内で実験を行っている限 り,我々はあらゆる変異型にあら ゆる環境を経験させることができ る.そのため,自然界においては 遺伝子型一環境相関が存在する場 合が多いという,このごく当たり 前の事実について忘れがちである. そこで,本稿では自然条件下にお ける環境・遺伝子型・表現型の関 係は, 「遺伝子型一環境交互作用」, 「遺伝子型一環境相関」, 「表現型一環 境相関」で表されることを示し, 最後に遺伝生態学がめざすべき一 つの方向性を指摘する. 2.環境・遺伝子型・表現型の関 係 自然条件下に生育する任意の生 物個体について考える.この個体 は,環境・遺伝子型・表現型とい う3つの属性をもっ.自然条件に おいては環境(物理的環境だけで なく同種他個体や他種との相互作 用も含んでいる)が時間的・空間 的に変動しているので,個体は特 有の環境に生育していることにな る.つまり,別の個体は多かれ少 なかれ,違う環境に生育している. また,個体はそれぞれの特有の遺 伝情報をもっており,遺伝子型と 呼ぶ.そして,実際に個体の形質 として目にするのが表現型である. 環境・遺伝子型・表現型は,二 つの異なるレベルで互いに関係し あっている.一つは個体レベルの 形質発現における関係,もう一つ は個体群レベルでの環境変異に対 する形質変異の分布における関係 4

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遺伝生態研究センター通信 No.41 ′ \ ′ \ 図1.遺伝子 型一環境交互 作用,遮伝子 型一環境相関, 表現型一環境 相関の関係. である.前者を「遺伝子型一 環境交互作用」と呼び,後者を 「遺伝子型一環境相関」と呼ぶ.こ の二つの情報を統合することによっ て生物個体群における表現型変異 の分布「表現型一環境相関」を表 すことができる. 図1には「遺伝子型・環境交互 作用」, 「遺伝子型一環境相関」, 「表現型一環境相関」の関係をいく つかの単純なモデルケースを使っ て表してある.詳述するスペース がないのであるが,図の説明を参 考にじっくり眺めて頂ければ3着 の関係がわかると思う. 3. 「遺伝子型一環境相関」の研究 が必要である さて,図1の中で現段階で最も 情報が不足しているのが「遺伝子 型一環境相関」である. 「遺伝子型・ 環境交互作用」については,遺伝 学・発生学・生理学の研究テーマ のひとっである形質発現機構の研 究としで情報が蓄積されてきてい る.一方, 「表現型-環境相関」, つまりどのような性質をもった個 体がどのような環境に生育してい るかは生態学の中心的研究テーマ のひとっである.ところが, 「遺 伝子型一環境相関」についてはほ とんど研究がなされていない.こ れまで,形質発現機構の研究の多 くは,自然条件における個体群レ ベルのプロセスに十分な注意を払っ てこなかった.また,生態学研究 の多くは個体群内における形質変 異に関わる遺伝的変異をブラック ボックスとして扱ってきた.しか し一部では,異なる野外環境下に 生育する個体のクローンを一定条 件で栽培することにより, 「遺伝 子型一環境相関」に関する情報を 得ようとする試みがある.この方 法の弱点は,非常に限られた数の 個体の変異しか扱えないことと, 遺伝的変異が取り出せるかどうか は栽培条件に左右されることであ る.最近,生態学では集団遺伝学 の手法を取り入れ,分子遺伝学的 マーカの利用によって個体群の遺 伝的構造を解析する試みが盛んに なってきている.これらの研究は, 現段階では機能の明らかでない遺 伝的変異をマ-カーとして用いて いるが, 「遺伝子型一環境相関」に 関する研究が進展するかもしれな い兆しと見て良い. 「遺伝子型一環境相関」の研究 は,機能の変異との関連が明らか な分子マーカーを用いることがで きれば飛躍的に進展する.このよ うなマーカーは形質発現機構の研 究なくしては得られず,また,形 質発現機構の研究はそのような遺 伝的変異を明らかにできるほど成 熟しつつある.真に学際的研究が 要求される「遺伝子型-環境相関」 構造の解析は,遺伝生態学の一つ の重要なテーマになり得ると考え る.さらに, 「遺伝子型一環境相関」 構造の解明は研究の出発点にすぎ ない. 「遺伝子型一環境相関」が形 成されるプロセスを明らかにする という最終的目的に向かって研究 を進展させていくことができるの である.

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十二.章

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遺伝生態研究センター通信 Na41 4.最後に 生物学における自然認識の発展 は,しばしば学際的な研究の試み の中から生み出されている.学際 的研究分野の開拓の成功・失敗は, 科学的認識に役立っ新たな概念的 枠組みを提示することができたか どうかで決まる.遺伝生態研究と Kudo, Hiroshi Faculty of Sciences, Tokyo-Metropolitan University [email protected] :/I ′r\\ いう「新学問分野」がどのような 新しい概念を提示することができ 得るのかについては,これまでの 遺伝学と生態学の成果に基づいて 真剣に議論されなければならない し,その結果は実りのあるもので あると考える.

蝶と暮して(Living with a Butterfly)

Universitat Erlangen-Nilrnberg名誉教授  Wolfgang Haupt

あれは1961年の春のことでした. もっとも豪華な蝶にあげられるア ゲハチョウの1種, Iphiclides podaliriusが,ゆったりと,この 蝶の幼虫の食草の欧州産リンボク (Prunus spinosaバラ科)の茂み の問を飛んでいました.その行動 を注意深く観察することによって, わたしは産みたての卵を見つけ, そのいくつかを採集することがで きました.なぜなら,この蝶は一 本の植物にたった一個しか卵を産 まないのです.わたしはこの種の 蝶の発達がたいへん速いことを知っ ていましたから,子供達に蝶の発 生の全過程を見せてやれる絶好の チャンスだと考えました.じっさ い,数日後には幼虫が卵字化し,そ の成長を,そのころ寝室と居間も 兼ねていた子供部屋の窓からまぢ かに観察することができました. 子供達はそこで起るできごとすべ てを熱心に見つめました.わたし たちはさなぎから成虫がっいに現 れる日を今かいまかと待ったこと でした. わたしはわが国(ドイツ)では この種は2つの世代(春と夏の) を持っことを知っていました.そ れで,さなぎは速く発達するだろ うと期待していたのです.ところ が,どうしたことでしょう. 1週 間たっても,また1週間たっても 何も起りません.いったい理由は 何なんだろう? 運よく,わたし は植物学の学生時代に植物の光周 性についてよく学んでいました. 日長効果が含まれているのではな かろうか? そこで,わたしは一 つの仮説をたてました:すなわち, 自然では5月/6月の長日条件は 幼虫かさなぎの発達を持続するよ 7

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する;そして,この休眠を打破す るには二年性植物の春化処理 (vernalization)のように,低温 の期間を必要とすると.でも,ど うして6月に育った幼虫に短日な んてことがあろうか? ところが です,実は,子供部屋の明かりは 毎日午後8時に消して,午前7時 に点けていたのでした.つまり, この部屋の日長は13時間で,ちょ うど8月と同じ短日条件になって いたのです. この仮説を検証するために-い やもっと大事なことは一子供達が (わたしたち親としても)発生の -イライトを見ることができるよ うに,わたしは,さなぎを冷蔵庫 へいれて-この間に季節は秋になっ てましたが-,のちには何匹かを 冷凍庫へさえいれて,そして, ll 月の終わりに再び室温に戻したの でした.わたしたちにとって本当 に幸せなことに,煤はまさにクリ スマスの特別プレゼントになるべ く,ちゃんと間に合って登場して ていたことが分かりました.羽化 した蝶はたしかに春世代に属して いました.わたしたちの行った冷 却処理と引き続く温かさによって 人工的に羽化が加速されたのです. 蝶たちは砂糖水をよろこんで吸っ てくれました.ところが,砂糖水 には臭いがありませんから,わた したちは蝶の吻を針で注意深く巻 き戻しては,その先端を砂糖の溶 液にふれさせなければなりません でした.このような条件で,蝶た ちは数週間生きました.居間の中 でひらひらと.わたしたちと一緒 に.家族全員本当に楽しく過ごし ました.まさに真冬に一片の夏を 味わう思いでした. しばらくして,わたしはIphicli-des podaliriusの光周性行動はす でに記載されていることを知りま した.動物学者でなかったので, そのような文献があろうことなど それまで知るよしもなかったので す. (片岡博尚訳)

wolf gang Haupt- Physiology of Movement, Encyclopedia of Plant Physiology, NS7 (∬79) ,

Bewegungsphysiologie der Pfhnzen. G. Thieme (1977)などの編著書がある・ 1960年,接合藻類ヒザ

オリの葉緑体運動系をもちいて,フイトクロム分子がPrとPfrの光可逆変換に伴って構造を変えることを最 初に発見した.この記事にある1961年当時はTdbingen大学講師であった. 1986年には当研究センターの前 身である農学研究所を訪問している.翻訳許可済. 編集後記:今回から片岡博尚が編集を担当することになりました.題 字やスタイルを変えましたが,内容は以前と同じく,遺伝生態に関わ る研究紹介,意見,書評などを掲載するつもりです.内外のトピック スを取り上げた特集号も企画したいと考えております.以前に増して 広範な研究分野からの,新しい解釈や多様な論点を紹介できたらと願っ ております.遺伝生態学が新しい研究分野として根をおろし,大きく 発展していきますよう,今後とも御支援と御協力をお願いします.今 回は,編集担当交代の挨拶代わりに,この一月にHauptさんからいた だいたほのぼのとしたエッセイを載せてみました.お楽しみください. 8 東北大学遺伝生態研究センタ-通信 Na41平成10年(1998)8月 発行:東北大学遺伝生態研究センター 〒980-8577仙台市青葉区片平2丁目1-1 電話022-217-5706(共同利用掛) ファクス022-263-9845 ■四

参照

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