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疾患疾患原因タンパク質の寿命を短縮する分子の創製と医薬応用への課題

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Academic year: 2021

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疾患疾患原因タンパク質の寿命を短縮する分子の創

製と医薬応用への課題

著者

石川 稔

雑誌名

Drug Delivery System

35

3

ページ

229-239

発行年

2020-07-25

URL

http://hdl.handle.net/10097/00131272

doi: 10.2745/dds.35.229 (C) 2020 日本DDS学会

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S

D

D

東北大学 大学院生命科学研究科*

石川 稔

Chemical Degradation of Disease-related Proteins: Discovery and Challenge for Drug Discovery

New therapeutic modalities are needed to address the problem of pathological but undruggable proteins. One emerging technology is small molecules that shorten lifespan of disease-related proteins. This article reviews induction of proteasomal degradation of the target proteins by hybrid small molecules composed of a ubiquitin ligase ligand coupled to a ligand for the target protein. This article also describes recent efforts towards undruggable proteins such as substrate binding proteins and aggregation-prone proteins, and the challenges for drug discovery.

 従来の低分子創薬手法では対応が難しい疾患関連タンパク質が存在し、これらに対して新しい創薬 戦略が求められている。近年、タンパク質の寿命を短縮する低分子に関する研究が注目されている。 本稿では、ユビキチンリガーゼに対する低分子リガンドと標的タンパク質リガンドを連結させた低分 子によって、標的タンパク質を生理的条件下で分解させる手法について、筆者らの研究を中心に紹介 する。さらに、難病である神経変性疾患の原因となる凝集性タンパク質に本手法を応用した最近の成 果を述べ、医薬応用への課題についても議論する。 Minoru Ishikawa*

Keywords: chemical protein degradation, PROTACs, SNIPERs, inhibitor of apoptosis protein, neurodegenerative disorders

疾患原因タンパク質の寿命を短縮する

分子の創製と医薬応用への課題

Graduate School of Life Sciences, Tohoku University

中分子創薬と DDS 1.はじめに  1899年、初の合成医薬品としてアセチルサリチ ル酸が発売されて以降、特に酵素・受容体・イオン チャネルに作用する低分子合成医薬品が数多く創出 され、多くの疾患に対する治療満足度を向上させて きた。これらタンパク質は一般的に、内因性の低分 子が結合できるポケット(鍵穴)を有しており、合成 医薬品(鍵)はこのポケットに結合して内因性リガン ド本来の機能を制御する。しかし、薬に適した性質 を有する化合物が結合できる druggable なタンパク 質は、全タンパク質の10%との試算もある。つまり、 先述以外のタンパク質群は、上記「鍵と鍵穴創薬」で は対応が難しい事例も多い。例えば、神経変性疾患 の一種アルツハイマー病の疾患関連タンパク質であ るアミロイドβにおいては、タンパク質本来の機能 がアルツハイマー病を引き起こすのではなく、アミ ロイドβが異常に凝集することにより発症すると考 えられている。他例としてタンパク質複合体におい ても、低分子のリガンド結合ポケットに比べるとタ ンパク質間の相互作用面が広く浅いため、低分子で は阻害することが一般的には難しい。そこで、低分 子に対して undruggable な疾患関連タンパク質に 対応すべく、機能を制御する「鍵と鍵穴創薬」以外の ニューモダリティが求められている。  筆者らは、タンパク質の機能制御ではなく、存在 量を減少させるニューモダリティの開発を目指し た。遺伝子ノックダウンや CRISPR―Cas9は、核酸 によって標的遺伝子や標的タンパク質の存在量を減 少させることが可能であり、核酸医薬に分類される ニューモダリティとして注目されている。一方、低 分子によって標的タンパク質の存在量を翻訳後に減 少させる実用的な方法を開発できれば、これまで蓄 積された低分子創薬のノウハウも活用できるため、

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新しいモダリティを早期に構築できる可能性に期待 した。本稿では、疾患関連タンパク質を特異的に減 少させる低分子の創製経緯を述べる。次に、根治療 法のない難病である神経変性疾患に本創薬手法を応 用し、凝集性タンパク質を減少させた成果について 述べる。なお本稿で紹介する化合物は低分子もしく は中分子に分類されるが、これまでの報告の経緯か ら本稿でも低分子と記述した。しかしながら当該分 子は、経口薬として好まれる物理化学的性質から逸 脱しており、最後に薬物動態の課題と展望を述べる。 2. タンパク質ノックダウンの 作業仮説と先行研究  細胞内のタンパク質の寿命は、ユビキチン-プロ テアソーム系(図1 a)と呼ばれるタンパク質分解経 路により制御されている。ユビキチンリガーゼは、 不要となった細胞内の基質タンパク質に特異的に結 合し、基質タンパク質のリジン側鎖に小さなタンパ ク質であるユビキチンを付与する。次いでユビキチ ンリガーゼは、ユビキチンの Lys48と別ユビキチ ンの C末端を連続的に結合し、基質タンパク質に はポリユビキチン鎖が付与される。ヒトのユビキチ ンリガーゼは600種類以上あり、それぞれのユビキ チンリガーゼが、基質となるタンパク質を特異的に ユビキチン化する。加水分解酵素を含む複合体プロ テアソームは、ポリユビキチン鎖を認識し、ユビキ チン鎖を切断し、タンパク質の立体構造を解き、鎖 状になったペプチドを加水分解する。  アポトーシス阻害タンパク質(IAP:inhibitor of 図1 ユビキチン - プロテアソーム系を利用したタンパク質ノックダウン (a) ユビキチン - プロテアソーム系。(b)cIAP1リガンド ベスタチンメチルエステルと類縁体の化学構造と構造活性相関。(c) リガンド連結低分子による タンパク質ノックダウンの概念図。 (a) ユビキチン リガーゼ(E3) ユビキチンリガーゼ(E3) E3と基質タンパク質が 複合体を形成 E3と基質タンパク質を ユビキチン化 プロテアソームによる 基質タンパク質の分解 (b) bestatin(1):R1 = H, R2 = OH

bestatin methyl ester(2):R1 = H, R2 = OMe

3:R1 = OH, R2 = OH プロテアソーム (c) OH O RING cIAP1 BIR3 cIAP1 cIAP1 リガンド 標的タンパク質 リガンド リンカー リガンド連結低分子 cIAP1と標的タンパク質が 人工的な複合体を形成 cIAP1が標的タンパク質を特異的にユビキチン化 プロテアソーム 標的タンパク質 の分解 R2 O N H NH2 R

1 compound aminopeptidase inhibition pIC50 cIAP1

Ala Arg degradation

1 7.0 7.5 ++

2 6.9 5.7 +++

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apoptosis protein)ファミリーは、ヒトでは8種類 存在するユビキチンリガーゼである。IAP ファミ リーのなかで cIAP1(cellular inhibitor of apoptosis protein 1)、cIAP2、XIAP は、酵素活性を有する RING(really interesting new gene)ドメインと、3 つの BIR(baculovirus IAP repeat)ドメインをもつ。 cIAP1、cIAP2、XIAP は、その BIR ドメインに よってカスパーゼ―3、カスパーゼ―7、カスパーゼ―9 などの基質を認識し、これら基質のユビキチン化や 核内因子kB(NF―kB)の活性化を介してアポトーシ スを阻害する。これら IAP は、全身に発現してい るものの多くのがん細胞に過剰発現していることか ら、がん治療の創薬標的として注目を浴びている。  ベスタチン(1、図1 b)は、アミノペプチダーゼに 対する競合阻害作用を有し、急性骨髄性白血病治療 薬として用いられている。2008年、東京大学分子 細胞生物学研究所(現 国立医薬品食品衛生研究所) の内藤幹彦博士と日本化薬株式会社のグループは、 cIAP1の BIR3ドメインにベスタチンメチルエステ ル(2)が結合すると、cIAP1は cIAP1自身のポリユ ビキチン化を誘導し、cIAP1の存在量を減少させる ことを発見した1)。cIAP1はアポトーシスを阻害す るがん関連タンパク質であることから、cIAP1の存 在量を減少させる2は抗がん作用が期待される。特 筆すべきことに、ベスタチン類縁体の cIAP1分解 誘導活性とアミノペプチダーゼ阻害活性が異なるこ とも明らかになった。例えば、1は2より強いアミ ノペプチダーゼ阻害活性を示すが、cIAP1分解誘導 活性については2より弱い。また、パラヒドロキシ 体3は、1より強いアミノペプチダーゼ活性を有す るが、cIAP1分解誘導活性は1の方が強い。このこ とから、cIAP1分解誘導活性とアミノペプチダーゼ 阻害活性は構造展開により分離できる可能性が示唆 された。筆者の元所属研究室(東京大学分子細胞生 物学研究所 橋本祐一研究室)は2の構造活性相関研 究に取り組み、エステル部位に嵩高い蛍光団を導入 した類縁体が cIAP1の BIR3ドメインに結合し、そ の Kd値が2 .3μM であることを報告した2)  cIAP1は、ホモ二量体形成を介して cIAP1自身 をユビキチン化する。このことから、cIAP1と標的 タンパク質からなるヘテロ二量体を人工的に形成さ せることができれば、ユビキチンリガーゼの基質 特異性を超えて、標的タンパク質が人工的にユビ キチン化される可能性に期待した。(図1 c)。そし て、この非生理的なヘテロ二量体を形成するため に、低分子が利用できると考えた。すなわち、研究 開始当時、2種の生物活性化合物を、リンカーを介 して連結するハイブリッド分子(ツイン薬)が知られ ていた。加えて、生物活性化合物の標的タンパク質 を同定する手法として、化合物の生物活性を大きく 損なわない位置にリンカーを導入し、アフィニティ カラムを作成する方法も知られていた。上記先行技 術を参考にして筆者らは、リンカーを介して2と標 的タンパク質リガンドを連結させた低分子を設計し た(図1 c)。そして、この連結低分子が、ユビキチ ンリガーゼ cIAP1と標的タンパク質のヘテロ二量 体を形成することによって、生理的な条件において 細胞内に存在する標的タンパク質のポリユビキチン 化・プロテアソーム分解を誘導するとの仮説を立て た。  上記は橋本教授と内藤博士と共に独自に考案し た仮説であったが、研究開始後に高分子PROTACs (PROteolysis TArgeting Chimeras)の報告に気 づ い た。Yale大 学 の Crews博 士、Deshaies博 士 ら の グ ル ー プ は、 ユ ビ キ チ ン リ ガ ー ゼ SCF (Skp1―Cullin1―F―box)複合体の一種SCFβ―TRCPと、

VHL(von Hippel Lindau)に着目し、これらユビキ チンリガーゼが認識する基質タンパク質上のペプ チド配列と、標的タンパク質(メチオニンアミノ ペプチダーゼ:MetAP、FK506結合タンパク質: FKBP)に対するリガンドを連結したペプチド性高 分子4、5を設計した(図2)。そしてこれら高分子 が、標的タンパク質をユビキチン化し、プロテア ソームによる分解を誘導することを報告した3, 4) PROTACs と名づけられた本研究は先駆的である ものの、細胞膜透過性などペプチド構造・高分子に 由来する課題があった。ペプチド5に関しては、膜 透過性ペプチド(オリゴアルギニン)の連結により生 細胞系で活性を示すことに成功した。しかしながら 依然として高濃度が必要であり、またこれが利用す る VHL はがん抑制タンパク質であることから、基 質に対するポリユビキチン化がもしペプチド4によ

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り阻害されれば副作用をもたらす可能性も考えられ た。この他に、ユビキチンリガーゼ MDM2(murine double minute 2)の低分子リガンドとアンドロゲン 受容体(AR)リガンドを連結した低分子6が、AR を 減少させる報告があった5)。しかし、AR は MDM2 の基質タンパク質である。加えて、このリガンドが MDM2に結合すると AR量を減少させるため、本 連結分子が PROTAC として AR量を減少させたか、 さらなる検証が必要との指摘がある6)。筆者らは以 上のように先行研究を分析した結果、もし連結低分 子によって、ユビキチンリガーゼの基質ではない標 的タンパク質を一般性よく分解誘導することができ れば、実用的な創薬手法になると期待し、研究を継 続することにした。 3. 疾患原因タンパク質の寿命を短縮する 低分子の創製7)  最初の標的タンパク質の選定において筆者らは、 鍵と鍵穴創薬では対応が難しい標的を選択したい 図2 初期 PROTACs の化学構造 (a) (b) (c) VHL 認識ペプチド ペプチド膜透過 SCFβ-TRCP 認識ペプチド 標的タンパク質(MetAP) リガンド リンカー 標的タンパク質(FKBP) リガンド 6 リンカー MDM2リガンド 基質タンパク質(AR)リガンド H N O NH O O O O O H H 5 O2N GGGGGGDRHDS*GLDS*M-OH S*:phosphorylated serine リンカー 4 O HO ALAPYIPrrrrrrrr-NH2 N H H N O O O 2 O O O O O O N O O O Cl Cl O O O O N O H N HN N N N O 3 O N H F3C O O HO

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と考え、標的タンパク質の機能を制御できないリ ガンドの利用と、2による cIAP1減少作用に伴う抗 がん作用の付与を計画した。そして、標的をがん関 連タンパク質から選定することに決め、細胞内レチ ノイン酸結合タンパク質(CRABP:cellular retinoic acid binding protein)を選択した。CRABP は、全 トランス型レチノイン酸(7)を核内に移行させる基 質結合タンパク質で、CRABP―I、CRABP―II の2 種類が知られている。CRABP―II は神経芽腫細胞の 遊走に関与しているとの報告があるが、この作用は 7 非依存的である。  連結低分子の詳細な設計において、リンカー導 入位置に留意した。すなわち、化合物2のエステル 部位に嵩高い置換基を導入しても cIAP1に対する 結合能が維持されたこと、7のシクロへキセニル基 のアリル位にリンカーを導入した化合物が CRABP 精製に利用された報告から、これらの位置をリン カーを介して連結させた低分子8 a-c は、cIAP1と CRABP の両方に結合できると期待した(図3 a)。 次にリンカー長について、ユビキチンリガーゼと標 的タンパク質間の物理的距離は、ユビキチン化効率 に重要と思われた。しかし、最適な距離やリンカー の種類を理論的に設計することが難しいことから、 リンカー長の異なる3化合物8 a-c を設計・合成し た。そして、生細胞株を用いた実験系において、連 結低分子8 a-c が CRABP―I および CRABP―II を減

図3 標的タンパク質の寿命を短縮する低分子 (a) 分子設計。(b) ウェスタンブロット法による CRABP存在量評価。(c) 連結低分子のがん細胞遊走阻害作用。 8a-c:n=1-3 compound conc.(μM) CRABP-I β-actin 8a 1 10 8b 1 10 8c 1 10 -compound conc.(μM) CRABP-II β-actin 8a 0.1 1 8b 0.1 1 8c 0.1 1 -(a) (b) (c) 7 HO re la ti v e m ig ra ti o n( % ) 160 120 80 40 0 2(30 μM) 7(30 μM) 8b(μM) - - - - - 30 + - - - + - + + - - - 10 O Ph NH2 O OH O N H n O O H N N O O HO O 2 Ph O O NH2 OH O N H

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少させることを見出した(図3 b)。次に、CRABP 減少のメカニズムを解析した。cIAP1発現量を低下 させた細胞では CRABP―II の減少が抑制されるこ と、8 b が BIR3ドメインと CRABP―II の二量体形 成を誘導すること、8 b処理により CRABP―II がポ リユビキチン化8)され、プロテアソームで分解され ることが確認された。これらの結果は、筆者らが想 定するメカニズム(図1 c)により CRABP が減少さ れていることを強く示唆している。また、2と同様 に8 a-c も cIAP1を減少させた。さらに、ヒト神経 芽腫細胞に対する遊走阻害作用を評価したところ、 8 b は濃度依存的に遊走を阻害することが明らかに なった(図3 c)。本結果より、阻害剤の知られてい ないがん関連タンパク質に対して、本創薬手法が新 しい分子標的薬になる可能性も提案した。以上、筆 者らは生細胞において基質以外の標的タンパク質 を分解誘導する低分子を2010年に報告し、本手法 をタンパク質ノックダウン法、また当該低分子を SNIPERs(Specific and Nongenetic IAP-dependent Protein Erasers)と名づけた。 4. タンパク質ノックダウンの 選択性向上・活性向上・一般性確認  次に、がん以外の疾患を標的とする場合も想定し、 cIAP1を分解誘導することなく標的タンパク質のみ 図4 標的タンパク質の寿命を選択的に短縮する低分子 (a) 化合物9 -12の化学構造。 (b) ウェスタンブロット法によるタンパク質存在量評価。(c) がん細胞増殖抑制作用。 (a) 12

bestatin methyl amide(9)

MV1(11) Ph Ph 10 Ph Ph O Ph NH2 OH N H O O H N NH O HN O O N H N O O Ph NH2 OH O O O O H N HN 2 O N HO O HO O O O H N HN 2 O N NH O HN O N relative inhibition ( %) 90 60 30 0 2(30 μM) 8b(30 μM) 10(30μM) - - - - - + + - - - + - + - + compound conc.(μM) CRABP-II cIAP1 (WB: FLAG) β-actin 8b -(b) (c) 0.1 1 10 10 0.1 1 10 O N H N H

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分解誘導する低分子の創製を目指した。詳細は割 愛するが、cIAP1の分解を誘導しない cIAP1リガ ンドであるベスタチンメチルアミド(9、図4 a)と、 CRABP リガンドを連結した低分子10が、0 .1μM の濃度で CRABP―II を減少させた一方で、10μM の濃度で cIAP1を減少させないことを見出した (図4 b)9)。また、10を神経芽腫細胞に処理したと ころ、濃度依存的にこの増殖を抑制した。そこで次 に、増殖抑制作用に対する cIAP1と CRABP―II の 寄与を考察した結果、cIAP1と CRABP―II の両方 を減少させる条件(8 b の単独処理もしくは2と10 の併用処理)の方が、cIAP1と CRABP―II の片方を 減少させる条件(2と10の単独処理)よりも増殖抑制 作用が強いことが確認された(図4 c)。このことか ら、cIAP1とがん関連タンパク質のダブルノックダ ウンが、抗がん薬として優れている可能性が示唆さ れた。これは、後述する低分子PROTACs(ユビキ チンリガーゼとして VHL もしくはセレブロンを利 用する)にはない特徴と考えられる。  IAP を利用する特徴を活かすべく、次に IAPs パンアンタゴニストに着目した。cIAP1・cIAP2・ XIAP と基質タンパク質の相互作用阻害を介してア ポトーシスを活性化する IAPs パンアンタゴニスト が、抗がん剤として注目されている。化合物2の代 わりに、IAPs パンアンタゴニストとがん関連タン パク質リガンドを連結した化合物は、2つの利点が 期待された。1つ目は複数のユビキチンリガーゼ活 性の利用により、標的タンパク質に対するポリユビ キチン化が亢進される可能性である。2つ目は、が ん関連タンパク質分解と、IAPs パンアンタゴニス トによるアポトーシス促進作用により、より強い抗 がん作用を示す可能性である。筆者らは、IAPs パ ンアンタゴニスト MV1(11、図4 a)を連結させた 化合物12が、8bよりも低濃度で CRABP―II を減少 させること、またヒト神経芽腫細胞の増殖を8bよ りも強く抑制することを2012年に報告した10)。こ のことから、IAPs パンアンタゴニストとがん関連 タンパク質リガンドを連結した化合物は、抗がん剤 として優れている可能性が期待される。  次に筆者らは、本手法の一般性も確認した。IAP リガンドと標的タンパク質リガンドを連結させた低 分子によって、酵素・受容体・基質結合タンパク質 を分解誘導できること、細胞質・核・細胞膜(内藤 博士らとの共同研究)11)に局在するタンパク質を分 解誘導できることを示した。 5. 他グループの動向と神経変性疾患の原因タン パク質の寿命短縮

 低分子による chemical protein degradation が 2015年に相次いで報告された(図5)。Bradner博 士12)と Crews博士13)はそれぞれ独立して、セレブ ロンに対する低分子リガンドであるサリドマイドを 標的タンパク質リガンドに連結した低分子13など が、標的タンパク質(ブロモドメインタンパク質: BRD4など)を分解誘導することを報告した。さら に、Crews博士は、ユビキチンリガーゼ VHL に対 する低分子リガンドを標的タンパク質(エストロゲ ン関連受容体:ERR など)リガンドに連結した低 分子14などを報告した14)。内藤博士と武田薬品工 業株式会社のグループは、IAPs パンアンタゴニス ト LCL161を連結した化合物15を2017年に報告し た15)。これら低分子の特徴として、nM オーダーの 低濃度で分解誘導活性を示すこと、動物モデルに おいても有効性を示すことがあげられる。このブ レークスルーを契機に多くのグループが chemical protein degradation に参入し、凄まじい広がりを 見せている。2019年にさまざまなユビキチンリガー ゼを利用したタンパク質分解低分子が報告され、こ れまで利用されたユビキチンリガーゼは合計9種類 に拡張された。近年、SNIPERs も含めたこれら一 連の連結低分子も PROTACs と呼ばれることが多 い。近年の低分子PROTACs研究の動向について は、優れた総説を参照されたい16)

 低分子による chemical protein degradation研究 の加速が予測される状況で、筆者らは undruggable なタンパク質である神経変性疾患の原因タンパク質 を標的に設定した。神経変性疾患は、神経細胞の脱 落などにより、認知障害や運動失調などのさまざま な神経・精神症状を呈する難治性の疾患群である。 アルツハイマー病ではアミロイドβ、ハンチントン 病では変異ハンチンチン(mHtt)などの疾患原因タ

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ンパク質が、遺伝子変異などが原因となり、細胞内 外で異常凝集を引き起こすことが発症の原因と考え られている。これらの疾患原因タンパク質は共通し て、クロスβシート構造に富む折りたたみ不全構造 に変性し、高毒性のオリゴマーなどの可溶性凝集中 間体を経て、難溶性凝集体を形成する。神経変性疾 患の治療には、毒性の高い凝集タンパク質を減らす ことが重要と考えられているが、神経変性疾患に対 する根治療法は知られていない。  筆者らが標的としたハンチントン病は常染色体優 性遺伝であり、エキソン1に35以上に異常に伸長 したグルタミン配列を有する mHtt が、凝集体とし て神経細胞内に蓄積し、舞踏運動などの不随意運動 などを引き起こす疾患である。mHtt に対する低分 子リガンドが知られていないため、代わりに凝集タ ンパク質のクロスβシート構造に特異的に結合する チオフラビン T(16、図6 a)などの神経変性疾患診 断薬に筆者らは着目した。連結低分子の脳内移行 性を指向して、16より脂溶性が高い神経変性疾患 診断薬を選択し、これら診断薬と cIAP1リガンド9 を連結した低分子17、18を設計・合成した。グル タミンが68残基連なった mHtt(68 Q mHtt)や47 Q 図5 低分子 PROTACs/SNIPERs の化学構造 14 15 VHLリガンド 標的タンパク質(ERR) リガンド IAPsパンアンタゴニスト LCL161 標的タンパク質(ER) リガンド S N N O O O O O N 4 N S H N SO2 HN O O O O O O O OH N N N S 3 13 セレブロンリガンド 標的タンパク質(BRD4) リガンド O N H H N Cl O O O O O O NH N N N N N S NH OH NH NH

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mHtt を発現している細胞に17、18を処理したとこ ろ、mHtt量が減少することを見出した(図6 b)。次 に、mHtt減少のメカニズムを解析した結果、HTT mRNA量に変化がないこと、cIAP1と凝集タンパ ク質からなる人工的な複合体を形成すること、プ ロテアソーム依存的に mHtt が分解されることを確 認した。また、cIAP1に結合しないネガティブコン トロール19は mHtt を減少させなかったことから、 cIAP1に対する結合親和性が mHtt分解活性に重要 であることが示唆された。ところで、より長いポリ グルタミン配列を有する mHtt ほど早期に発症し、 症状が重篤であることが報告されている。緑色蛍光 タンパク質融合145 Q mHtt のエキソン1を遺伝子 導入した細胞において、連結低分子17処理により、 mHtt量が減少すること、蛍光顕微鏡で輝点として 観測される凝集体数も有意に減少すること(図6 c) を見出した。神経変性疾患においては、ユビキチ ン―プロテアソーム系が機能障害に陥っているとの 報告が数多く存在する一方で、依然機能していると の意見もある17)。筆者らは2017年、ユビキチン―プ ロテアソーム系へ凝集性タンパク質を人工的に誘導 する低分子により、生細胞実験系にて mHtt量やそ の凝集体量を減少させることを報告し、神経変性 疾患の新しい治療戦略の可能性を示すことができ た18)  ハンチントン病の他にも、ポリグルタミンが異常 に伸長した変異タンパク質が原因となる遺伝性神 経変性疾患が知られている。それら変異タンパク 図6 mHtt の寿命を短縮する低分子 (a) 化合物16―19の化学構造。(b) ウェスタンブロット法による68 Q mHtt存在量評価。(c) 細胞中の凝集体数評価 16 17(μM) time(h) WB:polyQ WB:Htt WB:tubulin 10 10 -24 48 0 0- 481 483 1048 (a) (b) 0 50 100 150 control re la ti v e n u m b e r o f a g g re g a te s( % ) 17(10 μM) 17:R1 = NH 2, R2 = OH 19:R1 = H, R2 = H 18 N N+ Cl- S Ph H N O O 2 H N S N NH R1 R2 O Ph NH2 O N H OH O H N O 3 S N N N N (c) <0.05 p

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質に対する一般性を確認すべく、変異ataxin―3、変 異ataxin―7、変異atrophin―1を発現する細胞に17、 18を処理したところ、有効濃度や減少率に差はあ るものの、一般性よくこれらタンパク質が減少する ことが明らかになった19)。2019年には Haggarty博 士により、神経変性疾患診断薬とサリドマイドを連 結させた低分子PROTACs が、アルツハイマー病 の原因タンパク質であるタウを減少させ、神経細胞 保護作用を示すことが報告された20)

6. Chemical protein degradation の課題 と将来展望  PROTACs の医薬応用が国内外で盛んに検討され ており、2019年に米Arvinas社により AR を標的 とした PROTAC を用いた第一相臨床試験が開始さ れた。医薬応用に向けた今後の課題として、薬物動 態の改善をあげたい。経口薬の指標である Lipinski の法則によれば、分子量が500を超え、水素結合 供与体・受容体数も多い PROTACs・SNIPERs は、druglike でないと捉えるべきであろう。しかし 2019年、マウスに経口投与した PROTAC の有効 性21)が報告され、また複数のプロジェクトが経口吸 収性を示すデータを学会発表した。今後、化合物構 造の開示や良好な経口吸収性を示す構造的要因の理 解が望まれる。別アプローチとして、ユビキチンリ ガーゼリガンドと標的タンパク質リガンドを生体 直交型クリック反応によって細胞内で連結させて PROTAC を生成させる CLIPTAC と呼ばれる技術 が報告された22)。PROTACs の抱える分子量に対す る課題に対して、CLIPTAC は分子量が小さい2種 の化合物を投与できる特徴を有する。  PROTACs に利用実績のあるユビキチンリガー ゼは全種類の2 %未満に留まっており、今後は組織 分布、安全性、薬剤耐性などの観点から最適なユビ キチンリガーゼを選択できる環境の整備が望まれ る。同時に、より druglike な化学構造を有するユ ビキチンリガーゼリガンドの開発も望まれる。ま た PROTACs類似技術として、疎水性タグと標的 タンパク質リガンドのハイブリッド低分子が、タン パク質品質管理機構を模倣して標的タンパク質を 分解誘導する疎水性タグ法が報告された23)。本手法 で用いられるアダマンチル基などの疎水性タグは、 Lipinski の法則からは druglike と判断される。しか し脂溶性が高い部分構造であることから、非特異的 な相互作用を生じる可能性が危惧され、標的タンパ ク質に対する特異性を慎重に確認する必要がある。 さらに、タンパク質分解経路であるオートファジー に標的タンパク質を人工誘導するハイブリッド低分 子が2019年に報告された24)。今後はハイブリッド 分子を用いた類似コンセプトの提案が増えると予 想され、ハイブリッド分子の薬物動態の改善策も ますます重要になると思われる。最後に、chemical protein degradation の druglikeness を向上させる 方策として、分子糊(molecular glue)に期待がもた れる。分子糊は、2つのタンパク質の間に結合する ことにより、糊のようにタンパク質間相互作用を助 長する低分子である。分子量が小さい分子糊も多い ことから、ユビキチンリガーゼと標的タンパク質の 相互作用を誘導する分子糊を発見できれば、分子量 の観点からは究極になり得る。一方、任意の標的タ ンパク質に対する分子糊を理論的に設計することは 現時点では難しい。2019年に Lu らは、オートファ ゴソームタンパク質と mHtt の両方に結合する分子 糊が、マクロオートファジーにより mHtt を減少さ せることを報告した25)。脳内移行性を示す本分子糊 は、化合物マイクロアレイのスクリーニングから発 見されたことから、同手法が分子糊を見出す一般的 方法になることが期待される。  以上、PROTACs以外にも疎水性タグ、オート ファジー誘導分子、分子糊など、chemical protein degradation は日進月歩で拡張されている。また適 応疾患についても、がんだけでなく神経変性疾患な どにも医薬応用する取り組みが行われている。分子 量500を超えるこれらハイブリッド分子の経口吸収 性獲得、また例えば脳などの標的組織への薬物送達 を達成するために、DDS技術への期待がますます 広がるものと思われる。 7.おわりに  本稿では、低分子によって標的タンパク質の寿命

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文献

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を短縮させる創薬手法について、筆者らの研究を中 心に時間軸も意識しながらまとめ、後半には周辺 研究の動向、将来展望、課題についても記述した。 Chemical protein degradation の発展には多くの研 究者が貢献しているが、筆者らも、1)ユビキチン―プ ロテアソーム系を人工利用する低分子によって標 的タンパク質の存在量を初めて減少したこと、2) cIAP1や IAPs が本手法に利用できること、3)IAP とがん関連タンパク質のダブルノックダウンが抗が ん剤として有望である可能性、4)酵素・受容体・基 質結合タンパク質・凝集性タンパク質や細胞内局在 の適用範囲の確認を通じて、本手法の開発に部分的 に貢献できたと自負している。加えて、機能を制御 できないリガンドを利用できる可能性、また難病で ある神経変性疾患の原因タンパク質も減少できるこ とを示し、タンパク質の機能を制御する従来の「鍵 と鍵穴創薬」とは異なる本手法の特徴も提案できた と考えている。神経変性疾患への医薬応用を考えた 場合、脳内移行性をはじめとする薬物動態や活性増 強が今後の課題である。今後も、本モダリティの発 展に注力していきたい。 謝 辞  本稿の研究は、東京大学定量生命科学研究所(旧 分子細 胞生物学研究所)生体有機化学研究分野で行われたものであ り、橋本祐一元教授に感謝申し上げます。また研究を行っ た卒業生(佐藤伸一博士(現 東北大学助教)、伊藤幸裕博士(現 京都府立医科大学准教授)、北口梨沙氏、大金賢司博士(現 東京理科大学助教)、友重秀介博士(現 東北大学助教)、野村 さやか氏(現 防衛医科大学校助教)、山下博子博士)に深謝い たします。また、発案段階からの共同研究者である国立医 薬品食品衛生研究所の内藤幹彦博士に感謝いたします。本 研究は、JSPS科研費JP18 H05502、JP18 H02551の支援 を受けたものです。

参照

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