熱酸化法による可視光応答型光触媒活性Au添加TiO2
膜の作製と抗菌性評価
著者
上田 隆統志
学位授与機関
Tohoku University
学位授与番号
11301甲第19285号
URL
http://hdl.handle.net/10097/00130574
うえ だ たか と し
氏
名
上 田 隆 統 志
研究科,専攻の名称 東北大学大学院工学研究科(博士課程)材料システム工学専攻
学 位 論 文 題 目
熱酸化法による可視光応答型光触媒活性
Au 添加 TiO2膜の作製と
抗菌性評価
論 文 審 査 委 員
主査 東北大学教授 成島 尚之 東北大学教授 朱 鴻民
東北大学教授 増本 博 東北大学教授 山根 久典
東北大学教授 山本 雅哉
論文内容要約
第1 章 緒言 近年、世界規模での高齢化の進行に伴い、人々の QOL の向上だけではなく社会機能の維持といった観点から も健康寿命の延伸が益々重要視されている。口腔機能は身体機能と密接に関係し、適切な補綴治療は健康寿命低 下のリスクを低減する。補綴治療に用いられるデバイスの中でも、歯科用インプラントは侵襲性が高いものの優 れた咀嚼機能回復機能を発揮することが認識されている。通常、骨に埋入されるインプラント体はTi 製であり、 その優れた機械的特性、耐食性および骨と介在組織なく自発的に接合する固有の性質(オッセオインテグレーショ ン)が活用されている。一方で、歯科用インプラントの課題としては感染症リスクの高さが挙げられ、抗菌機能化 と更なる生体適合性向上を同時に実現するTi の表面処理プロセスの確立が求められている。 抗菌性表面は細菌付着を抑制する表面と殺菌作用を示す表面の二つに大別できる。ともに骨適合性との両立が 課題であるが、光照射下で殺菌作用を示す光触媒活性TiO2膜は光照射条件の制御による抗菌性と細胞無毒性の両 立が期待できる。照射光としては人体に有害な紫外光(UV)ではなく可視光が望ましく、インプラント応用におい ては膜密着力も重要となる。したがって、光触媒活性TiO2膜によるインプラントの抗菌機能化の実現には、優れ た可視光応答性と膜密着力を有するTiO2膜をTi 基板表面に直接形成するプロセスの開発が必要である。 TiO2の可視光応答化は固溶イオンのドープ、あるいは色素およびプラズモニック粒子の光増感効果により達成 される。TiO2へのAu 添加は固溶イオン、金属粒子どちらの化学状態においても可視光応答化に寄与することが 報告されている。著者らは膜密着力に優れた酸化膜が得られる熱酸化法に着目し、C および Au 添加 TiO2膜を添 加したTiO2膜が可視光照射下において抗菌性を示すことを明らかにした。一方で、実用化に向けては、Au 添加 挙動および光触媒活性や膜密着力に及ぼすAu 単体の元素効果を解明しプロセスを最適化する必要がある。 このような背景から、本論文では、Ti-Au 合金、Au スパッタ Ti および Ti-Au 共スパッタ Ti の熱酸化による可 視光応答型光触媒活性Au 添加 TiO2膜の作製および抗菌性評価を行い、基板もしくはスパッタ膜中Au 濃度およ第2 章Ti-Au 合金の熱酸化によるAu 添加TiO2膜の作製と抗菌性評価
本章では、Ti-Au 合金の熱酸化による Au 添加 TiO2膜の酸化挙動お
よび抗菌性について論じた。大気中、873 K の熱酸化により工業用純 (CP) Ti および Ti-1–10Au (at%)合金上にルチル型 TiO2膜が得られた。
Ti-Au 合金の酸化は基板中 Au 濃度の増加に伴い促進され、基板中 Au 濃度5at%以上でおおよそ一定となった。基板中 Au 濃度が 5at%以上の とき、酸化膜表面に粒径50 nm 未満の金属 Au 粒子が、酸化膜/基板界 面にAu リッチ領域が形成された。XPS による酸化膜表面の化学状態 分析において、金属Au 粒子に由来する Au0に加えてAu3+が検出され た。Au3+イオンはTiO2中のTi サイトに置換し、同時に酸素空孔濃度 を増加させるので、酸化が促進したと考察した。 可視光( ≥ 400 nm)照射下において、CP Ti および Ti-Au 合金上に得られた TiO2膜の光誘起親水性および大腸菌 (DH5)に対する抗菌性を評価した。可視光照射(放射照度 10 mW·cm-2, 照射時間 7.2 ks)後の水接触角は基板中 Au
濃度の増加に伴い減少し、Ti-5Au および Ti-10Au 上の TiO2膜では~5°となった。可視光照射(1 mW·cm-2, 14.4 ks)
後生菌率は暗所静置後生菌率に対して有意に減少し、Ti-5Au および Ti-10Au 上の TiO2膜が可視光照射下で抗菌性
を発現することが確かめられた。抗菌性の指標としてR = -log[Nvis/N0] (Nvis: 可視光照射後生菌数, N0: 初期生菌数)
を、見かけの酸化速度としてrox’ = Lox/tox (Lox: 酸化膜厚、tox: 酸化時間)を定義すると、抗菌性と見かけの酸化速度
の関係はFig. 1 のようになり、酸化の促進に伴い抗菌性が向上することが明らかとなった。5,5-Dimethyl-1-pyrroline N-Oxide (DMPO)をスピントラップ剤に用いた電子スピン共鳴(ESR)分析により、Ti-5Au 上の TiO2膜は可視光照射
下でヒドロキシラジカルを生成し、抗菌性が光触媒反応により生成された活性酸素種によってもたらされたこと が示唆された。一方、Ti-5Au および Ti-10Au 上の TiO2膜は一部が保管中に剥離した。以上から、基板中Au 濃度
の増加は酸化の促進、可視光応答化および膜密着性の低下を引き起こすことが明らかとなった。 第3 章 Au スパッタ Ti の熱酸化による Au 添加 TiO2膜の作製と抗菌性評価 本章では、デバイス(基板)全体として使用する Au 量の削減ならびに酸化膜の膜密着性向上のため、Au スパッ タTi の熱酸化に着目し、酸化前の Au 膜厚が抗菌性および膜密着力に及ぼす影響について調査した。Au スパッ タTi (Au 膜厚: 4–58 nm)に大気中、873 K、1.8 ks の条件で熱酸化を施したところ、金属 Au 粒子含有ルチル型 TiO2 膜が得られた。Au 膜厚の増加は酸化の促進、酸化膜/基板界面における Au リッチ領域形成の促進、膜密着力の低 下、および可視光照射下における光誘起親水性(10 mW·cm-2、7.2 ks)ならびに抗菌性(1 mW·cm-2、14.4 ks)の向上を もたらした。Au 膜厚が 38 nm のとき(Ti(Au38))、TiO2膜はR ~ 1.76 と比較的優れた抗菌性を示したものの、膜密
着力は生体材料のコーティングに要求される15 MPa を下回った。一方、Au 膜厚が 19 nm のとき(Ti(Au19))、抗 Fig. 1 Increase in antibacterial property, R, with apparent oxidation rate, rox’.
菌性は低下したものの(R ~ 0.61)、膜密着力は 15 MPa を上回った。 Ti(Au38)上の TiO2膜について、SEM-EDX を用いて取得した膜密着力測
定後の剥離部断面の元素マッピング像をFig. 2 に示す。このように、膜 密着力が低下した酸化膜の剥離はAu リッチ領域の上側で生じているこ とが確かめられた。Au リッチ領域は Ti3Au を含有し、Ti3Au は基板の-Ti やルチルよりも大きな熱膨張係数を有する。このことから、熱膨張係数 差を増加させるAu リッチ領域の形成が膜密着力低下の主要因であると 考察した。Ti-Au 合金と同様に抗菌性は酸化の促進に伴い向上した。王水浸漬により金属 Au 粒子を除去した後も Ti(Au38)上の TiO2膜は可視光照射下で光誘起親水性を示した。さらに、粉末化したTiO2膜の拡散反射率を測定し
たところ、Au 添加により TiO2膜のバンドギャップエネルギーが低減することが示唆された。以上から、TiO2膜
は固溶したAu3+イオンにより可視光応答化したと考察した。
第4 章 Ti-Au 共スパッタ Ti の熱酸化による Au 添加 TiO2膜の作製と抗菌性評価
第4 章では、抗菌性-膜密着力バランスの向上を目的に、スパッタ膜の Au 濃度および膜厚の同時制御を可能と するTi-Au 共スパッタ Ti の熱酸化プロセスを検討した。Ti-Au 膜の Au 濃度は 40 および 60at%、膜厚は 17–93 nm とした。Ti-Au 膜中の Au 濃度によらず、Ti-Au 膜厚が 40 nm 以上の時、酸化の促進および酸化膜/基板界面におけ るAu リッチ領域の連続的な形成が確認された。Ti-Au 膜厚が 20 nm 以下の時、酸化は促進されず、Au リッチ領 域の形成は非連続であり、さらにTi-60%Au 共スパッタ Ti においては非連続的な Au リッチ領域の直上に TiO2ノ ジュールの形成が確認された。TiO2膜の膜密着力は、連続的なAu リッチ領域あるいは TiO2ノジュールが形成し た場合に低下した。第2 章、第 3 章と同様に、Ti-Au 共スパッタ Ti 上の TiO2膜においても見かけの酸化速度rox’ の増加に伴う抗菌性R の向上が確かめられた。酸化の促進が Au3+イオンの固溶を示唆することを踏まえて、この
見かけの酸化速度rox’と抗菌性 R の関係から、Au 含有 Ti 基板の種類に依らず、Au3+イオンの固溶がTiO2膜の可
視光応答化および抗菌性向上の主要因であったと結論付けた。すなわち、抗菌性-膜密着力バランスに優れた Au 添加TiO2膜の獲得には、TiO2膜にAu3+イオンを固溶させつつ、酸化膜/基板界面における Au リッチ領域の形成 を最小化するような熱酸化プロセスが有効である。Au スパッタ Ti および Ti-Au 共スパッタ Ti の中では、 Ti-40at%Au 上に作製した Au 添加 TiO2膜が抗菌性-膜密着力バランスに最も優れていた。さらに、1 mW·cm-2、14.4 ks の可視光照射で抗菌性 R > 0.5 を達成した TiO2膜はいずれも10 mW·cm-2、7.2 ks の可視光照射で到達水接触角 F ≤ 20°を達成しており、このような関係は抗菌性スクリーニングの指標として使用可能であることが示された。 第5 章 短時間可視光照射下における Au 添加 TiO2膜の生体適合性評価 第2 章から第 4 章においては、1 mW·cm-2、14.4 ks の可視光照射条件にて抗菌性を評価した。しかし、実臨床
Fig. 2 SEM-EDX mapping of cross section of peeled region of TiO2 layers on Ti(Au38).
においては可視光照射時間の短縮が要求される。そこで本章では、高放 射照度短時間照射(15 mW·cm-2、1.8 ks)を用いて Au 添加 TiO2膜の抗菌性
および細胞増殖を評価した。供試材にはAu スパッタ Ti 上に作製した Au 添加 TiO2膜から、抗菌性R ~ 1.76 となった試料(Au 膜厚 38 nm、
TiO2/Ti(Au38))およびR ~ 0.61 となった試料(Au 膜厚19 nm、TiO2/Ti(Au19))
を用いた。大腸菌を用いたガラス密着法(菌液量 5 L)において、可視光 照射条件を放射照度15 mW·cm-2、照射時間1.8 ks として抗菌性を評価し たところ、可視光照射条件を1 mW·cm-2、照射時間14.4 ks とした場合と 同等以上の抗菌性が得られた。特に、TiO2/Ti(Au38)においては、本研究 を通して最大の抗菌性R = 2.98 を得ることが得来た。一方、浸漬法(菌液 量500 L)において TiO2/Ti(Au38)の抗菌性を評価したところ、R ~ 0.4 となり、ガラス密着法に比べて抗菌性は低 下した。細胞増殖の評価にはマウス骨芽細胞様細胞(MC3T3)またはヒト歯肉線維芽細胞(hGF)を用いた。前培養に よりこれらの単層細胞を試料表面に作製し、可視光照射および暗所静置後にalamarBlue 試薬を添加した後、所定 の時間培養し細胞増殖を測定した。Fig. 3 に鏡面研磨まま CP Ti、TiO2/Ti(Au19)および TiO2/Ti(Au38)上にて可視光
照射(15 mW·cm-2、1.8 ks)および暗所静置を施した後、alamarBlue 試薬を添加し 48 h 培養した MC3T3 の細胞増殖 を示す。鏡面研磨ままCP Ti と比べ、Au 添加 TiO2膜上のMC3T3 は暗所静置下では有意に大きな、可視光照射下 では有意に小さな細胞増殖を示した。この結果は、Au 添加 TiO2膜が可視光照射下においてのみ細胞毒性を示す ことを意味している。臨床応用に向けては、十分な抗菌性を確保しつつ、細胞毒性を最小化することが要求され る。抗菌性、細胞毒性ともにその起源は光触媒反応により生じる活性酸素種であることから、抗菌性-細胞毒性-活性酸素種生成量の定量的な解明が課題と考えられる。 第6 章 総括 以上の結果から、Au 含有 Ti 基板に熱酸化を施すことで得られる Au 添加 TiO2膜はAu3+イオンの固溶により可 視光応答化し、可視光照射下で抗菌性を示すことが確かめられた。抗菌性-膜密着力バランスの向上には、Au3+ イオンを固溶させつつAu リッチ領域の形成量を抑制する必要があり、Ti-Au 共スパッタ Ti の熱酸化におけるス パッタ膜中Au 濃度制御が有効であることが示唆された。総括として、Au 添加 TiO2膜を利用した歯科用インプ ラント抗菌機能化の実現に向けては、膜密着力-抗菌性バランスの向上ならびに可視光照射条件-抗菌性-細胞毒性 バランスの定量的な評価を通して、プロセス条件や可視光照射条件を最適化することが求められることを論じた。
Fig. 3 Cell proliferation of MC3T3, measured by alamarBlue assay, on CP Ti, TiO2/Ti(Au19), TiO2/Ti(Au38) after incubation for 48 h. Columns tagged with same letters have no significant differences together (p ≥ 0.05).