氏 名 髙山 義裕 博士の専攻分野の名称 博 士 ( 医 学 ) 学 位 記 番 号 医工博4甲 第226号 学 位 授 与 年 月 日 平成30年3月23日 学 位 授 与 の 要 件 学位規則第4条第1項該当 専 攻 名 先進医療科学専攻
学 位 論 文 題 名 Thrombin induces MCP-1 and MMP-3 production and disc degeneration via PAR1 on mouse intervertebral disc
(トロンビンは椎間板においてPAR1 を介して MCP-1 と MMP-3 を誘導し、椎間板変性をもたらす) 論 文 審 査 委 員 委員長 教 授 中尾 篤人 委 員 教 授 桐戸 敬太 委 員 講 師 松岡 伴和
学位論文内容の要旨
(目的) 椎間板変性の起こるメカニズムとして、髄核細胞周囲の環境変化により、炎症性サイトカインの産 生と相互作用、また異化作用による MMP-3 などのタンパク質分解酵素の産生が一因とされている。 我々は以前より、マウス椎間板の実験において炎症性サイトカイン(MCP-1, TNF-α, TWEAK and TSLP)が血管新生およびマクロファージの遊走に寄与すること、また、MMP-3 発現を増強すること により椎間板変性を促進させることを示してきた。凝固第Ⅱa 因子であるトロンビンは組織因子(TF) と第Ⅶ因子の複合体によってプロトロンビンより形成されるが、凝固以外の機能として炎症を惹起す る因子の一つとしても知られている。トロンビンの受容体はPARs が知られており、中でも特に PAR1 が重要である。我々は、このトロンビンが骨折の炎症期においてPAR1 を介して MCP-1 産生を促進 し、骨折部位へのマクロファージ遊走をさせることにより治癒過程に寄与することを過去に報告した。 近年、トロンビンが椎間板よりMCP-1 を発現させることが報告された。しかしながら、椎間板変性 におけるトロンビンの関与については、未だ不明な点が多い。そこで我々は本研究によって、マウス 椎間板に対するトロンビンの作用と機序、および椎間板変性との関連性について解明することを目的 とした。 (方法)5 週齢の雄マウス(Homozygous wild-type C57BL/6J mice)を CLEA ジャパンより購入し、顕微鏡下 に尾椎椎間板を摘出し培養実験に使用した。遺伝子発現をPCR 法で、タンパク発現および細胞内シ グナル発現をWB 法で、培養上清中タンパク濃度を ELISA 法で定量した。炎症サイトカインの発現
をサイトカインアレイにて、その局在性を免疫染色法で評価した。また、機能評価としてマクロファ ージの遊走をMigration assay にて、椎間板の変性をプロテオグリカン量の変化として Safranin-O 染色 にて評価した。 (結果) TF と PAR1 は髄核細胞(NP)、線維輪細胞(AF)、終板軟骨細胞(CEP)と、椎間板のすべての構 成要素に局在していた。一方トロンビンは、AF、CEP には存在すものの NP にはみられなかった。 トロンビン刺激により椎間板からのMCP-1 発現が増加し、その増加は PAR1inhibitor により抑制され た。椎間板にトロンビン投与した培養液はマクロファージ遊走能を増強させた。この遊走能はMCP-1 中和抗体によって抑制された。トロンビン刺激により、椎間板内のシグナルとしてAKT と ERK の リン酸化が確認された。さらに、PI3K および MAPK-ERK の阻害剤によるリン酸化の抑制と MCP-1 タンパクの発現抑制がみられた。また、トロンビンは椎間板からMMP-3 の発現を増加させ、その局 在はNP、AF、CEP のすべてに確認できた。椎間板へのトロンビン投与は椎間板組織内のプロテオグ リカン含有量を減少させたが、PAR1inhibitor はその作用を抑制することが可能であった。 (考察) マウス椎間板では内在性にTF、トロンビン、PAR1 が存在していることを示した。トロンビンが NP に局在していないことは椎間板が体内最大の無血管臓器であることが関与していると考えられた。ト ロンビンは椎間板に発現するPAR1 と結合することで MAP-ERK、PI3/AKT を介して MCP-1 の発現を 増加させた。誘導されたMCP-1 は、マクロファージの遊走能を有しており、以前の我々の研究成果 と考え合わせるとトロンビンは椎間板においても炎症を惹起する一因となりうることが示唆される。 また、トロンビンは椎間板のPAR1 と結合することで MMP-3 発現を増加させ、その発現は NP、AF、 CEP すべてにみられ異化作用が椎間板全体に及んでいると考えられた。トロンビンは椎間板のプロ テオグリカン含有量を減少させることから、トロンビンによって誘導されたマクロファージや MMP-3 が椎間板変性の一因となること考えられた。これは本研究が椎間板変性におけるトロンビン の役割の一部を示したものと考えられ、椎間板変性におけるトロンビンのメカニズムを解明すること は椎間板変性治療の一端を担っていくものと考える。 (結論) 我々はトロンビンが椎間板に発現するPAR1 受容体を介して MCP-1 および MMP-3 発現を誘導して いることを示した。誘導されたMCP-1 はマクロファージの遊走能を有していた。トロンビンによる 椎間板変性誘導は、PAR1 を介する MCP-1 および MMP-3 発現増強を貴院とする可能性が示唆された。 本研究はトロンビンによる椎間板変性のメカニズムを示す初めての報告である。
論文審査結果の要旨
高山氏は、マウス椎間板を用いて椎間板変性のメカニズムについて検討した。 特に、トロンビンによる椎間板変性作用についてサフラニン染色(プロテオグリカンの発現)を用い て確認し、その作用にトロンビンによる椎間板からの MCP-1 と MMP-3 の誘導が関与していること、またこのトロンビンによる椎間板変性作用は椎間板に発現する PAR-1 受容体ならびに MAPK 経路、PI3K 経路を介することを明らかにした。 さらに高山氏は、随核細胞、線維輪細胞、終板軟骨細胞におけるトロンビンや PAR-1 の局在につい ても新しい知見を得た。 本研究は、培養マウス椎間板、マウス椎間板を構成する随核細胞、線維輪細胞、終板軟骨細胞を用 いて、分子細胞生物学的手法を用いて行った信頼性のあるものである。 そして、上記の結果は、これまで椎間板変性に関係していることが証明されてきた 炎症性サイトカイン(TNF-α, Tweak, TSLP など)だけでなく、血液凝固に関連する タンパク質であるトロンビンも椎間板変性の病態に関与することを明らかにした新しい知見である。 また本知見は、今後、血液凝固系タンパク質と椎間板というこれまで想定されていなかった視野を 椎間板研究に導入し、炎症だけでなく椎間板機能・変性についての新しい展開を切り開くものである と考えられた。 以上のことから、審査員3名(中尾、桐戸、松岡)は、本博士論文の新規性ならびに医学・整形外 科領域における本研究の意義を認め、論文博士審査を全員一致で合格とした。