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高速IGBTの低損失化に関する研究 利用統計を見る

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高速 IGBT の低損失化に関する研究

山梨大学大学院

医学工学総合教育部

博士課程学位論文

2018年 9 月

北村 睦美

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- 2 - 目次 第1章 序論 p3 第2章 トレンチシールドゲート IGBT p21 第3章 ホールパス IGBT p31 第4章 結論 p49 参考資料 p51 発表論文 p54 謝辞 p56

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- 4 - 1-1. はじめに 地球温暖化を抑制し、安全安心で持続可能な社会の実現のために、パワーエレクトロニクス技術が世界的 に非常に期待されている。 パワーエレクトロニクスとは、パワー(電力)、エレクトロニクス(電子工学)、制御などの複合領域であり、エレクト ロニクス制御による電気エネルギーの変換技術である。パワーエレクトロニクス技術を使って、電気エネルギーを 必要な電流、電圧、周波数、または直流から交流へ、逆に交流から直流へ変換することで、電力を効率よくコ ントロールし、省エネルギー化や電力の安定化実現することができる。例えば、風力発電や太陽光発電などの 再生可能エネルギーの利用、化石燃料使用量と CO2 排出量削減のためのハイブリッド自動車化や電動自動 車化、省エネルギーのためのエアコンなど電気機器のインバータ化などである。 パワー半導体は、そのパワーエレクトロニクス技術のキーデバイスであり、パワー半導体によってパワーエレクトロ ニクス製品の性能が左右されるといっても過言ではない。 1-2. パワー半導体 パワーエレクトロニクス技術の発展とともにパワー半導体技術も発展し続けている。 パワー半導体とは、その名前の通りパワー=電力を制御する半導体であり、メモリやマイコンなどの信号を扱う 半導体とは、用途やデバイス構造、製造方法など異なっている箇所が多い。特に、メモリやマイコンなどのロジック デバイスは、電源電圧 1V 以下と低電力で、また、動作周波数は数 MHz で動作する ASIC から最新の CPU では数 GHz のものもある。一方、パワー半導体は、電源電圧は数 V の低電圧から 10 万 V 以上の高電圧、 電流は数 A の低電流から数百 A の大電流と広範囲にわたり、動作周波数は数 kHz~100MHz 以下と比 較的遅い。 デバイス動作の大きな最も違いは、図 1-1 に構造と電流の向きを示すように、(1)ロジックデバイスは半導体 素子の再表面を電流が流れるのに対して、(2)パワー半導体は裏面から表面に向かって縦方向に電流が流れ ることである。パワー半導体は、高電圧大電流を流すために、基板の縦方向も使って、チップ全体で電流を流し ている。ただし、窒化ガリウム(GaN)パワー半導体では、基板の結晶欠陥の問題により電流がデバイス表面だ け流れる構造のものもある。 製造方法の特徴は、ロジックデバイスでは微細な加工プロセスを使って、1 チップ内により多くのセルを形成し、 多層配線によってセルを配線しているのに対し、パワー半導体ではロジックデバイスと比較すると微細化はそれほ ど重要ではない。電流を縦方向に流すため、基板厚を薄化し、表裏両面に電極が形成されている。図 1-1.(1)ロジックデバイスは 5 層配線の例を示し、また、(2)パワー半導体は両面電極の例を断面図で示している。

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- 5 - (1) ロジックデバイス (2) パワー半導体 図 1-1. 半導体断面構造と電流方向 1-3. ワイドバンドギャップ半導体 近年は、次世代パワー半導体として、炭化ケイ素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)などのワイドバンドギャップ半 導体の研究開発、製品化が急速に進んでいる。 以下に、従来から半導体材料として主に使われているシリコン(Si)と SiC、GaN の物理定数を以下の表 1 に示す。[1]

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- 6 - 表 1. 半導体材料の主な物理定数

Si SiC (4H-SiC) GaN

バンドギャップ [eV] 1.11 3.26 3.40 最大電界強度[MV/cm] 0.30 2.00 3.30 飽和速度[cm/s] 1.0 × 107 2.0 × 107 2.5 × 107 熱伝導率[W/cmK] 1.51 4.50 1.30 ワイドバンドギャップ半導体は、最大電界強度が Si の 10 倍以上あるため、単純に同じ構造として比較する と基板厚を 1/10 に薄くすることができ、低抵抗化が可能である。飽和速度が大きいことから高速動作が可能 で、また、熱伝導率が高いことから放熱しやすく、冷却装置の小型化が可能であることから、Si に続く次世代パ ワー半導体として市場からも大きく期待され、多数の研究機関や企業における研究開発だけでなく、各社から 製品が発表されている。 SiC は、その最大電界強度が高いことをいかして、高耐圧・大電流の素子が実現され、Si では作れなかった 10kV を超える素子も発表されている。[2] 近年では、SiC 素子の実用化も進み、MOSFET 構造、IGBT 構造、さらには耐量に関する研究も盛んにおこなわれている。[3][4][5] 一方 GaN は結晶欠陥の課題に対 してまだ画期的な解決方法が見つかっておらず、縦型素子の実用化にはもうしばらく時間がかかりそうではあるが、 その高速性の特徴を生かして、主に高周波用途で使われており、制御回路との 1 チップ化も報告されている。 [6] 実用化されている製品は、横型素子が多いが、大電流に有利な縦型素子も研究されている。[7] 1-4. Si パワー半導体 一方で、従来からの Si パワー半導体も、その使いやすさとコストの面から、依然としてパワー半導体市場の ほとんどを占めている。数 V~900V 程度までは Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor (MOSFET)、600V 程度~6500V 程度までは Insulated Gate Bipolar Transistor (IGBT)、それ以 上ではサイリスタが主に使われている。

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図 1-2 に、MOSFET と IGBT のデバイス断面構造の例を示す。図からもわかる通り、MOSFET と IGBT のデバイス構造は似ており、決定的な違いは、裏面電極側に、P 層が形成されていないのが MOSFET、形成 されているが IGBT である。MOSFET も IGBT も、表面側がグランド側で、裏面側が印加側であり、ゲート電 極が形成されている。MOSFET は、グランド側をソース、印加側をドレインと呼ぶことが一般的であるのに対し、 IGBT はバイポーラ素子のため、グランド側(接地側)をエミッタ、印加側をコレクタと呼ばれている。 図 1-2(1)に青矢印示すように、MOSFET は、ゲート電極がオンすると、ソースからゲート電極近傍に形成さ れるチャネル、ドリフト層を通ってドレインへ電子が流れる。なお、電流の向きはプラス方向からマイナス方向のた め、電子の流れる向きとは逆に、電流はドレイン側からソース側に流れる。MOSFET では、比較的耐圧が低い ため、耐圧を保持するドリフト層の厚さはそれほど必要ではないが、必要な厚さまで薄くしたウエハの製造は困難 なため、高濃度な基板上に必要な耐圧とオン抵抗を得るために厚さと濃度を最適化されたドリフト層が形成さ れている。パワーMOSFET は、よりよい特性(耐圧とオン抵抗のトレードオフがよいこと)を得るために、2 種類のテ クノロジーが使われている。耐圧数百ボルトでは、図 1-3(1)に示すスーパージャンクション構造が、耐圧数十ボ ルトから 100 ボルト程度までは図 1-3(2)に示すようなトレンチの中に、ソース電極を形成する構造が使われて いる。 一方、図 1-2(2)に青矢印示すように、IGBT も、ゲート電極がオンすると、エミッタからコレクタ方向へ向かっ て電子が流れる。IGBT では、裏面側に薄い P 領域が形成されており、エミッタ側の P 領域―ドリフトの N 領域 ―裏面側の P 領域によって PNP トランジスタが形成されている。電子がドリフト層を流れることにより、この PNP トランジスタのベースに電流が注入されるため、PNP トランジスタがオンし、コレクタ側から正孔(ホール)が N ドリフ ト層を通ってエミッタ側へ流れる。つまり、MOSFET は電子しか流れなかったのに対して、IGBT は電子とホール の両方が流れるバスボーラ素子である。電子とホールの両方が電流に寄与するため、MOSFET と比較してより 大きな電流を流すことができる。

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(1) MOSFET (2) IGBT 図 1-2. パワー半導体のデバイス断面構造の一例

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- 9 - (1) スーパージャンクション構造 (2) トレンチ内にソース電極を形成 図 1-3 いろいろなパワーMOSFET 構造 再生可能エネルギー分野では、風力発電システムの出力電力の高効率化のために、使われるコンバータ、 インバータや、太陽光発電システムで発電された直流電流を交流に変換するパワーコンディショナーなどは、その 電圧、電流から IGBT が使われることが多い。 また、世界中で急速にガソリン車からの転換が進んでいる電気自動車でも、モーターを回すために IGBT が 使われている。 これまで IGBT は、産業用途や電鉄用途などで比較的低い動作周波数で使われていたが、最近は、インバ ータやモーターの高効率化やパワーエレクトロニクス機器の小型化など高周波で使われる用途も多くなり、IGBT デバイス自体の高速化要求も高まっている。

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- 10 - 1-5. IGBT IGBT は、耐圧クラスが 600V~6500V 程度で、従来からインバータやモーターなどの産業用途で広く使わ れ、最近では前述の通り、再生可能エネルギーシステムや電気自動車などのこれから市場が大きく拡大する分 野でのキーデバイスとして期待されている。 これまで IGBT は、特長的な特性として、オン状態での電圧降下(Von)とスイッチング時のエネルギーのトレ ードオフを改善することを中心にこれまで研究開発か行われてきた。それ以外にも、スイッチング時の破壊耐量や などパワーエレクトロニクス用途に必要な特性の改良がおこなわれてきた。 1-5-1. 縦構造 図 1-4 に IGBT の裏面(コレクタ電極側)の構造を比較する。図 1-4(1)に示す初期の IGBT は、P+基 板上に N-ドリフト層を形成していた。この構造(パンチスルーIGBT(PT-IGBT))では、厚い p+層によって、Von が高くなってしまという欠点があった。 その後、図 1-4(2)に示す、ノンパンチスルーIGBT(NPT-IGBT)が開発された。[8] NPT-IGBT の特長 は以下の通りである。 ・Si 基板厚を薄くできるため、Von をさげることができる。 ・コレクタからの注入が抑制されるためライフタイムコントロールが不要で、高温のスイッチング特性が良好。 ・負荷短絡耐量が高い。 ・比較的安価な FZ ウエハが使用できる 現在では、フィールドストップ IGBT(FS-IGBT)が主流となっている。[9] NPT-IGBT は、n-ドリフト層を厚く する必要があったが、FS-IGBT では、オフ時に空乏層を止めるフィールドストップ層を形成することで、n ドリフト 層を薄くでき、Von を下げることができる。さらに、FS-IGBT は過剰キャリアが少なく、中性領域幅が狭いので ターンオフ損失も低減できる。

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(1) PT-IGBT (2) NPT-IGBT (3) FS-IGBT

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- 12 - 1-5-2. ゲート構造 初期の IGBT は、図 1-5(1)に示すようなゲートを Si 基板の表面上に形成したプレーナー構造だったが、最 近は、図 1-5(2)に示すような Si 基板に形成した狭い溝(トレンチ)にゲート電極をうめこむトレンチゲート構造 が主流である。 (1) プレーナーゲート (2) トレンチゲート 図 1-5 ゲート構造 トレンチゲートで Von が十分に下がってくると、Si 表面側(エミッタ側)で、キャリア濃度の低下が起こり、ある領 域からは Von が下がらなくなってしまう。そこで、キャリア濃度の低下を抑える構造として、図 1-6(1)に示すよう なチャネル領域の下に、N-ドリフト層よりは高濃度の n 領域を形成することで、ホールの障壁とし、その付近での ホール(キャリア)濃度の低下を抑える構造[10]や、図 1-6(2)に示すようなチャネル領域の一部をフローティング とすることでホールの引き抜きを抑え、ホール(キャリア)濃度の低下を抑える構造[11]などが提案された。

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- 13 - (1) N 領域追加 (2) フローティング P 領域追加 図 1-6. IGBT のゲート構造比較 図 1-6(2)に示す、チャネル領域の一部をフローティング p 領域とする構造は、特に電子注入促進効果 (IE(Injection Enhanced)効果)が高く、Von とターンオフ損失のトレードオフの観点では非常に優れた特性 を示す。 ただし、フローティング P 領域は、ゲートの自己昇圧作用により、ターンオン時の dIc/dt 制御性が悪いという 欠点がある。そこで、図 1-7 に示す Micro-P IGBT が開発された。[12]

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- 14 - 図 1-7 Micro-P IGBT Micro-P IGBT は、チャネル領域を部分的に配置しているため、n-ドリフト層がコレクタ表面付近まで形成さ れているので、ホールの障壁となり、コレクタ側でホールが蓄積するので、Von を十分に下げることができる。一方 で、Micro-P 構造は、ゲート電極の比率が高いため、ミラー容量が高くターンオフスイッチングに時間がかかるとい う欠点がある。

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- 15 - 1-5-3. 動作原理 IGBT はパワーエレクトロニクス回路でスイッチング素子として使われ、オンオフを繰り返す。その動作原理は以 下のようになる。この例では、素子は 1200V クラス、電源電圧は 600V、ゲート電圧は-15V↔+15V でオン オフを繰り返す。 ① 定常状態(オフ状態) オフ状態は、ゲートが-15V とオフになっている状態で、コレクタ側には 600V が印加されている。N ドリフ ト層のキャリアはすべて掃き出されて、空乏層が広がっている。(図 1-8) 図 1-8 定常状態(オフ状態)

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- 16 - ② ターンオン状態(オフ→オン遷移状態) ゲート電圧がしきい値電圧(Vth)以上となると、チャネル領域に反転層が形成され、N ドリフト領域と N エミッタ層が電気的に接続され、電子電流が高電界中をエミッタ層からコレクタに向かって流れる。この電子 電流が P ベース-N ドリフト-P コレクタから成る PNP バイポーラトランジスタのベース電流となり、PNP バイポ ーラトランジスタが動作をし、コレクタ層からホールが注入される。これにより空乏層幅が薄くなり、電界のかか っていない領域(中性領域)のキャリア数が増加し始める。(図 1-9) 図 1-9 ターンオン状態

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- 17 - ③ 定常状態(オン状態) ターンオン状態から十分時間がたつと、ドリフト層は過剰キャリアで満たされ、空乏層は消滅する。電流が 流れコレクタ側の電圧は降下する。この時のコレクタ電圧が、導通損失を決めるオン電圧(飽和電圧)であ る。(図 1-10) 図 1-10 定常状態(オン状態)

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- 18 - ④ ターンオフ状態(オン→オフ遷移状態) ゲート電圧がしきい値電圧以下になると、チャネル領域の反転層が消失し、エミッタ領域からの電流がな くなり、P ベース領域と N ドリフト領域の PN 接合に空乏層が広がる。オン状態に電流を担っていた過剰キ ャリアのうち、電子はコレクタ側に、ホールは空乏層を通過しエミッタ側に掃き出される。(図 1-11) 図 1-11 ターンオフ状態

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- 19 - 1-5-4. 導通損失とスイッチング損失 定常状態では、オン状態での損失(導通損失)は、オン電圧によって決まるため、導通損失を下げるためには、 オン電圧を下げることが重要となる。 ターンオン、ターンオフについて、スイッチング波形と損失について、さらに説明する。ターンオン時、ターンオフ時 は、時間は数 us と短いが、電圧が下がりきる前に電流が流れ始めたり、電流がなくなる前に電圧が上がり始め るため、瞬間的に多くの電力が消費され、それがスイッチング損失となる。 動作周波数が低い場合には、スイッチングの回数が相対的に少ないため、スイッチング損失はそれほど重要で はなく、導通損失が支配的であるため、導通損失、すなわちオン電圧の低減に主眼が置かれる。 動作周波数が高くなってくると、スイッチング回数が多くなるため、スイッチング損失が無視できなくなる。図 1-12、図 1-13 に、ターンオン、ターンオフスイッチング波形と損失を示す。ターンオン、ターンオフの時に、損失が大 きくなっていることがわかる。 図 1-12 ターンオンスイッチング波形

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- 20 - 図 1-13 ターンオフスイッチング波形 図 1-14 は、IGBT の動作周波数に対する損失の例を示す。周波数が 1kHz と低い場合には、導通損失 がほとんどを占めており、低損失化には、オン抵抗の低減が有効であった。しかし、高周波化が進むと、ターンオフ、 ターンオンのスイッチング損失の比率が高くなるため、導通損失を下げるオン抵抗の低減とともに、スイッチング損 失の低減が重要である。 図 1-14 IGBT の損失

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- 22 - 2-1. デバイス構造 図 2-1 に、Micro-P 構造とトレンチシールドゲート構造を比較する。 トレンチシールドゲート構造は、Micro-P 構造の、二つのゲート電極に挟まれた n-drift 領域にエミッタ電極を 形成した構造となっている。 (1) Micro-P 構造 (2) トレンチシールドゲート構造 図 2-1. デバイス構造比較 2-2. Micro-P IGBT の容量特性

図 2-2 に、Micro-P IGBT のミラー容量特性を示す。トレンチゲートに挟まれた n-drift 領域に電圧が印加さ れると空乏層が広がるため、ミラー容量は数 V の Vce で大幅に減少する。しかし、Vce が 3V 以下と低い利用域 では n-drift 層が十分に空乏化しないため、ミラー容量が非常に大きくなり、スイッチング特性が悪化するという問題 がある。

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- 23 - 図 2-2 Micro-P IGBT のミラー容量 2-3. トレンチシールドゲート構造 図 2-1(2)に示すトレンチシールドゲート構造により、前述の Micro-P IGBT の問題点を解決することがで きる。図 2-1(2)に示す通り、この構造は、トレンチゲートに挟まれた n-drift 領域にトレンチを形成し、その電極 はエミッタ電極に接続されている。 チャネル側ではなく、n-drift 側のゲートは、エミッタ電極に接続されているトレンチ電極と容量結合するので、 ゲート-エミッタ容量となる。つまり、図 2-3 に示すように Micro-P IGBT ではミラー容量だった容量をゲート-エミ ッタ容量に置き換えることができる。 (1) Micro-P IGBT (2) トレンチシールドゲート構造 図 2-3 ミラー容量の置き換え

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- 24 - これにより、トレンチシールドゲート構造はミラー容量を低減でき、スイッチング損失も低減することができる。 2-4. 実験結果 2-4-1. 断面構造 図 2-4 にトレンチシールドゲート構造の FIB 断面写真を示す。トレンチゲートの隣に、約 0.3um のメサ領域 を挟んでトレンチエミッタが形成されている。 図 2-4 トレンチシールドゲート構造の FIB 断面写真 2-4-2. 静特性 図 2-5 はトレンチシールドゲート構造の有無での Cres/Cies 比率を示す。トレンチエミッタを形成したことで、 Cies で規格化した Cres を約 40%低減できている。つまり、トレンチシールドゲート構造は前述の通り、ミラー 容量(ゲート-コレクタ間容量)をゲート-エミッタ容量に置き換えることができている。

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- 25 - 図 2-5 トレンチシールドゲート構造の有無での Cres/Cies 比率比較 また、トレンチシールドゲート構造では、メサ幅が狭くなるため、ホールの障壁となり IE 効果がたかまることで Von が下がる。図 2-6 に、トレンチシールドゲート構造の有無での Ic-Vce 特性を示す。トレンチシールドゲート 構造により、Von が 0.15V 低減した。 図 2-6 トレンチシールドゲート構造の有無での Ic-Vce 特性

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- 26 - 2-4-3. スイッチング特性 図 2-7 にトレンチシールドゲート構造の有無でのターンオン波形比較を示す。Ic の波形はほぼ同等であるが、 Vce のテール領域がトレンチシールドゲート構造では短くなっている。これは、ミラー容量の低減によるものである。 の結果、ターンオン損失は 1.3mJ/pulse(約 26%)低減している。 図 2-7 トレンチシールドゲート構造の有無でのターンオン波形比較 図 2-8 は、ターンオフ波形の比較を示す。トレンチシールドゲート構造では、ミラー容量の低減によりわずかで はあるが dVce/dt が大きくなっているため、ターンオフ損失は 11%低減できた。

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図 2-8 トレンチシールドゲート構造の有無でのターンオフ波形比較

図 2-9 に示す、ターンオフ損失、ターンオン損失の、コレクター電流依存性、ゲート抵抗依存性より、全電流 領域、ゲート抵抗領域で、トレンチシールドゲート構造の方が通常の Micro-P IGBT よりも、Eoff、Eon ともに 低いことが確認できる。

(2) コレクター電流依存性 (2) ゲート抵抗依存性 図 2-9 トレンチシールドゲート構造の有無での Eoff, Eon 比較

図 2.10 に示す Von – Eoff トレードオフから、Von = 1.8V で比較すると、トレンチシールドゲート構造は通 常の Micro-P IGBT と比較して Eoff を 25%低減できていることがわかる。これは、低ミラー容量化によるスイ ッチング損失低減と、IE 効果の向上による Von 低下によるものである。

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図 2.10 Von – Eoff トレードオフ

図 2.11 は、同じ定格の FWD に対して、対向の IGBT を Micro-P IGBT とトレンチシールドゲート構造に した場合の FWD の逆回復特性を示す。トレンチシールドゲート構造でも、ゲート抵抗を変えると dVAK/dt、

dI/dt が変わっており、つまり、ゲート制御性が十分あるといえる。

(1) Micro-P IGBT (2) トレンチシールドゲート構造 図 2.11 FWD の逆回復特性のゲート電圧依存性

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- 29 - 2-5. 耐量

図 2.12 は、トレンチシールドゲート構造 IGBT の大電流遮断試験結果を示す。これはターンオフ耐量を確 認するもので、3500A/cm2の大電流に対しても正常に電流を遮断できていることがわかる。

図 2.12 大電流試験結果

図 2.13 は、従来構造の Micro-P IGBT とトレンチシールドゲート構造 IGBT の短絡試験の結果を比較す る。図に示す波形は、破壊直前のものである。従来の Micro-P IGBT の短絡時間 15us に対して、トレンチシ ールドゲート構造では 17us と長くなっている。これは、低ミラー容量化により、短絡時の突入電流が抑制されて いることと、トレンチシールドゲート構造ではメサ幅が狭いため、表面(コレクタ)側の電界強度が下がっていること による。

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(1) Micro-P IGBT (2) トレンチシールドゲート構造 図 2.13 短絡試験結果

2-6. トレンチシールドゲート構造まとめ

Micro-P IGBT 構造の n-drift 領域のメサ部にトレンチエミッタ電極を形成したトレンチシールドゲート構造 により、低ミラー容量化と高い IE 効果による Von-Eoff トレードオフの改善を実現できた。

実験結果では、600V/30A IGBT において、従来構造に対して、Eoff 26%、Eon 11%低減できた。 さらに、同じ電流密度で比較すると、Von は 0.15V 低減でき、また dv/dt が大きくなるため Eoff を 11% できるため結果として、Von-Eoff トレードオフを 25%改善できた。また、耐量の低下はない。

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- 32 - 3-1. デバイス構造

図 3.1 にホールパス構造をフローティング P IGBT と比較して示す。第 2 章で述べたトレンチシールドゲート 構造は、Micro-P IGBT 構造をもとに改善したが、ホールパス構造は考え方を変えて、フローティング P IGBT 構造をもとに特性改善を試みた。

ホールパス構造は、フローティング P IGBT のフローティング P 領域に、エミッタ電極に接続されたトレンチに挟 まれた狭いメサ領域が形成されている。メサ領域の p 層は、表面でエミッタ電極に接続されている。

(1) フローティング P IGBT (2) ホールパス IGBT 図 3.1 デバイス構造比較

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- 33 - 3-2. 設計コンセプト

フローティング P IGBT の課題である dV/dt, dI/dt のゲート制御性を改善しつつ、さらに Von-Eoff トレード オフを改善できる構造として、Micro-P IGBT が開発された。しかし、Micro-P IGBT は、ゲート電極の密度が 高くミラー容量が大きいため、スイッチングスピードが遅いという課題があった。そこでそれを改善できるトレンチシー ルドゲート構造について、第 2 章で述べた。

ここでは、フローティング P IGBT 構造に戻り、その改善というアプローチでゲートの制御性、Von-Eoff トレー ドオフの改善を検討した。

3-2-1. フローティング P 構造の dIc/dt 制御性と EMI ノイズ

フローティング P IGBT は、IE 効果が高く、Von-Eoff のトレードオフがよいことで広く一般的に知られている。し かし、dIc/dt の制御性が悪いという課題がある。 フローティング P IGBT は、ターンオン時、ゲート電圧が閾値電圧以上に上がるとチャネルがオンし、エミッタから チャネルを通ってコレクタへ向かって電子電流が流れ始める。その結果、コレクタ側からはホール電流が n ドリフト 層を通ってエミッタ側に向かって流れ始める。この時、ホールはチャネル領域を通ってエミッタ電流として流れるだけ ではなく、P フローティング層に蓄積される。フローティング P 領域にたまったホールは行き先がないため、どんどんた まり、結果としてフローティング P 領域の電位が上がる。フローティング P 領域の電位上昇の dv/dt がゲート電 圧の dvg/dt より大きい場合、変位電流によってゲートが充電され、ゲート電極が持ち上がってしまう。つまり、 自己充電現象によって、ターンオン時はゲート電圧が上がってしまうため、外部抵抗などにより dVg/dt を調節し ても出力は変わらず、高い dIc/dt となってしまう。

対向の FWD の dVAK/dt は、IGBT の dIc/dt に大きく依存するため、IGBT の高い dIc/dt は、FWD の

dVAK/dt も上昇させる。この高い dVAK/dt は、大きな放射ノイズの原因となる。 最近は、IGBT が使われるパワードライブシステムや無停電電源装置などのパワーエレクトロニクス機器などか ら発生する電磁波が他の電子機器に影響する問題が発生している。これについて、世界的には国際電気標準 会議(IEC)の国際無線障害特別委員会(CISPR)による規格や日本では VCCI による規格がある。 [7][8]パワーエレクトロニクス機器は、これら規格への対応が必要不可欠となっている。[9] パワーエレクトロニクス製品にとって EMC 対策は無視できないため、その内部で使われる IGBT にとっても低ノ イズ化は必須である。

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- 34 - 3-2-2. ホールパス構造コンセプト 以上の背景より、Von-Eoff トレードオフの観点では非常に優れた特性を示すフローティング P IGBT につい て、その課題である EMI ノイズの発生源となる dIc/dt 制御性を改善する構造として、ホールパス構造を検討 した。この基本構造は、フローティング P IGBT のため、高い Von-Eoff トレードオフを実現できる。一方でフロー ティング領域に蓄積したホールによるゲートの自己充電現象によりゲート電位が上がってしまい、大きな dIc/dt が発生して EMI ノイズの原因となるので、ホールの蓄積をある程度で止めるためフローティング P 領域に過剰な ホールを抜き取るためのパスを形成する。 3-3. ホールパスの動作 図 3.2 に、ホールパスの拡大図を示す。ホールパスは、2 本のトレンチエミッタで狭いフローティング P 領域を挟 んだ構造である。高い IE 効果を得るためには、定常オン状態でのホールの蓄積が必要なため、メサ幅はできる だけ狭いほうが望ましい。 この構造は、ターンオン時、フローティング P 領域の電位が上がると、エミッタ電位につながれたトレンチ電極が 逆バイアスとなるため、図 3.2 に示すように、トレンチに沿って N-drift 層に P 反転層が形成される。この反転 層を通して、過剰なホールはエミッタに引き抜かれるので、フローティング P 層は一定の電位までしか上がらない。 よって、ゲートの自己充電が抑制されるため、dIc/dt もゲートで制御できるようになることが予想できる。 図 3.2 ホールパス構造拡大図

(35)

- 35 - 3-4. シミュレーション結果 3-4-1. ホールパス幅の Von への影響 Von を下げるためには、定常オン状態で、エミッタ付近にホールの障壁を形成し、ホール濃度の低下を抑える 構造が必要である。これに対して、ホールパス構造は、その名前の通り、ホールを積極的に通過させる領域であ り、スイッチングの際に動作すればよいため、なるべく狭く形成する必要がある。 図 3.3 は、Von のホールパス幅依存性を示す。図 3.3 中、「HP なし」はフローティング P IGBT(FP-IGBT), 「HP,FP なし」はフローティング P 領域もホールパス領域もないフルゲート IGBT(FG-IGBT)を示す。このシミュレ ーションでは、計算上でのデバイスピッチ、トレンチゲート電極は固定して、トレンチエミッタ電極の位置を変えるこ とでホールパス幅を変えている。ホールパス幅の定義は、トレンチエミッタに挟まれたメサ幅を示す。 シミュレーションの結果、前述の予想通り、ホールパス幅が狭いほど Von は下がっていることがわかる。 (1) ホールパス幅の定義 (2) シミュレーション結果 図 3.3 Von のホールパス幅依存性 図 3.4 は、IGBT の深さ方向(図 3.4(1)断面構造 A-B)に沿ったホール濃度の一次元分布を示す。深さの 浅いほうがエミッタ側、深いほうがコレクタ側を示す。フローティング P 領域がない構造(図中 wo FP)では、エミッ タ側で急激にホール濃度が下がっている。つまり、電流を流したくてもキャリアがない状態のため、Von が十分に 下がらない。

(36)

- 36 -

FP-IGBT(図中 wo HP)では、エミッタ側でホール濃度が上がっている。これは、フローティング P 領域が障壁と なってホールを引き抜くことができないため、エミッタ付近でホールが蓄積している。これにより、オン状態でキャリ アが十分にあるために、オン電圧が下がる。

ホールパス構造では、ホールパス幅 0.1um(図中 HP:0.1um)、0.6um(図中 HP:0.6um)のシミュレーシ ョン結果を示すが、比較的ホールパス幅の広い 0.6um でも、フローティング P 領域がない構造のようなエミッタ 付近での急激なホール濃度の低下は見られない。 (1) 断面構造 (2) 一次元ホール濃度分布 図 3.4 ホール濃度分布 3-4-2. デバイス構造比較 ホールパス構造は、電極使い方に特徴がある。基本構造を共通として、電極構成を変えたシミュレーションで、 ホールパス構造について考察する。 図 3.5 にシミュレーションした基本構造を示す。表 1 は図 3.5 におけるそれぞれの構造の電極構成を示す。

(a) ホールパス IGBT (HP-IGBT) : トレンチ電極 G1 はゲート電極に、トレンチ電極 G2 はエミッタ電極に 接続する。メサ領域 E1 と E3 はエミッタ電極に接続し、メサ領域 E3 がホールパスとして動作する。E2 は どこにも接続せずフローティングとする。

(37)

- 37 - べてエミッタ電極に接続する。 (c) フローティング P IGBT (FP-IGBT) : トレンチ電極 G1 はゲート電極に、トレンチ電極 G2 はエミッタ電 極に接続する。メサ領域 E1 のみエミッタ電極に接続し、E2 と E3 は電極へ接続せずフローティングとする。 図 3.5 基本構造 表 1 各構造における電極構成

IGBT

HP

FG

FP

E

lect

rod

e

G1

gate

gate

gate

G2

emitter

gate

emitter

E1

emitter

emitter

emitter

E2

floating

emitter

floating

E3

emitter

emitter

floating

(38)

- 38 - 3-4-3. 静特性

図 3.6 に、各構造のオン状態での IV 波形を示す。FP-IGBT がもっとも低い Vce(sat)(=Von)を示す。 HP-IGBT は、FP-IGBT と同等の Vce(sat)を示し、Ic=20A で、FP-IGBT の Vce(sat)=1.5V に対し、 HP-IGBT の Vce(sat)=1.6V と、わずか 0.1V の違いである。 図 3.8 にデバイス深さ方向に沿ったホール濃度の一次元分布を示す。グラフの左側がエミッタ、右側がコレク タ側である。FG-IGBT は、コレクタ側からエミッタ側(図右→左)に向かってホール濃度が低下しているが、HP-IGBT と FP-は、コレクタ側からエミッタ側(図右→左)に向かってホール濃度が低下しているが、HP-IGBT は、エミッタ側でホール濃度がむしろ高くなっている。これは前述の通り、フローティング P 層が ホールの障壁となってホール濃度が蓄積されるためであり、これによって Vce(sat)が下がっている。 なお、図 3.4(2)と、デバイスピッチなどのシミュレーション条件が異なるため、シミュレーション結果も異なってい る。また、この計算結果のホールパス幅はデバイスピッチの 3%であり、これは製造プロセスの制約によるものであ る。 図 3.6 オン状態の IV 波形

(39)

- 39 -

図 3.7 デバイス深さ方向の一次元ホール濃度分布 (IC = 20A, VGE = 15V)

(40)

- 40 - 3-4-4. ターンオンシミュレーション

図 3.8 に、外付けのゲート抵抗(Rg)を変えた時のターンオンシミュレーションの結果を示す。(3)FP-IGBT で は Rg を変えても Vce、特に Ic はほとんど変わっていないことがわかる。これは、前述の通り、ゲートの自己充電 現象によるものである。一方で、(1)HP-IGBT と(2)FG-IGBT は、Rg によって 、Vce と Ic の傾き (dV/dt,dIc/dt)が大きく変わっており、十分なゲート制御性がある。つまり、dIc/dt の制御性も高いということ になる。

(1) HP-IGBT

(41)

- 41 - (3) FP-IGBT

図 3.8 外付け Rg を変えた時のターンオンシミュレーション結果 VCC = 600V, IC = 20A, Tj = RT

図 3.9 に、HP-IGBT と FP-IGBT のターンオンシミュレーションでの Ic と Vge の波形を示す。FP-IGBT で は、time=B~C の間に、急激に Vge が上がり、これにつれて Ic も急激に上がっている。dIc/dt も大きいため、 このシミュレーション結果では、定格 20A に対して、58V のサージ電流が発生している。一方で、HP-IGBT の Vge は急激な変化もなく、ほぼ一定な dv/dt でゲート電圧が上がっていることがわかる。また、ゲート電圧の dv/dt が小さいため、Ic の上がり方もゆるく、サージ電流も 40V 以下と小さい。

(42)

- 42 -

図 3.9 ターンオンシミュレーション結果

VCC = 600V, IC = 20A, Tj = RT, VGE = 0V/15V

図 3.9 time=A,B,C,D,E でのゲート付近の 2 次元ポテンシャル分布を図 3.10 に示す。FP-IGBT で は、time=B でフローティング P 領域が 10V 以上となり、time=c で 15V 以上となっていることがわかる。

(43)

- 43 - 図 3.10 ターンオンシミュレーションでのゲート付近の 2 次元ポテンシャル分布

time E

FP

HP

time A

time B

time C

time D

(44)

- 44 -

FP-IGBT では、このフローティング領域の高い電位により、変位電流が流れることでゲート電位も上がってしま うが、HP-IGBT 構造では、ホールパスの動作により、FP-IGBT の Vge が急激に上がる time=B~C の間で、 フローティング P 領域の電位は上がらず 8V 程度で保持されている。これは、ホールパスから過剰なホールが引き 抜かれていることを示す。

このホールパスの動作により、ゲート電位が急激に上がることがなく、外部からのゲート電圧がゲート電位を制 御することができている。

3-4-5. ターンオフシミュレーション

図 3.11 は、Vce(sat)と規格化した Eoff トレードオフの各構造比較を示す。HP-IGBT と FP-IGBT は前 述のとおり IE 効果により Von が下がっているため、FG-IGBT と比較して Vce(sat)-Eoff のトレードオフは良 好である。また、HP-IGBT と FP-IGBT の Vce(sat)-Eoff のトレードオフはほぼ同等である。図 3.6 から、 Vce(sat)は、FP-IGBT の方がよいことがわかるが、図 3.12 にターンオフ IV 波形を示すように、HP-IGBT は スイッチング時間が短いために Eoff が下がっているためである。

(45)

- 45 - 図 3.12 ターンオフシミュレーション結果 3-4-6. 容量シミュレーション 図 3.13 にシミュレーション構造の寄生容量を示す。 図 3.13 寄生容量 そのうち、ミラー容量(Cres)は、各構造で以下のように表すことができる。 Cres = CGC

(46)

- 46 - HP : Co1 (1) FG : Co1+Co2 (2) FP : Co1 (3)

式(1)~(3)より、HP-IGBT と FP-IGBT はほぼ同等のミラー容量に対し、FG-IGBT は大きいことがわかる。 図 3.14 にシミュレーションによる規格化した Cres を示す。式(1)~(3)に示す結果と同様に、HP-IGBT と FP-IGBT はほぼ同等のミラー容量を示し、FG-IGBT は大きい。

図 3.14 容量シミュレーション

3-5. 実験結果

ホールパス構造の IGBT を製作し、Micro-P IGBT との特性比較を行った。

3-5-1. ターンオン特性

図 3.15 に外付け Rg を変えた時の HP-IGBT のターンオンスイッチング波形の実測値を示す。外付け Rg によって、Ic の傾き(dIc/dt)が変わっており、dIc/dt の制御性が十分にあることがわかる。

また、図 3.16 は、Eon と対向の FWD の逆回復 dv/dt のトレードオフを示す。HP-IGBT と Micro-P IGBT で同等のトレードオフを示していることから、ホールパス構造でも、ターンオン時のホールの引き抜きが十分 に行われていることがわかる。

(47)

- 47 -

図 3.15 ターンオン波形(実測値)

図 3.16 Eon-対向 FWD 逆回復 dv/dt トレードオフ

3-5-2. ターンオフ特性

図 3.17 にターンオフスイッチング波形の実測値を示す。HP-IGBT は Micro-P IGBT と比較して、スイッチ ング時間が短いことがわかる。これは、ホールパス構造によってミラー容量が低減できているからである。

(48)

- 48 - Eoff(10mJ/pulse)で、Von を 0.4V 低減できた。 図 3.17 ターンオフ波形(実測値) 図 3.18 Eoff – Von トレードオフ(実測値) 3-6. ホールパス構造まとめ フローティング P 構造をもとに、その課題である dIc/dt 制御性を改善できるホールパス構造を検討した。実デ バイスを試作して測定した結果、フローティング P 構造の改善した Micro-P IGBT と比較して、ターンオン特性 はほぼ同等で、ターンオフ特性は、同じ Eoff で Von を 0.4V 低減することができた。

(49)

- 49 -

第 4 章 結論

(50)

- 50 - 地球温暖化の本質的解決のために、2015 年 12 月に開催された第 21 回気候変動枠組条約締結国会議 (COP21)でパリ協定が採択された[16]。これは、史上初めてすべての国が参加する枠組みであり、世界各国の地球温 暖化に対する関心が高いことが示された。(ただし、2017 年 6 月アメリカ合衆国は離脱を表明している。) パリ協定では、途上国を含むすべての参加国に、2020 年以降の「温室効果ガス削減・抑制目標」を定めるよう求め ている。日本では、中期目標として、2030 年度の温室効果ガス排出量を 2013 年度比 26%削減としている。また、 2018 年 7 月には第 5 次エネルギー基本計画が閣議決定されている。[17] これらを実現に、日本政府は、203 0年のエネルギーミックスにおいて、徹底した省エネルギーと再生可能エネルギー比率を 22~24%にするなどの電源構 成の見通しが示されている。さらには、分散型エネルギーシステムの開発も加速している。 これらの今後の発電技術、蓄電技術、省電力技術などのエネルギー技術をけん引していくのはパワーエレクトロニクス であり、そのキーデバイスは、パワー半導体に依るところが大きい。特に、次世代パワー半導体として期待される SiC は従 来の Si パワー半導体と置き換えることで、性能が大きく向上する。 一方で、素子の長期信頼性、破壊耐量、使いやすさなどで、従来からの Si パワー半導体も当面は市場の大半を占 め続けることになる。特に、再生可能エネルギーや電動自動車(モーター駆動用インバータ)では、その電圧、電流から IGBT が一般的に使われる。これまで IGBT は低動作周波数で使われることが多かったが、最近は、インバータやモータ ーの高効率化やパワーエレクトロニクス機器の小型化など高周波で使われる用途も多くなり、IGBT デバイス自体の高速 化要求も高まっている。そこで、IGBT の高速化に適した新構造についてシミュレーションののち、デバイスを試作し実測結 果を示した。 従来構造である Micro-P 構造改良したトレンチシールドゲート IGBT は、ミラー容量をゲート-エミッタ容量に置き換え ることでその特性を改善できる。Micro-P IGBT と比較すると、Von は 0.15V 低減でき、また dv/dt が大きくなるため Eoff を 11%できるため結果として、Von-Eoff トレードオフを 25%改善できた。

一方、フローティング P 構造を改良したホールパス IGBT は、ターンオフ時過剰なホールを引き抜く領域を形成すること で、フローティング P 構造の欠点である dIc/dt 制御性の悪化を解決した。Micro-P IGBT と比較して、Von を 0.4V 低減できた。

トレンチシールドゲート IGBT は 600V クラス、ホールパス IGBT は 1200V クラスで設計、試作を行ったため、デバイ ス特性における両者の定量的な比較はできないが、製造プロセスの安定性や設計の自由度の観点からホールパス IGBT の方が優れていると考えられる。今後は、両者の定量的な比較を進めていきたい。

SiC や GaN が主流になるまでには、まだ課題があり、いくつかのブレークスルーが必要である。それまでの間、さらに Si-IGBT を少しでも特性改善して、地球環境の保全に役立ちたい。

(51)

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参考資料

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[1] 大月 正人, “薄型 IGBT の破壊耐量に関する研究” (2005), p14

[2] T. Kimoto et al. : "Progress and Future Challenges of SiC Power Devices and Process Technology", IEEE Electron Devices Meeting (IEDM) Tech. Dig., pp227-230 (2017)

[3] Y. Kobayashi et al. : "Body Pin diode inactivation with low on-resistance achieved by a 1.2kV-class 4H-SiC SWITCH-MOS", IEEE Electron Devices Meeting (IEDM) Tech. Dig., pp211-214 (2017)

[4] N. Watanabe et al. : "Impact of Cell Layout and Device Structure on On-voltage Reduction of 6.5-kV n-channel SiC IGBTs", International Conference on Silicon Carbide and Related Materials (ICSCRM) 2017, TH. D1.8 (2017)

[5] H. Hatta et al. : "Suppression of Short-Circuit Current with Embedded Source Resistance in SiC-MOSFET", International Conference on Silicon Carbide and Related Materials (ICSCRM) 2017, TH.D1.4 (2017)

[6] Chun-Lin Tsai et al. : “Smart GaN Platform: Performance & Challenges”, IEEE Electron Devices Meeting (IEDM) Tech. Dig., pp737-740 (2017)

[7] Y. Zhang et al. : "1200V GaN Vertical Fin Power Field-Effect Transistors", IEEE Electron Devices Meeting (IEDM) Tech. Dig., pp215-218 (2017)

[8] G. Miller and J. Sack : "A new concept for a non punch through IGBT with MOSFET like switching characteristics", Published in: Power Electronics Specialists Conference, 1989. PESC '89 Record., 20th Annual IEEE, pp21-25 (1989)

[9] T. Laska et al. : “The Field Stop IGBT (FS IGBT). A new power device concept with a great improvement potential”, Proc. 12th International Symposium on Power Semiconductor Devices and ICs (ISPSD), pp.355-358, (2000)

[10] H. Takahashi et al. : “Carrier stored trench-gate bipolar transistor (CSTBT) -a novel power device for high voltage application”, Proc. 8th International Symposium on Power Semiconductor Devices and ICs (ISPSD), pp349-352, (1996)

[11] M. Kitagawa, I. Omura, S. Hasegawa, T. Inoue, and A. Nakagawa : “A 4500V injection enhanced insulated gate bipolar transistor (IEGT) operating in a mode similar to a thyristor,” IEEE Electron Devices Meeting (IEDM) Tech. Dig., pp. 679–682 (1993)

[12] Y. Onozawa et al. : “Development of the next generation 1200V trench-gate FS-IGBT featuring lower EMI noise and lower switching loss”, Proc. 19st International Symposium on Power Semiconductor Devices and ICs (ISPSD), pp.13-16, (2007)

[13] 総務省 電波利用ホームページ http://www.tele.soumu.go.jp/index.htm [14] 一般財団法人 VCCI 協会 http://www.vcci.jp/index.html

(53)

- 53 -

semiconductor/model/igbt/application/box/doc/pdf/RH984b/RH984b_10.pdf [16] パリ協定 https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000197312.pdf

[17] 第 5 次エネルギー基本計画 http://www.enecho.meti.go.jp/category/others/basic_plan/pdf/ 180703.pdf

(54)

- 54 -

発表論文

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- 55 -

M. Sawada et al. : “Trench Shielded Gate Concept for Improved Switching Performance with the Low Miller Capacitance” Proc. 28th International Symposium on Power Semiconductor Devices and ICs (ISPSD), pp.65-68, (2016)

M. Sawada et al. : “Hole Path Concept for Low Switching Loss and Low EMI Noise with High IE-effect”, Proc. 29th International Symposium on Power Semiconductor Devices and ICs (ISPSD), pp.65-68, (2017)

(56)

- 56 -

謝辞

(57)

- 57 - 本研究の実施にあたり、たくさんの方々のご協力やご支援をいただきましたことをこの場で深く感謝いたします。 本研究のご指導と、本論文をまとめるにあたり、ご指導とご助言をいただいた山梨大学大学院総合研究部教授 鍋谷 暢一博士に心より感謝いたします。山梨大学博士後期課程において、温かくご指導いただきました山梨大学大学院総 合研究部教授 松本 俊博士、山梨大学大学院総合研究部教授 矢野 浩司博士、山梨大学大学院総合研究 部准教授 村中 司博士、山梨大学大学院総合研究部准教授 小野島 紀夫博士、山梨大学大学院総合研究 部准教授 佐藤 隆英博士、山梨大学大学院総合研究部 中川 清和博士に深く感謝いたします。事務手続きな どで温かくご支援いただきました山梨大学工学域事務部 工学域支援課 教務グループ 大久保 あずみ様、塩田 や よい様に深く感謝いたします。 本研究にあたり、多大なご支援をいただいた富士電機株式会社電装モジュール事業部長 宮坂 忠志様、富士電 機株式会社開発統括部長 藤平 龍彦博士、富士電機株式会社電装モジュール部長 大月 正人博士、富士電 機株式会社電装モジュール部担当部長 小林 英登様、富士電機株式会社デバイス開発部長 藤島 直人博士、 富士電機株式会社電装モジュール部電装デバイス課長 百田 聖自様、富士電機株式会社デバイス開発部 IGBT 課長 小野沢 勇一博士に深く感謝いたします。本研究に当たり、ご助言をいただきました富士電機株式会社電装モ ジュール部電装デバイス課 大井 幸多博士、富士電機株式会社デバイス開発部 IGBT 課 伊倉 巧裕様、富士電 機株式会社デバイス開発部 IGBT 課 桜井 洋輔様に深く感謝いたします。本研究に当たりご協力いただきました富 士電機株式会社電装モジュール部電装デバイス課の皆様、富士電機株式会社デバイス開発部 IGBT 課の皆様に深 く感謝いたします。

図 1-4    IGBT 構造比較
図 2-2 に、Micro-P  IGBT のミラー容量特性を示す。トレンチゲートに挟まれた n-drift 領域に電圧が印加さ れると空乏層が広がるため、ミラー容量は数 V の Vce で大幅に減少する。しかし、Vce が 3V 以下と低い利用域 では n-drift 層が十分に空乏化しないため、ミラー容量が非常に大きくなり、スイッチング特性が悪化するという問題 がある。
図 2-8  トレンチシールドゲート構造の有無でのターンオフ波形比較
図 2.10 Von – Eoff  トレードオフ
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参照

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