平成9年4月1日
脳転移症状で発症し,肺癌(腺癌)治療中肺塞栓症を合併した
一例
市立甲府病院 内科 川口哲男
はじめに;肺塞栓症は剖検例では約25%に認められると云われているが,日常臨床上 確定診断される例は肺塞栓症の10∼30%とされている。今回私達は脳転移により,左不全 麻痺症状をもつ肺癌治療中に突然著しい呼吸困難,ショック症状等を呈し,救急処置,血 栓溶解療法にて,救命,血栓溶解が確認された症例を経験したので報告する。症例;52才 男性
主訴;左上下肢不全麻痺。
既往歴;10年来胃潰瘍,2∼3年前単純性甲状腺炎。 現病歴;平成8年5月中旬より,左下肢シビレ感出現し,6月上旬より牽引療法をおこなっ たところ,シビレ感増強し,左手足の脱力感も出現するようになり,次第にふらつき,破 行するようになったため,6月27日当院神経内科を受診した。 頭部er, MRIにて,右脳橋部,右放線冠部その他合計ll個の多発性の脳腫瘍と浮腫を認め 転移性脳腫瘍と診断された(図1,2)。直ちにデカドロン12mg/日→4血g,グリセオール 8COmll日→600m1の治療を受けた。一方,原発巣確認のため,7月2日左頚部リンパ節の腫 大にて,リンパ節生検を受け,組織学的に中分化型腺癌と診断された。 さらに,胸部レ線上,左肺門部の腫大を認め(図3),胸部CTにて,左下気管支幹から胸 部大動脈にかけて,径2cmの不正形の腫瘤影を認めた。 7月4日気管支鏡を行った。気管分岐部をはじめ,右,左各区域気管支入口部までは特記す べき異常なく,左B6入口部から観ると, B6aが狭窄し, B6aIにブラッシングすると,抵 抗があり,狭窄していた。B6a五,B6bI,葺には抵抗なくブラッシュは挿入されたが,いず れも易出血性であった。出血のため細胞診のみであったが,細胞診ではCLV(Adeno・ca) であった。T2NlM1にて病期Nと診断した。 7月12日から13日にかけて,脳腫瘍治療目的にて,藤枝平成記念病院に転院し,ガンマー一 ナイフによる照射治療を受け,14日ふたたび当院神経内科に再入院し,デカドロン12mg →4mg,グリセオール600m1→400miの投与を受けてきたが,症状はやや増悪傾向である。 肺癌治療目的にて7月24日内科に転科となった。入院時現症および経過;
身長180cm,体重n.Sng,体温35.9℃,脈拍66整,酸素飽和度97%,左頭部,顔面,上肢 ,上半身湿潤,冷汗あり。瞼結膜貧血なく,球結膜黄疸なし。左頚部リンパ節小指頭大触 知。胸部理学的所見に異常なく,腹部に肝2横指触知,軟。神経学的所見では左二頭筋, 三頭筋反射充進病的反射あり,左下肢にて腱反射充進,バビンスキー等病的反射陰性。 握力右35kg,左15kg,左下肢筋力低下。 グリセオール600m 1,デカドロン4mgノ日と共に,7月29日より5FU t 100mg 5日間,ロイコポ リン9mg6時間毎5日間,7日目CDDP140mg投与。口内炎をおこしたが1週間で治癒。 9月2日より第2回目の治療として,CDDP 180mg,翌日MTX37血g, CTX l 100mg, ADM 56 mg投与した。嘔気嘔吐等の副作用もなく,一般状態にまったく異常はなかった。 9月8日午前中はまったく異常なく,また昼食も全部摂取した。午後5時30分突然に「苦 しい,苦しい」ともがき苦しみ出し,冷汗,体動激しく,尿便失禁し,全身チアノー・・iゼ ー47一山梨肺癌研究会会誌 10巻1号 1997 がみられるも,体動激しいため,血圧測定も酸素飽和度測定も出来ず,025Lカヌラ,50 %インスピロン10L併用にて,酸素飽和度80%,心拍140∼160代,最高血圧70・−130mmHg と変動激しく,頭痛心窩部痛を訴え,「胃の辺をぶったぎってくれ!」と訴える。 血管確保し,ソルメド500㎎,グリセオール200mi,塩酸モルヒネ10mg等投与し,午後6時 30分ころよりチアノーゼやや改善し,酸素飽和度90∼94%に改善した。 心電図(図4)にて右軸偏移,V1∼3のT派陰転,心エコーにて右房,右室の拡張,肺動脈 圧40mmHg,三尖弁閉鎖不全2/4, u)H 15gg ruと高値のことから,肺塞栓症と診断した。 Swan−ganz挿入し, RA(13)RV 29/15(22)PA 35/15(24)PCWP(6)CO 3・OL/min HR・125/血in であった。TPA 24万単位,ヘパリン15000単位/日点滴静注し,8月9日午後僻にはルーム エアにて酸素飽和度96%に改善した。その後ヘパリン15000単位ノ日をつづけた。 9月9日胸部cr(図5)にて,肺動脈主幹部から,左右肺動脈にかけて,直径1,2c血の根棒 状の陰影欠損像を認めた。 9月10日肺血流シンチ(図6)を行い,右下葉内側部,中葉に,左下葉全体に血流欠損像を みとめた。 9月11日肺動脈造影(図7)を行った。肺動脈主幹部に左右に直径7㎜の紐状の塞栓子を認 め,その塞栓子は連続性に右肺動脈上下分岐部に13∼15㎜大に,左下葉動脈内にまで連 続して認められた。 その後,ヘパリン1“OO単位ノ日静注は9月27日まで継続されたが,胸部CTにて塞栓の消失 を確認し,以後ワーファリン内服5mg∼1mgまでトロンポテスト20%代を目安にコントロ ー一・“汲ウれた。 10月1日肺血流シンチ(図8)にて両側上肺野後側で一部欠損を認めるも,全体に欠損部は 改善されている。 その後,化学療法は4クールまで治療されたが,原発巣は不変で,脳転移部は次第に増大 傾向を示し,神経学的にも運動麻痩,知覚障害は緩徐ながら進行している。
考察:
肺塞栓症は塞栓子が大きければ,突発性呼吸困難チアノーゼ,頻脈ショック状態を呈 し,致死的急性例がes%位あるとされ,発症1時間以内にその10%は死亡するとされてい る。亜急性のもの,微少塞栓,血栓を繰り返し,慢性の肺高血圧症を呈すものもある。 肺血栓塞栓症の原因は90∼95%が下肢深部静脈血栓とされている。また,臨床的に頻度の 多い背景因子として,心疾患43%,臥床20%,術後17%,静脈炎16%,悪性腫瘍14%とさ れ,老人の悪性腫瘍の長期臥床例,分娩後,手術後,心カテ後などが特に頻度が高いとさ れている。 本症例は悪性腫瘍の脳転移のため,不全麻痺があり,臥床している事が多く,肥満型で, 高脂血症など肺塞栓症発症の危険因子を備えていた。 症状は典型的な致死的急性肺塞栓症で,突発性呼吸困難(76%),胸痛(48%),頻脈 (43%),ショック(33%),発熱(22%)などあり,本例の印象的な症状は七転八倒し ながら,心窩部を痛がり, 「切り裂いて欲しい」と訴えたことである。LDHの高値の分画 はLDH5が32.1%を占め, GOT,GPTの高値と併せ,急性肝響血,右室負荷症状がそう言わ ぜたのだと推定する。また,モルヒネを打って,状態が改善されたのも,肺動脈造影像か ら察するに,肺動脈基始部に塞栓した塞栓子が左右にずれて移動したため,肺血流が一部 疎通し,改善したためと推定された。まとめ:
肺癌に肺塞栓症の合併は比較的稀とおもわれるが,脳転移のため不全麻痺を伴っていたた め,臥床傾向にあり,誘発されたと疑われる一例を報告した。 一48一平成9年4月1日 蒙 s 溺
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(図1)右脳橋部転移性腫瘍 1 (図2)右放線冠部、前頭葉、左後頭葉腫瘍 (図3)96年6月27日左肺門部異常 ll]ewn“・・与弘パペノ 111「w_。、rn.」k.A.”’∼1・n一・,卓幽,
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