<判例研究>外国に設立した完全子会社に対する建設
機械の売却と事業資金貸付けについて代表取締役の
任務懈怠責任が否定された事例(ジー・トレーディ
ング社事件)東京地判平成二六年四月一〇日 金判一
四四三号二二頁
著者
竹田 奈穂
雑誌名
法と政治
巻
68
号
3
ページ
1(868)-14(855)
発行年
2017-11-30
URL
http://hdl.handle.net/10236/00026242
第 一 事 実 と 判 旨 一 事 実 原 告 X は 、 訴 外 A を 親 会 社 と し て 平 成 一 二 年 四 月 二 一 日 に 設 立 さ れ た 、 車 両 や 機 械 等 お よ び こ れ ら の 部 品 の 売 買 、 古 物 売 買 業 、 オ ー ク シ ョ ン の 運 営 等 を 目 的 と す る 株 式 会 社 で あ り 、 平 成 一 六 年 一 二 月 ジ ャ ス ダ ッ ク に 株 式 を 上 場 、 平 成 二 一 年 一 一 月 二 六 日 上 場 廃 止 と な っ て い る 。 被 告 Y は 、 X の 設 立 時 か ら 平 成 二 一 年 五 月 二 八 日 ま で の 間 、 X の 代 表 取 締 役 社 長 で あ っ た 者 で あ る 。 X は 、 も と も と ロ シ ア に お い て ト ラ ッ ク 等 中 古 車 を 現 地 の 中 古 車 販 売 業 者 に 対 し て 販 売 し て お り 、 中 古 車 販 売 を 目 的 と し て 現 地 中 古 車 販 売 会 社 と の 合 弁 会 社 を ウ ラ ジ オ ス ト ク に 設 立 し て 活 動 す る な ど し て い た と こ ろ 、 平 成 一 八 年 六 月 一 六 日 の 取 締 役 会 に お い て 、 ロ シ ア 国 内 に お け る 建 設 機 械 の 販 売 事 業 及 び レ ン タ ル 事 業 を 目 的 と す る 訴 外 Z を X の 完 全 子 会 社 と し て 設 立 す る 旨 を 決 定 し 、 同 年 七 月 一 〇 日 、 モ ス ク ワ に お い て Z が 設 立 さ れ た 。 Z は 、 ロ シ ア に お い て 日 本 の 建 設 機 械 メ ー カ ー で あ る 訴 外 B が 製 作 す る 建 設 機 械 ( 以 下 、 ﹁ 本 件 建 機 ﹂ と い う) を 販 売 し 、 X が Z ら 注 文 を 受 け 、 こ れ を B へ 発 注 し て 購 入 し た 商 品 を Z 社 へ 輸 出 す る こ と と し た 。 も っ と も 、 Z は 、 設 立 当 初 に X が 出 資 し た 資 本 金 一 万 ル ー ブ ル ( 約 四 万 四 六 〇 〇 円) の ほ か に 資 産 は 無 く 、 運 転 資 金 や 建 機 の 購 入 資 金 等 の 調 達 は 、 X か ら の 借 り 入 れ に よ る こ と を 予 定 し て い た 。 ま た 、 X は 、 本 件 建 機 を 日 本 の 港 で 船 積 み し た 時 点 で Z に 対 す る 売 上 げ を 計 上 す る 一 方 、 こ の 売 掛 金 は 、 Z が 本 件 建 機 を 売 却 し 回 収 し た 代 金 を も っ 法と政治 68 巻 3 号 ( 2017 年 11 月) 外 国 に 設 立 し た 完 全 子 会 社 に 対 す る 建 設 機 械 の 売 却 と 事 業 資 金 貸 付 け に つ い て ⋮ ⋮ 868 一 ︻ 判 例 研 究
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東 京 地 判 平 成 二 六 年 四 月 一 〇 日 金 判 一 四 四 三 号 二 二 頁()て 支 払 う こ と が 予 定 さ れ て い た た め 、 本 件 建 機 の 売 却 に か か る 売 掛 金 は 、 X の Z に 対 す る 債 権 と し て 一 定 期 間 存 続 す る こ と が 予 定 さ れ て い た 。 X は 、 Z の 設 立 当 初 に お け る 販 売 計 画 を 、 平 成 一 八 年 は 〇 台 、 平 成 一 九 年 に 二 〇 台 、 平 成 二 〇 年 に 五 〇 台 と 定 め 、 こ れ に 基 づ い て Z は 、 平 成 一 八 年 一 二 月 か ら 本 件 建 機 の レ ン タ ル 事 業 を 開 始 し 、 平 成 一 九 年 三 月 か ら 本 格 的 に 販 売 事 業 を 開 始 し た 。 平 成 一 九 年 六 月 に ロ シ ア で 開 催 さ れ た 建 機 展 に Z が 出 展 し た と こ ろ 、 大 き な 反 響 が あ り 、 一 定 数 の 本 件 建 機 の 販 売 に 結 び 付 い た こ と 、 ま た X も 、 平 成 一 九 年 八 月 に B 等 の 建 設 機 械 を 日 本 国 外 に 販 売 す る 市 場 開 拓 経 験 を 有 す る 者 を 登 用 し て Z に 関 す る 業 務 に あ て た こ と な ど か ら 、 X は 、 平 成 一 九 年 秋 ご ろ に 当 初 の 販 売 計 画 を 変 更 し 、 平 成 二 〇 年 の 本 件 建 機 の 年 間 販 売 台 数 を 三 二 五 台 と す る 販 売 計 画 ( 以 下 、 ﹁ 平 成 二 〇 年 販 売 計 画 ﹂ と い う) を 策 定 し た 。 そ の 結 果 、 X の Z に 対 す る 売 掛 金 累 積 残 高 は 、 平 成 一 九 年 二 月 末 日 時 点 で 五 二 八 一 万 七 八 七 九 円 、 同 年 一 〇 月 末 日 時 点 で 一 億 五 二 五 一 万 二 五 四 七 円 で あ っ た が 、 平 成 二 〇 年 二 月 末 日 時 点 で 一 〇 億 五 〇 六 六 万 一 四 三 七 円 へ と 急 増 し 、 平 成 二 一 年 二 月 末 日 時 点 で は 二 二 億 三 〇 二 六 万 三 六 三 三 円 と な っ た 。 ま た 、 X の Z に 対 す る 貸 付 金 残 高 も 、 平 成 二 〇 年 二 月 末 日 時 点 で 一 億 三 三 〇 九 万 八 〇 〇 〇 円 、 同 年 六 月 末 日 時 点 は 、 三 億 六 七 七 七 万 六 〇 〇 〇 円 と な っ た 。 平 成 一 九 年 一 一 月 以 降 よ り 続 い て い た ロ シ ア 物 流 の 混 乱 に よ る Z の 在 庫 数 の 増 加 、 平 成 二 〇 年 七 月 以 降 の 受 注 数 の 減 少 、 同 年 九 月 に 発 生 し た リ ー マ ン シ ョ ッ ク 後 の ロ シ ア 建 設 業 界 の 景 気 悪 化 等 に よ り 、 平 成 二 〇 年 一 二 月 末 日 の 時 点 で 、 Z は 、 九 億 六 二 六 三 万 四 二 七 〇 円 の 債 務 超 過 と な っ た 。 ま た X は 、 平 成 二 一 年 二 月 末 日 の 単 体 決 算 に お い て 、 十 九 億 二 六 九 九 万 一 四 九 一 円 の 債 務 超 過 と な っ た 。 そ し て 同 年 三 月 一 九 日 、 X は Z に 対 し 約 二 〇 億 円 相 当 の 増 資 を 行 い 、 Z は こ れ に よ り 調 達 し た 資 金 を X に 対 す る 売 掛 金 債 権 の 弁 済 に 充 て た 。 同 年 一 二 月 一 日 、 A は 株 式 交 換 に よ り X を 完 全 子 会 社 と し 、 そ れ に 伴 っ て X は 、 同 年 一 一 月 二 六 日 上 場 廃 止 と な っ た 。 以 上 の 事 実 関 係 の も と に 、 平 成 二 二 年 八 月 一 六 日 、 X が Y に 対 し 、 X の Z に 対 す る 売 却 行 為 お よ び 貸 付 行 為 が Y の 善 管 注 意 義 務 違 反 お よ び 取 締 役 会 決 議 を 欠 く 重 要 な 財 産 処 分 で あ る こ と を 理 由 と し て 、 会 社 法 四 二 三 条 一 項 に 基 づ き 損 害 賠 償 請 求 を 行 っ た の が 本 件 で あ る 。 法と政治 68 巻 3 号 ( 2017 年 11 月) 判 例 研 究 867 二
二 争 点 ( 一) 平 成 二 〇 年 販 売 計 画 に 含 ま れ る 平 成 二 〇 年 三 月 八 日 か ら 一 二 月 一 八 日 ま で の 本 件 建 機 の 売 却 行 為 ( 合 計 一 四 億 一 二 〇 三 万 五 五 三 七 円 、 以 下 ﹁ 第 一 売 却 行 為 ﹂ と い う) 、 お よ び 平 成 二 〇 年 三 月 一 一 日 か ら 六 月 一 六 日 ま で の 貸 付 行 為 ( 合 計 二 億 八 一 九 〇 万 円 、 以 下 ﹁ 第 一 貸 付 行 為 ﹂ と い う) に つ い て の 、 Y の 善 管 注 意 義 務 違 反 の 有 無 ( 二) 平 成 二 〇 年 二 月 一 二 日 か ら 一 二 月 一 八 日 ま で の 売 却 行 為 の う ち 代 金 一 億 円 以 上 で あ る 売 却 行 為 ( 合 計 八 億 二 七 八 六 万 七 三 二 四 円 、 以 下 ﹁ 第 二 売 却 行 為 ﹂ と い う) 、 お よ び 平 成 二 〇 年 二 月 二 八 日 か ら 六 月 一 六 日 ま で の 貸 付 行 為 ( 合 計 三 億 三 一 九 〇 万 円 、 以 下 ﹁ 第 二 貸 付 行 為 ﹂ と い う) に つ い て の 、 会 社 法 三 六 二 条 四 項 一 号 に 基 づ く 取 締 役 会 決 議 の ( ) 有 無 三 判 旨 請 求 棄 却 争 点 ( 一) に つ い て ﹁ 外 国 に 設 立 し た 完 全 子 会 社 に 対 し 、 果 た し て 又 ど の 程 度 の 信 用 を 供 与 し て 事 業 展 開 を 図 る か 等 は 、 当 該 ビ ジ ネ ス モ デ ル の 実 行 に 伴 う リ ス ク を ど の よ う に 評 価 す る か を 含 め 、 将 来 予 測 に 係 る 経 営 上 の 専 門 的 判 断 に 委 ね ら れ て い る と 解 さ れ る 。 こ の よ う な 場 合 、 取 締 役 は 、 当 該 事 業 の 収 益 の 見 通 し 、 売 掛 金 や 貸 付 金 が 累 積 す る こ と や 在 庫 が 積 み 上 が る こ と が 経 営 に 与 え る 影 響 、 外 国 と 貿 易 取 引 を す る リ ス ク 、 当 該 外 国 の 経 済 状 況 や 建 設 機 械 の 需 要 に 関 す る 見 通 し 、 為 替 リ ス ク 等 の 諸 事 情 を 総 合 的 に 考 慮 し て 、 外 国 に 設 立 し た 完 全 子 会 社 に 対 し 、 建 設 機 械 の 売 却 や 金 員 の 貸 付 け を す る か 否 か 、 ま た 、 こ れ ら の 行 為 を 続 行 す る か 否 か を 判 断 す る こ と が で き 、 そ の 判 断 の 過 程 及 び 内 容 が 著 し く 不 合 理 な も の で あ っ た 場 合 に 、 善 管 注 意 義 務 違 反 の 責 任 を 負 う と 解 す る の が 相 当 で あ る 。 ﹂ ・ 事 業 開 始 時 か ら 平 成 二 〇 年 販 売 計 画 の 策 定 ・ 実 施 時 ま で ( 平 成 二 〇 年 二 月 ま で) ﹁ Y は 、 一 定 の 調 査 及 び 情 報 収 集 を 行 い 、 こ れ を 分 析 ・ 検 討 し た 上 で 、 保 守 的 な 目 標 を 設 定 し 、 原 告 の 取 締 役 会 に お け る 承 認 決 議 を 経 て 、 本 件 事 業 を 開 始 す る と の 判 断 を し た の で あ り 、 当 該 判 断 が 本 件 事 業 の 開 始 段 階 で さ れ た こ と を も 考 慮 す る と 、 こ の よ う な Y の 判 断 の 過 程 及 び 内 容 が 著 し く 不 合 理 な も の で あ っ た と い う こ と は で き な い 。 ﹂ ﹁ Y は 、 Z 設 立 後 も 、 建 設 機 械 市 場 の 動 向 や 、 本 件 建 機 法と政治 68 巻 3 号 ( 2017 年 11 月) 外 国 に 設 立 し た 完 全 子 会 社 に 対 す る 建 設 機 械 の 売 却 と 事 業 資 金 貸 付 け に つ い て ⋮ ⋮ 866 三
の 販 売 状 況 、 売 掛 金 の 回 収 状 況 等 に つ き 引 き 続 き 情 報 収 集 に 努 め 、 ロ シ ア に お け る 建 設 機 械 の 需 要 が 高 い 水 準 に あ る と 認 識 す る 一 方 、 Z の 販 売 実 績 が 当 初 販 売 計 画 を 上 回 り 、 建 機 展 で の 出 展 の 実 績 も あ っ た こ と な ど か ら 、 な お 、 当 初 販 売 計 画 及 び 平 成 二 〇 年 販 売 計 画 に 基 づ い て 、 本 件 建 機 の 販 売 事 業 を 続 け る と 判 断 し た と い う の で あ り 、 平 成 二 〇 年 二 月 ま で の 段 階 で 、 こ の よ う な Y の 判 断 の 過 程 及 び 内 容 が 著 し く 不 合 理 な も の で あ っ た と い う こ と も で き な い 。 ﹂ ・ 平 成 二 〇 年 三 月 か ら 同 年 六 月 ま で ﹁ Z は 、 も と も と X が 出 資 し た 一 万 ル ー ブ ル ( 約 四 万 四 六 〇 〇 円) の 資 本 金 以 外 に 資 産 を 有 し て い な か っ た た め 、 運 転 資 金 や 本 件 建 機 の 輸 入 資 金 等 の 調 達 を 原 告 や 金 融 機 関 か ら の 借 入 金 に 依 存 す る こ と が 予 定 さ れ て い た こ と 、 本 件 建 機 は 日 本 の 港 で 船 積 み し た 時 点 で Z に 対 す る 売 上 げ ( 売 掛 金) と し て 計 上 さ れ る が 、 当 該 売 掛 金 は 、 Z が 本 件 建 機 を 売 却 し 回 収 し た 代 金 を も っ て 支 払 う こ と が 予 定 さ れ て い た た め 、 本 件 事 業 の ビ ジ ネ ス モ デ ル 上 、 上 記 売 掛 金 は 一 定 期 間 存 続 す る こ と が 予 定 さ れ て い た こ と 、 ロ シ ア の 物 流 は 平 成 一 九 年 一 一 月 頃 以 降 混 乱 し 、 ⋮ 少 な く と も 平 成 二 〇 年 四 月 頃 ま で は 、 そ の 物 流 の 混 乱 が い つ ま で 続 く か 予 想 で き な い 状 況 が 継 続 し た こ と 、 ⋮ こ れ ら の 事 情 に 徴 す る と 、 平 成 二 〇 年 三 月 か ら 同 年 六 月 ま で の 時 点 に お い て 、 同 年 二 月 末 日 時 点 に お け る Z の 状 況 を 根 拠 と し て 、 直 ち に 本 件 建 機 の 売 却 及 び 金 員 の 貸 付 け を 止 め る 義 務 が あ っ た と い う こ と は で き な い 。 ﹂ ・ 平 成 二 〇 年 七 月 か ら 同 年 一 二 月 ま で ﹁ Y は 、 ⋮ 本 件 建 機 の 在 庫 数 が 多 い と 認 識 し 、 平 成 二 〇 年 七 月 以 降 、 Z へ の 本 件 建 機 の 売 却 台 数 を 減 少 さ せ た こ と が 認 め ら れ る 。 さ ら に 、 ⋮ 平 成 二 〇 年 七 月 か ら 同 年 一 二 月 ま で の 間 の 本 件 建 機 の 売 却 及 び そ の た め の 必 要 資 金 の 貸 付 け に つ い て は 、 Z が 顧 客 の 注 文 に 対 応 す る た め に 必 要 な も の で あ っ た と も 考 え ら れ 、 少 な く と も 本 件 建 機 の 売 却 及 び 金 員 の 貸 付 け を 中 止 し な か っ た Y の 判 断 の 過 程 及 び 内 容 に 、 合 理 性 が な か っ た と い う こ と は で き な い 。 ﹂ 争 点 ( 二) に つ い て ﹁ Y の 会 社 法 三 六 二 条 四 項 一 号 違 反 に よ る 任 務 懈 怠 責 任 に つ い て は 、 X が 、 請 求 原 因 事 実 と し て 、 取 締 役 会 の 決 議 が な か っ た こ と を 立 証 し な け れ ば な ら な い と 解 さ れ る と こ ろ 、 X は 、 本 件 取 締 役 会 の 議 事 録 を 証 拠 と し て 提 出 せ ず 、 法と政治 68 巻 3 号 ( 2017 年 11 月) 判 例 研 究 865 四
本 件 取 締 役 会 に お い て 平 成 二 〇 年 販 売 計 画 に 係 る 決 議 が さ れ な か っ た こ と を 示 す 客 観 的 な 証 拠 は な い 。 そ こ で 、 こ の 点 に つ い て 、 当 事 者 双 方 か ら 提 出 さ れ た 証 拠 の 証 明 力 な い し 信 用 性 を 検 討 す る こ と と す る 。 ﹂「 ⋮ 以 上 の 証 拠 の 検 討 に よ れ ば 、 X 提 出 の 証 拠 を も っ て 、 本 件 取 締 役 会 に お い て 平 成 二 〇 年 販 売 計 画 に 係 る 決 議 が な か っ た と 認 定 す る こ と に は 躊 躇 を 覚 え ざ る を 得 ず 、 他 に こ れ を 認 め る に 足 り る 証 拠 は な い 。 ﹂ ﹁ な お 、 Y は 、 本 件 取 締 役 会 の 議 事 録 に つ い て は 、 そ の 提 出 を 命 じ る 文 書 提 出 命 令 が 発 せ ら れ 、 同 命 令 は 確 定 し て い る に も か か わ ら ず 、 X は 、 本 件 取 締 役 会 の 議 事 録 を 所 持 し た ま ま そ の 提 出 を 拒 絶 し 、 こ れ を 隠 匿 し て い る か ら 、 民 訴 法 二 二 四 条 一 項 に 基 づ き 、 Y 主 張 の 事 実 が 真 実 と 認 め ら れ る べ き で あ る と 主 張 す る 。 し か し 、 本 件 に お い て は 、 同 項 の 適 用 を 待 つ ま で も な く 、 Y は 他 の 証 拠 に よ り 防 御 の 目 的 を 達 す る の で あ る か ら 、 Y 主 張 の 事 実 を 真 実 と 擬 制 す る こ と は し な い 。 ﹂ ﹁ Z が 運 転 資 金 や 本 件 建 機 の 輸 入 費 用 等 の 資 金 の 調 達 を X か ら の 借 入 金 に 依 存 す る こ と を 想 定 し て い た こ と は 、 前 記 認 定 の と お り で あ る か ら 、 X の 取 締 役 会 に お い て 平 成 二 〇 年 販 売 計 画 に 係 る 決 議 を し た こ と を も っ て 、 本 件 各 貸 付 行 為 に 係 る 取 締 役 会 の 決 議 が あ っ た と 認 め る こ と が で き る 。 そ し て 、 本 件 取 締 役 会 に お い て 、 平 成 二 〇 年 販 売 計 画 に 係 る 決 議 が さ れ な か っ た と 認 め る こ と が で き な い こ と は ⋮ 説 示 の と お り で あ る か ら 、 結 局 、 本 件 取 締 役 会 に お い て 本 件 各 貸 付 行 為 に 係 る 決 議 が さ れ な か っ た と 認 め る こ と も で き な い 。 ﹂ 第 二 研 究 本 判 決 の 結 論 に 賛 成 す る 。 一 本 判 決 の 位 置 づ け 本 件 は 、 子 会 社 形 態 に よ る 海 外 に お け る 新 規 事 業 へ の 進 出 が 失 敗 し た 場 合 の 、 親 会 社 代 表 取 締 役 の 当 該 親 会 社 に 対 す る 責 任 が 問 わ れ た 一 事 例 で あ り 、 代 表 取 締 役 の 行 っ た 子 会 社 に 対 す る 商 品 の 売 却 と 金 銭 の 貸 付 が 善 管 注 意 義 務 に 違 反 す る か 、 ま た 個 々 の 行 為 が 重 要 な 財 産 処 分 に あ た る と し て 取 締 役 会 決 議 を 欠 い た と い え る か が 問 題 と な っ た 。 前 者 に つ い て は 、 後 述 の と お り 、 い わ ゆ る 経 営 判 断 原 則 を 採 用 し て 取 締 役 の 責 任 を 否 定 し た 事 例 の 一 つ と 位 置 づ け ら れ る が 、 本 件 は 、 親 子 会 社 間 で 役 員 の 兼 任 が あ っ た と は 認 定 さ 法と政治 68 巻 3 号 ( 2017 年 11 月) 外 国 に 設 立 し た 完 全 子 会 社 に 対 す る 建 設 機 械 の 売 却 と 事 業 資 金 貸 付 け に つ い て ⋮ ⋮ 864 五
れ て い な い 点 、 完 全 親 子 会 社 間 の 取 引 で あ る 点 、 子 会 社 が 実 質 的 に 親 会 社 の 一 部 門 に な っ て い た 点 、 親 会 社 取 締 役 の 子 会 社 管 理 責 任 が 問 わ れ た の で は な く 単 に 子 会 社 と の 取 引 の 責 任 が 直 接 的 に 問 題 と さ れ た 点 に お い て 、 事 案 の 特 徴 を 有 し 、 参 考 に 値 す る 。 ま た 、 後 者 に つ い て は 、 子 会 社 の 事 業 計 画 に か か る 決 議 を も っ て 足 り 、 個 々 の 取 引 に つ き 取 締 役 会 決 議 は 不 要 と 判 断 さ れ た 点 で 、 そ の 判 断 枠 組 み に 特 徴 を 有 し 、 重 要 な 財 産 処 分 に か か る 取 締 役 会 決 議 が 必 要 な 時 期 お よ び 範 囲 に つ い て 、 実 務 上 の 取 り 扱 い に 示 唆 を 与 え る も の と 考 え る 。 さ ら に 、 取 締 役 会 決 議 を 欠 く 重 要 な 財 産 処 分 を 理 由 と す る 取 締 役 の 任 務 懈 怠 責 任 を 追 及 す る 際 、 そ の 請 求 原 因 事 実 と し て 原 告 側 で 取 締 役 会 決 議 不 存 在 を 主 張 立 証 し な け れ ば な ら な い と 判 示 し た 点 に お い て 、 注 目 に 値 す る 判 決 で あ る と い え る 。 二 善 管 注 意 義 務 違 反 に つ い て ( 一) 経 営 判 断 原 則 の 適 用 本 判 決 は 、 子 会 社 と の 取 引 に つ い て X 取 締 役 の 経 営 裁 量 を 認 め な が ら 、 ﹁ ⋮ そ の 判 断 の 過 程 及 び 内 容 が 著 し く 不 合 理 な も の で あ っ た 場 合 に 、 善 管 注 意 義 務 違 反 の 責 任 を 負 う と 解 す る の が 相 当 ﹂ と 判 示 し て い る 。 こ れ は 、 い わ ゆ る 経 営 判 断 原 則 を 採 用 し た も の と 考 え ら れ る が 、 そ の 定 式 に は 、 過 去 の 裁 判 例 と 若 干 異 な る 表 現 が 用 い ら れ て い る 。 従 来 の 下 級 審 判 例 で は 、 ① 経 営 判 断 の 前 提 と な っ た 事 実 の 認 識 に 不 注 意 な 誤 り が な か っ た か ど う か 、 ② そ の 事 実 の 認 識 に 基 づ く 意 思 決 定 の 過 程 及 び 内 容 に つ い て 著 し い 不 合 理 性 が な か っ た か ど う か を 判 断 す る も の が 多 い 。 ( ) 一 方 、 近 時 の 最 高 裁 判 例() ( ア パ マ ン シ ョ ッ プ 株 主 代 表 訴 訟 事 件) は 、 ﹁ ⋮ 事 業 再 編 計 画 の 策 定 は 、 完 全 子 会 社 と す る こ と の メ リ ッ ト の 評 価 を 含 め 、 将 来 予 測 に わ た る 経 営 上 の 専 門 的 判 断 に ゆ だ ね ら れ て い る と 解 さ れ る 。 そ し て 、 こ の 場 合 に お け る 株 式 取 得 の 方 法 や 価 格 に つ い て も 、 取 締 役 に お い て 、 株 式 の 評 価 額 の ほ か 、 取 得 の 必 要 性 、 参 加 人 の 財 務 上 の 負 担 、 株 式 の 取 得 を 円 滑 に 進 め る 必 要 性 の 程 度 等 を も 総 合 考 慮 し て 決 定 す る こ と が で き 、 そ の 決 定 の 過 程 、 内 容 に 著 し く 不 合 理 な 点 が な い 限 り 、 取 締 役 と し て の 善 管 注 意 義 務 に 違 反 す る も の で は な い ﹂ と 判 示 し て い る 。 こ の 最 高 裁 判 例 は 、 前 記 下 級 審 の 傾 向 で あ っ た ① の 要 件 を 明 ら か に し て い な い が 、 そ の 解 釈 に つ き 学 説 で は 、 従 来 の 下 級 審 判 例 が 示 し て き た 基 準 と 同 じ と す る 説 と ( ) 、 事 実 の 認 識 に つ い て は 基 準 か ら 排 除 な い し は 総 合 考 慮 に お い て 一 定 程 度 考 慮 す る に と ど め 、 判 断 の 過 程 お よ び 内 容 の み を 審 査 対 象 に し た と す る 法と政治 68 巻 3 号 ( 2017 年 11 月) 判 例 研 究 863 六
説 に ( ) 分 か れ て い る 。 ま た 、 最 高 裁 判 決 は 、 判 断 過 程 お よ び 内 容 の 双 方 に 著 し く 不 合 理 で な い こ と を 要 求 し て い る が 、 こ れ に つ い て も 、 従 来 の 下 級 審 判 例 が 示 し て き た 基 準 と 同 じ と す る 説 と ( ) 、 最 高 裁 は 緩 や か な 判 断 基 準 を 採 用 し た と す る 説 が ( ) あ る 。 こ の 最 高 裁 判 決 が 出 さ れ た 後 の 下 級 審 判 例 の 多 く は 、 最 高 裁 の 示 す 基 準 を 引 用 し て い る よ う で あ る が ( ) 、 一 方 で 過 去 の 下 級 審 の 示 す 基 準 を 採 用 す る 判 例 も あ り 、 ( ) 最 高 裁 判 決 を も っ て 、 い わ ゆ る 経 営 判 断 原 則 に つ い て 一 般 的 な 定 式 化 が 行 わ れ た と は 言 え な い 現 状 で あ る 。 本 判 決 の 示 す 基 準 は 最 高 裁 判 決 の 示 し た 基 準 に 酷 似 す る も の で あ り 、 明 示 的 な 引 用 は さ れ て い な い も の の 、 最 高 裁 判 決 の 基 準 を 採 用 し た も の と 位 置 づ け て 良 い と 考 え る 。 ( 二) 本 判 決 の 事 実 認 定 本 判 決 は 、 実 際 に 行 っ た 第 一 売 却 行 為 と 第 二 貸 付 行 為 そ の も の に つ い て の 不 合 理 性 を 認 定 す る の で は な く 、 当 時 の 背 景 事 情 に 照 ら し 、 そ れ ら の 行 為 を 止 め な か っ た こ と ( 不 作 為) の 不 合 理 性 を 判 断 し て い る 。 こ れ は 、 X の Z に 対 す る 個 々 の 売 却 行 為 を 証 拠 に よ り 特 定 す る こ と が で き な か っ た と い う 訴 訟 上 の 制 約 が あ っ た こ と が そ の 一 因 と 考 え る 。 ま た 、 Z は X に よ り 完 全 子 会 社 と し て 設 立 さ れ 、 Z の 事 業 は 専 ら X か ら の 仕 入 れ に よ る も の で あ り 、 さ ら に Z の 事 業 資 金 は 当 初 か ら X か ら の 借 入 金 に 依 存 す る こ と が 予 定 さ れ て い た こ と か ら 、 基 本 的 に は X に よ る 売 却 お よ び 貸 付 の 継 続 が Z の 事 業 の ベ ー ス と な っ て い た た め 、 そ れ を 中 止 す べ き か ど う か が 問 題 と さ れ た の で あ ろ う 。 先 述 の と お り 、 本 件 が 完 全 親 子 会 社 間 の 取 引 で あ り 、 子 会 社 が 実 質 的 に 親 会 社 の 一 部 門 に な っ て い た と い う 事 案 の 特 性 は 、 こ の 点 に 表 れ て い る と 考 え る 。 も っ と も 、 貸 付 行 為 に つ い て は 、 そ の 時 期 お よ び 額 を 証 拠 上 特 定 で き て い る た め 、 端 的 に 個 々 の 行 為 ( 作 為) そ の も の の 合 理 性 を 判 断 す る こ と の 方 が 直 截 的 で あ っ た と 思 わ れ る 。 事 業 開 始 時 か ら 平 成 二 〇 年 販 売 計 画 の 策 定 ・ 実 施 ま で に つ い て 、 本 判 決 は 、 Y が 綿 密 に 情 報 収 集 お よ び 分 析 を 行 っ て い た こ と 、 さ ら に ロ シ ア に お け る 建 設 機 械 に 対 す る 需 要 の 伸 び 等 を も 詳 細 に 認 定 し て 、 ﹁ Y の 判 断 の 過 程 及 び 内 容 が 著 し く 不 合 理 な も の で あ っ た と い う こ と は で き な い ﹂ と 判 断 し て お り 、 結 論 と し て は 妥 当 な 判 示 で あ ろ う 。 も っ と も 、 前 記 最 高 裁 判 決 は 、 判 断 の 過 程 よ り も む し ろ 判 断 の 内 容 の 不 合 理 性 を 主 に 検 討 し て お り 、 判 断 の 過 程 に つ い て は 、 ﹁( 会 社) 及 び そ の 傘 下 の グ ル ー プ 企 業 各 社 の 全 般 的 な 経 営 方 針 等 を 協 議 す る 機 関 で あ る 経 営 会 議 に お い て 検 討 さ れ 、 法と政治 68 巻 3 号 ( 2017 年 11 月) 外 国 に 設 立 し た 完 全 子 会 社 に 対 す る 建 設 機 械 の 売 却 と 事 業 資 金 貸 付 け に つ い て ⋮ ⋮ 862 七
弁 護 士 の 意 見 も 聴 取 さ れ る な ど の 手 続 き が 履 践 さ れ て い る ﹂ こ と の み が 示 さ れ 、 単 に そ の こ と を も っ て ﹁ そ の 決 定 過 程 に ⋮ 何 ら 不 合 理 な 点 は 見 当 た ら な い ﹂ と 判 示 し て い る 。 つ ま り 、 最 高 裁 判 決 で は 、 ﹁ 判 断 の 過 程 ﹂ と し て 、 情 報 収 集 お よ び 分 析 に つ い て 検 討 す る の で は な く 決 定 手 続 の 合 理 性 の み を 問 題 に し 、 ( ) 裁 判 所 に よ る 介 入 は 抑 制 的 な も の に 留 ま っ て い る と い え る 。 そ う す る と 、 ﹁ 判 断 の 過 程 ﹂ と し て 情 報 収 集 、 分 析 の 合 理 性 を 詳 細 か つ 具 体 的 に 検 討 し た 本 判 決 は 、 最 高 裁 と 同 じ 基 準 を 採 用 し な が ら 、 よ り 積 極 的 に 経 営 判 断 に 介 入 し た よ う に 見 う け ら れ る 。 平 成 二 〇 年 三 月 か ら 六 月 に つ い て は 、 売 却 行 為 お よ び 貸 付 行 為 と も に 、 そ れ ま で の 流 れ を 継 続 す る こ と が や む を え な か っ た と の 論 理 で 、 Z の 在 庫 数 増 加 、 ロ シ ア 物 流 の 混 乱 の 程 度 や 見 通 し 、 ロ シ ア に お け る 建 設 機 械 需 要 に つ い て の 他 企 業 の 見 通 し 等 、 判 断 の 前 提 と な る 情 報 収 集 お よ び 分 析 つ い て の 詳 細 な 認 定 を し 、 さ ら に Z の 在 庫 が 増 加 し た 場 合 の 対 応 策 の 合 理 性 に ま で 踏 み 込 ん で 検 討 し 、 た だ ち に 売 却 お よ び 貸 付 を や め る 義 務 が あ っ た と は い え な い と し て い る 。 こ の 点 に つ い て も 、 結 論 的 に は 判 示 に 賛 成 す る が 、 本 判 決 が 示 し た 判 断 基 準 に 対 す る あ て は め に つ い て は 、 前 記 と 同 様 、 最 高 裁 判 決 よ り も 踏 み 込 ん だ 検 討 を 行 っ て い る も の と 考 え る 。 平 成 二 〇 年 七 月 以 降 に つ い て は 、 Y が 、 Z の 状 況 を 把 握 し て 実 際 に 売 却 を 縮 小 さ せ て お り 、 売 却 お よ び 貸 付 を 中 止 し な か っ た こ と に 合 理 性 が な か っ た と い う こ と は で き な い と 判 断 し て い る 。 も っ と も 、 本 判 決 は 、 こ の 結 論 を 導 く に あ た り 、 Z の 在 庫 確 保 の 必 要 性 お よ び 資 金 需 要 の 程 度 に つ い て 、 一 〇 種 類 以 上 の 機 種 を 取 り 扱 っ て い た の だ か ら 各 機 種 に つ い て 一 定 数 の 在 庫 を 確 保 す る 必 要 が あ っ た な ど 裁 判 所 の 見 解 と も と れ る 幾 分 踏 み 込 ん だ 認 定 し て お り 、 や は り 積 極 的 に 経 営 判 断 に 介 入 し て い る よ う に 考 え ら れ る 。 な お 、 裁 判 所 が 引 き 続 き 貸 付 行 為 に つ い て 判 断 し て い る 点 に つ い て は 、 X 主 張 の 問 題 と し た 貸 付 行 為 は 平 成 二 〇 年 六 月 ま で の 分 で あ る か ら 、 判 断 は 不 要 で あ っ た の で は な い だ ろ う か 。 以 上 述 べ た 通 り 、 本 判 決 は 、 Y の 情 報 の 収 集 過 程 お よ び 分 析 を 主 と し て 詳 細 に 検 討 し て 、 Y に 善 管 注 意 義 務 違 反 は な か っ た と 判 示 し て お り 、 そ の 結 論 は 妥 当 な も の で あ っ た と い え る 。 も っ と も 、 そ の 検 討 過 程 に つ い て は 、 取 締 役 の 経 営 判 断 の 合 理 性 に 対 し 、 最 高 裁 判 決 よ り も や や 踏 み 込 ん だ 内 容 に な っ て い る も の と 思 わ れ 、 さ ら に 判 決 文 の 表 現 に も ﹁ 止 め る 義 務 が あ っ た と い う こ と は で き な い ﹂「 合 理 性 が な か っ た と い う こ と は で き な い ﹂ と の 表 現 が あ る よ う に 、 法と政治 68 巻 3 号 ( 2017 年 11 月) 判 例 研 究 861 八
Y の 経 営 判 断 に つ い て ﹁ 著 し く 不 合 理 ﹂ で な か っ た か ど う か だ け で な く 、 ﹁ 不 合 理 で な い ﹂ こ と ま で を 判 断 し て い る よ う に 思 わ れ る 。 三 取 締 役 会 決 議 の 有 無 に つ い て ( 一) 取 締 役 会 決 議 が 必 要 な 範 囲 本 判 決 は 、 平 成 二 〇 年 販 売 計 画 に か か る 取 締 役 会 決 議 と 、 第 二 売 却 行 為 お よ び 第 二 貸 付 行 為 に か か る 各 取 締 役 会 決 議 を 同 視 し て 、 前 者 が な か っ た と は 認 定 で き な い か ら 後 者 も な か っ た と は い え な い と の ロ ジ ッ ク で 判 断 し て い る 。 そ こ で ま ず 、 決 議 の 不 存 在 に 関 す る 事 実 認 定 お よ び 証 明 責 任 に つ い て の 考 察 の 前 に 、 第 二 売 却 行 為 お よ び 第 二 貸 付 行 為 に つ き 取 締 役 会 決 議 が 必 要 で あ る こ と を 前 提 と し て 、 ( ) そ れ ぞ れ に つ い て 平 成 二 〇 年 販 売 計 画 に か か る 決 議 で 足 り て い た の か を 検 討 す る 。 本 件 第 二 売 却 行 為 は 、 裁 判 所 の 事 実 認 定 に よ れ ば 、 そ の 個 々 の 行 為 の 時 期 や 規 模 に つ い て 特 定 さ れ て い な い 。 平 成 二 〇 年 販 売 計 画 は 、 Z の 業 務 執 行 に 関 す る 計 画 で あ る が 、 Z は X の 完 全 子 会 社 で あ る こ と 、 Z の 設 立 当 初 か ら X が そ の 事 業 計 画 を 策 定 し て い た こ と 、 計 画 に は 売 上 原 価 と し て X か ら の 売 価 が 記 載 さ れ て い た こ と に 照 ら せ ば 、 こ れ を も っ て X か ら Z に 対 す る 売 却 計 画 と 同 視 す る こ と は 可 能 で あ ろ う 。 し た が っ て 、 こ の 計 画 ど お り に 売 却 が 行 わ れ た の で あ れ ば 、 平 成 二 〇 年 販 売 計 画 の 取 締 役 会 決 議 に よ り 、 そ の 細 目 的 事 項 は 代 表 取 締 役 に 委 任 さ れ た と し て 、 ( ) Y が 個 々 の 第 二 売 却 行 為 を 単 独 で 実 行 し う る と 解 さ れ る 。 し か し 、 本 件 で は 、 証 拠 に よ り 個 々 の 第 二 売 却 行 為 が 特 定 さ れ て い な い 。 Y の 主 張 に よ れ ば 、 平 成 二 〇 年 の X の Z に 対 す る 本 件 建 機 の 売 却 ( お よ び 金 員 の 貸 付 け) は 、 平 成 二 〇 年 販 売 計 画 の 売 上 原 価 等 の 合 計 金 額 の 枠 組 み の 中 で 行 わ れ た と す る が 、 個 々 の 行 為 が 特 定 さ れ な い 以 上 、 そ れ ら が 計 画 の 枠 組 み の 中 で 行 わ れ た と 認 定 し よ う も な い は ず で あ る 。 よ っ て 、 結 論 は 異 な ら な い も の の 、 本 論 点 に か か る X の 主 張 に つ い て は 、 平 成 二 〇 年 販 売 計 画 の 決 議 不 存 在 に つ い て の 立 証 不 十 分 で は な く 、 行 為 の 不 特 定 ゆ え に 棄 却 さ れ る べ き で は な か っ た か と 思 わ れ る 。 次 に 本 件 第 二 貸 付 行 為 に つ い て 検 討 す る 。 裁 判 所 は 、 Z が そ の 資 金 の 調 達 を X か ら の 借 入 金 に 依 存 す る こ と を は じ め か ら 予 定 し て い た た め 、 販 売 計 画 を 決 定 す る こ と が そ の ま ま 貸 付 け を 決 定 す る こ と に な る と 判 断 し て い る 。 確 か に 、 Z 設 立 当 初 か ら 、 そ の 固 有 の 資 産 は わ ず か 一 万 ル ー ブ ル ( 約 四 万 四 六 〇 〇 円) し か な く 、 以 降 の 運 転 資 金 は X か ら 法と政治 68 巻 3 号 ( 2017 年 11 月) 外 国 に 設 立 し た 完 全 子 会 社 に 対 す る 建 設 機 械 の 売 却 と 事 業 資 金 貸 付 け に つ い て ⋮ ⋮ 860 九
の 借 入 金 に 依 存 す る こ と が 予 定 さ れ て い た 。 ま た 、 平 成 二 〇 年 六 月 に は 、 ロ シ ア に お い て Z の 事 業 を 金 融 面 か ら 支 援 す る こ と を 目 的 と し て 、 別 会 社 が A の 完 全 子 会 社 と し て 設 立 さ れ 、 そ の 設 立 の 際 に は 、 平 成 二 〇 年 販 売 計 画 に お け る 本 件 建 機 の 販 売 台 数 を 前 提 と し て 事 業 計 画 が 作 成 さ れ て い た 。 し た が っ て 、 X の Z に 対 す る 貸 付 け は 、 基 本 的 に は 平 成 二 〇 年 販 売 計 画 に の っ と っ て 行 わ れ る こ と が 、 当 初 の 計 画 で あ っ た こ と が 認 め ら れ る 。 し か し な が ら 、 貸 付 け は 、 単 純 に 個 々 の 売 却 行 為 に か か る Z の 購 入 資 金 と し て 行 わ れ る の で は な く 、 そ の 時 々 で の Z の 財 務 状 況 に 照 ら し て 不 足 分 を 補 う 形 で 行 わ れ る も の で あ ろ う か ら 、 販 売 計 画 当 初 か ら そ の 具 体 的 な 額 や 時 期 を 予 測 で き る 性 質 の も の で は な い 。 さ ら に 、 本 件 各 売 却 行 為 に つ い て 、 証 拠 上 そ の 時 期 や 台 数 を 特 定 で き な か っ た よ う に 、 現 実 に 行 わ れ た X の Z に 対 す る 売 却 そ の も の が 、 計 画 通 り に 実 行 さ れ た と は い え な い 。 つ ま り 、 貸 付 け が 計 画 通 り に な さ れ た と は い え な い の で は な い だ ろ う か 。 会 社 法 三 六 二 条 四 項 の 規 制 は 、 重 要 な 経 営 事 項 に つ い て 慎 重 な 決 定 を 求 め 代 表 取 締 役 の 専 横 を 防 止 す る 趣 旨 で あ る か ( ) ら 、 会 社 財 産 に 危 険 を 生 ず べ き 本 件 個 々 の 第 二 貸 付 行 為 に つ い て は 、 そ の 個 々 の 行 為 の 時 に 具 体 的 リ ス ク を 取 締 役 会 決 議 で 判 断 す べ き で あ っ た と い え る 。 よ っ て 、 平 成 二 〇 年 販 売 計 画 の 決 議 を も っ て 、 本 件 第 二 貸 付 行 為 に か か る 決 議 と 同 視 す る こ と は で き ず 、 裁 判 所 は 、 第 二 貸 付 行 為 に か か る 決 議 が な か っ た と い え る か ど う か を 認 定 す べ き で あ っ た と 考 え る 。 も っ と も 、 平 成 二 〇 年 販 売 計 画 に か か る 取 締 役 会 決 議 の 事 実 認 定 の よ う に 、 本 件 で は 取 締 役 会 決 議 の 存 在 そ の も の に 関 す る 直 接 証 拠 が 提 出 さ れ て い な か っ た た め 、 仮 に 第 二 貸 付 行 為 に か か る 決 議 に つ い て そ の 不 存 在 を 認 定 し よ う と し て も 、 同 様 に 困 難 を 極 め 、 ﹁ 決 議 が な か っ た と 認 定 す る こ と に は 躊 躇 を 覚 え る ﹂ と さ れ た で あ ろ う 。 し た が っ て 、 い ず れ に し て も 、 結 論 は 異 な ら な か っ た と 考 え る 。 ( 二) 取 締 役 会 決 議 の 不 存 在 の 立 証 責 任 裁 判 所 は 、 ﹁ Y の 会 社 法 三 六 二 条 四 項 一 号 違 反 に よ る 任 務 懈 怠 責 任 に つ い て は 、 X が 、 請 求 原 因 事 実 と し て 、 取 締 役 会 の 決 議 が な か っ た こ と を 立 証 し な け れ ば な ら な い ﹂ と 判 示 し た う え で 、 X の 取 締 役 会 の 議 案 内 容 の 整 理 表 ・ 議 事 録 管 理 表 、 招 集 通 知 、 内 部 監 査 室 に よ る 議 事 録 の 確 認 、 裁 判 所 に 提 出 さ れ た X 取 締 役 の 陳 述 書 、 本 件 建 機 の 在 庫 リ ス ト の 証 明 力 を 評 価 し て 決 議 が な か っ た と 認 定 で き な い と 結 論 づ け て い る 。 法と政治 68 巻 3 号 ( 2017 年 11 月) 判 例 研 究 859 一 〇
取 締 役 の 任 務 懈 怠 責 任 ( 会 社 法 四 二 三 条 一 項) の 成 立 要 件 お よ び そ の 主 張 立 証 責 任 に つ い て は 、 民 法 の 債 務 不 履 行 責 任 に つ い て の 解 釈 が ( ) 妥 当 す る と 解 さ れ て い る 。 ( ) し た が っ て 取 締 役 の 任 務 懈 怠 責 任 の 追 及 す る 際 は 、 ① に つ き 取 締 役 任 用 契 約 の 存 在 、 ② に つ き 任 務 懈 怠 の 事 実 が 請 求 原 因 と な り 、 任 務 懈 怠 が 取 締 役 の 責 め に 帰 す べ き 事 由 に よ る も の で な か っ た こ と ( 無 過 失) を 取 締 役 側 で 立 証 す べ き こ と と な る 。 ( ) こ こ で 、 本 件 の よ う に 取 締 役 会 決 議 を 欠 く 重 要 な 財 産 処 分 に つ い て 、 ど の 事 実 が 任 務 懈 怠 を 構 成 す る の か が 問 題 と な る 。 一 般 に 、 取 締 役 の 任 務 懈 怠 は 、 具 体 的 な 法 令 違 反 ( 会 社 法 一 二 〇 条 四 項 等 の 法 が 個 別 に 規 定 す る 特 別 な 法 定 責 任 の 場 合 を 除 く) の 場 合 と 、 そ れ 以 外 の 取 締 役 の 善 管 注 意 義 務 違 反 の 場 合 と を 分 け て 論 じ る こ と が 多 い 。 こ の 両 者 で 、 責 任 の 判 断 構 造 を 分 け る と 考 え る の が 二 元 説 、 分 け な い と 考 え る の を 一 元 説 と 呼 び 、 ( ) 両 者 の 違 い は 特 に 具 体 的 な 法 令 違 反 の 場 合 に 明 確 に な る 。 取 締 役 の 職 務 執 行 に お け る 法 令 遵 守 に 大 き な 価 値 を お き 、 具 体 的 な 法 令 違 反 行 為 を そ れ だ け で 任 務 懈 怠 と 見 て 、 当 該 法 令 違 反 に つ い て 過 失 が な い こ と を 取 締 役 側 で 立 証 す べ き と す る の が 二 元 説 で あ る 。 一 方 で 、 一 元 説 は 、 取 締 役 が 負 う 義 務 は 法 令 を 遵 守 し て 行 動 す べ き 義 務 で は な く 、 会 社 が 法 令 を 遵 守 し な い で 行 動 す る こ と を さ せ な い よ う に す る 義 務 と 考 え 、 取 締 役 の 法 令 違 反 行 為 を 注 意 義 務 の 一 内 容 と し て と ら え る 。 こ の 立 場 に よ れ ば 、 取 締 役 の 責 任 を 追 求 す る 際 の 請 求 原 因 と し て の 任 務 懈 怠 と は 、 会 社 に 法 令 違 反 を さ せ な い よ う に 注 意 し て 行 動 す べ き 義 務 ( 善 管 注 意 義 務) に 対 す る 違 反 と な り 、 善 管 注 意 義 務 違 反 ( = 過 失) に か か る 要 件 事 実 が 規 範 的 要 件 で あ る と ( ) い う 考 え を 前 提 と す る と 、 取 締 役 側 で 過 失 の 評 価 障 害 事 実 を 抗 弁 と し て 主 張 す る こ と に な る 。 二 元 説 か ら の 帰 結 で は 、 本 件 の 場 合 、 取 締 役 会 決 議 の 不 存 在 が 任 務 懈 怠 を 基 礎 づ け る 要 件 事 実 と な り 、 責 任 を 追 及 す る 側 が そ の こ と を 証 明 し な け れ ば な ら な い こ と に な る 。 一 方 で 、 一 元 説 に よ れ ば 、 問 題 と す べ き 取 締 役 の 行 為 の 本 質 は 、 善 良 な る 管 理 者 の 注 意 を も っ て 職 務 を 執 行 し な け れ ば な ら な い 注 意 義 務 の 違 反 で あ り 、 重 要 な 財 産 処 分 に つ い て 決 議 を 欠 い た こ と は そ の 一 要 素 に す ぎ ず 、 当 該 処 分 行 為 そ の も の の 経 営 上 の 不 当 性 も 要 件 事 実 に 含 ま れ る こ と に な る の で は な い か 。 つ ま り 、 決 議 の 不 存 在 が 必 ず し も 請 求 原 因 事 実 と な ら な い と 考 え る こ と も 可 能 か と 思 わ れ る 。 ( ) 裁 判 例 の 中 に も 、 一 元 説 に 立 っ た か ど う か は さ て お き 、 重 要 な 財 産 処 分 に 該 当 す る 取 引 に つ い て 取 締 役 会 に 上 程 し な か っ 法と政治 68 巻 3 号 ( 2017 年 11 月) 外 国 に 設 立 し た 完 全 子 会 社 に 対 す る 建 設 機 械 の 売 却 と 事 業 資 金 貸 付 け に つ い て ⋮ ⋮ 858 一 一
た と い う 意 思 決 定 の 態 様 を 一 要 素 と し て 、 取 締 役 の 善 管 注 意 義 務 違 反 を 認 定 し た も の が あ る 。 ( ) 会 社 法 制 定 以 前 の 判 例 は ( ) 二 元 説 に 立 っ て い る と 見 る の が 大 方 の 見 解 で あ る が 、 ( ) 会 社 法 制 定 で 責 任 発 生 原 因 が 条 文 上 ﹁ 任 務 懈 怠 ﹂ と 外 形 上 一 元 化 さ れ た こ と に 伴 い 、 会 社 法 四 二 三 条 一 項 に お い て も 二 元 説 を 維 持 す べ き か ど う か は 、 今 な お 議 論 の 対 象 に な っ て い る 。 過 去 の 最 高 裁 判 例 が 二 元 説 を 採 用 し て い る こ と 、 ま た 会 社 法 立 案 担 当 者 が 会 社 法 制 定 に よ る 条 文 の 文 言 の 変 更 は 、 ﹁ そ の 実 質 を 変 更 し た も の で は な い ﹂ ( ) と 述 べ て い る こ と 、 本 件 の よ う に 会 社 が 原 告 と な る 場 合 は 、 取 締 役 会 決 議 に 関 す る 証 拠 は 通 常 会 社 が 保 有 し て い る た め 、 会 社 側 に そ れ が な い こ と の 証 明 責 任 を 負 わ せ て も 不 合 理 で あ る と は い え な い こ と か ら 、 基 本 的 に は 二 元 説 を 支 持 し た い 。 も っ と も 、 本 判 決 の 結 論 は 異 な ら な い も の の 、 一 元 説 に よ る と き は 、 決 議 不 存 在 を 立 証 し な く と も 取 締 役 の 責 任 追 及 が 可 能 と な る 余 地 が あ る こ と に つ い て は 、 今 後 再 考 を 重 ね る こ と と す る 。 以 上 ( ) 本 判 決 の 評 釈 と し て 、 原 弘 明 ﹁ 判 批 ﹂ 金 融 ・ 商 事 判 例 一 四 五 六 号 二 頁 ( 二 〇 一 五 年) 、 水 島 治 ﹁ 判 批 ﹂ 武 蔵 大 学 論 集 六 二 巻 二 = 三 = 四 号 一 一 頁 ( 二 〇 一 五 年) が あ る 。 ( ) 同 項 同 号 に い う ﹁ 重 要 な 財 産 の 処 分 ﹂ の 該 当 性 に つ い て は 、 当 事 者 間 で 争 い が な い 。 ( ) 吉 原 和 志 ﹁ 取 締 役 の 経 営 判 断 と 株 主 代 表 訴 訟 ﹂ 小 林 秀 之 = 近 藤 光 男 編 ﹃ 新 版 株 主 代 表 訴 訟 体 系 ﹄( 弘 文 堂 、 二 〇 〇 二 年) 一 一 七 頁 、 岩 原 紳 作 ・ 編 ﹃ 会 社 法 コ ン メ ン タ ー ル ( 九) ﹄( 商 事 法 務 、 二 〇 一 四 年) 二 四 一 頁 [ 森 本 滋] 、 江 頭 憲 治 郎 ﹃ 株 式 会 社 法 [ 第 六 版] ﹄( 有 斐 閣 、 二 〇 一 五 年) 四 六 四 頁 。 ( ) 最 一 小 判 平 成 二 二 年 七 月 一 五 日 集 民 二 三 四 号 二 二 五 頁 。 ( ) 落 合 誠 一 ﹁ 最 判 平 成 二 二 年 ・ 判 批 ﹂ 商 事 法 務 一 九 一 三 号 ( 二 〇 一 〇 年) 七 頁 、 北 村 雅 史 ﹁ 最 判 平 成 二 二 年 ・ 判 批 ﹂ ジ ュ リ ス ト 一 四 二 〇 号 ・ 平 成 二 二 年 度 重 要 判 例 解 説 ( 二 〇 一 一 年) 一 三 九 頁 な ど 。 ( ) 大 塚 和 成 = 高 谷 祐 介 ﹁ 最 判 平 成 二 二 年 ・ 判 批 ﹂ ビ ジ ネ ス 法 務 一 〇 巻 一 一 号 ( 二 〇 一 〇 年) 一 六 頁 、 山 田 剛 士 ﹁ 最 判 平 成 二 二 年 ・ 判 批 ﹂ 判 例 評 論 六 二 九 号 ( 二 〇 一 一 年) 一 九 一 頁 、 奈 良 輝 久 ﹁ 最 判 平 成 二 二 年 ・ 判 批 ﹂ 金 判 一 三 六 八 号 ( 二 〇 一 一 年) 一 二 頁 。 ( ) 落 合 ・ 前 掲 注 ( ) 七 頁 。 ( ) 田 中 亘 ﹁ 最 判 平 成 二 二 年 ・ 判 批 ﹂ ジ ュ リ ス ト 一 四 四 二 号 ( 二 〇 一 二 年) 一 〇 四 頁 、 堀 田 佳 文 ﹁ 経 営 判 断 原 則 と そ の 判 断 基 準 を め ぐ っ て ﹂ 落 合 誠 一 先 生 古 稀 記 念 ︱ 商 事 法 の 新 し い 礎 石 ﹄ 有 斐 閣 ( 二 〇 一 四 年) 二 七 七 頁 な ど 。 ( ) た と え ば 、 東 京 地 判 平 成 二 五 年 二 月 二 八 日 金 判 一 四 一 六 号 三 八 頁 。 な お 、 岩 原 ・ 前 掲 注 ( ) 二 四 五 頁 [ 森 本 滋 ] は 、 本 最 高 裁 判 決 後 、 下 級 審 裁 判 例 に お い て 経 営 判 断 に 際 し て の 手 続 と 内 容 を 併 せ て 検 討 す る 傾 向 が あ る と 指 摘 し て い る 。 ( ) 東 京 地 判 平 成 二 七 年 一 〇 月 八 日 判 時 二 二 九 五 号 一 二 四 頁 な ど 。 ( ) こ の 点 に つ き 、 北 村 ・ 前 掲 注 ( ) 一 三 九 頁 は 、 ﹁ 判 断 を す 法と政治 68 巻 3 号 ( 2017 年 11 月) 判 例 研 究 857 一 二
る た め の 情 報 の 収 集 ・ 分 析 、 検 討 が 合 理 的 で あ っ た か ど う か ﹂ と ﹁ 前 提 と な っ た 事 実 の 認 識 に つ い て 不 注 意 な 誤 り が あ っ た か ど う か ﹂ は 同 義 的 で あ る と し て い る 。 な お 、 三 浦 治 ﹁ 取 締 役 の 経 営 判 断 の 過 程 と 内 容 ︱ ア パ マ ン シ ョ ッ プ 事 件 各 判 決 を 検 討 素 材 と し て ﹂ 企 業 法 学 の 論 理 と 体 系 ︱ 永 井 和 之 先 生 古 稀 記 念 論 文 集 ﹄( 中 央 経 済 社 、 二 〇 一 六 年) 九 七 二 頁 ︱ 九 七 三 頁 は 、 従 来 の 学 説 が ﹁ 過 程 ﹂ の 内 容 と し て 指 し て い た も の を 、 当 該 経 営 判 断 を 下 す た め に ① ど の よ う な 手 続 を 経 た か 、 ② ど の よ う な 情 報 を 得 て い た か 、 ③ ど の よ う な 検 討 を し た か ( 情 報 の 分 析 な ど も 含 む) と 整 理 し て い る 。 本 文 中 の 最 高 裁 判 決 は ① を 主 に 検 討 し 、 本 判 決 は ② に つ き 詳 細 な 検 討 を し た も の と い え る 。 ( ) 本 判 決 は 判 断 し て い な い が 、 Y は 抗 弁 と し て ﹁ 仮 に 事 前 に 取 締 役 会 の 決 議 を 経 て い な か っ た と し て も ⋮ 事 後 的 に 取 締 役 会 の 黙 示 の 承 認 が あ っ た ﹂ と 主 張 し て い る の で 、 こ の 点 に つ き 、 会 社 法 三 六 二 条 四 項 の 取 締 役 会 決 議 は 事 後 で も 足 り る の か ど う か 若 干 検 討 す る 。 利 益 相 反 取 引 に つ い て は 、 取 締 役 会 の 事 後 承 認 が 認 め ら れ る の が 通 説 で あ る ( 落 合 誠 一 ・ 編 ﹃ 会 社 法 コ ン メ ン タ ー ル ( 八) ﹄ ( 商 事 法 務 、 二 〇 〇 九 年) 八 五 頁 [ 北 村 雅 史]) 。 も っ と も 、 会 社 法 三 六 二 条 四 項 ( 旧 商 法 二 六 〇 条 二 項) の 取 締 役 会 決 議 に つ き 、 事 後 の 決 議 で 足 り る か を 論 じ る 文 献 は あ ま り み ら れ な い 。 利 益 相 反 取 引 規 制 と 重 要 な 財 産 処 分 規 制 と を 同 列 に 論 じ る こ と は も と よ り で き な い が 、 代 表 取 締 役 が 重 要 な 財 産 処 分 を 行 っ て 会 社 に 損 害 を 生 じ さ せ た 場 合 、 決 議 が な い 場 合 は 会 社 法 四 二 三 条 一 項 の 法 令 違 反 行 為 な い し 善 管 注 意 義 務 違 反 と し て 、 決 議 が あ る 場 合 は 善 管 注 意 義 務 違 反 と し て 損 害 賠 償 責 任 を 負 う か が 判 断 さ れ る 。 こ れ は 、 任 務 懈 怠 の 推 定 ( 会 社 法 四 二 三 条 三 項) こ そ な い も の の 、 判 断 枠 組 と し て は 利 益 相 反 取 引 の 場 合 と 同 一 で あ る 。 す な わ ち 、 事 前 の 取 締 役 会 決 議 に 取 引 に つ い て の 免 責 効 が 認 め ら れ る の で は な い の で あ る 。 ま た 、 利 益 相 反 取 引 に 関 し て は 、 事 前 の 決 議 を 欠 く 取 引 の 効 力 は 原 則 無 効 で あ る ( 相 対 的 無 効 説 ( 判 例 ・ 通 説)) の に 対 し 、 重 要 な 財 産 処 分 に 関 し て 取 締 役 会 決 議 を 欠 く 代 表 取 締 役 の 行 為 に つ い て は 、 判 例 は 民 法 九 三 条 を 類 推 適 用 し て 、 ﹁ 内 部 的 意 思 決 定 を 欠 く に 止 ま る か ら 、 原 則 と し て 有 効 ﹂ と 判 示 し て い る ( 最 三 小 判 昭 和 四 〇 年 九 月 二 二 日 民 集 一 九 巻 六 号 一 六 五 六 頁) 。 決 議 に 対 す る 取 り 扱 い が 、 後 者 で は ﹁ 内 部 的 意 思 決 定 ﹂ の 問 題 と し て 取 引 の 効 力 に す ら 影 響 せ ず 、 む し ろ 軽 く 扱 わ れ て い る と も い え る 。 し た が っ て 、 前 者 で 事 後 の 承 認 が 認 め ら れ て 、 後 者 で は 認 め ら れ な い と す る 理 由 は 見 当 た ら な い と 考 え る 。 ( ) 代 表 取 締 役 は 取 締 役 会 の 業 務 執 行 の 決 定 の 執 行 を 担 当 す る 機 関 で あ る ( 並 列 的 機 関 説) か ら 、 取 締 役 会 の 固 有 の 権 限 と さ れ て い る 事 項 に つ き 、 そ の 決 議 な く 自 ら の 判 断 で 業 務 執 行 す る こ と は 許 さ れ な い 。 も っ と も 、 取 締 役 会 の 決 定 に 留 保 さ れ て い る 重 要 な 業 務 執 行 に 関 す る も の で あ っ て も 、 そ の 細 目 的 事 項 お よ び そ れ 以 外 の 業 務 執 行 事 項 に つ い て は 、 取 締 役 会 か ら 委 任 さ れ た 範 囲 に お い て 、 自 ら 決 定 し 執 行 で き る も の と さ れ て い る 。 上 柳 克 郎 = 鴻 常 夫 = 竹 内 昭 夫 ・ 編 ﹃ 新 版 注 釈 会 社 法 ( 六) ﹄( 有 斐 閣 、 一 九 八 七 年) 一 〇 三 頁 ︹ 堀 口 亘 、 北 沢 正 啓 ﹃ 会 社 法 [ 第 六 版] ﹄( 青 林 書 院 、 二 〇 〇 一 年) 三 八 三 頁 、 加 美 和 照 ﹃ 会 社 取 締 役 法 制 度 研 究 ﹄( 中 央 大 学 出 版 部 、 二 〇 〇 〇 年) 八 四 頁 。 ( ) 落 合 ・ 前 掲 注 ( ) 二 二 二 頁 [ 落 合 誠 一] 。 ( ) 請 求 原 因 事 実 と し て 、 ① 基 礎 と な る 債 権 の 発 生 原 因 事 実 、 ② 債 務 の 履 行 が 本 旨 に 従 っ た も の で な い こ と 、 ③ 損 害 の 発 生 、 ④ 前 記 ② と ③ の 間 の 因 果 関 係 を 主 張 立 証 し 、 債 務 者 の 責 め に 帰 す べ き 事 由 が な い こ と は 抗 弁 事 由 と な る と 整 理 さ れ て い る 。 伊 藤 滋 夫 ・ 法と政治 68 巻 3 号 ( 2017 年 11 月) 外 国 に 設 立 し た 完 全 子 会 社 に 対 す る 建 設 機 械 の 売 却 と 事 業 資 金 貸 付 け に つ い て ⋮ ⋮ 856 一 三
編 ﹃ 民 事 要 件 事 実 講 座 ( 三)( 民 法 Ⅰ) ︱ 債 権 総 論 ・ 契 約 ﹄( 青 林 書 院 、 二 〇 〇 五 年) 四 七 頁 [ 斎 藤 隆] 、 倉 田 卓 次 ・ 監 ﹃ 要 件 事 実 の 証 明 責 任 ︱ 債 権 総 論 ﹄( 西 神 田 編 集 室 、 一 九 八 六 年) 七 六 頁 [ 國 井 和 郎] 。 ( ) 岩 原 ・ 前 掲 注 ( ) 二 三 七 頁 [ 森 本 滋] 、 田 中 亘 ﹃ 会 社 法 ﹄ ( 東 京 大 学 出 版 会 、 二 〇 一 六 年) 二 七 一 頁 。 ( ) 岩 原 ・ 前 掲 注 ( ) 二 三 七 頁 [ 森 本 滋] 、 吉 原 和 志 ﹁ 取 締 役 の 任 務 懈 怠 責 任 ﹂ 潮 見 佳 男 = 片 木 晴 彦 ・ 編 ﹃ 民 ・ 商 法 の 溝 を よ む ﹄ ( 日 本 評 論 社 、 二 〇 一 三 年) 一 三 二 頁 。 大 江 忠 ﹃ 要 件 事 実 会 社 法 ( 二) ﹄( 商 事 法 務 、 二 〇 一 一 年) 六 七 九 頁 、 東 京 地 方 裁 判 所 商 事 研 究 会 ・ 編 ﹃ 類 型 別 会 社 訴 訟 Ⅰ [ 第 三 版] ﹄( 判 例 タ イ ム ズ 社 、 二 〇 一 一 年) 二 二 一 頁 。 な お 、 旧 商 法 二 六 六 条 一 項 五 号 に つ き 、 最 二 小 判 平 成 一 二 年 七 月 七 日 民 集 五 四 巻 六 号 一 七 六 七 頁 ( 野 村 證 券 事 件) 。 ( ) 詳 細 に つ き 、 吉 原 和 志 ﹁ 会 社 法 の 下 で の 取 締 役 の 対 会 社 責 任 ﹂ 江 頭 憲 治 郎 先 生 還 暦 記 念 ﹃ 会 社 法 の 理 論 ( 上) ﹄( 商 事 法 務 、 二 〇 〇 七 年) 五 二 八 頁 、 潮 見 佳 男 ﹁ 民 法 か ら み た 取 締 役 の 義 務 と 責 任 ﹂ 商 事 法 務 一 七 四 〇 号 ( 二 〇 〇 五 年) 三 八 頁 、 大 杉 謙 一 「 役 員 の 責 任 ︱ 経 営 判 断 原 則 の 意 義 と そ の 射 程 ﹂ 江 頭 憲 治 郎 ・ 編 株 式 会 社 法 体 系 ﹄( 有 斐 閣 、 二 〇 一 三 年) 三 一 六 頁 ︱ 三 一 八 頁 、 岩 原 ・ 前 掲 注 ( ) 二 五 〇 頁 ︱ 二 五 一 頁 [ 森 本 滋] 、 田 中 ・ 前 掲 注 ( ) 二 七 二 頁 ︱ 二 七 三 頁 。 ( ) 潮 見 ・ 前 掲 注 ( ) 三 四 頁 ︱ 三 八 頁 、 東 京 地 方 裁 判 所 商 事 研 究 会 ・ 前 掲 注 ( ) 二 二 一 頁 ︱ 二 二 三 頁 。 ( ) 吉 原 和 志 ﹁ 法 令 違 反 行 為 と 取 締 役 の 責 任 ﹂ 法 学 [ 東 北 大 学 ] 六 〇 巻 一 号 ( 一 九 九 六 年) 三 五 頁 以 下 参 照 。 ( ) さ い た ま 地 判 平 成 二 三 年 九 月 二 日 金 判 一 三 七 六 号 五 四 頁 ( メ テ ガ ジ ャ パ ン 事 件) 。 ( ) 前 掲 最 判 平 成 一 二 年 七 月 七 日 。 ( ) 岩 原 ・ 前 掲 注 ( ) 二 五 〇 頁 [ 森 本 滋] 。 ( ) 相 澤 哲 = 石 井 裕 介 ﹁ 株 主 総 会 以 外 の 機 関 ( 下) ﹂ 商 事 法 務 一 七 四 五 号 ( 二 〇 〇 五 年) 一 三 頁 。 法と政治 68 巻 3 号 ( 2017 年 11 月) 判 例 研 究 855 一 四