• 検索結果がありません。

中国農村調査における三つの壁 (フィールドワーク心得帖 第27回)

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "中国農村調査における三つの壁 (フィールドワーク心得帖 第27回)"

Copied!
3
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

中国農村調査における三つの壁 (フィールドワーク

心得帖 第27回)

著者

山田 七絵

権利

Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア

経済研究所 / Institute of Developing

Economies, Japan External Trade Organization

(IDE-JETRO) http://www.ide.go.jp

雑誌名

アジ研ワールド・トレンド

202

ページ

44-45

発行年

2012-07

出版者

日本貿易振興機構アジア経済研究所

URL

http://hdl.handle.net/2344/00003936

(2)

ਸ਼৚ؙ山田七絵

  筆者 は 中 国農村 を 主 な フ ィ ー ルドとし て調 査 研 究を行 っ て い る 。 自身 の 経 験 と 他 の 農村 研究 者の 話 か ら 判 断 す る 限 り 、 中 国 農村 は い ろ い ろ な 意 味 で ハ ー ド ルが 高 い フ ィ ー ル ド の よ う だ 。 本稿 で は 中 国 農村 で 調 査 者 の 前 に次々 に 立ち はだ か る ﹁ 壁 ﹂ を キー ワー ドに 、 最 近 の 事 情 を ご 紹介 し た い 。 本稿 は 筆 者 の 限 ら れた経 験 と知 識に基 づ くも の に 過 ぎ な い が、 ここ 数 年 の 試 行 錯 誤か ら得ら れ た教訓 が 今 後 農 村 調査 を 実 施す る 研 究者 の た め に 少 し で も 参 考になれ ば 幸 い で あ る。 ●その一   制度の壁   中国では外国人による本格的 な農村調査は原則禁止されてい る。 これが最初に突きあたる ﹁制 度の壁﹂である。以前に比べて 格段に緩やかになったとはいえ 中国での外国人の活動は厳しく 制限されており、共同研究事業 や人からの紹介無しには調査は 不可能である。実際外国人によ る調査活動が警察沙汰に発展し た例は、筆者の知り合いを含め 過去に何件も存在する。個人間 の関係が重視される中国社会で は、農村基層幹部、村民など被 調査者の一番の関心事は訪問者 が自分とどのような関係の人物 の紹介で来たか、自分にどんな 利益 ・ 不利益をもたらしうるか、 である。訪問者の日本での肩書 きや所属組織はあまり意味を持 たない。中国では拡大する農工 間格差を背景に農村問題は敏感 な政治問題であり、特に行政組 織では実情を外部に公開するこ とが自らの政治的立場を危うく する危険性があると警戒する関 係者は多い。学術調査が相手に とって単なる厄介事であると肝 に命じ、たとえ調査が順調に進 まなくても強引な態度や勝手な 行動を慎まなければならない 。 さもなくば、フィールドへの入 り口は閉ざされてしまう。   農村フィールドワークと一口 に言っても、目的によって調査 対象や方法が異なる。農村の末 端レベルで行う調査は、①定量 的な大規模調査、②定性的な聞 き取り調査、に大別できる。① は前述の制度的な理由に加え一 定のまとまった資金と人員を投 入する必要があるため、一般的 に現地の研究機関との共同研究 の形式をとる。この方法では共 同研究機関を通して正式に調査 地政府の調査許可を取得できる ため、調査の手配など様々な便 宜を図ってもらえる。農村に信 頼できる調査ネットワークを持 ち、共同研究の経験が豊富で研 究の趣旨や調査手法に理解を示 してくれる共同研究者を見つけ ることが重要である。   ②は、知人の紹介で個人的に 調査地のキーパーソンに接触す る方法である。 特定地域に滞在、 または通うことで詳細な情報を 得たい時に有効である。①と比 べて費用は少なく済み、良い関 係を築けば長期的に定点観測を 行える可能性がある 。ただし 、 調査対象が協力者の人脈の範囲 内に限られ政府を通した場合の ような︵モデルケースの紹介に 偏りがちにしろ︶網羅的な調査 手配が難しい、比較的高度な中 国語能力を必要とする、などの 困難がある。滞在型調査につい ては農村社会学者・田原史起先 生の体験記 ﹁中国の村を歩く﹂ ︵﹃国際問題﹄№五八一、二〇〇 九年︶が大変面白い。   筆者は前記二種類の調査を組 み合わせることでより良く中国 農村の実態を理解できると考え るが、自分の苦い経験からもま ずは①に参加し、ある程度人的 ネットワークができてから②に 挑戦することをお勧めする。

国農村

調査

おける

44

アジ研ワールド・トレンド No.202 (2012. 7) 写真1:調査員による農家調査風景(2011年8月、 雲南省紅河イ族ハニ族自治州)

(3)

●その二   社交の壁   農村に入ることができたら 、 調査を順調に進めるために関係 者と良好な人間関係を築きた い。中国社会では、人間関係の 疎密が仕事の成否に与える影響 が大きい。 ﹁入郷随俗 ︵郷に入っ ては郷に従え︶ ﹂という慣用句 の通り、現地の文化・習慣を尊 重することで関係者との心理的 な距離が縮まるのは事実であ る。調査中の宴会は、親睦を深 める良い機会である。中国人の 大らかさ、社交性、ホスピタリ ティにはいつも敬服させられ る。現地では協力者に調査手配 などの一切を委ねることになる ので、率直に感謝の気持ちを表 現すべきだと思う。   宴会において最大の問題は独 特の飲酒文化であろう。中国の 正式な宴席ではしばしば三〇∼ 六〇度の蒸留酒﹁白酒﹂が供さ れるが、相手とグラスを交わし てストレートで一気に飲みほす ﹁乾杯﹂の習慣がある 。中国の 宴会での飲酒量は経験則からい えば一般に南方より北方、都市 より農村の方が多い。筆者の主 なフィールドのひとつ山東省は 礼を重んじ質実剛健を尊ぶ気風 がある。飲酒習慣も前述の経験 則を超越した豪快さがあり、他 地域の中国人からも恐れられて いる︵実際外国人の死亡事故も 発生︶ 。筆者も何度か修羅場を 経験したが、酒量というより限 界まで飲む正直さが評価され る。山東省の伝統的な宴会の特 徴を挙げると、主賓はホスト側 の三人︵二人の場合も︶の主人 と三 、六 、九杯ずつ乾杯する 、 強く乾杯を勧められる、酒量が 先方に正確に記憶され次回も再 現しなければ不誠実との誹りを 免れない、等がある。昼の宴会 も多く午後の調査に支障をきた す。北方農村をフィールドにす る場合ある程度やむを得ない が、筆者は体のためにも食事の 時間を外す、日系企業を通じて 手配する、などの飲まずに済む 調査方法を模索中である。   山東省の例はやや特殊にせ よ、伝統的な飲酒文化が残る地 域では宴席での振る舞いはその 人の資質を評価するための判断 材料のひとつである。調査者で ある我々もじっくり観察されて いるのである。宴席での失態が 許されるのは日本だけのこと 、 飲んでも節度を失わず、相手を 楽しませようとする態度は好感 を持たれるだろう。宴会は体を 張った乾杯合戦になるため、酒 量に自信があっても中国式の宴 会に慣れない場合は最初から一 切飲まないのが賢明である。 ●その三   言葉の壁   広大な中国には各地に方言が あり、広東語、上海語のように 公用語︵北京語︶とは全く異な る言葉が多数存在する。北方方 言は公用語に近いとはいえ、都 市と農村、話者の年齢によって 公用語からの乖離度は異なる 。 標準的な北京語しか解さない筆 者にとって、声調や発音の違い は致命的である。しばらく会話 をすればある程度慣れるが、高 齢者や農村住民となると調査効 率は極端に低下する。   筆者は山東省に一年滞在した が、農業省らしくどことなく土 の匂いのする山東訛りには随分 悩まされたものである。農家数 十人に対し聞き取りを行った時 は、当方の質問は理解してもら えても回答を聞く段になるとし ばしば問題が生じた。若年層や 出稼ぎ経験のある人はほぼ問題 なかったが、困難を極めたのは 六〇代のほとんど村から出た経 験のない人で、例えば息子の就 職 先 が﹁ 成 都 ﹂なのか ﹁青 島﹂ なのかを判別することすら困難 であった。調査には地元出身の 研究者に同行願い、理解を助け てもらうことも多い。   なぜ敢えて障壁の多い中国農 村をフィールドに?と聞かれる こともある。中国農村が毎回新 しい発見と刺激に満ちていると いう理由の他に、不確実な社会 の中で人とのつながりを頼りに 強く生きる人々の姿そのものが 魅力的だからかもしれない。中 国でよく ﹁有縁分 ︵ご縁がある︶ ﹂ という言葉を使うが、私が中国 農村というフィールドに出会っ たのも何かの縁としか言いよう がない。 やまだ ななえ/アジア経済研究所 環境・資源研究グループ 専門は中国農村・農業経済研究。

45

アジ研ワールド・トレンド No.202 (2012. 7) 写真2:農家調査風景(2006年8月、山東省青島市 郊外)

参照

関連したドキュメント

この調査は、健全な証券投資の促進と証券市場のさらなる発展のため、わが国における個人の証券

事前調査を行う者の要件の新設 ■

ヨーロッパにおいても、似たような生者と死者との関係ぱみられる。中世農村社会における祭り

※調査回収難度が高い60歳以上の回収数を増やすために追加調査を実施した。追加調査は株式会社マクロ

その他 わからない 参考:食育に関心がある理由 ( 3つまで ) 〔全国成人〕. 出典:令和元年度食育に関する意識調査 (

むしろ会社経営に密接

★分割によりその調査手法や評価が全体を対象とした 場合と変わることがないように調査計画を立案する必要 がある。..

輸入申告に係る貨物の所属区分等を審査し、又は決定するために必要