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開発パラダイムはシフトしたか (特集 国際協力と研究者 -- 現場と研究室の間の深い河 -- 第II部 現場から望むこと)

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Academic year: 2021

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開発パラダイムはシフトしたか (特集 国際協力と

研究者 -- 現場と研究室の間の深い河 -- 第II部

現場から望むこと)

著者

久木田 純

権利

Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア

経済研究所 / Institute of Developing

Economies, Japan External Trade Organization

(IDE-JETRO) http://www.ide.go.jp

雑誌名

アジ研ワールド・トレンド

180

ページ

20-21

発行年

2010-09

出版者

日本貿易振興機構アジア経済研究所

URL

http://hdl.handle.net/2344/00004421

(2)

アジ研ワールド・トレンド No.180 (2010. 9)

20

●開発

  二一世紀の世界は、物理的、経 済的なパワーを中心とする社会か ら、知識や心理的なパワーとそれ を生み出す人間の価値観や倫理観 を尊重するような社会へと移行し ようとしている。開発の目的やア プローチの枠組みである﹁開発パ ラダイム﹂もそれを反映して大き く変わっている。国連ミレニアム 開発目標に代表される世界のコン センサスは、途上国の人々の生存 と発達を確保し、教育や水と衛生 などの基本的なニーズを満たし 、 彼らの潜在能力の発揮を可能にし ようとするものである。またその アプローチも ﹁オーナーシップ﹂ と﹁パートナーシップ﹂を中心と したものに変わり、開発資金の調 達方法も大きく変わろうとしてい る。目標達成のための手段も、予 防接種やマラリアの蚊帳など低コ スト、高インパクト、シンプルな 方法が開発されている。また、開 発に関わる主体も政府や国際機関 以外に個人や企業の参加が進んで おり、双方向的で支援者自らの生 活をも変えるような途上国との関 わり方へと移行している。   私が ﹁アジ研﹂ に期待するのは、 日本における途上国研究の拠点と して 、このような変化を実証的 、 理論的にとらえ、分かりやすく解 説し、日本社会が途上国との関わ り方においてより効果的で望まし い方向へ向かうための﹁ファシリ テーター﹂となることである。そ のために三 つ の こ と を 提 案 した い。   まず 、﹁ 開発パラダイム﹂につ いての議論を広範な研究者、実務 家を交えてやってみてはどうだろ うか。組織の使命と価値観を明確 にした上で、戦略形成をし、組織 構造を整え、様々な手で財源を確 保し、評価と研究開発を通して学 習する組織へと変わってくという のが開発のみならず世界のマネジ メントの潮流である。それを日本 社会が行うためにも、開発パラダ イムという全体像を整理し、明確 にする作業は必須であろう。   一九九〇年代の日本の開発援助 は道路や港湾など﹁ハコモノ﹂中 心で、社会開発分野での理解、地 域住民やジェンダーへの配慮など の領域で大きく遅れていた。そこ で私は、一九九七年に日本の国際 開発学会で﹁新開発パラダイム概 念化の試み﹂という論考を発表し て見た。 ︵詳しくは、 佐藤寛編﹃援 助研究入門﹄アジア経済研究所 、 第八章﹁開発援助と心理学﹂を参 照︶経済中心の開発を古いパラダ イム、人間中心の開発を新しいパ ラダイムとして紹介したこともあ り、賛否両論は出たものの、その 後これらを統合するような視点は 出てきていない。インフラや経済 開発中心の日本の OD Aの果たし た役割については、そのアプロー チや効果についての批判がなされ る一方、有効性を主張する議論も 多かった。しかし、日本が OD A 世界一の地位を降りてからは、異 なるアプローチへの議論も活発に なってきた。特に住民を主体にし た基礎社会開発の重要性が OEC D / D A C の 新開発戦略やミレニ アム開発目標の採択で支持される ようになったこともあり、日本の OD Aのあり方についても議論が なされるようになった。日本の O D A はマクロ・レベルでの支援を 中心に行ってきたために、基礎社 会開発を中心とするマイクロ・レ ベルでの支援について明確な視点 が確立されていないように思う 。 異なる開発パラダイムについての 整理と理解、そしてそれを国民や 政策決定者に説明することが、今 必要ではないだろうか。

●エンパワ

  二つ目は、開発パラダイムの議 論とも関係しているが 、﹁ エンパ ワーメント﹂の概念についてさら に価値観や動機付け理論をも含め

ムは

たか

第Ⅱ 部 現場から望むこと

国際協力

研究者

現場と研究室の間の深い河

(3)

アジ研ワールド・トレンド No.180 (2010. 9)

21

開発パラダイムはシフトしたか

東ティモールのラモス・ホルタ大統領と(筆者撮影)。 て議論する時期にきているのでは ないかと思う。一九九〇年のナミ ビアの独立を挟んで三年間参加型 コミュニティー開発を担当し、ア フリカ各地での取り組みを見る機 会を得て日本に戻った時に不思議 に思ったのは、途上国の現場では 頻繁に使われている﹁エンパワー メント﹂という言葉が日本ではあ まり使われたり、議論されていな かったことである。一九九二∼九 八年にユニセフ駐日事務所で勤務 する間 、私は心理学や精神医学 、 教育学、 保健福祉学、 コミュニケー ション論などの研究者や国際機 関、 NGO 、開発援助機関などの 実務家による議論を行う﹁開発と 人間科学﹂ という研究会を主催し、 そこでの議論を整理して、 雑誌 ﹃現 代のエスプリ﹄の﹁エンパワーメ ント﹂特集号三七六を出版した 。 私としては 、これを機にエンパ ワーメントの概念についての議論 が進むことを期待して、現場に出 た。その後様々な引用はなされた が、まとまった議論はなされてこ なかった 。やっと二〇〇五年に なってアジ研から佐藤寛氏の編集 で﹃援助とエンパワーメント﹄が 出版された。佐藤氏も指摘するよ うに、エンパワーメントの概念は その発展段階にあり、さらなる検 証と理論化が行われなければなら ない。エンパワーメントという言 葉の背景には、人間の内発的動機 づけを核とする、人間中心のパラ ダイムがあり、その概念化や検証 を経済中心のパラダイムで考えよ うとすることには無理がある。佐 藤氏らがエンパワーメントを﹁言 説﹂だと仮定し、様々な検討を加 えたのは意義あることだと言え る。エンパワーメントの概念には 心理的な側面が強く関わってお り、そのプロセスについても理論 化や検証が今後必要になってくる であろう。最近は内発的動機づけ に対する一般の理解も進みつつあ り︵例えば、ダニエル・ピンク著 ﹃モチベーション 3 ・ 0 ﹄講談社︶ 、 認知心理学と結びついた行動経済 学も注目されるようになった。途 上国の住民自らが開発の主体とな るという﹁オーナーシップ﹂もそ れを支援する外部者のとる﹁パー トナーシップ﹂という関係性も 、 ともに内発的動機づけの重要なプ ロセスである。エンパワーメント の議論をさらに進めることによっ て、新しい開発パラダイムへの理 解が深まるのではないだろうか。

●BOP

  三つ目は、日本の市民社会と企 業の開発への取り組みについて 、 倫理観との関係について整理する と同時に、途上国の貧困層を対象 とする BOP ビ ジネス、企業の社 会的責任︵ CSR ︶、 イ ンターネッ ト上での開発支援活動などの革新 的なビジネス・モデルについて研 究、議論を進める必要があるので はないだろうか。   これまでも、フェアトレードな どビジネスを通して途上国の貧困 層を支援する開発協力はいろいろ と行われてきたが、最近はもっと 広範に企業が貧困層に関わるよう になってきた。また、 CSR の概 念が広がり、ブランド強化と商品 の販売促進、社員の価値観向上な どの効果も期待できるため、王子 ネピアの﹁千のトイレ﹂など多く の企業が途上国の開発に関わるよ うになっている。インターネット 上で貧困層向けの商品を個人が選 んで支援できる﹁コペルニク﹂の ような新しいタイプの開発支援活 動も見られる。企業の寄付つき商 品やネットでの寄付など、個人の 小額の支援を途上国の貧困層に送 るメカニズムはさらに拡大してい くだろう。開発協力の資金はこれ からも多様化していくが、その背 景にあるのは﹁より平等で公正な 世界にしたい﹂ ﹁環境にやさしい﹂ ﹁途上国の子どもたちのためにな る﹂などの個人の倫理観や価値観 とそれを判断基準として行う支援 や消費、投資行動である。大きな 資金を持つ O D Aを開発資金調達 の頭︵ヘッド︶部分とすると、小 額だがたくさんの人が関わる部分 を長い尻尾 、︵ロング ・テール︶ に例えることができる。 BOP と ロング・テールを結びつけるよう な新しい開発支援のモデルについ てもアジ研で議論されるのを期待 している。 ︵くきた   じゅん/ユニセフ東ティ モール事務所代表︶

参照

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