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教員養成「小学校音楽科教育法」の授業に関する考察

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(1)Title. 教員養成「小学校音楽科教育法」の授業に関する考察. Author(s). 芳賀, 均; 布施, 美砂子; 久保, 允人. Citation. 北海道教育大学紀要. 教育科学編, 67(1): 359-376. Issue Date. 2016-08. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/8002. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) 北海道教育大学紀要(教育科学編)第67巻 第1号 Journal of Hokkaido University of Education(Education)Vol. 67, No.1. 平 成 28 年 8 月 August, 2016. 教員養成「小学校音楽科教育法」の授業に関する考察 芳賀 均・布施美砂子・久保 允人 北海道教育大学旭川校. Consideration about the Lesson of Teacher Training “Teaching Music in Elementary School, Purpose and Methodologies” HAGA Hitoshi, FUSE Misako and KUBO Masato Asahikawa Campus, Hokkaido University of Education. 概 要 本研究は,大学の授業に関する授業研究である。教員養成課程の授業「小学校音楽科教育法」 に関し,筆者は,学生が将来的に小学校の教育現場において「ピアノが苦手だから音楽の授業 には積極的になれない」とか「私は音楽は教えられない」という意識を克服した状態で教育活 動に臨めるような内容を提供したいと考えている。その際,学生,ひいては教師の音楽の授業 に対する抵抗感を取り除いていく上で,各自が授業を構成することができるという実感をもつ ことが重要である。本研究では,そうしたことに資する教員養成課程の授業として,どのよう な工夫が効果的であるか,調査結果を検討・考察し,授業の内容や授業の方法,授業に使用す る印刷物(プリント教材)の工夫について考察する。. という言葉が聞かれないようにしたい。このよう. はじめに. に,教師や学生の音楽の授業に対する抵抗感を取 1). 先の「授業づくりカードの作成」 と題した文. り除いていく上で,まず,授業を構成することが. 章中で, 「音楽の授業に対し,小学校の教育現場. できるという実感をもてることが重要である」と. の教師や,それを目指す教職課程の学生には,少. 筆者(芳賀)は述べた。そして,そうしたことに. なからず抵抗感がある。しかも,多忙な教師は日々. 資するモジュールの形をとった道具として,様々. の業務に追われ,なかなか音楽の授業方法の研究. な活動を,見たり,引き出したり,取捨選択した. にまで手が回らないという現状がある。また,大. りして授業を構成するための「授業づくりカード」. 学の授業『小学校音楽科教育法』で学ぶ,音楽専. を作成した。. 攻でない学生からは,将来的に小学校の教育現場. 一方,子どもに関しては,「学習指導要領実施. において『ピアノが苦手だから音楽の授業には積. 「音楽」 状況調査(平成24年度調査)」2)によると,. 極的になれない』とか『私は音楽は教えられない』. において,「音楽の学習をすれば,ふだんの生活. 359.

(3) 芳賀 均・布施美砂子・久保 允人. や社会に出て役立つ」という問いに対する答え. の概要は,以下のようである。. (%)が「20.3(そう思う) ・27.4(どちらかとい. ○ねらい. えばそう思う)・22.5(どちらかといえばそう思. ・学生や教師(すなわち学生の将来)の音楽の授. わない) ・17.3(そう思わない) ・8.4(わからな. 業に対する抵抗感を取り除く. い) 」である。また,「音楽等質問紙調査(平成16. ・とにかく楽しいという経験と,実践できるとい. 年度「特定の課題に関する調査」と併せて実施。. う手応えを学生自身が感じられるようにする. 小学校第4~6学年)」3)によれば,「音楽を学習. ○方法と内容. すれば, 私の好きな仕事につくことに役立つ」「音. ・小学校における歌唱共通教材24曲の全てと鑑賞. 楽を学習すれば,私のふだんの生活や社会に出て. 教材の例を合わせて30曲程度を15回の講義で扱. 役立つ」 「将来,音楽の学習を生かした仕事をし. い,教材についての知識に触れる. たい」に対する「そう思わない+どちらかといえ. ・同時に,学習指導要領の解説や音楽的な基礎知. ばそう思わない」の回答が「そう思う+どちらか. 識・技能,授業の構成方法等について触れる。. といえばそう思う」との回答を上回る状況もある。. その際,実技演習も取り入れる. すなわち,音楽の学習に対する有益感が低いとい. ・毎回,提示された教材でどのように授業を構成. える状況であり,指導する教師の意識と無関係と. するか,授業プラン作成の演習(授業づくり演. はいえないものと思われる。. 習)を行う。その際,学生が授業プランを作成. そこで,学校現場の現状に働きかけるのが難し. 後, 「授業の鉄人」 と称するサブティーチャー(T2. いこともあり,対象を大学の授業として,「小学. およびT3)からモデルプランを提示し,比較. 校音楽科教育法」の授業において,小学校におけ. 検討する. る歌唱共通教材24曲の全てと鑑賞教材の例を合わ. ・音楽づくりや合奏指導等の実技演習も行う. せて30曲程度を15回の授業で扱い,その中で学習 指導要領の解説や音楽的な基礎知識・技能,授業 の構成方法等について触れる形で実施した。その. 2 本研究の内容. ことを通して,とにかく音楽は楽しいという経験. 前節をふまえた「小学校音楽科教育法」の講義. と,音楽の授業を実践できるという手応えを学生. を行う。その実践における学生に対する調査結果. 自身が感じられるようにするねらいをもって行っ. やワークシートの作業結果を検討・考察すること. た。その際,授業を構成することに資するため,. で,講義のどのような方法・内容,教材が,前節. 先述の「授業づくりカード」も活用した。. で述べたねらいに迫るものであるかについて考察. 本稿では,そうした背景と,「小学校音楽科教. する。. 育法」の授業において学生の学習結果に見られた 傾向やアンケート調査の結果をふまえて,授業の 内容や授業の方法,授業に使用する印刷物の工夫 について述べる。. 3 「小学校音楽科教育法」の講義における 調査結果の検討と考察. なお,これ以降,混乱を防ぐため,大学の授業. ⑴ 授業づくり演習の作業結果の検討と考察. を区別して「講義」と表記することにする。. 毎回の講義で行うワークシート作業のうち,そ の約半分を占める内容が,提示された教材を使っ. 1 「小学校音楽科教育法」の授業について. て作成する授業プランである。その作業結果を整 4) である。平 理したものが,次ページの【表1】. 筆者(芳賀・久保・布施)は,大学の講義「小. 成26年度の講義におけるワークシート(第1・. 学校音楽科教育法」をTTで実施した。その講義. 7・13回の分,のべ652枚)の記述内容から,学. 360.

(4) 教員養成「小学校音楽科教育法」の授業に関する考察. 【表1】授業づくり演習の作業結果. ⑤ 「鑑賞」「ただ聴く」に関して(取り入れた 割合) 講義が進むにつれ,レコード(CD)等を聴く 割合が増加し(「鑑賞」「聴く」の合計が,81.0% →97.4%→98.3%),かつ,ただ聴くに留まらない ものが(「鑑賞」のみは表中に記載なし。7.9% →15.8%→19.6%)増加した。いきなり歌を口移 しで教えるといった形でなくなり,まず楽曲を聴 くという活動の意義が理解されたものと考えられ る。. 生の授業づくりに関する傾向を整理した。その結. ⑥ 「創作」に関して(取り入れた割合). 果を検討し,具体的な手立てを導き出す。. 創作に関しては,現場の教師にとっても肯定的. ① 活動のべ数(件数の平均). に捉えている割合の低い状況5)がある。講義の開. これは,1つの楽曲を教材として,いくつの活. 始時に意識の薄かったものが,回を追うごとに創. 動で授業を構成(例:聴く→歌う→歌詞の確認→. 作的な活動を取り入れる割合が高まっている様子. 仕上げに歌う,等)するかの平均である。講義が. が見て取れる(1.9%→17.3%→36.3%)。. 進むにつれ,学生の立てる授業プランが多彩で豊. ⑦ 「その他」について(取り入れた割合). かなものになっていることがわかる(4.26→6.03→. これは,絵を描く等の活動である。第1回では. 8.99) 。. 音楽に関係のない活動が多く見られたが,第7回. ② 活動内容(件数の平均). ではそれが減少し,第13回では歌詞の朗読や情景. これは,①の「活動のべ数(件数の平均)」に. を絵に描くといった内容を深める活動を適度に取. おける同種の活動を重複と見なして(例:ドレミ. り入れる形に落ち着いていった(63.9%→57.1%. 唱をする・母音唱法で歌う,等は歌唱として1件. →67.9%)。. とする)計測したものである。すなわちこの数値. ⑧ 「自己採点」の結果(100点満点中). は,例えば「歌唱」の活動に偏っていないか等,. これは,自分の立てた授業プランに対して,採. 活動の多様さを示し,1に近いほど活動が単調で. 点表に従って行う自己採点の結果である。自身の. あるということができる。講義が進むにつれ,学. 授業プランづくりに対する自信の現れと考えるこ. 生の立てる授業プランにおける活動のバランスが. とができる。第1回の講義でサブティーチャーに. 改善されていることがわかる(2.92→3.88→4.68)。. よる授業づくりの演示と受講者による採点によ. ③ 「歌唱」の扱い(取り入れた割合). り,基準的なものを示している。回を追うごとに. 第1回では歌唱を取り入れないプランが見られ. 自己評価が高まっている様子が見て取れる(58.3. たが,第7・13回では全員が歌唱を取り入れてい. →74.5→91.2)。. る。. ⑨ 講座内容の反映(件数の平均). ④ 「器楽」の扱い(取り入れた割合). それぞれの前の回までに講義で紹介された授業. 講義が進むにつれ,器楽を取り入れる割合が増. 方法等をどれだけ取り入れて授業プランを立てた. 加している(4.6%→89.3%→94.2%)。特に第1. かという数値である。回を追うごとに,それまで. 回では5%に満たなかったが,歌唱教材であって. の授業で得た知識が盛り込まれ,活用されたこと. も,旋律を演奏したりリズムに合わせて鳴らした. が見て取れる(第7回には平均1.69件,第13回に. り,何らかの形で楽器を用いて楽しむことが,回. は平均3.77件)。. を追うごとに増加した。. 361.

(5) 芳賀 均・布施美砂子・久保 允人. これらのことから考察すると,以下のようなこ. ・ 「専門的用語も言葉を噛み砕いて説明してくれる」. とがいえる。. ・ 「楽しい授業展開で内容が頭に入ってきやすい. ・講義において,授業プラン作成の演習(授業づ くり演習)を反復することは効果的である ・講義において,活動のバランスを意識づけるこ とは,単調な授業を防止する上で有効である ・講義において,器楽の演習や創作の事例紹介を 取り入れることは,意識が向きにくい器楽や創 作といった活動を音楽の授業に取り入れていっ てもらう上で有効である. ため」 ・ 「他の人の意見を聞けて発想に広がりを感じます」 ・ 「授業を考える流れが,たくさんありより深い 理解になっています」 ・ 「リコーダーを吹いたり,歌を歌うなど実際に 体験しながらやれるのがいいです」 ・ 「この授業を受けたことで,授業を行う自信が ついたから」. ・講義において,レコード(CD)を使用し,また,. ・ 「音楽の勉強をしていないと知らないような知. 単に聴取に終始しない方法を積極的に紹介して. 識や指導法をわかりやすく実演してくれたため. いくことで,聴くことに関する意識が高まる. とても勉強になりました」. ・これらのことが相互に関わり合って,授業をつ くれるという実感や自信の向上につながる. ・ 「小学校音楽で扱う楽曲を全て行い,鑑賞や評 価の観点などさまざまな見方から音楽を見つめ 直すことができたからです」. ⑵ 授業評価アンケートの記述内容. ・ 「授業の要素が沢山散らばっていて,これから. 大学全体で行われる授業評価アンケート(平成. 授業を考える上で大変参考になりました。引き. 26年度後期)の記述内容には,以下のようなもの. 続き,これを活かしつつ音楽のみならず他にも. 6). が見られた。講義内容に関するものを掲出 し,. 応用しようと思いました」. 考察する(全て原文ママ)。 ・ 「かみ砕いた説明に加え,体験的な活動が多く,. これらの内容から,学生が求めており,かつ方. 『覚えよう』と意識しなくても記憶に残る」. 法として取り入れるべき事柄として,以下のこと. ・ 「楽しい話と説明で理解しやすい」. が考えられる。. ・ 「言葉の説明ばかりではないためイメージしや. ・専門用語を,学生にとって,実感を伴う形でわ. すいから」 ・ 「難しい言葉を例えを使って分かりやすく説明 してくれる」 ・ 「演習や実習を含め,具体的に説明してくれる」 ・ 「具体例や体験談を交えて説明してくださるから」. かりやすく解説すること ・指導上のコツの解説を練り込んだ形で,器楽等 の実技演習を取り入れること ・他の学生等の考えに触れることのできる場面を 設けること. ・ 「現職を担当してきた中で生徒への指導方法や. ・その場のみのハウツーに留まらず,背景にある. 教採の内容など有益な情報が多くとても参考に. 考え方や歴史的な経緯,活用・発展のヒントを. なりました」. 盛り込んだ提案をすること. ・ 「一見楽しくする授業方法についての解説につ いてだけかと思いますが,ちゃんと根拠のある. ⑶ 歌唱共通教材の学習記憶. 解説で,納得の出来る指導方法を教えていただ. 現行の小学校学習指導要領7)に示されている歌. けます」. 唱共通教材について,学生8)の,過去に学習した. ・ 「授業が非常に楽しい。重要なポイントをしっ かり教えてくれる」 ・ 「楽しみの中で,学びがあり,大変よいです」. 362. 記憶がどのようであるか整理したものが,【表 9) である。 2】.

(6) 教員養成「小学校音楽科教育法」の授業に関する考察. 【表2】小学校で学習した記憶のある歌唱共通教材. も済むような気持ちをもってもらうこと ・どのような時期に,どのような配分で取り扱え ばよいか考えるヒントを提供すること ⑷ 平成27年度の学生の意識調査の結果と考察 以下に,講義時に実施したアンケート結果を掲 出する。内容ごとに考察を行うことにする。 ① 小学校音楽科は,児童の豊かな情操を養う上 で必要あるいは重要な教科であるか(【表3】. この結果からは,次のことが見て取れる。. 参照). ・ 『ふるさと』が,最も学んだ記憶が残っている 楽曲である。最終学年ということもあろうが,. 【表3】①の問に対する回答の結果. 授業に留まらず,学校行事等でもよく活用され る楽曲であることが考えられる ・ 『さくらさくら』を除くと,純邦楽的な楽曲(『か くれんぼ』は昭和の作品であるが,日本音楽の つくりである)は10%台以下である。これは, 「現場では,音楽専科が置かれていないことも. ここでの注目点は,「とても感じる」とした学. 多く,音楽のわからない先生が教えることにな. 生が第1回と第13回の比較で,31.1ポイント増の. る。 (中略)特に,日本音楽は困っている先生. 83.4%となったことである。学習指導要領を暗記. 10) いとの主張からもわかるように,現場 も多」. させたり,「情操を養うことが重要」と言って聞. で扱われづらいか,あるいは丁寧に扱われな. かせても不可能なことであり,学生が情意面に関. かった可能性を示唆していると考えられる. して実感をもてるような内容・活動を伴ったこと. ・5年生の教材は,卒業式等の高学年にとって多. が影響したと考えられる。. 忙な行事の時期に,冬を題材にした2曲が配さ れていることも影響しているように思われる ・記憶している人数が半数未満の楽曲が24曲中17. ② 小学校で音楽を教えることに難しさを感じて いるか(【表4】参照). 曲ある。それは歌唱共通教材の実に70.8%に及 ぶ。歌唱共通教材の扱い方や教材に対する意識. 【表4】②の問に対する回答の結果. に課題があるように思われる これらのことからは,以下のような配慮すべき 点が見いだされる。 ・まず,学生(すなわち将来の教師)が知らない 歌唱共通教材に触れること. ここで注目したのは,「とても感じる」とした. ・特に日本の音楽については, 「3⑵」をふまえて,. 学生が第1回と第13回の比較で,18.9ポイント減. 解説を丁寧に行い,多様な授業方法を紹介する. 少したことである。また, 「とても感じる」と「ま. こと. あまあ感じる」の合計で見ても19.9ポイントの減. ・未知の楽曲であったとしても,子どもと共に学. 少,さらに,「あまり感じない」「全く感じない」. ぶ姿勢をもてばよいと伝え,避けて通らなくて. の合計は4.1ポイントの増加となった。これは,. 363.

(7) 芳賀 均・布施美砂子・久保 允人. 本稿の「1」に掲げたねらいに迫るものであると. 第13回との比較で28.1ポイントの増加,一方, 「あ. 考えられる。 「授業づくりカード」や,教材につ. まり感じない」「全く感じない」の合計は,第1. いて理解を深められる解説,教材の活用方法や具. 回と第13回との比較で5.5ポイントの減少となっ. 体的な授業方法に関する解説や実習が効果的で. た。レコード(CD)を単なる伴奏のためのもの. あったと考えられる。. とせず,多様な活用法や効果的な提示の方法,何 をどのように聴かせるか等の解説や演示を行った. ③ 小学校で音楽を教えることに不安を感じてい るか( 【表5】参照). ことが効果的であったと考えられる。また,この ことで,鑑賞の領域に対する意識が高まったと考 えられる。「3⑴⑤」とも通ずるところである。. 【表5】③の問に対する回答の結果. ⑤ 本講義で学んだことを将来生かしたいと思う か(【表7】参照) 【表7】⑤の問に対する回答の結果. ②で上述した「教えることに難しさを感じてい るか」と同様に,この「教えることに不安を感じ ているか」についても, 「とても感じる」とした 学生が第1回と第13回の比較で,21ポイントの減 少が見られた。また,「とても感じる」と「まあ. 第13回においては,「どちらともいえない」以. まあ感じる」 の合計で見ても22.1ポイントの減少,. 下の回答が0%,すなわち,本講義の内容を生か. さらに, 「あまり感じない」「全く感じない」の合. したいと思う学生が100%となった。しかも,そ. 計は11ポイントの増加となった。これは,本稿の. の中でも「とても感じる」としたものが96.3%で. 「1」に掲げたねらいに迫るものであると考えら. あった。実践上の経験談等を交えたことで,自分. れる。やはり, 「授業づくりカード」や,教材に. でも授業を行ってみたいという意欲の高まりに資. ついて理解を深められる解説,教材の活用方法や. することができたのではないかと考えられる。. 具体的な授業方法に関する解説や実習が効果的で あったと考えられる。. ⑥ これまでの講義を終えて,手応えや成果を感 じているか(【表8】参照). ④ 技能面に不安がある場合,授業で積極的に CDを使用したいか(【表6】参照). 【表8】⑥の問に対する回答の結果. 【表6】④の問に対する回答の結果. 第13回においては,講義を受けての手応えや成 果を感じていない学生が0%となった。また, 「と ても感じる」が第7回と第13回の比較で11.7ポイ レコード(CD)を「使用したい」か否かにつ. ントの増加,「とても感じる」「まあまあ感じる」. いては, 「とても感じる」という回答が第1回と. の合計が第7回と第13回の比較で5.3ポイントの. 364.

(8) 教員養成「小学校音楽科教育法」の授業に関する考察. 増加であった。このことは,音楽に対する理解が. 併せて,自信のある指導分野を選択した理由を. 深まったり,実践できるという技能的な向上を実. 記述してもらったものの中には,以下のようなも. 感したりしたからであろうと思われる。理論的な. のが見られた(全て原文ママ)。. 背景に裏打ちされた演習によって,こうした変化. 〈歌唱〉 「私自身,歌うことが好きだから」「逆に. が現れたものと考えられる。. ここ以外,あまりできません」 〈器楽〉 「小学生の時得意であったため」「ピアノ. ⑦ 最も苦手意識をもっている指導分野(【表9】 参照). を習っていたから」 〈創作〉「自由に創作をすることは好きだから」 〈鑑賞〉 「技能的なものが必要ないから」 「ビデオ,. 【表9】⑦の問に対する回答の結果. CDを使えるから」「消去法」 〈全て自信なし〉「教えられる技量がない」「今ま で音楽活動をしてこなかったから」 器楽に関し,第1回と第13回では7.6ポイント の減少が見られた。これは,自分が楽器の演奏が. 併せて,苦手な指導分野を選択した理由を記述. できれば児童に教えることができるといった感覚. で回答してもらったものの中には,以下のような. が,楽器演奏の指導法の解説等で学んだ留意点や. ものが見られた(全て原文ママ)。. 指導上のコツなどによって,慎重に行うべきもの. 〈歌唱〉 「音痴だから」「人前で歌うのが,はずか. であることへの意識が高まったことが見て取れ. しい」. る。また,「3⑴⑥」に見られたように,意識に. 〈器楽〉 「楽器が弾けない,楽譜読めない」「楽器. 大きな変化のあった創作であるが,指導に対する. が上手くひけなかった過去があるから」. 自信という面でも,増加を見ることができた。た. 〈創作〉 「何を教えればよいのかわからないから」 「どのようなものか想像がつかないから」. だ,他に比べて低く,より意識的に創作の活動を 取り入れていく必要があると考えられる。. 〈鑑賞〉 「評価の付け方が難しいから」「感性には 答えがなく,どう教えていいか分からな いから」 歌唱が第1回と第13回では10.6ポイントの減少,. ⑨ 本講義でどのような力を身に付けたいか・本 講義でどのような力が身に付いたと感じている か. 器楽が同2.5ポイントの減少となった。演習を交. 第1回の講義にて,本講義でどのような力を身. え,実技指導や解説を行ったことが影響したもの. に付けたいかを記述で回答してもらったものの中. と思われる。歌唱・器楽が減少した分「創作」が. には,以下のようなものが見られた(全て原文マ. 上昇したが, 「3⑴⑥」をふまえ,次の⑧に述べ. マ)。. るように手立てを講じていく必要があるといえる。. ・「苦手な子にも楽しんでもらえるようにしたい」 ・「音楽科に関する知識」 ・「技能面」. ⑧ 最も指導に自信のある分野(【表10】参照). ・「音楽科についての指導方法や指導力」 ・「授業力,又は授業に生かせるアイディア等」. 【表10】⑧の問に対する回答の結果. ・「子どもにとって楽しい音楽の授業ができる力」 ・「音楽を楽しむ力」 ・「歌唱等各分野の基礎」 ・「児童が楽しく音楽を学べる授業」 ・ 「音楽の魅力を伝える力」 ・ 「ピアノを弾く力」 ・ 「児童の興味をひくような授業とは何かを理解. 365.

(9) 芳賀 均・布施美砂子・久保 允人. したい」. ・ 「鑑賞はここまでおもしろくできるのか,と驚. ・ 「評価の基準を知りたい」. きました。ただ聴くだけではなく,自分や友達. 一方,第13回の講義にて,本講義でどのような. といろいろ相談したり想像しながら取り組むこ. 力が身に付いたと感じているかを記述で回答して. とで勉強になるし楽しいと思いました」. もらったものの中には,以下のようなものが見ら. ・ 「今まで受けてきた鑑賞の中で一番面白かった. れた(全て原文ママ)。. かもしれない。こういう授業の仕方もあるのだ. ・ 「子どもたちが音楽を楽しいと思う授業方法」. なと思いました」. ・ 「授業づくりのアイデア」 ・「評価のしかた」. ・ 「自分が小・中学生の時の鑑賞の授業では,個. ・ 「音楽という教科の良さ,伝え方が分かった」. 人的にただ曲をきき,プリントに感想をかいて. ・ 「授業のバランスのとりかた」 ・「知識」. おわっただけだったので,あまりたのしいとい. ・ 「音楽の授業づくりへの自信」. うイメージがないのですが,今日の先生のやり. ・ 「楽しい,学ぶ意味を感じれる授業をする力」. 方をきくと,とてもたのしかったので,これか. ・ 「小学校で音楽の授業ができそうな気がしてきた」. ら鑑賞のたのしい授業方法について考えていき. ・ 「1つの曲に対する多数のアプローチ」. たい」. ・ 「ただうたったりするだけじゃない方法で音楽 をすること」. ・ 「『鑑賞=ねむくなる,つまらない』だったが, 1曲をわけて聞かせたり,感じたことを因果関. ・ 「音楽への向き合い方」. 係でつなげたりみんなが参加できるようにする. これらをふまえると,楽しく有意義な音楽の授. のはとても楽しいと思った」. 業をしたい,そのための知識や技能を身に付けた. ・「これまで受けた鑑賞よりも楽しく感じました」. い,という要求があり,そうしたことを身に付け. ・ 「鑑賞はねむくなるイメージだったけどそんな. ることができたという実感と成果を感じているこ とが見て取れる。. ことなかったです」 ・ 「鑑賞はあまり好きではなかったけど,今回の 講義で鑑賞も楽しいと初めて思いました。方法. ⑸ 平成27年度のワークシートに見られた学生の コメント ワークシートに記入された学生のコメントに は,以下のようなものが見られた(鑑賞および自 己の将来像に関わるものを掲出。全て原文ママ)。. によって,大きく変わってくるんだということ がわかりました。楽しい方法を考えられるよう になりたいと思います」 ・ 「かんしょうがこんなにおもしろいとは思わな かった」. ① 鑑賞を取扱った際の,ワークシートのまとめ 欄に記入された,鑑賞に関するコメント ・ 「今まで,鑑賞って何の為にやっているんだろ うと思っていたけれど,感受性を豊かにするた めに必要なことだと思った。感じたことを言葉 にすることはとても大切だと感じた」. ② ワークシートの感想欄に,学生自身の描く将 来像について書かれたもの ・ 「私もこのような楽しい音楽の授業をしたいと 思いました」 ・ 「『かくれんぼ』『うさぎ』『ひらいたひらいた』. ・ 「小学校の頃の私にとって鑑賞は,つらい,何. を全く小学校で学んだことがなく,今まで自分. 書けばいいかわからない,『ただ聴くだけなら. がいかに日本の歌を勉強してこなかったかがよ. 音楽すきなのに!』 ,という感じでした。今,. く分かった。教える側になったときはぜひこれ. 体感しながら指導の仕方を学んで,鑑賞って何. らを教えたいと思う」. ひとつつらくもないし退屈でもないじゃないか と思いました」. 366. ・ 「楽しみながら学べる,知れる授業だったので, こんな授業ができたら良いなと思った」.

(10) 教員養成「小学校音楽科教育法」の授業に関する考察. ・ 「楽器や合奏の指導が難しそうで出来るか不安. 習をどのように展開していくのか,どんなポイン. だなあと思っていましたが,今日の講義をきい. トで評価するのか,子供たちにどんな発問をする. て,逆にやってみたいなと思いました。みんな. とよいのかなど,授業の際に役立つ情報が一目で. でちがう楽器をつかって大合奏してみたいで. 把握できるよう,コンパクトにまとめられていま. す!」. す」11)とある。すなわち,教育現場の教師が,授. ・ 「うまいこと教えられない…という教材に出. 業づくりの参考にするものである。教師が自らの. 会ったときは,自分も子どもたちと学びながら. 考えをもたずに全面的にその記述の通りに授業を. 楽しむという気持ちで。よく理解して教えられ. 行ったとしても,また,記述内容を一部取り入れ. るのがよりよいですが,自分がよく分からない. て授業を行ったとしても,いずれの場合でも何ら. という理由だけで子どもたちがその曲に触れら. かの形で授業づくりに活用できるものである。本. れないのはかわいそうなので,そのようにした. 研究では,実験的に作成した「赤刷り」を,大学. いと思いました」. の講義「小学校音楽科教育法」において実際に使. ・ 「とりあつかいが難しいものは,一緒にきいて 楽しむだけでも大事だなと感じた」. 用する。それを使用した学生に対する調査結果を 検討・考察することで,どういった内容をどのよ. ・ 「だんだんと関わりが薄くなるような日本の文. うに組合せて学生に提示することが,本稿の「1」. 化・伝統楽器を学校で取りあげ,少しでも子ど. に掲げたねらいに迫るものであるかを整理する。. もに触れてもらうことが大切だと感じた。教師 が苦手だからといって逃げるのではなく,子ど. ⑴ 「赤刷り」とは. もと一緒に学んでみるという姿勢を持ち,授業. 現在,音楽科の教科書を発行している出版社は,. をすることが必要だと思う」. (小学校,中学校,高等学校ともに)教育出版株. これらの内容から,学生が求めており,かつ方. 式会社と株式会社教育芸術社・株式会社音楽之友. 法として取り入れるべき事柄として考えられるの. 社(高等学校のみ)である。教科書に準拠し授業. は,以下の通りである。. 実践を助けるものとして出版社から発行されてい. ・意義と方法をわかりやすく解説しながら,かつ,. るものが教師用指導書である。教育出版社発行の. 実例を示すこと ・将来,教壇に立った際に,どのように取り組ん. ものでは,小学校向けとして以下の6点から構成 されている。. でいくかという態度的な側面についてビジョン. ・「指導編」:教科書の縮刷とその解説をしたもの. がもてるよう,教師論的な内容にも触れたり,. ・ 「研究編」:教材解説,授業計画,鑑賞用使用を. 学ぶ側の児童の立場からの視点を伝えたりする こと. 掲載し,教材研究に使用するもの ・ 「伴奏編」:本伴奏,簡易伴奏,合奏スコア,参 考楽譜等を掲載したもの. 4 「小学校音楽科教育法」の講義に使用す る教材に関する検討と考察 本節では, 「小学校音楽科教育法」の授業にお いて使用する教材について,印刷物に焦点を当て. ・「表現CD」:範唱と伴奏を収録したもの ・ 「鑑賞CD」:鑑賞教材と関連性の高い鑑賞参考 曲を収録したもの ・ 「指導用DVD」:表現教材の指導資料映像や鑑 賞教材の演奏映像を収録したもの. て検討し,考察する。その印刷物は,音楽教科書. 教育芸術社でも同様の構成である。実際の授業. の教師用指導書(通称:赤刷り)の形態をとった. で使用するために「指導編」(教育芸術社は「実. ものとする。. 践編」)の装丁は児童生徒用と同一になっており,. 音楽教科書の教師用指導書(赤刷り)には, 「学. それを手元で見ながら授業を行うことが想定され. 367.

(11) 芳賀 均・布施美砂子・久保 允人. ている。. 【表12】問2の回答結果. この研究で取り扱う「赤刷り」とは教科書会社 の発行する指導書の実践編または指導編の中の, 教科書の縮刷の上に赤字で留意点を示し,その周 囲に学習活動の流れや,指導のポイント,発問例 などを示した見開きの紙面のことを指す。 これは,先の「問1」に「いいえ」と答えた人 ⑵ 「小学校音楽科教育法」の授業において使用 する「赤刷り」の作成と実践. にその理由を尋ねたものである。 「用語がわからない」 「レイアウトが見にくい」. 本研究では, 「小学校音楽科教育法」の授業に. に比べ,「具体的な活動方法が載っていない」を. おいて,教科書会社の「赤刷り」に続き,5回に. 選択した受講者が多く,「赤刷り」に示されてい. わたり筆者(久保)が作成した「赤刷り」を用い. る授業展開を理解できない理由は,展開例の説明. た。. が具体的でないことにあると考えられる。. ① 教科書会社の「赤刷り」に対する学生の感じ方 はじめに,第7回の講義において教科書会社か ら発行されている「赤刷り」を学生に提示し,そ. 問3:用語(フレーズ・階名・旋律など)につい ての解説は十分ですか?(【表13】参照). れについての感じ方を調査した。その調査結果は, 以下のようである。. 【表13】問3の回答結果. 問1:例として挙げられている展開は,授業を具 体 的 に イ メ ー ジ で き る も の で し た か? ( 【表11】参照) この質問は「赤刷り」で使われている用語で理 【表11】問1の回答結果. 解できない(解説を必要とする)ことがあるかを 訊ねたものである。用語に対する解説が十分だと 考える受講者は約63%で不十分だと考える受講者 は約29%である。問1で「赤刷り」に示されてい る授業展開を理解できると回答した受講者の割合. 問1は, 「赤刷り」に示されている授業展開を. と比べると17ポイント程度低くなっており,無回. 理解できるかを問う設問であった。この回で使用. 答が7ポイント程度多いことを考えると受講者の. した「赤刷り」は教育芸術社の『小学生の音楽3』. 全体の10%程度以上は示されている授業展開は理. の『春の小川』に関するページの「赤刷り」であ. 解できるものの,細かい用語の意味については自. る。 講義の第7回の時点で学生全体の約80%が「赤. 信がないという可能性があると考えられる。. 刷り」に示されている授業展開を理解できると考 えていることがわかるが,残る約2割にも注目す る必要があると考える。. 問4:この「赤刷り」で解説が必要だと思う用語 はなんですか?(複数回答可・無回答115・ 【表14】参照). 問2:例として挙げられている展開を具体的にイ. この質問はアンケートを実施した第7回に使用. メージできない理由は何ですか?(複数回. した『春の小川』の「赤刷り」の中で解説が必要. 答可・ 【表12】参照). だと思われるものを訊ねたものである。下線を付. 368.

(12) 教員養成「小学校音楽科教育法」の授業に関する考察. 【表14】問4の回答結果. 成の演習(授業づくり演習)において,受講者が 自分の授業プランを自己採点(「3⑴⑧」を参照) する際の基準を基に,「赤刷り」に示されている 展開を採点したものと,この回に学生自身が作成 した授業プランを採点したものの平均点をそれぞ れ示し,その差を求めたものである。既述の問1 から問4までは「赤刷り」に示されている展開を 理解できるか,使われている用語を理解できるか に焦点を当てたものであったが,問5は「赤刷り」. したものは,この回で使用した「赤刷り」には記. に示されている展開を受講者が「よい授業」と考. 載がないにも関わらず回答されたものである。問. えるかどうかを調べるために設定した。. 3で用語の例として「フレーズ」「階名」「旋律」. 結果は,楽しさの項目での得点差が0.9点,指. を挙げていることからそれらの回答が多いとも考. 導要領との整合性の項目での得点差が0.8点で他. えられるが,そこに挙げられていない「スラー」. 項目に比べると差が小さい。楽しさや指導要領と. が最も多いことを考えると例示による回答の偏り. の整合性では自身の授業プランと大きく差がない. への影響は少ないと考えられる。筆者の事前の予. と感じながらも,全体では10.6点の差があること. 想では「スラー」や「フレーズ」といったカタカ. から自分の考える授業プランよりも「赤刷り」に. ナで表記される音楽用語が多く回答されると考え. 示されている展開を高く評価していることがわか. ていたが, 「階名」や「跳躍進行」といった漢字. る。しかし100点満点中81.5点が平均点となって. で表記される音楽用語にも難しさを感じているこ. おり,教科書の内容を実現するための授業の展開. とがわかった。カタカナで表記される音楽用語は. 例として現場の教師が進んで参考にして授業が行. 横に括弧で説明を付けるなどして比較的簡単に対. われるために,この得点が十分であるというには,. 応できるが,漢字で表記される「階名」や「跳躍. 課題がありそうである。. 進行」などは説明が長くなり,言葉の横に括弧で 説明することは難しいため,他の対応が必要と考 えられる。. 問6:例として挙げられている展開を自分の担任 するクラスで使いたいですか?(【表16】 参照). 問5:例として挙げられている展開を自分の作成 した授業と同じように採点すると何点をつ. 【表16】問6の回答結果. けますか?(点数の平均点は,小数点第2 位以下四捨五入・【表15】参照) 【表15】問5の回答結果. ここでは「赤刷り」に挙げられている展開を自 分自身のクラスで授業を行う際に使いたいかを訊 ね,その展開に対する評価を調べたものである。 問5で平均点が81.5点と出たことからもわかるよ 上の表は,この講義で行っている授業プラン作. うに,示されている展開をもとに自分自身でクラ. 369.

(13) 芳賀 均・布施美砂子・久保 允人. スに合わせて工夫したいと考えているようであ. 【表18】問8の回答結果. り, 「手直しして使いたい」がもっとも多く,次 に「困ったら使いたい」が続いている。「赤刷り」 としては「手直しして使いたい」は教師が教科書 を使いながら実際の児童生徒に合わせて授業を行 う上で自然であり, 「困ったら使いたい」も教師 のための指導書としては当然の回答であるが, 「そ のまま使いたい」という積極的な回答が多くなる ような魅力的な展開と,それを理解しやすく噛み 砕いた, わかりやすい記述も重要であると考える。. 校他教科の「赤刷り」で教師の発問例と児童生徒 の反応例で活動を具体的に説明していることがあ. 問7:例として挙げられている展開はあなたのこ. ると思われる。. れまでの学習をもとに授業可能ですか?. また「複数の展開例やアイディア,活動」と「器. ( 【表17】参照). 楽・創作に関わる内容」は,講義内で行っている 授業づくり演習で使用するという側面から,多く. 【表17】問7の回答結果. の活動を取り込みたいという要請が受講者側にあ るため記述が多いと考えられる。「曲に関する知 識や用語の解説」は指導書研究編に実践編である 「赤刷り」よりも詳しく記述されているが,ここ では研究編は参照せず授業を構想するという前提 であるので,現状の「赤刷り」の空きスペースに 曲に関する知識や用語の説明を加えることが必要. この質問では, 「赤刷り」に示されている展開. である。「活動の目的や指導要領との関連」は研. を現段階の能力で行えるかを訊ねたものである。. 究編や実践編の他のページを読むことで理解でき. 「すぐできる」 「準備すればできる」など独力で. るが,「赤刷り」を読むだけでは示されている展. 可能という回答は約76%で学生の能力と「赤刷り」. 開にある活動が何の目的があり,何の領域の活動. の展開がかけ離れたものではないことが確認でき. なのか見えず,指導要領のどの項目と対応するか. るが, 「他の先生の協力があればできる」「できな. わかりにくいことに問題があると考えられる。. い」などの回答も合わせて約23%あり,講義の第 7回目の段階では「赤刷り」の展開は2割ほどの 学生が, 実施は難しいと考えていることがわかる。. ② 「小学校音楽科教育法」の授業において使用 する「赤刷り」の作成 「①教科書会社の「赤刷り」に対する学生の感. 問8: 「赤刷り」にどのような内容が記載されて. じ方」をふまえ,筆者(久保)は「赤刷り[試作. いると授業づくりに役立ちますか?( 【表. 1]」を作成し,講義に供した(【図1】参照)。. 18】参照). それに対する学生の意見は次のようなものであっ. この表は「赤刷り」に記載してほしい内容とし. た(全て原文ママ)。. て,学生が自由記述で回答したものから筆者(久. ・ 「それを行うことでどのような効果があるのか,. 保)が類似の内容の回答ごとに整理したものであ. 少し加えていただいたらよりよくなると思いま. る。 「子どもの反応例や発問例の充実」「もっと細. す」. かく具体的な説明」を学生が求める背景には小学. 370. ・「評価のポイントを知りたい」.

(14) 教員養成「小学校音楽科教育法」の授業に関する考察. 【図1】筆者(久保)作成の赤刷り[試作1]. ・ 「指導案形式でもいいなと思いました」. るように「授業づくりカード」の中からこの曲で. ・ 「教科書の写真がもう少し大きいと嬉しいです」. 使える活動例を筆者(久保)が選び,自身の考え. ・ 「手がきで少し見づらい部分もあるので,パソ. る「オススメ度」と称する表(次ページ【図2】. コンでまとめられたらよいのではないでしょう. 参照)を加えた。これに対する学生の意見として. か」. は以下のものがあった。. ・ 「たくさん書かれているため授業が忙しくなり そう」 ・ 「学年ごとにどんな力を育てることを求められ ているかその力を育てるために○○の活動を取 り入れるということがわかるともっとありがた いです」 ・ 「曲に使われている技法が一目で分かるものを 書いてほしい」. ・ 「授業づくりカードを考えることで,教材研究 を進める手立てになると思いました」 ・ 「右側の表(オススメの◎△)が理由付けです ごくわかりやすかったです」 ・ 「△○◎は主観も結構入っているのでいらない かなと思います」 ・ 「あえてオススメ度をかかない部分があっても いいと思った」. ・ 「さすがに書きすぎて少し誘導されちゃいます」. これらの意見を参考にしながら,次のプリント. ・ 「特にやるべき活動とオプション的活動の2つ. [試作3]では「授業づくりカード」から離れ,. の構成になっていたらみんな使うと思います」. 扱う楽曲の音楽の諸要素に注目して,要素ごとに. これらの意見から,次の回のプリントでは展開. 筆者(久保)の考えられる展開を示した(【図3】. 例である手書きの部分を減らし,どの学年に配当. 参照)。. されているかを示し,複数の授業展開を考えられ. これに対する受講者の意見には,以下のような. 371.

(15) 芳賀 均・布施美砂子・久保 允人. ものがあった(全て原文ママ)。 ・ 「小学校は全教科ということを考えると,すぐ に使えるアイディアが探せるという点でよかっ たと思います」 ・ 「赤ずりが前回と違って,多様な授業を参考に できた」 ・ 「実施時期や特徴的な部分を教えてくれてわか りやすかったです」 ・ 「このようにカテゴリごとに分けられていると, 他曲との系統性なども考慮しやすくなります」 ・ 「どれにどのくらいの時間をかけるのかなども 知りたいと思った」 また第12回と第15回においても第11回までの実 践をふまえたプリントを作成した。次ページ以降 に提出する【図4】~【図6】である。 第12回では「授業づくりカード」を基にした「オ ススメ度」の表と要素に対する展開例を合わせた ものを提示し,第15回では記入例付きワークシー ト(本稿では紙面の都合で掲出していない)を付 【図2】赤刷り右半分( 「オススメ度」の表). 属させることで,他教科の指導書に見られるよう. 【図3】筆者(久保)作成の赤刷り[試作3]. 372.

(16) 教員養成「小学校音楽科教育法」の授業に関する考察. 【図4】赤刷り[試作4-1]. 【図5】赤刷り[試作4-2]. 373.

(17) 芳賀 均・布施美砂子・久保 允人. 【図6】赤刷り[試作5-1]. な発問例と児童・生徒の反応例で具体的にイメー ジさせやすくするものと同じ効果をねらったもの を作成し,使用した。. こと ・専門用語を,実感を伴う形でわかりやすく解説 すること ・指導上のコツの解説を練り込んだ形で,器楽等. 5 「小学校音楽科教育法」の講義に関する 有効と考えられる方法・内容・教材(プリ ント教材) ここまでに述べてきたことをふまえ,以下のよ うなことに配慮した講義や教材が有効であると考 える。 ⑴ 講義の方法および内容について ・授業プラン作成の演習(授業づくり演習)を反 復すること ・活動のバランスを意識づけること ・器楽の演習や創作の事例紹介を取り入れること ・レ コード(CD)を単なる伴奏のためのものと せず,多様な活用法や効果的な提示の方法,何 をどのように聴かせるか等の解説や演示を行う. 374. の実技演習を取り入れること ・他の学生等の考えに触れることのできる場面を 設けること ・学生(将来の教師)が知らない歌唱共通教材に できるだけ触れること ・日本の音楽については,解説を丁寧に行い,多 様な授業方法を紹介すること ・その場のみのハウツーに留まらず,背景にある 考え方や歴史的な経緯,活用・発展のヒントを 盛り込んだ提案をすること ・未知の楽曲であったとしても,まずは子どもと 共に学ぶ姿勢をもてばよいと伝えること ・どのような時季に,どのような配分で取り扱え ばよいか考えるヒントを提供すること ・実践上の経験談等を交え,学生が情意面で実感.

(18) 教員養成「小学校音楽科教育法」の授業に関する考察. をもてるような内容・活動を伴うこと. 教材としては,現職の教師向けの教師用指導書. ・ 「授業づくりカード」や,教材について理解を. 「赤刷り」の内容が教員養成課程の大学2年生に. 深められる解説,教材の活用方法や具体的な授. とって理解しにくい内容であるものの,教職経験. 業方法に関する解説や実習を交えること. や音楽経験に左右されない内容もあるため,目指. ・意義と方法をわかりやすく解説しながら,かつ, 実例を示すこと. す教師像を考えながら内容を精選することが挙げ られる。. ・教壇に立った際に,どのように取り組んでいく かということについてビジョンがもてるよう,. 註. 教師論的な内容にも触れたり,学ぶ側の児童の 立場からの視点を伝えたりすること ・より意識的に音楽づくり,創作の活動を取り入 れること また,これらのことは,それぞれが関わり合っ て,授業をつくれるという実感や自信の向上につ ながると考えられる。 ⑵ 使用する教材(プリント教材)について ・単一の授業展開例ではなく,複数の活動例を自 分で選んで考えられる内容とすること ・それぞれの活動がどの領域で,どの項目や「共 通事項」と関連するかを明示すること. 1)芳賀均・佐藤友夏「授業づくりカードの作成」『北海 道教育大学紀要(教育科学編) 』66⑵, 北海道教育大学, 2016,pp.303-311. 2)http://www.nier.go.jp/kaihatsu/shido_h24/05.pdf [平成28年2月22日13:42閲覧] ,p.小音9. 3)http://www.nier.go.jp/kaihatsu/ongakutou/0400046 1020007002.pdf[平成28年2月22日13:50閲覧] 4)芳賀均・布施美砂子「授業『小学校音楽科教育法』 に関わる調査結果」(北海道教育大学旭川実践教育学会 第20回研究発表大会,平成27年11月28日)で公表した ものの再掲。また,数字の検討については,前掲1) においてAHクラス分のみであったものを全クラス対象 に拡大した。その上で,本稿では新たに検討と考察を 加えた。 5)前掲2) ,p.小音10.の教師質問紙調査において,「い. ・それぞれの活動の選択理由を明示すること. ろいろな音楽表現を生かし,様々な発想をもって即興. ・細かく具体的 (「曲の感じをつかむ」等ではなく,. 的に表現すること」について,「児童が興味・関心をも. 詳しく手順の説明)な説明をすること ・カタカナではなく漢字で表記される音楽用語に 対する解説を重視すること. ちやすい」という肯定的な回答は41.4%(もちにくい 46.8%) , 「児童が身に付けやすい」という肯定的な回答 は16.8%(身に付けにくい71.4%)とある。また, 「音 を音楽に構成する過程を大切にしながら,音楽の仕組 みを生かし,見通しをもって音楽をつくること」につ いて,「児童が興味・関心をもちやすい」という肯定的. 6 今後の課題. な回答は31.9%(もちにくい57.2%),「児童が身に付け. 本研究では,学生に,音楽の授業に対する抵抗. 73.2%)である。どちらに対しても「児童が身に付けや. 感を低減し,授業をつくれる実感をもってもらう. すい」という肯定的な回答は約2割である。. ことができたという意味で,成果があったといえ る。しかしそれは,厳しくいえば,形の上での「で. やすい」という肯定的な回答は15.7%(身に付けにくい. 6)前掲4)の発表時に一部のみを公表した。本稿では, 講義の内容に関わるコメントを掲出し,新たに考察を 加えた。. きる」であり,さらに音楽の授業について深める. 7)第8次の学習指導要領。平成20年告示。. ということや, 学習指導要領に対する理解に関し,. 8)平成27年度のアンケート215枚。. 深く意義について主体的に考えられるようするこ とが望ましい。. 9)前掲4)の発表時に一部のみを公表した。本稿では, 全曲と,新たに考察を加えた。 10)日本教育大学協会全国音楽部門大学部会『日本教育. また,教師になり,年数を重ねつつ,教育現場. 大学協会全国音楽部門大学部会 会報 第40号』に,. における周囲の教師へのアドバイスをできる姿勢. 全体会1「音楽科教育に未来はあるか?」の記録が掲. の育成も視野に入れる必要がある。. 載されており,その中(pp.22-23.)に見られた表現。. 375.

(19) 芳賀 均・布施美砂子・久保 允人. 11)小原光一他12名『小学生の音楽 3 指導書』教育 芸術社,2015,p.4.. [附 記] 本稿の3⑷を布施が,4と5⑵を久保が,それ 以外の部分を芳賀が担当した。 (芳賀 均 旭川校講師) (布施美砂子 旭川校大学院1年) (久保 允人 旭川校大学院1年). 376.

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