1
老朽家屋等の外部不経済と行政による対策のあり方について
<要旨> 本研究では、外部不経済をもたらす家屋等に対して、管理不全な空き家対策という枠組み にとらわれず、外部不経済の様態そのものに着目し対処すべきではないかという問題意識 から出発し、老朽家屋等がもたらす外部不経済について実証分析するとともに、現行の老朽 家屋等対策の問題点をふまえ、行政による望ましい対策のあり方について考察した。 実証分析では、老朽家屋等が周辺に与える影響についてヘドニックアプローチによって、 地価への影響を推計し、老朽家屋等が周辺 100 メートル以内に存在する場合には、外部不 経済により地価が下落していることを示した。また、老朽危険度、集積度が高まるほど外部 不経済が大きくなること、そして空き家の老朽家屋等と居住者がいる老朽家屋等では有意 な差が生じないことを確認した。さらに老朽家屋等が除却された場合、除却前と比べ地価が 上昇することが推計され、外部不経済の解消もまた市場に反映されることを確認した。 以上の分析結果と現行制度による行政の老朽家屋等対策の課題をふまえ、老朽家屋等の 外部不経済の様態と大きさに応じたピグー税を賦課することで、外部性を内部化させ、所有 者のインセンティブをコントロールすることにより適正管理を促すことを政策提言した。 そして、現行制度による直接規制についても、適用要件の明確化を更に進めることにより、 実効性を高めるべきであることについても論じた。 2017 年(平成 29 年)2 月 政策研究大学院大学 まちづくりプログラム MJU16713 藤田 幸夫2
目次
1 はじめに ... 3 1.1 研究の背景と目的 ... 3 1.2 先行研究 ... 4 1.3 論文の構成 ... 4 2 国内における老朽家屋等及び老朽家屋等対策の概要 ... 4 2.1 老朽家屋等の定義 ... 4 2.2 国内における老朽家屋等の現状 ... 5 2.3 行政による老朽家屋等対策について ... 5 3 老朽家屋等の外部不経済についての理論分析 ... 6 3.1 老朽家屋等の外部不経済の発生 ... 6 3.2 老朽家屋等の外部不経済が周辺地域に及ぼす影響 ... 8 4 老朽家屋等の外部不経済についての実証分析 ... 9 4.1 実証分析の方法と対象... 9 4.2 変数及び使用するデータ ... 11 4.3 実証分析 ... 13 4.3.1 実証分析その1 ... 13 4.3.2 実証分析その2 ... 16 4.3.3 実証分析その3 ... 18 4.3.4 実証分析その4 ... 20 4.4 推計結果のまとめと考察 ... 22 5 まとめ ... 23 5.1 現行制度の課題 ... 23 5.2 政策提言 ... 25 5.3 今後の課題 ... 27 謝辞 ... 27 参考・引用文献 ... 283 1 はじめに 本章では、本稿における研究の背景と目的、先行研究、本論文の構成について述べる。 1.1 研究の背景と目的 近年、国内における空き家の増大傾向に注目が集まっている。特に賃貸用や二次的住宅 以外の用途のない空き家は、老朽化による損壊の危険性、周辺生活環境の悪化、防犯上の 問題等が生じる蓋然性が高く問題視されている。 こうした状況を背景に、地方自治体では空き家等の適正管理に関する条例等を策定し対 応をしてきた。また、平成27 年 2 月には、「空家等対策の推進に関する特別措置法(以 下、空家対策特措法と称す)」が施行され、全国的に空き家問題の解決を目的とした政策 が進められている。 これらの行政の対策姿勢は、管理不全な空き家等がもたらす外部不経済に対する政府介 入1と見ることができるが、その介入根拠たる外部不経済自体に注目した場合、居住者の有 無は外部不経済の大きさそのものには直接影響しないと思われる。居住者の不存在を要件 とした対策を行うことは、はたして合理的なのだろうか。 そこで、本研究では、管理不全な空き家等のもたらす問題としても典型的な老朽化によ る保安上の危険に着目し、その外部不経済の様態を分析することで、老朽家屋等に対する 行政の対策の望ましいあり方について考察するものである。 図1 問題意識のイメージ 1 市場への政府介入が正当化されるのは、いわゆる市場の失敗(公共財、外部性(外部経済・外部不経 済)、取引費用、情報の非対称、独占・寡占・独占的競争)がある場合に限られる。福井(2007)参照
4 1.2 先行研究 管理不全空き家等に関する研究としては、自治体の空き家対策について研究した北村 (2012)が詳しい。また、空家対策特措法施行以降の空き家問題に対する自治体法務の課題に ついては北村(2016a)がある。老朽家屋等に係る政策法務についての研究としては、建築基 準法10 条 3 項よる除却命令の執行の実際について調査した北村(2016b)がある。 老朽建造物の外部不経済に関する研究としては、老朽マンションの近隣外部性を、築年数 と集積度に着目して、ヘドニックアプローチで推計した中川・齊藤・清水(2014)がある。 そして管理不全空き家の外部不経済とその対策効果についてヘドニックアプローチにより 分析した粟津(2014)がある。また、老朽化以外の管理不全建物を対象とした外部不経済の研 究としては、ゴミ屋敷問題に対して行政による規制権限が適切に行使されないことをゲー ム理論を用いて実証した長島(2016)がある。 しかし、居住物件を含めた老朽家屋等に対して、実体的な老朽危険度指標を用いて、外 部不経済を推計する実証分析を行った研究は、筆者の調査した限りでは見当たらない。 1.3 論文の構成 本論文は全5 章から構成される。第 1 章では、前述のとおり、本研究の背景と目的を述 べた上で、既往研究との差異を提示し、本研究の位置づけと問題意識を明確にする。第2 章では、国内における老朽家屋等の状況と行政による老朽化屋等対策について概括し、分 析対象である老朽家屋等について、その特徴を明らかにする。 第3 章では、経済学的観点から、老朽家屋等の外部不経済の発生と周辺に与える影響等 について理論分析する。第4 章では、第 3 章での分析をふまえ、実際のデータを用いて老 朽家屋等の外部不経済を定量的に分析する。第5 章では、現行制度による行政の老朽家屋 等対策のあり方についての課題を明確化した上で、行政の老朽家屋等対策の望ましいあり 方について政策提言するとともに、今後の課題を交え展望する。 2 国内における老朽家屋等及び老朽家屋等対策の概要 本章では、本研究における分析対象である老朽家屋等について定義した上で、国内におけ る老朽家屋等の状況と行政による老朽家屋等対策について概括する。 2.1 老朽家屋等の定義 建築物等の老朽化を測る指標としては、まず建築後経過年数が想定される。減価償却資 産の耐用年数2は、木造住宅で22 年、RC 及び SRC で 47 年と定められており、住宅市街 地総合整備事業における建築物の老朽度等測定基準での評価項目としても採用されてい る。しかし、経年変化による劣化は一定ではなく、所有者の管理状況によって大きく異な るため、老朽化による外部不経済を実態的に把握する上では、建築後の経過年数によって 2 「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」(昭和四十年三月三十一日大蔵省令第十五号)参照
5 一律に基準を設定するだけでは不十分と考える。 次に、外部不経済の様態により定義するとした場合、各自治体による老朽家屋等対策条 例あるいは空き家対策条例等における定義が参考となると考えられるが、こうした条例に おいての老朽家屋等の定義は一律ではなく、老朽化による問題に限らず管理不全な空き家 等への対策を包括的に行うことを企図し、久留米市3のように老朽家屋等を管理不全な状態 にある建物等と定義しているものも見受けられる。建物等の老朽化と、敷地内での樹木や 雑草の繁茂といった管理不全状態とは直接的な因果関係がないため、老朽家屋等を管理不 全な家屋等と定義することもまた適当ではないと思われる。 したがって本稿においては、総務省統計局の「住宅・土地統計調査」において腐朽・破 損状態を老朽化の指標として使用していることを参考に、老朽家屋等を「建物その他の工 作物で腐朽・破損しているもの」として定義する。ただし、建物の築後経過年数について も、国内における住宅事情等マクロな傾向を把握する上では有益であることから、次項で 国内における老朽家屋等の状況を概観する際には参考指標として用いる。 2.2 国内における老朽家屋等の現状 総務省統計局「平成25 年住宅・土地統計調査」4によると、国内における居住世帯あり の住宅総数5210 万戸のうち、旧耐震基準に該当する昭和 55 年以前に建てられた住宅は 1419 万戸で全体の 27.2%にのぼる。また、腐朽・破損ありの住宅総数は 448 万戸となっ ており、そのうち昭和55 年以前に建てられた住宅は 227 万戸となっている。一方で空き 家の数で見ると、総数は約810 万戸であり、うち 213 万戸が腐朽・破損あり、また空き家 のうち用途のない「その他空き家」が318 万戸、うち腐朽・破損ありは 105 万戸となって いる。 これらのデータからは、建築後経過年数が多いもの全てが老朽化しているわけではな く、また老朽化した住宅の半数は居住者がいる住宅であり、空き家でない老朽家屋が相当 数存在することがわかる。そして、老朽化した空き家の約半数は「その他空き家」以外の 空き家であり、管理不全空き家の予備軍とみなされている「その他空き家」ばかりが老朽 化した空き家とは限らないこともわかる。 2.3 行政による老朽家屋等対策について 老朽家屋等の外部不経済として主なものは、建物の倒壊や建材の飛散などによる保安上 の危険と思われるが、その対策の根拠法となるのは、建築基準法及び空家対策特措法であ 3 「久留米市空き家及び老朽家屋等の適正管理に関する条例」第2 条 4 号における定義 4「平成25 年住宅・土地統計調査結果」(総務省統計局) (http://www.stat.go.jp/data/jyutaku/2013/tyousake.htm#1)(平成 29 年 2 月 3 日に参照)
6 る5。両法律の適用要件を比較すると、建築基準法10 条 3 項6では、「著しく保安上危険」 としている一方、空家対策特措法では2 条 2 項において、「そのまま放置すれば倒壊等著 しく保安上危険となるおそれのある状態」を指導・是正勧告等の対象となる特定空家等7の 認定要件としている。 したがって、空き家の老朽家屋等の場合は、現に著しい保安上の危険が認められるほど の緊急的状況に陥る前に、将来的な危険性を根拠として行政が介入し、所有者に適正管理 や問題の是正を求めるという予防的対処を可能としているものと解される。 しかし、同程度の保安上の危険が生じるおそれがある状態の物件に対し、居住者の有無に より行政の介入の可否が決まるのであれば、空家対策特措法の適用を免れたい所有者に実 際は使用していない住宅について空き家ではないと主張された場合には、適用判断が困難 になると考えられる。 「空家等に関する施策を総合的かつ計画的に実施するための基本的な指針8」では、空家 対策特措法における空家等の定義である、「居住その他の使用がなされていないことが常態 である」ことについて、「建築物が長期間にわたって使用されていない状態をいい、例えば 概ね年間を通して建築物等の使用実績がないことは 1 つの基準となると考えられる」とし ているが、対象物件が空き家か否かの客観的な判断を行うことは容易ではなく、特に所有者 が一定の頻度で訪れている場合にはなお困難である。 以上をふまえると、空き家か否かという判断に老朽家屋等の外部不経済対策が大きく左 右されるということには、いささか問題があるように思える。そこで、現実に建材の劣化 等として表出している老朽化の程度に基づき、老朽家屋等の外部不経済とそれに対する行 政の対策を客観的に評価することが必要と考える。 3 老朽家屋等の外部不経済についての理論分析 本章では、老朽家屋等による外部不経済が発生するプロセスと発生した外部不経済が周 辺地域に及ぼす影響を経済学の観点から理論分析する。 3.1 老朽家屋等の外部不経済の発生 老朽家屋等による外部不経済としては、まず自然災害等による建物の倒壊、破損した建 5 その他、自治体により、空き家・空き地対策、老朽家屋対策、景観支障対策等の条例を制定し、対策に 取り組んでいる。その手法は、規制的措置に限らず、緊急安全措置・寄附・解体助成・空き家バンクに よる利活用促進等多岐にわたる。 6 空家対策特措法では、対象を空き家等に限定しているが、建築基準法は居住の有無を要件としていない ため、著しく保安上危険な状態の空き家に対しては、建築基準法と空家対策特措法の両法律が適用され うると考えられる。 7 空家等対策の推進に関する特別措置法 2 条 2 項において、「そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危 険となるおそれのある状態又は著しく衛生上有害となるおそれのある状態、適切な管理が行われていな いことにより著しく景観を損なっている状態その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが 不適切である状態にあると認められる空家等」と定義されている。 8 平成 27 年 2 月 26 日付け総務省・国土交通省告示第1号
7 材等の飛散、といった保安上の危険が考えられる。また、老朽化した建築物は外観上も悪 印象を与えると考えられるため、景観の悪化や周辺地域のイメージの悪化等をもたらして いる可能性がある。 こうした老朽家屋等の外部不経済はどのように発生するかについて理論分析する。ここ で都市の特定の区画に住宅を建築し、その住宅に対して同質な都市住民の付値家賃と、そ の住宅を存続させることの費用を図2 に記述する。縦軸は、特定の住宅に対する付値家賃 とその住宅を存続させることに伴い発生する費用であり、横軸はその住宅の存続(保有) 期間t である。 住宅の付値家賃MB は、住宅が経年劣化するにしたがって減少するため右下がりの曲線 となる。一方で、住宅を所有すること自体に要する私的費用PC は、建物にかかる固定資 産税等と仮定すると基本的に一定である。そして、長期の使用により老朽化が進み、 MB=PC となる t2の時点を越えると、住宅への付値家賃を費用が上回り損失が生じてしま う状態となるため、そのままの状態で放置するのではなく、解体等により保有をやめる か、改修等により居住環境を改善する等の行動変化が生じると思われる。 ここでさらに、経年劣化が進み老朽化した建物による外部不経済がもたらす費用を加味 した社会的費用SC を想定した場合、社会的費用 SC は私的費用 MC よりも大きく、かつ 時間経過とともに老朽化が進むことで外部不経済は大きくなるため、時間により増加して いくと考えられる。したがって、社会的費用SC と付値家賃 MB の交点となる t1時点が所 有者の便益と社会的費用とがつり合う、所有者の行動変化の最適点となる。 しかしながら、老朽家屋等の所有者はこの社会的費用に直面していないため、t2 - t1の 分だけ過剰に使用または保有してしまう。その結果、死荷重が発生し社会的厚生を損なう 状況に陥ると考えられる。ここで死荷重は、図2 のグレーの網掛け部分を現在価値に割り 引いた合計となる。 図2 老朽家屋等による外部不経済の発生
8 3.2 老朽家屋等の外部不経済が周辺地域に及ぼす影響 次に、老朽家屋等の外部不経済が発生、解消された際に周辺地域にもたらす経済的影響 について理論分析する。 近隣に老朽家屋等が存在する地域においては、その周辺への居住等を嫌う人間が増える ことで土地のアメニティ評価は低くなり、土地需要が減退すると思われる。資本化仮説9が 成立するとした場合、土地のアメニティ評価の変化は最終的には地代に帰結するため、老 朽家屋等の存在は、地価の変化をもたらすと考えられる。 図3 は、周辺に老朽家屋等が存在する地域における不動産(土地)市場を表している。 縦軸は地価P、横軸は土地ストック量Qである。また、土地の需要曲線は右下がりの曲線 D1として、土地の供給曲線10はS1として表される。外部不経済の要因が存在しない健 全な地域においては、均衡点Eにおいて取引が成立し、均衡取引価格(地価)P1が決定 するが、周辺に老朽家屋等が存在する地域の場合は、その外部不経済による需要減のた め、需要曲線は下方にシフトする。結果、均衡点はE’となり、均衡取引価格(地価)はP 2に下落する。 また、先の外部不経済が取り除かれた場合は、逆の現象が生じると考えられる。図4 は、老朽家屋等が除却された場合の不動産市場の変化を示している。老朽家屋等の除却に よって周辺環境が改善されると、土地需要は高まり、外部不経済により下方シフトしてい た需要曲線D1は、上方にシフトしD2となる。そして、供給曲線Sとの均衡点は、Eか らE’に移り、均衡取引価格P1もP2に上昇する。 9 金本(1997) 参照 10 不動産(土地)市場における短期的な不動産(土地)供給量は限られているため、供給曲線S1は垂 直となる 図3 外部不経済による地価の下落 図4 外部不経済の解消による地価の上昇
9 4 老朽家屋等の外部不経済についての実証分析 本章では、前章における理論分析に基づき、老朽家屋等の外部不経済がもたらす影響を推 計するための方法と仮説を検討し、現実のデータを用いて実証分析を行い、その推計結果に ついて考察する。 4.1 実証分析の方法と対象 前章の理論分析をふまえ、実際に都市地域を対象として、ヘドニックアプローチ11によ り、老朽家屋等が周辺地域の地価に与える影響及びその要因を分析する。 (1) 対象地域 平成23 年に「足立区老朽家屋等の適正管理に関する条例」を制定し、老朽危険家屋対 策に取り組んでいる東京都足立区を対象とする。なお、足立区は、東京23 区の北東部に 位置し、埼玉県と隣接する人口約67 万人、面積約 53km2の特別区である。 (2)足立区における老朽危険家屋調査と老朽危険家屋対策について 足立区では、平成23 年度に区内全域において老朽化して危険な建物等を調査してい る。調査は調査員による外観目視によって行われ、特に危険な老朽家屋等と判定された物 件については、技術的観点をふまえて詳細確認を行い、危険度を評価している。 老朽危険家屋等対策としては、平成23 年度に老朽危険家屋の選任組織を創設、緊急度 が高い老朽危険家屋等を中心に、所有者調査の上、指導・勧告を行っている。特に危険な 老朽家屋等に対しては、建築構造の専門家や法律家、不動産に関する有識者らによる第三 者委員会である老朽家屋等審議会での審議を経て、助成金支出が妥当と答申があった建物 について解体助成金を支出する12など積極的に老朽危険家屋の除却を進めている。 なお、足立区における老朽危険家屋等は、平成23 年度調査時点では 63 件確認されてい たが、その後の調査や市民からの情報、老朽化の進行による増等により、平成25 年時点 で指定数は88 件にまで増えている。その後、制度の積極的な活用と所有者への指導・交 渉の結果、危険解消が進み、平成27 年度末月時点で危険状態が解消されていない物件は 残り14 件となっている13。 (3)分析対象とする老朽家屋等 平成23 年に足立区が実施した老朽危険家屋等調査によって確認された老朽家屋等 2133 件と、区民からの情報及び区の追跡調査で確認された老朽家屋等11 件14を対象とする。 11 「環境条件の違いが、どのように地価あるいは住宅価格に反映されているかを観察し、それをもとに環 境の価値の計測を行う手法」中川(2008)参照 12 足立区からの聞き取り調査及び北村(監修・執筆)ほか(2012)参照 13 足立区平成 28 年度重点プロジェクト事業評価調書(平成 27 年度事業実施分)参照 14 これらの新たに追加された老朽家屋がリストに加えられたのは、平成23 年以降であるが、平成 23 年 時点においても既に老朽化していたと考えられるため分析に用いることとする。
10 老朽家屋等のデータには、老朽危険度が以下のとおり設定されているほか、同調査にお いて空き家と推定された老朽家屋等にはその属性情報も含まれている。 <足立区による区分15> ①A+:倒壊や建築材等の飛散など危険が切迫しており緊急度が極めて高いもの ②A :今すぐに倒壊や建築材料等の飛散の危険性はないが、管理が行き届いておらず 損傷が激しいため指導を要するもの ③B :管理が行き届いておらず損傷もみられるが当面の危険性はないもの ④B+:B判定のうち空き家のもの 上記の区分を基に、分析にあたり筆者が以下のとおり再区分した。 <筆者による区分> ①overA16:②A+ 及び ③A ②A+ :老朽化による危険があり、かつ緊急度の高いもの ③A :老朽化による危険があるもの ④B17 :老朽化が著しいもの (4)仮説 実証分析にあたり、以下のとおり仮説を設定した。仮説1~4により、外部不経済の様 態と性質について質的側面と量的側面からの分析を交えて検証し、仮説5により外部不経 済の原因が取り除かれた場合の効果について検証する。 【老朽家屋等の外部不経済の検証】 仮説1 老朽家屋等が周辺に存在することで外部不経済が発生する ↓ 仮説2 居住者が居る場合と空き家の場合とでは外部不経済の大きさは異なる ↓ 仮説3 老朽危険度が高いほど外部不経済は大きい ↓ 仮説4 老朽家屋等の集積度(件数)に応じて外部不経済は大きくなる 【外部不経済の解消効果の検証】 仮説5 老朽危険家屋等の除却によって、外部不経済は解消される 15 足立区建築安全課提供資料より抜粋 16 ①overA は、②A+と③Aを統合した区分のため、②A+と③Aは、①overA の内数である。 17 B+は、空き家であることを除いてはBと特段の差異がないため、Bに統合した
11 4.2 変数及び使用するデータ 被説明変数には、固定資産税路線価に係る標準宅地18の価格(円/㎡)の対数値を用い た。主要な説明変数については、前述の仮説を検証するため、①老朽家屋ダミー、 ②空き家ダミー、③老朽ランクダミー、④老朽家屋集積数、⑤老朽危険家屋除却数(及び 除却率(除却数/集積数))を作成して用いた。 なお、分析に用いる基準年19については、外部不経済の計測には平成23 年のクロスセク ションデータを、外部不経済の解消効果の計測には平成23 年と平成 26 年の 2 時点パネル データを用いた。これは、環境要因変化の影響を反映し得る固定資産税の評価替えの基準 年を用いる必要があり、かつ足立区による調査以前の老朽家屋等のデータは存在しないた め、調査時点での老朽家屋等の状況を最も反映していると思われる平成23 年を採用する のが最も適当と考えたためである。 除却数については、平成23 年度~平成 25 年度の間に除却された件数20を使用してい る。これは老朽家屋等除却前後の効果を確認するため、平成23 年の次の基準年である平 成26 年を採用するものである。 また、その他の説明変数として、標準宅地に係る地価に影響すると思われる要因をコン トロールするため、用途地域ダミー、葛飾区21ダミー、建ぺい率(%)、最寄り駅までの距 離(km)、最寄り駅から東京駅までの所要時間(分)、北千住駅22までの距離(km)、北千 住駅周辺300m 以内ダミー、人口密度(100 人/ha)を用いた。各変数の説明は表1のと おりである。なお、各種変数については、GIS(地理情報システム)を用いて、変数相互 間での位置情報に基づき作成した。 各変数についての説明の詳細は、表1のとおりである。 図 5 は、GIS により足立区の地図上に老朽家屋等をプロットしたイメージである。 図6 は、同じく GIS でプロットした老朽家屋等と地価ポイントの配置イメージである。 地価ポイントを中心として、半径100m のバッファ内に存在する老朽家屋等を計測するこ とで、各種老朽家屋ダミーと、老朽家屋集積数等を算出する。 18 平成 23 年度と平成 26 年度とで共通する標準宅地ポイント(528 件)を使用した。 19 固定資産税の評価替えは 3 年毎に行われ、その基準年度は平成 20 年度以降では、平成 21 年度、平成 24 年度、平成 27 年度となっている。賦課期日はそれぞれ前の年度の 1 月 1 日であり、評価についても 前年度に行われていると推定し、基準年度の1 年前の年度(平成 23 年、平成 26 年)を分析対象とな る基準年と設定している。 20 除却件数の集計にあたっては、所有者の自由意思による自主的除却、指導・勧告を受けての除却の別、 また除却後の土地利用の別は考慮しないものとする。 21 足立区の標準宅地の中には、その所在地が葛飾区に位置するものも含まれるため 22 北千住駅は、東日本旅客鉄道・東京地下鉄・東武鉄道・首都圏新都市鉄道が乗り入れる鉄道駅である。 同駅における東日本旅客鉄道の1 日平均利用者は、平成 25 年実績で 209,994 人にのぼる(東日本旅客 鉄道HP http://www.jreast.co.jp/passenger/index.htmlより)
12 変数 単位 説明 出典 ln地価 円/㎡ 固定資産税路線価標準宅地価格の対数値 A 老朽家屋ダミー - 地価ポイント周辺に老朽家屋等がある場合1をとるダミー変 数 B 空き家ダミー - 地価ポイント周辺に、空き家の老朽家屋等がある場合1をと るダミー変数 B 老朽ランクダミー(overA、A+、A、B) - 地価ポイント周辺に、該当する老朽危険度ランクの老朽家 屋がある場合1をとるダミー変数 B 老朽家屋集積数(ALL, overA, B) 件 地価ポイント周辺にある老朽家屋等の数(老朽ランク別) B 除却数 件 地価ポイント周辺にある老朽家屋等(老朽ランクoverA)のう ち除却された数 B 除却率(除却数/集積数) - 老朽家屋等の除却数を、老朽家屋等の集積数で除したも の B 用途地域ダミー(近隣商業、商業、準工 業、工業、工業専用 ) -地価ポイントが属する用途地域の場合1をとるダミー変数。 住居系の用途地域を基準とするため、商業系、工業系のみ 設定した。 C 葛飾区ダミー - 地価ポイントが葛飾区内にある場合1をとるダミー変数 A 人口密度 100人 /ha 地価ポイントが属する町丁別人口を町丁面積で除したもの E,F 平成26年度ダミー - 平成26年の地価には1をとるダミー変数 -建ぺい率 % 地価ポイントに該当する指定建ぺい率 C 最寄駅までの距離 km 地価ポイントから最寄駅までの距離 C 最寄駅から東京駅までの所要時間 分 最寄駅から東京駅までの時間距離 D 北千住駅までの距離 km 地価ポイントから北千住駅までの距離 C 北千住駅周辺300m以内ダミー - 地価ポイントから北千住駅までの距離が300m以内の場合 に1をとるダミー変数 C A: 全国地価マップ(http://www.chikamap.jp/)掲載データにより作成 B: 足立区建築安全課提供データより作成 C: e-Stat 政府統計の総合窓口(https://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/GL02010101.do)掲載データより作成 D: Yahoo!路線情報(http://transit.yahoo.co.jp/)を用いて作成 E: 足立区公式ホームページ 統計情報(http://www.city.adachi.tokyo.jp/koseki/ku/aramashi/toke-machichobetsu.html)より F: 葛飾区公式サイト 統計情報(http://www.city.katsushika.lg.jp/information/1000083/1005977/1005998.html)より 表1 変数の説明 図6 地価ポイントと老朽家屋等の 位置関係のイメージ 図5 GIS による老朽家屋等のプロット
13 表2 及び表 3 は、分析に用いる変数等の基本統計量である。 表2 推計モデル1~4 に用いる変数等の基本統計量 表3 推計モデル5 に用いる変数の基本統計量 4.3 実証分析 4.3.1 実証分析その1 前述のとおり、老朽家屋等データには危険度に応じたランクが設定されているが、まず はベースとなるランク無差別の老朽家屋等データを用いて、外部不経済を推計する。
14 4.3.1.1 推計モデル 推計モデル1は、地価ポイント周辺100m 以内に老朽家屋等が存在する場合に1をとる ダミー変数(老朽家屋ダミー)を用いて、老朽家屋等に近接する地価ポイントとそれ以外 の地価ポイントとで、地価に差異が生じているかどうかを計測するものである。 推計モデル1 老朽家屋等が周辺100m 以内23に存在することによる外部不経済の推計 ln 地価 = β0(定数項) +β1 老朽家屋ダミー +β2~β6 用途地域ダミー(近隣商業、商業、準工業、工業、工業専用) +β7 葛飾区ダミー +β8 人口密度 +β9 建ぺい率 +β10 最寄り駅までの距離 +β11 最寄り駅から東京駅までの所要時間 +β12 北千住駅までの距離 +β13 北千住駅周辺 300m 以内ダミー +u(誤差項) ※OLS(最小二乗法)で推計 推計モデル2では、推計モデル1に、100m 以内に空き家の老朽家屋等がある場合に1 をとるダミー変数(空き家ダミー24)を加えることにより、空き家か否かによって外部不 経済の大きさに差異が生じるがどうかを計測する。 推計モデル2 周辺に存在する老朽家屋等が空き家であった場合の外部不経済の推計 ln 地価 = β0(定数項) +β1 老朽家屋ダミー +β2 空き家ダミー +β3~β7 用途地域ダミー(近隣商業、商業、準工業、工業、工業専用) +β8 葛飾区ダミー +β9 人口密度 +β10 建ぺい率 +β11 最寄り駅までの距離 +β12 最寄り駅から東京駅までの所要時間 + β13 北千住駅までの距離 + β14 北千住駅周辺 300m 以内ダミー + u(誤差項) ※OLS(最小二乗法)で推計 23 老朽家屋等の存在を示す説明変数は、全て地価ポイントから 100m 以内という条件を使用している。 24 空き家か否かの判定は、老朽家屋等データに含まれる属性情報を基にしているため、ここでの空き家ダ ミーに該当するのは、「老朽家屋等かつ空き家」という条件にあてはまるものである。老朽家屋等でな い空き家のデータは入手できなかった。
15 4.3.1.2 推計結果と結果の考察 推計モデル1及び2の推計結果を表4 に示す。 表4 推計モデル1、推計モデル2 の推計結果 推計モデル1の結果では、100m 以内に老朽家屋等が存在する地域において、他の地域 と比べ地価が約9.7%25低いことが統計的に有意に示された。また、推計モデル2の結果で は、老朽家屋ダミーは負の係数で統計的に有意であるが、空き家ダミーによる効果につい ては、負の係数であるものの統計的に有意ではなかった。したがって、居住者がいない老 朽家屋等の方が、居住者がいる老朽家屋等よりも外部不経済が大きいとは言えないことが わかった。この結果は、空き家か否かという特性の差異が老朽家屋等の外部不経済の大き さを決める確定的な要因ではないことを示唆している。 25 本研究における推計モデルは、被説明変数にいずれも対数値(ln)を用い、説明変数には対数値を用 いない片対数モデルとなっている。この場合の推計された説明変数のパラメータ(β)は、各種説明変 数(X)が1 単位変化した場合の被説明変数(lnP)の変化率とみなされるが、厳密な限界効果は、 [ ΔlnP/lnP = exp( Δβ) – 1] である。ただし、本稿においては、推計結果との比較が容易になるよ うに、厳密な限界効果は用いず、推計結果のパラメータを限界効果の近似値とみなして用いている。 被説明変数 : ln地価 (標準宅地の価格(円/㎡)) 推計モデル 説明変数 係数 標準誤差 係数 標準誤差 老朽家屋ダミー -0.097 *** (0.019) -0.083 *** (0.022) 空き家ダミー -0.032 (0.023) 人口密度(100人/ha) 0.087 *** (0.019) 0.088 *** (0.019) 葛飾区 ダミー 0.102 (0.100) 0.099 (0.100) 用途地域ダミー(近隣商業) 0.169 *** (0.049) 0.167 *** (0.049) 用途地域ダミー(商業) 0.529 *** (0.056) 0.524 *** (0.056) 用途地域ダミー(準工業) 0.002 (0.025) 0.005 (0.025) 用途地域ダミー(工業) -0.256 *** (0.051) -0.264 *** (0.051) 用途地域ダミー(工業専用) -0.558 *** (0.197) -0.558 *** (0.197) 建ぺい率 0.001 (0.002) 0.001 (0.002) 最寄駅までの距離(km) -0.220 *** (0.024) -0.216 *** (0.024) 東京駅までの所要時間 (分) -0.004 (0.003) -0.004 * (0.003) 北千住駅周辺300m以内ダミー 0.254 *** (0.045) 0.259 *** (0.045) 北千住駅までの距離(km) -0.035 *** (0.008) -0.036 *** (0.008) 定数項 12.407 *** (0.158) 12.399 *** (0.158) 自由度調整済決定係数 0.736 0.737 観測数 528 528 *** ** * は、それぞれ有意水準 1% 5% 10% を示す 推計モデル1 推計モデル2
16 4.3.2 実証分析その2 老朽家屋等の外部不経済の大きさが、老朽危険度によって左右されるかどうかを検証す るため、老朽ランク別にダミー変数を設定し分析を行う。なお、本事例においては複数の 老朽家屋等が地価ポイント周辺に存在するケースが多く26、各老朽家屋等による影響を明 確に切り分けられないため、前述の推計式2のように老朽家屋ダミーとの交差項を用いて 危険度の違いによる効果を検証することができない。 そこで、老朽ランク別のダミーを個別に推計モデルに組み込むことで、各ランクの老朽 家屋等が存在することの効果を確認し、その結果を比較することで、老朽危険度による外 部不経済の差異を推計する。 4.3.2.1 推計モデル 老朽危険度が高いランクA 以上は、ランク B よりも外部不経済が大きいと想定される。 そこで、周辺にランクA 以上の老朽家屋等が存在する場合1をとるダミー変数(ランク overA)を用いてその影響を推計する。また、ランク A+の効果がランク A の効果と差異 が存在するかについても確認するため、ランクA+ダミーを用いた推計も行う。 推計モデル3-1 老朽危険度の差異による外部不経済の変化の推計 (老朽家屋ランクダミーは、それぞれ1つずつ推計モデルに入れる) ln 地価 = β0(定数項) +β1 ランク overA ダミー(, ランク A+ダミー) +β2~β6 用途地域ダミー(近隣商業、商業、準工業、工業、工業専用) +β7 葛飾区ダミー +β8 人口密度 +β9 建ぺい率 +β10 最寄り駅までの距離 +β11 最寄り駅から東京駅までの所要時間 +β12 北千住駅までの距離 +β13 北千住駅周辺 300m 以内ダミー +u(誤差項) ※OLS(最小二乗法)で推計 推計モデル3-1におけるランクoverA ダミーの効果には、前述のようにランク B によ る影響が混在しており、老朽ランクA 以上の老朽家屋等の効果を純粋に抽出することがで きない。そこで、混在による影響を取り除くため、ランクoverA ダミー、ランク B ダミ ー、そしてランクoverA ダミーとランク B ダミーの交差項を加えた推計モデル3-2によ り、それぞれの効果を分離することを試みる。 26 ランクoverA ダミーが該当するサンプル数 135 のうち、ランク B ダミーが該当するサンプル数 101 と なっている。
17 推計モデル3-2 老朽ランクが異なる老朽家屋等が周辺に同時に存在する効果の推計 (ランクoverA ダミー、ランク B ダミー、両ダミーの交差項を説明変数として使用する) ln 地価 = β0(定数項) +β1 ランク overA ダミー +β2 ランク B ダミー +β3 ランク overA ダミー × ランク B ダミー +β4~β8 用途地域ダミー(近隣商業、商業、準工業、工業、工業専用) +β9 葛飾区ダミー +β10 人口密度 +β11 建ぺい率 +β12 最寄り駅までの距離 +β13 最寄り駅から東京駅までの所要時間 +β14 北千住駅までの距離 +β15 北千住駅周辺 300m 以内ダミー + u(誤差項) ※OLS(最小二乗法)で推計 4.3.2.2 推計結果と結果の考察 推計モデル3-1及び3-2の推計結果を表5 に示す。 表5 推計モデル3-1、推計モデル3-2 の推計結果 被説明変数 : ln地価 (標準宅地の価格(円/㎡)) 説明変数 係数 標準誤差 係数 標準誤差 係数 標準誤差 ランクA+ダミー -0.030 (0.038) ランクoverAダミー -0.067 *** (0.022) -0.082 ** (0.039) ランクBダミー -0.088 *** (0.021) overAダミー_Bダミー交差項 0.041 (0.045) 人口密度(100人/ha) 0.074 *** (0.019) 0.076 *** (0.019) 0.086 *** (0.019) 葛飾区 ダミー 0.165 (0.101) 0.151 (0.101) 0.101 (0.100) 用途地域ダミー(近隣商業) 0.165 *** (0.050) 0.169 *** (0.049) 0.170 *** (0.049) 用途地域ダミー(商業) 0.539 *** (0.057) 0.536 *** (0.057) 0.525 *** (0.056) 用途地域ダミー(準工業) -0.002 (0.026) 0.007 (0.026) 0.008 (0.025) 用途地域ダミー(工業) -0.268 ** (0.052) -0.263 *** (0.052) -0.259 *** (0.051) 用途地域ダミー(工業専用) -0.511 *** (0.202) -0.518 *** (0.200) -0.559 *** (0.197) 建ぺい率 0.001 (0.002) 0.001 (0.002) 0.001 (0.002) 最寄駅までの距離(km) -0.230 *** (0.025) -0.220 *** (0.025) -0.214 *** (0.024) 東京駅までの所要時間 (分) -0.004 (0.003) -0.003 (0.003) -0.004 (0.003) 北千住駅周辺300m以内ダミー 0.239 *** (0.047) 0.272 *** (0.047) 0.264 *** (0.046) 北千住駅までの距離(km) -0.028 *** (0.008) -0.033 *** (0.008) -0.038 *** (0.008) 定数項 12.343 *** (0.161) 12.328 *** (0.160) 12.391 *** (0.158) 自由度調整済決定係数 0.723 0.728 0.737 観測数 528 528 528 *** ** * は、それぞれ有意水準 1% 5% 10% を示す ( overA_B混合) 推計モデル3-1 推計モデル3-2 推計モデル (2) overA (1) A+
18 推計モデル3-1の結果としては、地価ポイント周辺100m以内に老朽ランク A 以上の 老朽家屋等が存在する場合、地価が約6.7%下落することが 1%有意水準で示された。 一方、ランクA+ダミーを説明変数とした回帰分析の結果では、負の係数が推計された ものの統計的に有意とはならなかった。その原因27としては、老朽化により危険という性 質においてはランクA もランク A+も同様であり、両者の違いである緊急度までは地価に 反映するほどの評価はなされていないということが考えられる。両ランクを統合したラン クoverA については統計的に有意であることもそれを裏付けている。 したがって、以降の分析においては、ランクA 以上の老朽危険家屋の外部不経済を推計 する指標として、overA の区分を用いることとする。 推計モデル3-2では、ランクoverA とランク B が混在する場合の外部不経済の変化を 検証した。推計結果としては、ランクoverA のみが周辺に存在する場合は約 8.2%、ラン クB のみが存在する場合は約 8.8%、地価が下落することが示されている。 そして、両ランクの老朽家屋等が同時に存在する場合は、ランクoverA ダミー、ランク B ダミー、両ダミーの交差項の係数の合計を限界効果とみなすと、約 13%地価が下落する と推計される。しかし、両ダミーの交差項の係数は統計的に有意ではないため、正確な限 界効果は不明である。また、両ダミーの交差項が有意でなかったため、老朽ランクの異な る老朽家屋等が周辺にあることによる相乗効果や相殺効果28は確認されなかった。 さらに、ダミー変数の係数の絶対値に注目すると、老朽危険度が高いランクoverA より も、ランクBの方がより効果が大きいという結果となっている。これは老朽家屋等の有無 のみを基準としたダミー変数では、周辺に老朽家屋等が複数件存在している場合も無差別 となってしまうため、その集積効果が反映されていないことが原因と考えられる。 4.3.3 実証分析その3 前述のとおり、老朽危険度が係数値の差として表れていない原因は、複数の老朽家屋等 が存在することによる集積効果による可能性がある。そこで、老朽家屋等の件数を説明変 数とすることで集積効果を検証するとともに、老朽ランクの違いによる外部効果の違いを 検証する。 4.3.3.1 推計モデル 地価ポイント周辺100m 以内に存在する老朽家屋等の件数を示す老朽家屋集積数を老朽 ランクごとに算出し、1 件あたりの外部効果を推計する。 27 ランク A+については、ダミーが該当するサンプル数が少なかった(28 件)ことも原因として考えられ る。 28 周辺に老朽家屋等が既に存在する場合には、周辺の家屋が老朽家屋となるインパクトは小さくなる(相 殺効果)とも考えられる。両ダミーの交差項の係数の値は正のため、こうした影響が存在する可能性は あるが、統計的に有意でないため確証はない。
19 推計モデル4 老朽家屋等の集積(件数)効果の推計 (老朽家屋集積数(overA)、老朽家屋集積数(B)は、一つずつ推計モデルに入れる) ln 地価 = β0(定数項) +β1 老朽家屋集積数(overA)( , 老朽家屋集積数(B)) +β2~β6 用途地域ダミー(近隣商業、商業、準工業、工業、工業専用) +β7 葛飾区ダミー +β8 人口密度 +β9 建ぺい率 +β10 最寄り駅までの距離 +β11 最寄り駅から東京駅までの所要時間 +β12 北千住駅までの距離 +β13 北千住駅周辺 300m 以内ダミー + u(誤差項) ※OLS(最小二乗法)で推計 4.3.3.2 推計結果と結果の考察 推計モデルの推計結果を表6 に示す。 表6 推計モデル4の推計結果 被説明変数 : ln地価 (標準宅地の価格(円/㎡)) 説明変数 係数 標準誤差 係数 標準誤差 老朽家屋集積数(overA) -0.023 ** (0.011) 老朽家屋集積数(B) -0.014 *** (0.005) 人口密度 (100人/ha) 0.072 *** (0.019) 0.076 *** (0.019) 葛飾区 ダミー 0.159 (0.101) 0.145 (0.101) 用途地域ダミー(近隣商業) 0.167 *** (0.050) 0.164 *** (0.049) 用途地域ダミー(商業) 0.536 *** (0.057) 0.523 *** (0.057) 用途地域ダミー(準工業) 0.001 (0.026) -0.003 (0.025) 用途地域ダミー(工業) -0.270 *** (0.052) -0.273 *** (0.052) 用途地域ダミー(工業専用) -0.519 *** (0.201) -0.531 *** (0.200) 建ぺい率 0.001 (0.002) 0.001 (0.002) 最寄駅までの距離 (km) -0.224 *** (0.025) -0.222 *** (0.025) 最寄駅から東京駅までの所要時間 (分) -0.004 (0.003) -0.004 * (0.003) 北千住周辺300m以内ダミー 0.274 *** (0.048) 0.234 *** (0.046) 北千住駅までの距離km) -0.032 *** (0.008) -0.033 *** (0.008) 定数項 12.340 *** (0.160) 12.364 *** (0.160) 自由度調整済決定係数 0.726 0.728 観測数 528 528 *** ** * は、それぞれ有意水準 1% 5% 10% を示す (1) 集積数(overA) (2) 集積数(B) 推計モデル 推計モデル4
20 推計モデル4の結果では、周辺にランクoverA の老朽家屋が1件存在することにより、 地価は約2.3%下落し、ランク B の老朽家屋が 1 件存在する場合は、1 件につき約 1.4%地 価が下落することが判明した。 なお、推計式と推計結果は記載していないが、老朽家屋集積数(overA)と老朽家屋集 積数(B)の両方を説明変数に加えたモデルで推計したところ、いずれも係数の値は負と なったものの、老朽家屋集積数(overA)が統計的に有意ではないという結果となった。 老朽家屋集積数(overA)は、単体で加えたモデルでも元々有意水準が 5%であり、ラン クB に比べて、集積効果という見方には当てはまりにくい可能性がある。 4.3.4 実証分析その4 外部不経済をもたらしていた老朽家屋等が除却されると、原因が解消されたことにより、 地価は上昇すると考えられる。老朽危険家屋等対策として、自治体によっては助成制度を設 けてまで除却を進めているが、本当に外部不経済を解消しているのか、その効果はどの程度 あるのかを検証する。 4.3.4.1 推計モデル 推計モデル4で用いた周辺100m 以内に存在するランク overA29の老朽家屋等の数を基 に、平成23~平成 25 年度に除却30された老朽家屋等の件数、及び除却数が集積数に占め る割合(除却率)を用いて、老朽家屋等除却による外部不経済の解消効果を推計する。 なお、固定効果モデルによる分析では、時点間で変化のない効果は除去されるため、2 時点間で変化のない説明変数は推計モデルから除外している。 推計モデル5-1 老朽危険家屋等の除却による外部不経済解消効果の推計(除却数) ln 地価it31 = β0(定数項) +β1 除却数it +β2 平成 26 年度ダミーi +β3 人口密度it + εit(誤差項) ※固定効果モデルで推計 29足立区では全ての老朽家屋等について常に動向を把握しているわけではなく、特に危険度の低い老朽家 屋等については、除却等が行われた実績、除却時期についての正確な把握は困難である。そこで、本分 析においては、より信頼度が高いと思われるランクA 以上の老朽家屋等の除却数を用いた。 30 除却には、同一敷地内で老朽家屋等を解体後に新たな建築物を再建築したケースも含む。 31 添え字のi は観測個体を、t は時点を表す。
21 推計モデル5-2 老朽危険家屋等の除却による外部不経済解消効果の推計(除却率) ln 地価it = β0(定数項) +β1 除却率it +β2 平成 26 年度ダミーi +β3 人口密度it +εit(誤差項) ※固定効果モデルで推計 4.3.4.2 推計結果と結果の考察 推計モデル5-1及び5-2の推計結果を表7 に示す。 表7 推計モデル5-1、5-2 の推計結果 推計モデル5-1の結果としては、地価ポイント周辺100m 以内に存在するランク A 以 上の老朽家屋等が1 件除却されることで、地価が約 0.86%上昇することが判明した。 ただし推計モデル5-2の推計結果によるならば、周辺にある老朽危険家屋等が全て除 却された場合には地価が約0.94%上昇するが、仮に周辺に老朽危険家屋等が 2 件あったう ちの1 件のみが除却されたというような場合では地価の上昇はその半分の約 0.47%にとど まる。この結果は、除却により周辺に老朽危険家屋等が存在しなくなる場合と、除却後も 老朽危険家屋等が残存している場合とでは効果が異なる可能性を示唆している。
22 4.4 推計結果のまとめと考察 (1)老朽家屋等の外部不経済に与える影響は空き家か否かによって異なるとはいえない 推計モデル2での分析により、居住ありの老朽家屋等と空き家の老朽家屋等とで外部不 経済の大きさに統計的に有意な差は確認されなかった。したがって居住者の有無は、老朽家 屋等の外部不経済の大きさを左右する特性ではない32と推察される。 (2)老朽危険度が高い老朽家屋等の方が外部不経済は大きい 推計モデル4での分析により、集積効果を加味するとランクB よりもランク A の方が 1 件あたりの外部不経済が大きいことが確認された。これは、当初の仮説どおり、老朽危険 度が外部不経済の大きさにも反映しているものと推察される。 (3)老朽危険度では測りきれない外部不経済の要素が存在する 老朽化による危険度が高くないランクB の物件についても外部不経済が確認されたこと で、老朽家屋等の外部不経済は危険度のみによるものではないことが示された。予想され る要因としては、例えば老朽化による汚損等が周辺地域に景観上の悪影響をもたらすこと で市場に負の評価をされ、地価の下落をもたらしている等が考えられる。 (4)外部不経済の影響範囲と効果 今回の推計ではいずれも100m 以内に老朽家屋等が存在することを条件としていること から、外部不経済と除却による外部不経済の解消効果はいずれも100m 程度の広域に及ぶ 可能性があることとなる。したがって、老朽家屋等の外部不経済への対策を検討するにあ たっては、単に危険の及ぶと推測される近隣周辺の問題ととらえるのではなく、一定程度 の広域に影響する問題として認識するのが妥当と考える。 仮に、推計モデル5-1において計測された除却による地価の回復効果が半径100m 以 内に及ぶとすると、単純推計ではあるが、以下の式が示すとおり、その効果は非常に大き いものとなる。 <老朽危険家屋除却による効果のシュミレーション> (27 万円/㎡33 × 0.86%)×(100×100×π)㎡ ×(2,864ha34 / 5,320ha35)36 ≒ 3,927 万円 32 ただし、本研究は特定時点での外部不経済の大きさを計測しているものであり、居住者がいる場合 と比べ、空き家の方が老朽化の進行が早い可能性等について否定するものではない。 33 足立区における平成 27 年度地価公示の平均価格(住宅地:269,600 円)より 34 足立区における総宅地面積(足立区都市建設部都市計画課「足立区土地利用現況調査(平成 26 年 3 月 現在)」より) 35 足立区の総面積 36 効果の及ぶ範囲から市場取引の生じない道路や公園等の公共施設を除外するため、区内総面積に占める 宅地面積の割合を便宜的に用いて推計した。
23 5 まとめ 前章の実証分析の結果と、現行の老朽家屋等対策の課題をふまえて、行政による老朽家 屋等対策について政策提言するとともに、今後の課題を提示する。 5.1 現行制度の課題 (1)建築基準法と空家対策特措法の措置要件の範囲 建築基準法では、特定行政庁は既存不適格建築物に対し、「著しく保安上危険であり、 又は著しく衛生上有害であると認める場合」に、「当該建築物又はその敷地の所有者、管 理者又は占有者」に、「当該建築物の除却、移転、改築、増築、修繕、模様替、使用禁 止、使用制限その他保安上又は衛生上必要な措置をとることを命ずる」ことができる37と しており、空家対策特措法では、「そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるお それのある状態又は著しく衛生上有害となるおそれのある状態」そして、「適切な管理が 行われていないことにより著しく景観を損なっている状態その他周辺の生活環境の保全を 図るために放置することが不適切である状態」にあると認められる空家等に対して、助 言・指導(同法14 条 1 項)、勧告(同法 14 条 2 項)、命令(同法 14 条 3 項)、行政代執 行・略式代執行(同法14 条 9・10 項)の措置をとることができると規定している。 二つの法律を比較すると、空家対策特措法では、「放置すると~おそれのある場合」と 将来的な蓋然性を含む状態での措置を可能とする要件を規定している一方、建築基準法で は、現に危険が存在している場合に限り是正命令を出すことができると規定している。し たがって、居住者(または占有者)が存在する場合は、現在急迫する危険はないが、将来 危険が生じるおそれがある老朽家屋に対しては、何ら規制措置は取れないこととなる。 また、保安上の危険以外の外部不経済の要素としては、周囲の景観の毀損等が考えられ るが、これについては建築基準法による規制は存在しない。空家対策特措法においては、 「適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態」38を特定空家 の要件としているが、著しく景観を損なっている状態とは、「『特定空家等に対する措置』 に関する適切な実施を図るために必要な指針」によると、「①適切な管理が行われていな い結果、既存の景観に関するルールに著しく適合しない状態となっていること」、又は 「②その他以下のような状態39にあり、周囲の景観と著しく不調和な状態であること」と されており、単に景観を害しているだけでは足らず、著しいと判断されるに足るほどの妥 当性を持った根拠が必要である。 37 建築基準法 10 条 3 項より抜粋 38 空家等対策の推進に関する特別措置法 2 条 2 項より抜粋 39 状態の例:屋根、外壁等が汚物や落書き等で外見上大きく痛んだり汚れたまま放置されている。多数の 窓ガラスが割れたまま放置されている。立ち木等が建築物の全面を覆う程度まで繁茂している等
24 以上をふまえると、下記のようなケースについては、現行制度下においては措置要件に あてはまらないこととなる。 (A) そのまま放置すれば、保安上危険と思われる老朽家屋等であるが、居住者が居る場合 (B) 老朽家屋等の存在により、著しいとまでは言えないが、周辺の景観を損っている状態 ここで、前章の実証分析で用いた足立区の老朽家屋データにおける老朽ランク区分と照 らし合わせてみると、ランクBはケース(B)に対応する場合があり、ランク overAではケ ース(B)に加え、ケース(A)に該当する場合が相当数存在すると思われる。いずれも今回の 実証分析において、外部不経済が確認された老朽家屋等であるが、現行法においては規制 対象に含まれない可能性が高く、足立区のように独自に条例等を設けない限り、行政によ る対処は困難と思われる。 (2)建築基準法と空家対策特措法の措置要件の不明確さ 空家対策特措法施行以前に空き家対策条例を制定した自治体の中には、建築基準法10 条3 項の要件判断が難しいことを制定理由の一つとして挙げているところがある40。ま た、同条項による是正命令の発出は平成17 年から平成 25 年までの間でわずか 16 件41と されており、要件判断の難しさが実効性を低めている可能性がある。この問題に対して、 国土交通省では、特定空家判定のガイドライン42を作成するほか、既存不適格建築物に係 る是正命令制度に関するガイドライン43を取りまとめているが、これらはあくまで「基本 的な考え方」、「判断方法の例」、「判断の参考となる基準」を示したものであるため、依然 として処分庁による裁量判断の余地が大きいと思われる。また、形式要件が明確であるか どうかは、行政処分を受ける側にとっても予見性を高める上で重要な意味を持つため、行 政手続法12 条44の趣旨を鑑みても、形式要件の明確化は重要な課題である。 (3)行政代執行制度の問題 また、前述の是正命令は、義務履行手段として行政代執行を規定していることから、義務 の履行がなされない場合に最終的には行政代執行をせざるを得なくなることを恐れ、是正 命令の発出が敬遠される45ことも危惧される。したがって、福井(1996)において指摘されて いるように、行政コストの高い行政代執行を義務履行手段とする是正命令等を中心とした 直接規制よりも、経済的手段である賦課金制度による政府介入の方がより望ましい。 40 北村(監修・著)ほか(2012)、公益財団法人に本都市センター(2015) 参照 41 国土交通省「既存不適格建築物に係る是正命令制度に関するガイドライン」(2015) 参照 42 国土交通省「『特定空家等に対する措置』に関する適切な実施を図るために必要な指針」参照 43 国土交通省前掲(2015) 44 行政手続法 12 条 2 項には、「行政庁は、処分基準を定めるに当たっては、不利益処分の性質に照らし てできる限り具体的なものとしなければならない。」とある。 45 福井(1996)参照
25 (4)一般住宅用地への固定資産税の課税標準特例 一般住宅用地に対する固定資産税の課税標準特例が存在するため、たとえ老朽化が著し く、住居用途に適さない状態の住宅であっても、解体をできるだけ先延ばしすることで更 地化による特例解除がもたらす負担増を回避することができるため、所有者にとってはそ のままの状態で放置するインセンティブが存在すると考えられる。 空き家の場合、特定空家に指定され勧告が出されると、この特例は解除されるが、この 措置はあくまで、空き家等保持推奨に働くインセンティブが存在するという制度の歪みを 解消しているに過ぎず、老朽家屋の外部不経済自体のコントロールができているわけでは ない。 5.2 政策提言 【老朽家屋の外部不経済に対するピグー税の賦課】 老朽家屋等に対しては、所有者自らが適切な管理を行うことが大前提であり、効率的で もある。そのためには、外部不経済を内在化させることで放置インセンティブをなくすこ とが有効であり、空き家か否かの別に関わらず、老朽化による外部不経済の大きさに応じ て課税するピグー税46を設定することを提案する。 また、賦課基準の設定にあたっては、現行制度下では適用対象に含まれていない比較的 軽度の老朽家屋等も対象に含めた上で、外部不経済の程度に応じて段階的に税率を引き上 げられるように柔軟に課税標準を変更できるようにし、老朽化の深刻化や管理不全状態の 解消を反映できるようにする必要がある。 なお、ピグー税導入後の老朽家屋等対策(保安上の危険に関する)における適用関係イ メージは、図7 のとおりである。現行制度下で強制措置による義務履行の適用対象となら ない領域にピグー税を適用することにより、これまで不十分であった外部不経済のコント ロールを企図するものである。ただし、現行制度において強制措置が可能となっている領 域についてもピグー税が賦課されることとなるため、外部不経済の原因である保安上の危 険が取り除かれた場合には、すみやかにピグー税の賦課を取りやめる必要がある。 そして、当該ピグー税の賦課徴収にあたっては、外部不経済の原因物への課税という点 で整合性があり、既に根拠法と執行体制が確立されている建物の固定資産税徴収手続きに より行うのが妥当と考える。 46 「負の外部性の影響を矯正するために課される税」N・グレゴリー・マンキュー (2005)参照
26 図7 政策提言に基づく老朽家屋等対策の適用イメージ(保安上の危険の場合) また、ピグー税を導入した場合、所有者は適正な税を支払うことにより老朽家屋等をそ のまま放置することも許容されることとなるため、徴収した税を原資とし、周辺住民への 補償に充てることも必要と考える。 加えて、そうした場合でも著しい保安上の危険等が生じている場合には、放置すると周 辺住民の生命・財産をおびやかすこととなるため、建築基準法ないし空家対策特措法によ る是正命令等での解決ルートは依然として重要である。したがって、そうした解決ルート での実効性を高めるための制度改善や見直し47等も必要であろう。差し当たって、現状で 必要と思われるのは、両法律の適用要件の明確化である。 前述のとおり、措置要件の判断が難しいという問題があるが、建築主事を置いていない 特定行政庁以外の自治体の場合は、要件判断はより困難と考えられる。建築基準法に基づ く措置は特定行政庁の権限であるが、空家対策特措法に基づく是正措置の発出にはそうし た制限がないため、特定空家等への対策を検討する上で、特定行政庁の支援が重要となる こと思われる。なお、空家対策特措法8 条は、「市町村に対し、都道府県による技術的な 助言等必要な援助を行う努力義務」を規定している。これは、地方の包括的自治体かつ特 定行政庁としての役割を期待されているものと解される。 したがって、こうした立法趣旨に鑑み、都道府県において特定空家等判定のためのより 詳細な判定基準の提示48や、ガイドラインの作成、必要な場合に技術職員の派遣や支援が 受けられる体制整備等を進めるべきと考える。 47 空家対策特措法では、附則 2 において、「政府は、この法律施工後五年を経過した場合において、この 法律の施行の状況を勘案し、必要があると認めるときは、この法律の規定について検討を加え、その結 果に基づいて所要の措置を講ずるものとする。」としている。 48 なお、大阪府、福岡県、岡山県では、詳細な特定空家の判定フロー、判定表等を作成している。 (現に~が存在する) 放置すれば~となるおそれ (現に~が存在する) 放置すれば~となるおそれ 居住なし(空き家) 空家対策特措法 /建築基準法 及び ピグー税 空家対策特措法 及び ピグー税 居住あり 建築基準法 及び ピグー税 ピグー税 著しい保安上の危険 保安上の危険 (著しいとまではいえない) ピグー税 ピグー税
27 5.3 今後の課題 本稿では、老朽家屋等による外部不経済への対策として、ピグー税の賦課を政策提言し た。しかし、ピグー税の賦課要件と額の設定にあたっては、老朽家屋の外部不経済を客観 的に評価する必要があるため、立地状況等(都市の規模、土地利用状況、通りへの面し方 等)による影響も加味した推計モデルの構築等、外部不経済をより精緻に計測する手法を 確立する必要がある。 また、空家対策特措法においては、各自治体が空き家についてのデータベースを整備49 することを努力義務としているが、空き家のみならず、老朽家屋等に関する地理空間情報 を含む総合的なデータベースを構築することが適当と考える。また、そうしたデータベー スを老朽家屋及び空き家対策部局間で共有し、老朽化の進行や空き家化などのリスクレベ ルの変化にもより適切な対応をとれる体制とするべきと考える。老朽家屋対策と空き家対 策が乖離した縦割り体制とならないよう、部署間の連携を強めて対応していくことが必要 であろう。
謝辞
本稿の執筆にあたっては、プログラムディレクターの福井秀夫教授、主査の中川雅之客 員教授、副査の杉浦美奈准教授、村辻義信客員教授、森岡拓郎専任講師から丁寧なご指導 をいただくとともに、まちづくりプログラム関係教員の皆様から、たくさんの貴重なご意 見をいただきました。心より感謝申し上げます。 また、本稿での実証分析にあたりデータ提供等において、一方ならぬご協力をいただき ました足立区都市建設部建築安全課をはじめ、各種情報提供等にご協力をいただきました 関係自治体の職員の皆様には、ここに感謝の意を表します。 そして、この一年を共に過ごし、共に学び、苦楽を分かち合った、まちづくりプログラ ム同期の皆様にも深く感謝申し上げます。 なお、本稿における見解及び内容に関する誤り等については、全て筆者に帰します。ま た、本稿における考察・提言等につきましては、筆者の個人的な見解を示したものであ り、所属機関の見解を示すものではないことを申し添えます。本研究は、東京大学CSIS 共同研究(No.716)による成果である(利用データ: Zmap TOWN II (2013/14 年度 Shape 版) 東京都 データセット(ゼンリン提供))。
28 参考・引用文献 N・グレゴリー・マンキュー(著)足立英之ほか(訳). (2005). 『マンキュー経済学Ⅰ ミ クロ編』. 東洋経済印刷. 粟津貴史. (2014). 「管理不全空き家等の外部効果及び対策効果に関する研究」. 『都市住宅 学』87, 209-217. 金本良嗣. (1997). 『都市経済学』. 東洋経済新報社. 北村喜宣. (2012). 「空き家対策の自治体政策法務(一)・(二・完)」. 『自治研究』88(7),21-47, 88(8), 49-79 . 北村喜宣. (2016a). 「空家法の全面施行によってみえてきた法的論点」. 『都市+デザイン』 34, 10-13. 北村喜宣. (2016b). 「老朽家屋等対策における都道府県と市町村の協働:特定行政庁に着目 して」. 著: 磯部力先生古稀記念論文集刊行委員会(編), 『都市と環境 の公法学〔磯部力先生古稀記念論文集〕』 (ページ: 103-131). 勁草書房. 北村喜宣(監修・執筆)ほか. (2012). 『空き家等の適正管理条例』. (株)地域科学研究会 公益財団法人日本都市センター. (2015). 『都市自治体と空き家ー課題・対策・展望ー』. 株 式会社 中広 東京支社. 中川雅之. (2008). 『公共経済学と都市政策』. 日本評論社. 中川雅之・齊藤誠・清水千弘. (2014). 「老朽マンションの近隣外部性ー老朽マンション集 積が住宅価格に与える影響ー」. 『住宅土地経済』 (93), 20-27. 長島俊明. (2016). 「ゴミ屋敷がもたらす負の外部性への対応に関する考察」. 政策研究大学 院大学まちづくりプログラム修士論文. 福井秀夫. (1996). 「行政代執行制度の課題」. 『公法研究』 58, 206-219. 福井秀夫. (2007). 『ケースからはじめよう 法と経済学』. 日本評論社. .