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奈良教育大学学術リポジトリNEAR

児童の内発的動機づけに及ぼす言語的報酬と物質的 報酬の効果の比較 ― Deci の認知的評価理論の検 討 ―

著者 桜井 茂男

雑誌名 奈良教育大学教育研究所紀要

26

ページ 71‑78

発行年 1990‑03‑01

その他のタイトル The Comparison of the Effects of Verbal and Token Rewards on Intrinsic Motivation in

Children ― Investigation of Deci's Cognitive Evaluation Theory ―

URL http://hdl.handle.net/10105/6717

(2)

児童の内発的動機づけに及ぼす言語的報酬と

   物質的報酬の効果の比較

     一Deciの認知的評価理論の検討一

桜 井 茂 男  (心理学教室)

要旨:小学4年生24名を対象にして、内発的動機づけに及ぼす外的報酬の効 果を扱ったDeci(1975)の認知的評価理論が検討された。理論的に大きな差 異が予測される言語的報酬(ほめことば)と物質的報酬(トークンカード)が 外的報酬として用いられた。その結果、Deci(1971)の開発した自由選択行動 法によると、認知的評価理論は支持された。しかし、質問紙による有能感評定 では、両群に差異は認められず、認知的評価理論は支持されなかった。また、

2〜7日後の自由選択行動法では、両群に有意な差は認められず・トークンの 報酬の方が内発的動機づけを阻害するという効果は児童では比較的短いことが 明らかとなった。

キーワード:内発的動機づけ、コンビテンス、自己決定、外的報酬

 D㏄i(1971.1972.1975)は、内発的動機づけに及ぼす外的報酬の効果を検討し、認知的評価 理論(cognitive eva1uati㎝theory)を提唱した(図1参照)。この理論によれば、外的報酬は

外的報酬の優勢な側面

(制御的側面)(情報的側面)

因果律の所在 自己決定感と

(命題 I) 有能感(命題 皿)

内発的に動機づけられた 課 題 へ の 行 動

図1 D㏄i(1975)の認知的評価理論(Boalら(1981)による)

.The Comparison of the Eff㏄ts of Verba1㎝d Toke皿Rewards㎝Intrinsic Motivati㎝in  Chi1dren−Investigation of Deci s Cognitive Evaluation Theory一

.. rhigeo SAKURAI(Dξρακme加q∫Psツ。ん。ユ。gツ,Mαrασπカers比ツ。ゾ亙肋。αれ。π,Mαrα)

(3)

二つの側面から内発的動機づけに影響を及ぼすとされる。一つは外的報酬の持っ制御的な側面

(contro11ing asp㏄t)で、もう一つは外的報酬の持っ情報的な側面(informati㎝a1asp㏄t)で ある。前者は、行為者が認知した因果律の所在(per㏄ived1o㎝s of causa1ity)すなわち、ある 課題に対する動機(づけ)が内発的であるか、それとも外発的であるかという認知過程に影響す

る<命題1>とされる。他方、後者は・行為者のある課題に対する有能感および自己決定感

(fee1i㎎s of competence and self−detemi㎜ti㎝)という感情過程に影響する<命題2>とされ 孔そして、このような二つの過程は・外的報酬の持つ上記二つの側面のどちらが優位(Salient)

であるかによって、択一的に働く<命題3>とされる。たとえば、物質的報酬(金銭や物品など)

によって課題に対する内発的動機づけが低下するのは、多くの場合・物質的報酬にはそれを与え るという予告があるため、認知された因果律の所在が外部へ移動するからだと説明される。他方、

言語的報酬(ほめことばなど)によって課題に対する内発的動機づけが高揚するのは、有能感や 自己決定感が高まるからだと説明される。

 ところで、Boal&Cummi㎎s(1981)他によれば、これまでの内発的動機づけに及ぼす外的 報酬の効果に関する研究の多くは、大学生を被験者としており、被験者に児童を用いた研究は比 較的少ないと指摘されている。代表的なものには、Krug1anskiら(1971)やPinder(1976)の 研究があ孔前者は・認知的評価理論を支持しているが・後者は支持していない。

 そこで、本研究では、被験者に小学4年生を、内発的動機づけの指標にD㏄iが開発した「自 由選択行動法」と簡単な質問を用いて、認知的評価理論を検討する。自由選択行動法では、従来 通り、行動を指標とした検討が行われる。本研究では、外的報酬として言語的報酬と物質的報酬 を用いる。認知的評価理論によれば、この二つの報酬の効果を比べるときに、最もよくその効果 の違いが現われるとされる。すなわち、既述のように、言語的報酬群では内発的動機づけが高揚 し、物質的報酬群ではそれが低下し、その差異が顕著となるのである。また、従来の外的報酬の 効果は、実験直後にはよく測定されているが、ある程度の時間を経過した後のそれは、Lepper ら(1973)の幼児を対象とした研究などで検討されているにすぎない。Lepperらの研究では、

外的報酬の効果は1,2週間後まで認められている。本研究ではこの点もあわせて検討する。

 つぎに、質問では、有能感に関するDeci(1975)の仮説と桜井(1984)の仮説を吟味する。

D㏄i(1975)の認知的評価理論に従えば、言語的報酬でのみ有能感は高まると判断される。一方、

桜井(1984)に従えば、D㏄i(1975)とは異なり、ほぼ同じように多くの成功経験が与えられる のであれば、言語的報酬群でも物質的報酬群でも、有能感は高揚するものと予測される。実験に よっても、桜井の仮説は支持されている(桜井、1984)。またSchunk(1983)他の自己効力感

(se1f−efficacy)に関する研究でも、桜井の仮説は支持されている。

 以上を要約すると、本研究ではっぎの3点が検討される。

 ①D㏄iの開発した自由選択行動法による場合、小学4年生の児童でも、大学生と同じよう に・認知的評価理論からの予測は支持されるか。

 ②実験直後だけではなく、ある程度時間を経た後でも、自由選択行動法により評価される児 童の内発的動機づけに及ぼす外的報酬の効果は持続しているか。

(4)

③質問により言語的報酬群と物質的報酬群の有能感を比較した場合、認知的評価理論どおり 言語的報酬群の方が高くなるか。それとも桜井(1984)の指摘のように、差は認められないか。

方     法

 被験児  長野県長野市J小学校4年生24名(男女12名ずつ)。

 実験者  心理学専攻の男子大学生2名。

 実験課題  ラッキーパズルが用いられた。タングラムに類似したこのパズルは、市販のパズ ルであり、長方形のプラスチック板を7つに分けた切片でできている。本来は、この切片でいろ いろな形を作って遊ぶのであるが、本実験では、この切片から作られる一般的な図形をガイドブッ クより選び、それを実物大で画用紙に描いて、そこに切片をはめ込むというように変更して用い られた(図2参照)。使用された図形は「サボテン」(例題用)、「チューリップ」、「はさみ」、「か ぶと」(いずれも実験セッション用)と命名された。この他に、数枚の図形カードが、実験セッ

ション後の自由選択時間のときに用いられた。

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図2 実験課題の例(チューリップ)

    破線は・7つの切片の入る位置を示しており、

    本来は輪郭だけが描かれている。

 実験場所と設定  実験場所には、図工準備室と家庭科教室が、学校側の配慮により使用され た。部屋には、自由選択時間における被験児の行動を録画するために、ビデオカメラが被験児に 気づかれないように配置されていた。また、自由選択時間に自由に遊べる物として、被験児から 少し離れたところにある机に、遊具や絵本、漫画本などが幾つか置かれていた。

(5)

 手続き  被験児は、言語的報酬群と物質的報酬群へ男女同数ずつ、ランダムに分けられた。

両群とも被験児は一人ずつ実験室へ入り、実験者と相対して座った。実験者は、被験児の名前、

番号などを確かめ、それらを記録用紙に記入し、その後に実施するパズルについて説明を行い、

例題を一っ示した。言語的報酬群は、なるべく3分間に一枚の図形を完成するように教示され、

実験セッションに入った。実験セッションでは3枚の図形が与えられた。一枚の図形が3分以内 で解けなかった場合には、ゼイガルニーク効果(Zeigamik eff㏄t)を除くため、解答が示され た。また、解けた場合には、ほめことばが与えられた。ほめことぱとしては、①とてもよくでき ましたね、何秒で解けましたよ、②わ一すごい、何秒、とっても早いね、③これなかなか早くで きましたよ・何秒です・何君(さん)はこのパズル」二手ですね、のうちからランダムに一つ選び、

解けた毎に与えられた。

 他方、物質的報酬群は、例題が一っ示された後、1問3分以内で解けたならぱ、1枚のトーク ンカードが与えられ、10枚集まると賞品として、男子にはプラモデル、女子にはマスコット人 形と交換してあげると教示した。賞品は、机の横に呈示されていた。問題が3分以内で解けなかっ た場合には言語的報酬群と同じように解答が示された。実験セッションでは、3枚の図形が出題 された。

 両群とも実験セッション後は、実験者がその後に行う質問紙を忘れたので取りにいってくると いう口実をつけて、実験室を退室した。その時、実験者は被験児にラッキーパズルの他、横のテー ブルの上に並べられた遊具や本などで自由に遊んでよいが・部屋からは出ないように教示し・ビ デオのスイッチをわからないように入れた。7分間の被験児の自由選択行動がビデオに録画され、

当該パズルに従事した時間が後に分析された。7分後、実験者は実験室に戻り、パズルに対する 質問と称して、有能感に関する三つの質問をし、この日の実験は終了した。三つの質問とは、

①難しくて、なかなか解けなくても最後まで自分で考えたいですか、②もっと難しい形をっくっ てみたいですか、③他のパズルもやってみたいですか、であり、四段階(「たいへんそう患う」、

「ややそう思う」、「あまりそう思わない」、「全くそう思わない」)で回答が求められた・肯定的な

反応から順に、4・3・2,1点と得点化されれ

 2〜7日後(一週間後の計画であったが、学校の都合により変更が求められた)、別のパズル を行うという名目で、前の実験と同じ設定の教室(控え室という設定)で、5分剛順番を待って もらい、その間の自由選択行動がビデオに録画された。当該パズルヘの従事時間が前の実験と同 じように分析された。

結      果 1)自由選択行動法による当該パズルヘの従事時間

実験セッション直後の自由時間(7分間)と2〜7日後(5分間)における当該パズルヘの平 均従事時間と標準偏差(SD:秒単位)が、表工に示されている。実験セッション直後の自由時 間に当該パズルに従事した平均時間では、言語的報酬群が242.0秒、物質的報酬群が66.9秒と 差が大きく見える。しかし、SDがそれぞれ183.3秒、81,8秒と大きい。ここでは、言語的報酬

(6)

表i 実験セッション直後の自由暗闇(7分間)と    2〜7日後の自由時間(5分間)における    当該パズルヘの平均従事時間とSD  (秒)

実験セッション直後 2〜7日後 言語的報酬群(W≡12)

物質的報酬群(W=12)

242.0(183.3)

66.9  (81.8)

155.7(127.1)

75.O(88.7)

)内はSD

表2 色変換による実験セッション直後の自由暗闇(7分間)と    2〜7日後の自由時間(5分間)における当該パズルヘの    平均従事時間とSD

実験セッション直後 2〜7日後

言語的報酬群(W:12)

物質的報酬群(〃=12)

49.63 (35.12)

19.39(16.50)

47.85(33,64)

24,06(23.28)

)内はsD

50 40 30 20 10

口誘的報酬群

売物質的報酬群

実験セッション    2〜7日後   直 後

図3 実験セッション直後と2〜7日後における    当該パズルヘの従事時間の比較

群のSのの大きい点が注目されよ㌔実験2〜7日後の自由時間における当該パズルヘの平均従 事時間は、言語的報酬が155.7秒、物質的報酬群が75.0秒と、実験セッション直後よりも両群 の差は小さくなったようにみえる。また、SDについても差が小さくなったようである。

 実験セッション直後と2〜7日後に設定された自由時間の長さがそれぞれ7分間と5分間と異 なり、このままでは当該パズルヘの従事時間の変化を比較することが困難であるため、上記の平

(7)

均時間は色変換された。その結果が、表2および図3に示されている。これをみると、言語的報 酬群では49.63(実験セッション直後)と47.85(2〜7日後)、物質的報酬群では19.39と24.06

(同順)で、言語的報酬群はやや減少、物質的報酬群はやや増加している。両群の差が、実験セッ ション直後より2〜7日後で小さくなっていることがわかる。

 そこで、色変換値により、群(言語的報酬群と物質的報酬群)×測定時(実験セッショ:/直後 と2〜7日後)×被験児(繰り返し)の3要因の分散分析を行った。その結果、群にのみ1%水 準で有意な主効果が認められ(F(1,22)二885,ρ<01)、言語的報酬群の方が物質的報酬群よ りも長く当該パズルヘ従事していることが示された。有意な交互作用は認められなかったが、仮 説を検討するために、実験セッション直後と2〜7日後の測定時に分けて…語的報酬群と物質的 報酬群の当該パズルヘの従事時間を工SDにより比較したところ、実験セッション直後では5%

水準で言語的報酬群の方が有意に長く当該パズルヘ従事していることが示された(6(22)=237,

ρ<.05)が・2〜7日後では有意な差はみとめられなかった。

2)質問による有能感評定

 各群における有能感に関する三つの質問の平均得点、標準偏差(SD)および平均の差の検定 の結果が、表3に示されている。各質間項目でも、3間の合計得点でも、両群に有意な差は認め

られなかった。ただ、項目1の「難しくて、なかなか解けなくても最後まで自分で考えたいです か」という問いでは、10%水準で物質的報酬群の方が高得点である傾向がみられた( (22)=188,

ρ<.1O)。

表3質問による有能感評定(4点満点)

言語的報酬群  (W:12)

物質的報酬群  (W=12)

1 2    3   全 体

3,58    3.17

( .52)   ( .58)

3,92    3.17

( .29)    ( 、72)

ε値      1.88.

.ρ<.1O

3.75     10.50

(.62)  ( 1.09)

3.75    10.83

(.45)  ( .94)

0     0     .77

()内はSD

考      察

 Deci(1971)が開発した「自由選択行動法」によると、実験セッション直後では、言語的報酬 群の方が物質的報酬群よりも当該パズルヘの従事時間は有意に長く、この結果は認知的評価理論 の行動面の予測を支持している。しかし、その後に実施された質問による有能感の評定では、3 問のいずれにも有意な差は認められず、言語的報酬群の方が物質的報酬群よりも有能感が高まる

という認知的評価理論の予測は支持されなかった。しかも、質問の第一間では、10%水準では あるが、物質的報酬群の方が高得点であった。したがって、これらの結果によれば、自由選択行 動法による言語的報酬群の方が物質的報酬群よりも当該パズルにより長く従事するという現象は、

(8)

自己決定感の差異では説明が容易であるが、有能感の差異では説明がむずかしいように考えられ る。桜井(1984)の指摘は支持されたといえよう。ただし、質問による有能感の評定が、自由選 択行動法の後に行われているため、外的報酬の効果が行動により表現され、すでに低下あるいは 消失していたとも考えられる。この点は、実験セッション直後に質問することにより確かめる必 要があろう。また、被験児に小学4年生を用いているが、彼らにとって内省報告(質問への応答)

は必ずしも容易とはいいがたい。そこで、内省がより確かである年長の児童を対象に、有能感の 評定をすることも重要であるといえよう。さらに、将来的な課題としては、自由選択行動法を改 善して、有能感と自己決定感に基づく行動を分離して測定する方法を開発し、外的報酬の効果を 検討していくことが期待される。

 2〜7日後の自由暗闇における当該パズルヘの従事時間では、言語的報酬群と物質的報酬群の 間に有意な差は認められなかった。すなわち、2〜7日後には物質的報酬が言語的報酬よりも内 発的動機づけを阻害するという効果はほぼ消失しているということができよう。これは明らかに しepperら(1973)の結果とは異なっそいる。その原因はいくつか考えられるであろうが、主要 なものは以下の二つであろう。第一は、Lepperらの場合は被験児に幼児を用いているが、本実 験では小学4年生の児童が用いられており、外的報酬の効果がより一時的であったという点であ

る。年長になるほど、外的環境の影響は決定的ではなく、長くは持続しないものと考えられよう。

第二には、本実験の場合にはLepperらとは異なり、パズルヘの興味の高い児童だけが扱われて はいない点である。高趣味の者ほど、外的環境による影響は大きいと指摘されている(たとえば、

橋口、1985)。

引 用 文 献

Boa1,K.B.,&Cummings,L.L.1981Cognitive evahation theory:An experimenta1test of     processes and outcomes Or8αη吻αれ。㎜ユ地㎞リー。rα〃H mαπPeガ。r㎜απce,28,289−

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