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(1)

長崎大学教育学部紀要一教育科学一 第

5 7

8 5 ‑8 9( 1 9 9 9

6

月)

認知 された親の外的報酬 と内発的動機づけとの関連 について

‑ 女子大学生による回想に基づいて ‑

宮崎正明● 龍 祐吉 日 矢田友子 = 小川内哲生 日暮

There l at i o ns hi psbe t wee npe rc e i v ede xt e rnalre war dsof f e re d bypar e nt sandc hi l de rn' si nt ri ns i cmo t i vat i o n:Wo me n' Sc ol l e ge

s t ude nt sl oo ki ngbac ki nt ot hec hi l dhoo d

.

Ma s a a k iMI YAZ AKI ‑ , Yu k i c h iRYU‥, To mo k oYADA‥a n dTe t s u oOGAWAUC H…

問題および目的

教授場面や社会化の場面 において,大人 は児童生徒の学習行動や適切な社会的行動 を促 すために物質的報酬 (ごはうび)や言語的報酬 (はめ言葉) などの外的報酬を利用す るこ

とが多 い。

近年内発的動機づけに外的報酬が影響 を及 ぼす ことを報告 した研究が数多 く認 め られ る よ うに な る よ うに な った (た と え ば ,

De c i ,1 9 71; Ha rac ki e wi c z ,1 9 7 9; Dol i nge r

&

The l e n, 1 9 7 8; Le ppe r, Gr e e ne

,&

Ni s be t t ,1 9 7 3; Ros s

,

1 9 7 5 )

。 なお ここでいう内発 的動機 づ けとは活動 それ自体か ら得 られ る満足以外 に明白な報酬 を受 け取 らないとき, そのひとは 内発的 に動機づ け られていることになる。

De c i( 1 9 7

1) は大学生を被験者 として,金銭報酬を与え ることによって面 白いパ ズルに 関す る興味が損 なわれ ることを報告 した そ して

Le ppe re ta

1

.( 1 9 7 3 )

は絵 をか くことが 大好 きな保育園児 に,絵 を描 くことを求 める際に外的報酬 (金星 と赤 い リボ ンのついて賞 状) を予告 して,被験児が絵 を描 いた後,報酬 を与え ることによって, その後の絵 を描 く

こと‑の興味が低下 した ことを報告 している このよ うな外的報酬 による内発的動機づけ への損傷的効果 は,広範囲な年一郎こおいて認 め られている

( De c i & Rya n ,1 9 8 0 )

しか し,外発的な報酬 は内発的動横づ けに必ず しも有害効 果 をお よぼす ので はな い。

De c i

は認知的評価理論 を提唱 して,外的報酬 による内発的動機づけへの影響 を整理 してい る。 この理論 によるとあ らゆる報酬 は情報的側面 と統制的側面がある。報酬の情報的側面 が顕現的になると自己決定的な有能感が高 ま り,内発的動機づ けが促 され る。 この過程 に 関わるもの として,成績 に関す る正の フィー ドバ ックがあげられる

( Har ac ki e wi c z , 1 9 7 9 )

0

これに対 して,統制的な側面が顕現的 になると,因果律 の所在が内的か ら外的に変化 して, 内発的動機づけが低下す る。後者の過程 は過正当化効果 といわれ,報酬が活動 と本来無関 連である場合

( Kr ugl a ns kie ta

lリ

1 9 7 5 )

,鮮明である場合

( Ros s ,1 9 7 5 )

, 外発 的報酬 が 予告 されている場合

( Le ppe re ta1

.

, 1 9 7 3 )

, もともと課題内容 に高 い内発的な興 味 を抱 い

*長峰大学教育学部心理学教室 ++中京女子大学

***玉木女子短期大学

(2)

8 6

長崎大学教育学部紀要一教育科学一 第

5 7

ていた場合

( S a r a f i n o & Di Ma t t i a,1 9 7 8 )

に生 じやすい。

ところで外的報酬 と内発的動機づけの関連 を見 た これまでの研究 は,主 に実験室で行わ れ,報酬 を与え る人物 は被験者 にとって初対面であるとい う場面の もとで研究成果を得て いる そのため親や教師 と子 どもとの間 に長期的な相互作用がある現実 の教授場面や社会 化の場面 にとって, これまでの研究成果 は必ず しも有益 な知見 を提供 しているとはいえな い。 たとえば,人物 に対す る親 しみやす さや信頼度 によって同 じ言葉かけが子 どもの行動 に肯定的な効果 を及ぼ した り,反対 に否定的な効果 を及ぼ した りす ることは日常 よ く観察 され ることである。 このような ことか らも,同 じ外的報酬であ って,報酬者 の違 いによっ て被報酬者の内発的動機づけへの影響が異 なることが予想 され る。

De c i( 1 9 7 5 )

は報酬者 の違 いが外的報酬の情報的側面 と統制的側面の相対的顕現性 に影響 を及ぼす可能性 を示唆 しているに もかかわ らず,報酬者が子 ど もにとって初対面であ るのか もっとも身近 な親や 教師であるのか,特 にその違 いを区別す ることな く,認知的評価理論 を通 じて,内発的動 機づ けに及ぼす外的報酬の影響 を言及 している

そ こで本研究では女子大学生 に自身の小学校時代を回想 させ ることを通 じて,学習行動 について親か らどのような外的な報酬 の提供を受 けたのか とい うことと小学校時代 の内発 的動機づ けとの関連 について検討す ることを目的 と した。 そ して家庭内における父親 と母 親 の役割の違 いや物理的な接触時間の違 いを鑑み ると,父親 と母親毎 に,内発的動機づ け に対す る外的報酬の影響 も異なることが予想 され る。 なお本研究では外的報酬 と して物質 的報酬 (ごほうび),言語的報酬 (はめ言葉) という表現 を用 いた。 これ は特定 の報酬 の 内容 を提示す ることが,被験者間で‑様 なイ ンパ ク トを与え るとは限 らないとい う理 由に

よる。

方 法

社験者 :女子大学生

2 2 6

親の外的報酬 に関する質問紙 :桜井

( 1 9 8

7) を参考 して,物質的報酬 (ある, な し) ×言 語的報酬 (ある, な し)の以下の4報酬パ ター ンの中か ら勉強 に関す る親 の働 きか けにつ

いて,小学校時代の自分 に該当す るものを,母親,父親別 に一つずつ選択 させた。

・物質的報酬 (ごほうび) も言語的報酬 (はめること) もよ くして くれた (以下物質 一言 語)0

・物質的報酬 はよ くあったが,言語的報酬 はあまりなか った (以下物質 一言語 な し)0

・物質的報酬 はあまりなか ったが言語的報酬 はよ くあ った (以下物質 な し一言語)。

・物質的報酬 も言語的報酬 もあま りなか った (以下物質 な し一言語 な し)0

内発的動機づけに関する質問批 :桜井 ・高野

( 1 9 8 5 )

の内発的 一外発的aIJ定尺度を用いた。

これはそれぞれ

5

項 目か らなる

6

つの下位尺度 (①挑戦,②知的好奇心,③達成,(参認 知 された因果律 の所在,⑤内生的 ‑外生的帰属,⑥楽 しさ)か ら構成 され,児童 の学習 に関す る動機づけを広範 な生活領域か らとらえた ものである。回答 は4段階評定で,内 発的動機づ けの高 い反応か ら

4, 3, 2

,

1

点 と得点化 され る。

手続 き :調査 は

1 9 9 7

1 0

月か ら

1 2

月 にか けて行われた。実施者 は回答の仕方を説明 した後, 各被験者 に各 自のペースで回答 させ, その場で回収 し,外的報酬パ ター ンごとに内発的動 機づけの得点 を比較 した。

(3)

宮崎 ・龍 ・矢田 ・小川内 :認知された親の外的報酬と内発的動機づけとの関連について

8 7

結 果

Tab一 el

各群の人数 と内発的動稚づけ得点の平均値 と

S

D (母親の場合)

物質的報酬あ り 物質的報酬な し

言語的報酬 あり 言語的報酬な し 言語的報酬 あり 言語的報酬な し 人得

S

数点D

3 3 7 1 4 8 3 8

3 8. 5a 4 7. 3a 3 5

.

4b 3 5. 6b 1 6. 6 3 2 3. 6 9 1 6. 9 3 1 7. 4 6

症)記号が同 じものは有意差がないことを示 している。

Tabl e2

各群の人数 と内発的動橡づけ得点の平均値 とSD(父親の場合)

物質的報酬 あ り 物質的報酬な し

言語的報酬 あ り 言語的報酬な し 言語的報酬あり 言語的報酬な し

人 数

1 3 7 1 0 4 1 0 2

得 点

5 1 . 4 * 3 2. 0 3 5. 1 3 5. 8 S D 31 . 4 4 1 8. 2 9 1 5. 1 6 1 5. 8 3

* p<. 0 5

母親

( Tabl e l

),父親

( Tabl e 2 )

別 に外的報酬のパ ター ンの人数 と各パ ター ンの内発的 動機づけ得点を集計 した。 まず外的報酬パ ター ン毎の人数であるが母親の場合,物質的な し一言語的のパ ター ンが他の

3

つのパ ター ンよりも突出 している.父親の場合,物質的な し一言語的あ りと物質的な し一言語的な しの2つのパ ター ンに集中 している

親の外的報酬パ ター ンを独立変数,子 どもの内発的動機づけを従属変数 として,物質的 報酬 (ある,な し) ×言語的報酬 (ある,な し)の2要因のいずれ も繰 り返 しのある分散 分析を母親 と父親別に実施 した

母親 による外的報酬 と子 どもの内発的動稚づけとの関係

母親の場合,物質的報酬の主効果 に有意な傾向があった

(F ( 1 /2 2 2 )‑3. 1 5, p<. 0 6 )

0 しか し言語的報酬の主効果 と交互作用は有意ではなか った。つまり母親か ら物質的報酬を 多 く与え られていた子 どもの方が物質的報酬をあまり与え られていない子 どもよりも内発 的動機づけの得点の高いことが見出された。

父親 による外的報酬 と子 どもの内発的動機づけとの関係

父親の場合, 言語的報酬 の主効果

( F ( 1 /2 2 2 ) ‑4. 9 9, p<. 0 3 )

および交互作用

( F ( 1 /2 2 2 )‑5. 8 2, p<. 0 2 )

が有意であった。 しか し,物質的報酬の主効果 は有意 でなか っ た。交互作用が有意であったので,単純主効果の検定を実施 したところ,父親か ら物質的 報酬 と言語的報酬をよ く与え られている子 どもの内発的動機づけ得点が他の

3

つの群の子 どもの内発的動機づけ得点 よりも有意 に高 いことが見出されたなお他の

3

つの群間に有 意な差 は認め られなか った。

討 議

本研究の目的は女子学生 に小学校時代を回想 させ ることを通 じて,認知 された母親 と父

(4)

8 8

長崎大学教育学部紀要 一教育科学 一 第57号

究 によると物質的報酬 は制御的側面が顕現的な報酬であ り, 内発的動機づけに有害効果を 及ぼ しやす く,安易 に利用すべ きで はないといわれて きた。 これに対 して,本研究では, 親か ら与 え られ る物質的報酬 は子 どもの内発的動機づ けをむ しろ促す ことが示唆 された。

しか し,碓氷 (1992)は報酬者への非報酬者 の親密度が高 まるほど物質的報酬 による内発 的動機づけに対す る損傷的効果 は起 こりに くいと報告 している。碓氷 (1992)の報告を鑑 みると先行研究 (Deci,1971;Leppereta1.,1973)と本研究の矛盾 して い る点 は容易 に解 決 され るか もしれない。つ まり先行研究では,被験者 にとって初対面で,親密 な関係 にな い実験者が,被験者 に活動 を報酬 と引 き換えに活動 に取 り組 ませた。 これに対 して本研究 では報酬者 は親であ り,親密度 の高 い人間関係の中で物質的報酬の授受が行 われている。

本研究のよ うに親密度 の高 い人間関係の中では,物質的報酬の統制的側面 よ りも情報的側 面が比較的顕現的 にな り,子 どもの自己決定的な有能感が促 されて内発的動機づ けが高 ま

りやすいといえよ う。

ところで母親 の場合,物質的報酬 のみが内発的動機づ けを促 し, これに対 して父親 の場 令,物質的報酬 と言語的報酬の組 み合わせが内発的動横づけを促す ことが示唆 された。 こ れは親子関係 における母親 と娘関係 と父親 と娘関係 における親密 さの違 いによるのか もし れない。一般的 に成長過程 の中で女児 は母親 をモデル と して同一視 し, よ り親密 な関係 を 維持 しようとす るのに対 して,父親 に対 してはむ しろ嫌悪感 を抱 きやす く,互 い七 疎遠 に な りやすいといえ る。 そのため母親 と娘 の関係 と異 な り,父親 と娘 との関係 においては, 親密 な関係 を維持す るために父親か ら娘 に対す る言語的な報酬を必要 と し, このような言 語的報酬 と物質的報酬 との相乗効果 によっては t=めて内発的動機づけが促 され るのか もし れない。

しか し,本研究では親 による外的報酬 と内発的動機づけとの因果関係が明確 にされてい ないために,上述 した解釈が十分 に説得性があるのか どうか疑問が残 る。すなわち, これ までの討論で は,外的報酬 による動機づけへの影響 とい う仮定 に基づ き言及 したが,近年 の研究 (た とえば龍 ・小川内,1998)では,子 どもの動機づ け傾向に応 じて, お となが子 どもの学習 にかかわ る動機づ けを促すための方略を変 え るとい う結果が報告 されている。

従 って,親 の外的報酬が内発的動機づ けに損傷的効果を及ぼさないという結論が導 き出 さ れるためには更 なる検討が必要であろ う。今後, もともと子 どもが学習活動 に対 して内発 的動機づけの レベルが どの程度であ ったのか とい う点, そ してまた,子 どもの親への愛着 の程度 を明確 に して変数 と して組 み込んで,外的報酬 との関連 を検討す る必要があると患 われ る。

引用文献

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(5)

宮崎 ・龍 ・矢 田 ・小川内 :認知 された親の外的報酬 と内発的動機づけとの関連 について

8 9

Harackiewicz,J.M.

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子 どもの学習への動機づけを促すために,人々はどのような方略を選 択す るのか 中京女子大学子 ども文化学研究

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桜井茂男

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両親および教師の賞賛 :叱責が児童の内発的動機づけに及ぼす影響 奈良教育大学 紀要

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内発的一外発的動機づ け尺度の開発 筑波大学心理学研究

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Doesgradingundermineintrinsicinterestinacol‑ 1egecourse?JournalofEdzLCalionalPsychology,70,961‑921.

碓井真史

1 9 9 2

内発的動機づけの基本的要因に関す る心理学的研究 :自己有能感 と自己決定感 の 効果 を中心 として 日本大学博士論文

付記)本研究の一部 は中国四国心理学会第

5 4

回大会 (香川)において発表 された。

参照

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