MCl4 と MCl4・SbCl5(M=S, Se, Te)の ラマン・スペクトルおよび核四極共鳴吸収
森下浩史,太田春香,浜田圭之助
長崎大学教育学部化学研究室 (昭和48年10月51日受理)
Raman Spectra and Nuclear Quadrupole Resonance of MCl4 and MCl4・SbCl5 (M=S, Se, Te)
H. MORISHITA, H. OTA and K. HAMADA
Chemical Laboratory, Faculty of Education Nagasaki University, Nagasaki 852
(Received Oct. 31 , 1973)
Abstract
The authors' concerns are with determing the structures of the separate MCl4 and MCl4・SbCl5, based upon the obtained Raman spectra and NQR of these molecules.
The structures of the molecules have still been uncertain, but the characters of MCl bonds are discussed.
緒言
単独のMCl*およびMCl4 SbCls(M‑S, Se, Te)中のMCUの分子構造の研究のため に,これら分子のラマン・スペクトルおよびNQRを測定した。分子構造について,決定的 なことはいえないが, M‑Cl結合について,若干の知見を得たので報告する。
実験
化合物の合成・・‑・MC14の合成は文献1‑4)に従って合成したOラマン測定用試料はラマン管 中に少量,合成すればよいが, NQRの測定のためには,可成り多量の試料をテスト・チューブ
中に,できるだけ密に充填することが必要である。したがって一50℃以上で分解し,しかも加 水分解するSCl。のNQR用試料の合成には,低温で合成されたSCl。を空気に触れぬよう抑 えつける工夫を必要とした。MCl。・SbC15は,文献4,5に従って合成した。
測定……ラマン・スペクトルの測定は,JEOL JRS−SIB型レーザ・ラマン分光々度計で
行なった。
NQR測定の一部は,神戸大学理学部橋本研究室にお願いした。
結果および考察
図1はSCl4,SeCl、およびTeCI4のラマン・スペクトルである。測定は一196℃でAr÷レ
SC1恥
埴7
ね70
58 、87 280 汕◎『、
225 俺 102
SeC1ム
599 366
Fig.1.
TeC
116
謙・
隻5起
577 550
3㎏ 87
』
63 150
171 205
600 4・0 2。。 .0鰍 f Raman Spectra of SC14,SeC14and TeCj4at−196℃
(Ar+,4880A;slit,6.8cm一一)
一ザ(4880A)で行なった。
Beattie4)はSCl4の振動スペクトルとして,次の結果を得た。
∫R:505(w SCl認),466(s),425(s),1〜σ吻朔:469(br)
しかしながらこれらの測定値は,測定者のBeattie自身が疑わしいといっている。Gerding3)
は次のようにSCl、の低温でのラマン・スペクトルを得た。
1〜σ勉ακ:140(vw),279(w),447(s)および470(m)
著者の測定したものはGerdingの測定したものに極めてよく一致しているが, この外に,帰 属未定の58,87,102,225cm『の弱いバンドが測定されている。
もしGerdingの云うようにSCl4のラマン・バンドが上記の4本のみであれば,SCl、の構造 はT¢ということになるが,構造決定は赤外の結果を侯ちたい。
SeCl4およびTeCl4のラマン・スペクトルも大体SCl4のものに似ている。これら三化合物の ラマン・スペクトルの最大波数,および次に高い波数のバンドは,それぞれンα、MClど
レ・MClに帰属されるべきものと思われる。表1にそれらの波数を示す。
Table1 ンα8MCI andンαεMCl of MCl4(M=S,Se,Te)
at −196。C and 50℃ (cm一一)
一196。C
ンα3MCl レ3MC1
50℃
ツα8M:Cl ンsMC且
SCI4
470
44ワ
SC14
(decomposed)
(decomposed)
SeC璽4 599 566
SeCl4
595 561
TeC14 577 550
TeCI4 574 547
N鴇Hz)
耳0
35
30
sσ㍉ (9〉
(b)
(b)
◎
、、
、 ㌧ SeC1尊 、 ヤ\\
、、
¥、
、 、
NQR 一一一一一一…一…一 8MC1
一一一一一一一一一一。一 M(11
¥ム、、
、
\
L、
(8)
(b)
TeC
、、
(c)
、噺 、、
、、
、噺{墨
皿1きm一・)
々50
400
550
o.5 o,7 0。9 抽一cゴ
Diffe騰nces Or Electronega七ivities
Fig・2・Relations between NQR and IM−CIl,and betweenレMCI and IM−CIl
図2一(b),(c)にMCl・の対称および非対称伸縮振動の波数とMとC1の電気陰性度の 差IM−Cllとの相関々係を示す。また図2一(a)にMCl・のClのNQR周波数と,MとCl の電気陰性度の差との相関々係を示す。SCl。のNQRについては,測定に成功しなかったが 図2からその値として,大体57《り58MHzが予想される。
一方,振動波数とMとClの電気陰性度の差との相関々係において,SCl・,SeCl・および TeC1、が直線関係を持たないが,この原因はTeとClの電気陰性度の差が大きく
Cl−
CトTe=Cl+タイプの二重結合の形成によることが考えられる。この伸縮振動から考えられる
I Cl
二重結合の形成が事実とすれば,NQR周波数は二重結合性のために低くなるので,先のSeCl。
およびTeCl。のNQRからSCl。についての予想値は,実際と非常にかけはなれているかも分
らない。
図5はSCl4・SbCl5,SeC14・SbCl5およびTeCl4・SbC15のラマン・スペクトルを示す。図4 はSbCl.の液体および,固体のラマン・スペクトルである。これらを比較するとき,最高波
多30 501
毎・SbC15 523
536 、 287
1211,
176
SeC14・SbC15 ど08
408 555 20
1199 2ガ
187 166 βり 〔砂1契
ラ97 311
3ケワ
』・SbC15
脚
㈲385 256 168
557 57
皿ト8
1119
600 耳oo 200 O 伽・1
Fig。5. Raman Spectra of SC14・SbC15,SeC14。SbCl5and TeC14・
SbC15at−196℃ (Ar+,4880A;slit6.8㎝一一)
SbC1鼠(1工quid,
ノ
多55 a七 ro
66 197
,
多97 305 聖165
。_一帰一一_一ノ
、 一暇
ノt、.〆 、閥rρ一 J
SbC1鼠(1iquid)
a七 roo鵬 七e!!!P●
一 4》
____ ⊥1
SbC1鳳(3。Ud)
ノ 379 536
271 185
㈹㌦
1
a七一196。C
一1 600 ねOO 200 0伽
Fig.4.Raman Spectra of liquid and solid SbC15 (Ar+,4880A;slit6.8㎝一一)
数のバンドはMCl4のレα8MClに帰属されるものと考えられるが,MCl4・SbC15のソα8MCl と,単独のMC恥のそれとの波数の差は,それぞれ60cm臼一,gcm一一および14cm 一である。
MCLとSbCl。とが分子間化合物を作った場合,それぞれの分子の構造が,単独の場合より変 化しているかどうかは今後の研究に侯っとして,M:Cl。の中心原子MとSbCl。の中心原子Sb の電気陰性度は,それぞれM(S=2。5,Se=2.4,Te篇2.1)およびSb=1.9であるので,
MC1。・SbC1。においてSbCl。からMCl。に電子が流れ込む。 そしてMとSbの電気陰性度の 差が大きい程,MC14側への電子の流入が大きくなる。 ただしSeC14・SbCl5とTeCl4・
SbCl5において,電気陰性度の差より考えられる傾向が逆転しているのは,TeCl4・SbC且5に おいては,先に述べた単独のTeC1。の場合と同じく,二重結合性の形成が電子の流入により より強調された結果と解釈できる。
(附記)
島津IR−450型赤外分光計によりSeCI4およびTeCl。の赤外スペクトルを測定することが できたので,そのデータおよび考察をつけ加える。
SCI。は一50℃以上で分解するので,今回は測定できなった。
試料は,空気中の湿気により加水分解をするので,グローブ・ボックス中で,ポリエチレン の袋に封入した。この際,封入用器具がないままに実施したのと,分光器の据え付け直後であ ったので,データはあくまでも参考までとしたい。
SeCl4では560cm 一に,TeCI4では350cm4のみにIRスペクトルが測定されたが,これらは ともに,ラマン・スペクトルの第二番目に高い波数のバンド,すなわち著者が脈MClと推定 しているバンドに相当している。ただし,Beattie4)のSC14のIRは469cm卿一に測定されてい るが,彼自身測定したラマン・スペクトルの対比では,この469cm一1に相当するラマン・バン ドは現われていない。Beattie自身も不確かな測定であるとあっているので,SC1・について の赤外スペクトルは,今回は除外して考える。
MCl。の既約表現は次の通りである。
C2.:4、4一(R,p:IR)十、42(R)十2B一(R:IR)十282(R:IR)
C3。:3!曳一(R,p:IR)十i5E(R:IR)
丁切 :・4、(R,P)十E(R)十2T2(R:IR)
Z)4池:ノ1−g(R,p)十/12鎚(IR)十B−g(R)十β2g(R)十2E鎚(IR)
ソ、,MClに帰属されると考えられる最高波数のラマン・バンドに対応する赤外バンドは表われ ていない。 したがって,第二番目の高波数バンドレ、MCl(全対称伸縮振動)が,ラマンおよび 赤外活性で,最高波数バンドがラマン活性である対称は,前記の既約表現から,C2.対称のみ である。
このように振動スペクトルから,MCl4の構造としてC2,が考えられるが,MCl、の構造はX一線 での研究より,C2,だとされていることと一致する。
著者は,:NQRの測定により,この単独のMCl、の構造のみならず,分子間化合物MCl。・SbCl5 の分子構造の解明を目指しているが,現在のところ,はっきりとしたNQRからの情報は得て
いない。
Beattieなど7)も固体,液体,気体でのTeCl4の振動スペクトルを測定した結果,一致したス ペクトルを得られなかったとしているが,一応TeCl、をC2,構造だとしている。
その根拠は,気体のラマン・スペクトル(P)72煽,150wsh,(P)158(5.7),(P)290(10),お よび(P)382(7.5)を得ているが(固体のスペクトルとの大きな相違は,気体の(P)290(10)バ ンドの代りに,固体では550(s)バンドが現われていることである。)このスペクトルに現わ れた,二つのpolarized伸縮振動および二つのpolarizedl変角振動からC2.としている。
Stevensonなど8)も気体のTeC14はmonomericで,電子線回析によってC2.構造(trigonal bipyramid with a vacant equatorial position)であるとしている。
また,BUSsなど9)はX一線での研究から,TeCl4の結晶はC2対称であるが,ほとんど丁曙に 近いことを示しており,NQRの測定5・6)も,そのことを支持している。このことから,分子 構造はq2,に近いと云ってよいと思われる。
MCl。・SbCl,の赤外測定も近く実施するが,その結果から,更に有用な情報が得られることが 期待される。
本研究に使用したレーザ・ラマン分光光度計は,昭和47年度文部省科学研究費補助金による ものである。またNQR測定にあたっては,神戸大(理橋本研究室の御協力を頂いた。
関係各位に深く感謝するものである。
参 考 文 献
1)G.Brauer, Handbuch der praparativen Anorgan三schen Chemie. 1954,P289 2)J.Kleinberg, lnorgan重c Syntheses. McGraw Hill Co.,N.Y.,5,125and3,50(1955)
5)H,Gerding,D.J.Stufkens and H。Gijben.R召o乙丁〆召銑Chゴ肱Pσly3−Bαε,89(6),619(1970)
4)1.R.Beattie and H.Chudzynska,」,Chem,Soc.(ハ),984,1967 5)浜田・森下・東,長崎大学教育学部自然科学研究報告,24,41(1975)
6)1.P.Biyukov,M.G.Voronkov,and I.A.Safin, Tables of Nuclear Quadrupole Resonace Frequencies, IPST,Jerusalem,1969
ワ)1.R.Beattie,」.R.Horder,and P.J.Jones,ノ.Ch6 2.Soo,(五),529,1970 8)D.P。Steuenson and V.Schomaker,孟・4耀監Chθ肱So ,62,1267(194G)
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