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症例報告

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Academic year: 2021

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函館五稜郭病院医誌第17巻(2009) 31

症例報告 JATECガイドラインに基づき初期診断を行った オートバイ単独事故による腹腔内出血の一例

権藤 なおみ,入野田 崇,高金 明典,早川 善郎 秋山 有史,加藤 久仁之,目黒 英二,小林  慎

ACase Report of Advanced Evaluation and Care of Intra−abdominal         Hemorrhage by Accident of Motorcycle.

Naomi GONDOU, TakashHRINODA, Akinori TAKAGANE, Yoshiro HAYAKAWA Yushi AKIYAMA, Kuniyuki KATO, Eiji MEGURO, Makoto K:OBAYASHI

Key Words:JATEC, Trauma. intra−abdominal hemorrhage

       は じ め に

 2005年の警察庁事故情報統計によると交通事故 死亡(受傷24時間以内死亡)は6,586人となり,

近年,減少傾向あるD.同年の人口動態調査によ る交通事故死は10,028人であり,全ての外傷によ るわが国の年間死亡者数は23,813人に及んでい る2).外傷診療において,適切な処置を施せば助 かると推定される外傷死亡(PTD, preventable trauma death)は外傷死亡総数の30%を超えて いるとされている3).この多くが初期の診療機能・

地域の医療格差に依存している.そこで日本救急 医学会および日本外傷学会では外傷診療の質を向 上させるために,外傷診療のガイドライン作成と

これに準拠した教育プログラムとしてJATEC

(Japan Advanced Trauma Evaluation and CareTM)コースを開催している.本コースは JTCR(日本外傷診療研究機構)で提唱される外 傷初期診療ガイドラインに沿い外傷患者を診察す る機会のあるすべての医師を対象とする研修コー スである4).今回JATEC研修コースを受講し,

実際の外傷診療に反映できた一例を経験したので 報告する.

       症     例 症例:19歳男性.

主訴:右側腹部痛・丁丁関節痛.

函館五稜郭病院外科

現病歴:平成20年7月バイクを運転中に転倒し,

道路の中央分離帯で左側臥位になっているところ を発見され,救急車で当院に搬送された.

入院時現象:右側腹部・右膝挫傷.右側腹部に圧 痛を認めた.腹膜刺激症状・筋性防御は認めず.

既往歴:なし,

血液生化学所見:WBC13800/μl C:RPO.2g/dl RBC356万/m煮Hb1!.4g/dl AST1641U/l ALT 1541U/l ALP1161U/l LDH4821U/1γGTP21

1U/l ChE2011U/l CK9751U/l T−bi10.6mg/dl AMY601U/l BUN10mg/dl CREO.6mg/d1

入院後経過:JATECの外傷初期治療に基づき治 療を開始した.まず患者の第1印象の把握を行っ

た.呼びかけに対して,通常な声で明確な応答で あったため,気道(A)・呼吸(B)・意識(D)

は正常と判断した.並行して手で嶢骨動脈を触知.

脈は触れるが皮膚には冷感・湿潤を認め,循環

(C)に異常があると考えPrimary Surveyを施 行.A:気道評価・Bl呼吸評価を行うが異常な

しC:循環評価.血圧は100/70 HR80〜90.皮 膚は冷感・湿潤しショックと判断し採血と同時に 点滴ルートを確保し,細胞外液2リットルの初期 輸液療法をおこなった.胸部・骨盤部のX−Pを 施行したところ,胸部X線では大量血胸・呼吸に 異常をきたす肺挫傷・胸郭の変形をきたすような 多発肋骨骨折は認めず(図1),骨盤部X線では 大量出血をきたす骨盤骨折の所見は認めなかった

(図2).次に,FAST(Focused assessln.ent

(2)

32 函館五稜郭病院医誌第17巻(2009)

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図3

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図4

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 図2

with sonography for trauma)を行った.超音 波検査で血胸・腹腔内出血・心タンポナーデの有 無を検算した.モリソン窩に液体貯留を認め(図 3)腹腔内出血が疑われた.D:中枢神経障害の 評価は,GSC15点・瞳孔径・対光反射に異常認 めなかった.次にE:脱衣と体温管理を施行した.

Primary Surveyにより生理学的評価と蘇生を施 行.初期輸液にも反応し,循環動態が安定したと

ころで造影CT検査を施行した(図4).肝損傷

(肝損傷分類P−II型),腎損傷(腎損傷分類rM−

Ib型)(図5),骨盤骨折(骨盤損傷分類r.1型)

図5

と右脛骨骨折の診断でICUで保存的に経時的に観 察する方針となった.その後経時的に繰り返し FASTを施行した.エコーフリースペースの増大

は認めず,バイタルも安定していた.導尿時に腎

損傷(腎損傷分類rM−lb型)の影響と考えられ

(3)

函館五稜郭病院医誌第17巻(2009) 33

る血尿を認めたが2日後には改善したため経過を 観察した.4病因に腹部症状の改善・血液検査上

も肝逸脱酵素の減少を認めた.9病目には造影C T検査で止血を確認した.10病日に整形外科に転 科し17病日に右膝関節の手術施行後,25病日に退 院となった.

      考     察

 JATECは日本の現状に即した外傷初期診療の 標準プログラムである.ガイドラインでは外傷初 期治療の第一段階はPrimary Surveyとよばれ,

Primary Surveyで生理学的評価から蘇生の要否 を判断し,蘇生が必要なら並行して行うことにし ている.Primary Surveyは生命を維持するた めに必須である気道(A:Airway),呼吸(B:

Breathing),循環(C:Circu工ation)の評価と蘇 生に,予後を大きく左右する中枢神経評価(D:

Dysfunction of central nervous system)と致 命的な体表損傷を見つけるための脱衣と全身露出

(E:Exposure),体温評価と保温(E=Environm−

ental)行う. Primary Surveyは最初の一度だけ でなく,バイタルサインが変化したときはもちろ んのこと,生命に危険がある解剖学的異常を新た に見つけた時や,CTやICUなどに移動の際には 前後に必ずPrimary Surveyを行う.第二段階は Secondary Surveyと呼ばれ, Primary Survey によりバイタルサインの安定していることを確認

してから開始する.Secondary Surveyは損傷検 索するために解剖学的評価に主眼をおく.具体的 には,受傷機転などの情報の聴取と系統だった身 体診察を中心に各種の画像診断や諸検査などをお

こない,根本治療のための専門医の要請や他院へ の転送を判断する.

 今回の症例では,膝関節の痛みを強く訴えてい たが,JATECガイドラインにのっとり,全身状 態を評価しながら診断・治療をすすめた.腹腔内 出血による循環動態の異常をFASTにより早期に 発見し,細胞外液2リットルの初期輸液療法によ り循環動態の安定を確保した後,解剖学的異常を 検索した.造影CTの結果,肝臓の皮膜の連続性 がたもたれている1型の損傷と約2cmの肝表面の 損傷(肝損傷分類P−H型)を認め,循環動態に

影響をあたえた損傷部位は肝損傷(肝損傷分類P−

H型)と判断した5).肝損傷の治療は,どの程度 の損傷の場合どのような治療が適切かというガイ ドラインは現在のところ存在しないが,初期輸液 に対する反応と損傷形態により治療法が選択され ることが多い6).初期輸液に反応し,バイタルの 安定が得られた症例は造影CTを施行し,日本外 傷学会肝損傷分類に基づいて診断する.造影剤の 漏出が確認されない1型やH型損傷は基本的に保 存療法を選択する.造影剤の漏出を認める場合,

もしくは皿型損傷は基本的には血管造影を行う.

血管造影により造影剤の漏出が確認できれば Transca七heter Arterial Embolization(TAE)

を行う.TAE施行時に循環動態不安定になった 場合は緊急手術を考慮する.頻回のFASTにより 腹腔内出血が確認され,初期輸液に反応しなかっ た症例に関しても同様に,基本的に緊急手術の適 応と考える.本症例は,初期輸液に反応して安定 を得られたこと,造影剤の漏出を認めないH型 の損傷であったことから保存治療を選択した.

FASTは,2〜3時間おきに繰り返し施行し,腹 腔内出血の増加がないかバイタルが安定している かを確認し慎重に経過を観察した.翌日になりバ イタルサインの安定,採血上のHbの低下を認め ずコントロールされていると判断した.本症例で

はTAEの必要性はなかったが,当院ではTAEは 施行しておらず,必要な場合は他院への搬送も考 慮しなければならなかったが,適切な判断を下す

ことができたと考える.

 PTDの発生の多くは初期治療にみとめるとさ れている.初期診療に問題があった症例のなかで,

プライオリティおよび治療方針に問題があったケー

スが一番多く,次に手術決定の遅れ・ショック対

策が不十分・診断遅延(損傷見逃し)と続いてい

る了).これらの結果からもPrimary Surveyは外

傷初期治療において重要である.外傷初期治療の

理論的な構成を理解し外傷初期治療を系統立てて

診療していく上で,当院のような二次救急施設に

おいても救急医療に携わる医師がJATECの外傷

理論を学ぶことは意義のあることと考える.

(4)

34       函館五稜郭病院医誌第17巻(2009)

      参 考 文 献

1)警察庁・国土交通省:交通安全マップ(平成   17年事故情報統計)

2)大臣官房統計情報部人口動態・保健統計課:

  人口動態調査(平成17年).

3)大友 康裕:腹部外傷non−responder一日本   における診療の現状.救急医学 29:878−

  882, 2005

4)日本外相学会外傷研修コース開発委員会:改   訂外傷初期診療ガイドライン ヘルス出版,

  2004

5)日本外傷学会1外傷用語集 改訂版2008   付:日本外傷学会臓器損傷分類2008 春恒社

6)高田  実,大野 耕一 他:外傷性肝損傷   に対する治療の選択.日本腹部救急外科雑誌   28 :791−795, 2008

7)森村 尚登:JATECTMにおける標準化のた   めの医学的根拠とは?.救急医学 28:

  603−606, 2004

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