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函医誌 第28巻 第1号(2004)は じ め に
頭部分枝動脈瘤は比較的まれな疾患であるが,破裂,
閉塞,脳梗塞および周囲組織の圧迫などを引き起こすた め,外科治療の対象となる。
今回,われわれは交通事故による鈍的胸部外傷による 頭部分枝動脈瘤(腕頭動脈瘤1例,鎖骨下動脈瘤1例)
を経験し,外科治療により良好な結果が得られたので報 告する。
症 例 1 症 例:
42
歳 女性主 訴:右上肢易疲労感
現病歴:乗用車を運転中,正面衝突にて受傷した。来 院時出血性ショックに対して治療を行いつつ胸部
X
線 写真,CT
検査などにて左右血気胸,左肺挫傷,多発肋 骨骨折,胸骨骨折,Flail Chest
,左大腿骨頚部骨折,左 大腿骨顆上骨折,左頚骨顆間骨折,軸椎椎体部骨折,視 束管損傷と診断した。左胸腔内大量出血にて,ただちに 開胸止血術,左鎖骨下動脈修復術,第4,5肋骨骨接合 術を施行した。受傷33
日目にFlail Chest
に対して右第 2,3,4,5肋骨骨接合術および大腿骨骨接合術を施行 した。第220
病日に他院へ転院した。第250
病日ごろ労作 時の右上肢易疲労感を自覚し,精査を目的に再入院した。現 症:左上肢血圧
126/70mmHg
に対し,右上肢血圧90/60mmHg
と左右差を認めた。心血管雑音は聴取せず,頸部拍動性腫瘤も認めなかった。
入院時検査:血算,生化学検査に異常を認めなかった。
胸部
X
線写真:異常陰影を認めなかった。
CT
検査:最大径35mm
の腕頭動脈瘤を認め,気管は 前後方向に圧排されている。(図1)血管造影:早期相で腕頭動脈瘤と右鎖骨下動脈閉塞を 認めた。晩期相にて瘤内の血流停滞と椎骨動脈を介して の右鎖骨下動脈の潅流が認められた。(図2)
以上により外傷性腕頭動脈瘤および右鎖骨下動脈閉塞症 と診断し,受傷
291
病日手術を施行した。手術所見:胸骨正中切開に右襟状切開を加え,心嚢を 開いた。左腕頭静脈背側に
35
×32mm
の腕頭動脈瘤を認 めた。全身ヘパリン化の後,上行大動脈と右総頚動脈間 に直径4mm
のアンスロンチューブにて外シャントを作 成した(図3)。腕頭動脈と右総頸動脈を遮断し,腕頭動 脈瘤を切開すると,瘤内に血栓を認め,右鎖骨下動脈起 始部は血栓閉塞していた。右鎖骨下動脈起始部を腕頭動 脈瘤より切離し,右鎖骨下動脈の断端を閉鎖した。次い で腕頭動脈瘤を切除し,あらかじめT
字型に作成し,自 己血にてプレクロットした直径6mm
のwoven Dacron
graft
を用いて,腕頭動脈瘤切除部を置換し,血流を再開した。シャント時間は
21
分であった。最後に右鎖骨下動 脈にグラフトを喘側吻合し,手術を終了した。術後経過 は良好で,上肢血圧の左右差も消失し,術後24
日目に退 院した。術後血管造影では,グラフトの血流は良好で,総頚動脈や鎖骨下動脈はよく造影され,分枝の潅流も認 められる(図4)。
外傷性頭部分枝動脈瘤の2治験例
若山 顕治 山下 重幸 原田 伸宏 藤井 明 上田 哲之 泉山 修 長谷川 正
Post-traumatic Aneurysm of the Arch Vessels in Two Cases
Kenji WAKAYAMA,Shigeyuki YAMASHITA,
Nobuhiro HARADA,Akira FUJII,Tetuyuki UEDA,
Osamu IZUMIYAMA,Tadashi HASEGAWA
Key words: Post-traumatic aneurysm ―― Arch vessel aneurysm
市立函館病院 心臓血管外科
症例報告
24
函医誌 第28巻 第1号(2004)症 例 2 症 例:
69
歳 男性主 訴:右鎖骨下動脈瘤精査,加療
現病歴:昭和
40
年頃,交通事故で5分間の意識消失の 既往がある。平成6年,脳ドックで右鎖骨下動脈瘤を指 摘されたが放置していた。平成15
年6月,近医でX
線,CT
上石灰化を伴う異常陰影を指摘され,8月28
日,精査,加療目的に当科入院となった。
入院時現症:頸部腫瘤等の異常を特に認めず,両上肢 血圧左右差を認めなかった。
入院時検査:血算,生化学検査に異常を認めなかった。
胸部
X
線:右上縦隔に石灰化を伴う異常陰影を認めた(図5)。
胸部
CT
:27
×24mm
の嚢状に瘤化した右鎖骨下動脈 を認め,瘤壁には石灰化を伴っていた(図6)。 血管造影:右鎖骨下動脈分岐直後より嚢状の瘤化を認 めたが,右鎖骨下動脈末梢の描出は良好であった(図7)。 脳血管造影も施行し,左椎骨動脈から右中,後大脳動脈へ の,また左内頸動脈から右中大脳動脈への潅流を認めた。以上より外傷性右鎖骨下動脈瘤と診断し,平成
15
年11
月11
日手術を施行した。手術所見:右鎖骨上切開を加え,内頸静脈,総頚動脈 を同定し,内側に剥離を進めると内背側へ向かう瘤化し た右鎖骨下動脈を認めた。右鎖骨下動脈は末梢まで剥離 を進めた。全身ヘパリン化の後,右鎖骨下動脈を瘤の中 枢側で遮断し,瘤側を閉鎖。右鎖骨下動脈中枢側に6
mmEPTFE
を端端吻合し,グラフトを内頸静脈の背側を通し瘤の末梢側へ誘導した。右鎖骨下動脈末梢側を遮断 し,瘤側は閉鎖し動脈瘤を曠置した。右鎖骨下動脈末梢 側にグラフトを端端吻合し,手術を終了した(図8)。術 後経過良好で,術後
10
日目に退院した。術後MRAngio-
graphy
では瘤の消失を認め,右鎖骨下動脈の末梢側の描出は良好であった(図9)。 図1 胸部
CT
腕頭動脈瘤を認め,気管を前後方向に圧排している
図2 大動脈造影
早期相(a)で腕頭動脈瘤と右鎖骨下動脈閉塞を認めた。
晩期相(b)にて瘤内の血流停滞と椎骨動脈を介しての右 鎖骨下動脈の潅流が認められた。
Early phase Late phase
図3 外シャント法
上行大動脈と右総頚動脈間に直径4mmのアンスロン チューブにて外シャントを作成した。
図4 術後血管造影
グラフトの血流は良好で,総頚動脈や鎖骨下動脈はよく 造影され,分枝の潅流も認められる。
25
函医誌 第28巻 第1号(2004)図5 胸部
X
線写真右上縦隔に石灰化を伴う異常陰影を認めた。
図6 胸部
CT
27×24mm
の嚢状に瘤化した右鎖骨下動脈を認め,瘤壁には石灰化を伴っていた。
図7 血管造影
右鎖骨下動脈分岐直後より嚢状の瘤化を認めた が、右鎖骨下動脈末梢の描出は良好であった。
図9 術後
MRAngiography
瘤の消失を認め、右鎖骨下動脈の末梢側の描出は良 好であった。
図8 b)手術シェーマ
右鎖骨下動脈中枢側に6mmEPTFEを端端吻合し,グラ フトを内頸静脈の背側を通し瘤の末梢側へ誘導した。右 鎖骨下動脈末梢側を遮断し,瘤側は閉鎖し動脈瘤を曠置 した。右鎖骨下動脈末梢側にグラフトを端端吻合した。
図8 a)術中写真
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函医誌 第28巻 第1号(2004)考 察
末梢動脈瘤は比較的まれな疾患であるが,中でも頭部 分枝動脈瘤の発生頻度は少ない。
Crawford
らによると 鎖骨下動脈瘤は末梢動脈瘤中2.
8%1),Dent
らは3.
8%2)と報告している。腕頭動脈瘤も稀であり,
McCollom
ら によると大動脈以外の分枝動脈瘤の0.
4%が腕頭動脈瘤 であったと報告している3)。これらに関する本邦での報 告例も少なく,鎖骨下動脈瘤に関する本邦での報告は,渡辺ら4)が
89
例の検討をしている他は症例報告を散見す るのみであり5),腕頭動脈瘤に関しては著者らが調べえ た範囲では紙上報告は本症例が本邦では3例目と考えら れる6)7)。頭部分枝動脈瘤の成因としては,外傷,動脈硬化,炎 症など様々であるが,鎖骨下動脈瘤においては胸郭出口 症候群における狭窄後拡張も成因となりうる。また,他 の動脈瘤と比較して動脈硬化性による頻度が少ないこと も特徴であろう4)。
頭部分枝動脈瘤における症状は無症状なものから,血 栓遊離による脳梗塞,破裂,拍動性腫瘤の触知,または 周囲組織の圧迫症状,すなわち嗄声,呼吸困難,嚥下障 害,頸部交感神経幹の圧迫による
Horner
症候群など多彩 である8)9)。症例1では右鎖骨下動脈閉塞による右上肢 の易疲労感が主訴であり腕頭動脈そのものによる症状は 認めなかった。また症例2においては全く無症状であり,頭部分枝動脈瘤の診断としては胸部鈍的外傷時に常に本 症を疑うことが重要であり,胸部
X
線やCT
を詳細に検 討し,血管造影により確定診断する。本疾患では有症状例はもとより,無症状例においても 梗塞,破裂,閉塞等の危険性があるため外科手術の対象 となる。手術の原則は動脈瘤を切除し,人工血管にて血 行再建を行うことであるが,血行再建に際しては動脈遮 断中の脳血流保護が重要である。その補助手段としては,
1)単純遮断法,2)低体温法,3)内シャント法,4)
外シャント法などが行われているが,最近ではシャント 法が安全確実と考えられる。単純遮断法では,遮断末梢 側断端圧が
50mmHg
以上あれば20
〜30
分の虚血耐要時 間があるとされており7),低い場合には昇圧剤やCO
2吸 入にて断端圧を上昇させる。しかしながら,断端圧が必 ずしも脳血流を反映しないとの意見もある10)。低体温法 を確実に行うためには体外循環法を必要とし,手術侵襲 が大きい。また,軽度低体温下に行うためには,何らか の他の補助手段が必要となる。内シャント法は挿入時の内膜損傷や脳塞栓の可能性があり,また操作が煩雑で,
術野の障害となりやすい。以上のことを考慮して症例1 においては外シャント法を用いたが,手技が容易であり,
術中術後なんら問題を認めず,優れた補助手段と考えら れた。症例2においては,右鎖骨下動脈根部での血流遮 断が可能であり,また術前の脳血管造影の結果から右椎 骨動脈の血流遮断が可能であると考えられたため単純遮 断法を用い,また右椎骨動脈の再建も行わなかった。
お わ り に
比較的まれな鈍的胸部外傷に併発した頭部分枝動脈瘤 の2例を経験し,人工血管を用いた血行再建術を安全に 行いえたので報告した。
文 献
1)
Crawford ES
,DeBakey ME
,Cooly DA
:Surgical considerations of peripheral arterial aneurysms.
Analysis of one hundred seven cases.AMA Arch Surg,1959
;78
:226-228.
2)
Dent TL
,Lindenauer SM
,Ernst CB
,Fry WJ
:Multiple arteriosclerotic arterial aneurysms.Arch Surg,1972
;105
:338-343.
3)
McCollom CH
,Wheeler CH
,Noon GP
,et al
:Aneurysms of the extracranial carotid artery.Am J Surg,1979
;137
:196.
4)渡辺 敦,道井洋吏ほか:動脈硬化性鎖骨下動脈瘤 食道内破裂の1治験例−本邦
89
例の検討−.日胸外会 誌,1989
;37
:1441-1445.
5)木戸正訓,岡 隆紀ほか:右鎖骨下動脈瘤の一治験 例.日心血外会誌
,1999
;28
:132-135.
6)小久保光治,松本興治ほか:外傷性腕頭動脈瘤の1 治験例.胸部外科
,1988
;41
:756.
7)勝村達喜,正木久男ほか:頸動脈−鎖骨下動脈の外 科治療.手術
,1988
;42
:1787.
8)飯島啓太郎,栗林良正ほか:肺内破裂を来たし血痰 を主訴とした左鎖骨下動脈瘤の1治験例.日胸外会誌,
1992
;40
:3,94-97.
9)泉山 修,田畑哲寿ほか:右鎖骨下動脈閉塞を合併 した外傷性腕頭動脈瘤の1治験例.胸部外科,