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症例報告

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函館五稜郭病院医誌第17巻(2009)

症例報告 成人特発性気腹症の1例

加藤 久仁之,小林  慎,権藤 なおみ,

早川 善郎,目黒 英二,高金 明典

秋山 有史,入野田 崇

ACase of Idiopathic Pneumoperitoneum in An Adult

Kuniyuki KATO, MakotQ KOBAYASHI, Naomi GONDO, Yuji AKIYAMA Takashi IRINODA, Yoshiro HAYAKAWA, Eiji MEGURO, Akinori TAKAGANE

Key Words:特発性気腹症,腹腔内遊離ガス

       は じ め に

 腹腔内遊離ガス像は,緊急手術の適応を決める 所見の一つである.胃・十二指腸穿孔では80%,

大腸穿孔では25%に出現すると言われているD.

しかし腹腔内遊離ガス像を認めるものの明らかな 消化管穿孔を有しない症例および原因不明なもの を特発性気腹症として報告されている2).今回我々 は,比較的まれな成人特発性三二症の1例を経験

したので報告する.

       症     例 患者:40歳台,女性.

主訴:下腹部痛.

既往歴:11歳の時に急性虫垂炎に対し虫垂切除術 施行.41歳より神経症.43歳より慢性関節リウマ チに対しブシラミン内服中.糖尿病の既往なし.

NSAIDSおよびステロイドの内服歴なし.

現病歴:2008年8月,下腹部痛を主訴に近医受診.

外来受診時の腹部単純X線写真および腹部CT検:

査では,大腸ガス像と糞便が見られるのみで,異 常所見を認めず,経過観察のために同院に入院と なった.腹満に対し二二を施行,直後より下腹部 痛の増悪を認めた.翌日の胸部単純X線写真で両 横隔膜下に遊離ガス像を認めた.消化管穿孔を疑 い上部消化管内視鏡検査を施行したが,胃・十二 指腸には異常所見は認めなかったため,大腸穿孔 を疑い手術目的で当科紹介となった.

入院二三症:身長144.Oc皿,体重35.5kg,栄養状

態良好.意識は清明,体温36.5℃,血圧111/69 mmHg,脈拍86回/分・整, SpO 296%(ルームェ ア).下腹部に圧痛を認めたが,筋性防御は見ら れなかった.右下腹部に手術痕を認めた.

血液検査所見:白血球数13,300m冠, CRPが13.O mg/dlと炎症反応の元進を認めた(表1).

表1 血液一般・生化学,血液ガス分析(ルー    ムエア)検査所見

WBC

RBC Hb

Ht

Plt

TP

Alb

T,Bil

AST ALT LDH

γ一GTP

CK

函館五稜郭病院外科

 13β00/mm3 3.38x104/mmヨ   13.7g/dl    34.7%

25.6×104/mm3

6.19/di 3.6g/dl

O.4mg/dl

 131U/1  171U/1

1651U/1 1111U/1

 221U/1

BUN

Cr

Na K

Cl

CRP

pH pCO2 PO2 HCO3 BE SaO2

10mg/dl

O.4mg/d1

140mEq/1

3.8mEq/1

104mEq/1

13.O mg/dI

   7.43

40.5mmHg 80.3mmHg

26.5mmol/1 2.1mmol/1

  96.7%

胸腹部単純X線所見:横隔膜下に遊離ガス像を認

めた(図1).

腹部骨盤CT検査所見:横隔膜下および肝門部に 遊離ガス像(図2−A),ダグラス窩に腹水を認

めた(図2−B).

 以上より,大腸穿孔疑いで緊急手術を施行した.

手術所見:全身麻酔下に下腹部正中切開にて腹腔

内を観察.ダグラス窩に黄色混濁腹水を認めた.

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図1 横隔膜下に遊離ガス像を認めた.

図2−A

横隔膜下および肝門部に遊離ガス像

を認めた.

図2−B ダグラス窩に腹水を認めた.

上部消化管から下部消化管に至るまで明らかな穿 孔部位や炎症所見も見られなかった.大腸憩室お よび腸管漿膜面の気腫性変化も認めなかった,子 宮・付属器の炎症も見られなかった.腹腔内を洗 浄後,ダグラス窩にドレーンを留置し手術を終了

した.

術後経過:術後3日目より食事開始,術後5日目 に左側腹部痛およびドレーン排液の混濁を認めた が細菌培養では陰性であった.発熱は認めなかっ たが,絶食とし抗菌薬(CMZ 2 g/日,3日間)

投与を行った.術後7日目,腹痛改善し血液検査 データ上も炎症所見認めなかったが,胸部単純X 線写真で遊離ガス像の出現を認めた(図3).消 化管穿孔を否定するために,ガストログラフィン

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術後1病日と比較し,術後7日目の胸部 単純X線写真では遊離ガス像の増強を認

めた.

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飲用後,腹部CT検査を施行した.広範囲にわた り遊離ガスを認めるが(図4−A,B),腸管外 へのガストログラフィンの漏出は見られなかった

(図4−C),ドレーン排液の混濁認めず,食事再 開とした.術後ユ0日目にドレーン抜去,腹痛再燃 見られなかったため術後11日目退院となった.術 後20日目に撮影した胸部単純X線写真では遊離ガ ス像は消失していた(図5).退院後の大腸内視 鏡検査では大腸憩室,潰瘍糠二等認めず,他の原 因も特定しえず,最終的に特発性気腹症と診断し

た.

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A

B

C 図4 遊離ガス像を認めるが(A,B),腸管外    へのガストログラフィンの漏出は見られ    なかった(C).

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図5 術後20日目に撮影した胸部単純X線写真    では遊離ガス像は消失していた.

       考     察

 腹腔内遊離ガス像の原因は,消化管穿孔が多く,

緊急手術の適応を決める所見の一つである.しか し稀に,腹腔内遊離ガス像を認めるものの原因が 不明な場合があり,これを特発性気腹症として報 告されている2).特発性気門症の本邦報告例は 1982年に大草ら2)が報告して以来,我々が検索し た限りでは自舎営を含めて18例であった.

 外科的治療を要しない腹腔内遊離ガスの原因を,

Ganttら3)Mularskiら4)1ま①胸腔内,②腹腔内,

③産婦人科的,④医原性,⑤その他に分類してい る.胸腔内要因としては気胸,縦隔気腫,閉塞性 肺疾患などが,腹腔内要因としては腸管嚢腫様気 腫症,気腫性胆嚢炎,呑気症などが原因となる.

産婦人科的にはガス産生菌による子宮付属器炎,

分娩後の胸膝位の運動,卵管脱出などがあげられ る.医原性としては卵管通気法,開腹術後,腹膜 透析,内視鏡検査後,間欠的陽圧換気が気腹を来 す.消化管由来の遊離ガスが出現しながら,腹膜 炎を生じないまま経過する機序としては,腸管粘 膜の脆弱化した部位が存在し,腸管内圧上昇に伴 いガスのみが流出するような場合が考えられる.

辻本ら )は,穿孔部位がピンホールであれば液体 の腸内容の漏出はなく,気体のみが腹腔内に漏出

して塵溜症が起こると述べている.前田ら6)は自 己免疫疾患症例では,ステロイドや免疫抑制剤の 投与により,腸管のバイエル板のリンパ球が減少

して粘膜の脆弱化や破壊が生じ,腸管内圧上昇に

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伴いガスが流出すると述べている.自検例の気腹 の原因としては,あくまで推測の域を出ないが,

慢性関節リウマチに対し免疫抑制剤であるブシラ ミンの慢性的な投与により,腸管粘膜が脆弱化し,

涜腸による腸管内圧上昇によって,ピンホールの 穿孔部位が生じガスが流出した可能性も考えられ

る.

 寄宮症の診断は単純X線写真,CT検査で容易 に診断ができるが,臨床の場で実際に所見を総合 的に判断し,手術が必要か否かの決断は,個々の 症例によって難しく,本邦報告18例中10例で消化 管穿孔を否定出来ずに手術に至っている.

 腹部所見としては本邦報告例を検討すると,特 異的な症状はないが腹痛が6例,腹部膨満が4例,

症状を認めないものが8例であった.本疾患の病 態は気腹のみで,腹膜炎を呈していないことから 腹膜刺激症状を欠くものがほとんどである.自検 例は下腹部の圧痛を認めるのみで反跳痛,筋性防 御などの腹膜刺激症状は呈していなかった.しか し,血液検査所見で強い炎症反応を認めたこと,

腹部CT検査で腹腔内遊離ガスと腹水を認めたこ と,上部消化管内視鏡検査で胃・十二指腸に異常 所見を認めなかったことから,大腸穿孔と診断し 緊急手術を行った.

 本疾患は原因不明の稀な病態であり,診断は極 めて困難である.しかし,腹腔内遊離ガス像を呈 していても腹膜炎症状を認めないものがほとんど であり,本邦報告18例中8例は保存的に治癒して いる.理学所見,画像所見を総合的に判断し,消 化管穿孔を伴わな.い気腹症と診断できれば,保存 的治療で予後は良好であり,慎重に手術適応を検 討する必要があると考えられる.

4)Mularski RA, Ciccolo ML et al:Nonsurg−

 ical Causes of Pneumoperitoneum. West J  Med 170:41−46,1999

5)辻本 嘉助,大野 耕一 他:新生児特発性  気腹症の3例;その成因についての考察.外  科診療 12:1563−1567,1993

6)前田 敦行,横井 俊平 他:尋常性天庖瘡  および糖尿病治療中にacarboseによると思  われる腸管嚢胞様気腫症を合併した1例.日  消誌 99:1345−1349,2002

7)阿倍 元輝,和田 隆宣 他:外傷を契機に  発見された特発性気腹症の1例.日臨外会誌  62:2560−2563, 2001

8)吉岡 裕一郎,松浦 滋明 他:成人特発性  気腹症の1例.日臨外会誌 64:992−994,

 2003

      文     献

1)小柳  仁,松野 正紀 他:標準外科学.

 第7版,医学書院,p134,2003

2)大草 敏文,佐藤  隆 他:Spontaneous  pneumoperitoneumの1例.臨放線 27:

 947−950, 1982

3)Gan七t CB, Daniel WW et al=Non surgical

 pneumoperitoneum. Am J Surg 134:411−

 414,1977

参照

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