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経済構造転換に向けての選択について

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経済構造転換に向けての選択について

北  岡  甲子郎

       長が再び実現するまでは,わが国にとっては単に〈はじめに〉

対米の貿易摩擦だけにとどまらず,貿易収支の黒 戦後,世界経済が順調な成長を遂げていた時期  字アンバランスが生ずれば,ECその他の国々と には,わが国の復興・成長を志向した設備投資・  も問題が起る必然性がある。ただ基軸通貨国であ 輸出主導型経済構造による高度経済成長路線は海  るアメリカの場合は,インフレが激化し,基軸通 外からの幾分の抵抗はあったものの,賞賛と羨望  貨としてのドルに対する不信が生ずるギリギリの をもって大筋では受入れられてきた。これは世界  線まで,ドル安戦略による日本の輸出競争力の削 全体としての経済のパイ(規模)が拡大するなか  減と,一層の国内市場解放を要請してくる。これ で,お互いにシェアーを拡大しながら協調的な競  は海外直接投資もしくは独自の新分野の開拓等に 争ができたことと,各国への国内の雇用の減少,  よる産業・経済構造の内需主導型・輸出入バラン 失業の増大といった影響を与えるまでには至らな  ス型への転換を早急に迫られているといえる。こ かったからである。しかし金とドルの交換停止と  の意味では黒船が明治期への第一歩の外圧とすれ いうニクソン・ショックはIMF体制をゆさぶり,  ば,敗戦が第二の外圧であり,円高,貿易摩擦,

各国は自国中心の経済政策を展開することが可能  市場開放は第三の外圧として,世界経済のもとで となり,主要国の為替相場は固定制から変動制へ  のわが国経済の今後の在り方を決定づけるものと と移行した。加えてオイル・ショック後のインフ  考えられる。

レと不況の共存するスタグフレーションは,世界   本項ではこの点にしぼって問題を整理し,対応 経済の成長を鈍化させる結果となった。かくて世  を検討してみたい。

界全体としての経済のパイが大きくならないなか

       〈1>円高メリット・デメリットについてで,各国は互いのシェアーを争奪することになり,

わが国の輸出拡大と貿易収支の大幅な黒字は相手   昭和60年9月のG5でのドル高調整から2年 国にとっては,シェアーを奪われ,操業度が低下  の間に円高が120〜130円台になり,やっと下げ

し,雇用の機会が失われ,結果として失業が輸出  どまりの模様となっている。一昨年と比べてIM される状態となった。従って高度成長期のように  F方式では約50%強の円高である。その分,輸出 協調裡での競争は難しくなり,貿易摩擦が激化し,  企業への円の手取額は減少している。わが国の輸 個々の輸出品目に対する自主規制のみではおさま  出総額は約40兆円であるから50%の円高は約20兆 らず,貿易制裁なり,相互間の貿易収支バランス  円の減少(為替差損)となる。仮りにドル建て価 を求める包括的保護貿易法案の要請,もしくは部  格を引上げ,例えば25%アップしたとしても,10 品をも含めた輸出品の現地生産,つまり当事国の  兆円の差損となり,引上げた分だけ輸出競争力は 雇用確保のため,海外直接投資が強く求められて  弱くなり,輸出数量は減少する。その結果,企業 きた。       は操業度を低下し,過剰人員をかかえ,製品単位 このような観点に立てば,世界経済の順調な成  当たりコストはアップし,さらに競争力を失って

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行く。それを克服するには一層の合理化と人件費  ようとして,価格に十分反映しない等の結果,円 の節約(失業の増大),または新しい分野への業  高のデメリットが輸出関連産業に集中して現われ,

務転換をするか,工場を直接海外に移転して円高  それが特定の地域に大きな影響を与えている。一 のデメリットを回避するしかない。       般消費者にとって,円高による米や小麦等の輸入 他方,日本の輸入高は約30兆円で大部分がドル  価格は低下するが,政府が輸入量や販売価格を管 建てであるから,50%の円高は,同じ数量の製品,  理し,国内に販売する価格は,今までとあまり変 半製品,輸入原材料,燃料の購入費が15兆円です  らない状況である。従って米では円高前に国際価 むことになる。従って輸出産業での輸出価格のド  格比で4倍高かったものが,円高で9倍となった ル建てによるデメリットに対し,産業全体として  といわれている。もし米や小麦,牛肉といった生 は輸入原材料・燃料等の値下りによるメリットが  活必需品の価格が輸入価格を反映して自由に変動 あるはずである。個々の産業での円高打撃の大き  するならば,その分,消費者の購買力が高まり実 さは,デメリットがメリットに比べてどれだけ大  質的な賃金所得は増加し,たとえ名目賃金が引き きいかの度合によって決まってくる。生産コスト  下げられても,いままで通りの生活が維持できる。

中の輸入原材料・燃料コストの値下がりは,国際  さらに輸入品全体の価格が円高分,下がればそれ 競争力のプラスになるが,どうしても国内で調達  に応じて国内製品も値下げによって対抗せざるを せねばならないコスト,例えば設備コストや人件  得ず,円高のメリットが全国に波及し,海外投資,

費はドル建てでみると非常に上っており(例えば  工場移転等の空洞化にも歯止めがかかるはずであ 賃金はドル換算で世界一),輸出並びに関連産業  る。しかし現実は規制による優遇措置が既得権化 にとってはコスト高が大きく,打撃が深刻となっ  され,国内の産業に聖域を設けたり,複雑な流通 ている。      機構(畜産振興事業団による操作等),さらに贈

貿易収支全体をみると手取り円での輸出価格は  答品や高級品,ブレンド商品が値下りしにくい等,

下がるが,輸入価格も下がるので,貿易黒字はそ  円高によって当然下がるべきものが下らない仕組 れ程減少せず,逆に当面,ドル建て価格の引上げ  みがあり,一方,企業や流通段階にとどまった資 などにより,黒字は輸出量の減少にも拘らず,一  金が実物投資や内需の拡大に向かわず,前述のよ 時増加する傾向(J効果)がある。上記数字で,  うにマネーゲームに走り,株式や債券等有利な金 わが国経済全体についてみると,輸出産業の10兆  融商品に対し,投機的な取引をあおり,また特定 円のマイナスは,輸入産業の15兆円のプラスで,  地域に集中した土地の高騰となって,住民の居住 差引5兆円のメリットになる。輸出部門の操業度  権をおびやかす結果となっている。

の侭下,輸入部門の差益の一部消費者への還元な   最近の海外直接投資をみると,輸出産業(例え どでいくらか減少するが,約3兆円程のプラスと  ば電機機器,自動車など)は円高のデメリットを なっている。ただ,円高によるマイナスは輸出関  回避し,企業生き残りのため部品生産を東南アジ 連産業に集中し,それが地域経済の核となってい  アの各国から調達したり,合併でNICSに工場

る町に深刻な影響を与えている。また,メリット  を設立するなど,わが国本土からの脱出を図って の方も輸入産業や複雑な流通機構,各種の規制等  いる。ASEAN諸国にとっては,近代化。工業 により,一般の消費者にまで還元しにくく,それ  製品の輸出増等,成長促進に貢献するが,同時に が証券や土地等への投機的な方面に流れている。  わが国では先端技術と雇用の場の移転となり,

従って円高に対応して原材料・燃料等が低下すれ  ブーメラン現象と産業の空洞化が着々と進行して ば輸出産業の打撃は緩らげられるはずであるが,  いる。しかしこのようなマイナス面に対して,新 輸入原油に依存する石油精製や石油化学等は,過  しいニーズの開拓や,先端技術で異業種間の協同 去の円安による収益減退の部分を円高でカバーし  研究に基づいて新製品を創出したり,高級化志向

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などが中小企業の協同組合体制によって進められ  を生産し,240兆円をその年に消費,90兆円が将 ているのも事実である。(例えば佐世保の先端技  来のために残される。高度成長期には大きい貯蓄 術開発協同組合による無人海底探索器等の開発,  部分がすべて設備投資等の拡大に使われたが,現 静岡の高級繊維原料による高級品の開発等差別化  在は設備投資は約50兆円,住宅投資約15兆円など による販路拡大等々)      と使い切れず,20兆円以上が余っている。財政面 天然資源の乏しいわが国にとって,海外から孤  から国債を発行して追加の公共投資に使えばよい 立しては生き残ることはできず,密接な協力体制  が,国債の累積残高が61年度末143兆円と赤字体 をとって,相互に長所を生かしつつ共存して行く  質が続き,62年度末には150兆円を超えるといわ 道しかない。既得権を神聖化し,保守的になりが  れる。積極的な補正予算が組まれたとしても,一

ちな産業に対する保護政策は,かえって禍根を後  時的であり,財政再建の努力は維持されねばなら 世に残すといえる。産業・経済構造を輸出入バラ  ず,財政面からの需要拡大に大きな期待は望めな ンス型,内需拡大型に転換する必要を明確に意識  い。従って内需不足部分は海外に求めて,需給バ し,行政もこの認識に立って,企業や個々人に対  ランスをとらざるをえない。これはアメリカから し,転換のための経過措置を明示し,期間と資金,  みると,日本の貯蓄過剰,投資不足が,膨大な経 転職のための職業訓練,新しい雇用の場の開発に  常収支の黒字原因と判断され,財政再建を中断し 努力すべきである。      てでも内需を拡大するようにとの要請となる。

わが国は基礎教育において世界的に優れている  (今年度の6兆円の補正予算も黒字幅減少には約 といわれる。一方,アメリカは高等教育の分野で  50億ドル程度,しかも時期的なズレが,景気回復 優れ,新しい発想を生み出す根源となっている。  過程に施行され,公共事業増に伴う,建材等の値 先端技術においても,アメリカはユニークな基礎  上りでインフレの懸念が指摘されている)

研究の開発に優れ,わが国は応用技術,実用化に   一方,アメリカの財政赤字は約2,000億ドル 優れている。互いが欠点を指摘し,批難するので  (約30兆円)と,彪大な財政面からの追加需要と はなく,共に自己の欠点を是正し,長所を生かす  なっている。GNPは約600兆円なので,供給力 には,両国が協調と自由な競争をいかに同時に達  が600兆円しかないのに総需要は630兆円発生し,

成していくかが鍵である。この意味からもわが国  30兆円の生産不足をカバーするために,輸入超加 の内需拡大,国内市場の思い切った解放が必要で  となり,膨大な経常収支の赤字が発生している。

あるとともに,アメリカの財政支出の赤字解消と  アメリカの貯蓄は低く,(個人貯蓄率は0.1%)

国際収支の改善,保護主義思想の克服が必要であ  財政需要増加をそのままにしておくと,インフレ る。      が生じる。従って金融面から通貨供給量(マネー 61年度,わが国の経常収支の黒字は約860億ド  サプライ)を引締めねばならない。その結果,金 ル(暦年で938億ドル),GNP比約4%となり,  利が上昇し,他の先進国との金利差が拡大し,資 これは終戦直後のアメリカが各国に復興物資を輸  本収支では大量の資金が流入する。この面からみ 出していた異常な時期に匹敵する割合となってい  た日本との関係は,円安・ドル高の効果をもち,

る。この黒字が是正されない限り,円高圧力は一  それが日本からの輪入を拡大し,経常収支赤字幅 時的な下げどまりがあっても再燃の火種は消えて  増大の要因となっている。一昨年のG5で協調体 いない。また,経常収支黒字の大きな要因として, 制がとられ,内外の金利差が縮少すると,資金が 日本の貯蓄率の高さが指摘されている。経済全体  流入しにくくなり,ドル高が急速に是正された。

で,GNP約330兆円のうち,90兆円が貯蓄され  その後,円とドルの先行相場が円高に誘導され,

ている。(個人貯蓄も一家計当り733万円,率は  円の急騰となった。しかし記述のようにJカーブ 可処分所得の16%)毎年330兆円の財・サービス  効果などにより日本の経常収支黒字縮少は遅々と

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       「

オており,貿易摩擦,制裁措置,保護主義が激化  界経済の主要パイプとなり,アメリカ産業の国内 している。この解決はアメリカ財政赤字の解消が  空洞化が始まったとされている。アメリカ政府も 前提であることを認識すべきであろう。      資本流出に対し,1965年の「対外融資自主規制」

から68年の「対外融資強制規制」を導入して抑制

(注)      せんとしたが十分な成果は上らず,69年の総合収 参照:竹内宏・町田洋次・木内嶢著「円高不況一激  支は69億ドルの赤字となった。一方,規制に対応 変する日本経済新地図ト」有斐閣リブレNα16,昭6a  してユーロ市場が発展,本国から送金の絶たれた

5.30,(そのほか各産業に対する円高の影響をわ  アメリカ系多国籍企業はユーロ市場でドル資金を かり易く論じている。)       調達,ユーロ金利が急騰し,ドルが市場に集中,

巨額のホット・マネーが,ドイツ・マルクとドル

      に投機的に運用され,ドル不信が決定的となった。〈2>飽和経済一アメリカ・日本・西ドイツの対

クソン声明となり,この年の暮,スミソニアン合 資本主義の成熟段階である飽和経済に達したの  意により,マルク,円等の切り上げによる通貨調 はアメリカ経済が1950年代の後半であり,西ドイ  整を経て,73年のドル再切下げを機に世界主要通 ツが60年代後半,日本が70年代後半と続いている。  貨は変動相場制に移行した。また,ECに向った 潜在的な過剰生産力を抱き,国内需要だけでは生  アメリカ資本は,60年代後半に飽和経済に達した 産力に見合った需要が大きく不足した。この対応  EC諸国では十分な利益を望めなくなった。70年 策をいかに行ったかについて,各国の経済の特色  代に入るとアメリカ資本は中南米やアジアの発展 が大いに異なってくる。      途上国へ向かった。ドルはユーロ市場を経由する 早稲田大学教授,田村正勝氏は「ドルの命運と  ことにより何倍かに膨張し,世界的な過剰流動性 先進国の経済」(「かんぽ資金」1987.6.Nα10軌  を引き起し,72.73年にかけて,商品相場が急膨,

簡保資金研究会)のなかで,要領よく次のような  (ロイター指数はこの間600から1,200強に上昇)

論旨を展開している。       OPECをして第1次オイル・ショックに踏み切 アメリカ経済は50年代後半,成熟段階に達した  らせる遠因となった。原油急騰はドル安をさらに ことによって,資本は国内で十分な利益があげら  加圧した。1次産品急騰に力を得た発展途上国に れず,EC市場を目指して海外に直接投資を求め, アメリカ銀行は巨額の貸付けを行った。しかし二 それでも不十分な部分は政治の論理による財政面  度にわたるオイル・ショックとこれを契機とした からの軍需生産に向けることによって余剰生産力  世界経済の停滞(スタグフレーション)は,やが の解消を図った。しかし軍需生産以外の生産力強  て途上諸国の発展の足を引っぱることになり,貸 化とはなりえず,産業の空洞化は進展した。EC  付け資金が焦げつきだした。83年末,8,100億ド 市場においては,先にマーシャル・プランによっ  ルに達した途上国累積債務は,86年末に1兆ドル て復興段階を切り抜けたEC諸国が60年代に入り,  を超えたとみられている。ここに到っ七,アメリ 漸次,経済力をつけ,アメリカ輸出の競争相手と  カの大手銀行は一方で邦銀や西ドイツ銀行あるい なり,アメリカ貿易収支黒字は相対的に減少,  は世銀に貸付けの肩がわりを要請し,他方で資本 1960年時点で総合収支で37億ドルの赤字となって  を本国に戻しだした。しかしアメリカ経済は飽和 いる。そこで60年代後半からアメリカは多国籍企  状態にあり,設備投資するほど長期的利益は見通 業を核とした海外直接投資に重点を移した。1967  せない。財政に依存して軍需産業に投資するか,

年に多国籍企業の世界生産額は主要国の輸出総額  「金融自由化」(証券や保険と銀行との垣根を除 1,300億ドルを凌駕し,この時点で世界投資が世  去等)を推進し,マネー・ゲームをあおり,さら

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に日本などに金融の自由化を要請し,各地のマネー  収支は1,318億ドルの赤字,うち8割程がドル安

・ゲームからの利益を目指している。以上,ドル  とともに減価するTB証券等の買いにまわり,評 安の根本原因としてドルのたれ流しと飽和経済に  価損となっている。他方,財政赤字は国債残高が 達したアメリカ国民経済の産業空洞化をあげ,ア  本年度末には152兆円にも達し,アメリカ以上に メリカ経済が60年代初めから軍需産業化と製造業  深刻である。またマネー・ゲームの加熱は異常な の空洞化の道を歩み,加えてレーガン減税政策に  株高,特定地域の地価暴騰など危険な社会不安の よって,財政赤字と貿易収支の赤字を悪化させ,  様相を呈している。

TB証券等を日本等海外の資金に依存することに   ヨーロッパ経済,特に西ドイツ経済はどうであ よって債務国へと転じているのが現状である。従っ  ろうか。西ドイツ経済は前述のように60年代後半 てドル安をインフレ圧力の伴なう寸前まで推進し  に飽和経済に達し,過剰な生産力の対策が必要と ても,貿易収支の大幅な改善は望めず,財政赤字  なった。加えて60年代末にマルクの投機的な高騰 が解消せざる限り,(レーガン政策の大幅是正)  も経験した。しかし西ドイッはアメリカとも日本 アメリカ経済の基本体質は改善されず,その責を  とも異った政策をとった。すなわち,余剰生産力 報復関税や貿易抱括法案にみられるように,日本  を生活基盤投資や失業救済を含む社会福祉の充実 等,対米輸出国の輸出規制に向けざるを得ない。  にあてると共に,無理な成長政策を採らなかった。

日本経済は70年代の後半に飽和経済に達し,内  飽和経済下の失業を必要悪として承認し,高い失 需に対する過剰生産力のハケロを主に輸出に求あ  業率であってもすべての国民が人間らしく生活で た。1976年から86年の10年間にGNPは167兆円  きるような経済構造をつくりあげてきた。例えば,

から323兆円とほぼ倍増,企業設備も25兆円から  西ドイツ国家予算の最大項目は,社会保障ならび 54兆円へと倍増した。しかし国民消費支出は名目  に公共施設の拡充・維持管理等の生活関連公共支 で55%弱,実質で9%しか伸びていない。増大し  出であって,これが全予算の38%あまりを占めて た生産力の大部分が輸出に向けられ,輸出は10年  いる。(日本はこうした支出は9%にすぎない)

間に3倍伸び,貿易収支黒字は99億ドルから927  また年間労働時間も,日本の2,123時間に対して 億ドルへと9倍になった。まさに日本経済の構造  西ドイツは1,673時間にすぎない。工業の成長よ は輸出依存体質そのものである。70年代中葉に飽  りも生活経済を重視している。このためGNP成 和状態に達したにもかかわらず,経済成長を政策  長率も低く,失業率は高い。しかし1人当たり 目標として推進したことも見逃せない。国内消費  300万円以上の支出を要する失業者を200万人以 需要を著しく伸ばすことが不可能であれば,輸出  上抱えて,なお失業保険会計は黒字である。財政 抑制は生産を縮少し,成長を抑えるしかないはず  赤字,貿易収支,企業利益などのファンダメンタ である。にもかかわらず成長路線を続けることに  ルズもそれほど問題はない。40%以上の企業が景 よって輸出は減らず,1986年のアメリカ貿易赤字  気刺激策の導入に反対している。

のうち35%,586億ドルが対日赤字である。日本   西ドイツ以外のEC諸国は,西ドイツほどに安 の輸出が厳しく叩かれるのも,この面からは当然  定していないが,同様に安定経済を目指し,失業 といえる。自由競争のみを主張し,協調的な競争  と共存しうる体質をつくりあげてきた。現在EC を怠った政策上の誤りは免れない。その報いは急  諸国は全般的に日本よりも安定度を増している。

激な円高(ドル安)となって顕れ,経済は未曽有   以上を考えると,対米輸出とドルに依存し過ぎ の不況に苦しむこととなり,成長の鈍化,失業の  た日本経済の苦しみは,これから本番となるであ 増大を招いた。しかも輸出で稼得したカネを上回  ろう。対して対米輸出依存度10%のEC諸国はド る彪大な資金を海外に投資した。1986年,日本の  ルの影響をまともに受けることはなく,最悪の場 貿易収支は926億ドルの黒字であるが,長期資本  合でも,ECU(ヨーロッパ通貨)に逃げこむこ

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とが出来る。しかし日本は逃げ場がなく,当面は  代表が「協調行動」 (Konzertierte Aktion)の 対米輸出をカットし,製品に対する内需拡大が不  ための懇談会を行ない,全国民的見地に立って協 十分な分は生産を減らすしかなく,その分,失業  調していく路線をとった。西ドイツが標榜する 圧力は増大する。これに対しては,労働時間の短  「社会国家」一一Sozialstaat−一という言葉は 縮とワーク・シェアリング並びにサービス業や生  以上の点を意識して掲げられた新しい国家体制の 活関連公共施設投資,エコロジー労働などで対処  理念を表現したものである。市場経済領域におけ するしかない。その結果,たとえGNPが半減し  る効率性の追求が,資本の論理に従って利潤追求 て,10年前の水準(323兆円一167兆円)に戻っ  に偏した場合,人間の全生活領域に経済的な利害 たとしても実質消費が9%減るだけである。そし  打算が支配することになる。人間愛に根さすべき てこの道を通じてのみヨーロッパが60年代後半か  家庭を利害打算の場に転ぜしめ,全人格の向上に

ら歩んできたと同じ方向へ転換ができ,協調を内  資するべき学校が,有名校・会社への知的偏重の 包した節度ある自由経済の体質に生まれ変わり,  場となり,地域連帯感,隣人愛に基づくコミュニ 異常な忙しさやカネから解放された,人間らしい  ティが,権利抗争の場に変ずる。さらに自然環境 生活に向っていけると論じている。 (6〜10頁)  の商業観光開発による破壊,文化・芸術の金銭的

第2次大戦後,東西両ドイツに分断されたなか  評価による堕落等,数えあげれば社会的・文化的 で,西ドイツはアメリカ的な資本主義体制,ソビ  諸問題のすべてがそこに遠因をもつといっても過 エト的な社会主義体制のいずれにも組しない独自  言ではない。「社会国家」の理念は人間存在の基 の第三の道を志向した。西ドイツ連邦政府の一翼  本的な在り方の実現に向けて,社会における対立・

を担った社会民主党(SPD)が1959年のバード・  競争を人間性の発展・向上のための創造的活動力 ゴーデスブルク大会で階級政党から国民政党への  として把える一方,対立抗争から生ずる諸階級の 脱皮を宣言し,ドイツ労働組合総同盟が1963年,  利害の解決を,社会の諸階級から独立し,全国民 デュセルドルフ大会で綱領にある社会化要求を取  的立場から個々人の自由で自律的な人間性の高揚 下げ,体制内労働組合の立場を鮮明にし,労使パー  を指向する新しい国家形態に托したものである。

トナーとしての経営参加方式たる「共同決定」  しかし現在まで,現実の国家は社会における支配

(Mitbestimmung)路線を第一にかかげたのもそ  階級に専有されることによって,社会の階級性,

の現われとみることができる。経済体制としては  その利害の対立を国家内に持ち込むことになり,

「社会的市場経済」(Sozialmarktwirtschaft)  国民全体の福祉,自由で自律的な人間性の発展と もしくは「福祉国家」 (Wohlfahrtsstaat)によ  いう国家本来の理念を喪失していた。「社会国家」

る経済誘導政策をとった。すなわち,企業間の公  という言葉は,従って本来の国家理念を取り戻す 正な競争原理を尊重し,厳しい独占禁止法のもと  ため,諸階級の利害を超越し,全国民的視野に立っ で競争を阻害する諸要因を排除することによって,  て,常に社会改造の先頭に立つ国家という意味が 市場経済のもつ資源配分の効率化を追求し,社会  含まれている。

主義体制の落入り易い,官僚独占のもと国家計画

に基づく非競争価格による資源配分の非効率性に   (注)

対抗するとともに,他方,1967年の経済安定・成     この新しい国家と社会の存在形態を,西ドイッ連 長促進法によって方向付けられた,政府の独自の    邦政府が標榜している社会国家の源泉とする考え方 役割を強調することによって,「大企業の自由」を優    が,現在E・R・フーバー,E・フォルシュトフ,

先させるアメリカ的な資本主義経済体制とも一線    E・W・ベッケンフェルデ等により,L. V.シュ を画した。すなわち政府の「経済趨勢データ」    タインの国家・社会学説に求められている。

(Orientierungsdatum)1こ基づき,労使双方の    Ernst Rudolf Huber, Lorenz von Stein und

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die Grundlegung der Idee der Sozialstaats,  ケインズ派のフィスカルポリシー論は,貯蓄と投 In:ERHuber:Nationalstaat und Ver一  資のアンバランスによる不完全な雇用や資源等の fassungsstaat, Studien zur Geschichte der  未利用に対して,政策手段によって人為的に需要 modernen Staatsidee・Kohlhammer・Stuttgarち  を高めることにより,完全雇用状態での国民経済 1965       の均衡を達成せんとするものである。市場経済領

Ernst Forstho鉱Der Staat der Indus一  域を生産財生産部門と消費財生産部門に分け,価 triegesellschaft・C・f工Beck・M廿nchen・1971・  格原理により両者の関係が成立するものとすれば,

Ernst Wolfgang B6ckenf6rde, Lorenz von  公共経済領域は予算原理により市場経済領域との Stein als Theoretiker der Bewegung von  関係を保つものといえる。閉鎖経済を仮定すれば,

Staat und Gesellschaft zum Sozialstaat・」n:  不完全雇用の状態であろうと事後的には貯蓄〉投 Alteuropen und die moderne Gesellschaft,  資のアンバランスは国民経済の縮少(所得の減少 Festschrift fUr Otto Brunner, hrg vom His−  →貯蓄の減少)を通じて貯蓄=投資の状態に達す torischen Semimar der Universitat K61n,  る。しかしその結果,失業と未利用設備・資源が G6ttingen,1963.       存続する不況の状態が持続することになる。フィ 拙稿:「社会国家」の源流としてのL.v.シュタ  スカルポリシーは景気や所得から独立した財政支 インの「社会王制」の理論,茨城大学人文学部紀要  出(公共投資等)を投入することによって(財政

(社会科学)第9号,1973.3.         不均衡による赤字),乗数的に国民所得を引揚げ,

拙稿:「ローレンツ・フォン・シュタイン国家科学  国民経済の拡大によって完全雇用下の貯蓄=投資 体系における社会と国家の関連について:大川政三・  の状態にまで投資を引揚げんとするもので,失業 石弘光編「財政学研究」春秋社,197a 6.     の解消,遊休設備,資源の活性化を行なわんとす 以上を参照されたい。      る。しかし効率性の犠牲という大きな代償を払っ

ていることを忘れてはならない。従って政府規模

      の肥大化と財政赤字の増大によって,市場経済領域〈3>財政と国民経済の関連について

の効率性=活1生力そのものが喪失する危険も内臓し マクロ的な経済構造を分析する場合,資本主義  ている。ここに財政規模の拡大の限界と,財政支出 体制下では,現在,混合経済体制として,市場経  内容の検討の必要性が強く意識される所以である。

済の領域(主として私的財・サービスの提供)と   このことは開放経済下の国際経済との関係にお 財政もしくは公共経済の領域(主として公共財・  いても基本的には変らない。金とドルとの交換停 準公共財・サービスの提供と所得移転による再配  止によって変動相場制となった場合,為替相場を 分)を含んで分析している。価格決定による経済  通じての国内経済政策の制約がなくなった。従っ 効率性が市場経済領域において達成されるのに対  て,各国は自国経済を中心に政策的展開が可能と し,公共経済領域では強制的な租税収入と予算成  なる。飽和経済状況下,貯蓄〉投資のアンバラン 立過程による政治性の介入を通して財政支出が決  スは,アメリカ経済においては,国内に投資機会 定されるので,収支バランスが制約条件となるが,  が少なく多国籍企業は海外に投資を求め,国内は 効率性が達成される保証はない。しかし反面,他  財政赤字(軍需等)によってアンバランスを埋める の政策目的を遂行することは人為的に可能であり,  と共に,減税等によって消費を高めることで貯蓄 ある程度の効率性の犠牲において,所得の再配分  を減少させ,輸入を拡大させることによって貿易 を通じて,社会的公正を維持するとか,有効需要  赤字を増大させ,財政資金の不足は海外の資金を の不足を財政支出や減税によってカバーすること  政府債務証券を購入させることによって解決して によって経済安定を保つことも可能とされてきた。  きた。その結果が,国内経済の空洞化,失業の増

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大,貿易赤字,財政赤字,債務国への転落を招い  ること,そして経済的選択として・輸出の自主規 ている。アメリカ政府にとってインフレ政策によっ  制を実行し,代わりに市場の開放や制度改革には て実質価値を引下げ,巨額の債務を一挙に解消し  積極性を示さず,国内の「和」を重んじる・「ゆ たい誘因が生ずる。しかしこの道は基軸通貨であ  るやかな鎖国政策」をとるか,世界が納得するよ るドルの暴落を招き,国際金融危機を現実化する  うな徹底した市場開放を断行し,「脱出促進型の 道である。基軸通貨国であるアメリカは輪転機を  経済社会構造」を「参入促進型」に転ずる「開国 まわすことで借金を返す手段をもっているが,こ  政策」のいずれを採るかが迫られているとしてい の道は破滅に通ずる。現在,アメリカは家計貯蓄  る。これまでのように総論では開国政策を唱え・

率がゼロに近い状態である。アメリカの経済に望  各論では各階層の既得権を尊重した鎖国政策とい まれることは,増税で財政赤字を縮少し,国民の  う選択回避は許されない。前者の鎖国政策の道は・

生活水準を切り下げて貯蓄を増やすことが必要で  国際的孤立と長期的な衰退への道であるとし・困 ある。財政支出(軍需等)の削減と増税,貯蓄優遇  難ではあるが開国政策の道を選ぶべしとしている。

の租税措置の導入により,貯蓄率を高めるととも   前述の西ドイッ経済の選択でも明らかなように,

に生活必需的な新しい分野の開拓によって投資機  市場開放を積極的に受け入れる経済構造を展開し,

会を与え,経済の空洞化を阻止せねばならない。  公共経済領域において生活基盤重視の公共投資と,

日本経済の貯蓄〉投資アンバランスの解消は,  低成長下,失業救済を含む社会福祉の充実を志向 内需不足を輸出拡大による外需によって実物面で  し,ある程度効率性を犠牲にしても,人間らしい の需給バランスを均衡させるとともに,貯蓄過剰  経済構造の樹立を進めるべきであろう。

による余剰資金は,海外投資とくにアメリカ財政

赤字によるTB証券等の購入,株式や地価への異   (注)

常投機によって,部分的な証券インフレ,地価イ    国民経済と財政のマクロ的な関連にっいて,ケイ ンフレを現出させている(TB証券等の購入はド   ンズ派の有効需要造出効果による「量」の調整とは ル安によって為替差損を蒙っている)。この結果,    異なり,19世紀後半のドイッ財政学において,「質」

貿易摩擦,「日本たたき」等がなされ,特定地域の    的調整と両者の有機的な相互作用を重視したものに,

地価高騰は居住地域の固定資産税の増大等に反映    ローレンッ・フォン・シュタインとアドルフ・ワグ し居住権そのものが脅かされ,ドル換算で世界一   ナーがある。シュタインは租税再生産力説を展開し,

の平均賃金と言われながら,円高のメリットは一    財政収入(租税・公債)→経費支出(行政による公 般大衆にまで還流せず,国民生活は改善されたと    共財・サービスの提供による聞接的な生産効果)→

いう実感が一向にない状態である。そのうえ,投   資本形成(国民所得の増加による担税力の増大)→

機的な金儲け主義,他の生活領域への経済的利害    財政収入の増大という一連の再生産的な経済循環を 打算の優先等で増幅されて,新たな犯罪や,精神    通じて財政構造による質的な国民経済(市場経済領 的荒廃が蔓延し,人間性豊かな社会とは言われな    域)の変革を提唱し,前述の社会国家的理念に基づ い状況である。       いて,供給面からアプローチした,人格的な社会経

中谷巌氏は「アステイオン」ぐ87秋号,特集:   済構造の達成を論じた。

日本は世界を変えるか〉(TBSブリタニカ,9    Lorenz von Steim, Lehrbuch der Finanz一 月16日)のなかで,「責任国家・日本への選択」   wissenschaft,ユ860, Leipzi3

と題し,世界経済の危機的構造のもと,経済大国・    Lorenz von Stein, Lehrbuch der Fiananz一 日本の果たすべき役割と責任を明示し,将来の進   wissenschaft,5 neuarbeitete Auflage, L 路を論じている。すなわち,現代の日本人が理想   Teil, Die Finanzverfassung Europas. Mit 主義からほど遠い民族となっていることを反省す   spezieller Vergleichung Englands, Frank一

(9)

北岡:飽和経済状態における円高の意味と経済構造転換に向けての選択について      83

reichs, Deutschlands, Oesterreichs, Italie−     1.1877,3Auf上,1883;Teilπ. 2 AufL,

…Russland・und anderer Lander,1885, L・i−  1899;T・il m, B・・h 1.1910, B。,h 21912;

pzl留       Teil IV.1901. Leipzig−−Heiderberg」  

∬.Teil, Die Finanzverwaltung Europas.    拙稿「アドルフ・ワグナー」:大川政三,小林威 1. Abteiung, Der Staatshaushalt, die    編,「財政学を築いた人々」一資本主義と財政・租 Staatsausgaben, die wirtschaftlichen Einnahmen   税思想一,ぎょうせい,昭58.4

und der allgemeine Teil der Steuerlehre,1885,

Leipzig.2. Abteilung, Die ein2elne Steuern

und ihre Systeme,1886, Leipzi&3. Abtei1−  〈むすび〉

ung, Das Staatsschuldenwesen,1886, Leipzig.  日米貿易摩擦は単に貿易分野に止まらず,円高 拙稿「ローレンッ・フォン・シュタイン財政学体  不況として,経済全般にその影響が拡がりつつあ 系における「再生産性」概念の意義,茨城大学人文  ることをみてきた。不況が雇用問題を深刻化する 学部紀要(社会科学)第1号昭4a 1      と,国民生活基盤への影響,地域社会への影響等

拙稿「ローレンツ・フォン・シュタイン財政学に  々,政治的,社会的なものに転質する勢いをみせ おける収入論上の「再生産性」概念について(1),(2), ている。昭和60年9月のG5合意によるドル安,

茨城大学政経学会雑誌,第22号,昭43.3.及び茨城  円高への調整政策は,皮肉にもアメリカの失業を 大学人文学部紀要(社会科学)第2号,昭4a 12  わが国に転移させる効果となって顕在化した。両 拙稿「ローレンツ・フォン・シュタインの国家信  国が協力し,自由を守らねばならないにもかかわ 用論」一収入論上の「再生産性」概念について(3},  らず,事態は逆方向に舵を回しているようである。

茨城大学人文学部紀要(社会科学)第3号,昭44  さらに文化・民族性の問題にまで波及する兆候が 12      みられる。経済新聞のコラム欄につぎの様な指摘

拙稿,前掲「社会国家」の源流としてのL.v.  がのっていた。一つは日本に「顔がない」 「不可 シュタインの「社会王政」の理論.       解だ」……といった言葉で異文化間のコミュニケー Lorenz von Stein, Die Geschichte der sozi一 ション能力の強化を訴えていた。同時通訳者・村 alen Bewegung Frankreich von 1789 bis auf 松増美氏のアメリカ人の口にするジョークとして,

unsere Tage, Bd,1−L,185αLeipzig.   日本人とアメリカ人がジャングルでライオンに Lorenz von Stein, System der Staatswissen一 襲われた時,日本人がやおら靴をスニーカーには schafちBd.1.1852, Bd∬,1856, Stutt一  きかえた。アメリカ人が「そんなことしたって,

gart u TUbing肌       ライオンより速く走れないじゃないか」と言った 一方,アドフル・ワーグナーは財政の所得配分機能  のに対し,日本人は「あんたより速ければよい」

に注目し,社会保障制度による社会政策的財政学を  と答えたと 。米国人は日本の貿易のやり方をこ 展開し,国家の福祉,文化面への積極的役割を強調  んな風にみているというのである。もう一つはや し,経費膨脹の法則(政府規模の拡大)と所得再分  はり経済新聞のコラム欄で,日本ではローマに滅 配効果による需要面からのアプローチを試みた。両  ぼされた商人国家,カルタゴに興味を持つ人がふ 者の主張は,いずれも現在,西ドイッ経済での公共  えていると指摘し,つぎのような主旨が述べられ 経済領域の役割に影響を与え,「社会的市場経済」,  ている。.

「社会国家」の理論に貢献している。        カルタゴが海洋国家であったこと,第2次ポエ Adolph Wagner, Grundlegung der politischen  二戦争(B. C.218〜201)に敗失した結果,軍 Oekonomie,1892, Leipzig         隊の保持が禁じられ,武器で他国と戦えなくなっ

Adolph Wagner, Finanzwissenschaft, Teil たことなど日本と類似の点が多い。そしてローマ

(10)

の前に「巨大であり過ぎた」誤りが日本人の関心  5.8 春秋欄)

を呼んでいるとしている。その結果,ローマの政   服部伸六著「カルタゴー消えた商人の帝国」

治家カトーはイチジクの実(カルタゴ農業技術の  (社会思想社,昭62.3.30)によると,第2次 成果)を振りかざして「デレンダ・エスト・カル  大戦の終局の見通しがつき始めた1943年冬,ザマ ターゴ」 (Delenba est Carthago)一カルタゴ  の古戦場(B. C.201年,カルタゴの英雄,独 は滅ぼさねばならぬ一と演説した。       眼竜のハンニバルが奮戦したが,ローマの若き将

カルタゴの農業技術の先進性(ポエニ式手押車  軍スキビオに敗れた場所)を視察したチャーチル と呼んだ脱穀機や木製の無輪鋤など天才的な発明  の逸話がのっている。当時連合国の首脳がモロッ をする。一方,ローマの農業は幼稚きわまるもの  コのカサブランカで会議を開き,チャーチルは北 であった)にローマが恐怖を抱いていたとか,ロー  アフリカ戦線を指導,ドイツのロンメル軍の降伏 マの海運業者と貿易業者にとってカルタゴの海上  まで居残ることになった。そして北アフリカを去 航海の経験と技術がじゃまだったとか,いろいろ  るにあたり8日間の視察を行なった。その間,ザ

と説明されている。そこで次々と難題を吹きかけ,  マの古戦場を視察したあと側近に次のように語っ

(例えば,当時のコンスタンチヌスにあった隣国  たと伝えられている。「この戦闘は,何といって ヌミディア王マシニッサがカルタゴの西方を脅や  も西欧の命運がきまった歴史上もっとも重要な戦 かした時,実力でこれを排除しようとしたことが  いの一っだ。カルタゴは西欧の面前に突き出た東 ローマに口実を与え,カルタゴ元老院と百人委員  方(オリエント)の顔だったが,そのときハンニ 会の息子300人を人質としてローマに送るとか,  バルはほとんど勝利をおさめていたんだ。もしス まだ残っていた武器,20万本の刀剣類と2千の投  キビオが敗けていたら.カルタゴの支配下に入る 石機の引渡とかが要求され,そのことは実行する  ことを意味した……。つまりヨーロッパはオリエ が,最後にカルタゴは海岸(地中海)から15キロ  ント化されることになっただろう。」と。((注)

の内陸に住民を移し,港としての市を破壊するよ  カルタゴ人は古代オリエント文化を伝播したフェ う伝えてきた。)遂にB.C.149年,第3回ポ  ニキア人(セム系)の後えいである。)

エニ戦争が勃発した。B. C.146年,ローマは   ひとりのアングロサキソン人にとって,それは 武力でカルタゴを滅ぼした。都市国家は破壊され,  身の毛のよだつ恐怖だし,おそらく西欧人にとっ 財宝は持ち去られ,現在,繁栄を物語るものは何  ては常識でもあった認識だったと記している。

一つ残っていない。カルタゴが滅ぼされたのは第   (12〜14頁)

2次ポエニ戦争の和平後,50年後であった。コラ   以上のことは,貿易摩擦が失業の輸出として相 ムでは米誌ニューズウィークが中曽根首相の訪米  手国に実感されたとき,問題が民族間の不信から,

中の4月下旬に行った世論調査で,アメリカ人の  文化の問題にまで及ぶことを示唆している。

70%が半導体問題にからむ対日制裁を支持してい   最近ECの失業率は石油ショック前の5%前後 るとし,また日本企業が雇用と市場を奪っている  から10%を超えるに至り,(失業者,1,700万人)

との回答も78%あり,回答者の多くはすべての責  フランス260万人,西ドイツ230万人等になって 任は日本側にあると言いたいらしいと記している。  いる。(日本3%,190万人)特に若ものの失業 そしてアメリカのマスコミがまだ冷静だからいい  率は大きく,EC全体で450万人,4人に1人が が,巨大すぎる日本への反発は強くなっており,  失業という状況である。 (日本,25歳未満でα9

「デレンダ・エスト・ヤパーニア」とアメリカ議  %)その原因としてECの対日貿易赤字200億ド 会で演説する政治家を出現させないためにも,わ  ルをあげ,これを失業に換算すると100万人にな が国は全力をあげて,貿易摩擦の緩和に努力せね  ると指摘している。日米間の貿易紛争による対米 ばならないと論じている。(日本経済新聞昭6a  禁輸により,日本の輸出の鉾先がECに向けられ

(11)

たとみている。(日本の対米輸出減14%に対し,  資は避けられない。円高はこれを加速する。従っ 対EC輸出増10%−1986年円べ一ス)対応策とし  て経済の空洞化を防ぎ,高齢者雇用を含めた全般 て,VTR,電子タイプライター,電子レンジ,  の雇用問題の解決には,わが国独自の新しい先端 複写機,半導体に反ダンピング課税の適用を検討,  分野の開拓とそれに対応した職業再訓練の体制を 実施している。例えばフランスのソプラン社では,  確立することが急務である。また技術導入の時代 21世紀に向けての戦略として,不良業種分野を切  ではなく,自主技術開発のためにも,創造性が発 り捨て,失業者を日本企業の進出により吸収する  揮できるよう自主的な高等教育機関への積極的な ため,反ダンピング法を活用しているという。   取組みが要請される。

海外への進出が本国に与える失業への調査によ   わが国経済構造の内需拡大・輸出入バランス型 ると,1兆円の生産量は失業者1a8万人(電機・  への転換をスムーズに行うことは,わが国一国の 精密機械で2.8万人,一般機械1.6万人,自動車  問題ではなく,1920年代の世界恐慌の二の舞を免 1.4万人等の計)ということである。貿易黒字の  れる世界的な課題を内蔵しているといえる。また,

金額が海外進出でカバーされたとすると,約12兆  その背景には諸国間の相互信頼が根づいていかね 円は1048万人の国内失業を生むと試算されてい  ばならない。そのためには,日本文化がどれだけ る。(NHKテレビ,「世界の中の日本経済」よ  他の国々の人に受け入れらるか,普遍性をもちう り)      るかの課題にもつながっていく。内需拡大を単に

産業構造を内需拡大型に転質せず,海外直接投  経済ベースのみで推進するのでなく,美しい日本 資により経済の空洞化を進めた場合,失業と転職  の「顔」として印象づける意味からも,調和と融 へのミスマッチの問題が深刻となる。たとえ経済  合を核とする日本文化との関連で,解決していか の空洞化を新しい先端産業分野で埋めりことがで  ねばならない。

きるとしても,職業転換はそう容易でなく,特に   貿易摩擦から円高不況,そして思い切った経済 高年齢層の失業問題は深刻となり,高齢化を迎え  構造の改革が,世界の中の日本経済を孤立の道か て,失業者に対する社会保障とその財源の確保も  ら脱却させ,真の国際性を歩む道である。そのた 難しくなる。職業再訓練を早い時期にどのように  めには相互信頼が基底になければならず,信頼感 計画実施するかが重要な課題となろう。      を恒久のものとするためには,日本文化の普遍性 経常収支の黒字を減らすには経済構造の仕組を  と繋がってくる。文化と経済の関連が重要な課題 変える必要がある。先進諸国,新興工業国,発展  とならざるをえない。人間らしい経済構造の志向 途上国との友好関係を保つためにも,海外直接投  が望まれる次第である。

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