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経済の転換と産業構造,財政・金融政策

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(1)

経済の転換と産業構造,財政・金融政策

その他のタイトル Change of Trend in Economy and Monetary and Financial Policy

著者 安田 信一

雑誌名 關西大學商學論集

20

3‑5

ページ 436‑452

発行年 1975‑12‑25

URL http://hdl.handle.net/10112/00021076

(2)

248 (436) 

経済の転換と産業構造,財政・金融政策

過去拾数年にわたって高度成長を続け,重化学工業を中心として異常な発 展をとげた日本経済も, 4810月におけるオイル・ショックを契機として急

(1) 

激に変化し,ゼロ成長またはそれに近い状態にあり,現在は深刻な不況の真 只中で,この不況を打開するために種々の財政・金融政策が実施せられよう

としている。然し乍ら等しく不況対策というも,この不況を以て高度成長の ある一時期に偶々あらわれた成長率の低下に過ぎないと考える人々にとって は,その性質はこれまでの高度成長期にある一時期に偶々生じた不況と同一 性質で,したがっていままでの不況対策としての財政・金融政策と根本的に は同ーで,ただ不況の深刻性に応じてその規模を異にするに過ぎない。これ に対して今日の事態を高度成長の行詰りと考え,高度成長から低経済への過 渡期とみる人々にとっては不況対策もまた異なるべきはずである。以下この 小稿で考察しようとするのはこのような不況対策としての財政・金融政策で ある。もとよりこのような問題を対象とするとはいえ,この小稿は時論的な 考察ではなく,日本経済のような高度成長をとげた国においては何が高度成 長の限界であるか,つぎにまたこの限界に到達したとすればつぎにきたるべ

(1) 494 6月以後の各四半期別の実質経済成長率は494 61.8%, 7   90.8%, 10 12(‑)0.4%, 501 3(‑)0.5%, 4 60.8%である

(朝日新聞, 5094日朝刊)。

(3)

経済の転換と産業構造,財政・金融政策(安田) (437)  249  き経済はどのような経済であるべきか等について述べ,不況対策としての財 政・金融政策は単なる不況対策ではなく,あわせてこのきたるべき経済への 変化の方向を促進するような政策を論じてみようと思う。

1.  高度成長と過少雇用

高度成長下にある経済についてはつぎのようなモデルを考える。

X=X1+ ふ ( 1) ふ = ふ(k1, N1,  K1)  (2)  ふ = ふ(k2, N2,  K2)  (3)  k1 = k1(/1)  (4)  k2= k2(12)  (5) 

X‑C=S  (6) 

l=l1+l2  (7)  K1 = K1(11,1,  11)  (8)  K2=氏(K 1, I2)  (9)  C=C(X)  (10)  l1=l1(K1,1,X1, r)  (11)  l2=l2(K 1,△X2,r)  (12)  M=L(Pふ, Pふ, r) (13)  Xi=pw  (14) 

X1 = Pw  (15)  N=N1+N2  (16)  l=S  (17)  X1=l  (18) 

x;  (19A)(過少雇用)

W,= X1 ' Wt1  ,1 

W=w(N)  (19B)(超完全雇用)

(4)

250 (438)  経済の転換と産業構造,財政・宝懃政策(安田)

但しX=総産出量,ふ=第一部門(資本財部門)の産出量,ふ=第二部門 (消費財 部門)の産出量, N=総雇用極, Nl=第一部門の雇用量, N2=第二部門の雇用撮, k1

=第一部門における技術的進歩, k2=第二部門における技術的進歩, I=両部門におけ る総投資高, Il=第一部門における総投資高, I2=第二部門における総投資高, C=消 費支出, S=貯蓄, 氏=第一部門における実物資本在高, K2=第二部門における実物 資本在高, r=利子, P 1=資本財物価, P 2=消費財物価, W =貨幣賃金率, M=貨幣数

貨幣数量Mは中央銀行を中心とする一社会の貨幣当局によって決定せられ る。したがって一社会におけるそのときどきの貨幣数量は経済にとっては所 与とせられる。そうすると未知数は前述のX以下w までの19で,方程式の数

と一致する。

まずこのモデルでは封鎖経済で,かつ財政を欠く経済を前提とした。換言 すれば輪出も輸入もなく,また海外諸国との間に資金の貸借もない経済で,

かつ租税等の国庫収入もなければ,また国家が財貨・サービスを購入しない きわめて単純化せられた経済を前提とした。つぎにまたこのモデルでは財 貨・サービス産出部門を資本財のみを産出する第一部門と消費財のみを産出 する第二部門の二部門に分けた。

(1)式は一社会の総産出量は第一部門の産出量と第二部門の産出量とか ら構成せられることを意味する。第(2)式では第一部門の産出量は同部門の 技術的進歩と雇用量,実物資本在高の関数,第(3)式は第二部門の産出量は 同部門の技術的進歩,雇用量,実物資本在高の関数であることをあらわす。

そして第(4)式,第(5)式では両部門の技術的進歩は両部門における総投資 の関数としたのである。

技術的進歩を技術水準の上昇という意味にとらえるならば純工学的な問題 で,経済にとっては所与とせられるべき問題である。しかし乍ら技術的水準 は 年 々 上 昇 し つ つ あ り , そ の 結 果 昨 日 の 新 設 備 も 今 日 の 旧 設 備 と 化 し て い る。したがって新投資はそれが再投資であると純投資であるとを問うことな く常にその中に今日の技術的水準を体化しており,同一量の実物資本,労働 量をもって産出量の培加に寄与する。第(2)式および第(4)式,第(3)式お

(5)

経済の転換と産業構造,財政・金融政策(安田) (439)  251  よび第(5)式の黛味するところはこのようなことである。

(6)式は総産出量から消費支出を差引いたのは貯蓄であることを示す定 義式であり,また第(7)式は一社会の総投資高は第一部門の総投資高と第二 部門の総投資高との合計であることを示す。第(8)式と第(9)式とはそれぞ れ第一部門と第二部門の実物資本在高をあらわす式で,両部門の実物資本在 高とも同部門の前期までの実物資本在高と投資高とによって決定せられる。

第(lo)式は一社会の消費支出はこの社会の実質所得の関数であることを示

(11)式と第(12)式は第一部門と第二部門とにおける総投資高に関する式 である。第(11)式と第(12)式とをこのように純投資高ではなく,総投資高と すると,当然に第(1)式における産出量も純産出量ではなく,総産出量であ る。ところでこのように総投資高とすると,総投資高は減価償却高を含む既 存資本の減耗高に対応する再投資と経済の成長に対応する純投資とに分たれ 1112とをもって K1, K2に対応する部分と△X1,X2とに分けた 理由である。もとより総投資をこのように再投資と新投資との両部分に分け たとしてもその区分は一応の区分にとどまる。即ち再投資に際しても,例え ば需要が減少すると予想するときには減価償却部分に対応する再投資はおこ なわれない。けれどもまた反面からいえば,この再投資がない場合には企業 規模の縮少となるので,企業としてはできるだけこの再投資を維持すること に努めるであろう。いずれにせよ過去の実物資本に対応する再投資は総投資 の一つの有力な構成部分である。つぎにまた企業の産出高が増加を続ける場 合,企業は需要の増加を予想し,新投資を増加するであろう。この再投資と 新投資にはそれぞれ利子が作用する。即ち低金利の場合には再投資たると新 投資たるとを問うことなく投資は増加するであろうし,高金利のときには新 投資が減少するのはもとより再投資も延期せられるであろう。 (11)式と(12) 式の意味するところは以上のとおりである。

(13)式は貨幣需給方程式で,それはケインズの貨幣需給方程式をあらわ

(I) 

す。即ちケインズは貨幣需要を Y,rの関数としたが,この場合 Yとは貨

(6)

252 (440)  経済の転換と産業構造,財政・金融政策(安田)

幣所得のことで,産出部門がただ一つの場合には物価水準は P, 産 出 量 は Xである。したがって Y=PXとなるが,この小稿の場合には貨幣所得は

(1) 

Pふ + Pぷ2 である。すなわち (13)式はケインズの貨幣需給方程式である。

(14)式は第一部門における労働生産性は貨幣賃金率を同部門の価格水準で 除したものに等しい。このことはこの式を PiX~=W に変形すると直ちに明ら かとなる。すなわち第一部門における限界販売高は同部門の貨幣賃金率に等 しいということであるが,限界生産力逓減を前提とすると企業の限界雇用単 位によって生み出される販売増加高は貨幣賃金率と均等となるべきであっ て,若し限界雇用単位がその貨幣賃金率に等しい販売増加高をもたらさない ならば,企業にとってはこの雇用単位を増加することは損失であり,したが って雇用を減少するであろうし,また逆に販売増加高が貨幣賃金率を超える ならば雇用をなお増加して,両者が一致するまで続けられるであろう。

第一部門においては (14)式において示したような関係が成立したが,同様 な関係が第二部門においても成立することをあらわしたのが (15)式である。

(16)式,(17)式については特に説明を要しない。また(18)式は第一部門産 出高がすべて資本財であることを示し,またこの式はその反面として X C,  すなわち第二部門の産出高が消費財であることをその中に含む(第 (1) 式と第(6)式参照)。

第(19)式は貨幣賃金に関する方程式で,この方程式は完全雇用までの貨幣 賃金方程式(19A)と完全雇用以後の貨幣賃金方程式(19B)から成り立つ。即 ち完全雇用まで過少雇用においては第一部門における労働生産性上昇に応じ て貨幣賃金率が上昇し,したがって資本財物価は一定であったが,完全雇用 以後の超完全雇用においては労働不足を反映して,雇用需要の増加に応じて 貨幣賃金率が急速に上昇して第一部門における労働生産性を超え,その物価 騰貴に導くが,このことは部門の性質上第一部門と比較して労働生産性が低 率である第二部門ではその物価はなお一層騰貴する。

(1)  J.  M Keynes,  The General Theory of Employment, Interest,  andMoney,  1936,  London,  pp. 199200,塩野谷九十九訳第4242

(7)

経済の転換と産業構造,財政・金融政策(安田) 441)  253  この方程式休系の下においては貨幣数量が増加すればどうなるか。直ちに 利子が低下し,それに応じて(11)式,(12)式に示したように総投資が増加す る。そしてこれに伴って k1, k2が上昇し,また第一部門, 第二部門におけ Ki, K2も定まる。ところで(18)式が示すように第一部門,第二部門の総 投資高の合計は第一部門の産出高に等しい。このことの結果第一部門におけ る雇用量が決定せられることとなる。つぎに総投資高が定まると限界貯蓄性 向の値を一定とすれば,有効需要,したがって消費支出高が定まる。前述し たように(18)式 は そ の 中 に ふ =Cを含み,したがって消費支出高が定まる ことは第二部門の産出高ふが決定せられたことである。このようにして k2,  K2,ふが決定せられると第二部門の雇用量 N2も明らかとなる。

(2)式およぴ第(3)式から第一部門およぴ第二部門の労働生産性が決定 せられるが,(19A)式が示すように過少雇用においては労働生産性の上昇に 応じて貨幣賃金率が騰貴するにとどまり,第一部門の生産物物価即ち資本財 物価は一定に保たれるが,第二部門では貨幣賃金率と同部門の労働生産性と の結果同部門の生産物の価格水準が定まる。

以上のように貨幣賃金率は雇用が完全雇用に達するまで,すなわち過少雇 用の下では受動的な要因であった。それでは完全雇用以後すなわち超完全雇 用の下ではどうなるかであるが,その点については次節において述べる。

以上において述べたことを仮説例をもって説明する。

X=XX2 (1) 

X1=k1N1K1  (2)' 

X2=k2N (3)' 

k1 = K11 1 Pl  (4)'  k2 = K12 P2  (5)' 

X‑C=S  (6) 

1=11 +12  (7) 

kK1111:1K11+11 (8)'  K2K1ー 四K21+/2 (9)'  C=cX  (10)' 

IK11CA11‑a11r)+△X11(A12‑a12r) (11)' 

(8)

254 (442)  経済の転換と産業構造,財政・金融政策(安田)

12K21CA21‑a21r)+△X2,‑1 (A22‑a22r)  (12)'  M=b1Pふ + 妬Pふ +4(b1Pふ + 妬Pふ )

r‑2  (13)'  X'=W

i

  P1 (14) 

X= wt 

2

  P2,  (15) 

N = N N2 (16) 

l=S  (17) 

X1 =l  (18) 

l

匹 = x

‑1WIt‑1 

W=W1( N¥/3 

(19A)過少雇用)

(19B)超完全雇用)

以上の諸方程式の中(4)'式における Pi=0.165, P2=0.07333,  (8)1式の 1C1= 0.1  (9)'式 の 石 =0.05, (10)'式のC=3/4, (11)/式のA11=0.22, A12=2.286,  a11=2,  a12=3,  (12)'式の A21=0.17,  A22=1.936,  a21 =2,  a22=3,  (13)/式の妬=1/4, b2 = 1/5,  (19 B)式の {3=2,N1=200, w 120.3とする。その場合第1表になる(但

し本節では過少雇用の考察である故に実際問題としては (19B)'式は不要)。 但し期間 0における実物資本在高は第一部門では80,第二部門では200である。

1

1 未 知 数

(mI  M辺 吟 / 、 I

\巳 V”•·e.. かヽノ! 11  lll  lV  Vl  184.0  202.4  222.8  244.4  269.2  296.4  X1  46.0  50.6  55.7  61.1  67.3  74.1  X2  138.0  151.8  167.1  183.3  201.9  222.3  k1  0.03  0.03  0.03  0.03  0.03  0.03  k2  0.01  0.01  0.01  0.01  0.01  0.01  46.0  50.6  55.7  61.1  67.3  74.1 

i

3160.. 0 0  3137..60   1369..43   3219..29   2433..49   2458..83  

46.0  50.6  55.7  61.1  67.3  74.1 

28280..00 29462..80   216066..52   219127..18   312228..81   134541..73   I 138.0  151.8  167.1  183.3  201.9  222.3 

P,  100.0 

P2  112.9  116.1  119.6  │ 121.8  126.9  130.8  8532  9579.6  10779  11989  13613  15335.8  0.06  0.06  0.06  0.06  0.06  0.06  96.4  100.7  105.3  108.9  115.1  120.3  139.5  150.1  161.8  175.1  187.4  202.1  N1  31.8  33.5  35.3  38.3  39.0  41.1  107.7 116.6  126.5  136.8  148.4  161.0  1表は掏衡利子を6%とし,各期間における貨幣数景はこの利子を保つように増加

(9)

経済の転換と産業構造,財政・金融政策(安田) (443)  255  したのである。その結果を前述の方程式体系によって計算すると第一部門と第二部門と ではそれぞれ成長率は10彩となったのである。

本表の中注意すべきは経済がこのように成長し,貨幣賃金率が96.4から120.324.8 彩上昇しているにもかかわらず第一部門の物価,すなわち資本財物価P1 は不変にとど まっていることである。このことはもとより第一部門では労働生産性上昇に比例して貨 幣賃金率が騰貴すると仮定したことによる。これに反して第二部門では労働生産性上昇 率は貨幣賃金の騰貴率と比較すればかなり低く,その結果として第二部門の生産物であ る消費財の価格水準凡は112.9から130.8と15.9彩上昇しているが,なお,これを実質 賃金についてみれば7.7%騰貴している。

経済成長が持続するとき資本財物価は安定し,消費財物価ならびに貨幣賃金率は騰貴 するも,貨幣賃金の騰貴率は消費財物価の騰貴率を超え,実質賃金は騰貴していた。こ のことはわが国が高度成長期に体験したところであるが,本表もまたこのことを示して いる。

経済成長が第1表のように円滑に行い得たのは貨幣数量が経済成長に対応して増加し たからである。即ち本表では貨幣数量は8,532から15,335.880%増加しているが,こ れに対してこの社会における総産出高は184.0から296.461%増加している。経旅成 長を円滑に行い得た有力な理由の一つにはこの貨幣数量の増加がある。

2.  高度成長と完全雇用

前述のように高度成長が持続し,雇用需要は引続き増加するも,いまだ過 少雇用の下にあり,完全雇用に到達しない場合には第一部門の労働生産性上 昇に比例して貨幣賃金率は騰貴するも,資本財物価は安定し,また第二部門 の生産物である消費財物価は騰貴するも,貨幣賃金率の騰貴に及ばず,実質 賃金が上昇するという全体としては経済的にみて好ましい時期であった。も

とより経済成長それ自体は第一次的には純経済問題であるが,あまりにも高 度の成長率が長期にわたって持続するときには,種々の影響が累積して社会 の各方面にいろいろの問題を投げ,その中には批判せられるべき問題も少な

くない。

雇用需用が増加して完全雇用に到達し,以後においてもなお麗用需要が増 加して超完全雇用となり,労働不足を生ずるようになると貨幣賃金の方程式 は前述の(19A)式から(19B)式に変化する。このことは換言すれば,いまま

(10)

256 (444)  経済の転換と産業構造,財政・金融政策(安田)

で第一部門の労働生産性との関係において決定せられていた貨幣賃金率が,

もはやこのように受動的要因たることをやめ,労働需給のみを反映して独立 に動き出す積極的要因に変化することを意味する。しかしながらこの場合に おいても第一部門ではなお(14)式,すなわち X'=w/Pが妥当する。 すな

Xit 

わち完全雇用までの段階ではこの式と(19A) Wt=x―;t‑‑‑W1によって貨 幣賃金率が決定されたために貨幣賃金率は,第一部門の労働生産性上昇に比 例して騰貴したにとどまり,したがって資本財物価は不変であったが,第二部 門では(15)式のX2, w = ー に お い て のp2  Wが,このようにして与えられるため

に,第一部門より労働生産性上昇率が低い第二部門では,その生産物物価が 騰貴するのは当然であった。ところが完全雇用以後の超完全雇用の段階では,

雇用需要が増加すると貨幣賃金率は第一部門の労働生産性と関係なく,労働 の需給状態を反映して独立に決定せられ,この貨幣賃金率と第一部門,第二 部門の労働生産性との関係によって資本財物価,消費財物価が定まるのであ って,この場合には資本財物価,消費財物価の騰貴は急激となり,また企業 の経営者にとっても賃金が重要な問題となる。このように物価,賃金の問題 が経済の重大問題となるのであって,この物価,賃金の問題が重大化したと

(I) 

きこそ経済成長が危機的段階に入ったことを意味する。

完全雇用到達後の超完全雇用期にも企業はなんとかして労働者を確保し,いままで通 りほぼ10%の成長を第一部門,第二部門で続けていたとする。その場合に貨幣賃金方程 式は過少雇用下における貨幣賃金方程式 (19A)から超完全雇用下における貨幣賃金方 程式(19B)'に変化するが,他の18の方程式は同一であるとする。過少雇用の最後の期 間である VI期を前節における第 1表にあわせて示すとともに, Vil期以後の超完全雇用下 (1)  本稿においては完全雇用以後超完全雇用となると,貨幣賃金率が急騰すると仮 定したが,実際問題としては完全雇用に接近するにともなって急騰する。この点 については Conf.,A.  W. Phillips,  The  Relation  between  Unemployment 

and the Rate of Change of Money Wage Rates in the United Kingdom, 1861 

‑1957,  Economica,  November,  1958,  R.  G.  Lipsey, The Relation between  Unemployment and  the  Rate  of  Change  of  Money Wage Rates  in  the  United Kingdom,  A Further Analysis,  Economica,  February,  1960. 

(11)

経済の転換と産業構造,財政・金隙政策(安田)

における場合を第2表で示すこととする。

しM知を除数く VI vn  VIll  IX  Wl 

296.4  325.6  358.4  394.4  413.6  X1  74.1  81.4  89.6  98.6  103.4  X2  222.3  244.2  268.8  295.8  310.2  k1  0.03  0.03  0.03  0.03  0.035  k2  0.01  0.01  0.01  0.01  0.012  74.1  81.4  89.7  98.6  103. 4  11  25.8  28.3  31.2  34.3  34.5  12  48.3  53.1  58.5  64.3  68.9 

74.1  81.4  89.6  98.6  103.4  KI  141.7  155.9  171.5  188.7  162.0  K2  354.3  389.7  428.7  471.6  405.5 

│  222.3  244.2  268.8  295.8  310.2  P1  100.0  112.8  125.6  139.6  249.4  P2  130.8  151.9  174.0  199.3  339.0  15335.8  19428.6  24335.2  30403.4  82435.8  0.06  0.06  0.06  0.06  0.04 

120.3  142.0  165.1  191.9  285.8  202.1  217.3  234.3  252.6  308.2  NI  41.1  43.1  45.4  47.8  60.1  N2  161.0  174.2  188.9  204.8  248.1 

(445)  257 

2 ¥'I[  1129.2 

282.3  4846.9  0.061  0.025  282.3 

86.2  196.1  282.3  232.0  581.3  846.9  2983.3  4236.5  2784,374.1 

0.04  2,702.9 

947.9  63.3  884.6  2表のvn期から1X期までは貨幣数量は利子率を安定するに埴加するようにとどまっ た場合で,この場合には前述したように超完全雇用となり,労働力不足が生じている が,企業はなんとかして労働力を確保し,いままで通りの成長を持続している場合であ るが,これに対して而期および面期はこの完全雇用に加えて,利子が下落するように貨 幣数最が増加した場合である。

1表におけるI期からVI期までは貨幣賃金率は96.4から 120.3に,すなわちこの5 期間に24.8%,すなわち1期間当り 4.5%の上昇にすぎなかった。これに対して第2 におけるVI期から1X期までの3期間においては貨幣賃金率は120.3から191.9,すなわ ちわずか3期間に59.5%, 1期間当たり16.8%という高率の上昇率でここで仮定した ような超完全雇用下では過少雇用期の3.7倍に達している。他の方程式を不変として貨 幣賃金に関する方程式を(19A)から(19B)'に変更したことの意味は貨幣賃金のみにつ いてばこのような意味をもっている。

貨格賃金率がこのように急檄に騰貴するとすれば,そのことは当然に物価に影響をお

(12)

258 (446)  経済の転換と産業構造,財政・金融政策(安田)

よぽす。凡すなわち第一部門の物価は過少雇用の場合には(19A)によって貨幣賃金率 が同部門の労働生産性上昇率と同一の割合で騰貴するので,その結果として P1 は過 少雇用の期間である第I期から第V1期までは不変であったが,凡すなわち第二部門の 物価は第I期から第V1期までは112.9から130.8,すなわち15.9%, 1期間当たり 3.0%

の騰貴に過ぎなかった。ところが超完全雇用下では P1はV1期における100から1X期に は139.6,すなわち39.6 1期当たり11.8%の騰貴であり,またP2は第V1期の130.8 から1X期の199.3,すなわち52.4 1期間当たり15%の上昇となっている。過少雇用 下と超完全雇用下ではともに同一割合の成長を行うも,物価の動向はこのようにまった

く異なったものとなる。

実質賃金はどうなるか。 I期からV1期までは P2の騰貴率は上述のように一期間当た り3.0彩の騰貴であったが,貨幣賃金の騰貴率は一期間当たり 4.5%で,両者の間には かなりの差があり,実質賃金は上昇しているが,超完全雇用下であるV1期から1X期まで は凡の一期間当たり騰貴率は15.0%の騰貴率,貨幣賃金の一期間当たり騰貴率は16.8 彩で,なお実質賃金は騰貴しているが, P2の騰貴率とかなり接近し,やがて両者が平 行となることを示唆している(貨幣賃金騰貴の時間的遅れを考慮すると1X期においては 実質賃金が上昇したかどうか疑わしい)。

2表における而期,面期は超完全雇用の状態であるにもかかわらず,貨幣数量が増 加し,利子が低下した場合であるが,この場合には Pi, P2,  W が驚異的なほど大巾 に騰貴し,経済は混乱状態となる。

以 上 の 仮 設 例 ( 第1表 , 第2表 ) か ら 明 ら か な よ う に , 経 済 成 長 は 過 少 雇 用の段階と完全雇用の段階とでは物価,賃金等についての問題は;全く異な り,超完全雇用の下では物価,賃金の問題は重大な問題となって実質賃金増 加率は次第に減少し,終局的には物価と賃金の騰貴率は平行となり,実質賃

(2) 

金は増加しなくなる。

経済の成長にはこのような自然の制約があり,この限界への接近ないしは この制約を無視してそれが進行することは逆転する要素をその中に含む。即 ち経済成長が円滑に行なわれるためには,資本財に対する需要とあわせて消 費支出に対する増加が必要であり,両者が凋和を保つことは必要であるが,

過少雇用で,実質賃金が増加しているときには,資本財に対する需要とあわ せ て 実 質 消 費 支 出 も 増 加 し , 両 者 は 調 和 を 保 つ 。 し か る に 超 完 全 雇 用 と な

(2)  J.  M. Keynei;,  op. cit.,訳本299‑302

参照

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