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自閉症児の問題行動とそのかかわり

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自閉症児の問題行動とそのかかわり

佐々木 正 志 ・ 須 藤   清 ・ 牧 山 健 一

(1985年11月5日受理)

は じ め に

自閉症児についてのWHO(世界保健機構)の定義によると,・視覚刺激,聴覚刺激に対する反応 が異常である。・言葉の理解に重篤な障害がある。・言語発達は遅れ,発達してきたさいには反響言 語,代名詞の逆使用がみられる。・音声言語,身振りによる言語の社会的使用の能力に障害がある。

・まなざしを合わせたり,社会になじんだり,協同遊びをするなどの発達の障害がある。・日常の手 順に異常に固執したり,変化に強く抵抗したり,奇妙なものにとり愚かれたり,遊びのパターンが常 同的だったりする。・知能の程度は重度の遅れから,正常あるいはそれ以上までの範囲にわたってい る。としている。このように特牲としては明確にされているが,指導方法や内容については,まだ確 立されていないのが現状である。本研究は,現在5年生である自閉症児T・Kが入学以来これまでに 示した問題行動を中心に取り上げ,それに対して教師のかかわりを中心に指導の実際をまとめたもの

である。

(1)生活リズムの確立をめざして一一人遊びから集団へ一事例1

②情緒の安定をめざして一絵画指導を通して一事例皿

③固執性のあるひとり遊びに対する指導一問題となってきた泥遊びに対して一事例皿

(1)生活リズムの確立をめざして一一人遊びから集団ヘー  事例1

① 望ましい生活行動の形成をめざして

T・K児の学年(学級)は児童6名(男4・女2)で編成されている。入学当初は本児を含めて4 名が情緒に問題があり,他の2名も落ち着きがなく,6名がそろって教室にいることはほとんど見ら れない状態であった。そこで,4月いっぱいは,児童一人ひとりの実態をじっくり把握する期間とし,

児童の活動(行動)を束縛することなく伸び伸びと自由遊び(一人遊びを含めて)をさせることにし た。そして,児童が学校という環境に慣れて来た頃を見計って,学校教育活動の基礎となる学級集団 づくりに着手した。これは,学校教育が望ましい人間形成をするために,意図的(意識的),計画的,

組織的に実践されるので,児童の今までの行動パターンが制約されることも予想される。従ってこの 辺りの状況が,不適応を起こさない配慮のもとに場面状況を理解させることに努めたのである。本児 は,就学前教育(幼稚園教育)を受けているがそこでのかかわりの中でも,また,今までの家庭生活 の中でも自由に行動することを認められていたため集団行動(社会性)の体験は,初めてと言ってよ い。そこで私共は,社会性を身につけさせるために,学校生活リズムを自分自身で意識させながら定 着化をはかろうとその指導の指針づくりを図ることにした。

本児が1年生の時の小学部の日課と指導形態を大まかにみると,全体(音楽)一学級(日常生活の

指導,国語,算数)一休憩一全体(生活単元学習,体育)一学級(給食)であるが,この流れの中で

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自分自身の行動を切り換えさせていくことが必要であった。

本事例では,入学後2か月を過ぎても自分のパターン(登校するなり,一日中でも紙やぶりをして いる)をくずすことができず,途中でやめさせられたり,見ていられるとパニックを起こし,泣き叫 ぶ等の行動が顕著であった。このような友だちや教師へ攻撃的な行動(かみつく,ひっかく,突き飛 ばす等)に対して,どのように本児へのかかわりを施してきたか,またそのことによって行動そのも のがどう変容したかの過程を考察することにしたい。

② 本児の入学当初の実態

5年男子 昭和49年4月19日生 IQは測定不能(WISC)

入学当初(1か月)の本児の様子を以下の表に示す。

項  目 入  学  当  初  の  様  子

。ボタンのないシャツ類,ズボン(チャックのないもの)の着脱はほぼできる。

。シャツ・ズボン等の前後・表裏はわからない。(くつの左右をはき違え,かかと 衣服の着脱 をふんでいることが多い。)

身 。気温に関係なく,半ズボンをはきたがり,くつ下は脱いでしまう(素足でいた

がる)。

       一一一一一一一

D.曹圃■一虎畳.

辺 。大便は,パンツ,ズボンを全部脱いでする(しりはふけない)。しかし 場。に なれるまではトイレ以外の所(教室内の畳の上,玄関,体育館の入り口,ベラ 排   泄

処 ンダ等)で,時々大便をする。

。おしっこのおもらしが時々ある。

腰9曹曹囚9・醗9一囚「辱一「P 一幽一一ρ幽.【

理 。ほとんどが手づかみである。肉を好んで食べる(他の子の分も)。

。ごはんの中にみそ汁を入れ,かきまわす。これは,はし,スプーン等を使って 食   事

するが,何か気に入らないことがあった時に多い。

。牛乳を飲まずに流してすててしまう。

表 出 言 語 。「アー,ウー,リラリラリー」の発声の他は,表出言語は見られない。

。禁止の指示(だめ),移動する時の指示(行こう,こっち等)は,だいたいわか るようで,自分で気に入らないとパニック(泣き叫ぶ,ひっかく,かみつく等)

指示の理解 を起こす。

。自分の意思をコントロールする(がまんする)ことができない。

。視線が合わず,遠くから対象を「チラッ」と見る程度である。

対 人 関 係 。友だちとの関わりはほとんど見られず,自分のペースで遊んでいる。

(集団参加) 。大人(母親,担任等)への関心はあり,時々そばに近寄り,かまってもらおう とする(相手の口唇をいじる,ぐるぐる回し,くすぐりをされることを好む)。

。紙やぶり……ティシュを2cm位ずつにやぶり,地面に落ちるまでを身体を動か しながら見ていることのくり返し。

。石けん,砂,泥,水遊び……両手のひらですくい,下に少しずつ落とすことの

おもな遊び くり返し(感触を楽しむ)。

。トランポリン(エアマット)……とびはねながらにこにこしている。

。高いところを好む……体育館のギャラリー,窓のしきり(1.Om)歩き,スペ 一スプレイ(ユ.5m)や窓からのとび降り

そ  の  他 。同じ場所に落ち着いていることがなく常に身体を動かしている(多動)。

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項   目 入  学  当  初  の  様  子

。自分の意思が通らないと攻撃的(髪をひっぱる,かみつく,頭突き,っねる,

ひっかく,爪をたてる等)になる。

そ  の  他 ・自傷行為(手の甲,ひざをかむ,頭を床,机にたたきつける等)がある。

。常同行動(手を頭の近くでひらひらさせる等)がある。

。自分の世界(したいこと)に入ってしまい固執する(感覚遊び,マスターべ一

ション等)。

③ 指導の実際

本児の問題点としてまずあげられることは,対人関係がとれないこと,自分の思い通りにならない と攻撃的になること,自分の世界(紙やぶり,マスターべ一ション等)に固執することである。この 問題点を改善していかない限り,本児の成長・発達を促すことはできないと考えられる。そのために 本児を指導するにあたって,次の手だてを小学部教官で共通理解を図ることにした。

ア 指示や注意を集中させるために,マンッーマン方式で指導にあたる。

イ 情緒の安定を図ることを優先しながら,指示・ことばかけを多くする。

ウ ラポートをとるために,許容的かかわりを積極的にとる。

工 学校生活上のルール(守らなければならないこと,がまんすること)を意識させる。

以上の手だてにより日常生活の中で頻繁に見られる「紙やぶり」に対する指導を展開した時の活動 状況を表に示すと次のようにまとめることができる。

T・K児の「紙やぶり」の様子の行動の変容

指導の類型 行動の様子 教師のかかわり T・K児の反応

1 。登校するとすぐに,ティ 。後をついて行き,2〜3 。うるさそうに,場所を変え,教 シュを見つけ,外に飛び mの距離をおきながら行 師から離れていく。(時々,様子 出す。ティシュをやぶい 動を観察する。 を「チラッ」と見る)

ては,ひらひらと落ちる 。本児から見えない所から 。同じ場所(10m四方の範囲)で のを見ている。やぶく時 紙やぶりの様子を観察す くり返し行っている。

に身体を回転させながら る。 。紙をやぶく音,落ちる様子に関

「タリラリラー, タリラ 心があるようである。

リラー」と声を出してい

る。

皿 。いつも中心の材料は柔か 。ティシュを目にっかない 。ロッカー,机,戸棚など紙があ いティシュペーパーであ 場所へ片付けてしまい行 りそうな場所をさがし回り,見 る。なければ,新聞紙, 動を観察する。 つけるとすぐにはじめる。

ビニール袋をさがしてく 。紙が見つからないときは,マス るが,ティシュペーパー ターベーションが多くみられる。

よりは関心が低い(総体 。教師の様子を「チラッ」と見る

的に)。 。一 l遊びから二人遊び, が無視した態度で黙々と紙やぶ

。紙やぶりの他にエアマッ (教師と)へ発展させよ りをする。

ト,泥遊びに興味を示し うと考え一緒に紙やぶり

てくるが,すぐに紙やぶ をする。

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指導の種類 行動の様子 教師のかかわり T・K児の反応

りに集中してしまう。

皿 。名まえを呼ばれても関係 。「朝のうた」「朝の会」の 。少し大きな声で名まえを呼ばれ なく,紙やぶりを続けて 学習場面に参加させるこ ると一瞬ふり返る。何度も呼ば いる。まわりで,音楽や とを試みることにし,さ れると中断させられることを感 朝の会をしていてもマイ そいのことばかけを多く じ「ウー」と拒絶する。

ペースでいる。 する。 。充分に遊んでない時は,じだん

。教室など学習の場に少し 。ある程度遊んだ後,学習 だを踏んで泣く。つないだ手を だけ(3分位が限度)い の場へ手をひいて連れて つねる,かみつこうとする。

て,すきを見てすぐに外 いく。 。おんぶされると泣きやみ,安定 へ飛び出す。 。着席行動をとらせてみる。 することがある。

。いすにすわっているのが 。すわっていることは無理 。おさえつけられること(心理的,

嫌になると,わざとおも なので,学習の場の周辺 物理的に)を嫌がり頭突きをし らしをして席を離れる。 での紙やぶりを認める。 たり,他の子を突きたおす。

。紙やぶり自体を禁止されていな いので,ことばかけで周辺にも

どる。

lV 。やぶいているそばで紙を 。量を減らす方法として, 。指示に対して素直な面をみせる 片づけられてもパニック 自分で破いたものを,片 ようになってくる。

になることが少ない。 付けさせる。 。方法がわかってくると,紙を拾

。やぶいた紙を1コ1コ拾 。紙をやぶいてちらかした うように指示されるのを待って うことがわからず,とま ものを自分で拾うことを いる様子が見られる。

どいを見せる。 定着させる。 ・はじめは嫌がっていたり,拒絶

。紙をやぶくだけだったも することもあった。

  o フが,拾う活動もするよ 。幼稚園でも試みられていたが定

うになる。 着しなかった。

④ まとめ

本児の「紙やぶり」は4才頃から続いている行動であるが,入学後の行動観察結果からみると,集 団や対人関係からの逃避行動と思われた。そこで指導の手だてを考慮しながら,まず本児との信頼関 係を密にすることに努めた。本児のかかわりステップから考察される状況については,次のような点 が指摘できる。第1段階としては,素材である紙をなくすことを試みた。その結果,マスターベーシ

ヨンやぬいぐるみの毛羽むしりなどの行為が頻繁に見られるようになってしまった。第H段階として は,一緒に同じ行動をすることにより仲間意識を持たせ,自分の世界だけの一人遊びから二人遊び(ご っこ遊び)へ転化させようと試みた。しかし,意識的に様子をうかがうそぶりは見られたものの広が りは見られなかった。第H段階までに,簡単な指示(呼ぶと来る,視線が一瞬合うなど)が聞けるよ うになってきたので第皿段階では,学級集団の中で着席行動をとらせることにした。それと並行して 朝の会などの簡単な学習活動場面に対する理解をうながした。ここではまだ行動を規制されることを 嫌がりパニックを起こす場面が多く見られ,身体を静止するという自己統制は難しいようであった。

そこで,第IV段階では,身体を動かしながら約束(ルール)を意識させることにした。具体的には,

散らばった紙を自分で拾いゴミ箱へ入れることの繰り返しであるが,本人にとって興味ある素材であ

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り,注意の集中が可能であるため動きへの転移が容易である。

以上の指導の結果,「紙やぶり」に対して以前のような執着は見られず,禁止(中断)されて,パニ ックを起こしたり,長泣きすることが少なくなり,次の学習活動へ移れるようになってきている。こ れは,本児自身の感情のコントロールができつつあることと生活リズムが少しずつ理解されてきてい る結果と考えられる。

自閉的傾向のある児童の場合,何をしてよいかわからない時など,どうしても自分の世界に入りが ちであるが,まず児童とのラポートを密にしながら,課題を意識させ内発的に動機づけることが必要 である。また,本児が遂行できる課題は能力的に無理のない内容を与えていくことにより期待できる 点にある。このことは,学級集団の中での役割や生活リズムを確立させていく上で十分に考慮されな

ければならない課題と考えている。      (須藤 清)

② 情緒の安定をめざして一絵画指導を通して一  事例H

T・K児は自分の興味,関心がむいている活動(泥,石遊び,ティッシュペーパー遊び,自慰行為 等)に固執し,その活動を途中で止められると,パニックをおこすことが多い。また,他児の活動に 興味をもたずに集団から離れて活動することが多く,集団のなかへ入れられると情緒が不安定となり

(自傷行為,攻撃行動,おもらし等)学習活動にスムーズに入れないことが多くみられた。学習への 参加についても,情緒の問題に加えて,表出言語のなさ(「リラリラリー」,「ハーン」等の発声のみ)

や知的能力の低さなどもあり難しい。

しかし,毎月,同じようなパターンで繰り返されている学級の朝の会などでは,これまでの学校生 活のなかでの経験の積み重ねなどにより,少しずつではあるが安定したなかで教室内で活動すること ができるようになってきた。4年の後半より,学級の児童が日直の仕事で行ってきている「月,日,

曜日調べ」で,本児もチョークを手にとり,数本の縦線を描くなど板書しようとするなど,少しずつ ではあるが学習に参加しようとする態度もみられるようになってきた。5年になって間もなく,日直 の当番がまわってくると,黒板いっぱいに白チョークで,うずまさ状の円を描き,余白が少しでもあ

ると,そこにまた同じように描いた。しかも,教師や他の児童から指示されたわけでもなく笑顔いっ ぱいに,たいへん喜びながら描いた。これまで数本の線のなぐり描きを黒板に描いたことはあったが 円を描いたことはなく驚かされた。

そこで,本児が興味をもちはじめている「描く」という表現活動を通して,情緒の安定を図り,喜 びをもって学習に参加できるようになることを期待して試みた,「絵画指導」の実践例を記述する。

① 指導の実際

本児の図画工作における表現活動については,まだまだ未分化の段階にあり,クレヨンによる描画 は線のなぐり描きの段階である。粘土は,好んで行っている泥,石遊びの延長的に,少しずつちぎっ ては感触を楽しむ段階である。また,色の弁別については言語指示によっての色の弁別はできていな いが,カラーブロックを使っての,赤,青,黄の3色の弁別はでき,同色のブロックを集め,横一列 に並べる遊びも行っている。

以上の実態から,本児の興味,これまでの経験の量,学習への意欲の持続などから考え,具体的な 操作が簡単な「クレヨン」を素材とした。クラスの日課から週1単位時間(40分)をクレヨンを用い ての絵画指導の時間にあてた。(しかし,他行事等の関連で曜日は不規則であった。)

そこで,コントロールされた形での感情の表出(情緒の安定化)への糸口となっていくことを願い

(6)

図画工作科として①表現活動のきっかけづくり,②表現する喜びを味わわせる,の2点をねらいにす え,以下に示す手だてをたて,指導にあたった。

ア 遊びの時間(特に登校してから,学校の朝の会までの時間)は,興味のある石,泥遊びを認め 十分に感触遊びを経験させる。

イ 図画工作の時間を用いて,クレヨン,クーピーペン,絵の具,のり,はさみ,粘土などの,い ろいうな素材を与え,それらの素材で十分に遊ばせる。

また,指導者は,本児が素材(クレヨン)と十分に親しむことができるように本時の目標の一つに 挙げられる「クレヨン等の扱いに慣れることができる」に焦点をあて,題材に沿った内容表現程度に おさえて,自由な表現を認めるように配慮した。

次に,素材「クレヨン」を通しての本児の描画及び活動の様子と指導者のかかわりと配慮について とりあげる。         一素材「クレヨン」一

題材 T・K児の描画及び活動の様子 指導者のかかわりと配慮 顔 。クレヨンの紙をやぶくことに熱中し全部の紙をやぶく。 ・無理に活動を止めさせずに,

を描こ

それを終えると,ティッシュを取りだして遊ぶか教室の外へ oて遊ぶ(石,泥遊び)。

満足するまで待ち,タイミング とらえてクレヨンを渡してあ

う 。クレヨンをつぶして,手ざわりを楽しむ。 げる。

鐙 ち 。教師に手渡されたクレヨンで,2〜3本の線のなぐり描 ォをし,終えると教室の外へ出て遊ぶ。

・はじめから紙のやぶいてある Nレヨンを渡す。

思宿 。クレヨンの紙やぶきをしなくなり,画用紙の表裏に線の ・授業の途中であっても場面の い泊

o学 @習

なぐり描きをする。終えると,教師に画用紙を手渡し「外 ヨ出てもいいか?」と聞いているかのように,教師の顔を

転換をするなどして,本児の意 を高めていく。

の のぞきこむ。

ζの プの 。画用紙の表裏に描いたなぐり描きが,残りの白い部分を

hりつぶす活動へとかわってきた。色は黄色,だいだい色

・課題に取り組んでいる活動を ワ賛し,描く喜びがもてるよう

レ先ゼ生

を好み,単色だけを用いることが多くなった。 にする。

り七 。画用紙を一枚描き終えると,教師に「もう一枚」という ・一 ㊧齧№フ作品を丁寧に賞賛

夕か 感じの表情・動作を示しはじめ,気がむくと2〜4枚ほど し,描く喜びを高めてあげる。

ざ 熱心に描くようになった。

② ま と め

クレヨンを素材に「表現活動へのきっかけづくり」,「表現する喜びを味わわせる」をねらいに実践 してきたが,クレヨンの紙やぶき,クレヨンつぶしと手ざわりなどの感触遊び的活動から情緒の安定 を保ちながら,表現活動に熱中する姿がみられるまで,少しずつではあるが変化がみられた。このこ とは素材の適合性の他に,2年間同じ学級編成で環境的に本児が情緒を安定して学習にのぞむことが できたことも一つの要因となったと考えられる。また学習場面から飛び出し,自分の好きな遊びへと むかっていった本児が,素材との遊びを多く経験していくなかで,課題に取り組む時間が少しずつ長

くなってきたことも,自らの情緒の安定を図ることができてきていると思われる。しかし,その反面 本児が課題という意識が強く芽ばえたせいか,いらいらした状態のときでも,画用紙一面を塗りつぶ す活動をするようにもなった。

今後,なぐり描きや塗りつぶしを十分に楽しませながら,量的に多くの表現活動の経験をつませ,

(7)

さらにクーピーペン,鉛筆,絵の具などの素材へと広がりをもたせ,幅広い表現活動を経験させてい く必要があると考える。また,本児の描画時の活動の様子とあわせて,情緒面での細かな行動観察を 行い,描かれた作品についての分析を行い,感情の表出をきめ細かく読みとり,本児へのかかわりへ

とつなげていく必要があると考える。さらに,描画のように本児が興味を示し活動ができる経験を多 く経験させていくために,他の教科,領域においても,具体的操作が可能な教材教具の工夫が今後の 課題となってくる。

尚,本稿は,茨城大学教育学部附属養護学校研究集録 第6集(1985)P.34〜35にも掲載。

(牧山 健一)

(3)固執性のあるひとり遊びに対する指導一問題となってきた泥遊びに対して一  事例皿 本児は入学してからこれまで雨が大降りにならない限り,季節に関係なく屋外で水を使い土をこね 泥遊びをしていることが多い。この泥遊びは両手で泥水をはさみ,はじく活動が主である。この活動 がエスカレートしだすと,身体に泥をつけはじめ,服を脱ぎ泥水の中で洗うようなしぐさをしたり,

泥水の中に裸でねころんだりする。うつぶせの時は自慰的行為と思われる様子も見られる。身体の成 長を考えると,この遊びがエスカレートする前に止める手だてを講じる必要がでてきた。しかし本児 はこの遊びを止められると,摘疲を起こしひどい混乱を示す傾向があり,容易に解決する問題ではな かった。この実践例は成長期に入った本児の社会的に問題のでてきた泥遊びに固執させないことと,

他の遊びがあることに気づかせるために施したものである。

① 指導の実際

ア 進級当初(4/8〜4/27)の本児の様子と教師のかかわり(実態把握のための期間)

屋外でのひとり遊び この時期の本児の特記すべき様子 家庭からの情報など

・泥遊びをした日 。授業中は教師と一緒に参加していること ・4/14の頃から風邪の為 4月8・9・11。12・ヱ3 が多い。しかし時に我慢し切れなくなりパ 食欲不振,鼻水,くしゃみ,

15● 17 ●18●20●22●23 ニックを起こす。授業終了と同時にかけ足 咳がひどい。

24・25・26・27日とほと で泥遊びの場所に向かう姿が見られた。 ・4/16風邪の為欠席。午 んど毎日行っていた。 ・登校すると教室に入る前に屋外の様子を 後は食欲がでてきた。

・石遊びをした日 見ることがしばしばあった。(泥遊びの場所 。このあと一週間,体調不 4月17・20・26日 の様子を見る。)その時泥遊びができること 良が続いた。

がわかると,ランドセルをおいてすぐに外 4/10入学式 4/16欠 へとび出していく。

席 4/19遠足

◎教師のかかわり方 。4/12歯科検診に抵抗が強かった。 。教育相談(母親)から泥 この時期は行動観察を ・4/19遠足,近よってきた犬を意識し, 遊びをいくらやっても構わ 主にし,本児のひとり遊 逃げ回る。 ないが,先のことを考える びの状況を把握すること 。4/20雨,泥遊びを止めると,ひどいパ と不安(泥の中で服を洗う

に努める。 ニックを起こす。 裸になる等),問題である。

・観察から〜泥遊び以外 ・4/24朝から腕まくり,すぐにでも泥遊 強制して止めて欲しい。こ に時々短時間ではあるが びをしたい様子。 のままでは,いつまでも泥 石遊びをする。 。4/25下校時刻になり,泥遊びを途中で止め 遊びをすると思う。

ら礼少し興奮して,いつまでも外を見ていた。

(8)

イ 石遊びの指導(4/30〜6/29)での本児の様子と教師のかかわり〜指導期間

・教師のかかわり方

・泥遊びに対して〜ある程度の満足が得られたら遊びを止める。その時禁止のことばは使わないよう に心がける。

・石遊びに対して〜遊びが終わらないうちに,石を入れる箱を渡し,箱に石を入れさせる。その箱を 泥遊びの場所まで持っていかせ,その場所で石遊びをするように働きかける。

。指導での本児の様子

・泥遊び〜毎日自分から進んで行う泥遊びを止められて,当初は少々気嫌が悪くなり,身体をぶつけ てきたり,爪を立てたり,口びるをつかんだりすることが多かった。ひどい時には,いつまでも怒っ ていて声を出してだだをこねたり,涙を出して泣く様子があった。

・石遊び〜当初は石遊びをしている時だけ,その場所から石を持ってくるようにさせた。5月第2週 から昼休みの時間にできるだけ毎日石遊びをしている場所に連れていき,少し石遊びをさせ,そのあ

と石を箱に入れさせ泥遊びをしている場所に持っていかせ遊ばせるようにした。しかし,持っていっ     、

ス石には見向きもせずに泥遊びを始めることが多かった。6月に入ってからは,その運んできた石が たくさんになったこともあってか,その場所で石遊びをする様子が2,3日見られた。あまり興味を示 さないので指導を途中で打ち切り,再び観察期間を設けることにした。

ウ 指導後の本児のひとり遊びの様子

相変わらず泥遊びが続いていたが,はじめの石遊びの場所で石遊びをする日も多くなってきた。7 月9日,本児は教師の手を引き箱を持ってはじめの石遊びの場所に自分から移動した。一緒に箱に石 をたくさん入れ,泥遊びの場所に移動させ様子を見ると,石遊びを少しの間行なった。この日から本 児のひとり遊びの様子が少しずつ変わった。泥遊びをしていた場所で長い時間運んできた石で遊ぶ日 が目立ってきた。夏休み近くなってから本児の石遊びは,はじめの石遊びの場所から運んできた石だ けでなく,石遊びをしている周辺にある石を一カ所に集めて少しずつ手で運んでくる遊びを始めた。

脚と内股の間に石をたくさんはさみ手でおさえて運んでくるのである。石を運ぶ道具としてバケッを 渡し,石を入れて運ばせたが,そのあとはバケツに見向きもせず,前述の行動を繰り返していた。こ の頃には,ほとんど泥遊びがなくなってしまった。夏休み後9月,その遊びが発展していたことに驚 かされた。土の中にある石まで堀り起こして少しずつ集める場所をいくつか作り,それを遠い場所か

らだんだん近づけてきて,石のたくさんある石遊びの場所に集め,そこで片手で石と石をぶつけて遊 ぶようになった。その繰り返しを長い時間夢中で行なうようになっていたのである。

② ま と め

本児の泥遊びが身体の成長とともに問題行動となって表面化した。当初は泥遊び自体に直接働きか けて裸になることを止めようとしたが,本児の混乱を招く結果となることが多かった。本児が遊びは じめた石遊びは遊び自体が泥遊びと類似している。石遊びを泥遊びの変わりとして指導したことは,

本児が遊びはじめていたこともあって,興味もあり容易に取り組めると考えた。しかし結果は,長期 にわたる指導期間を設けて定着を図ったが,その期間では難かしかった。その後の観察期間での本児 の様子でそれが明らかになった。

黙々と石遊びにひとり取り組んでいる現在の本児の様子を見ていると,本児に対する指導期間が短か

すぎたことと,指導期間が本児の石遊びに対する興味の高揚と少しずれていたように思う。また指導

期間等がなくても,ひとり遊びが泥遊びから石遊びに変わっていったとも考えられる。石遊びが本児

(9)

にとって固執性を持ちはじめている現状で,今後はこの石遊びを見守る上で,本児の集団参加への働 きかけの手立てを見つけていきたい。       (佐々木 正志)

結     語

本児は5年生の学級集団で生活している。この集団は入学してからあまり変わらずに進行している。

このことは本児にとっても他児にとっても,友だちとして認め合う意識を育てているものと思う。本

児にとって集団参加をするためのよい集団となっている。今後はこの集団を母体にして,本児の関心

のあることを認めてあげながら,集団参加への積極的な指導を続けていきたい。また本児の問題行動

については,成長の一過程としてとらえ,その対処の仕方を随時話し合い,成長を見つめていきたい。

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