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雑誌名 北翔大学生涯スポーツ学部研究紀要

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(1)

北海道の在宅高齢男性における幼少期の家庭環境に 関する語りの特性

著者 小坂井 留美

雑誌名 北翔大学生涯スポーツ学部研究紀要

巻 9

ページ 133‑139

発行年 2018

URL http://doi.org/10.24794/00002692

(2)

1.緒 言

 スポーツは,「国民が生涯にわたり心身とも に健康で文化的な生活に不可欠なもの」と唱 われ

1)

,近年国内ではスポーツ庁の発足やスポ ーツ基本計画(第2期)の策定

2)

など,スポ ーツ推進に向けた機関や政策の整備が進めら れてきた。国際的な動きでは,ユネスコは「体 育・身体活動・スポーツに関する国際憲章」

を2015年に改訂し,スポーツを行う権利の平

等をあらためて明示するとともに, 「身体活動」

の語を含めることで捉える範囲の広がりを示 した

3)

。「すべての人が生涯にわたりスポーツ に親しむ社会」の実現に向け,一層の理解や 実践を広げる動きが続けられている。

 生涯を見通したスポーツの影響を考える中 で筆者らは,高齢者の体験や意志を記録する ことに着目し,ライフヒストリー /ライフス トーリー手法

4)

およびテキスト解析

5)

による 検討を進めてきた。先行研究において高齢女 Abstract

The purpose of the present study was to demonstrate aspects of childhood conditions within families by life histories using text mining among community-dwelling older men in Hokkaido.

The participants were 18 men aged 63-87 years old. They were interviewed about their life histories. After interviewing, all voice data were saved as text files. Text mining was performed using the IBM SPSS Text Analytics for Surveys ver. 4.0.1. Sentences were extracted mainly based on concepts related to the family and early life stages. The most frequent key word was associated with family. The target sentences tended to be found more frequently in the older group. These target sentences included the words such as “house working/walking a lot” and “making tools or games”. An active daily life and creativity may be defined as aspects of childhood among community-dwelling older men in Hokkaido.

北翔大学生涯スポーツ学部健康福祉学科

キーワード: 幼少期,家庭環境, ライフヒストリー , テキストマイニング, 高年齢者

北海道の在宅高齢男性における幼少期の家庭環境に関する 語りの特性

Aspects of Stories about Childhood Home Environments among Older Men in Hokkaido: A Text Mining Approach in Life History

小 坂 井   留   美

Rumi K

OZAKAI

(3)

北翔大学生涯スポーツ学部研究紀要 第9号

134

性の定性的検討から,生涯の運動継続期間 や強度の多寡に関わらず,運動が高齢期の QOLに貢献する可能性や

6)

,90歳以上の在宅 高齢者のテキスト解析から,身体活動がポジ ティブ感情に関連する一方で運動経験自体の 乏しいことを示した

7)

。「個人の人生に向き 合う」

4)

ことを通した経験の検討において,

幼少期の家庭内での労働を伴う役割分担,共 同作業の経験は,対象者に共通したストーリ ーであったことから,運動に限定しない成 育・生活環境の検討が必要と考えられた。

 幼少期の成育環境では,社会経済状況

(socioeconomic position)が注目され,欧州 の長期的な出生コホート研究などから,心身 機能へ影響が成人期から高齢期にも及ぶこと が報告されている

8)

。社会環境が欧州と大き く異なる日本においても,近年大規模疫学コ ホートから,高齢者における幼少期の不利な 成育環境の影響は年代で異なり,戦争やその 後の劇的な社会変化の関与を受けることが示 唆された

9)

。この中で,80歳以上では生存バ イアスの影響も指摘されており,幼少期の困 難な状況の後年における負の方向だけでない 作用や補完する要因の存在が注目された。こ れらの点へのアプローチとして,本人の経験 の「知覚」や,「欠落している可能性」

10)

に ついての情報を得ることを目指すライフヒス トリー手法は適したものと考えられた。

 そこで,本研究では60歳以上の在宅高齢者 にライフヒストリーインタビューから,幼少 期の家庭環境に関する語りの特性について,

テキスト分析と発言内容の検討により明らか にすることを目的とした。尚,本稿では男性 の結果について報告する。

2.方 法

対象

 本研究の対象者は,「高齢者のライフヒス トリー分析による生涯発達過程での運動の意 義と影響に関する研究」に参加したに北海 道A市在住の高齢者94名(平均年齢±SD:

77.8±8.0歳)のうち,分析焦点者とした60〜

80歳代の男性18名であった。対象者全体の調 査参加までの詳細は,先行研究を参照された い

7)

。調査に際し,全員に対してインフォー ムドコンセントを行い,同意書を得た上で調 査を実施した。本研究全体は,北翔大学大学 院・北翔大学・北翔大学短期大学部研究倫理 審査委員会の承認を受けている(承認番号:

HOKSHO-UNIV: 2013-007)。

分析項目

1)ライフヒストリー

 対象者の基本属性(性・生年月日),人生

年表作成項目(年齢,西暦,家族,学校・職

業歴,居住経歴,社会・歴史的出来事,ライ

フイベント,転機となった出来事)と,運動

経験(種目,活動名,頻度とその非実践,開

始,中止,継続,発展時期),環境・文化要

因(自宅周辺環境,寒冷・気象状況,慣習や

服装,地域行事),現在の生活状況,将来の

希望を主とするインタビューを行った。イン

タビューは,現在の生活状況を聞いた後,生

まれた頃の様子から年齢を上がる順序を基本

として進めた。その他のインタビュー方法と

テキスト化についても,先行研究と同様の方

法で実施した

7)

(4)

2)テキスト分析

 本研究では,ライフヒストリーについてテ キスト分析を行った。分析には,IBM SPSS Text Analytics for Surveys ver. 4.0.1を用いた。

分析手順は,はじめに研究に参加した全94名 のインタビューデータを句点(一文)毎に1 レコードとして全発言を読み込み,デフォル ト条件においてキーワード抽出(形態素解析:

文節を基とした自立語の抽出)を行った。

 次に本研究の主題である「幼少期の家庭環 境」についての発言を抽出するため,「思い 出」,「昔」,「学校(小学校)」,「家族」,「家 庭」,「炭鉱」のカテゴリ分類器を設定し,抽 出された全キーワードからキーワードの絞り 込みを行った。尚,「炭鉱」は対象者が幼少 期であった時期にA市が炭鉱で栄えていたこ とから,生活に密着した環境であったと判断 して設定した。

 絞り込まれたキーワードを含む一文を基本 の分析レコードとしたが,一文だけでは情報 が限られ意味の取れない場合があった。その ため,キーワードを含む全ての文は,全発言 データにもどり前後で関連する文を含め一つ の出来事として理解できる文章単位として再 度抽出した。この際,内容が本人の幼少期の 家庭環境の発言であるかを十分確認し,異な る場合はデータから除外した。

 文章単位で抽出された文レコードを元に定 性的コーディングを行い,内容の特性を検討 した。

3)心身状況

 現在の心身状態について確認するため,質 問紙による日常生活活動度(MOS 36-Item Short-Form Health Survey:SF-36)

11)

, 抑

鬱(The Center for Epidemiologic Studies Depression Scale:CES-D)

12)

,認知機能(Mini Mental State Examination:MMSE)

13)

を インタビュー前に検査した。

3.結 果

基本特性

 表1は,対象者の心身状況特性を示した。

CES-Dでは16点,MMSEでは23点が,それ ぞれ抑鬱傾向,認知機能低下のカットポイン トとされるが,これを下回った人はそれぞれ 2名ずつあった。発言の信頼性などへの影響 からこのような対象者を除外する研究もある が,本研究では基本的な会話が成立していた ことから,分析に含めることとした。

 SF-36は,日本語版の2007年国民基準値に よる各下位尺度別に70-79歳男性の平均値

13)

との差をみると,最小で身体機能の-0.4,最 大で社会生活機能の+6.0点の差であった。

表1.分析焦点者の心身状況特性

平均 標準偏差

調査時年齢 (歳) 75.3 8.0

CES-D   (点) 5.4 8.1

MMSE   (点) 28.0 2.4

SF-36    (点)

  身体機能 77.2 26.4

  日常役割機能(身体) 76.7 23.7

  体の痛み 73.4 21.4

  全体的健康感 61.6 20.6

  活力 66.0 19.7

  社会生活機能 88.9 15.4

  日常役割機能(精神) 79.6 24.8

  心の健康 75.6 17.5

(n=18), SF-36; MOS 36-Item Short-Form Health Survey, CES-D; The Center for Epidemiologic Studies Depression Scale, MMSE; Mini Mental State Examination

(5)

北翔大学生涯スポーツ学部研究紀要 第9号

136

キーワード抽出

 対象者の全発言を用いてキーワード抽出を 行った。カテゴリ分類の際,抽出したキーワ ードについて「思い出」ではこの語を直接含 む文節以外に「経験」, 「心に深く残っている」,

「振り返る」,「忘れない」,「昔」では「子ど もの頃」,「幼い時」,「○歳の時」等,「学校」

では,当該の年齢や学年に関する語も含めた。

「家族」では「父」や「母」など各続柄を含 む語を含めた。「家庭」は,「家」や「うち」

も他の意味でないことを発言に戻って十分確 認した上で家庭の意味を持つ場合は含めた。

「炭鉱」では,各炭鉱名の他に「閉山」等も 含めた。カテゴリに分類したキーワードの語 数は,表記のゆれ(同じ語がひらがな,カタ カナ,漢字など異なって記される),文節(「思 い出」,「思い出がある」はそれぞれ抽出),

同意語のまとめ等(「子供時代」,「子どもの 頃」はそれぞれ抽出)の修正は行わない上で 626語であった。

 抽出したキーワードを含む文の出現頻度を 年代別に確認したところ,全キーワードを まとめた頻度として60,70,80歳代の順に,

8.8,14.9,18.8%であった。各カテゴリ別頻 度を図1に示す。いずれの年代も「家族」の 頻度が最も高かった。「思い出」を除き,ほ ぼ全ての項目で高齢群ほど頻度が高かった。

定性的コーディング

 抽出されたキーワードを含む文章単位での レコードのうち,幼少期を示す「昔」や「学校」

との関係が明確である116レコードを抽出し 定性的コーディングを行った。異なる対象者 で複数上げられた内容として,「(親や兄弟と の)死別」, 「(家族や自分の)病弱さ」, 「貧困」,

「手伝い」, 「歩いての移動」, 「名のない遊び」,

「(道具や楽しみを)作る」が特徴付けられた。

4.考 察

 本研究では,北海道の在宅高齢男性におけ る幼少期の家庭環境について,テキスト分析 による定量的解析と発言の内容の特徴から検 討した。その結果,幼少期の発言が高齢群で 多く,特に家族についての語りであったこと,

貧困などの困難な状況とともに,「よく動く こと」,「作り出すこと」に関連する発言の特 徴が得られた。

 発言量については,ライフヒストリーの中 で,幼少期がどの程度重要と認知されている かの目安と考えられた。インタビューは,現 在の様子を確認した後,生まれた状況から順 に年を上る順序で現在までを聞く流れで行っ た。どの年代も家族の発言が多かったことは,

生まれの状況では家族構成の確認が必須とな ることが理由の一つに挙げられる。また含ま れたキーワード数が217と多かったことは,

同意語をまとめていないだけでなく,関わる

図1.カテゴリ別キーワード文出現頻度

(カッコ内はキーワード数を示す)

(6)

家族の多様さ;兄弟姉妹の多さや祖父母や叔 父叔母との同居,義理の親による養育が反映 していると考えられた。学校もキーワード数 は同様に多かったが,約1/3は学校名が固有 名詞で別にカウントされており(例:○○小 学校),結果には示していないが中分類に設 置した語は「小学校」と「学年」の2つにま とめられるものであった。

 着目したキーワード文出現頻度では,高齢 群で高値を示していた。これは,1-2名であ っても人数の差の影響も考えられたが,レコ ード数(文の数)は70歳代が最も多く,母数 の影響とは言い難い。現段階では,全発言に 対する相対的な割合での比較であること,ほ ぼ全てのカテゴリで同様の傾向を示している ことから,本研究の対象者において高齢群 で幼少期の語りが多かった可能性を考えてい る。加えて,60歳代,70歳代では,定年から 間もない方や現在も何だかの仕事に携わって いる方が多く,仕事の内容や仕事に対する思 いについての語りの多い傾向にあったことが 理由に上げられる。Maruyamaらの研究にお いても,60歳代では成人期の影響の強いこと が指摘されている

9)

。実際の定量は今後の課 題であるが,高齢になるほどこれまでの人生 全体での幼少期の期間としての相対的な割合 は少なくなるが,男性において語りの量が増 えることが示唆された。

 定性コーディングでは,幼少期の困難な状 況とその負以外の側面や補完するものへの視 点から,「手伝い」,「歩いての移動」,「名の ない遊び」,「(道具や楽しみを)作る」が特 徴付けられ,これらは困難な状況の中で「よ く動くこと」,「作り出すこと」に集約できる と考えた。

 貧しかったこと,親や兄弟姉妹を亡くした ことは多くの対象者で語られ,本地域の高齢 者のベースともなる背景といえる。周囲が似 た状況にあることから,「手伝い」とも関連 して「小さい頃はうちで手伝いが大変だった けど,苦労だとは思わなかった」, 「みんな(農 家の手伝いを)やったから」という発言がみ られ,当たり前として受け止めていたといえ る。また,通学が徒歩であり「ものすごく遠 いんですよ」,「2キロぐらいは」と遠距離を 歩いたことが語られ,よく手伝ったこととも あわせ「よく動いていた」との自負が伺えた。

 「なんか体育館でものすごく遊んだ」,「(自 分達は)天下落としってよんだんだけど…」,

「(雪のたまったところを)かまくらみたいに して」などの発言から,確立した遊びでない 自分達の遊びを行っていたことが特徴付けら れた。友人との何気ない競争(どちらが早く できるか)から,流行遊びとなり,自分達で 呼び名をつけるような遊びの成り立ちのわか る発言などもあった。「(スキーやパチンコ などの道具がなく),作った/作ってくれた」

といった発言も多く,特に手作りスキーは北 海道の特徴をよく示した発言といえる。

 このような幼少期の状況と今日をつなぐ直 接的な発言は得られていないが,「あそこで 足腰鍛えられたというのが基本ですね」とす る発言などには,この時期に働いたこと,遊 んだことが現在の自分の土台であると認識し ていることが伺われた。

 思い出を語る際には,良い思い出としての

語りに偏ることが考えられ,定性的検討の解

釈には注意が必要である。しかし,幼少期の

困難な状況(early life adversity)として上

げられる「貧困」や「親との死別」の負以外

(7)

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の側面を捉えることは,困難の後年への影響 の差を知る手がかりになる。今日スポーツや 運動とよぶ活動だけでない,身体活動や生活 習慣などの効用を掘り起こすことにより,一 般地域住民の生涯にわたるスポーツとの関わ りや健康づくり推進への一歩としたい。

5.要 約

 本研究では,北海道の在宅60-80歳代の高 齢男性18名を対象としたライフヒストリーイ ンタビューから,幼少期の家庭環境の語りに ついて特性を検討した。幼少期の語りは高年 群で多く,家族に関する発言の多かったこと,

幼少期の困難な状況にあって,「よく動くこ と」,「作り出すこと」等の活動があったこと が示された。

研究助成

 本研究は,JSPS科研費JP17K01864の助成 を受けて実施した。

謝 辞

 本研究にご参加いただいた対象者のみなさ ま,調査を進めて下さったA市地域包括支援 センター職員のみなさま,インタビュースタ ッフのみなさまに心より感謝申し上げます。

データ整理に協力いただいた本学学生にも感 謝致します。

引用文献

1)文部科学省: スポーツ基本法(平成23年法

律第78号)(条文). [http://www.mext.go.jp/

a_menu/sports/kihonhou/attach/1307658.

htm], Accessed 1.9.2018.

2)文部科学省: スポーツ基本計画(第2期平成 29年3月24日). [http://www.mext.go.jp/prev_

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pdf], Accessed 1.8.2018.

3)文部科学省: 体育・身体活動・スポーツ に関する国際憲章(第23期日本学術会議  健康・生活科学委員会 健康・スポー ツ科学分科会 監訳). [http://www.mext.

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4)桜井厚: ライフストーリー論. 弘文堂, 2012.

5)内田治, 川嶋敦子, 磯崎幸子: SPSSによ るテキストマイニング入門. オーム社, 東 京, 2012.

6)小坂井留美, 永川ひとみ: 高齢期までの 運動継続とQOL との関連─北海道の高齢 女性の語りから─. 北翔大学生涯スポーツ 学部研究紀要, 6:1-12, 2015.

7)小坂井留美, 永川ひとみ: 北海道の在宅 90歳以上高齢者における子ども時代の運動 の発言特性 : ライフヒストリーを用いたテ キストマイニングからの検討. 北翔大学生 涯スポーツ学部研究紀要, 7:213-222, 2016.

8)Birnie K, Cooper R, Martin RM et al:

Childhood socioeconomic position and objectively measured physical capability levels in adulthood: a systematic review and meta-analysis. PLoS One, 6(1):e15564, 2011.

9)Murayama H, Fujiwara T, Tani Y

et al: Long-term impact of childhood

(8)

disadvantage on late-life functional decline among older Japanese: Results from the JAGES prospective cohort study. J Gerontol A Biol Sci Med Sci, 2017.

10)竹内みちる: 「高齢期」の喪失:政府世論 調査のテキスト分析から. ジャーナル「集 団力学」, 27:158-174, 2010.

11)福原俊一,鈴鴨よしみ: SF-36V2 日本 語版マニュアル. 特定非営利活動法人健康 医療評価研究機構, 京都, 2004.

12)島悟, 鹿野達男, 北村俊則: 新しい抑う つ性自己評価尺度について. 精神医学, 27(6):717-723, 1985.

13)下方浩史: 高齢者検査基準値ガイド 臨

床的意義とケアのポイント. 中央法規, 東

京, 2011.

(9)

参照

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