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離婚後の養育費の支払い問題と子どもの発達

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Academic year: 2021

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(1)

タイトル(英) A study of the payment of child‑support fees for after divorce and child's development

著者 野口, 康彦, 町田, 隆司

雑誌名 茨城大学人文社会科学部紀要. 人文コミュニケーシ

ョン学論集

号 1

ページ 25‑40

発行年 2017‑09

URL http://hdl.handle.net/10109/13339

(2)

『人文コミュニケーション学論集』1, pp. 25-40. © 2017茨城大学人文社会科学部(人文社会科学部紀要)

  野口 康彦 町田 隆司

要約

 公的機関の関与のもとで、養育費あるいは面会交流の取決めをせずとも受理される離婚制 度が日本では認められている。司法が介入しない協議離婚が全体の

9

割を占めるわが国の制 度では、子どもの権利であるはずの、養育費の取決め及び養育費確保に関する制度が充分に 整備されているとは言いがたい。現行制度の弊害による養育費の未払い・不払いといった支 払い問題は、子どもの生活環境に不利な状況をもたらす要因となりうる。本稿の目的は、先 行研究及び関連資料の分析、家庭裁判所実務の現状を通して、日本における離婚後の子ども への養育費の未払い・不払いなど、支払い問題をめぐる現況と課題を明らかにし、離婚後の 養育費が子どもの発達に及ぼす影響について考察を行った。また、養育費履行の確保に関す る制度や施策のあり方についても、若干の言及を行った。

1

.問題と目的

 

2015

(平成

27

)年の離婚件数は

22

万

6198

組であり、同年の婚姻件数は

63

万

5096

組で あった1。長期的な視点からみれば離婚件数は増加しているが、離婚件数の年次推移をみると、

2002

(平成

14

)年の

28

万

9836

組をピークに減少傾向が続いている。

 日本において約

9

割を占める協議離婚2では、養育費と面会交流の取り決めに関する法的義 務は課せられない。だが、離婚後に母子家庭となった生活環境では、司法の関与しない離婚 手続の弊害が子どもの経済的貧困や養育問題として顕現している。その一方で、多くの場合、

別居親あるいは非監護親となる父親の養育責任は放置されたままとなり、子どもの精神的・

身体的な発達にかかわる重要な要素である、養育費の支払いや面会交流のあり方に関する制 度的施策の具体的な進展は見られない。単独親権制度が採用されているわが国では、家族形 態や生活環境の変化に伴い、親の離婚を経験した子どもには、別れた側の親との交流の仕方 やひとり親家庭における経済的困難など、新たな環境への適応が問題となる場合が多い。

 協議離婚の場合、日本では役所に離婚届けを提出するだけで離婚が成立するが、アメリカ など諸外国、例えばイギリス、ドイツの協議離婚の場合は、裁判所に届け出ることになって いる。これらの国では子どもの監護、面会交流、養育費の取り決めについて、双方の親が子

(3)

どもの養育責任を果たせるように裁判所などにおいて合意内容が点検され、離婚が承認され るところに日本との違いが見受けられる(河嶋,

2010

)。このように、司法や行政が必ずし も介入しないわが国の離婚制度の現状では、上述したような養育費や面会交流をめぐるトラ ブルや問題など、子どもの発達に及ぼす影響が多大となっており、離婚後の子どもの養育環 境が整備されることは緊急の課題となっている。紙

1

枚で離婚ができる現行の制度は、子ど もにとって不利益な状況が生じやすい。離婚紛争では、親は自分のことで精いっぱいになっ てしまう傾向もあり、「子どもの権利」が守られるためには、行政や司法が効率的に子ども の支援に介入する必要が生じているのではないだろうか。

 本稿では、ひとり親家庭の現状と公的支援の整理を踏まえたうえで、先行研究及び関連資 料の分析、そして家庭裁判所の実務を通して、ひとり親家庭の養育費確保に関する取り組み と履行の手続を概観し、制度上の課題について検討した。そのうえで、離婚後の養育費の未 払い・不払いといった、支払い問題が子どもの発達に及ぼす影響について考察を行った。さ らに、明石市の事例に触れながら、若干ではあるが、養育費の確保のための地方自治体に期 待される役割について言及した。

 なお、本稿は臨床心理学者と実務家である家庭裁判所調査官との共同により執筆されてい る。離婚後の子どもの養育支援においては、法制度の整備による環境面の充実を図るととも に、当事者の心理発達や柔軟な回復を促進させる視点からの支援も重要である。臨床心理学 の領域による知見や実践の経験の援用ともに、当事者の立場に立った司法手続の役割、制度 設計の見直しが必要とされている。このような意味では、臨床心理学と司法の専門家による 協働的な視点による問題解決のための研究の蓄積は重要であると言えよう。

2

.母子家庭・父子家庭の現状

 厚生労働省の『ひとり親家庭の現状』(平成

27

年

4

月)によれば、昭和

63

(

1988

)年から 平成

24

(

2012

)年の

25

年間で母子世帯は

84.9

万世帯から

123.8

万世帯(

1.5

倍)、父子世帯 は

17.3

万世帯から

22.3

万世帯(

1.3

倍)に増加した。母子世帯と父子世帯の現状については、

表

1

に示した。

 平成

23

(

2011

)年度の「全国母子世帯等調査結果報告」(厚生労働省)によると、母子世 帯の

80.6

%が就業しているが、そのうち

47.4

%はパート、アルバイト等の不安定な就労形態 にあり、母子世帯の平均年間就労収入(母自身の就労収入)は

181

万円、平均年間収入(母 自身の収入)は

223

万円と低い水準にある。ひとり親世帯の貧困率は

54.6

%となっており、

その大半は母子世帯となっている。ちなみに、父子世帯の平均年間就労収入は

360

万円であ り、母子世帯の倍程度である。母子世帯の母親の

8

割は就労しているが、子育てと仕事を両 立させようとすると、時間的な制限などから、パートやアルバイトを選ばざるを得ない。単

(4)

独親権制度が採用されている日本では、離婚後の親権の

8

割を母親がとっており、すなわち、

子どもにとって親の離婚は自分自身の貧困問題に直結しやすい状況となっている。

 母子世帯を含めたひとり親家庭の経済的な支援として、児童扶養手当の支給があげられる。

児童

1

人の場合、全部支給は

42,330

円、一部支給は

9,990

円から

42,320

円までとなっており、

児童の数に応じて加算される。平成

27

(

2015

)年

3

月末現在の受給者数は、

1,037,645

人(母:

944,309

人、父:

60,537

人、その他:

32,799

人)にのぼる3。なお、平成

27

年度末において、

全部支給者は

557,065

人(

53.7

%)、一部支給者は

480,580

人(

46.3

%)であった。また、児童 扶養手当以外の社会的な支援では、子どもの修学や母親の就職支度資金など、全

12

種類の 母子父子寡婦福祉資金貸付金制度が設けられている。

3

.ひとり親家庭の養育費確保に関する取組み

(

1

)養育費の履行状況

 

2011

(平成

23

)年の民法一部改正により、第

766

条に、離婚に際して夫婦が決めるべき事 表1 母子世帯と父子世帯の現状

母子世帯 父子世帯 1.世帯数(推計値) 123.8万世帯 22.3万世帯 2.ひとり親世帯になった理由 離婚 80.8%

死別  7.3% 離婚 74.3% 死別 16.8% 3.就業状況

全体 80.6% 91.3%

就業者のうち正規雇用 39.4% 67.2%

うち自営業 2.6% 15.6%

うちパート・アルバイト等 47.4% 8.0% 4.平均年間就労収入(母または父自身の就労収入) 181万円 360万円

5.平均年間収入 223万円 380万円

※「平均年間収入」及び「平均年間就労収入」は、平成 22年の1年間の収入。

出典:「平成23年度全国母子世帯等調査」「ひとり親家庭等の支援について」(厚生労働省雇用均等・児童家 庭局家庭福祉課)をもとに野口が作成した。

表2 ひとり親家庭における養育費と面会交流の状況

離婚母子家庭 離婚父子家庭 養育費の取り決めをしている 37.7% 17.5% 養育費を現在も受給している 19.7% 4.1% 面会交流の取り決めをしている 23.4% 16.3% 面会交流を現在も行っている 27.7% 37.4%

出典:「平成23年度全国母子世帯等調査」(厚生労働省雇用均等・児童家庭局家庭福祉課)をもとに筆者が作 成した。

(5)

項として、面会交流と養育費が明文化された(

2012

年

4

月

1

日から施行)。条文には「養育費」

という文言はないが、養育費と同義と見なされる「子の監護に要する費用の分担」がある(宮 坂,

2015

)。法務省民事局のリーフレット『夫婦が離婚をするときに~子どものために話し 合っておくこと~』には、「養育費」の考え方が以下のように明確に示されている。

「養育費の考え方」法務省民事局のリーフレット

『夫婦が離婚をするときに〜子どものために話し合っておくこと〜』より

 養育費とは、子どもを監護・教育するために必要な費用です。一般的には、経済的・社会的に自 立していない子が自立するまで要する費用を意味し、衣食住に必要な経費、教育費、医療費などが これに当たります。親の子どもに対する養育費の支払義務(扶養義務)は、親の生活に余力がなく ても自分と同じ水準の生活を保障するという強い義務(生活保持義務)だとされています。子ども がいる夫婦が離婚する場合、基本的にはどちらか一方が親権者となって子どもを養育することにな りますが、離婚により親権者でなくなった親であっても、また、子どもと離れて暮らすこととなっ た親であっても、子どもの親であることに変わりはありませんから、子どもに対して自分と同じ水 準の生活ができるようにする義務があります。

 平成

23

(

2011

)年度の「全国母子世帯等調査結果報告」(厚生労働省)によると、離婚 時に養育費の取り決めをした母子世帯は

37.7

%で、現在も養育費を受けている母子世帯は

19.7

%となり、母子世帯の養育費は子ども

1

人あたり

43,483

円であった。また、養育費を受 けたことがあるのは

15.8

%であり、養育費を受けたことがない世帯が全体の

6

割を占める結 果となった。ひとり親家庭における養育費と面会交流の状況については、表

2

にまとめた。

子どもの養育費を払い続けている親は

2

割程であるという現実に、養育費や面会交流の取り 決めがなくても離婚が認められるという、現行の離婚手続の仕組みが離婚後の母子家庭への 経済的な問題として出現しているとみなすことができる。

 なお、民法第

766

条の改正による面会交流と養育費の明文化は既述したとおりであるが、

2013

年

8

月

19

日付の読売新聞(朝刊)によれば、

2012

年

4

月からの

1

年間で未成年の子が いる夫婦の離婚届けの提出は

13

万

1254

件で、うち面会交流の方法を決めたのは

7

万

2770

件

(

55

%)、養育費の分担を取り決め済みだったのは

7

万

3002

件(

56

%)であった。民法の改正 により、離婚時において養育費の取り決めを行った夫婦の数は増えているが、法的な罰則規 定がないため、養育費の支払いは口約束になってしまう可能性は依然高いままである。

(

2

)ひとり親家庭の養育費確保に関する取組み

 日本の民法では未成年の養育義務に関する規定がなく、離婚手続において養育費や面会交 流の取り決めがなくても離婚が認められてきた。ここでは、厚生労働省雇用均等・児童家庭 局家庭福祉課「ひとり親家庭等の支援について」(平成

29

年

4

月)を参照しながら、わが国 におけるひとり親家庭の養育費確保に関する取組みの経緯について、整理をしてみたい。

 

2002

(平成

14

)年の母子及び寡婦福祉法の改正により、児童を監護しない親は養育費を

(6)

支払うよう努めるべきこと等が規定された。

2003

(平成

15

)年及び

2004

(平成

16

)年に、

民事執行法の改正が行われ、養育費等の強制執行について、一度の申立てで、将来の分につ いても給料等の債権を差し押さえることができるようになった。また、母子寡婦福祉資金の 一環として、養育費の確保に係る裁判費用については、特例として生活資金の

12

か月分(約

123

万円)を一括して貸付けできるようにした。そして、

2004

(平成

16

)年

3

月には、養育 費算定基準の周知等を目的とし、養育費の相場を知るための養育費算定表や、養育費の取得 手続の概要等を示した「養育費の手引き」が作成され、母子家庭等に対する相談において活 用してもらうべく各自治体に配布された。さらに、

2009

(平成

19

)年に「養育費相談支援 センター」が創設された。養育費相談支援センターの主な業務は、養育費に関する情報提供 や養育費相談にあたる人材養成のための研修会の実施、母子家庭等就業・自立支援センター 等での困難事例への支援、母子家庭等に対する相談等である。しかしながら、実際の養育費 確保に関しては当人同士の話し合いか裁判所に委ねられており、従来と変化がないともいえ る(五十嵐,

2015

)。

 そして、

2011

(平成

23

)年に民法第

766

条が改正され、父母が協議離婚時に際して定める

「子の監護について必要な事項」として、養育費と面会交流の分担が明示されるとともに、

子の監護について必要な事項を定めるにあたっては、「子の利益を最も優先して考慮しなけ ればならない」という一文が明記された。また、上記の改正を受けて、協議離婚届に養育費 及び面会交流の合意の有無のチェック欄が新設された。この民法改正の意義として、中山

(

2014

)は「夫婦間の争いと離婚後の子に対する父母の義務が異なることを社会に周知させ る契機となる点で一応の意義がある」としている。だが、その一方で、「本来であれば、未 成年の子のある夫婦の離婚については、公的機関の関与のもとで養育費等の取決めを必要要 件として成立を認め、子の利益を確保する必要がある」とも述べており、改正後の実務にお ける変更はないと指摘している。このように、離婚届における面会交流及び養育費取決めの 有無のチェック欄についても、チェックを付けなくても離婚が受理されるため、法的な強制 力はなく、子どもの権利としての養育費が担保されるための充分な効果を持つとは言えない。

やはり、養育費の未払い・不払い問題の根幹を考えると、養育費の取決めがされない離婚が 公に認められる制度自体に歪みがあるのではないだろうか。

(

3

)養育費の取決めと履行に関する手続の実際

①養育費の取り決め方

 図

1

を参照しながら、養育費の取り決めと確保に関する司法の手続について、触れておき たい。

 協議離婚は、夫婦の協議が成立すれば、届出だけで離婚が成立する。そのとき、養育費を 話し合ったとしても、口約束や私的書面だけで済ませる夫婦が多いのが実情であろう。口約 束や私的書面は、未払いが生じたとき、それを相手に支払わせる法的な強制力がない。法的

(7)

強制力を確保する方法は、離婚時に合意した内容を公正証書にしておくか、または家庭裁判 所の調停や審判、訴訟で、養育費を調停調書や審判書、判決書の形にしておくことである。

つまり、離婚後、元配偶者に養育費を請求するのであれば、「養育費請求調停」を申立てる ことになる。その調停で合意に達すれば、調停調書が作成され、判決と同じ効力を持ったも のとなる。合意に達しないとき、調停は審判に切り替わり、裁判官が養育費を審判で決定す る。また、離婚前であれば、離婚と親権・養育費などを話し合う「離婚調停」を申立てるこ とになる。それらの合意ができたとき、調停調書を作成するのは、養育費請求調停と同じで ある。合意できなかったとき、養育費請求と異なり、離婚調停は不成立で終了する。あとは、

「離婚訴訟」において、裁判構造の中で、裁判官が離婚とともに養育費その他の条件を判断 することになる。

 いずれにしても、調停で養育費を決める際の基本は、受け取る側(権利者)が欲しい金額 を調停委員会に提示し、支払う側(義務者)が支払い可能な金額を調停委員会に提示する。

その金額が一致すれば、そこで合意成立となる。しかし、なかなか合意に至らないのが実情 である。双方から必要な収入資料等を提出してもらい、家庭裁判所で客観的で合理的な金額 を算出し、それを当事者双方に提示することにより合意を勧める。双方がそのあっせん案を 受け入れれば合意成立だが、当事者のどちらかでも拒否すれば、調停は不成立である。

②履行の確保

 調停や審判、離婚訴訟の中で定められた養育費は、特に定めのない限り、子どもが成人に 達するまで、月額単位で支払うこととされている。しかし、日本において実際のところ、養 育費は、いろいろ原因があると思われるが、なかなか最後まで支払われないことが多い。こ のようなとき、成立した調停、審判決定、訴訟判決に基づく債権であれば、家庭裁判所に申 し出ることによって、履行を勧告してもらうことができる。履行勧告とは、家庭裁判所調査 官が申し出に基づき、書面や電話などの方法で、支払い義務者に文字通り履行を促す作業で ある。履行勧告は何回申し出てもかまわず、費用もかからないが、支払い義務者が勧告に応 じなくても、支払いを強制することはできない。

 履行勧告で相手が支払わないとき、履行を確保する手段に、「強制執行」がある。強制執 行には、「直接強制」(地裁扱い)と「間接強制」(家裁扱い)があり、いずれも裁判手続の 一種である。直接強制とは、不履行債務に対し義務者の財産(不動産や給料など)を直接差 し押さえて、その財産の中から支払いを受けるという手続である。義務者の勤務先に連絡を とり、給与の一部を養育費として指定口座に振り込みをしてもらうのは、その一例である。

なお、債権執行の申立てには手数料(原則として

4,000

円)及び郵便切手(実費

3,000

円程度)

が必要となる。

2015

(平成

27

)年の司法統計年報

3

家事編によると、

2015

(平成

27

)年の

1

年間に全国の家庭裁判所に金銭債務についての履行勧告を申し出た件数は

14,413

件で、勧告 の結果、全額が支払われたのは、およそ

3

分の

1

にあたる

4,956

件であった。残り

9,457

件は、

一部しか履行確保されなかったか、全く履行がなかった件数となる。そのうち、権利者が強

(8)

制執行への意思を示したのは、

1,888

件であった。これは全履行勧告申出件数の

13

%にあたる。

 なお、間接強制とは、面会交流などの債務を履行しない義務者に対し、一定の期間以内に 履行しなければ、その債務とは別に間接強制金を課して警告することで、義務者に心理的な 圧力を加え、自発的な履行を促すものである。養育費支払の不履行で強制執行をかける場合、

通常は給与の一部を差し押さえる等の直接強制が基本となる。また、

2004

(平成

16

)年か ら定期的に支払期限が到来する債権については、支払期限の到来していない将来分も、一括 して申立てできるようになった(毎月の支払期限が到来する度に、差押えの申立てをする必 要はなくなった)。強制執行の手続は、まず、取り決めをした家庭裁判所又は公証役場から、

取り決めた文書を相手方に送達してもらい、送達証明書をもらう。その後、管轄する地方裁 判所の執行係に強制執行の申立てをする。強制執行は、地方裁判所に支払い義務のある人の

図1 養育費の取り決めと確保に関する司法手続

厚生労働省雇用均等・児童家庭局家庭福祉課(2017)「ひとり親家庭等の支援について」P50を 参照し、野口と町田が作成した。

9 事情の

変更

図1 養育費の取り決めと確保に関する司法手続

厚生労働省雇用均等・児童家庭局家庭福祉課(2017)「ひとり親家庭等の支援について」P 50 を参照し、野口と町田が作成した。

夫 婦 の 協 議

協 議 離 婚

公正証書の作成

口頭又は私的書面

家庭裁判所で 養育費調停

(不成立時は 審判)

調 停 離 婚

裁 判 離 婚

家裁で養育費増額

(減額)調停(不 成立時は審判)

事情の変更

調停条項/審判どおり履行されない

調停条項どおり履行されない

判決どおり履行されない

事情の変更

養育費の取り決め 養育費の確保

約束が守られない

成立

不成立

判決 訴訟提起

家裁での調 停

家裁での離 婚訴訟

(9)

財産(給与や預貯金、動産、不動産など)を差し押さえることになる。

③養育費計算方法の概略

 養育費とは、既に述べてきたように、子どもと離れて暮らす親(非監護親)が、子どもが 成長するために必要な毎日の生活費、教育費、医療費などの分担である。それは、非監護親 にとって支払い可能な金額であり、同時に子どもにとって福祉が満たされる金額でなければ ならない。養育費の客観的で合理的な計算は、家庭裁判所の長年の課題であった。では、ど のように計算することが客観的で合理的であろうか。

 従来の計算方法は次のとおりである。養育費の計算は、非監護親の「年間総収入」から、

所得税や住居費などの必要経費を差し引き、まず計算の基礎となる「基礎収入」を算出する ことから始まる。そして次に、もし子どもが非監護親のもとで育てられた場合、基礎収入の いくらが割り当てられるかを計算する。このときに使われる指数が、労働科学研究所が昭和

27

年に発表した総合消費単位という概念である。成人男子の軽作業(デスクワーク)であ れば

100

、小学校低学年であれば

55

という指数が割り当てられている。例えば、基礎収入が

300

万円と計算された独居の非監護親が、小学校低学年の子どもを引き取ったと仮定したと き、その子どもに割り当てられる金額は、以下のように計算される。

        

  

300

万円×―

55

=

106

万円        

100

+

55

 以上から子どもは、非監護親側で育てられると、理論上、年額

106

万円が割り当てられる ことになる。実際は監護親のもとで生活していても、子どもは非監護親側で育てられた場合 と同じ金額で、育てられる権利があると考えるとすると、次の問題は、この

106

万円のうち、

非監護親と監護親がいくらずつ負担すれば、釣り合うかということになる。仮に監護親の基 礎収入を

200

万円として、基礎収入割合に従って按分すると、養育費は以下のように計算さ れる。

        

  

106

万円×―

300 = 63

万円        

300

+

200

 非監護親が監護親に払う養育費は、年額

63

万円(月額

52,500

円)となる。

 養育費が争点になっている調停や審判では、家裁調査官が調査に入り、上記のように養育 費を計算することが多かった。しかし、理論上は妥当としても、事案ごとに上記のような複 雑な計算をくり返すのは、紛争解決の迅速性と柔軟性に大きく欠ける欠点があった。そこで、

支払義務者(非監護親)の総収入と受取権利者(監護親)の総収入から、一目で養育費金額 がわかるような一覧表が望まれるようになった。

 

2003

(平成

15

)年、東京家裁と大阪家裁の裁判官が共同研究を行い、養育費「算定表」

を作成した。上記図

2

はその一部である。ここでx軸側は受け取る権利者の年収、y軸側は

(10)

支払う義務者の年収である。子どもの年齢や人数に応じ、

9

種類の表が用意されている。例 えば、給与生活者で年間総収入

600

万円の非監護親(義務者)と年間総収入

250

万円の監護 親(権利者)の組合せで、

14

歳以下の子どもがひとりの場合、養育費は月額

4

~

6

万円とす ることが相当と算定される。算定表において、必要経費は、給与所得者の場合、総収入の

34

%~

42

%を控除するという扱いで、既に配慮された形になっているのがその特徴である。

 現在、実際の離婚調停や離婚訴訟、養育費請求調停・審判では、いかに双方が激しく対立 して養育費金額を争ったとしても、「算定表」への信頼性が高いため、「算定表」に基づいた 判断が出されている。算定表は最高裁のホームページから検索できるようにもなっており、

公開されている4。ただし、宮坂(

2015

)が指摘するように、算定表が使われるようになっ て、かなりの年数が経過し、その間に所得水準・生活様式・消費構造等が変化したことから、

基礎的な計算方法の抜本的な見直しも検討していい時期に来ている。確かに、算定表は、従 来的な複雑な計算による養育費算定と比べると、迅速で柔軟な使い方をすることができたが、

経済生活の変化や非監護親と子どもの関係の在り方が変化すれば、改訂を考える必要があろ う。

(

4

)養育費履行に関する手続の課題

 調停や審判、判決で、養育費を決めたとしても、履行され続けられなければ、意味がない。

本来、養育費はその子が成人に達するまで支払われ続けるものだが、途絶えると単なる画餅 にすぎなくなってしまう。しかし、残念ながら、実務をしていると、最初の数回送金があっ ただけで、すぐ途絶えてしまったという話をよく聞く。支払う側(義務者)と受け取る側(権

図2 養育費「算定表」の一部

(11)

利者)それぞれに理由があるようだ。支払いが途絶えた理由を集計した統計はないが、家庭 裁判所の実務の中で、支払いを中断した理由として、義務者側から、およそ次のような声を 聞くことが多い。

  義務者側が送金をしなくなった理由

   *

2

~

3

回払えば、それで義務を果たしたものと思った。

   *子に会わせてもらえないのに、養育費を払い続けるのは納得できない。

   *払いたい気持ちはあるが、給料が下がったため、払えなくなった。

   *払っても、どうせ相手の遊興費に使われてしまうだけである。

   *相手が再婚したので、もう払う必要がないと思った。

   *自分自身、再婚し、新たな家族ができたため、払えなくなった。

 いっぽう受け取る権利者側も、送金が途絶えたことに対し、すぐ受領を諦めてしまうこと が多い。よく聞く理由は以下のとおりである。

  権利者側が請求をしなくなった理由

   *相手の性格からすると、どうせ数回で途絶えると予想していた。

   *請求をすると、子に会わせろと言い出すはずである。子を相手に会わせたく ないので、会わせるくらいなら、養育費は諦めたほうがいい。

   *相手ともう関わりたくないし、自分の収入だけで何とかやっていける。

   *自分は再婚したので、相手に経済的に頼る必要がなくなった。

   *相手が再婚したと聞いたので、もう請求できないと思った。

 本来、養育費は子どもの養育のための費用なのだが、途絶える理由は大人の都合や理屈が 多いことがわかる。確かに、子と面会交流できないにもかかわらず、養育費だけ支払い続け るとすれば、義務者にとって支払いは苦痛であろう。同様に、

DV

被害の末、ようやく離婚 できた権利者からすると、養育費請求のために相手に連絡を取るのは、苦痛であろう。

 ここで、義務者側の不払いの理由と、権利者側の請求しない理由がかみあっていると、両 者の間に暗黙の了解が生じ、不払いが黙認されやすい。しかしまた、お互いの理由がずれて いることがわかると、一気に紛争が激化することがある。例えば、義務者が「給料が下がっ たので払えなくなった」と言っても、権利者が「どうせ初めから

2

~

3

回しか払うつもりが なかったにちがいない」と反論するという具合である。養育費の未払いや不払いは、離婚紛 争を再燃させ、新たな紛争の火種にもなる。そこで、義務者が養育費支払いに抵抗を示した

(12)

とき、実務上は、子どもの費用であり、法で定められた義務なので、とにかく子どもを思い 出して払ってほしいと働きかけることにしている。例えば、「子に会わせてもらえないから 払わない」という人には「子への面会は別問題として考えてほしい」と説明している。

 ちなみに、ここで留意する必要があるのは、権利者の再婚である。権利者に新たな配偶者 ができると、義務者は「もう払う必要がなくなった」と思いがちだが、法律上、支払い義務 は残っている。新たな配偶者と子どもが養子縁組をしたとき、減額する余地があるとしても、

支払い義務はなくならないのが通常である。同様の意味で、義務者が再婚したときも、別の 新しい家庭ができたからといって、支払いを免れるわけではない。このような場合は、養育 費減額請求を申立てることにより、あらたに養育費を決め直すことが望ましいとされている。

次に述べる事例

2

を参照されたい。

4

.養育費の未払い・不払いの事例と考察

 養育費の不払いをめぐる紛争が、子どもにどのような影響を及ぼしたか、事例をもとに検 討したい。以下は複数の事例をもとにした架空の事例である。

 事例

1:夫の DV

に耐えかね、妻は

5

歳男児を連れて別居し、友人を介して協議離婚した。

その後、元妻は、養育費請求の調停を申立てた。日中、子どもを保育園に預け、スーパーの レジにパート就労したものの、アパート家賃等を払うと生活はやっとである。そこで、無料 法律相談を受けたところ、養育費請求調停の申立てを助言され、申立てることとなった。と ころが、いざ調停が始まると、元夫は「私は

DV

などしていない。妻が子どもを一方的に私 から奪って出て行った。私こそ被害者である。このうえ、金をよこせとは虫が良すぎる。勝 手に出ていったのだから、誰にも頼らず生活すべきだ。少なくとも子に会わせてくれなけれ ば、養育費は払わない」と主張した。これを調停委員が元妻に伝えると、

DV

の恐怖が甦っ たのか、震え上がり「とても子どもを会わせる気持ちになれない。子どもを会わせるくらい なら、養育費請求を取下げたい」と主張し、一気に調停は座礁の雰囲気を呈してしまった。

ここで

DV

事実の有無を解き明かそうとすると、紛争は深みにはまるだけなので、調査官が 関与し、まず算定表から妥当とされた養育費を暫定的に払ってもらい、同時に裁判所内で面 会交流を試行的に行うよう、双方に調整的に働きかけた。元夫は面会交流で未成年者に会う と、

2

年ぶりに会う息子を涙ながら抱きしめ、「こんなことになってごめんな」と盛んにくり 返していた。結果的には、これが効を奏し、元妻も面会交流に合意したことから、元夫に月

1

回の面会交流の権利を認めると同時に、月額

3

万円の養育費支払いを定めて、調停成立と なった。

 事例

2:夫の不貞を機に調停離婚した夫婦。未成年者(離婚当時中学 2

年女子)は、元妻

(母)が親権者となって引き取り、養育費を算定表から月額

8

万円とした。元夫は大企業の

(13)

営業職、元妻はパートである。元夫はその後、不貞相手だった女性と再婚した。ところが、

2

年も経過すると養育費が滞り、その滞納額は

50

万円近くになってしまった。未成年者は有 名私立高校に進学したものの、授業料が払えなくなったため、元妻は履行勧告を申し出た。

しかし、元夫は「再婚相手が妊娠出産したことや、折からの不景気で給料が減額されたこと から、家計事情が変化し、養育費が払えなくなった」と弁明。元妻は、それに納得せず、履 行勧告は効果がないとみなすと、弁護士や友人に相談しながら必死に必要書類を集め、元夫 の給料を差し押さえる強制執行の手筈を取った。すると、元夫はたまらず、養育費減額調停 を申立てたというものである。ところで、怒りが収まらないのは、未成年者も同様であった。

元妻は、未成年者が意見を言いたがっていると調停で述べたため、調査官が未成年者に対す る意向調査をすることになった。未成年者は「異母弟も父の子だろうが、私だって父の子で ある。初めに取り決めた約束が、なぜ実行できないのか。納得できない。私の人生がどうなっ てもいいのか」と激しく主張した。それを調停の場に伝えたが、元夫は「ない袖は振れない。

許して欲しい」とくり返すだけであった。結局、調停は不成立になり、改めて双方に経済資 料を提出させ、算定表をもとに審判で養育費月額

5

万円という決定が出された。

 考察:以上の事例でわかるように、養育費請求やその履行といっても、ただ金額を指示し、

不履行があれば履行勧告等をすれば良いというわけではない。「算定表」の数字を示して済 むことはまず滅多にない。実際、養育費をめぐる紛争を解決するには、調整的な働きかけが 必須となる。それでも養育費確保が困難な場合、最終的には、調停や審判の結果に基づき強 制執行を行うしかないが、現時点では、その手続が非常に煩瑣であることは否めない。事例

2

の元夫は、「払えなくなった」と言うだけで、支払い義務を逃れられると甘く考えていた らしい。元妻が強制執行を本気で準備していると聞いて、ようやく事態が容易成らないと自 覚したようだ。また、不払いがあったとき、そのしわ寄せを受けるのは、常に未成年者であ る。

 事例

1

の未成年者は元夫を父と思い出し、甘えるように遊ぶことで、元妻の不安を払拭す ることができた。すなわち、元夫からすると、子への感情は自然な情愛表現のつもりなのだ が、元妻からすると、元夫の行動はまさに乱暴な愛情表現に映っていた。しかし、子どもが 元夫と遊ぶ姿を見た瞬間、元妻は「この人も父親なんだ」と思い直した様子だった。このよ うに気持ちの整理ができると、調停の成立は早かった。円満に解決できたといえよう。しか し、事例

2

の未成年者は最後まで「父を許せない」と言っていた。養育費

5

万円という数字は、

支払われないよりはましだが、授業料その他を総合すると満足できる数字ではなかったよう だ。義務者も苦労しているが、この未成年者からすると、それは「酌量の余地がない身から 出た錆」としか映らなかった。未成年者が父(元夫)を許すことができるのは、まだだいぶ 先のことであろう。

 ちなみに、平成

29

年

4

月、厚労省が発表した「ひとり親家庭等の支援について」によると、

面会交流と養育費を同時に決めているケースが多く、また養育費を払っている者は面会交流

(14)

も実現している者が多いとしており、両者の間に相関関係があるとしている。これは実務に おいても同様に感じられる。事例

1

は、面会交流と養育費を同時に取り決めることでスター トすることができたが、事例

2

は、その逆で、今まで面会交流が行われずに養育費送金だけ 行われていたところ、送金中断でさらに紛争悪化したというものである。

5

.離婚後の養育費の支払い問題と子どもの発達

(

1

)子どもの発達における養育費の心理的な意味

 事例にもみるように、多くの場合、養育費支払義務者は父親である非監護視だが、非監護 親は経済的にも精神的にも子のために最善の努力をする姿勢が望まれるのにもかかわらず、

必ずしも現状はそうではない。面会交流や養育費は子どもに対する精神的援助及び経済的援 助の中核となり、子どもがより良く成長していくうえで欠かすことはできない要素となる。

なかでも、養育費も含めた経済的な保障は、習い事や進学など、子どもの成長に必要な体験 の保証であるとも言えよう。

 「

3.

(

3

)養育費の取決めと履行に関する手続の実際」で詳述したように、子どもの権利で あるはずの養育費の取決めや実際の授受は、親の側の都合によって左右されるケースが多い のが実情である。

2015

(平成

27

)年の

1

年間における全国の家庭裁判所における金銭債務に ついての履行勧告の結果、全額が支払われたのは、全体のおよそ

3

分の

1

にあたる

4,956

件で あった。つまり、支払い義務者が勧告に応じなくても、支払いを強制することはできないと いう、現行の養育費確保制度の限界が数字となって示されているのではないだろうか。また、

権利者が強制執行の意思を示したのは

1,888

件で、全履行勧告申し出件数の

13

%と非常に少 ない割合であったが、やはり事例でもふれられていたように、その煩雑さゆえに権利者が体 験する強制執行のハードルの高さがうかがえる。

 日本以外の多くの国では、子どものいる夫婦に対して、養育費の支払いや面会交流に関す る取決めや計画がなければ離婚できなかったり、また、その約束が守られなかった場合には、

厳しくその責任が問われる制度がとられている。だが、日本における現行の制度においては、

養育費の未払いあるいは不払いにおける支払い義務者(多くの場合は父親)への罰則規定は ない。つまり、別居親あるいは非監護親となる父親(多くの場合)の養育責任は放置された ままなのである。子どもの発達における養育費あるいは経済的な支援について、十分な理解 がされていないことも、養育費の支払い問題が野放図にされている一因ではないだろうか。

家庭問題情報誌「ふぁみりお」(

2009

)では、「子どもの成長過程という観点から見ると、「養 育費」は単なる「お金」ではなく、「お金」に託して届けられる、別れて暮らしている側の 親の「思いや気遣い」であることに気づかされる」と記されている。子どもにとって別れて 暮らす親から受け取る養育費は、自分の成長を願う親からのメッセージとなり、子どもの心

(15)

の中にある父親(または母親)のよいイメージを育てることにつながるであろう。また、養 育費の受け取りを通して、母親と子どもが別居親である父親(または母親)に関する話題を 共有できたり、母親が父親への否定的な感情を語らなければ、父親に対する子どもの信頼感 も高くなるだろう。夫婦が離婚した後も、子どもにとって同居親そして別居親は、どちらも 血のつながった親であることには変わりはない。子どもの健やかな成長のために両方の親が できることや子どもの利益について双方で考えるのは、子どものより良い成長や発達を保障 していくという、親の責務を全うするということではないだろうか。既述した事例

2

は、残 念ながら、それがうまくいかなかったものである。

 ただし、子どもの歓心を買うために養育費があるのではなく、離婚後も別居親と交流し、

その愛情を確かめるためにも養育費は必要である。離婚後の親子の面会交流支援を行ってい る、NPO法人あったかハウスの事務局長である山田氏は、その経験から、子どもが

10

歳 を超えてから面会をしようとすると、学費などのお金のやりとりが中心になり、本当の意味 での親子の気持ちの交流はできていないと述べている(野口,

2015

)。この指摘にみるよう に、離婚に至る以前における親子の交流がその後の関係作りでも重要となる。単なるお金の やりとりではなく、親子の信頼関係を土壌とした養育費の授受は、子どもと非同居親との心 理的な絆としての意味も有するだろう。

(

2

)養育費確保のための地方自治体と民間との連携について

①明石市の取組み事例の検討

 子どもの精神的・身体的な発達にかかわる重要な要素である養育費の確保に関する対処は、

然るべき公的な施策が実行されるのが望ましいが、上述してきたように、司法や行政による 強制力を伴った制度的施策の具体的な進展は見られない。果たして、地方自治体などにおけ る現実的な対処としては、どのような取り組みがされているのであろうか。

 兵庫県明石市では、離婚や別居に伴う養育費や面会交流などの「こどもの養育支援」につ いて、

2014

(平成

26

)年

4

月から「明石市こども養育支援ネットワーク」の運用を開始した。

「離婚後の子どもの養育支援」に関するわが国でも先駆的な取り組みである。明石市は離婚 後の子どもの養育を支援するため、離婚届を取りに来た人に養育費の額や支払期間など、夫 婦の取り決めを記入する独自の「合意書」を配布している。養育費や面会交流について取り 決める合意書作成は任意であるが、行政が介入することで調停をするときや公正証書を作る ときの資料になる。欧米のような司法主導の官民の当事者支援のネットワークモデルに対し て、韓国もアメリカ・ドイツ等の司法主導の家族支援ネットワーク化が進んでいる。これ に対して、日本では、

DV

やストーカー対策の不十分さもあり、協議離婚制度を大幅に改革 することは当面は困難であると思われる。そこで、明石市のような身近な基礎自治体がコー ディネートする緩やかな(強制力を伴わない)地域行政支援ネットワークが好ましいと言え る(棚村,

2014

)だろう。

(16)

 永田ら(

2015

)は、養育費取り決めの義務化の具体例として、離婚届の提出と養育費取 り決めの公正証書の同時作成を義務化することを提言している。また、子どもの貧困問題と 養育費制度について、「第

1

に、養育費制度に欠陥が存在する点である。現在養育費の使用 用途についての制限がないため、養育費が子どものために使用されずに親が個人的に使用す ることも可能となっているため、養育費の使用用途を限定する仕組みを導入する必要がある。

また、養育費は所得計算で受け取った額の

8

割が所得として換算されてしまい、児童扶養手 当の受給額が減額されてしまうため、減額を防ぐ仕組みを導入する必要がある」という指摘 をしている。養育費は子どもが受け取る権利であるにもかかわらず、受取額によって児童扶 養手当が削減されてしまうのは、矛盾するのではないだろうか。

 協議離婚に司法機関が関与するのは、養育費の取り決めなどに法的な拘束力を持たせるう えでは極めて有用な方法ではあるが、現段階においては現実的には難しいように思われる。

一般的な感情として、裁判所はやはり敷居が高く、単純な利便性の問題からしても行政窓口 の方のアクセスが基本的には容易である。また、民法親族編の改正により、近い将来におい て日本が共同親権制度を採用することは考えられにくい。このような状況においては、明石 市における離婚後の子ども養育支援のように、離婚時における文書の手続だけにととまらず、

地方自治体の取り組みによって、離婚後の子育て支援のネットワーク化、さらには子どもの 権利が保障されるような支援も行いやすいと考える(野口,

2017

)。

むすびにかえて

 近年、我が国では子どもの貧困が社会問題化している。平成

25

(

2013

)年には、「子ども の貧困対策の推進に関する法律」が公布され、親の経済状況にかかわりなく、すべての子ど もが将来を切り開いていける社会を実現するための国と地方公共団体の責務が明示された。

離婚後の養育費の未払い・不払い問題も、子どもの貧困化の一因として考えることができる。

親の経済状況や生活環境にかかわらず、すべての子どもが安心と希望を持って暮らしていけ る社会が構築されるためには、専門領域を超えた協働的な視点による調査や研究がなされて いくことも重要であろう。

注

1 平成26年人口動態統計表.厚生労働省.www.mhlw.go.jp.2017年5月22日最終閲覧.

2 平成21年度「離婚に関する統計」の概況人口動態統計特殊報告、厚生労働省. www.mhlw.go.jp. 2017年5月22日最終閲覧.

3 厚生労働省雇用均等・児童家庭局家庭福祉課(2017)「ひとり親家庭等の支援について」www.

mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou. 2017年5月28日最終閲覧 4 http://www.courts.go.jp/tokyo-f/vcms_lf/santeihyo.pdf

(17)

文献

五十嵐詠夢(2015)離別母子家庭の養育費受給をめぐる現状と課題.北海道医療大学看護福祉学部学 会誌,11(1),49-54.

河嶋静代(2010)子どもの権利と共同親権・共同監護-非監護親の養育責任とひとり親家庭の福祉施 策をめぐって-.北九州市立大学文学部紀要,17,1-25.

厚生労働省雇用均等・児童家庭局家庭福祉課(2017)ひとり親家庭等の支援について.

宮坂順子(2015)離婚における養育費の現状と問題点-簡易算定方式の検討.昭和女子大学女性文化 研究所紀要,42,47-59.

永田信晴・斎藤雅世・田河萌・西田忠訓・原田健太郎・古山央人・矢島駿佑(2015)子どもの貧困問 題の解決に向けて-養育費制度改革による母子世帯の生活改善-.ISFJ 日本政策学生会議「政策 フォーラム 2015」発表論文.

中山直子(2014).民法766条1項の改正と養育費に関する実務上の問題について―実務家の立場から.

法律時報,86(8),66-71.

野口康彦(2014)離婚後の親子の面会交流と子どもの心理発達-2つの支援機関のインタビュー調査か ら-.茨城大学人文学部紀要人文コミュニケーション学科論集,18,45-62.

野口康彦・高橋大輔(2017)離婚後の子どもの貧困防止のための養育支援の必要性―臨床心理学と法 学による協働的視点から-茨城大学人文学部紀要人文コミュニケーション学科論集,22,67-82.

棚村政行(2015)協議離婚における合意形成の支援と明石市の取組み.平成26年度養育費の確保に関 する制度問題研究会報告.養育費相談支援センター.

参考資料

秋武憲一(2011)「離婚調停」日本加除出版,第5章養育費・婚姻費用算定表p181~207,第7章養育費 p225~248.

家庭裁判所(2015)調停・審判などで決まった養育費の支払いを受けられない方のために.

明石市ホームページwww.city.akashi.lg.jp/seisaku/.../youikushien.html(2017年5月22日最終閲覧)

家庭裁判所調査官研修所編集(1992)「家事事件の調査方法について(下巻)」法曹会,第8編家庭裁判 所調査官のその他の実務第6章生活費の算定p576~603.

家庭問題情報誌「ふぁみりお」(2009)47号2009年6月25日発行.

参照

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