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新保険法の課題と展望

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新保険法の課題と展望

平成21年度大会シンポジウム

コメンテータのコメントおよび質疑応答

[司会・竹濵修]時間がまいりましたので,再開させていただきます。本日 はコメンテータとして,この保険法の立案に深く関わられました嶋寺弁護士 に来ていただいております。嶋寺さんは,当時,法務省民事局で保険法立案 のお仕事をされていた方です。

まず最初に4人の先生方のご報告を受けまして,嶋寺先生から少し横断的 にではありますが,コメントをいただくということになっています。それで は,嶋寺先生お願いいたします。

[嶋寺基]ただいま紹介いただきました弁護士の嶋寺です。本日はよろしく お願いいたします。

まず,村田先生にご担当いただきました 総論的課題 の部分につきまし て,いくつかコメントを述べさせていただきます。先ほど村田先生から,

各契約類型間における規律の相違 という問題を取り上げて,問題点のご 指摘をいただきました。そのうち 被保険者同意に関する生命保険契約と傷 害疾病定額保険契約の規律の在り方 につきましては,法制審議会保険法部 会でも激しい議論があったところです。最終的には,個々の商品性を問わな い基本的な契約ルールを定めるという保険法の性格を踏まえて,傷害疾病定 額保険については,被保険者同意を不要とする場合をある程度広く認めると いう取りまとめに至ったものです。

ご指摘いただいたような視点からは,論理的に一貫した説明がしにくい部 分があるという点は理解できますが,保険法部会での取りまとめを前提とし

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た契約ルールの評価としては,死亡給付のみを目的とした契約類型であるの か,生存給付とともに死亡給付を行う契約類型であるのかという基準で区別 するという整理になるのではないかと思われます。

次に,いわゆる絶対的強行規定の中にも多様な性質のものが含まれるとい う点について,分析的に整理をしていただきました。ご指摘をいただいたと おり, 一問一答・保険法 という本の中では,強行規定にもさまざまな種 類のものがあるということを認めつつ,ただしその分類の仕方は必ずしも一 通りではないと考えられることから など という表現を用いて,あくまで もそこで掲げている類型は例示に過ぎないということを示唆するにとどめて おります。

例示として掲げた 他の法律との関係で認められないもの 及び 公序の 趣旨に基づくもの 以外の強行規定の例としては,例えば超過保険に関する 9条のただし書では 約定保険価額があるときはこの限りでない という定 めをおいています。これは9条の規定自体の適用範囲について定めるもので すので,当事者間の約定によって変更するということが予定されていないと 考えられますので,強行規定という整理をしています。このほか,保険者の 破産に関する規定のように,公益的な観点から一般に強行規定と解されてい る破産法の特則として位置づけられるものにつきましては,これも同じく強 行規定という整理をしています。このように強行規定の中にもさまざまな性 質のものが含まれるという点につきましては,先ほどご指摘をいただいたと おりであると考えています。

さらに,詐欺的な給付請求と重大事由による解除の関係についてもご指摘 いただきました。先ほどご指摘いただいたとおり,免責の対象となるのは重 大事由が生じた時以降に起きた保険事故のみで,事故自体が偶然に生じたも のであれば請求の段階で詐欺があったとしても,さかのぼって全部免責の効 果が生じることにはならないと考えています。もっとも,請求者側の悪質性 が高いような場合を考えますと,その場合に何らかの制裁を課すことができ ないかという点につきましては,今後も片面的強行規定をどのように解釈す

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るのかという問題とも関連して議論がされていくことになると思われます。

少なくとも従来の約款のように,事故報告書に故意に不実の記載をすれば 直ちに全部免責の効果が生じるという約款規定につきましては,従来からも 種々の批判があったとおり,免責の対象となる場面が極めて広範であり,か つ,一律に全部免責という効果を生じさせるのは必要以上に重い制裁を課す ものと言えますので,規定自体が合理性を欠くのではないかと思われます。

どのような約款規定であれば許容されるのかということにつきましては,現 時点で特定の見解を持っているわけではありませんし,まさにこの点は今後 議論の余地があるところではないかと思われます。

ここで1点気になることは,この問題が不実申告とか過大請求一般につい ての問題として,やや抽象的な形で議論が行われているように思われること です。この問題は,重大事由解除の片面的強行規定そのもの,あるいは少な くともそれと密接に関わりのある行為態様についての制裁を問うものです。

その意味では,抽象的な形で議論するのではなく,保険事故の内容がどのよ うなものか,あるいは不実申告といっても,その不実による申告の対象とな った事故がどのようなものであるか,過大請求といっても,それがどの程度 過大に行われた請求であるか,更にはそのような不実の申告があったとして も,それが保険会社による事実確認の容易な事項であるか否かなど,具体的 な要素を考慮して制裁が合理的な範囲にとどまっているかどうかという観点 から,分析的な検討をしていくことが必要ではないか,ひいては保険法の審 議の過程でも重大事由解除については非常に濫用のおそれが高いという懸念 が指摘されたところですので,そのような濫用防止の観点からも,やはり制 裁が過大なものにならないかという発想で,分析的に検討していくべき問題 ではないかと考えています。

続きまして,山本先生にご担当いただきました損害保険における課題につ いて,若干のコメントをさせていただきます。山本先生からは 因果関係不 存在則の片面的強行規定性について,プロラタ的な扱いをすれば因果関係の 不存在則の適用を否定することができるのか という問題を取り上げていた

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だきました。まず保険法では,因果関係不存在則を片面的強行規定として位 置づけておりますが,これと異なる約款の定めがどの範囲で認められるのか については,保険法部会で必ずしもコンセンサスがあったわけではなく,片 面的強行規定の解釈の問題であると思われます。しかし,仮に告知義務違反 の効果をプロラタにしたとしても,保険法上保険者の免責が認められない場 合について,一部免責と同様の効果を生じさせるものである以上,保険法の 規定よりも契約者側にとって不利な特約であると評価せざるを得ないのでは ないかと思われます。

ただし,免許証の色の問題につきましては,ご承知のとおり保険法部会で も取り上げられたところですが,免許証の色に応じて保険料を細分化するこ とでリスクに応じた保険料を実現しようとする,そのような商品設計には合 理性があるというのが保険法部会でのコンセンサスであったと思われますし,

この商品設計を維持するためには正しい告知をしてもらうインセンティブを 確保する必要があるということも事実ではないかと思います。そのため,免 許証の色の問題につきましては,告知義務違反による制裁が一切認められな いような,そのような解釈が適当でないということについては保険法部会の 中でも共通の認識ではなかったかと思われますが,その理論的な根拠である とか合理的な制裁の範囲がどこまでかということについては,保険法部会で は必ずしも意見が一致していたとは言いにくいところではないかと考えてお ります。

この点は個人的な意見ではありますが,免許証の色の問題につきましては,

合理的な商品設計を維持するために一定の制裁が不可欠であるということを 出発点として考え,この商品設計により保険料を低く抑えることができるメ リットと,制裁として課される保険金の減額によるデメリットとのバランス が取れているのであれば,全体として不利な特約には当たらず,片面的強行 規定にも反しないという解釈が可能ではないかと考えております。その意味 では,先ほどご指摘をいただいたプロラタというものを導入することで制裁 を緩和するというのも,バランスが取れているかを判断する要素の一つであ

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ると考えられますが,それだけで合理的な制裁といえるのかについては,若 干疑義もございます。

そこで,例えば,うそをついても保険金が減額されないということを知っ て契約に入る悪質な場合を排除する必要があるという観点からすると,重過 失による告知義務違反については保険金を減額せず,あくまでも故意の場合 にだけ制裁を課すというような形にすることで,必要以上に重い制裁となら ないような工夫をし,それを先ほどのプロラタという形と組み合わせること で,要件自体も通常の告知義務違反の場合より絞り,かつ,効果の点でも制 裁を緩和をしていくことで,全体として不利な特約に当たらないという解釈 を導く余地もあるのではないか。もちろんこれは解釈問題ではありますが,

免許証の色という告知事項の特殊性にかんがみ,そのような約款の定めをす ることも一つの方法として考えられるのではないかと個人的には思っていま す。

この点については,先ほど村田先生から故意・重過失の要件,それから因 果関係不存在則の片面的強行規定というのは,それぞれ独立的に有利・不利 というのを判断すべきであるというご指摘をいただきました。ただ,告知義 務に関する規定は,契約の成立段階,それから解除・終了段階,それから解 除の効力というように分けて規定を設けておりますが,これはすべて一連の 規定であるという整理ができると思いますので,そのような一連の規定の中 でそれぞれの要素を総合的に見て不利な特約に該当しないかどうかを判断す るという手法は,必ずしも否定されるものではないと考えています。

次に移りまして,危険増加に関するいくつかの論点を山本先生に取り上げ ていただきました。その中で 危険増加による引受範囲外の場合を契約で明 示する必要があるのか という点についてご指摘いただきました。保険法で は,保険料を増額することによって契約を継続することができる場合につい てのルールしか定めておりませんので,それ以外の引受範囲外の場合に当該 ルールによらずに保険者からの解除を認めるということ自体は可能であると 思います。ただし,あくまでも契約である以上,約定の根拠なく保険者の解

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除権が導かれるわけではありませんので,約款などに解除権の定めが必要で あるということはまず当然のことであると思いますし,どのような場合に解 除が可能であるかということについても,これもまた契約の一内容となって いなければ有効な解除権の根拠とはなり得ないのではないかと思います。

例えば,仮に保険会社の内規といった契約者の知り得ないところで定めら れたものがあったとしても,これが当事者間の合意の一部を構成するとは一 般には考えにくいのではないかと思われます。また,引受範囲内のルールを 片面的強行規定として,危険増加があった場合でもできるだけ契約が継続さ れるようにして契約者保護を図ろうとしている保険法の趣旨を考えると,ど こから先が引受範囲外であるかということが契約者の側に知らされていなけ れば,契約者にとっては不意打ちによって契約が解除されるという結果にな りますので,これでは危険増加の場面での契約者保護が十分に実現されない ということになると思います。言い換えると,いくら引受範囲内のルールを 厳格に定めたとしても,引受範囲外との境界線があいまいであれば,契約者 にとっては予見可能性がないということになりますので,引受範囲内のルー ルを片面的強行規定として厳格な規定を置いた趣旨にも反することになりか ねないのではないかという懸念があります。これらの理由から,引受範囲が どこまでかというのは当事者間の合意の内容になっていることが必要である という解釈が導かれるものと考えています。

続きまして,山下先生にご担当いただきました 生命保険契約・傷害疾病 定額保険契約の課題 についてコメントをさせていただきます。山下先生に は保険金受取人の変更に関するさまざまな論点を取り上げていただきました が,事実認定の問題に関わる部分も多くございましたので,それについては ここではコメントを差し控えさせていただきまして,その中で 一定の書式 によって行われなければ変更の効力が生じないとすることの当否 という問 題についてご指摘いただきましたので,この点について若干コメントをさせ ていただきます。

ご指摘いただいたとおり,一定の書面性を要求することによって,変更の

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意思表示が明確にされているかを判断するのに役立つということは否定でき ないと思います。ただ,保険会社が定める一定の書式による意思表示でなけ れば受取人変更を認めないとすることは,意思表示の方法を強行規定として 定めるとともに,通知の発信時にさかのぼって効力を生ずるとして,できる だけ契約者の意思を尊重しようとしている保険法の趣旨から考えても,やは り疑問があります。保険契約者の意思を確認するために変更書類の提出を求 めるということ自体は否定されないものの,保険事故の発生前に,仮に口頭 であっても明確な意思表示がされている限りは,変更書類の提出自体が保険 事故の発生後になった,あるいは最終的に提出がされなかったとしても,法 律上は有効に受取人変更の効力が生じているものと解釈せざるを得ないので はないかと思われます。

次に,受取人変更の問題と受取人の死亡に関するルールとの関係について もご指摘いただきました。保険法では,契約者の意思により受取人を別人に 変えることを 受取人の変更 として整理をしており,受取人が保険事故発 生前に死亡した場合に,保険契約者の意思によらずに相続人が新たな受取人 となる 受取人死亡 のルールとは区別をして規定しています。従いまして,

山下先生からご指摘いただいたとおり,保険契約者による受取人変更を認め ないという約定が仮にあったとしても,これによって直ちに保険法46条の受 取人死亡のルールの適用まで排除されることにはならないと考えています。

最後に,米山先生にご担当いただきました 保険理論から見た保険法 と いう問題についてですが,米山先生からは保険理論の立場から興味深いご示 唆を多数いただきました。私自身,経済学の素養がありませんので,中身の あるコメントができない点についてはご容赦いただきたいと思います。

ただ,一つ非常に興味深く拝聴させていただいたのは,保険法では危険増 加を 告知事項についての危険が高くなり保険料が不足する状態になるこ と という形で定義をしておりますが,ここでいう 危険 という言葉は,

保険法上は保険事故や損害の発生の可能性を指すということになりますので,

保険理論における期待損失額の増大要因のうちの一部しか保険法の危険増加

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のルールではカバーされていないという分析をしていただいた点です。

まさにご指摘のとおり,保険法での 危険増加 というのは,特定の意味 を持った,いわゆる定義語として定められていますので,この危険増加の定 義に該当しないような期待損失額の増大があった場合に,どのような契約法 上の制限が働くのかということについては,危険増加の片面的強行規定の射 程が果たしてどこまで及ぶのかという問題とも関連して,非常に興味深い問 題を提起しているものと思われます。この点につきましては,いただいたご 示唆を踏まえて,私自身,今後検討を深めてまいりたいと考えています。

最後になりましたが,本日はコメントのために与えられていた時間の都合 もあり,各先生方に取り上げていただいた論点のうち,一部にしかコメント をすることができませんでしたが,保険法の立法趣旨との関係でご議論をい ただく上で少しでもご参考になれば幸いです。

[司会]嶋寺先生,ありがとうございました。4人の先生方のご報告に対し て横断的に1人で引き受けていただきまして,非常なご負担をおかけして申 し訳ございません。的確なコメントをいただきまして,これを議論のきっか けにして前へ進みたいと思います。

そこで,ここからはパネルディスカッションの時間であります。まずは壇 上に上がっていただいておりますご報告者の皆さまと,それから嶋寺先生も 加わっていただきまして,今コメントをいただきました部分から進めてまい りたいと思います。

最初,村田先生のところにつきましては,3つほど,主要3つでしょうか,

契約類型の問題と,それから絶対的強行規定などの性質の問題,さらには詐 欺的請求と重大事由解除の問題点,こういったところを取り上げてコメント をいただきましたが,村田先生,反論的コメントというのはありますでしょ うか?

[村田敏一]反論というほどのことではありませんが,まず,1点目の契約

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類型間の規律の相違の合理性についてですが,立法過程での議論を踏まえて も,必ずしもその相違に論理的整合性はないということをお認めになりつつ,

これはこれで一つの割り切りを行ったという嶋寺先生のご理解かと思います。

立案担当者の立場としては,一度,立法がなされると,ある種の内容の無謬 性を主張していく立場となりますから,そうしたお立場は,十分に理解でき ます。私もいまさら,この点につき,解釈論としてどうのこうのしたいと言 っている訳ではないのです。ただ,そこはやはり民事基本法としての体系性 の問題,すなわち,どこまで体系性の見地から規律内容が美しいかという問 題もあり,そうした体系性の面からは若干の不整合があるというご認識を立 案担当者も抱いておられるということであれば,それで結構かと思います。

次に2点目の強行規定の規律の性格については,基本的に私の理解と同じ ような整理をされているようですので,特にコメントすべきことはないので すが,ただ1点,これは細かなことなのですが,超過保険に関する9条但書 きの約定保険価額の定めに関する規律について,これを強行規定として整理 することは,もちろん妥当なのですが,その説明の仕方として 当事者間の 約定によって変更することは予定していないため強行規定である と説明さ れます。例えば,会社法でも,いわゆる定款自治の範囲につき限度を付して 定款自治を許容する場合があるわけですが,それとの対比では,9条但書き については,約定保険価額方式を採れば,自働的に9条本文の規律が適用さ れないという意味において強行規定であるという,多分,そうしたご理解だ と思います。この点,若干,その意味・文脈が取りにくかった面があるので,

少し補足説明していただければ有難く思います。

3点目は 重大事由解除と詐欺的保険金請求 に関する論点についてです。

この点も,基本的には嶋寺先生の解釈に私も賛成する訳ですが,やや厳しい 言い方をしますと,約款における規定振りが抽象的なものであってはいけな くて,不実申告や過大請求という抽象的文言で議論するよりも,保険事故の 内容,不実申告の対象になった事故や,過大請求の程度,保険会社による事 実確認の容易性を総合的に加味して合理的な範囲を,約款文言に規定すべき

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ものとされます。これは,最高裁がよく判例で使うような総合判断基準なの ですが,それ自体,実は抽象的であって,こういった規定振りが果たして無 効とされずに約款に落とし込めるのか,ということを考えると,実は極めて 難しいものと考えられます。現に,来年春の施行に向けた金融庁との約款改 訂折衝は,既に各社とも基本的には済まされていることと思いますが,こう いう抽象性のない具体性ある約款の規定振りであれば許容されることがある とされつつ,実は,その基準自体抽象的であって,果たしてそれが無効とさ れずに認可されるかと言えば,やはり難しいような気が致します。結局のと ころは,具体的に文言化することは無理だから,約款への例外の規定は諦め なさいと,何かそういうふうにも取れる訳であります。プロラタ主義の採用 と因果関係不存在則排除の問題とかゴールド免許の問題,そのことは,後の 山本先生のご報告内容にも絡みますので,またそこで議論させていただけれ ばと思います。

[司会]ありがとうございます。嶋寺先生,再度コメントをお願いします。

[嶋寺]はい。いくつかご指摘をいただきましたが,最初の 契約類型間の 規律の相違 につきましては,必ずしも論理的に一環しないというわけでは なく,説明の仕方やアプローチによっては説明がしにくい部分があることは 否定しませんが,一定の整理のもとで保険法部会でのコンセンサスを得てで きたという経緯がございますので,この点は申し上げておきたいと思います。

次に,強行規定の点についてですが,9条のただし書は 以下の場合には 9条の本文を適用しません という,条文の適用関係を定めた規定ですので,

その意味では強行規定という整理でないと,法律の適用関係についてまで当 事者が自由に約定できるというのは,やはり性質上説明ができないのではな いかという趣旨で申し上げました。

最後に,詐欺的請求の問題につきましては,厳しいコメントをいただきま した。重大事由解除については,今回法制審において時間をかけて議論がさ

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れ,その中では,免責の効果をどこまで及ぼすべきなのかということも議論 した上で,重大事由が起きた後の事故について免責をするということが法律 上も明確に定められています。そのような立法過程の議論を踏まえた解釈と しては,極めて限定的な場面では何らかの制裁を課すことが許容されるとし ても,どのような理由でその制裁を合理化するのかという観点から慎重に検 討すべきであって,不実申告一般について許容されるかどうかという抽象的 な形で議論するのではなく,対象となる事項ごとに分析的に検討しないとい けないのではないかというのが以前から私自身の持っていた問題意識です。

片面的強行規定についていろいろな機会に説明しているとおり, 規定自 体は広く書いておいても,実際には片面的強行規定に反する部分だけが無効 になるので問題ない という発想は,今回保険法で片面的強行規定を設けた 趣旨に最も馴染まないところではないかと思います。保険法よりも不利な特 約というものが無効になってしまうからこそ,約款規制という言い方が適切 かどうか分かりませんが,約款自体として保険法の片面的強行規定のスコー プに納まるような規定を設けることが要請されることになると思われます。

このような片面的強行規定の考え方からすれば,今ご指摘いただいたとおり 場面を絞って適切な制裁を課すということが規定上できないのであれば,結 局はそういった規定を約款に設けることは難しいのではないかと思います。

[司会]ありがとうございました。立案担当者からお話を伺うとかなり説得 力があるという感じがいたします。そのほかの点で,ご意見などがパネラー からありますでしょうか?

それでは時間の関係もございますので,進ませていただきます。次に山本 先生の担当部分についてコメントをいただきましたのは,とりわけ因果関係 不存在則に関わるところと,それから危険増加の問題です。これについて山 本先生,いかがでしょうか。

[山本哲生]嶋寺先生,どうもありがとうございました。まず,因果関係不

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存在則についてですが,私は非常にゆるいことをいっていたわけです。一定 の場合にはプロラタ的にすれば因果関係不存在則は外してよく,免許証の色 の問題の場合にはさらに外してよい場合が広がるというようなことをいった わけですが,嶋寺先生は,原則はプロラタにして因果関係不存在則を外すと いうようなものは不利な特約であるけれども,免許証の色については,それ はまた特別であると,こういう商品が合理的であるということと,告知をす るインセンティブを確保するということからいろいろと考えようという解釈 ということでご指摘いただきました。

一般的に見ればこちらの方が妥当なのかなという気はいたしますが,私も よく分からないところは,要するに一般論として因果関係不存在則を外して プロラタにするというようなものが一般的には契約者にとって不利であると いう理解に立ってしまったうえで,この免許証の色のようなケースについて,

この商品の合理性を担保するというようなことと,契約者にとって不利かど うかが連動して説明できるのかどうかということです。

また私みたいにゆるやかにやってしまっていいのかということで,これに ついては困っているのですけれども,基本的には,これは因果関係不存在の 特則が非常に変わった規定であって,この規定の趣旨から契約者について不 利かどうかの判断基準も考えていくという説明をすることになるのかなとい うように今のところは考えています。どういうことかと言いますと,因果関 係不存在則というのは,そもそもいろんな契約者がいて,それを全体をひっ くるめて告知義務違反の効果を妥当にすると,そういう形でバランスを取ろ うとするという趣旨が含まれているものだと思います。そういう趣旨からす ると,全体的な見地から契約者にとって不利かどうかを判断するというのは やはり許されていいのだろうということです。したがって,因果関係不存在 則に限っては許される余地があるのでないかと,そういう理屈を立ててみる のはいかがかというふうに今のところは考えています。ただ,細かい要件に ついては,私自身あまり詰めて考えてはいないのですが 故意に限る とか,

そういう要件は工夫する余地はいろいろあるのだろうと思います。因果関係

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については今のところそのように考えているということです。

それから,危険増加につきましては, 約款に解除権の定めを書かなくて も解除はできる ということをいっているわけではありません。解除権の定 めを書くことは有効ですが,ただ,その背景として,解除権の定めを書かな い場合に,当初の契約で引き受ける範囲が決まっていて,保険料増額という 範囲も契約で定められていることから,それ以外の場合で危険が増えている 場合は,引き受け範囲外と解するのが合理的なのではないかと考えます。引 き受け範囲外だったら引き受けていないのだから保険者は保険金支払い義務 を負わない。したがって解除権を書くのは当然構いませんねと。解除権を書 くとしたら,もちろんどういう場合に解除できるかというのは書くことにな るだろうと思います。ただ,そこの最初の発想のところが少し違っていて,

保険法の趣旨から契約者保護的なことが出てくるかどうかという理解は,や はり多分違っているのだろうと思いますが,ここは考えてみたいと思います。

[司会]共通の理解はできているということなのですかね?大分,ずれてい るという感じもしますが。

[山本]ずれているとは思います。

[司会]これは,嶋寺先生どうでしょうか。

[嶋寺]1点目の因果関係不存在則の点についてご指摘いただいたのは,集 団全体の中でみれば因果関係不存在則によって利益を受ける人とそうでない 人とがいるものの,全体としてはバランスが取れているという趣旨ではない かとお聞きいたしましたが,やはりそのような集団でものを考えるというこ とは,今回の保険法の中ではなかなか馴染まないのではないかと考えていま す。あくまでも今回の保険法は,一契約者と保険者との間のそれぞれの契約,

個々の契約ごとに物事を判断していくというのが基本的な発想ではないかと

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思います。そうだとすると,片面的強行規定の解釈においても,やはり最終 的に行き着くところは,個々人にとって不利な特約に当たらないかという観 点でものを考える必要があるのではないかと思っています。

先ほどの免許証の色の問題に関していえば,当該その人にとっても保険料 が安くなるという利益を受けている点はある意味メリットと考えて,そのよ うな安い保険料の利益を受けるためには,一定の制裁を課すことでもって,

正確なことを言ってもらうインセンティブを確保しないといけないのではな いか。そういう要請に基づくものなので,保険料が安くなるという利益を受 けている裏返しとして一定の制裁,正しいことを言ってもらえなかった場合 の制裁を課すことは,個々の契約単位で見ても不利な契約に当たらないとい う説明が可能なのではないかという趣旨で申し上げました。

それから,引受範囲外のところにつきましては,私も山本先生とそれほど 大きくはずれてないのではないかと感じています。つまり引受範囲がどこま でなのかということは,先ほど申し上げたとおり契約の中身になっていない といけない,合意の中身になっていないといけないということです。合意の 中身になっているかどうかというのは,もちろんさまざまな要素を加味して 判断されるわけですから,例えば保険料増額の範囲を示して,この限度で保 険料は取っていきます,それを超えると対応する保険がありませんというこ とを何らかの形で示していれば,それがまさに引受範囲を画する合意の一要 素だという判断がされる可能性はあると思います。ただ,やはりその引受範 囲内・外ということによって,適用されるルールが変わってくるということ がありますので,境界線は極力明確にしておくことが望ましいという観点で 申し上げました。一つの方法としては,重要事項説明書などの中でその引受 範囲というものを明示的に示していくということが実務的な対応として考え られるのではないかと思っています。

[司会]ありがとうございました。この点については先ほど少し村田先生が 発言したいというようなこともおっしゃっていましたけど,これは後に回し

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ますか?

[村田]いえ。今,コメントさせて下さい。

[司会]ええ,どうぞ。

[村田]因果関係不存在則の約款での排除と,プロラタ主義の採用の問題に ついては,私もいろいろ考えてみたのですけども,まず,立法論的に言えば,

因果関係不存在則というのが,新保険法でここまで厳しい片面的強行規定と して位置づけられていることに関しては,本当にそれが妥当なのかなという 気持ちは私にもあります。保険契約継続中に告知義務違反で解除する場合に は,そもそも因果関係不存在則は働かないわけですが,その一方で,事故発 生のときになって告知義務違反が判明した場合,ほとんどは後者の場合です が,そのときは因果関係不存在則が働いて,解除しても免責にはならないケ ースが生じます。こうしたある種の不整合があることから見れば,確かに立 法論的には少し疑問が残るなというのは,この点については,私も山本先生 と同じ認識です。

ただし一方で,保険法の解釈論としてどうかということになると,また別 です。私は,厳格な文言解釈を貫き,山本先生は,ある意味で群団主義的な 解釈を採られ,嶋寺先生は,その間でバランスを取ろうとされているように 思われます。まず,少なくとも前提としては,嶋寺先生もおっしゃるように,

保険契約法というのは個々の契約関係の規律を任務としているわけですから,

片面的強行規定の解釈としては,私が今日の発表で述べましたように,有利 になる者,不利になる者がいるとして,群団としてではなく,個々の被保険 者等の単位で見て,一部でも不利になる者が存在すれば,それは片面的強行 規定に違反するものと解されます。その上で, 一問一答 保険法 という 本において,要件・効果を工夫することによって片面的強行規定違反とはな らない約款の規定振りとする余地がありえるとされていることを踏まえ,そ

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の具体的な要件・効果が何かということが問題となります。

この点に関する嶋寺先生の個人的な提案ですが,これは要するに,免許証 の色のような告知事項については,およそ因果関係というものはないのだか ら,因果関係不存在則は常に空振りとなって,それでは制裁効果は期待でき ないというお考えだと思います。そういった種類の告知事項については,因 果関係不存在則の排除とプロラタ主義の採用を故意の場合だけに限定して約 款規定する,一方で,重過失の場合は,法の原則どおりとするというお考え と理解されます。つまるところ,合わせ技といいますか, 合わせて一本 的な発想です。ただし,法律文言上,ギシギシと解釈していくと,これは嶋 寺先生もお気づきだと思いますけども,いくら故意に限定してプロラタ主義 としても,因果関係不存在則を排除すると,やはり一部の被保険者は,法律 上の片面的強行規定よりも不利に扱われますから,杓子定規な文言解釈をす ると,やはり,片面的強行規定に反するものと考えられます。

また,実際的な問題として,このようなご提案を評価してみますと,前提 として,プロラタ主義とは一体何かという問題があります。プロラタ主義と いうのは,一般的には,法制審議会で提案されたような保険金を比例削減す る態様のものと理解されますから,その場合,これはまさに一部免責となり,

免責に関する因果関係不存在則が適用されます。しかし,一方で,考えられ る他のプロラタ主義の態様としては,例えば,これは制裁的効果は弱いわけ ですけれども,正しく告知していれば本来支払うべき保険料の増額部分を保 険金と相殺するというような態様のプロラタもあり得ますが,その場合は,

一部免責とはいえないので,そもそも免責に関する規律である因果関係不存 在則の射程外となる余地はあるのではないかと思います。

嶋寺先生がご提案されたような要件・効果に関しては,諸外国でのプロラ タ主義の採用例を見ると,むしろ故意の場合はオールオアナッシング主義を 維持して,重過失の場合のみプロラタ主義を採用するものが多い。ご提案は,

それとは逆転した形で,故意の場合に限定してプロラタとするため,比較法 的には少し違和感があるかと思います。また,故意の場合に限定して因果関

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係不存在則を排除するというご提案ですけれども,皆様ご案内のように,プ ロラタ主義の採用が見送られた一つの大きな理由として,故意と重過失とい うのは裁判実務上なかなか判別できない,故意が直接立証できないので重過 失にもっていって制裁しているという実態がある。故意に限定してプロラタ 主義を導入しても,実際には,故意はほとんど問えないのではないかという 問題意識もあります。ただ,その点について,さらに考えてみると,免許証 の色のようなものについては,ある程度,故意が推認・認定できるケースが 多いから,他の事例に比べて,故意の場合も立証されやすいのではないかと いう気もします。少し堂々巡りした議論をしましたが,以上のような感想を 抱きました。

[司会]ありがとうございました。もうこれはよろしいですね。ここでは意 見が分かれて,これ以上議論してもかなり限度があると思われるので次へ進 ませていただきます。

山下先生の担当部分ですが,そこは受取人変更に関する,比較的個別論点 です。コメントで取り上げていただきましたのは,書面性を要求するという ことがどうかという問題などです。それから,受取人死亡のルールに関する 問題点です。山下先生の報告の中では大分,端折っていただきましたので,

何か付け加えて報告いただける部分がありましたら合わせてお願いいたしま す。

[山下典孝]若干お話したところではありますが,レジュメの6ページ,7 ページの遺言による受取人変更についてのところで,これも先ほど述べたこ とに該当するのですけれども,民法の遺言に関する規定と,遺言自由の原則 との関係,レジュメでいうと8ページのところです。いわゆる 通常の保険 金受取人変更の範囲を一定の者に限定する旨の条項を置いているうえで,遺 言による保険金受取人変更を約款などで認め,その範囲については,一般原 則を設けた条項と同様に一定の範囲の者に限定した変更しか認めないという

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ような条項を置くことができるかどうか というようなことです。

基本的には生命保険会社の約款では,このようないわゆる生前の変更のと きに受取人の範囲を一定のものに限定するというようなことは基本的にない と思いますので,そうすると遺言による受取人変更についても制約を設ける ことはないだろうと考えます。ところが共済団体については,場合によって はその共済の目的との関係で生前の変更のところで何らかの制約をかけると いうようなことがあるかと思います。その場合に一番の前提条件としては多 分,遺言でできるという部分を規約などで排除することができるのかどうか というふうな点,そこが第1点の問題になるのだろうと思います。さらに,

そのような制限ができるということを前提にしながらも,一定の範囲に制限 することができるのかということについては,解釈論としてレジュメの8ペ ージで若干検討しております。

あとは受取人の死亡についての細かい点ですが,これも受取人が存在しな いというような,まったく受取人の相続人が存在しない場合にどうなるのか ということが,いまだに私自身ははっきりしないということです。契約者自 身が受取人になるというように解釈していいのかどうかということについて は,見解の相違が多分あるだろうというふうに考えております。

さらに,同時死亡の場合も契約者兼被保険者と保険金受取人が同時に死亡 したときに,その相続人の範囲について,旧来は受取人の次順位の相続人と いうのは多分入らないだろうというように私は考えていたのですが,場合に よっては受取人の次順位の相続人というのも解釈としてありえるのかなとい うふうにも若干,考えているところです。

[司会]よろしいですか。最初の遺言のところはやや難しいお話なのですが。

これは嶋寺先生,ご用意ございますか?

[嶋寺]はい。

(19)

[司会]ここは先ほど,山下先生も時間がなくて端折られたところです。具 体的には共済などの約款で,あるいは生命保険会社もまったくないとは言い 切れないかと思うのですけれど,受取人の変更範囲,これを一定の親等の者 に限定するというような約款を作ったときに,その範囲外の人を遺言で指定 している,変更しているという場合にそれが有効なのかどうかという問題提 起です。この点は,先ほどの山下先生の説ですと それは拘束されているの でそういう範囲外の変更は無効です。そういう遺言事項は無効です という 立場です。これについて嶋寺先生,いかがでしょうか。

[嶋寺]先ほどご指摘いただいた点につきましては,まず基本的に今回の保 険法の建て付けとしては,生前の意思表示による受取人の変更と,遺言によ る受取人の変更というのを別々の規定で設けているわけですが,その立法に 至る過程での議論としては,遺言によって受取人変更を行うという余地も認 めてはどうか,裁判例も分かれ,争いがあるところなので,法律上そのよう な方法も可能であるということを明示してはどうかという意見があり,その 議論の延長に今のルールがあると理解しています。そうすると,消費者契約 法の問題は別として,遺言による受取人変更という方式を認めないという約 定自体が完全に否定されるということにはならないのではないかと思ってい ます。

仮に遺言で認めた場合に受取人の範囲はどうなるかという点ですが,これ も基本的には生前の意思表示によるものについても受取人を一定の範囲の人 に限定する(例えば,親族などに受取人変更できる範囲を限定する)という ことも一般には可能であると考えられていますので,これとパラレルに考え れば,遺言による場合であっても,どの範囲で受取人が変更できるかという ことについては約款なり商品の制約というものが及んでもおかしくはないの ではないかと思います。ただし,この点について断定的に申し上げにくいの は,遺言という要式行為については,遺言そのものが持っている強行規定性 ということによって,どのような変容を受けるかということにつきまして,

(20)

まだ検討が十分でないと思うところがありますので,この程度のコメントに させていただければと思います。ほかの点もよろしいですか?

[司会]どうぞ,仰ってください。

[嶋寺]それでは,受取人死亡について,相続人が存在しない場合はどうな るのかという点ですが,これはそもそも受取人死亡のルール自体が任意規定 であり,当事者間に約定がなかった場合の,ある意味補充的な性質を有する ものであると思いますので,相続人がいない場合にどうなるのかというのは,

むしろ約款の中で定めておくべきことではないでしょうか。解釈論としては,

自己のためにする契約になるのではないかということもいわれていますが,

どちらかというと,その解釈に委ねるというよりは,本来は約款の中で定め ていくべき事項ではないかと思います。

同時死亡の問題につきましては,法制審議会の議論の中で直接それを取り 上げて,各ケースについてどのようなルールが及ぶかということを整理した わけではありませんので,ここは解釈論になるのではないかと思っています。

[司会]ありがとうございました。先ほどの遺言による受取人変更の部分に つきましては,まだいろいろご意見もあるのですが,山本先生や村田先生も 何か言っておられたようなので,コメントされますか?

[村田]保険法の解釈として,約款で遺言による受取人変更方式を排除する ことに関してですが,この点は,43条による通常の受取人変更も同じですけ れども,遺言による変更方式を排除することも,任意規定としての44条1項 の解釈上,認められるわけです。そうすると,勿論解釈をして,そんなこと すらできるのだから,当然,約款において遺言による受取人の変更範囲につ いて限定を付すことも,保険法の世界ではできるものと解されましょう。こ れはもう,そのとおりだと思います。問題は,他方で,民法・家族法におけ

(21)

る遺言自由の原則といったものも存在する。その理解のあり方にもよるので すけども,遺言自由の原則というものを,法定範囲内での遺言行為について は,できるだけ遺言者の意思を尊重するという意味で限定を付すべきでない との原則として理解し,その点を強調したときに,遺言内容を限定する約款 を書いていると,約款自体が無効とまではいえないけれども,約款での規定 範囲外の者に遺言によって受取人変更したときに,その効力が争われたとし て,果たして裁判所がどういった判断をするのかなと考えると,場合によっ ては制限解釈される余地もあるように思えます。

約款で範囲限定している範囲内の者が全くいなくなっているときは,少な くとも範囲外の者への遺言での変更が認められると思いますが,それ以外の 場合でも,そういう約款での範囲限定を十分了知していなくて範囲外の者へ の変更をしたというときに,その変更が無効とは,なかなか,ならないと思 うのです。裁判所が,どのように考えるか,遺言自由の原則との関係でいろ いろな解釈余地があるような気がいたします。

あと,受取人先死亡に関するデフォルトルールとしての46条というのは非 常に美しいシンプルなルールですが,当然,約款による補充・明確化をある 程度,予定しているものですから,嶋寺先生が述べられたように,同時死亡 の場合の扱いなどは,約款で明確化しておけばよいということだと思います。

[司会]ありがとうございました。最後に米山先生の担当部分で,ここは嶋 寺先生もやや慎重なコメントでした。米山先生から,さらに何か補充される ことがありますか?

[米山高生]簡単に1点だけ。逆に伺いたいことがあるのですけれども。今 度の新保険法は,いわゆる定義語,定義がかなりたくさんあります。ただし 保険料については定義されてないので,それはよかったなと思います。それ はさておきまして,こういった定義語を法律においてはどのように考えてい いのかということについて質問したいと思います。

(22)

まず,危険の増加に関しては29条の本文の括弧書きで 告知事項について の危険が高くなり,保険契約で定められている保険料が当該危険を計算の基 礎として算出される保険料に不足する状態になる と定めがあるのですが,

この定義はトートロジーで,危険の増加を定義するのに中に危険が入ってい ます。私自身は法律はロジックの塊だと思っていましたが,やはり数学と法 律のロジックでは違うのであると悟ったのですが,この点についてどう考え ればいいのかということを伺いたいと思います。

あと,別途,危険の定義が4条でありまして,こちらの定義はシンプルで 損害の発生の可能性ということです。したがって期待損失を構成するひとつ の要素である確率であると見ていいと思います。 危険 と 危険の増加 という二つの定義を解釈するときに,先に出た定義を後で使われる定義に当 てはめて解釈することは法律のロジックとしては自然なのか。すなわち 危 険の増加 の 危険 は先に定義されている 危険 と同じなのか,あるい は 危険 と 危険の増加 というのはまったく別の説明,定義だから,こ れは独立しているのだと考える方なのか。以上の点について,何か教えてい ただければと思います。

[嶋寺]これは極めて立法技術的な話ですが,定義規定を定めるときに,別 のところで定めた定義語を使うということ自体はよくあることです。4条を 見ていただくと, 危険 のところに 以下,この章において 危険 とい う と書いてありますので,この規定だけでなく, この章 つまり損害保 険の章全般について同じ意味でこの 危険 という言葉を使うこととされて います。そのため,それが定義規定の中に入り込んできた場合であっても同 じ意味として使われるという整理になると思います。

[司会]米山先生よろしいですか。

[米山]結構です。

(23)

[司会]それでは一応,パネラーの方の相互の確認的議論と申しましょうか,

そういうところは終えさせていただきまして,今度はフロアの皆さまとの質 疑に移りたいと思います。本日は質問用紙などを用意しておりません。した がいまして,適宜挙手をいただき,ご所属とお名前をおっしゃっていただい て,ご質問をいただければと思います。それではいかがでしょうか。

[質問](洲崎博史)京都大学の洲崎でございます。免許証の色と自動車事故 の因果関係でご質問をさせていただきたいと思います。ご質問したいのは,

村田先生,山本先生,嶋寺先生です。

3先生とも免許証の色と自動車事故の間の因果関係はないというお考えに 立っておられるように伺いましたので,その関係で質問させていただきたい と思います。

最近のリスク細分化がなされた自動車保険商品では,記名被保険者の免許 証の色を聞くことが多いわけですが,保険者としても免許証の色そのものを 知りたいわけではなくて,過去5年内に交通違反があったかどうかというこ とを知りたいがゆえにそのような質問をしていると考えられます。正確にい うと過去5年間の交通違反の有無ではなく,5年間交通違反のない期間が最 近あったかどうかということになるのでしょうが。しかし,それを直接質問 しても契約者の方はすぐには分からないので,分かりやすい質問として免許 証の色を聞いているということだと思います。そして,保険契約者の方も,

保険者が免許証の色そのものを知りたがっているのではなく,過去5年間に 交通違反があったかどうかを知りたいのだということを了解して,質問に答 えているのだろうと思います。

ですからこの問題は,免許証の色と自動車事故の間に因果関係があるかど うかという問題設定をするよりも,過去5年内に交通違反があったかどうか ということと,自動車事故の間に因果関係があるかどうかというように問い 直すべきだと思います。そのように問い直した場合でも,やはり因果関係は ないとお考えになるのだろうか。3人の先生方は,そのように問い直した場

(24)

合でも,おそらく因果関係はないと割り切って考えられるのではないかと推 測いたします。

仮にそのように割り切った場合の理論的な根拠というか考え方としては,

交通違反があったかどうかというのは過去の話なので,交通違反を過去にし たことがある人は将来も交通違反,そして交通事故を起こしやすいという,

そういう統計的な事実というか,あるいは相関関係というのはあるとしても,

それはあくまでも相関関係であって因果関係とはいえない,保険法の因果関 係不存在則でいうところの因果関係ではないから,因果関係はないとお考え になるのかなと推測いたします。それは1つの考え方だろうと思うのですが。

しかしながら,例えば責任保険,特に専門家賠償責任保険のようなケース では,リスク測定をするにあたって,被保険者が過去に損害賠償責任を負担 したことがあるか,あるいは責任追及を受けたことがあるかどうかというの は,将来のリスクを測定する際の重要な質問事項になり得ると思います。過 去に交通違反があったかどうかは将来の事故とは因果関係がないと考えられ る方々は,例えば,専門家賠償責任保険において過去に損害賠償責任を追及 されたことがあるかどうかということは,将来の保険事故とは因果関係がな いというようにお考えになるのでしょうか。つまり,過去のことについてう そをついても保険者は免責を主張できなくなると,そういうふうに割り切ら れるのか。理論的にはそのように割り切られる方が首尾一貫しているのかな と思うのですが。

しかしそうなると,保険者としては非常に困るのではないかと思うのす。

それでもよいと割り切られるのか,それとも,過去の交通違反と将来の保険 事故の間には因果関係はないけれども 損害賠償責任を負ったことがあるか どうか と将来の保険事故は因果関係はあるというように考えられるのか,

そのあたりをお教えいただければと思います。

[司会]ありがとうございました。それでは順番にいきましょうか,村田先 生から。

(25)

[村田]まず,過去5年間の事故状況ということと,免許証の色との関係で すが,これは裏腹の関係ですよね。告知事項の聞き方を替えても,同様に,

因果関係はないというふうに思います。先ほどの私の報告の中でも触れまし たが,山下友信先生が,そういう確率論的な因果関係を認めるということと,

例えば高血圧であったら心臓疾患にこのぐらいの確率でなるだろうというこ とで相当因果関係を認めて解除・免責していることとの間に,あまり隔たり はないのだということを指摘されています。よく考えてみたのですけども,

やはり高血圧だったら確かにこの疾患になる確率は高いという面があるとと もに,高血圧によってこの疾患が引き起こされているという,やはり相当因 果関係がそちらにはあるけれども,免許証の色の場合は,これは単に確率が 高まっているだけで,個別的な相当因果関係はないのです。立法論としては ともかく,保険法の文言上はやはり,事故歴と告知事項を替えても,因果関 係はないと思います。

私も最初,保険法の因果関係不存在則の文言の書き振りが 基づき とな っていて,通常,相当因果関係を表す 因って ではないので,もう少し範 囲を広く解せるかとも思ったのですけれども,それはやはり商法の表現が 基づき だったので,それをそのまま引きずっているだけで,相当因果関 係を指すものと解される。そう解される以上は,やはり聞き方を変えても,

免許証の色と同様に,それは確率的因果関係にとどまっていて,個別的な相 当因果関係はないので,解除・免責の効果は得られないと思います。専門家 責任保険などでは,ご指摘のとおりと思うのですけれども,私の理解では,

そうした契約類型は,片面的強行規定が適用されない事業のための保険契約 ということになり,そこは自由に,約款で,因果関係不存在則を排除するこ とで解決できますから,特段の不都合は生じないのではないかと理解してい ます。また教えてください。

[司会]洲崎先生,反論していただいて結構です。

(26)

[洲崎]約款で排除していなければ因果関係不存在則は…。

[村田]片面的強行規定の適用外契約類型についても,デフォルトルールと しては機能していますから,約款で排除していない以上は,ルールが働いて いるものと解釈されるのではないでしょうか。

[洲崎]約款で特に定めていなければ保険法どおりになり,その場合,私は 因果関係はあると思うのです。村田先生のお考えだと,例えばお医者さんが あなたは医療ミスで責任追及されたことはありますか? という質問に対 してうそをついたとしても因果関係はないということになりますか…。

[村田]にわかには判断しかねますが,あるような気もします。ゴールド免 許の場合の純粋に確率的なものとは少し違うかなあとも思います。

[司会]順番にいきましょうか。山本先生,いかがですか。

[山本]ご指摘のとおり,多分,どちらも一緒に扱うのが理論的なのだろう と思います。どちらに扱うかということですが,保険法の文言が同項の事実

(保険31条2項1号但書)つまり告知事項に基づいてということなので,こ れをそのまま当てはめるというのが一応,私の前提だったのですが,それで いくと因果関係はない,どちらもないということで割り切るしかないと思い ます。それでいいかといわれると うーん… と思うのですが,とりあえず そうお答えするしかないかなというところです。

[司会]最後に嶋寺先生,お願いします。

[嶋寺]洲崎先生にご指摘いただいたところにつきましては,ここもやはり もう少し分析的に考えてみると,過去の違反歴の中にもさまざまなものがあ

(27)

ると思います。スピード違反を重ねている人がブルー免許になって,またス ピード違反をして事故を起こしたということであれば,それなりに因果関係 と近いものがあるのではないかという考え方があることも理解はできますが,

これに対し駐車違反をしていた人がブルー免許になって,それで事故を起こ したというのであれば,ここに因果関係があるのかと言われれば,やはり遠 いのではないかという気がいたします。もちろん因果関係は解釈の問題です が,出発点としては個々の事故との因果関係があるのかどうかというのを問 うものであると思います。スピード違反とか限られたケースについて 絶対 にない とまでは申し上げにくいですが,免許証の色に関しては一般的に事 故との因果関係がないという整理になるのではないかと思っています。

そのように考えますと,例を挙げていただいた専門家賠償責任保険につい て,過去に損害賠償の請求を受けたことがあるというのは,確かにどちらか といえば因果関係に近いものが認められる一例なのかもしれませんが,少な くとも村田先生からご指摘いただいたとおり,やはり企業保険,片面的強行 規定の適用除外のものにつきましては,因果関係不存在則は適用しないとい うことを約款で明示していくべきではないかと考えています。

[司会]洲崎先生,よろしいですか。

[洲崎]確かに,企業保険の話になると約款で因果関係不存在則をはずせば いいではないかという話になりますけれど,たとえば,自動車保険で,免許 証の色や交通違反歴ではなくて,まさに事故歴,損害賠償責任を負担するよ うな事故を過去5年に起こしたことがありますかという質問をするようなケ ースを想定していただいた方がいいのかもしれません。これは因果関係はあ るとお考えになるということでしょうか。しかし,免許証の色が因果関係な いという考え方をとるのであれば,これも因果関係がないということになる のではないかと思います。

(28)

[村田]私もないと思います。

[洲崎]まあ,いろいろな考え方があるとは思いますけれども。

[司会]村田先生は ない と言っています。

[洲崎]いやもう,結構です。

[司会]よろしいですか。はい,分かりました。意見の分かれるところはは っきりいたしましたので生産的であったかと思います。それでは,ほかの方 いかがでしょうか?はい,どうぞ。

[質問](堀田一吉)慶應大学の堀田といいます。私は米山先生の見解につい てもう一度正確なところをお聞きしたいと思って1つ質問させていただきま す。 危険の変動 というところで 危険の減少と増加のところでは考え方 に少し違いがあるのだ ということをお示しになっています。増加の方はそ のとおり理解できるのですが,減少の方はストレートに理解できないのは,

例えばこのω(危険確率)の減少について問題視しているのだといわれま したが,Z(保険金)の方にも影響があるのではないかと思います。むしろ,

米山先生がいわれるように期待値の問題として,危険確率と保険金額の両方 を解釈する方が素直だし,分かりやすいように思います。なぜ前半だけは危 険確率だけを問題視されて,そして保険金は除かれたのか,もう一度,お教 えください。

[司会]それでは米山先生,お願いいたします。

[米山]ご意見ありがとうございました。お配りしたハンドアウトの13ペー ジのところを見てください。ここで危険の増加と危険の減少の対応となると

(29)

いうことは,保険法においては,基本的に危険の減少は保険料による調整が 認められているにもかかわらず,危険の増加の場合はそれにやや制裁的なも のがあるという意味で対応が異なるといったわけです。危険の減少について,

ここではその違い,対応の違いということだけを述べたわけで,その背後に ある考え方までも違うとは申し上げておりません。それではその背後に,こ の危険の減少と危険の増加の背後にどういう考え方が,違いがあるかという のは,これは保険法の規定では特に述べていませんので,私としてはそこま では議論しておりません。

多分,堀田先生が気にされたのは16ページ,ここの保険料の調整可能性に ついてではないでしょうか。期待値を構成するのは 程度 の部分と確率的 な 変動 の部分の二つですが,保険法の場合は厳密に解釈すると確率論的 な変動だけが対象であるということなのです。堀田先生と同じように,私も,

もし保険理論的に考えれば増加においても減少においてもベースは同じだと 考えております。したがって保険法においての議論であることをご了解くだ さい。よろしいでしょうか。

[司会]堀田先生,よろしいですか。

[堀田]あまりよろしくないのですが。

[司会]それでは堀田先生,続けてどうぞ。

[堀田]時間もないので結構ですけれども。要するに,これをあえて危険の 減少と危険の増加を区別して捉えるのか,却って混乱をきたすのではないの かという疑問を感じたということです。米山先生ご自身がこのようにご理解 されたのか,それとも,そういう保険法部会のところで こういうような解 釈をしているのです と,そういうことなのかを確認したかったのです。

(30)

[米山]部会の解釈ではありません,私の解釈です。ただ,逆にお聞きした いのですが,そのPとZとおっしゃる意味が今ひとつよく分からないのです。

Zというのは保険金のことですが,どこにどういうふうにZを入れて解釈さ れるか,そのあたりをお示しいただかないと先生のおっしゃることを理解で きないのですが…いや,ここでは保険法の危険の変動の解釈において,危険 の変動を,保険料で調整ができるかできないかということを議論しているわ けなのですけれども,この議論のなかで,堀田先生は Zを入れなければい けない といわれたのですが,Zを危険の変動の調整に用いるべきであると いうのでしょうか。どのように入れたらいいのかということをお示しいただ かないと…。

[堀田]少なくとも私が言ったのは,危険の減少といわれるけれども,例え ばZだって保険料に影響するわけですよね。

[米山]Zというのは保険金ということですね。

[堀田]保険金というのは要するに対象となる自動車保険金額ですね。それ に直接影響する要素として,例えば何でもいいのですけれども,自動車だっ て新しく小型にしたり,変われば当然違ってくるわけです。

[米山]大型から小型にするというのはZというよりも,理論的にいえば強 度ないし程度の方ですね。そういう意味では 危険の変動 の考え方の中に 入っています。また自動車を新しく小型にする場合は,新たな契約となりま すから,保険法でいうところの 危険の減少 にはあたりません。Zといわ れたので,分からなかったのですけれど,おっしゃっていることがようやく 理解できました。損失の期待値を構成する二つの要素が確率と程度であると いう意味においていえば,堀田先生のおっしゃるZは, 危険の変動 の議 論の中では 程度 の方に入っています。よろしいでしょうか。

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