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生命保険会社の国際破たん処理制度の 検討

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生命保険会社の国際破たん処理制度の 検討

⎜⎜ EU,米国の制度を踏まえて ⎜⎜

松 澤 登

■アブストラクト

国際展開する生命保険会社が破たんした場合,EU域内では本店所在地国 にて一括して処理することとされ,また,本店所在地国のセーフティネット が補償することになっていることが多い。米国内では州法による破たん処理 手続が行われ,州ごとにセーフティネットが存在するが,州際で調整するこ とで整合的な処理が行われる。ただし,EU域内と域外,米国内と米国外に またがった場合の破たんについてはいずれも支店単位で処理することが原則 であり,国際的な処理について確立したルールはない。

日本の現行法令の下でも外国生命保険会社等の支店処理は国内単独で行う ことが原則となっている。今後は,国際的な一括処理を可能とする制度に向 けて監督制度と破たん処理制度の国際的協調の進展が期待される。

■キーワード

国際破たん,清算処理,セーフティネット

1.はじめに

今般の金融危機では各国政府の個別的な対応により大規模保険グループの 国際破たんの発生は回避された。しかし,特に各国に支店を展開する保険会

*平成21年9月18日の日本保険学会関東部会報告による。

/平成21年12月17日原稿受領。

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社が万一にでも破たんした場合には,一つの法人を国境をまたいで処理する 必要があるため,一国内のみで営業している保険会社の処理に比して複雑な 問題が生ずる。また,保険会社の破たん時に資金援助等を行なう保険契約者 保護の仕組み(以下,セーフティネットという)が設けられている国も多く,

各国のセーフティネット間の調整も問題となる。

本稿では以下,生命保険会社 の国際的破たん処理に係る課題を取り上げ る。まず法制度間の調整を図ろうとする制度として,EUおよび米国を検証 し,その後日本について検討を行なう。

2.EUにおける制度

⑴ EU域内における事業展開

EU域内における生命保険事業に関する指令としては,保険・再保険事業 の 開 始 お よ び 遂 行(ソ ル ベ ン シ ー Ⅱ)に 関 す る 指 令(DIRECTIVE OF THE EUROPEAN  PARLIAMENT  AND  OF THE  COUNCIL  on the  taking‑up and pursuit of the business of Insurance and Reinsurance 

(SOLVENCY  II),以下,保険・再保険指令という)が2009年4月に採択さ れており,以下,保険・再保険指令にそって検討を進める。

EU域内に生命保険会社を設立しようとする者は,本店(head office 所在地国(以下,母国という)の監督当局から認可を受ける必要がある(保 険・再保険指令14条1項)。当該認可により母国外のEU域内各国で支店展 開も可能となる(保険・再保険指令15条1項。以下,支店設置国をホスト国 という)。監督は主に母国監督当局が行う(保険・再保険指令第1章第3節)

ので,いわばEU域内を一国と見立てて,本店所在地を中心とした生命保険 会社監督を行なうものである 。

1) 以下では生命保険事業を行う者のことを生命保険会社と表記するが,日本に ついては保険業法の表記に従うこととする。

2) 財務の健全性規制は母国監督当局のみの責任である(保険・再保険指令29条 1項)。ホスト国では,生命保険会社に対して事前の条件とならない限りで,

(3)

 

EU域外の生命保険会社は,支店認可を進出先のEU域内国から得ること で,その国内限定で営業が可能となる(保険・再保険指令160条1項)。EU 域外生命保険会社のEU域内支店に関しては支店事業を対象とするソルベン シー規制等などの監督がなされ(保険・再保険指令160条2項⒡,164条1項

⒝),また,所要最小資本(Minimum  Capital Requirement,MCR)相当 額の資産をその国に,MCRを超える資本金剰余相当額の資産をEU域内に 保有する義務等がある(保険・再保険指令164条4項) 。

⑵ 国際破たん処理手続

保険・再保険指令が定める生命保険会社の清算手続(winding‑up pro- ceedings )は,母国管轄当局 のみが開始決定に関する権限を有し,なん らの形式も必要とせず,EU域内すべてに即時に効力が及ぶ(保険・再保険 指令275条2項)。清算手続には,保険・再保険指令が定めを置くものを除き,

母国法が適用される(保険・再保険指令276条1項)。

清算手続において,保険契約者の保険契約上の権利は,各国の選択で,責 任準備金対応財産に関して最優先権,あるいは,会社全体の財産について所 定の順位の優先権を持つこととされる(保険・再保険指令277条1項)。また,

EU域内国の債権者の権利については,母国の債権者の権利と平等に取り扱 うことが原則である(保険・再保険指令284条2項)。

EU域外生命保険会社のEU域内支店については,支店所在地国を母国と

保険契約の内容について非制度的な報告を求めうるに過ぎない(保険・再保険 指令152条2項)。

3) なお,支店設置時の認可要件として,別途支店設置国への預託義務等が規定 されている(保険・再保険指令160条2項⒠)。

4) 清算手続とは,保険事業者の資産を換価し,債権者,株主等に分配する集団 的手続で,手続が債務免除やこれに類する方策で終了することを含み,必要的 に管轄当局の介入がなされるものをいい,破たんに起因するかどうか,自発的 か強制かを問わない(保険・再保険指令270条1項⒟)。

5) 管轄当局(competent authority)とは,再建手続または清算手続に管轄権 を有する域内国の行政または司法当局をいう(保険・再保険指令270条1項⒜)。

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みなして手続を適用する(保険・再保険指令298条)。複数国に支店がある場 合はそれぞれの国で手続を行い,管轄当局間で調整を行う(同条)。すなわ ち,支店は単独で清算することが原則となっている。EU域内生命保険会社 EU域外支店の処理についての規定はなく,本店所在地国の法律と支店所 在地国の法律との調整問題となる。

⑶ セーフティネットと生命保険会社の処理手続

EUでは現在,保険セーフティネットの標準化に向けた取り組みが行われ ている。近時,公表された調査レポート によると,EUではセーフティネ ットについて,母国主義(homestate principle)とホスト国主義(host‑

state principle)の対立がある。母国主義とは,国内に本店を有する生命保 険会社の契約を対象として保護するもので,母国外EU域内支店で締結され た契約を含め補償する。一方,ホスト国主義とは自国内で締結された保険契 約を補償対象とする制度である。EUでは母国主義の国が多く,また,破た んは母国で集中処理されることなどから,調査レポートでは母国主義を志向 している 。

EU共通のセーフティネットのルールがないため,以下,英国の制度を参 照する。英国では金融サービス市場法(Financial Services and Markets Act,以下,FSMAという)により金融サービス補償制度(Financial Ser- 

vices Compensation Scheme,以下,FSCSという)が設立されている 。

6) Oxera Consulting LtdInsurance guarantee schemes in  the EU  Com- parative analysis of existing schemes, analysis of problems and  evalua- tion  of options”Final report prepared for European Commission DG Internal Market and Services,November  2007

7) Oxera Consulting Ltd・前掲注6,p.176参照。

8) なお,FSCSのホームページで確認する限り,FSCSの関与する生命保険会 社 の 破 た ん は 2 例 し か な く,最 後 のOaklifeの 事 例 で も1993年 で あ る。

http://www.fscs.org.uk/industry/sub%2Dschemes/insurance%5Fbusi- ness/insurance%5Finsolvencies/参照。

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英国では,EU指令における清算処理に該当する処理手続は特定されてお ら ず ,会 社 管 理(Administration) や 強 制 清 算(Winding up by court)など各種の制度の適用の可能性がある。ただ,FSCS  は生命保険会

社の破たんに当たって健全会社への契約移転の確保・援助,または健全会社 からの代替証券発行を確保す る こ と と さ れ て い る(金 融 サ ー ビ ス 機 構

(Financial Services Authority(以下FSAという)Handbook  COM P 3.3.1,3.3.2⑴,3.3.4⑴)。また,生命保険会社を清算する場合には,健全 な会社に契約移転を行うことが原則とされている(FSMA376条2項)こと を踏まえると,一般には,破たん会社から契約を移転させたうえで,強制清 算などの手続により清算するものと思われる。なお,FSAには強制清算の 申立(FSMA367条)や手続参加(FSMA371条)など破たん処理への関与 権限が広く認められている。

契約移転には裁判所の命令を要する(FSMA104条)。破たんに伴う移転 では,保険金削減の申請が行なわれ(FSA  Handbook SUP18.2.41),あ るいは,裁判所自身が保険金削減を命ずる(FSMA112条8項)。

FSCSは契約移転先の健全会社に資金援助等を行なう際に,英国内の契約 のみならず,EU域内の英国外支店の契約分も含めて補償業務を行う 。

9) HM  TreasuryImplementation  of the Insurers Reorganization  and Winding-up Directive, Consultation  Document”  November2002,l5‑l8参

照(当資料については段落⑴で引用箇所を示す。以下同じ)。

10) 会社管理とは管理人(administrator)のもとで再建を目指す制度である

(Insolvency Act1986付表B1)。このほかに適用可能性がある手続として,

債権者による任意清算(Insolvency Act 1986,ChapterⅥ,ただし金融サー ビス機構の同意を要する(FSMA366条 1 項)),会 社 再 建 計 画(scheme of arrangement,Companies Act1985,425条)および契約条件の引下げ手続 

(FSMA377条)などがある(HM  Treasury・前掲注9,l5,l20)。

11) 英国はホスト国主義であったが,調査レポート(前掲注6参照)を受け,英 国に本店がある保険会社のうち,進出先の支店所在国の契約者を保護するセー フティネットがない場合に は そ の 国 の 分 も 含 め て 保 護 を 行 う こ と と し た

(FSAFinancial Services Compensation  Scheme: EEA  branches of UK insurers”May2008参照)。なお,EU域外国の契約については保護対象とし 

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3.米国(ニューヨーク州)の制度

⑴ 州際および国際事業展開

米国では保険事業監督は州の管轄とされ(15U.S.C. 1012),生命保険 会社の監督は州ごとに行われる。以下では,ニューヨーク(以下,NY)州 の制度を検討対象として取り上げることとする。

NY州内で生命保険事業を営む場合には,州から免許を取得する必要があ り,他州で免許を受けた生命保険会社(foreign insurer)や外国の生命保 険会社(alien insurer)が州内に支店を出す場合も同様である(NYISC 1102)。財務的要件としては,他州生命保険会社の場合は州内生命保険会社 と同額の預託(=200万ドル)を要求され(NYISC 1319, 4206),外国生 命保険会社は州内生命保険会社に要求される最低資本金額の150%(=300万 ドル)を預託する必要がある(NYISC 1320, 4202)。

また,財務規制(責任準備金規制(NYISC 1304)など),商品規制(約 款認可(NYISC 3201)など)といった規制も州ごとに適用される。

⑵ 州際および国際破たん処理手続

生命保険会社には連邦破産法9章(破産)は適用されない(11U.S.C.

109⒝⑵,⑶ )ため,生命保険会社の破たん処理は州法による。また,セ ーフティネットも州ごとに設置されており,州際生命保険会社の破たん対応 の た め の 調 整 機 関 と し てNational Organization of Life and Health Insurance Guaranty Association(以下,Nolhga  )が設立されている。

米国で生命保険会社に財務上の問題が生じた場合,監督当局が管財人

(receiver)となり経営再建に努め,再建の見込みがない場合には管財人の 下で清算処理(liquidation)が行われる 。なお,保険契約者等の権利には 生命保険会社の財産全体に関して一定の優先権が与えられている(NYISC

ていない。

12) NolhgaThe Safety Net at Work”p.1参照。

(7)

7435⒜⑷)。州内生命保険会社,他州生命保険会社,および外国生命保険会 社それぞれに対するNY州での清算処理手続は以下の通りである。

①州内生命保険会社に対するNY州の清算処理手続

経営困難となった州内生命保険会社に対して,NY州の裁判所が保険監督 官(superintendent)を 管 財 人 と し て 指 名 し,清 算 処 理 手 続 を 開 始 す る

(NYISC 7409⒜)。管財人は生命保険会社のすべての財産について,財産 の所在地にかかわらず管理下におく権限を有する(同項)。NY州非居住者 も債権届出できる(NYISC 7411)。

②他州生命保険会社に対するNY州の清算処理手続

NY州と同等の法制を有すると認められる他州(reciprocal states,以下,

互恵州) の生命保険会社に対して,当該互恵州で清算手続が開始された場 合,当該互恵州で指名された管財人は,原則としてNY州内の財産を管理 下におくことができる(NYISC 7410⒝)。

ただし,NY州内に十分な財産が存在する場合,あるいは10名以上の居住 者 が 申 し 立 て た 場 合 に,裁 判 所 は 保 険 監 督 官 を 補 助 管 財 人(ancillary receivers)として任命することができる(NYISC  7410⒜)。補助管財人は

州内にある預託金について州内契約者への優先分配を行い,残余の財産があ る場合は互恵州の管財人に交付する 。すなわち,米国では本店所在地州の 監督官が清算手続を行うが,場合によって,州内保険契約者保護の観点から 補助管財人による補助手続を可能としている。

13) 互恵州とは,保険監督官が破たん保険会社の管財人となることを要求する規 定を含め,実質と効果の点でNY州と同等の規定を有する州をいう(NYISC

7408⒝⑹)。

14) 立場が逆の場合,すなわち,NY州で清算が開始され,互恵州で補助的管財 人が指名された場合について,NY州法は,当該補助的管財人が当該互恵州の 財産を管理下におくことを認めている(NYISC 7409⒝)。

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③外国生命保険会社の清算処理手続

外国生命保険会社の米国内支店に関して,破たん原因等があるときは

(NYISC 7406, 7404, 7202),裁判所は監督官の申請により財産の保全 命令(NYISC 7407)および支店の清算命令(NYISC 7405)を出す。支 店の清算に当たっては米国内の資産のみが対象となる(NYISC 7405⒟)

など支店単独での清算が原則とされている。

⑶ セーフティネットと生命保険会社の処理手続

NY州におけるセーフティネットはNY生命保険会社支払保証公社(The Life Insurance Company Guaranty Corporation of New  York,以 下, 

支払保証公社)である。NY州内で営業する生命保険会社のすべてが支払保 証公社に加入しなければならない(NYISC 7706)。支払保証公社は原則と して州内の居住者に対する補償を提供することとされ,それ以外の契約のう ち,米国外で締結され,かつ米国市民・永住者以外を対象とする保険契約は 明示的に補償対象外とされている(NYISC 7703⒝)。

支払保証公社は,保険金支払の補償,契約引受または再保険の引受または これらの支援等を行う(NYISC 7708)。多くの場合,健全な会社に契約を 統括引受再保険(assumption reinsurance)として引受させ,引受会社が 補償限度までの保険金を支払うために必要な資金援助を支払保証公社が行 う 。なお,米国では,裁判所が処理スキームを認可したのちに,保険契約 者に処理スキームに参加するかどうかの意思確認を行う 。

以上述べたところは,ほかの州についてもほぼ同様であり,州際展開して

15) Nolhga・前掲注12,p.2参照。小西修 米国生保の破たん処理−MBLにみ る具体的事例− 生命保険経営 第63巻5号,1995年,p.116参照。

16) NYISC 1308では個別同意の要らないケースが限定的に列挙されているが,

原則として統括引受再保険は更改(novation)であり,個別の同意が必要と 解されている(http://www.ins.state.ny.us/ogco2008/rg080715.htm参照)。

同意しない契約者の契約は移転されず,セーフティネットの保護はない(小 西・前掲注15,p.117参照)。

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いる生命保険会社が経営危機に陥ったときには,上述のNolhgaに各州の監 督官からなるタスクフォースが結成され,破たん処理計画を策定して円滑な 手続および契約者保護がなされるようにしている 。

破たん生命保険会社から統括引受再保険を受けた会社は各州のセーフティ ネットが補償する限度で保険金支払を行うが,その費用については各州のセ ーフティネットが分担し,Nolhga経由で精算される。

4.日本の制度

⑴ 外国生命保険会社等の事業展開

外国の生命保険会社は日本に支店を設置することができる(外国生命保険 会社等,保険業法2条7項)。支店の設置については免許が必要であり(保 険業法185条1項),その際に一定の額(2億円)を供託する必要がある(保 険業法190条,保険業法施行令24条)。

外国生命保険会社等は日本における保険契約について日本において責任準 備金,支払備金を積み立てなければならず(保険業法199条,116条,117条),

責任準備金,支払備金,供託金および自己資本に相当する額の財産について 日本国内で保有義務がある(保険業法197条)。健全性規制・商品規制などが 支店を対象として行われる(保険業法187条3項等)。

⑵ 生命保険会社の破たん処理手続

①保険業法の手続

生命保険会社の破たん処理にはこれまで二つの手続が利用されてきた。ひ とつは保険業法手続であり,経営悪化した生命保険会社に対して業務停止命 令(保険業法132条),保険管理人による業務・財産の管理および保険契約移 転に係る計画策定の命令(保険業法241条)が出される。計画が承認される

(保険業法247条2項)と,保険契約を健全な生命保険会社に移転し(保険業

17) Nolhga・前掲注12,p.3参照。

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法135条),破たん生命保険会社については清算処理をする。

保険業法の処理では,契約移転の際に保険契約の条件変更(保険業法250 条1項)が行われることで財務の健全化を目指す。清算手続は金融庁が主導 する行政上の手続となっている(保険業法174条以下参照)。ただ,この処理 では保険契約者以外の権利を変更できず(保険業法135条3項),法律上は劣 後ローンなどの権利が変更できないという問題がある。

外国生命保険会社等についても,日本国内の財産に関し日本における保険 契約に関して清算手続が準用されている(保険業法241条,247条,250条,

210条)。このように日本においても,EUや米国同様,支店単独で処理する 制度となっている。

②更生手続による処理

二つ目が,近時,専ら利用されている更生手続であるが,これは平成12年 の法改正により,相互会社への更生手続の適用を認め(更生特例法168条),

また,保険契約者保護機構が保険契約者を代理して手続に参加できる(更生 特例法432条)こととされるなど実務的に利用可能となった 。

これまでの処理事例では,更生計画において保険契約者の権利を含む債権 者の権利が変更され(会社更生法168条1項,170条1項),救済会社が更生 会社に出資して健全化したうえで,子会社化してきた。なお,生命保険会社 においては保険契約者に対して,被保険者のために積み立てた金額 につい て会社の総財産のうえに一般先取特権が認められている(保険業法117条の 2)。

国内における更生手続開始の効力は会社更生法上,海外に及ぶこととされ,

18) 更生特例法制定の経緯・詳細については山本和彦 保険会社に対する更生特 例法適用の諸問題 民商法雑誌 第125巻3号,2001年,pp.280‑281参照。

19) ここで被保険者のために積み立てた金額とは,自殺免責の場合に返還される,

いわゆる個別的責任準備金と解されている(古瀬政敏 保険業法逐条解説117 条の2 生命保険論集 140号,2002年,p.353参照)。

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海外にある財産も管財人の管理処分権に服する(会社更生法72条括弧書き)。

また管財人は国内更生債権者を代表して海外の倒産処理手続に参加すること ができる(会社更生法245条2項)。

なお,外国生命保険会社等は,国内に支店を有することにより,更生手続 の申請が可能である(会社更生法3条)。

⑶ セーフティネット

外国生命保険会社等の支店を含め国内で営業する生命保険会社は生命保険 契約者保護機構(以下,保護機構)に加入義務がある(保険業法262条2項,

265条3第1項,256条1項括弧書き)。補償対象は原則として日本において 引き受けられた元受保険契約である(保険業法273条の3第2項1号,保険 契約者等の保護のための特別の措置等に関する命令(以下,保護命令)50条 の3)。

若干の例外があるが,破たん保険会社の財産では補償対象契約の責任準備 金の補償率である9割を割り込む場合に,補償率が確保されるまで資金援助 が行なわれる(保険業法270条の3,保護命令50条の5第1項,2項)。

5.外国生命保険会社等の支店にかかる破たん処理

⑴ 若干の前提

上述の通り,外国生命保険会社の支店は単独での処理が想定されている。

また責任準備金等相当額の財産について国内保有義務が課され,かつ,その 保険契約者には被保険者のために積み立てた金額について会社の総財産の上 に先取特権が認められている。このような規律により国内保険契約者が,外 国に財産を求めなくとも国内に保有されている財産で十分な弁済を受けられ るように保護がなされている 。

ここで検討するのは,外国生命保険会社等に対して,本店所在地国で破た

20) 木下孝治 保険業法逐条解説第197条 生命保険論集 第198号,2004年,

p.183参照。安居孝啓 最新保険業法の解説 初版,2006年,p.540参照。

(12)

ん手続が開始され,外国管財人が日本支店も含めた一括処理を求めてきたケ ースである 。このようなケースにおける外国管財人の意図としては日本に ある支店の財産を破たん処理手続に取り込むことで外国保険契約者の権利縮 減の程度を抑制することであることが多いであろう。

ところで,外国で申し立てられた破たん処理手続(以下,外国手続とい う)のうち,破産手続,再生手続,更生手続および特別清算手続(以下,あ わせて破産手続等という)に相当するものは,日本国内での効力が当然には 認められず,外国倒産処理手続の承認援助に関する法律(以下,外国倒産処 理援助法)による承認手続を経る必要がある(外国倒産処理援助法2条1項 5号)。外国管財人等が承認の申立を行った場合(外国倒産処理援助法17条 1項),破産手続等の国内倒産処理手続(外国倒産処理援助法2項1項4号)

が進行中でなければ一定の要件を満たす限り承認を受けられる(外国倒産処 理援助法22条)。一方,国内倒産処理手続が並行する場合は,①外国手続が 本店所在地国で行われるものであること,②債権者一般の利益に適合するこ と,および③国内の債権者の利益を不当に侵害するおそれがないという条件 を満たさない限り棄却される(外国倒産処理援助法57条1項)。外国手続の 承認が得られると承認援助の処分ができる基礎として認められる。

⑵ 保険業法による処理が行われる場合

以上を前提として,外国管財人等が,外国生命保険会社等全体の処理を行 う一環として,日本国内の支店清算のため,外国倒産処理援助法の承認を求 めてくるというシナリオを考える。

一般に,外国生命保険会社等の破たん処理手続が開始されれば日本国内の 支店も清算されるものと考えられる 。国内において,保険業法による処理 21) 銀行分野では国際的な破たん処理を各国間で連携して行う方向性が打ち出さ れ て い る(Basel Committee on Banking SupervisionReport and  Rec- ommendation  of the Cross-border Bank Resolution  Group”September 2009,pp.28‑29参照)。

22) 外国保険会社等の財産の状況が著しく悪化し,日本における保険業を継続す

(13)

を進めようとしている状況を想定すると,保険業法による処理は国内倒産処 理手続には含まれていないため,仮に外国手続が破産手続等に相当すると認 められるのであれば,当該外国手続は承認されることになる。

これは,破たん外国生命保険会社等に実際に適用された外国手続が外国倒 産処理援助法上,どのように取扱われるかの問題であるが,たとえば,上記

で見たEU(英)・米の手続は裁判所が関与し,債権削減も可能であり,破

産手続等に相当する外国手続と解しうる余地がある。仮に,外国手続が承認 されてしまえば,外国手続に基づいて支店処理が行われることになる。

この点に関連し,銀行の破たん処理について,公的な性格が強い処理手続 であることから私的破たん処理制度を前提とする外国倒産処理援助法の承認 の対象とならない ,あるいは銀行が必要的に清算を求められる(銀行法51 条1項2号)のは債権者保護のためであり,債権者の分配が増加するなどの 事情がない限り承認は拒絶されるべき とする見解がある。

私見では,生命保険会社の処理は上記で見たとおり,EU(英)・米の制度 でも,保険契約者保護の観点から監督官庁とセーフティネットの強い関与の もとで契約移転といった保険会社特有の制度で処理される公的な色彩の強い 特殊な処理手続である。一方,外国倒産処理援助法は破産手続等の一般事業 会社にも適用される手続を対象とするが,銀行や保険会社のみに適用のある 特殊な破たん処理手続についての取り扱いについて何らの定めを置いていな い。そうすると,仮に外国手続の一部が破産手続等に類するとしても,破た

ることが日本における保険契約者の保護の見地から適当でないと認めるときは 免許を取消すことができ(保険業法206条),この場合には日本における財産の 全部を清算しなければならない(保険業法212条1項1号)。外国生命保険会社 等が法人として破たん処理される場合には,一般に日本支店における保険契約 者の保護の観点に照らして重大な影響が及ぶはずであり,原則として免許取消 事由に該当するものと考えられる。

23) 嶋拓哉 銀行倒産における国際倒産法的規制 金融研究研修センター,2009 年,pp.17‑23参照。

24) 森下哲朗 国際的な銀行破綻処理と預金保険制度 預金保護機構,預金保護 研究第9号,2008年,p.10参照。

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ん外国生命保険会社等の支店は保険業法の手続により処理されることを原則 とするのが法の趣旨であり,少なくとも外国手続が上記EU(英)・米の手続 に類するものとみうる限り,原則として外国倒産処理援助法の承認対象外,

すなわち破産手続等に相当するものではないと解すべきと思われる 。 また,このように解さなければ,保険業法に規定される各種の保険契約者 保護のための規定の適用がないことになる。たとえば,日本支店の保険契約 について保険金削減等の条件変更を伴う移転を行うための手段が外国管財人 にはない 。また,したがって契約移転が前提となる資金援助の申込もでき ないこととなる(保険業法266条1項)。

なお,外国管財人の眼目である日本国内の財産の外国への持ち出しには,

裁判所の許可が必要とされている(外国倒産処理援助法35条)が,許可の条 件としては国内の債権者の利益が不当に侵害されるおそれがない場合に限定 されている。保険業法が想定する上述の支店単独処理を行う場合より通常は 毀損率が上昇(分配率が低下)するであろうから,許可を得ることは出来ず,

外国管財人にとっても外国倒産処理援助法の承認を得ることにメリットがな いものと思われる。

⑶ 更生手続による処理が行われる場合

このことは,国内で更生手続の適用を申請した場合であっても同様である。

すなわち,上記⑵で述べたように生命保険会社の破たん処理のための外国手 続は,外国倒産処理援助法の承認対象外と解すべきであるが,これは生命保

25) なお,嶋・前掲注23は外国倒産処理援助法の承認対象性を否定しつつ,自動 承認ルートを認めて,法人としての銀行の一括処理の余地を認めようとする

(p.22参照)。

26) 個別に同意を取って移転することは認められていないと解されており(安居 孝啓・前掲注20,p.431の注331参照),また,本文後述の通り,更生特例法で は更生手続において保険契約者等からの異議申立手続を明示的に排除している ことに照らしても,法定の手続を踏まない限り契約移転はできないものと解さ れる。

(15)

険会社の破たん処理制度の性格を踏まえた外国倒産処理援助法の解釈により 導かれるものであり,国内手続の選択によって結論が左右されるものではな

なお,上述の通り,EU(英)・米では破たん生命保険会社は清算されるこ とが一般的であるため,更生手続において,日本の支店の保険契約を他の健 全な会社に契約移転をする必要がある。この場合,更生計画の契約移転にか かる事項を記載する(更生特例法359条)ことが求められる 。また,この 場合,一般債権を害することが出来ないとする135条3項の取扱が問題とな るが,同項の趣旨は,一般債権者から詐害行為取消権の行使を防止すること とされており ,裁判所の関与する更生手続においては,その懸念がないた め同項の適用はないと解する。

6.これからの課題

⑴ 国際的課題

国際的に展開する生命保険会社はひとつの法人格で事業を行っている以上,

その破たん処理は,EU域内や米国内の制度のように一括処理することが本 来的な姿である 。今後は,国境という枠を超えて,国際的破たん処理手続

27) 前述の通り保護機構が国内保険契約者を代理する制度など更生手続にも生命 保険会社処理のための特殊な手続が多く定められている。

28) なお,外国管財人が外国の債権者を代理して更生手続に参加することが可能 となる(会社更生法245条)ため,仮に外国管財人が外国保険契約者を代理し て,国内保険契約者と同等の優先権を主張するとした場合に問題が生ずる。私 見では,保険業法は少なくとも国内保有義務の対象となる財産の範囲では国内 保険契約者が優先されることをその趣旨としており,まず国内保険契約者への 分配が優先される内容の計画が公正衡平であると解するべきではないかと考え る(会社更生法168条2項)。

29) この場合,株主総会の承認(保険業法136条),書類の備置(保険業法136条 の2),異議申立手続の実施(保険業法137条)を行う必要がない(更生特例法 359条柱書,366条,302条)。

30) 安居・前掲注20,p.432参照。

31) 前掲注21参照。

(16)

の調整ルールの検討が進められていくことになろう。

しかし,上述の通り,EU,米国においても,それぞれEU域内外国生命 保険会社の域内支店,米国外生命保険会社の州内支店については,支店だけ を切り離して処理するという制度を有しているに過ぎない。また財産の国家 間分配という深刻な問題 もあり,国際的展開をしている生命保険会社を一 括して処理する制度の構築までには相当に距離がある。そして,この背景に は他国の監督が必ずしも信頼が置けず,自国の保険契約者が不当に不利益を 受けるのではないかという懸念がある。したがってまずは国際的な監督体制 の協調あるいは統合ということが前提となろう。

EUのような統合的な監督体制の構築は直ちには困難であることから,当 面の対応としては,生命保険会社の平常時の健全性の維持のための協調体制 の構築および情報交換によりできる限り破たんを回避すること,また経営悪 化時においては早急かつ円滑に措置を実施するための国際的な協調が必要で ある。

この点,これまでも,国際的保険グループの各国の連携について保険監督 者 国 際 機 構(International Association of Insurance Supervisors)に お いて検討が進められてきており,2008年10月には,支店形態での展開も対象 とする,グループ横断的監督に関する原則(Principles on Group‑wide Supervision)を策定した。また,2009年10月には,主要な保険グループお 

いては,グループごとに各国の担当監督当局が情報交換や協議を行なう監督 官団(collage of supervisors)を組成する方針が示されていている 。

32) 銀行のケースであるが,1991年に破たんしたBCCI(Bank of Credit and Commerce International)の破たん手続ではルクセンブルクの手続で集中処 

理を行ったが,英国は国内資産の送金を差し止め国内に留保した(森下・前掲 注24,p.6参照)。

33) International Association of Insurance SupervisorsGuidance Paper On The Use Of Supervisory Colleges In Group-Wide Supervision”  October 2009参照。

(17)

⑵ 国内の課題

上記4.で見たとおり,日本でも外国生命保険会社等の支店の破たん処理 が国内で完結する制度となっている。しかし,上記5.⑴の取り組みが十分 進められたことを前提として,同質同水準の生命保険会社監督が行われてい ると認められる国との間で一括処理を可能にする手続を,米国の制度,すな わち各州が州法により互恵州の破たん処理手続の効力を認定する制度をひと つのモデルとして,保険業法に設けることが考えられる。

なお,現状では,国内財産を多く保有させている国が有利であり,保険業 法の国内財産保有義務規制は万能ではないものの ,重要な意義があるもの と思われる。国内財産保有義務規制については緩和を示唆する見解もあり , またこの規制は国際的な統一破たん処理制度構築の障害ともなりうるもので ある。しかし,国際協調的な監督体制や破たん処理制度が未だ確立しておら ず国内保険契約者の保護に不安が残るなかでは,各国制度の動向等を踏まえ つつも,規制緩和には十分慎重であるべきと考える。

そのほか,一般債権者の権利を変更できないとする,保険業法135条3項の 規定を改定することも検討の対象となる。なお,保険業法手続には,処理手 続に保護機構が関与することが明示されていない。処理計画の肝となりうる 資金援助は保護機構が決定するため,米国で見たように,処理計画の円滑な 策定のため保護機構が手続の当初より関与することが望ましく,実務的にも そのように行われてきた。国際的な破たんが想定される現在,この点を明示 的に規定すべきと思われる 。

34) 実際には破たん直前に違法に国外に持ち出されてしまうと返還を求めること は難しい。また資産の質の問題もある。

35) 木下・前掲注20は,このような義務の存在は資産運用方法を著しく規制し内 外保険会社の平等取扱を損なう過剰規制ではないかと指摘する(p.183参照)。

36) 具体的には,保険管理人の策定する計画の承認(保険業法247条1項,2項)

に当たって,保護機構の意見を聞くことを要件にすることなどが考えられる。

(18)

7.おわりに

国内の生命保険会社が海外支店を設けて事業を行っている事例は見当たら なかったため,この場合の問題については本文ではあえて触れなかった。し かし,制度として検討課題がないわけではなく,たとえば保険業法の手続利 用に関しては,保険業法の手続の対外的効力が必ずしも明らかではなく,ま た清算が裁判所でなく行政の関与する手続であることもあり,海外で効力が 認められるか不透明であるなど条文上・実務上の課題も多い。

生命保険会社の国際破たんに関しては参考文献や事例が少なく,手探りで 検討を進めるほかはなかったこともあり,検討不十分のそしりは免れないも のと思われる。実際に破たんが発生したときに万が一にも保険契約者の保護 に欠けることのないよう制度整備を進めるためにも,本稿が今後の議論のき っかけとなれば幸いである。

(筆者は日本生命保険会社勤務)

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