‑ 特集 教育改革のキーワー ド再考 く1〉
「 基礎 ・基本」再考
上越教育大学 高田喜久司
1.
「 基礎 ・基本」 を問い直す意義
(1)
「 基礎 ・基本
」の重要性
「 あま りに も多 くのことを教 えるな。教 えるべ きことを徹底的に教 えよ」。
このスローガンは学習指導上の原則 を示す ものであ り,教育内容厳選の基本 理念 を示唆 しているといえよう
。ノ 学習指導の 目的は,広 くまんべんな く, したがって浅い知識を多量に
払 t」 灯 ら
ことではない。了 教育内容q y なかか ら,鼻 基準 ・基本̲ とを
れにたっぷ りと時間をかけて徹底的に理解 し走着 させ ることによって, 後の教育内容を発展的に把握 させ ることがむもる重要な埠である
このことを端的に言えば,能力の転移が起 こるような教育内容 を準備す ことを意味する。少な く学んで多 く役立たせ るような能力の転移が起 こる
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基本 となる教育内容を選択することが実は教育内容の厳選である / 一 ー
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よ。苓根 な
教育内容 を基礎的 ・基本的なものにせ よという方針 には,教育界 はもちろ
ん国民の期待がかけられているといって も過言ではない。情報量の爆発的な
タ
増大 をバ ロメー ター とす る高度情報通信社会のなかにあって子 どもは,すべ ての情報 を理解することは困難になって きている。情報化の進展の著 しい社 会 を生 きるためには,知識や技術 を蓄積するだけでな く,生涯学習 を継続で きるような基礎 ・基本 を子 どもに学ばせ ることが今 日,重要な課題 とされて いる。
このように 「 基礎 ・基本」の重要性 を否定する者は誰 もいない といってよ いであろう
。( 2) 「 基礎 ・基本」を問い直す観点
こうしたなか2002年度か らの完全学校週 5日制導入 に向けて,カリキュラ ムの見直 しを進めて きた教育課程審議会 は,平成1 0 年7 月29 日,答 申内容 を・
公表 した。「 教育課程の基準の改善のね らい」の 4 本柱の一つ として,「ゆと りのある教育活動 を展開する中で,基礎 ・基本の確実な定着 を図 り,個性 を 生かす教育 を充実すること」 を捷言 している。
これ と同趣 旨の文言は,昨年
12月
14日に告示 された学習指導要領の 「 第
1章総則 第
1教育課程編成の一般方針」のなかにもみ られる。
このため教育界では基礎 ・基本の問題 をめ ぐって再びさまざまな論議が展 開されているのである
。基礎 ・基本が重要なことは誰 もが理解 しているが,
「 基礎 ・基本 とは何か」,「 基礎 と基本は同 じなのか異なるのか」,「 何 に対 し ての基礎 ・基本なのか」,「どの レベルで基礎 ・基本 をとらえるのか」 と問 う とき,必ず しも 乙皇之サスが待ちれ ない実情にある。結局,基礎 ・基本 を どのようにとらえるかによって,その内実が多様に考 えられるのである
。本小論では 「 基礎 ・基本」 を再考することを目的 としているが,その観点 を額 学に学んで筆者 な りに整理 して示せば次のようになろう
。( 1) 「 新 しい学力観
」「 支援
」「自己教育力」 とな らんで 「 基礎 ・基本」 な ど,一連の流行語 は語 られれば語 られるほどよそ よそ しい空虚な響 きを生み だす言葉‑ と変貌 しているとい う前提か ら,虚 しい流行語の氾濫 に対抗する 実践 はそれ らの言葉の使用 を慎むところか ら出発するしかない とい
べ き見解がある(
1)0( 下線筆者,以下同様)
10、
、 し
「 基礎 ・基本
」に相応する 「リテラシー」の本来的な意味は,書字文化 を 中心 に組織 された 「 共通教養」 を意味するもの として理解 されるべ きである というのである。 ∫
( 2) 「 基礎 ・基本」 を学習指導要領の内容のすべてを含むという見解があ る
。それは今回の教課審答 申にもみ られる 「 国民 として最低必要な教養」 と いう意味の 「 基礎 ・基本」観 に立脚するものである。
これでは量 としては多過 ぎ,質 としては高す ぎるという批判 となって現れ よう
(2)。(3)
今 日,多 くの知識量 を教 え込むことにな りがちであった従来型の教育 観か ら 「自ら学び自ら考える力」 を育成する教育観‑の転換 を図ることに鑑 み,「 基礎 ・基本
」を 「 問題解決能力」 とみた り
,「 学習意欲
」さらに 「 学び 方
」とみた りする見解がある
。しか し,これまで も 「 問題解決能力」や 「 学習意欲」の重要性,あるいは
「 学び方
」の大切 さを強調することはあったが,それは 「 基礎 ・基本」 とは 呼ばれてこなかったのである( 3 ) 0
( 4) 「 基礎 ・基本」は相対的で弾力的な概念であるか ら,その内容 を客観 的に規定で きないという見解がある。
マクロな観点か ら基礎 ・基本 を検討するなら,時代や社会の変化 によって 基礎 ・基本が決定 されるし, ミクロな観点か らは一人ひとりの子 どもに目を 向けて も基礎 ・基本が考えられる
。またどの レベル ( 人間形成,学校,教育課程,教科,単元,教材のそれぞ れの レベル)で基礎 ・基本 を取 り上げるかによっても異なるのである( 4 ) 0
ここではまず 「 基礎 ・基本」概念の変遷 をたどり,次にその特質を探 りつ つ,主 として上記( 4) の観点に傾斜 をかけて論究することになろう
。2. 「基礎 ・基本」概念の変遷
では基礎 ・基本はこれまで どのようにとらえられて きたのであろうか。そ の変遷 を素描することは基礎 ・基本の特質を知るうえで も有効であろう
。J J
( 1) 「 基礎 ・基本 」 用語の登場
「 基礎 ・基本」あるいは 「 基礎的 ・基本的な内容」 という連句が教育用語 として初めて用い られるようになったのは,比較的最近のことである
。それ までは
,「 基礎」 と 「 基本」 を語義的に区別す る論議が比較的に盛んであっ た。
この用語が連句 としてクローズアップされたのは,昭和
50年
10月の教育課 程審議会の 「 教育課程の基準の改善 に関す る基本方向について ( 中間 まと め
)」においてであった とする見解が通説 となっている
。具体的に改善方針 は
3点にわたって示 されたが,そのうちの項 目
3「 国民 として共通に必要 とされる基礎的 ・基本的な内容 を重視するとともに児童生 徒の個性や能力に応 じた教育が行 なわれるようにすること」 とうたわれた。
ここでの 「 基礎 ・基本」の特質はまず,「国民 として必要 とされる内容」
と規定 されていることである
。つ ぎに,これ ら「 基礎 ・基本」との関連で 「 個 性」概念が用い られている点になによりも留意 しなければな らない。
すなわち,教育課程の編成方針 は小 ・中 ・高の教育を一貫 したもの として とらえ,小 ・中学校 については基礎的 ・基本的な内容 を共通に履修 させ,高 校では個人の能力 ・適性等に応 じて適切 な内容 を選択履修 させ るという構成 となっているか らである
。この構成において共通履修対選択履修の二元論的 な考え方が読み取れ よう
。(2)
「 基礎 ・基本 」 の質的変化
昭和
50年の教課審の中間まとめ以後
,「 基礎 ・基本」の用語 は一貫 して用 い られて きていることを確認 しておかなければならない。
さらに,昭和
58年,中央教育審議会は 「 審議経過報告」 を発表 した。 この なかで,社会の変化 に対応 し,児童 ・生徒の心身の発達状況 を考慮 して学校 改善を図るに当たって,今後重視すべ き視点 として, 自己教育力の育成,個 性 と創造性の伸長,文化 と伝統の尊重 と並 んで,「 基礎 ・基本の徹底」が指 摘 されている
。しか し,基礎 ・基本の質的内容 には大 きな変化がみ られることに留意 しな
7 2
ければならない。従来の基礎 ・基本は主 として教育内容や指導事項 に向けら れていたが,この報告では 「 人間形成の基礎」 という表現が前面に出て きた ことが特筆 される。
すなわち,「 基礎 ・基本の徹底」 とは 「 知 ・徳 ・体の調和 ある人間形成
」をめざし,その基礎 ・基本 を明確 に しつつ,教育内容 を精選 し,これを確実 に身につけることが要請 されたのである。具体的に,知育の基本は思考力, 判断力,創造力 を養 うこと,徳育の基本は基本的な生活習慣の しつけ, 自己 抑制心 に裏づけ られた自主性の滴養 などであ り,体育の基本は健康の増進 と 体力の向上,そのために必要な知識 ・技能の習得,正 しい運動の実践方法や 楽 しみの習得 などと示 された。
これは,教育荒廃 にみ られる人間形成の基礎 をおびやかす教育状況や,そ の基礎 を培 うことを欠如 させ る社会的状況への認識があったため と考えられ るのである
。そ して,基礎 ・基本 は,「 確実な修得」 と必然的な関連 を持 っている と同 時に,それが国民 として必要 な内容 と関連 して,「 共通な修得
」も求め られ ている
。この観点か ら生ずる学校教育の画一性 ・硬直性 を克服するために,
「 一人ひとりの能力 ・適性,興味 ・関心等に応 じた教育」が強調 された。 し か し,基礎 ・基本の確実で共通な修得 と個性重視の教育 との関係 については ほとんど論究 されていない。
( 3) 「 基礎 ・基本」 と 「 個性
」との一体化
個性重視の教育は臨時教育審議会の答 申を契機 としていっそ う拍車がかか る。第一次答 申では
,「 基礎 ・基本の重視」を掲げ,さらに最終答 申 ( 昭和62
年8月)では教育改革の最重要課題 として示 した 「 個性重視 の原則」のなか で,「 豊かで,多様 な個性 は 『 基礎 ・基本』の土台の上 に初めて築 き上 げ ら れるものである
」と述べ られている
。この答申で,基礎 ・基本 を培 ったうえで個性の育成が考えられているとい う図式がみ られるのである
。この図式はこれまで と同様,いわゆる 「 基礎 ・ 基本対個性」 といった二元論的な考え方に彩 られている。
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戦後教育の総決算 といわれた臨教審答申以後,これか らの社会の変化 とそ れに伴 う子 どもの生活や意識の変容に配慮 しつつ,昭和
62年の教育課程審議 会は,「 改善のね らい
」として
4点を掲げた。その項 目
(3)に,「国民 として必 要 とされる基礎的 ・基本的な内容 を重視 し,個性 を生かす教育の充実 を図る こと
」と示 されている。 ここに至って,基礎的 ・基本的な内容 を児童 ・生徒 一人ひとりに身につけさせ ることと,個性 を生かす教育が明確 に一体化 され るのである
。平成元年告示の現行学習指導要領では,基礎 ・基本 を一定の知識 ・技能を 共通的に身につけさせ ることを重視す る考え方 を改めている。そ して,これ か らの教育においては子 どもたちが主体的に生 きてい くために必要な豊かな 心 と個性の育成 をめざし,豊かに生 きる力 としての資質や能力 を 「 基礎 ・基 本」 ととらえる見解 を示 したことは,個性 と基礎 ・基本の一体化論 を確証す るものである。
(4)
教課審答申と今 日的な 「 基礎 ・基本」
この一体化論は,第 1 5 期中教審や今回の教課審答 申, さらに告示 された学 習指導要領に踏襲 されているのである
。では,ここで今 日的な基礎 ・基本 に 関する現状 をとらえてみることにしよう。
今回の教課春の答 申では, 教育課程の改善にあたっての「 基本的な考え方」
のなかで,「 完全学校週 5日制下の教育内容の在 り方」 と 「 教育内容の厳選 と基礎 ・基本の徹底」 とい う項 目を掲げ,おおむね次のように提言 している。
① 教育は学校教育のみで完結するのではな く,学校教育では生涯学習の 基礎 となる力 を育成す ることが重要である。
②
教育内容 を基礎的 ・基本的なものに厳選 し,そ うした内容 については, 子 どもたちの以後の学習を支障な く進めるためにも繰 り返 し学習 させ るなど
して,確実 に習得 させなければならない。
さらに,この答 申では,教育課程改善のね らい 4 項 目のうち第 3 番 目に「ゆ
とりのある教育活動 を展開する中で,基礎 ・基本の確実な定着 を図 り,個性
を生かす教育 を充実すること」 について述べてお り,次の ような指摘がみ ら
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れる。
①
時間的にも,精神的にもゆとりのある教育活動が展開されるなかで厳 選 された基礎的 ・基本的な内容 を子 どもが じっ くりと学習 し,その確実な定 着 を図るとともに学ぶ ことの楽 しさや成就感を味わうことがで きるようにす る。
②
個人 として, また国家 ・社会の‑貞 として望 ましい人間形成 を図るう えで必要な基礎的 ・基本的な内容 を明確 にする
。とくに義務教育においては, 共通に学習すべ き内容は社会生活 を営むうえで真 に必要な内容に厳選する必 要がある。
これ らの変遷 を素描 して 「 基礎 ・基本」概念は,教育内容や指導事項の基 礎 ・基本か ら人間形成の基礎 ・基本 を問う方向に,その内容が広範かつ拡大 されていることが理解で きよう
。また国際化や情報化 など時代や社会の変化 に主体的に対応するための基礎 ・基本が問われ,その内容の質的な変化が指 摘で きるのである
。3. 「基礎 ・基本」の特質
(1)
基礎 ・基本の相対的意味
ところで基礎 ・基本は大別 して
,(1)基礎 と基本 を語義的に区別する考え方,
(2)
基礎 と基本は密接不可分であ り,ことさら区別する必然性 はな く,非生産 的な論議であるとする考え方がある
。最近ではやや( 2) の考え方が強 くなって いるように思われる
。両者の違いを強調 して も,学習指導上のメリッ トが少 ないか らであろう
。ここで基礎 ・基本についての考え方 を若干な りとも素描 してお きたい。
前者( 1) において,「 基礎」 は発展や応用 と対置 され,土台 となるもの を意 味 している
。そこでは基礎の上に発展 を積み上げてい くという観点で基礎が とらえられている。基礎 と基本は比倫的に若木 と大樹 に類比 され,縦の系列 で考えられているところに特質がある。
それに対 して 「 基本」は派生や周辺 と対置 され,横の同位関係 において中
15心的なものを意味 している
。基本は,中心 となって幅 を広げてい くときの拠 り所 となるものでな くてはいけないのである。枝葉に対 して根幹 にあたるも の,バ ラバ ラなものに対 して構造的なものが基本 と考 えられる。 この ように 基礎 と基本は,縦の積み上げ,横のひろが りの もとになる重要な概念である
。後者
(2)は,学習指導要領において基礎 と基本 は厳密 に区別 されて用い られ ていない し,た とえ語義的に区別で きた として も実際には,基礎の上に基本 があ り,その基本が さらに上位の基礎 になるという具合 に不可分 につなが り, 実質をなさない という立場 にある。 この立場では,基本のなかにも基礎 と基 本が含 まれていると考え,基礎 と基本 は結局,物事の土台 となるもの,家の 建物 との相関における土台, またそれを習得 しなければ以後の学習に支障を きたす といった前提的性格 をもった比較的広い許容範囲で考えられていると ころに特徴がある
。したがって,基礎や基本 を問 う場合 には,「 何 にとっての基礎であるか」, あるいは 「 何 に対する基本であるか
」が絶 えず意識 されなけ ればならない。
この ように基礎 ・基本は相対的な概念 といえるのである
。(2)
基礎 ・基本の特質
これか らは 「 基礎 ・基本」 を中核 として 「 生 きる力」 を育む学校教育のあ り方が求め られてい くことは明 らかである
。「 基礎 ・基本」概念の変遷 を前 操 として確認 しつつ,それでは基礎 ・基本はどのような特質をもつのであろ
うか,その若干 を列挙 してみ よう( 5 ) 。
① 基礎 ・基本は人間形成に資する
基礎 ・基本は単に知識や技能の次元にとどまるものではない。それは 「 人 間形成の基礎 ・基本
」といえるものであ り,生 きる力の土台 となるものであ る
。今 日,基礎 ・基本 を学校で学び,それを土台にして生涯にわたって創造 的で主体的に 「 生 きる力」 を高めてい くことが期待 されている。
生涯学習の基礎 となる力や 自己教育力,望 ましい人間形成を図るうえで必
要な基礎 ・基本が重要なのである。 自ら学ぶ力,人 とのかかわ りあいで学び
合 ってい く力,学習の仕方,基本的な生活習慣,思考力 ・判断力 ・創造力や
1 6
関心 ・意欲 を培 うことなど,子 どもが豊かに活動 してい くためのエネルギー 源 となる力が具体的な様相 としてあげ られよう
。したがって,基礎 ・基本は,従来の読 ・書 ・算 という理解の仕方だけでは, これか らの教育的状況に対応で きず,さらに新たな内容 も考えられなければ ならない。
新たな内容はまず,情報化への対応 としての基礎 ・基本がある。いまや, 高度情報化社会 を主体的に生 きる力 を子 どもに育てることが肝要であ り,情 報 を主体的に創造 した り,選択するコンピュータリテラシー,情報活用能力 が新 しい基礎 ・基本 となろう
。つ ぎに,国際化への対応 としての基礎 ・基本 が考えられる
。国際理解 を深め,外国の子 どもたちと共存 しても違和感 を感
じさせ ない国際人 としての 自覚 をもた らす基礎 ・基本である
。② 基礎 ・基本は転移性に育む
基礎 ・基本は応用,発展 の土台 として考えられる。学校 はすべての知識 ・ 技能を教 えるところではない。基礎 ・基本にあたる,ある限 られた範囲の教 育内容 を体得 させ得 るにす ぎない。そのため,転移性 ・応用性のある基礎 ・ 基本が大切である
。子 どもがある教科で身につけた内容 を他教科の学習場面で生か した り活用 した りする知の総合化や教科 問の関連 も重要な視点 となるであろう
。( 彰 基礎 ・基本は情意的なものを含む
一般に,基礎 ・基本は知識 ・技能のスキル的なもの と考えられがちである
。基礎 ・基本のなかには知識,理解の認知的なもの とともに,関心 ・意欲 ・態 度 といった情意的なもの もその対象 として含 まれる。
たとえば今回改訂の社会科の 目標 「 社会生活についての理解 を図 り,我が 国の国土 と歴史に対する理解 と愛情 を育て,国際社会に生 きる民主的,平和 的な国家 ・社会の形成者 として必要な公民的資質の基礎 を養 う」 に象徴 され るように各教科の 目標 には情意的な面が強調 されているのである
。また関心 ・態度は,知的側面 よりも感情や意志などの情意的な側面にかか
わるものであ り,知識や技能 よ りもむ しろ大切 にしたい。知識 ・技能 を生み
だ した り,その裏づけとしての働 きをする情意は,基礎 ・基本 として重要だ
17か らである。
4. 「基礎 ・基本」 をとらえるレベル
新学習指導要領のエ ッセンスをキーワー ド風に綴 るならば,人間形成 レベ ルでは 「生 きる力の育成」であ り,教育課程 レベルでは 「ゆとりの実現」「特 色ある教育活動」「特色ある学校づ くり」となろう。 これ らを承けた授業 レ ベルでは 「学び方の学習」「問題解決的な学習」「知識 と生活の結びつ き」「知
の総合化」「知的好奇心 ・探究心」などである。 したがってこれか らは 「生 きる力」を育むための基礎 ・基本は何かが問われることになろうo
すでに触れてきたようにその基礎 ・基本は相対的 ・弾力的で多様であるこ とを銘記 しなければならないo したがって基礎 ・基本は確固不動の固定的 ・ 絶対的な基礎 ・基本があると考えるのではな く,これをとらえるレベルや視 点を決めることによって枠づけられるとい う性質をもつ o「基礎 ・基本
」
を 再考する観点は多様であるが,小論の意図はこれまで述べてきたことを全般 的に確かめつつ, どのレベルで基礎 ・基本 をとりあげるかによって相対化 さ れるという観点を重視 したいのである。この観点を検討する手がか りを示唆してみ よう。
(1) 人間形成 レベルでの基礎 ・基本
教育は人間を形成する営為であるo この全体的で一般的な視点か ら基礎 ・ 基本を問うことがで きるoこれは,端的に 「人間形成の基礎 ・基本」という 形で表現 される。臨教審の答申に代表 される 「基礎 ・基本の徹底」はまさし く人間形成の基礎 ・基本である。 これは,形成すべ き資質や能力を想定 して その基礎 ・基本を導 きだそうとするものであるoその際,現代の教育で軽視 された り,今 日の子 どもに欠如 している資質や能力を想定することが多い0 人間形成の基礎 ・基本が強調 される背景には,二つの要因があるように思 ゎれる.一つは家庭,地域社会,学校の教育において人間形成のための基礎 ・ 基本がおろそかになっていることが指摘 されるo 二つには,生涯学習社会で
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生活するために,人間形成の基礎 ・基本 を身につけることが必要だ という積 極的な認識に基づ くものである
。では人間形成の基礎 ・基本 とは何か。それは知育 と徳育 と体育の
3分野そ れぞれに必要 な資質や能力があげ られる。「 生 きる力
」を構成する問題解決 的な資質や能力,豊かな人間性,健康や体力 もこのようにして導 きだされた 基礎 ・基本 といえるであろう
。( 2) 教育課程 レベルでの基礎 ・基本
教育課程の編成の実態か らして,教師が主に拠 り所 とするものは学習指導 要領 と教科書であろう
。この意味か らするならば学習指導要領に示 された内 容が基礎 ・基本である考えることもで きるのである。学習指導要領 と教科書 は,指導内容の基礎 ・基本 を含んでいることは確かだか らである
。しか し,これでは全国一律の共通的性格 をもつ ことにな り,学校の位置す る地域社会の文化的状況 とそこに生活する子 どもの特質は考慮 されていない ことになる
。地域の社会的条件や文化的状況を顧慮 して特色ある教育内容が 検討 されてよい し,地域 に生活する子 どもの実態 に即 した教育活動が選択 さ れてよいはずである。 こうして,地域社会の文化やそこに生活する子 どもの 特質に対応する基礎 ・基本がカリキュラムの中心に位置づけられなければな
らない。
まさに,各学校 において 「 生 きる力
」を育むことを目指 し,創意工夫 を生 か した 「 特色ある教育活動,特色ある学校づ くり」が要請 されるゆえんであ る
。( 3) 授業 レベルでの基礎 ・基本
授業 を展開するレベルで も基礎 ・基本 を問題にすることがで きる
。この レ ベルでの基礎 ・基本が教師にとって最 も身近で,切実なことであろう
。これ には多彩 な基礎 ・基本の とらえ方があるが,厳選 された基礎 ・基本は子 ども にとって十分理解 され,定着 されなければな らないという学習の見方か ら考 えてみたい。
7 9
理解 とい う観点か らみる と基礎 ・基本 としての一定の概念や原理 な どは直 観,経験 ,体験 を基礎 として把握 され る
。今 日ではこうい う直観,経験 ,体 験 の裏づ けのない情報が氾濫 してお り,皮相 な理解 に とどまって行動の指針 や実践力 とな らない ことが憂慮 されるo確実で しか も深 い理解 に達す るには 直観,経験 ,体験 を豊かにもつ ことが必要であるo
定着 とい うことか らみ ると,理解 された内容 は生 きた知識 として身につ け られ,生 きた形態で習熟 されなければな らない。基礎 的 ・基本的な知識や技 能が確実 に体得 されるには繰 り返 し反復 ・練習す ることである
oそ して確実 な定着 をめ ざす ところは,基礎 ・基本 を類似 のあるいは新 しい場面 に生か し て 自由に駆使で きることに求め られる
。基礎 ・基本 は次の学習や生活のなか に応用 し発展 されて,その意義 をもつ ことになるか らである
。( 引用ならびに参考文献)
( 1 ) 佐藤学
「『 基礎 ・基本』の 『 学力』というベール」 oこの論文は本特集テー マに示唆深い提言がなされているo佐藤学著 『カリキュラムの批評』世織書 房,1 9 9 6 年,43 3‑4 4 4 頁所収論文o
( 2 ) 雑誌 『 現代教育科学』明治図書,1 9 9 8 年1 1 月号の安彦忠彦論文 ( 5‑7 頁
)。( 3 ) 同上。
( 4) 筆者 も研究担当者 として参加 した,文部省 「 教育方法の改善に関する調査 研究」委託研究報告書 『 基礎 ・基本のとらえ方に関する研究』( 基礎 ・基本 に関する研究会,研究代表者 筑波大学教授 長谷J 順 )1 9 8 8 年oこの報告 書は筆者が記述 した内容を研究の一つの基軸 としていると判断する。なお, 本小論の多 くはこの報告書に負 うているo
( 5 ) 高田喜久司 「 教材 と基礎 ・基本」 o前掲報告書所収論文 ,1 23‑1 40 頁o
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