緒 言
近年,乳牛の乳量は年々増加している一方で,繁 殖成績は低下傾向を示している 。乳牛では,分娩間 隔を 12ヶ月にしたときに最も高い生産性が得られ るといわれている 。そのためには,分娩後 50〜60 日までに卵巣および子宮機能を回復させ,受胎可能 な状態にしておかなければならない。しかし,分娩 に伴う種々の疾病や栄養など様々な要因で卵巣機能 の回復ならびに子宮修復の遅延が多く,特に分娩後 の子宮の修復遅延が不受胎の原因として注目されて いる。分娩後の子宮修復や卵巣機能の回復が遅延す ると人工授精の開始が遅れ,受胎率の低下につなが る。従って,乳牛の繁殖成績の向上には,正常な子 宮修復ならびに卵巣機能の回復が必要である。一方,
乳牛の子宮および卵巣疾患の治療に灸が用いられ,
その成果が報告されている 。しかし,
これら報告の多くは,疾病の初期段階における施灸 の効果を検討しており,子宮および卵巣機能の早期 回復による疾病予防を目的とした繁殖機能を総合的 に検討した報告は少ない 。そこで,本研究では分娩 後の乳牛に対して施灸を行い,繁殖機能に及ぼす効 果を検討した。
材料および方法
⑴ 供試牛
酪農学園大学・同短期大学部附属農場繁養のホル スタイン種経産牛を使用した。対照群には繁殖記録 の明らかな 58頭(1〜4産)延べ 149例の記録を用 いた。施灸群は分娩後の乳牛 10頭(1〜4産)を選 び,まず,分娩後3日目,4日目および5日目に全
頭に対して施灸を行い,その後5頭ずつ2群に分け た。1群は分娩後 50日目,51日目および 52日目の 3日間連続して灸を行った施灸1回群,残りの1群 は 30日目,31日目および 32日目と 50日目,51日 目および 52日目の2回,それぞれ3日間連続して 行った施灸2回群とした。得られた結果は対照群,
施灸1回群,および施灸2回群とし,対照群との間 で比較検討した。
⑵ 施灸法
施灸は温灸用もぐさ(釜屋)を用いた。施灸部位 は繁殖障害に効果があるとされている天平,百会,
帰尾,尾帰,尾根および十字部を中心とした無名の 穴5ヶ所の計 10ヶ所とした。施灸は,施灸部位に 味噌 50gを厚さ 2cm,直径 5cmになるように塗 り,その上に軽く丸めたもぐさ(1.5g)をのせ,着 火した。1回目のもぐさは約 10分間で火が消えたの で,さらにそれぞれの穴に追加の施灸を2回連続し て行い,合計で 30分間実施した。施灸部位の天平は,
第 13胸椎棘突起と第1腰椎棘突起の間,百会は十字 部,腰椎と仙椎突起間のくぼみ,帰尾および尾帰は 百会から腰角方向へ約 8cm離れた部位,尾根は,仙 椎と第1尾椎の間とした。その他の無名の穴は,百 会と尾根の中間部に1ヶ所,この中間部の穴および 尾根の穴それぞれから左右両外側に約 8
cm
離れた ところの4ヶ所とした。⑶ 繁殖成績
本研究で用いた繁殖成績のうち空胎日数は 妊娠 した時の最終授精日−分娩日 ,実空胎日数は 妊娠 した時の最終授精日−初回授精日 ,初回授精日数は 初回授精日−分娩日 ,発情発見率は 授精回数÷
[(空胎日数−初回授精日数)÷21+1]×100 ,妊
灸が乳牛の分娩後の繁殖機能に及ぼす影響
秋 葉 貞 治・杉 浦 健太郎・堂 地 修 小 山 久 一
Effect of moxibustion on the reproductive function of daily cattle
Sadaharu A
KIBA, Kentaro S
UGIURA, Osamu D
OCHI, Hisaichi K
OYAMA(October 2005)
J. Rakuno Gakuen Univ.,30(2):235〜238 (2006)
酪農学園大学酪農学部酪農学科家畜繁殖学研究室
Department of Dairy Science, Animal Reproduction, Rakuno Gakuen University, Ebetsu, Hokkaido, 069‑8501, Japan
娠率は 発情発見率÷授精回数 および初回授精受 胎率は 初回授精で受胎した頭数÷全頭数×100 か ら算出した。
⑷ 統計分析
統計処理は,カイ二乗検定(エクセル統計
Ver.1.
1
)を用いて行った。結 果
空胎日数,実空胎日数および初回授精日数の結果 は表1に,発情発見率,妊娠率および初回授精受胎 率の結果は表2に,受胎に要した授精回数は表3に 示したとおりである。
⑴ 空胎日数,実空胎日数および初回授精日数の比 較
空胎日数の結果は,対照群 111.8日に対し,施灸 1回群 104.8日,施灸2回群では 86.0日と施灸回数 の増加に伴い減少した。実空胎日数は対照群 37.3 日,施灸1回群 30.0日,2回群 15.2日と対照群よ りも短縮した。初回授精日数は対照群 74.3日に対 し,施灸1回群および2回群はそれぞれ 74.8日,
70.8日と短縮した。しかし,空胎日数,実空胎日数 および初回授精日数のいずれにおいても対照群と施 灸群の間に有意の差は認められなかった。
⑵ 発情発見率,妊娠率および初回授精受胎率の比 較
発情発見率は対照群 84.3%に対し,施灸1回群お よび施灸2回群は 87.1%,95.6%と増加し,2回群 は対照群よりも 11.3%高くなった。妊娠率は対照群 58.3%,施灸1回群 58.1%と両者の間に差はなかっ たが,施灸2回群では 74.2%とやや高い値が得られ た。しかし,発情発見率および妊娠率のいずれにお いても施灸群との間に有意の差は認められなかっ た。初回授精受胎率は対照群 43.0%,施灸1回群
40.0%とやや低下したが,施灸2回群においては 60.0%と高い値を示し,対照群との間に約 17.0%の 差がみられ,両群の間に有意の差が認められた(P< 0.05)。
⑶ 受胎に要した授精回数の比較
受胎に要した平均授精回数は対照群 2.1回に対 し,施灸1回群 2.0回,2回群 1.6回と施灸回数の 増加に伴い低下した。しかし,対照群との間には有 意の差は認められなかった。
考 察
近年,乳牛の改良が進み生産性が向上している。
しかし,高能力牛において繁殖障害が多発する傾向 にあり,空胎日数の延長は経営上の生産性の低下と 経済的損失を招いている。本研究で実施した繁殖成 績に対する灸の効果は,初回授精受胎率以外の項目 においては有意の差が認められなかったが,施灸2 回群においてやや改善する傾向がみられた。
乳牛の空胎日数を検討するとき,実空胎日数と初 回授精日数に分けることで,どちらが空胎日数の延 長要因になっているか明らかになる。本研究の施灸 群では,2回群の実空胎日数と初回授精日数はそれ ぞれ 22.1日,3.5日短縮していた。このことから,
施灸群において空胎日数が短縮したのは,初回授精 日数の短縮よりも,実空胎日数の短縮によるもので あることが示唆された。
秋 葉 貞 治・他 236
表 1 施灸が空胎日数,実空胎日数および初回授精日数に及ぼす影響 空胎日数(日) 実空胎日数(日) 初回授精日数(日) 対 照 群(n=58) 111.8±3.8 37.3±3.6 74.3±0.8 施灸1回群(n= 5) 104.8±12.1 30.0±12.8 74.8±5.0 施灸2回群(n= 5) 86.0±8.5 15.2±9.3 70.8±3.7 a:平均値±標準誤差
表 2 施灸が発情発見率,妊娠率および初回授精受胎率に及ぼす影響 発情発見率(%) 妊娠率(%) 初回授精受胎率(%) 対 照 群(n=58) 84.3±1.4 58.3±2.9 43.0±4.1 施灸1回群(n= 5) 87.1±5.5 58.1±17.1 40.0±24.5
5 施灸2回群(n= 5) 95.6±7.1 74.2±15.8 60.0±24.5 a:平均値±標準誤差 P<0.05
表 3 施灸が受胎に要した授精回数に及ぼす影響 受胎に要した授精回数(回) 対 照 群(n=58) 2.1±0.1
施灸1回群(n=
平
) 2.0±0.4 施灸2回群(n= 5) 1.6±0.4 a: 均値±標準誤差
日本における乳牛の発情 発 見 率 の 目 標 数 値 は 70%とされている 。本研究の結果では対照群およ び施灸群ともに目標数値を上回り,対照群と比較し,
施灸2回群では 11.3%とやや良い結果が得られた。
また,妊娠率の比較では施灸2回群において対照群 よりも 15.9%高い値を示した。この値は発情発見率 における対照群と施灸2回群の差よりも大きいこと から,受胎率の向上によるものと推察された。
初回授精受胎率は,対照群に対し,施灸2回群で は 17.0%高い値を示した。このことは,初回授精日 数に顕著な差がないことから,対照群よりも施灸群 における卵巣機能の回復や子宮修復が良好であり,
受胎・妊娠が順調に進んだものと推察された。
北海道における乳牛の初回授精受胎率は 50%を 下回っている 。本研究の結果では,対照群と施灸2 回群の値は 43.0%と 60.0%を示し,対照群では低値 であったが,施灸2回群で北海道の水準を上回って いた。妊娠率の目標数値は 35%に設定されており,
20%は 普通 ,15%は 低すぎる となっている 。 今 回 の 結 果 で は 対 照 群,施 灸 2 回 群 そ れ ぞ れ 58.3%,74.2%と目標数値を両群ともに上回ってい たが,施灸群においてはより良好な結果が得られた。
受胎に要した授精回数では,施灸2回群は対照群に 比べ 0.5回減少した。日本全国における受胎に要し た平均授精回数は,2.2回である 。今回の対照群お よび施灸2回群の受胎に要した授精回数はそれぞ れ,2.1回,1.6回と,ともに全国平均を下回る良い 結果であった。
以上のように,本研究の結果から分娩後の乳牛に 対する施灸は実空胎日数の短縮に貢献するととも に,妊娠率を高めることが明らかとなり,分娩後の ウシに対する施灸の効果が窺えた。また,この施灸 による効果がどのようなメカニズムによって起こる のかは不明であるが,美馬本ら は施灸中の乳牛に おいて体表面温度の上昇することを認めており,施 灸による血流の増加が卵巣の回復や子宮の修復を促 進しているものと考えられた。
要 約
本研究では,乳牛の灸が繁殖機能に与える影響に ついて検討した。牛群管理において繁殖成績の向上 は費用削減のためにも重要であり,繁殖機能を改善 する1つの方法として灸が用いられている。実験に は,酪農学園大学・同短期大学部附属農場繁養のホ ルスタイン種経産牛を使用した。灸には,繁殖機能 の向上に効くとされている背中と臀部の計 10ヶ所 の穴を選択し,もぐさはのりの役目をする味噌で固
定した。施灸群には1日 30分の灸を3日連続で行っ た。対照群には,附属農場の繁殖記録の明らかな経 産牛を使用した。灸は分娩後3〜5日目に全頭に行 い,その後2群に分け,施灸1回群は分娩後 50〜52 日目に再び施灸をし,施灸2回群は分娩後 30〜32日 目と 50〜52日目に施灸した。繁殖成績は,空胎日数,
実空胎日数,初回授精日数,発情発見率,妊娠率,
初回授精受胎率,受胎に要した授精回数について検 討した。
対照群と施灸群の間には,初回授精受胎率以外の 項目については有意の差は認められなかったが,施 灸1回群と施灸2回群を比較すると,施灸1回群よ りも施灸2回群においてより繁殖機能の向上がみら れ,空胎日数は 25.8日減少し,受胎に要した授精回 数は 0.5回減少した。
参 考 文 献
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Summary
The objective of this study was to determine the effects of moxibustion on the reproductive efficiency in dairy cattle. It is important to improve the reproductive efficiency for reducing the cost in daily manage-
ment. Moxibustion is one of the best methods to improve reproductive efficiency in dairy cattle.
Holstein cows from Rakuno Gakuen University herd were used in the experiments. Ten effective points on the back and rump were selected for moxibustion. Moxa was applied to these points by using miso paste. The cows were treated daily for 30 min for 3 consecutive days.
The University dairy farm records were used as a control. Moxibustion was performed on all cows 3
‑5 days after parturition;the cows were then divided into 2 groups. In Group 1,moxibustion was performed again on the cows 50
‑52 days after parturition,while the cows in Group 2 were treated again 30
‑32 and 50
‑52 days after parturition. The days of non pregnant condition (days open),detection rate of estrus,days to first service, days from first service to conception, pregnancy rate, pregnancy rate at first service, and services per conception were examined.
There were no significant differences between the control and moxibustion groups parameters except for pregnancy rate at first service. However, the comparison between Groups 1 and 2, all parameters were improved in the cows in Group 2. Days open were decreased by 25.8 days. Moreover, services per conception were also decreased by 0.5 services.
秋 葉 貞 治・他 238