1980年代から生涯学習社会といわれて久しい。現代では生涯学習社会での「人生100年時 代」といわれ,世界的にライフスタイルが今までのあり方では通用しなくなっていることが 認識されてきている。特に,リンダ・グラットン,アンドリュー・スコット『ライフシフト
―100年時代の人生戦略』2016年,東洋経済新潮社 は衝撃を与え,長寿社会となっている日
本では現実問題となっている。この指摘や提案などを受けて,政府でも「人生100年時代構想 会議」が立ち上がり,2017年12月の中間報告では「『超長寿社会』を世界に先駆けて迎える日 本において,単線型ではない,多様な『人生の再設計』をどう可能としていくか。教育や雇 用制度,社会保障など,国の制度はどうあるべきなのか。これこそが,本構想会議が人生100 年時代を見据えて考えなければならない大きなテーマである。」と指摘し,「人づくり革命」として次のように提言している。「人生100年時代に,高齢者から若者まで,全ての国民に活 躍の場があり,全ての人が元気に活躍し続けられる社会,安心して暮らすことのできる社会 をつくるためには,幼児教育から小・中・高等学校教育,高等教育,更には社会人の学び直 しに至るまで,生涯を通じて切れ目なく,質の高い教育を用意し,いつでも有用なスキルを 身につけられる学び直しの場が,安定的な財源の下で提供される必要があるほか,高齢者向 けの給付が中心となっている我が国の社会保障制度を,子供・若者から高齢者まで誰もが安 心できる『全世代型の社会保障』へ大きく転換していく必要がある」。として,最終報告とし て2018年 6 月に「人づくり革命 基本構想」としてまとめた。ここでは,基本構想のもと,
5 つの点から改革を実施しようとしている。それは,「 1 .幼児教育の無償化 2 .高等教育 の無償化 3 .大学改革 4 .リカレント教育 5 .高齢者雇用の促進」である。
このような,日本の大きな変革の流れの基本にある生涯学習社会と「人生100年時代のライ フスタイル」の構築のあり方を検討してみた。
研究内容としては以下の視点でまとめていった。
*立正大学社会福祉学部子ども教育福祉学科
キーワード:生涯学習社会,ライフスタイル,まちづくり
生涯学習社会での環境整備と 新たなライフスタイルのあり方
Environmental Improvement of Lifelong Learning Society and a New Lifestyle
大平 滋*
Shigeru Ohira
〈研究報告〉
1 章 生涯教育から生涯学習への意味と背景 1 .生涯教育の概念の意味と時代背景
1960年代のユネスコが提言した「生涯教育」と概念の意味と時代背景を中心に歴史の概観。
2 .生涯教育から生涯学習へ
「生涯教育」のことばのもつ意味の教育観への批判から,成人における教育の視点から「生 涯学習」への転換についての経緯の概観。
2 章 生涯学習と生涯学習社会の構築―教育政策を中心に 1 .日本の教育政策における動向
「生涯学習」という用語の使い方を概観し,日本の教育政策の基本的な原理となっていく
「生涯学習」体制の進展のあり方を明らかにした。
2 .1970年代から80年代
1970年代はユネスコの「生涯教育」という用語が新鮮さをもって使われ,そのうち,「生涯 教育」の持つ意味の限定さが批判されるようになり,幅広く成人の教育に適応するためには
「生涯学習」への概念への転換が行われた。
この時代は,イヴァン・イリイチに代表されるディス・エディケーションの「学校中心社 会」への批判など,文化や社会のあり方そのものの見直しが行われる。
1989年の学習指導要領の改訂は大きな教育政策の転換点となる。この大きな教育政策の大 変革は「新教育観」といわれ,教育政策の基本原理となり,この教育観のもと今日まで継承 されている。
3 .1990年代の生涯学習社会の構築
1990年代になると,文教政策の大きな転換が行われ,学校教育中心の文教政策から,「生涯 学習社会」構築の文教政策に転換された。生涯学習局が文部行政の筆頭局(1989年)となり,
1990年に,「生涯学習の施策の推進体制の整備に関する法律(生涯学習振興整備法)」が施行 され,教育政策の基本理念は「生涯学習社会」の構築となっていった。同時に,社会教育行 政は生涯学習行政へと転換していった。
3 章 生涯学習における成人学習論の変遷 1 .生涯学習社会での成人学習論
生涯学習社会の構築では,教育原理の基本としての「生涯学習」のもとでの教育行政とな
互教育」などがあった。この時期,欧米の成人教育分野では,多様な試みがなされ,積極的 に成人学習論が提示されるようになる。
2 .成人学習論の進展と領域
欧米の成人学習論の展開では,以下の分野が挙げられる。
アンドラゴジーの学習論,意識変容の学習論,スピリチュアリティと成人学習,身体化さ れた学習,ナラティブ学習(物語を通じた学習と経験の物語化),ホリスティックな学習など であり,多様な側面からの研究がなされる。
4 章 人生100年時代のライフスタイルと生涯学習社会の意味するもの 1 .「人生100年時代」の衝撃と経済分野からの問題提起
21世紀に入って,日本では少子高齢化社会という状況が定着してきた。少子化は先進国で 常態化し,日本では合計特殊出生率1.36前後となっており,抜本的な少子化解消の政策がな されていない。高齢化は平均寿命の高齢化という人類の願いを実現しているものの,高齢者 の経済的自立のあり方が課題となりつつある。特に,イギリスの事例研究をもとに公表され たリンダ・グラットン,アンドリュー・スコット『ライフシフト―100年時代の人生戦略』
(2016年)の研究成果である。第二次世界大戦後の世代のライフスタイルの特徴を分析し,先 進国で進められている基本的なライフステージでは,年金などの社会保障制度の行き詰まり が明らかになり,60歳ないし65歳定年でその後の年金生活での生活の保障が可能かのシュミ レーションを行い,もはや成立していかないということが明らかになっている。戦後に先進 国各国で成立した年金制度は,日本も含めて,人生60年余りを想定している。1950年代の公 務員や企業の定年年齢は,60歳及び55歳であり,その後の余生は,平均寿命では10年以内の 余生と見られていた。そのため,老後の生活では経済的には年金と蓄えで問題なく生活して いけた。
その後,先進国各国で平均寿命は延びていき,日本も世界トップクラスの平均寿命となっ て久しい。この現状を裏付けるように,この『ライフシフト―100年時代の人生戦略』は,現 在,および今後の世代は人生100年時代であることを明らかにし,この長寿化により,現在の 定年後の設定年齢では余生ということではなく,正に「第二の人生をいかに生きるか」とい うことが大きな課題となってきたことを明らかにした。一つは経済的な自立が現行の制度や ライスステージのあり方では困難になってきていること。この長寿というものが,経済的な 自立という課題とその後の長い生活時間を充実した人生にするのかという課題が大きなもの として出てきた。まさに,人類が今までに体験したことのない課題である。
また,これは生涯学習社会での生き方と働き方の問題ともいえる。
2 .日本の戦後のライフスタイルと社会制度の動揺と不安
日本の戦後のライフスタイル及び戦後の社会制度は,第二次世界大戦後の復興から始まっ た。その基本になるのは一貫した人口の拡大とそれに伴う経済成長である。理想的なピラミッ ド型の人口構成のもとでの継続的な若年層の増大と経済の拡大再生産のもとでの経済運営。
及びピラミッド型人口構成での社会保障制度などの制度設計であった。社会保障の基本とな る年金制度そのものも多数の若年層に支えられた少数の高齢者への支援であった。また,国 民の平均寿命も1950年代では60歳代となっており,定年後の人生そのものも短く,「余生」そ のものであった。この時点では,現行の基本となっている年金制度も理想的な運営ができ,
余剰すらできる優れた制度であった。しかし,今日の高齢化による平均寿命の延長と高齢者 の総人口比率に占める割合の上昇により,現行の年金制度のあり方の制度設計そのものの検 討が緊急課題となっている。生産人口が減少し,年金受給者の増大が続いていけば,年金制 度の行き詰まりは明らかである。現状としては,支給額の段階的減少と支給時期の年齢引き 上げが段階的に行われる可能性が大きい。
一方,先の『ライフシフト―100年時代の人生戦略』では,個人の自衛のための経済的自立 のシュミレーションを行っている。イギリスの現状を基本にしているが日本にも当てはまる ものである。これによると現在の高齢者の年間生活費から年金受給額と差額を算出し,生活 年数を計算していく。幸運にも100歳まで可能とした場合の差額の貯蓄の確保。つまり,どの くらいの貯蓄が必要かという点である。このシュミレーションでは年金制度は維持されると いう前提である。この貯蓄に関しては現行の高齢者の平均貯蓄額などが出されており,かな り厳しいものとなっている。そうすると次に問題になるのは,経済的自立をするためには,
定年年齢の引き上げと定年後の経済的自立のための労働を維持することである。まさに,高 齢期の経済的自立と生き方そのものが重要な課題となってくることを示している。
3 .生涯学習社会でのライフスタイルと新しい働き方・生き方
人生100年時代は,今まで現代社会で言われてきた大きな三分割されていたライフステージ
(いわゆる,青年期までの勉学期,成人の労働期,定年退職後の余生)のあり方が終焉し,マ ルチステージのライフスタイルが要求されていることを示している。社会のあり方と長寿社 会の実現に伴い社会的にも個人的にも「生涯学習社会」の中での生き方が問われていく時代 といえる。当然,そこでは新しい働き方と生き方が問われる。また,働き方に関しては,産 業構造の大きな変化と共に,現在の人工知能の進化とロボット化に伴い,劇的に労働環境と 労働の種類が変わっていくことが分かっている。この点も踏まえ,働き方や職種そのものの 変更が日常的になっていく世界である。つまり,絶えず人生のチャレンジを続けていかなけ ればならない生活である。
5 章 生涯学習社会とまちづくり 1 .生涯学習社会のまちづくりの現状
人生100年時代と言われる今日,現在のまちづくりで起きている現状を明らかにし,比較的 早い時期にどのような問題が生じてくるのかを検討。
2 .生涯学習社会におけるまちづくりの課題
少子高齢化社会の人口動態を含めた今後の変化とそのシュミレーション過程で明らかになっ ている課題を踏まえて,今後予想されるまちづくりの課題をどのように考え,今から取り組 まなければならない具体的内容と方法を考察する。
以上の研究課題項目を基に,研究の概略を進めた。さらに,成人の学習力と現在の状況を 明らかにするために,OECD の国際調査である「国際成人力調査」」(PIAAC,ピアック)の 経緯とそこから明らかになってきた国際比較からみた日本の現状と課題を詳細に検討してみ た。今後は各項目での成果を随時明らかにしていきたい。