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地域包括ケアにおける小規模多機能型居宅介護の意義 ―

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(1)

1 .はじめに

 現在,日本の社会福祉領域において地域包括ケアシ ステムの構築が求められている.これは,2012年度の 介護保険法の一部改正1)や同年9月に厚生労働省が公表 した「認知症施策推進5か年計画(オレンジプラン)」

に掲げられている.地域包括ケアシステムの構築が求 められる背景には,高齢者ケアのニーズの増大,単独 世帯の増大,認知症を有する者の増加が挙げられる1)  地域包括ケアシステムとは,要介護者ができる限り 住み慣れた「地域」で生活を継続できるよう個々の状 況やその変化に応じて介護サービスを中核に医療サー ビスをはじめとした様々な支援を継続的かつ包括的に 提供される仕組みのことである2).地域包括ケアシステ ムにおける「地域」とは,日常生活圏域(おおむね30 分以内に必要なサービスが提供される圏域)を示して いる3)

 地域包括ケアシステムの実現に向けた取り組みとし ては,地域の特性に応じて多様かつ柔軟に提供される 地域密着型サービスがある4).地域密着型サービスは認 知症高齢者グループホームや小規模多機能型居宅介護 がある.勝又5)は地域での生活を支える介護サービスの 構築として小規模多機能型居宅介護の整備を促進する 必要性を指摘している.

 小規模多機能型居宅介護で実践されるケア(以下,

小規模多機能ケア)の基本理念は,日常生活圏域にお いて通いを中心に,利用者の様態や希望に応じて,随 時訪問や宿泊を組み合わせてサービスを提供すること で利用者の居宅における生活の継続を支援するもので ある6,7).従来の介護保険サービスは,通所介護 ・ 短期入

所生活介護 ・ 訪問介護が別々の事業所により提供され ていたため,各々の供給システムは分断され有機的な 連携ができていなかった.そのため,介護サービスを 切れ目なく継続的に提供する小規模多機能ケアは地域 包括ケアシステムを構築する上で重要となる.

 以上のことから本研究では,地域包括ケアの構築に おいて中核的な役割を担う小規模多機能型居宅介護に 焦点を当て,自宅で転倒し泊まりサービスを利用する A氏の在宅生活の復帰に向けた取り組みを報告する.

2 .倫理的配慮

 本研究は,管理者の承諾を得た.利用者本人,利用 者家族,職員に対しては,プライバシーに配慮すると ともに,個人が特定されない形で結果を公表すること を口頭および文章にて説明し同意を得た.

3 .事例における地域の紹介

 本事例の小規模多機能型居宅介護事業所(以下,B ホーム)は,全国で最も高齢者人口の増加が見込まれ ている埼玉県のC市にある.C市の人口は,平成24年 度現在,約8万人で平均年齢は約40歳,高齢化率は,

同県の他の地域より低い地域となっている.C市は北 エリア,中央エリア,南エリアの3つのエリアに分か れ地域包括支援センターが設置されており,Bホーム は南エリアに位置している.

4 .事例紹介

A氏,女性,84歳

⑴ 要介護度:要介護2

⑵ 障害老人の日常生活自立度:A2

学校法人昌賢学園 群馬社会福祉専門学校

キーワード:地域包括ケア,小規模多機能ケア,認知症高齢者,家族支援,地域支援

地域包括ケアにおける小規模多機能型居宅介護の意義

―泊まりサービスを利用する認知症高齢者の在宅復帰に向けた取り組み―

松 浦 弘 典

(2)

⑶ 認知症高齢者の日常生活自立度:Ⅱb

⑷ 健康状態:アルツハイマー型認知症,腰脊椎管狭 窄症,頚椎脊椎管狭窄症,骨粗鬆症

⑸ 日常生活動作(ActivitiesofDailyLiving:ADL):

日常生活全般において自立しているが見守りや声掛 けは必要.

・移動:四点杖と手すりを使用している.歩行は不安 定であるため声掛けや見守り,一部介助が必要.

・食事:右手の振戦はあるが,左手で押さえながら箸 やスプーンを使用し自立している.

・排泄:日中はリハビリパンツのみを使用し,夜間は リハビリパンツとパッドを使用している.便意はあ る場合と無い場合とがある.トイレを使用しウォシュ レットを操作できる.

・入浴:見守りや声掛け,一部介助が必要.

⑹ 手段的日常生活動作(Instrumental Activities of DailyLiving:IADL)

・調理:自宅では調理していない.

・配膳:腰痛により立位保持の耐久性が低下している が,座位であれば声掛けにより人数分に分けること ができる.

・洗い物:身体の痺れがあることから両手に力がよく 入らないことや腰痛があるためできていない.口腔 ケアの際に使用したコップは洗っている.

・掃除:家族や職員が行っている.

・金銭管理:家族が管理している.

・服薬管理:声掛けや見守りにて内服できている.自 宅では飲み忘れがある.

⑺ コミュニケーション能力:視力,聴力共に問題な い.日常会話は問題なく流暢に話をする.意思表示 もできる.しかし,短期記憶の低下がみられ同じ質 問を繰り返すことがある.

⑻ 社会との関わり:ほとんど外出することはないが,

自宅の向かいにある美容院へ通っている.

⑼ 行動 ・ 心理症状(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia:BPSD):息子が勤務中で あっても毎日,13:00~17:00頃の間に「腰が痛い」

「吐き気がする」「救急車を呼ぶ」などと頻繁に電話 をする.感情失禁がある.

⑽ 生活歴:九州のD県生まれ.夫の仕事の関係で九 州全域を2年毎に転勤していた.現在は,夫が東京 都の国税局で勤務していたためS県に住んでいる.

夫は,X年に肝臓癌を患い他界している.A氏は職

歴がない.認知症が発症する前は,公民館へ習い事 をしに行っていた.詩吟や外出,話をすることが好 きである.

⑾ 性格:社交的であり比較的誰とでも話をする.家 族や職員が近くにいると「甘え」がみられ,A氏が 本来できることも他者に依存する傾向がある.

⑿ 家族構成:夫はX年に肝臓癌を患い他界している.

息子は3人いたが長男は52歳で他界している.現在 は,次男と二人で同居している.次男は会社勤務し ているため,日中はA氏一人で過ごしている.三男 は自営業のため,時間がある際はA氏の様子を見に 来ている.キーパーソンはA氏と同居している次男 である.

5 .経 過

 X+5年5月に地域包括支援センターの職員からA 氏の相談を受ける.以下,その間の経過について述べ る.

Ⅰ期 サービス利用前の状況(~X+ 5 年 5 月)

① 本人の状態 ・ 意向:X+5年3月,A氏の認知症 の進行に伴い,以前までできていた調理や片付けな どの家事や服薬管理,金銭管理ができず家族の支援 が必要となった.A氏は物忘れに対する自覚があり,

今後の生活に対する不安を感じていた.腰痛や身体 の痺れによる不安も強くあり,日中は頻繁に次男の 勤務先に電話をしていた.日中は次男,三男共に勤 務しているためA氏の介護を家族で行うことは困難 であった.三男は,自営業のため時間があればA氏 の様子を見に行っていた.A氏は,腰痛が悪化した ためD整形外科病院へ入院となった.A氏の意向は,

D整形外科病院を退院して在宅生活を送ることだっ た.

② 家族の状態 ・ 意向:三男は時々訪問し,ゴミ出し,

服薬管理,掃除,洗濯,食事の買い出しを支援して いた.次男や三男の意向は,訪問 ・ 通いサービスを 利用することで勤務できる環境を整備し介護負担の 軽減を図ることであった.

③ 地域との関係:近所の美容院や習い事をしに公民 館へ行っていた.

④ アセスメント

 A氏は,ゴミ出しや掃除,洗濯ができないこと,

季節の感覚が無く,衣服の調整などができないこと から,アルツハイマー型認知症の主要な症状8)がみら

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れた.また,認知症による短期記憶の低下を自覚し ていることや腰脊椎管狭窄症および頚椎脊椎管狭窄 症による腰痛,身体の痺れがあることから精神的に 強い不安を感じ,頻繁に次男の勤務先へ電話してい たと考えられた.また,A氏は時間における見当識 の障害や短期記憶の低下から次男が勤務中であるこ とを認識できていない可能性も考えられた.

⑤ 支援者側の対応

 Bホーム:介護支援専門員は,D整形外科病院に てA氏や三男,看護師から退院後の在宅生活に向け て必要な情報を収集した.また,Bホームのサービ ス内容を説明した.A氏がD整形外科病院を退院後,

本人および家族にBホームへ来所してもらい,介護 支援専門員が現在の日常生活状況を尋ねた.また,

施設見学も行った.

 関係機関(地域包括支援センター,D整形外科病 院,E脳神経科病院,F麻酔科病院):Bホームの サービス利用が決まり次第退院することとなった.

 支援の方向性:A氏と家族にBホームへ見学に来 てもらい介護支援専門員がサービス説明と支援の検 討を行った.その結果,Bホームは,A氏の生活リ ズムを崩さないように家族が対応できる日を除く日 中の訪問サービスを提案することとした.訪問サー ビスは,A氏と職員がなじみの関係となるよう可能 な限り同じ職員で対応することとした.それから徐々 に対応する職員を増やすこととした.訪問サービス 内容は,服薬管理,食事の提供,清潔保持,掃除,

洗濯などの支援を実施し,A氏の生活状況の把握に 努めることとした.

⑥ Ⅰ期における介入結果

 A氏の退院後,介護支援専門員は通いサービスを 提供しているフロアへ本人と家族を案内し,実際の 様子を見学してもらった.その後,介護支援専門員 はA氏と家族から在宅生活の状況を把握した.家族 は,日中仕事がありA氏の服薬管理や食事の提供,

清潔保持などの介入がでないためBホームの利用に 納得していた.また,A氏も日中の独居生活におい て身体的 ・ 精神的な不安を感じていたことからBホー ムの利用に同意した.

⑦ Ⅰ期における考察

 A氏は,D整形外科病院を退院後,腰脊椎管狭窄 症および頚椎脊椎管狭窄症による腰痛,身体の痺れ を感じていたことや認知症による記憶障害を自覚し

ていた.このことから,A氏は強い不安を感じ勤務 中の次男に何度も電話していたと考えられた.次男 は,A氏の頻繁な電話により仕事ができず精神的な ストレスを感じていると考えられた.そのため,B ホームが介入することでA氏および家族の在宅生活 を支援する必要性が考えられた.

Ⅱ期 訪問サービス+通いサービスの開始(X+ 5 年 6 月~X+ 8 年 8 月)

① 本人の状態 ・ 意向:A氏は,自宅において腰痛や 身体の痺れがあることから食事,排泄以外はベッド で臥床していた.また,昼夜逆転の傾向もあった.

自宅での移動はT字の杖を使用していた.職員が訪 問するとA氏は「体がビリビリ痺れて怖い」「腰が痛 いから歩けない」と不安を訴えていた.次男が出勤 前に食事や内服薬を準備していたが,A氏は適切に 食事摂取および内服できていなかった.

② 家族の状態 ・ 意向:次男は昼食準備や服薬管理を していたが,会社勤務のため三男が時々A氏の自宅 へ通い世話をしていた.次男は経済的な援助が中心 であった.兄弟はA氏の日中の生活が心配であった ため,Bホームのサービス利用に関する意向が一致 していた.

③ 地域との関係:介護支援専門員はA氏の介護サー ビス利用に伴い,職員が本人の自宅を出入りする旨 を民生委員や近隣住民に説明した.また,A氏に変 化があればBホームへ連絡をくれるよう依頼した.

民生委員や近隣住民は状況を理解し了承した.

④ アセスメント

 A氏は,「体がビリビリ痺れて怖い」「腰が痛いか ら歩けない」と不安を訴えていたことから腰脊椎管 狭窄症および頚椎脊椎管狭窄症が関係していると考 えられた.この身体的 ・ 精神的な不安から,A氏は 日中ベッドで臥床して過ごし昼夜逆転を引き起こし ていたと推測された.臥床した生活が続けば廃用症 候群を発生させるリスクも考えられた.また,身体 的な痛みから自立歩行が不安定となり転倒するリス クも考えられた.職員は訪問サービスによりA氏の 不安を傾聴し,バイタルチェックや服薬管理,清潔 保持,食事の提供を実施することで安心に繋がると 考えた.また,家族はA氏の内服薬を自宅のテーブ ル上に置いていたが,一日分の内服薬が袋に入って いたことからA氏が適切に内服できなかったと推測

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された.また,食事の置き場所がA氏のベッドから 離れていたため,本人の自力歩行できる範囲ではな かった可能性もあった.そのため,職員は家族にA 氏の服薬や食事状況を伝え,A氏が適切に対応でき る方法を検討する必要性があった.

⑤ 支援者側の対応

 Bホーム:安否確認,服薬および食事管理,着替 え ・ 入浴 ・ 清拭などの清潔保持,室内換気,身体的 ・ 精神的な不安に対する訴えの傾聴,通いサービスの 継続に向けてなじみの職員や利用者をつくることと した.

 関係機関(地域包括支援センター):介護支援専門 員は,地域包括支援センターの職員にA氏や家族の 状況を報告した.また,A氏や家族に変化がみられ た際は相談してもらえるよう協力を求めた.

 支援の方向性:週2回の通いサービスを利用して 閉じこもり防止,食事,服薬管理,入浴による清潔 保持を援助目標とした.通いサービスの利用日以外 は,訪問サービスによりA氏の状態を把握すること とした.

⑥ Ⅱ期における介入結果

 訪問サービス時は覚醒していることが多く,食事 介助,服薬介助,着替えや清拭などの清潔保持も円 滑に行えた.A氏は,「体がビリビリ痺れて怖い」

「腰が痛いから歩けない」と不安を訴えていた.しか し,職員が共感的姿勢で傾聴していると「来てくれ て助かった」「今日は天気いいの?どこか出かけた い」と会話内容が変化し精神的に落ち着いた.また,

ベッドから食事や内服薬が置いてあるテーブルまで 杖歩行する頻度も増加した.その際は,「足が痺れ る」と訴えたが職員が「もう少しですよ」と励ます と「よいしょ」と声を出し歩行を続けた.テーブル に到着すると笑顔もみられた.内服薬は,A氏およ び家族が内服しやすいよう壁に掛けられるカレンダー 式の物を使用した.そのため,家族も服薬管理がし やすく服薬ミスもなくなった.通いサービスは,A 氏の生活リズムを崩さないよう送迎時間を合わせ週 2回実施した.Bホームでは職員や他利用者ともよ く冗談を言い,レクリエーション活動にも意欲的に 参加された.入浴は拒否もなく実施できた.通いサー ビスの利用日であっても,「体がビリビリ痺れて怖 い」「腰が痛いから歩けない」と強い不安を訴え来所 できないこともあった.その際は,A氏の自宅で職

員がバイタルチェック,食事介助や服薬介助,着替 えや清拭介助,精神的 ・ 身体的な訴えに対して傾聴 を行った.また,A氏は電話をかける対象が次男か らBホームへと変化した.次男は,仕事を継続する ことができ精神的なストレスが軽減した様子だった.

⑦ Ⅱ期における考察

 A氏は,「体がビリビリ痺れて怖い」「腰が痛いか ら歩けない」と不安を訴えていたが,職員が共感的 姿勢で傾聴したことから不安が軽減したと考えられ た.さらに,この対応がA氏の歩行や通いサービス 利用に対する意欲に繋がったと考えられた.通いサー ビス利用日であってもA氏の身体的 ・ 精神的な不安 が強い際は,訪問サービスに切り替え本人の生活リ ズムを崩さなかったことが通いサービスの継続に繋 がった要因だと推測された.服薬管理は,職員がA 氏や家族が内服しやすいように壁に掛けられるカレ ンダー式としたことで適切に行えたと考えられた.

また,A氏の精神的な不安を電話で訴える対象が次 男からBホームへ変化したことは,A氏とBホーム において信頼関係が構築できていたと考えられた.

これにより次男は,仕事が継続でき精神的ストレス の軽減に繋がったと推測された.

Ⅲ期 泊まりサービスの開始(X年+ 8 年 8 月)

① 本人の状態 ・ 意向:三男から「自宅へ訪問すると A氏がトイレの前で転倒し,腰痛が酷く自力で立位 を保つことや排泄ができないため介護できない」と Bホームへ連絡が入った.B整形外科病院へ受診し た結果,恥骨骨折していた.医師からは,できる限 りこれまでと同様に日常生活を送るよう指示が出た.

介護支援専門員はA氏の在宅生活が困難と考え,緊 急で泊まりサービスの利用となった.泊まりサービ スを開始してから約2週間の夜間の様子は,居室の ベッドに付いているナースコールを頻繁に押して職 員に腰痛,脚の痺れ,排泄(主に便意),身体の痒 み,帰宅願望,不眠などを訴えていた.一ヶ月後に C整形外科病院へ恥骨骨折の状態を確認するため受 診すると,完治していないが日常生活を送る上でな るべく歩行するよう指示が出た.A氏は「痺れが酷 くて歩けない」「こんな体なら私を殺して」「早く家 に帰りたい」と訴え感情失禁がみられた.Bホーム では車椅子による移動を訴えた.夜間にA氏がナー スコールを押した回数や訴えた内容を図1,2,に

(5)

示した.

② 家族の状態 ・ 意向:次男や三男は,仕事が休みの 際にBホームへ面会に来た.次男はA氏が自力歩行 でトイレに行き,排泄できるようになったら在宅で 生活して欲しいとの意向であった.三男は在宅生活 に復帰することは一致していたが,焦らずゆっくり A氏が回復することを望んでいた.兄弟間の意向は A氏が回復するまで泊まりサービスを継続すること で一致していた.

③ 地域との関係:A氏の長い付き合いの友人がBホー ムへ面会に来た.

④ アセスメント

 A氏は,泊まりサービスを利用するなかで職員に 腰痛,脚の痺れ,排泄(主に便意),身体の痒み,帰 宅願望,不眠などを頻繁に訴えていた.これらの訴 えは,特に夜間において増加した.A氏は,これま でも脚の痺れや腰痛を訴えていたが,恥骨骨折によ る痛みも加わり日常生活の支援を職員に求めること が多くなったと考えられた.また,泊まりサービス による環境の変化から帰宅願望や不眠などのリロケー ションダメージ9)を経験していたと考えられた.さら に,「何で体が痛いのだろう」「何でここにいるのだ ろう」と自分が自宅で転倒し,恥骨骨折したことを 覚えていなかったことから認知症の症状がみられた.

そのため,A氏が日常生活を送りながら恥骨骨折が 完治できるよう身体的および精神的な支援を実施す る必要性があった.

⑤ 支援者側の対応

 Bホーム:A氏の夜間におけるナースコールを押 す回数が減少するための方策を検討した.A氏は自 分でできる生活上の行為も家族や職員に頼むことが 多かった.また,移動の際は,車椅子の使用を職員 に訴えていたことからA氏が杖を使用して歩行でき る支援方法を検討することとした.

 関係機関(D整形外科病院):A氏の恥骨骨折の状 況を把握するため定期的に受診した.また,頻尿や 便秘の傾向もみられたため漢方薬や下剤の使用を検 討した.

 支援の方向性:A氏や家族の意向である在宅生活 の復帰を目標にした.そのため,A氏が杖を使用し て自力歩行し,排泄できるよう下肢筋力の向上を図 ることとした.また,精神的安定が図れるよう職員 の統一した声掛けの工夫や家族との電話対応および

面会を取り入れることとした.具体的な声掛け方法 は,A氏の訴えを傾聴 ・ 共感し自立歩行が可能にな れば自宅に戻れる旨を説明して意欲を引き出すこと であった.

⑥ Ⅲ期における介入結果

 A氏の夜間における訴え内容は,身体的側面とし て「排泄」「腰痛」「脚の痺れ」「身体の痒み」「悪 寒」,精神的側面として「義歯の心配」「帰宅願望」

「不眠」に分類できた.「排泄」は,漢方の内服や看 護師と介護職員が排泄チェック表を確認しながら下 剤を使用した.約2週間が経過した頃からA氏の排 泄時間が定着した.「腰痛」は,臥床時に背中にクッ ションを入れて安楽な姿勢を確保し湿布を使用した.

A氏は「助かった」と話し痛みの訴えがなくなった.

「脚の痺れ」は,持病が原因となっている旨を説明し 本人の訴えを傾聴 ・ 共感すると「この痺れは治らな いのね」「あなた優しいのね」と現状を受け入れてい る様子だった.「身体の痒み」は,着替えや清拭,処 方された塗り薬を塗布すると約3週間が経過した頃 から訴えがなくなった.「悪寒」は,バイタルチェッ クや掛け布団の追加,パジャマの交換などを行うと 訴えがなくなった.「義歯の心配」は,自宅で使用し ていた義歯ケースに義歯を入れて居室保管すると訴 えがなくなった.「帰宅願望」は,職員や家族が本人 の訴えを傾聴 ・ 共感し恥骨骨折が完治すれば在宅生 活に戻れる旨を説明すると訴えがなくなった.「不 眠」は,処方された睡眠薬を内服すると訴えがなく なった.職員間の統一した声掛けとしては,A氏の 訴えを傾聴 ・ 共感しながら自立歩行できることが在 宅生活の復帰において必要である旨を説明した.A 氏は「そうね,歩けないと生活できないものね」と 納得した様子で話し杖歩行する頻度が増加した.

Ⅲ期における考察

 A氏の「排泄」の訴えは,看護師と介護職員が排 泄状況を確認しながら漢方や下剤を調整したこと,

下肢筋力を使った体操やレクリエーションを行った ことで便秘の解消に繋がったと考えられた.「腰痛」

の訴えは,臥床時に背中にクッションを入れ,処方 された湿布を使用したことで痛みが軽減したと考え られた.「脚の痺れ」の訴えは,職員が傾聴 ・ 共感し たことでA氏は安心し持病が関係している旨を説明 したことで現状を理解できたと考えられた.「身体の 痒み」の訴えは,着替えや清拭,処方された塗り薬

(6)

を塗布したことで痒みが軽減したと考えられた.「悪 寒」の訴えは,バイタルチェックや掛け布団の追加,

パジャマの交換などを行ったことで体調による異常 ではないことから安心に繋がったと考えられた.「義 歯の心配」の訴えは,私物の義歯ケースを使用し居 室保管したことでいつでも確認できたことが安心に 繋がったと考えられた.「帰宅願望」の訴えは,職員 や家族が本人の訴えを傾聴 ・ 共感し,恥骨骨折が完 治すれば在宅生活に戻れる旨を説明したことやなじ みの職員が夜勤の対応したことが安心に繋がったと 推測された.「不眠」の訴えは,処方された睡眠薬を 内服したことや無理のない程度に身体を使った活動 へ参加したことで適度な疲れを感じ睡眠に繋がった と考えられた.杖歩行においては,各職員がA氏の 目標である在宅生活の復帰を説明したこと,これま での不安定なT字の杖から安定した四点杖へ変更し たことから自立歩行の意欲に繋がったと推測された.

杖の変更は看護師がA氏の握力や歩行状態を評価し て行った.

Ⅳ期 泊まりサービス+一時帰宅の開始(X+ 8 年 9 月)

① 本人の状態 ・ 意向:A氏の夜間の様子は,一晩に 押すナースコールの回数が約0~3回程度となり,

四点杖を使用し自立歩行にて排泄できることもあっ た.脚の痺れの訴えはあるが腰痛の訴えは無くなっ た.身体の痺れが酷い際は「私を殺して」と言い感 情失禁がみられることもあったが,精神状態は一日 通して安定していた.

② 家族の状態 ・ 意向:次男は,A氏が自立歩行にて 排泄できるようになってきた状況を受けて一時帰宅 を希望した.

③ 地域との関係:職員が本人の自宅を出入りする旨 を説明し,A氏に変化があれば連絡をくれるよう民 生委員や地域住民に依頼した.

④ アセスメント

 夜間のナースコールを押す回数が減少したことか ら,A氏の身体の痺れ以外の不安が軽減したと考え られた.また,A氏は四点杖を使用しトイレで排泄 できたことから下肢筋力が向上したと考えられた.

さらに,睡眠もとれていたことで日中の活動意欲に 繋がっていたと考えられた.しかし,脚の痺れが酷 い際は感情失禁がみられたことから精神的なストレ

スを感じていると推測された.

⑤ 支援者側の対応

 Bホーム:A氏が四点杖を使用し自力歩行にて排 泄できるよう声掛けしながら対応した.また,A氏 と同様に四点杖を使用している他利用者となじみの 関係を構築することでA氏の自力歩行の意欲を高め ようとした.日中の活動は,下肢筋力を使用する体 操やレクリエーションを多く取り入れた.精神的な 安定を図る支援では,職員や家族が傾聴するだけで はなく居室に大きな文字でこれまで主に訴えの多かっ た内容に応じた回答を画用紙に書いて提示した.A 氏の状態に応じて不定期ではあるが週末に自宅へ一 時帰宅した.

 関係機関(D整形外科病院):A氏の恥骨骨折の状 況を把握するため定期的に受診した.

 支援の方向性:A氏が四点杖を使用し自立歩行に て排泄できるような声掛けの実施や下肢筋力の向上 を目指した動作を体操や活動に取り入れた.A氏が 自宅へ一時帰宅できる状態であるか職員間でカンファ レンスを開き家族に現状を報告した.

⑥ Ⅳ期における介入結果

 A氏と四点杖を使用する他利用者となじみの関係 を構築していった結果,「あなたも大変ね,お互い健 康でいましょう」とお互い励まし合う場面が頻繁に 観察できた.また,下肢筋力の向上を目指した体操 やレクリエーションを促した際は「私も参加したい」

と意欲的に活動へ参加したことで自力歩行が増加し た.A氏の精神的な不安の軽減として,居室に大き な文字でこれまで主に訴えの多かった内容に応じた 回答を画用紙に書いて提示した.その結果,自分で 読み上げ「そうだったわね」と話し納得していた.

⑦ Ⅳ期における考察

 他利用者となじみの関係性を構築したことは,体 操やレクリエーションの継続的な参加を促していた と考えられた.それは,A氏と他利用者において「あ なたも体操しましょう」とお互い活動へ誘い合う場 面からも推測された.また,脚の酷い痺れを訴えた 際は,職員や家族も傾聴したが相談できる他利用者 がいたことから精神的ストレスの軽減に繋がってい たと考えられた.さらに,居室に大きな文字でこれ まで主に訴えの多かった内容に応じた回答を画用紙 に書いて提示すると「そうだったわね」と納得して いたことから不安を軽減できていた可能性があった.

(7)

これらの精神的な不安の軽減は,夜間の睡眠や意欲 的な活動への参加に繋がったと考えられた.

6 .総合考察

1 )A氏に対する支援について

 今回の事例では,小規模多機能ケアの特徴を活かし 在宅生活の復帰へ向けた支援が提供できたと考えられ た.

 A氏は泊まりサービスを開始した当初,夜間にナー スコールを頻繁に押し身体的 ・ 精神的な不安を訴えて いた.そのため,職員間で対応を検討し,睡眠に関し ては睡眠薬の調整,排泄に関しては漢方薬や下剤によ る調整,身体の痺れや精神的不安感に関しては共感的 態度を示しながら傾聴した.その結果,A氏の夜間に おけるナースコールを押す回数が減少したことから精 神的な安心に繋がっていたと考えられた.その他には,

A氏が職員や他利用者となじみの関係が構築できたこ

と,泊まる居室などの生活空間に慣れたこと,職員は A氏が安心するような声掛けを継続的に実施したこと,

定期的に家族が面会に来たこと,居室に大きな文字で これまで主に訴えの多かった内容に応じた回答を画用 紙に書いて提示したことなどもA氏が安心できた要因 だと考えられた.本間10),野村11),SantoPietroMJ,Ostuni E,12)は,アルツハイマー型認知症に対するコミュニケー ション技法において言語的コミュニケーションに加え,

写真や文字などを提示し視覚的に訴えることの有効性 を挙げている.

 A氏は自分で自立歩行できる能力があるにも関わら ず,他者に依存する傾向があった.また,自分の気持 を誇張し精神的に不安定なこともあった.そのため,

職員は精神的な不安に対して共感的な態度を示しなが ら傾聴し,少しでも歩行できた際は励ましや評価を与 えるなど声掛けを工夫した.また,在宅生活の復帰に は,自立歩行して排泄できなくてはいけないことをA 図 1  A氏の夜間におけるナースコールを鳴らした回数

注)9月30日および10月30日は一時帰宅のためデータなし

図 2  週間毎のA氏の夜間におけるナースコールを鳴らした平均回数と内容

1週目 2週目 3週目 4週目 5週目 6週目

平均回数 4.4 8.4 5.0 5.0 3.1 3.7

内容

便意 便意 脚の痺れ 脚の痺れ 脚の痺れ 脚の痺れ

尿意 脚の痺れ 身体の痒み 身体の痒み

腰痛 身体の痒み 悪寒

脚の痺れ 義歯の心配 身体の痒み 不眠 義歯の心配

帰宅願望 不眠

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氏と職員の共通目標として認識できていたことも本人 の生活意欲に繋がったと考えられた.

 A氏が自立歩行にて排泄できる頻度が増加してから は,本人と家族の意向から自宅へ一時帰宅した.この ことでA氏は,自宅へ帰れる安心感が生まれたと考え られた.また,A氏の一時帰宅の体験は,在宅復帰に 向けた意欲に繋がり生活場面における自立歩行の増加 を促したと考えられた.しかし,本人は時間が経過す ると自宅へ一時帰宅したことを忘れていた.また,定 期的に家族が面会に来てA氏に在宅復帰するために下 肢筋力を高めるよう励ましていたことも意欲に繋がっ ていたと考えられた.

2 )家族に対する支援について

 家族に対する支援は,A氏に変化があれば介護支援 専門員や介護職員が電話や家族の面会時に報告した.

具体的には,A氏は一時帰宅したことで在宅復帰を明 確な目標とし,生活場面における積極的な歩行に繋がっ ていることを説明した.また,面会に対して感謝の気 持ちを伝え今後の協力も依頼した.そのため,家族は A氏の現状を把握でき安心して仕事や日常生活が送る ことができたと考えられた.また,介護支援専門員や 介護職員は,家族に対して介護方法の指導や福祉用具 レンタルを提案し,簡易手すりを設置したことでA氏 や家族の意向である在宅生活の復帰へ向けた一時帰宅 も実現した.この一時帰宅は,A氏や家族がA氏の在 宅生活を送る上での課題を把握できたため有効であっ たと考えられた.具体的には,福祉用具レンタルによ り簡易手すりを設置したことでA氏の在宅生活が可能 か,家族に介護方法の指導を行ったことで介護負担が 軽減したか,A氏は在宅において自立した排泄が可能 かなどであった.

3 )地域包括ケアシステムの構築における小規模多機 能型居宅介護の意義について

 本事例では,小規模多機能ケアを柔軟に組み合わせ ながらA氏の在宅復帰に向けた支援を実施した.小規 模多機能ケアは地域包括ケアシステムの構築において,

なじみの職員がA氏や家族,地域の実情に応じて支援 を随時提供できることに意義があると考えられた.

 Bホームは,A氏をはじめ他利用者が在宅生活でき るよう地域包括支援センター,民生委員,近隣住民,

八百屋などの商店,警察,他事業所に支援の理解と協

力を依頼していた.具体的には,A氏や他利用者がト ラブルなどを起こした際にBホームへ連絡してもらえ るような支援体制づくりであった.このような地域の 支援体制づくりは,A氏の在宅生活の継続において重 要でると考えられた.なぜなら,A氏ができる限り住 み慣れた地域で在宅生活を送るためには,介護サービ スを切れ目なく継続的に提供すると同時に地域の見守 りなどの協力が必要であるからだ.したがって,A氏 や家族,地域の実情に合わせて提供させる小規模多機 能ケアは,従来の介護サービスのように分断されるこ とがないため地域包括ケアシステムを構築する上で重 要であることが示唆された.

 一方で,A氏が受診したD整形外科病院,E脳神経 科病院,F麻酔科病院は地域包括ケアシステムにおけ る日常生活圏域より広域にあった.そのため,C市の 地域包括ケアシステムをより円滑にするには,日常生 活圏域における医療機関の整備が必要であると考えら れた.また,Bホームは歩行訓練などリハビリテーショ ンを実施する理学療法士が配置されていなかった.医 師からA氏の活動制限の指示が出ていなかったが,骨 折当初は立位時など痛みを訴えていた.そのため,介 護職員はA氏の恥骨骨折における前方や側方の圧迫と 痛みの関係を医学書などで把握し,ケアに取り入れる 工夫も必要だと考えられた.また,A氏のD整形外科 病院受診においては,事前に職員間で恥骨骨折の対応 で不明な点を整理し医師や臨床心理士などへ相談する 必要もあったと考えられた.

7 .課 題

 本研究では,地域包括ケアシステムの構築における 小規模多機能型居宅介護の重要性が示唆された.しか し,Bホームの一事例であることから一般化するまで には至らなかった.

 今後の課題としては,研究対象とする事業所や事例 数を拡大し,一般化に向けた取り組みを行うことが挙 げられた.また,地域包括ケアシステムの構築には地 域の協力が重要であることから,小規模多機能型居宅 介護における地域の支援体制づくりも検討課題として 挙げられた.

引用文献

1)厚生労働省老健局長(2011)介護サービスの基盤強化のた めの介護保険法等の一部を改正する法律等の公布について,

(9)

老発第0622第1号.

2)高齢者介護研究会(2003)2015年の高齢者介護;高齢者の 尊厳を支えるケアの確立に向けて,(老人保健福祉法制研究 会編)高齢者の尊厳を支える介護,法研.

3)地域包括ケア研究会(2012)平成21年度老人保健健康増進 等事業「地域包括ケア研究会報告書」,三菱 UFJ リサーチ

&コンサルティング.

4)神部智司(2013)地域包括ケアの方向性と認知症ケア,日 本認知症ケア学会誌,11(4):758-764.

5)勝又浜子(2013)今後の認知症ケアの方向性について,日 本認知症ケア学会誌,11(4):749-757.

6)岩下清子,佐藤義夫,島田千穂(2006)「小規模多機能」の 意味論,雲母書房.

7)杉山孝博,高橋誠一(2006)小規模多機能サービス拠点の 本質と展開,筒井書房.

8)日本認知症ケア学会(2012)認知症ケア標準テキスト改訂・

認知症ケアの基礎,ワールドプランニング,30-35.

9)日本認知症ケア学会(2012)認知症ケア標準テキスト改訂・

認知症ケアの実際Ⅱ:各論,ワールドプランニング,251-

252.

10)日本認知症ケア学会(2012)認知症ケア標準テキスト改訂・

認知症ケアの実際Ⅰ:総論,ワールドプランニング,3-

19.

11)日本認知症ケア学会(2012)認知症ケア標準テキスト改訂・

認知症ケアの実際Ⅰ:総論,ワールドプランニング,23-

43.

12)Santo Pietro MJ,Ostuni E,小林敏子,山下真理子訳

(2004)痴呆を生きる人とのコミュニケーション・マニュア ル,じほう.

(2014年2月7日受理)

参照

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