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研 究

ドイツ連邦弁護士法43条の

「弁護士の一般的義務」について

─わが国の弁護士法56条 ₁ 項の「品位」概念によせて─

Die allgemeine Pflicht des Rechtsanwalts nach § 43 BRAO

森   勇

I.は じ め に

 わが国の弁護士(以下「弁護士法」)56条 ₁ 項は,懲戒理由の一つとし て「その職務の内外を問わず『品位を失うべき非行』」をあげている。ま ず,弁護士法 ₂ 条は,「弁護士は,……と高い品性の陶やに努め……」と 定めており,そこでは「「品性」とは,道徳的側面からみた人の性格」だ と解説されている1)。次に弁護士職務基本規程(以下「基本規程」)6条は

「弁護士は……常に品位を高めるよう努める」と定めている。ここでの品 位とは「一般に『人に自然に備わっている人格的価値,品格……』」とさ れているが,本条は,沿革的には,弁護士法 ₂ 条に由来し,ここにいう品 位は,弁護士法 ₂ 条にいう「品性」と同趣旨だとされている。ここでも,

道徳的側面からみた人の性格であるとする上記の弁護士法の解説が引き合 いにだされ,続けて,「職務の内外を問わず,人間的にも国民からの信頼 を受けるに足る高潔な人格であるよう,常に努力を怠らないことが求めら

 客員研究所員・元中央大学法科大学院教授

1) 日本弁護士連合会調査室編著・条解弁護士法 ₄ 版(2007)(以下「条解」)17 頁。

(2)

れる」と解題されている2)。弁護士が道徳的にもその振る舞いを問われ,

「人間的にも国民からの信頼を受けるに足る高潔な人格」を備えよという のは,もちろん,弁護士たる者聖人君子たれとか,弁護士は聖職というこ とではなかろうが,少しかび臭い。弁護士も広く一般的に人間としての高 邁な性格を持つことが望ましいが,ここでの品位(品性)は,あくまで弁 護士のそれであり弁護士という職業に切り結んでその概念が定められなく てはならないはずである。だとするなら,品位(品性)とは,「社会が弁 護士(という職業)に期待している役割にそぐう」こと,換言すれば,

「社会からの弁護士に対する信頼にそった」振る舞いができる資質・性格 を指すと解すべきであり,そして懲戒理由とされる「著しく品位を失うべ き非行」とは,「社会が弁護士(という職業)に期待している役割を果た すにふさわしくない,あるいは社会の弁護士に対する信頼を著しく損ない かねない資質・性格を持つと判断してしかるべき(そのことを示す)非違 行為」というべきであろう3)

2) 日本弁護士連合会弁護士倫理委員会編著・解説弁護士職務基本規程 ₃ 版(以 下「解説」)(2017)18頁。

3) 各単位弁護士会の規則は別として,「品位」がわが国弁護士法に登場したの は,1933年(昭和 ₈ 年)の旧弁護士法においてである。その20条は,「辯護士 ハ誠實ニ其ノ職務ヲ行ヒ職務ノ内外ヲ問ハズソノ品位ヲ保持スベシ」となって いた。そして,現在のドイツの連邦弁護士法の前身である1878年の弁護士法

(Anwaltsordnung)23条が少なくとも参照されたことは,旧弁護士法の立法実 務に関与した者が著した著書からうかがえる。金子要人・改正辯護士法精義

(1933年)223頁。そこでは,「辯護士ハ誠實ニ其ノ職務ヲ行ヒ且職務ノ内外ヲ 問ハズ職務ノ要求スル尊敬ニ相當スル行動ヲ為スノ義務ヲ負フ」と訳出され,

「新法(旧辯護士法=訳者)と同様の趣旨の下に制定規定せられてあるやうで ある。」と述べられているところである。筆者としては,「品位」とは,このよ うに理解すべきものとした理由である。

 ちなみに,旧辯護士法20条の「誠実に職務を行う」の部分は,現在の辯護士 法 ₁ 条に引き継がれている。もっとも,この部分は,民法上の善管注意義務に かかるものであり,その制定経緯は成功報酬をめぐる弁護士・学者間の論争の 妥協の結果だとされている。その内容に問題があるにせよ,「我らに対する侮 辱」として宣誓すら拒否した当時の弁護士が何を考えていたかを想像すると,

(3)

 もっとも,このように定義してみても,弁護士に求められる品位の具体 的内容はやはり不明確である。そうなると,懲戒事例によくみられるよう な,何ら具体的な弁護士が守るべき職業上の義務とその違反を摘示するこ となく,(少なくとも公表の限りでは)弁護士法59条 ₁ 項のみを示して懲 戒処分を下すことは,極論するなら,「おまえは悪いから,悪い。」といっ ているにも等しい。

 ひるがえってドイツ職業法における弁護士の義務にかかる一般条項と懲 戒事由をこうした観点から眺めてみると,そこにはわが国のそれとの類似 性と異質性が混在している。詳しくは後に取り上げるが,大雑把にこれを まとめると,類似性とは,ドイツの弁護士法制においては,1878年の弁護 士法(Anwaltsordnung)制定以来,現在の連邦弁護士法(Bundesrechtsan- waltsordnung)43条に相当する弁護士の義務に関する一般条項があり,そ れを受けて連邦弁護士法113条 ₂ 項は,近時にいたるまで,この一般的義 務に著しく反する行為を懲戒の対象としてきた点である。ひるって異質性 とは,まずもって1994年の連邦弁護士法の大改正により,この一般条項 は,弁護士の職業上の個別的義務の根拠というその地位を追われたことか ら,懲戒要件との関係が議論となり,わが国流にいうと,懲戒理由として の「品位を失うべき非行」の意味が改めて論じられている点である。確か 実に面白いものではある。金子・前掲注3),222頁・条解12頁参照。だとする と,「良心に従いその職務を行い,」と訳されている1878年ドイツ弁護士法23条 とは,その趣旨がまったく異なっているように思う。「良心に従いその職務を 行う」とは,(私見は異なるが)仮に委任にともなう善管注意義務をも含むと しても,それに止まらず,否,むしろ高度の専門的知識をその背景とした自由 職業(Freier Beruf)として,自由かつ独立してその職業を実践すべしという のがその趣旨である。おそらくは,当時のわが国の弁護士ないしは(旧)辯護 士法を囲む環境は,1878年ドイツ弁護士法が制定された際のスローガン,すな わちグナイスト(Gneist)の「自由な弁護士(Freie Advokator)」とはほど遠 かったことは想像に難くない。旧弁護士法20条が「教育的規定」だ(金子222 頁)とされていた趣旨は,現行弁護士法における解釈にも,言葉を「道徳的」

と変えてその尾を引きずっていると思われてならない。本稿への誘因は,㴑れ ばここにある。

(4)

に,上記のような判じ物に近い説明では,「それでなんだ。」といわれても 仕方がないところではあるが,あえてそのそしりを無視して先に進める と,そこには,わが国の品位ないしは品位を失うべき非行という概念の適 用上の問題点に関する示唆が多く含まれるように思われる。以下では,ド イツの弁護士職業法における懲戒規律の発展を追って,上記の類似性と異 質性の具体的内容を示し,そこからえられる示唆をもとに,弁護士法56条 の懲戒事由に関する議論を喚起すべく,問題提起の意味を込めて簡単な解 釈私論を示してみたい。

II.ドイツ弁護士法における弁護士の一般的義務規定と懲戒規定の展開

1 .1994年における連邦弁護士法大改正までの歩み

 連邦弁護士法43条は,〔一般的な職務上の義務〕と表題されて,次のよ うに定めている。すなわち,

「弁護士は,良心に従ってその職務を行わなければならない。弁護士 は,職務の内外を問わず,弁護士という地位が要求する尊敬と信頼に ふさわしい態度(行動)をとらなければならない。」

 この規定は,1878年のドイツライヒ最初の弁護士法28条から引き継がれ たものであり4),この弁護士法28条は,次のように規定していた。すなわ ち,

「弁護士は,良心に従ってその職務活動を行わなければならず,そし て,その職務の実践における態度(行動)とそしてまたその外におけ る態度(行動)をつうじて,その職務が要求する尊敬にふさわしいこ 4) BT-Drucksache, 3/120(1958年連邦弁護士法政府草案),S. 75参照。政府草

案では,現行43条は,55条として提案されていた。

(5)

とを示さなければならない。」5)

 その言葉ぶりには,若干の違いはあるものの,それはこの規定の趣旨に 何らかの変更を加えようとするものではなかった6)

 それでは,懲戒(職業法上の処分)理由に関する規定はどうだったか7) 話が前後することになるが,まずは1878年の弁護士法からみてみよう。そ の62条は,次のように定めている。すなわち,

5) ここで訳出に用いた原文は, ネット上にあるRechtsanwaltsordnung Deut- sches Reichsgesetzblatt Band 1878, Nr. 23, Seite 177 - 198によっている(1930年 Rudolf/MaX Friedlaender, Kommentar zur RAO 2Aufl. S. 97に掲載されている 同条も同じ文言である)。巧拙は別に,その訳は,ここに示したようになるは ずである。もっとも,金子・前掲注3),223頁にあるドイツ弁護士法28条の訳 は,辯護士ハ其職務ヲ誠実ニ実行シ且職務ノ内外ヲ問ハズ職務ノ要求スル尊敬 ニ相当スル行動ヲ為スノ義務ヲ負フ」という現行法のドイツ語の法文を想起さ せる(したがって,「良心に従い」が「誠実」と訳されているほかは,上記の 現行法の訳文と相応する)。金子・前掲注3),223頁は,おそらくは,司法資料 第13号「獨逸ノ辯護士法制」(1922年)28頁に由来すると思われるが,それで はなぜ司法資料の訳が原文から少し離れているのか。趣旨にそう違いはないも のの,興味を引かれるところである。

6) なお,1878年の弁護士法と現在の連邦弁護士法の間に(新立法としてではな く)改正の形式をとってナチスの影を色濃く映した「帝国弁護士法(Reichs- rechtsanwaltsordnung)」 が1935年に公布されたが, 弁護士法28条は, その31 条として,内容的にはほぼそのまま引き継がれているとされている。Hartung, Sanktionsfähige Berufspflichten aus einer Generalklausel, AnwBl 2008, S. 782ff.

(S. 782).帝国弁護士法31条の訳文は,司法資料224号「獨逸辯護士の新職務法」

(1937年)149頁参照。ちなみに,こちらの訳は,原文に沿ったものとなってい る。

7) ドイツにおいては,後(IV)でも述べるように,弁護士に対する職業法上,

つまりは弁護士固有の制裁は,弁護士裁判所(その上訴審は,弁護士法院と連 邦通常裁判所弁護士法廷)によるものと,弁護士会によるものとがあり,制裁 のうち弁護士裁判所によるものを「懲戒」,これに弁護士会によるものをあわ せて「職業法上の処分」というべきところではあるが,分かりやすさという点 から,さしあたりはいずれも「懲戒」と表現しておく。

(6)

「課せられた諸義務(28条)に違反した弁護士は,名誉裁判所の懲罰 を受ける。」8)

 それでは,1994年以前の連邦弁護士法ではどうだったか。そもそものと ころ,連邦弁護士法制定当時の113条は,そのタイトルを「名誉裁判所の 懲罰」とする第 ₆ 章に置かれていたが,「義務違反を理由とする懲罰」と 表題され,次のように規定していた。すなわち,

「⑴  自己の責めに帰すべき事由により,それに課せられた義務に違 反した弁護士は,名誉裁判所の懲罰に処す。

 ⑵  弁護士が,行為のときに名誉裁判所の裁判権に服していなかっ た場合には,名誉裁判所の懲罰を課すことはできない。」

 その後113条は,1969年に改正されたが,当時の ₁ 項と ₂ 項に関しては,

「名誉裁判所の懲罰(Straf; Bestrafung)」という表現が,「名誉裁判所の懲 戒(Ahndung)」という文言に置き換えられた。もっともこれは,名誉裁 判所の懲罰という表現が,あたかも,特定の職業グループに適用される

「特別刑法」であるとの印象をもたらすのはよろしくないということであ り,公務員の懲戒法改正に平仄を合わせるもので,懲戒法から刑事罰的な ニュアンスを拭い去ろうとする意図は別に,何ら内容的な変更をもたらし たものではない9)。重要なのは,新たな第 ₂ 項の追加である(従来の ₂ 項 は ₃ 項)。それは次のようであった。すなわち,

「⑵弁護士の業務外における行為は,個々の場合の事情に照らすと,

それが,弁護士活動の遂行または弁護士(階層)に対する尊敬に影響

8) ドイツの弁護士懲戒は,わが国の旧辯護士法と同じく,「刑事罰」の色彩の 濃いもので,そこで用いられていた「Bestrafung」を「懲罰」とした。訳につ いては,前掲注5)・「獨逸ノ弁護士法制」34頁も参照されたい。

9) BT-Drucks. V/2848, S. 14.

(7)

するかたちで,権利保護を求める市民の尊敬と信頼を害するにとりわ けかなったものであるときは,名誉裁判所の懲戒に処すべき義務違反 となる。」

 これは,弁護士の職業実践とは無関係な行為を理由とする名誉裁判所の 懲戒対象の範囲を制限しようとするものである。立法理由書は次のように 説く10)。「確かに弁護士は,その職務外においても,弁護士という地位が 要求する尊敬と信頼にふさわしい態度をとらなければならないという一般 的な職業上の義務を負っている(連邦弁護士法43条)。しかし,このいわ ゆる尊厳あるいは善行条項(Würdigkeits-oder Wohlverhaltenklausel) の 文言からすでにわかるように,風紀(Sitte),礼儀,モラルそしてまた法 の無視が,同時に弁護士の職業上の義務違反となるのは,それが,弁護士 に対する公衆からの尊敬と信頼に値するとの評価を損なうものである場合 に限られる(このことは,つとに,1884年12月29日のドイツ弁護士のため の名誉法院(Ehrengerichtshof) が判示している(Entscheidungen des Ehrengerichtshofes, Bd, I (1885), 41ff., 44)。一般条項である連邦弁護士法 43条の不確定かつ幅の広い文言から導かれうる,『私的な善行』への過度 の要求に歯止めをかけるべく,名誉裁判所による制裁の対象となる義務違 反の構成要件に絞りをかけるべきである。今後は私的な領域での不行跡を 理由とする名誉裁判所の処分は,」本項が定める場合に限られるべきであ る。「したがって,例えば軽微な道路交通法規違反に対しては,名誉裁判 所の処分を科す必要はない。」と。もっともこうした制限は,特に弁護士 に限ってのことではなく,これもまた,新たな公務員懲戒法の傾向によっ たものであるとされている11)。すなわち,この制限は,裁判官,検事そし て公証人を含むすべての公務員と同じものであり,そもそものところ理由 書で述べられているように,ドイツ弁護士法の制定間もない頃からの解釈

10) BT-Drucks. V/2848, S. 14.

11) BT-Drucks. V/2848, S. 14f.

(8)

の延長線上にあるものといってよい。

2 .1994年改正法への歩み

 現行の連邦弁護士法43条と113条は,1994年改正法のものであるが,そ の発端は随所で触れてきたように12)1987年に下された連邦憲法裁判所の二 つの決定である。フランス革命の際のバスティーユ襲撃の日,すなわち ₇ 月14日に下されたことからバスティーユ裁判(Bastille Entwcheidungen)

とよばれるこの裁判で,連邦憲法裁判所はそれまで(法的拘束力はないと されつつも)事実上は弁護士の行動規範とされてきた,連邦弁護士会制定 にかかる弁護士倫理綱要(Richtlinien des anwaltlichen Standesrechts)13)

を,弁護士の職業上の義務内容を判断する際の参考にすることさえ許され ないと判示したのであった14)。弁護士会の強固な庇護をうけ,内部からも そして外部からも決して突き崩され揺るがされることはないようにみえて いた弁護士職業法の砦のすべてが,一撃の下突き崩されたといわれている 15),それはこの裁判の破壊力がいかにすさまじいものかを物語る。この 裁判は,早急に連邦弁護士法を改正することを求めるものであったにもか かわらず,改正が実現するまでには,なんと ₇ 年余の時間を要したのであ ったが,その理由は,連邦政府(連邦司法省)が問題を弁護士にゆだね,

ゆだねられた弁護士階層内での合意形成に時間を要したためであった16)

12) 例えば,森勇「ドイツにおける専門弁護士制度の展開─その歴史と展望─」

森勇編著・リーガルマーケットの展開と弁護士の職業像(2015・中央大学出版 部)231頁以下(263頁以下)参照。

13) その訳文については霜島甲一/福井敦訳・弁護士倫理と懲戒手続105頁以下 参照。

14) その詳細は,注12)参照。

15) ハンス・プリュッティンク/クリストフ・ホンムリッヒ(森勇訳)「シンデ ィクス弁護士の職業像」森勇編著・リーガルマーケットの展開と弁護士の職業 像(2015・中央大学出版部)427頁以下(429)頁。

16) 前掲注15)・ハンス・プリュッティンク/クリストフ・ホンムリッヒ(注14)

432頁。

(9)

 とまれ,本稿との関わりで注目すべきは,この改正議論において,一般 条項である連邦弁護士法43条は,これを削除すべしとする意見が強く主張 されていたことである。ドイツ弁護士協会の改正草案がそれである17)。も っともこの草案は,同43条を「弁護士の権利と義務」とタイトルされる連 邦弁護士法 ₃ 章からは削除すべきであるが,弁護士の有り様を定める一般 条項としては存続させる。つまり,連邦弁護士法に同法 ₃ 条aとして次の ような新たな条項を加えて,これと代えることを提案した。すなわち,

₃ 条a〔職業実践の基本原則〕

 「弁護士は,良心に従ってその職務を行わなければならない。弁護 士は,弁護士という地位が要求する尊敬と弁護士依頼者間に存する特 別の信頼にふさわしい態度をとらなければならない。」

 文言は変わっているが,草案自らも自認するように18)その核心は,(当 時の,そして現在の)連邦弁護士法43条と変わりない。それでは何が変わ るのか。ドイツ弁護士協会の草案理由は,次のように述べる。すなわち,

「1987年 ₇ 月14日の連邦憲法裁判所の(AwBl 1987, 589ff., 603ff.)決定後は,

十分な明確性(Bestimmtheit)を欠くことから,弁護士の職業上の義務に 関する厳格でかつまた制裁をもってその確保が図られている諸規律が置か れている章には,これまでの43条がその身を置くところはない。43条のよ うな,多くの不明確な法的概念からなる一般条項的な広がりを持った規定 をもってして,これで職業の自由という権利に足を踏み入れる権利介入構 成要件(Eingrifftatbestand)として足りるとすることは,変化した法の理 解にもかなわない。

 これに対し,本草案の関心事は,それに違反すると制裁が加えられるこ

17) Entwurf eines Gesetzes zum Berufsrecht der Rechtsanwälte nebst Entwurf ei- niger Bestimmungen einer Berufsordnung, AnwBl 4/1990, Beilage, S. 4ff. (8).

18) Vgl. Fn. 17, S. 11.

(10)

とになる職業上の諸義務を,厳密かつ完璧に規定することである。」19)と。

つまり条文上の位置の変更は,連邦弁護士法43条を,もはや懲戒の根拠規 範としては使えなくすることを目していたのであった。もっとも,1994年 改正法は,この提案には従わず,連邦弁護士法43条はそのまま維持され た。

 その一方で,職務外の行為に基づく懲戒の対象には,さらにしぼりかけ られた。すなわち,現行113条である。

「⑴  自己の責めに帰すべき事由により,本法または職業規則に定め た義務に違反した弁護士に対しては,弁護士裁判所の処分を科 す。

 ⑵  違法行為あるいは反則金を科せられる行為となる弁護士の業務 外における行為は,個々の場合の事情に照らすと,それが,弁 護士活動の遂行に影響するかたちで,権利保護を求める市民の 尊敬と信頼を害するにとりわけかなったものであるときは,弁 護士裁判所による懲戒に処すべき義務違反となる。」

 改正の理由について1994年改正法改正草案理由書では,次のように述べ られている20)。すなわち,「113条によれば,これからは責めに帰すべき義 務違反ではなく,法律または職業規則において定められている諸義務に違 反したことが懲戒の基礎となる。こうすることで,懲戒の対象となる義務 違反をできるかぎり詳細に具体化することになるはずである。どのような 職業上の義務に注意すべきかが明確となる点で,弁護士にとり法的安定性 が生まれることになる。……

  ₂ 項には(刑事罰または反則金の対象となる弁護士の行為という)限定

19) Vgl. Fn. 17, S. 11.

20) BT-Drucks. 12/4993 S. 35f.なおこの改正の際に,「名誉裁判所」は「弁護士 裁判所」,懲戒事件の二審にあたる「名誉法院」は「弁護士法院」とその名称 が改められた。

(11)

が加えられるが,これによって,同項の幅広い要件の下で弁護士の職務外 の非行(Fehlverhalten)が懲戒の対象となるのは,それが公衆の関心事で もある場合に限られることが明確となるはずである」というのがその理由 である。要するに,ドイツでは,職務外の行為を理由に懲戒に処すことが できるのは,⒜刑事罰21)と秩序違反(Ordnungswiedrigkeit)に対する反 則金(わが国の「過料」も含む)の対象となる違法行為のみに限定される こと。さらには,⒝それが弁護士全体への国民の尊敬と信頼を著しく害 し,⒞その程度は,間接的に弁護士の業務遂行に差し障りを生じさせるま でに達しなくてはならないとされている。それでは現行法下の懲戒原因の 広がりをみていこう。

III.連邦弁護士法43条の今日的意義─学説の状況

 1.現行の連邦弁護士法は,先に述べたバスティーユ裁判の求めに応え て,まずは重要な弁護士の義務を自身の中に規定した。連邦弁護士法43条 aに定められている「弁護士の基本的義務」がそれである。その上で,こ れもまたバスティーユ裁判が求めたところであるが,連邦弁護士法59条b をもって,弁護士の権利と義務の詳細は,弁護士の代表をもって構成され ることからも「弁護士議会(Anwaltsparlament)」と俗称される規約委員 会(Satzungssammlung)にゆだねること(委員会が「職業規則(Berufs- ordnung)」として定めること),およびその委任の対象事項は何かを個別 21) わが国では,禁固以上の刑は,弁護士の認可欠格事由とされている(弁護士 法 ₇ 条 ₁ 号)が,ドイツでは,有罪判決が直ちに認可欠格事由となるのは,そ れにより公職に就く資格が剝奪される場合である(連邦弁護士法 ₇ 条 ₂ 号)。

すなわち, ₁ 年以上の自由刑の場合には当然に,それ以外でも,法が定める場 合には,裁判所は公職資格を剝奪できる(ドイツ刑法45条 ₁ 項, ₂ 項)。この ほかの認可欠格事由としては,「申請人が,弁護士の職業を行うことに適さな いことを示す行為を有責に行っていた」ことがあげられている(連邦弁護士法

₇ 条 ₅ 号)。なお,懲戒事由とこの欠格事由の対応関係は,興味を引くところ ではあるが,別の機会に譲る。

(12)

具体的に列挙するかたちで定めている22)。実際はともかく法的には拘束力 がないとされた弁護士倫理綱要に代わり,弁護士の基本的義務が法的拘束 力をともなうものとして具体化され,さらには規約委員会の定める職業規 則でより詳細に規定されることとなったのをうけ,そうであるなら,弁護 士の義務の源泉とされてきた連邦弁護士法43条にはどのような意義がある のか,つまりは,かつてのように連邦弁護士法43条のみを根拠(条文)に 懲戒処分を課すことができるかである。まさに1994年改正の際にドイツ弁 護士協会の草案で指摘された問題である。ちなみに,1994年改正法は,連 邦弁護士法43条を「弁護士の権利と義務」を規律する同法第 ₂ 章にそのま ま残したのであるが,その改正理由書では,その理由について何も触れて おらず,立法者が43条に懲戒の根拠たる地位を与え続けるとの明確な判断 を示したわけではなく,また,筆者のみる限り,理由書にそれをうかがわ せる記述も見当たらない。

 2.一つの見解は,1994年の改正(正確には,1996年弁護士職業規則の 施行)以降,懲戒の根拠規範としては,もはや何らの意味を持たない規範

(Obsolete Norm),1994年の改正法(および弁護士職業規則)前の時代の

「遺物」だとする。法治国家原則を定める基本法20条 ₃ 項等に基づく憲法 上の要請として,自由の制限には,十分特定された法律上の基礎が必要で ある。禁止は,「その対象者が法状況を容易に認識できそしてそれに従っ た行動がとれる程度まで,その要件と内容が明確でなくてはならない。」

連邦弁護士法43条は,この明確性(Bestimmtheit)という要件を欠く。43 22) 全国組織である連邦弁護士会への委任ではなく,規約委員会への委任とした のは,日弁連とは異なり,連邦弁護士会の構成員は単位弁護士会のみのため,

そのメンバーから弁護士全体の民主的に選挙された代表を選ぶという仕組みが 作れないからである。規約委員会の組織や代議員の選出方法については,連邦 弁護士法191条a以下参照。

 ちなみに委任対象の多くは,事柄の性質からして当然ではあるが,バスティ ーユ裁判がその存在意義を否定したかつての弁護士倫理綱要において定められ ていた事項と大方は対応しているといってよい。

(13)

aを定めて弁護士の基本的義務を規定し,その詳細を弁護士職業規則に 託したのは,この要請を満たすためである。したがって,現在では,良心 に従った職業実践を求める同条 ₁ 文は,もはや抽象的にその振る舞いのあ り方をすべての弁護士に示す単なるアピールでしかなく,職業外の振る舞 いに関する同 ₂ 項もまた倫理的な(法的に拘束力のない)公準にしか過ぎ ない。この見解は,以上のように主張する23)

 3.この対極に位置するのが,連邦弁護士法43条をかつてと同じく,そ れ自体から直接に弁護士の職業上の義務が導かれるとする見解である。そ の内容は,後に紹介する裁判例に詳しいのでそこに譲るが,この見解も,

基本的には,1994年の改正により弁護士の基本的義務が具体化された現在 では,かつてのような出番はないし,その適用は慎重であるべしとしつつ も,職業上の義務の枠内でも「法の欠缺」の例がみられ,同条はこれを埋 める受け皿構成要件(Auffangstatbestand)となり24),同条に基づいて懲 戒処分をすることができるとする。後にみる裁判例にも(原審の判断とし て)登場するように,否定的な立場をとるものもないわけではないが,実 務の大勢はこの見解に立つ。

23) Feuerich/weyland BRAO 9 Aufl. §43 Rdn. 9によると,Hartung, Sanktionsfähi- ge Berufspflichtenaus einer Generalklausel, AnwBl 2008, S. 782 (783)がこの見解 であるとしていることから, ここに別して取り上げたが,Henssler/Prütting/

Prütting BRAO 5 Aufl. §43 Rdn. 20は,以下c)で言及する支配的見解と(結論的 には)同じと分類している。本稿では,整理のしやすさ・わかりやすさという 観点から,別に取り上げておく。

24) 受け皿構成要件は,ドイツ刑法上の概念で,特別法は一般法に勝るという原 則の延長線上にある概念といってよい。この概念のもと,ある行為が,故意犯 としても過失犯としても犯罪とされている場合に,より罪の重い故意の立証が できないときに,過失犯として処罰することになる。具体的には,窃盗として も詐欺としても立証できないときは,横領により処罰する場合が,その例とし てあげられている。

(14)

 4.支配的と主張する見解25)(以下支配的見解)はどうか。連邦弁護士 法43条は,弁護士職業法以外の法律等で定められている弁護士の諸義務 を,懲戒規範としてトランスフォーメーション(トランスポート)する,

いわば仲介的機能を担う規範(TransformationsnormTransportsnorm)

で,それ以上のものではないとする26)。例えば刑法203条の秘密漏示(わ が国刑法134条)や弁護人の数を制限する刑事訴訟法137条 ₁ 項 ₂ 文(わが 国刑事訴訟法規則27条参照)などが例としてあげられている。ちなみに,

筆者の知る限り,わが国では「品性・品位」についてのこういった機能の 摘示をみることはない。しかし,科罰対象を弁護士に限らず(広く一般人 も対象となる),例えば罰金や拘留・科料あるいは過料に問われる行為を 非行として懲戒事由とする場合には,懲戒が職業法上のサンクションであ り弁護士会の懲戒権限の対人・対物管轄は,「弁護士」の「行為」である から,問題の行為が「職業法上の問題」でなくてはならないはずである。

したがって当該非違行為を職業法上の義務違反に橋渡しする規範が必要に なるのはわが国の法制下でも同じであり,弁護士法 ₂ 条あるいは弁護士職 務基本規定 ₆ 条と相まってその役割を担っていると解するのが論理的には

「筋」が通る。その限りでは,ドイツ法学の理屈「好き」の所産といって もよいが,見落としてはならないのは,ここには,問題を「弁護士の職業 法上の義務」との関係でとらえなくてはならないということが示されてい る点である。

 この見解は,連邦弁護士法43条の意味はここまでに止まるとする。その 理由としてあげられているのは,一つは,連邦弁護士法43条の懲戒規定の 意義を否定する先に述べた見解と同じく明確性の欠如である。しかし,支

25) ただし数の上では少数とされてはいる。Vgl. Klilan/Koch, Anwaltliches Be- rufstrcht, 2 Aufl. CH Beck (2018), S. 344.

26) Henssler/Prütting/Prütting, BRAO 5Aufl. §43 Rdn. 21は,これに加え分類機能

(Abschichtungsfunktion)もあるとする。要は連邦弁護士法43条の網にかかる ものとかからないものを分けるというものであるから,仲介的機能の裏返し,

二つの機能は鏡の裏表の関係にあるといってよさそうである。

(15)

配的見解にあっても,その根拠を1994年改正法(そして1996年の弁護士職 業規則)の制定過程に求める見解が有力である。すなわち,いわゆるバス ティーユ裁判は,連邦弁護士法43条自体を違憲としたわけではない。問題 は,「良心に従っていること(Gewissenhaftigkeit)」とか,「尊敬と信頼に ふさわしい(Würdigkeit)」という抽象的な概念を具体化に向けて解釈す ることはできるかという問題に帰着するが,これは,困難ながらできない わけではない。連邦弁護士法43条からそれ自体に基づく弁護士の義務を導 くことが許されないのは,弁護士職業規則を制定する際に,同条の「良心 に従った職業追行」義務の具体化を図るべしという提案がなされたもの の,それが退けられた。そうであるなら,(基本的義務は連邦弁護士法で 定め,その詳細は自律的規範である弁護士職業法にゆだねるという)1994 年改正法が定めた弁護士の職業上の義務の規律のあり方からすれば,判例 等により同条から独自の義務を導き出すことは許されない,とする27)。弁 護士法の立て付けを根拠とするこの見解は,そのままわが国にあてはまる ものではない。しかし,弁護士職業規則制定に際して,良心に従った職業 追行を規律の対象から外したことは,このような抽象的概念を懲戒要件と することは弁護士の地位の法的不安定をもたらし,その職業実践の自由を 脅かしかねないという危惧の現れであることには,注目してしかるべきで ある。

 5.弁護士法・弁護士職業規則外で定められている諸義務がトランスフ ォーメーションされるとするが,懲戒規範として取り込まれてくるのはな にか。つまり,どのような法律違反行為が,連邦弁護士法43条をつうじて 懲戒規範として弁護士職業法に取り込まれるのか。まずはその抽象的な基 準としていわれているのが,「弁護士がした法律違反が,個別ケースを超 えて,弁護士の学識経験に裏付けられた能力(Kompetenz)とその清廉性 27) Prütting, Die rechtlichen Grundlagen anwaltlicher Berufspflicht und das Sys-

tem der Reaktionen bei anwaltlichen fehlverhalten, AnwBl 1999, S. 361ff. (362).

(16)

(Integrität)に対する信頼を毀損し,その結果,法的紛争処理機構の体系 における弁護士の機能を阻害する。」28)である。

 a)懲戒の直接の根拠規定である連邦弁護士法113条は,上記のように業 務の内外で扱いを異にしているので,まずは,業務の内外はどのように区 別されるのかをみておこう。その基準については,形式的に業務と関連し ているかどうか,すなわちその職業活動の間の行為かどうか,問題の行為 が,時間的・場所的に職業実践と結びついているかといったことだけで判 断されるわけではない。業務内となるのは,行為が実質的に業務と結びつ いているか,つまりは,(当然に業務内となる)連邦弁護士法や弁護士職 業規則に定められている義務に違反した場合のほか,当該行為が機能的・

因果律的に職業実践との関連を有する場合である。換言すれば,自由職業 として営まれる広い意味での法律相談ないしは代理業務と関連しない場合 には,たとえそれが時間的には職業実践とかぶっていたとしても,業務外 である。もっとも,具体的には「個別事案ごとにしか判断できない」とさ れている。例えば,裁判所に向かう途中の交通事故は,当然のことなが ら,業務外となる。また,弁護士の執筆活動は,それが法や裁判所等によ るその適用をテーマとしたものであれば,それは業務内であり,そうでな いときは,業務外であると説かれる。弁護士としての収入にかかる税法上 の申告義務違反も業務内である。また,ある事件で,弁護士Aが自己の 依頼者のため証人Bに偽証を教唆した(すでにこれ自体で懲戒事由では ある)が,後にB証人が当該偽証で起訴されたところ,ABがたまた ま出会った際に,噓をつくように助言した場合も,業務内である29)

28) Henssler/Prütting/Prütting. BRAO 5Auf. §43 Rdn. 24.

29) Feuerich/Weyland, BRAO 9 Aufl. §45 Rnd. 16, §113 Rnd. 15.このほか,物騒な 話であるが,事務所に装塡可能な自動小銃を保管し,誤って事務職員を撃って しまったのも業務内行為だとされている。なお,わが国では,弁護士の行う事 務処理が,果たして弁護士の本来業務かどうかをあまり問題とはしないが,ド イツでは,弁護士としての利益相反かどうかとか,懲戒対象となるか等につ き,両者の間にずれがあることもあり,厳格に分けていこうとする姿勢がみら

(17)

 b)それでは,業務に関しては,どのような規範がトランスフォーマッ トされるのか。概略以下のとおり説かれている30)。まずは,故意による犯 罪行為(自由刑・罰金刑にあたる行為)である。すでに述べた偽証(教 唆)や詐欺あるいは横領や背任マネーロンダリンクなどがその例としてあ げられている。ちなみに,これらの罪で起訴されて有罪判決を受けること は必要ではなく,該当行為(構成要件該当行為)が行われていれば,不起 訴・起訴猶予となっても懲戒事由となる。

 過失犯は,すべての場合がトランスフォーメーションされるわけではな く,懲戒事由と認められてよいのは,弁護士が当該過失犯を繰り返し行 い,そこから当該弁護士の法を無視する性向がうかがわれる場合だとす る。もっとも,具体的に,業務上でどのような過失犯が問題となるのか,

筆者の想像を超えるところではある。

 このほかには,例えば弁護人としての接見交通権や民事・刑事手続法上 の記録閲覧権等の乱用31),あるいはまた非弁提携があげられている。これ に対し,有力な学説は,民事上の義務違反,つまりは依頼者との契約に基 づく義務違反は,トランスフォーマットされることはないとする。弁護士 は,自由かつ規制を受けないでその職業を実践するという原則の下,弁護 士の職業上の活動をそれが正しかったかとか合目的だったかという観点か ら懲戒手続をつうじて職業法上事後的なチェックをすることは許されな い。依頼者に対する契約上の義務不履行は,法的紛争処理機構自体の機能 性を脅かすものではない,というのがその理由である。この関連で一つ取 れる。例えば,倒産管財人は,弁護士の本来業務ではないとされるから,そこ での犯罪行為などが業務内懲戒対象行為となるかが(結論はなるということで はあるが)一つ論じられるわけである。弁護士の本来業務かどうかは,大雑把 にいえば,弁護士ないしは弁護士を含む職業グループに独占されているか否か だといってよかろう。

30) Henssler/Prütting/Prütting. BRAO 5Auf. §43 Rdn. 25ff.

31) 最近の例としては,裁判所にある倒産債権者のリストをみて,その債権者に 自身への依頼を勧誘したケースがある。AnwG Berlin, Beschluss vom 5. 3. 2018, AnwBl 2018, 680.

(18)

り上げておくべきは,弁護士職業法中にあるいくつかの規定の意味につい て,次のように説く見解である。すなわち,連邦弁護士法50条は,手元記 録の作成・保存義務等を定め,一見すると依頼者への手元記録引渡義務を 定めているようにもみえる32)。しかしここからは,(懲戒の根拠となる)

職業法上の義務4 4 4 4 4 4 4として,依頼者への手元記録の引渡義務は生じることはな い。また,弁護士職業規則11条は,事件に関する重要な経過および処置を 遅滞なく当事者に通知する義務を規定しているが33),ここから権利保護保 険の保険者に対する事件の経緯についての職業法上4 4 4 4の報告義務を導くこと はできない。同じく弁護士職業規則26条は,勤務弁護士等を適切な条件で 勤務させなくてはならないと規定しているが,この規定は,一定金額の給 与を支払うべき職業法上の4 4 4 4 4具体的義務を認めるものではないとする34)。要 するに,これら民事法上の権利・義務は,弁護士が受任事務ないしはその 業務を「うまく」処理したかどうかを問うものだからである。もっとも,

民事上の義務違反であっても,民事法上の過誤や懈怠が頻繁に繰り返さ れ,そこから当該弁護士の法の無視あるいは法に対して敵対的な態度を読 み取ることができる場合は例外が認められる可能性はあると説かれてい る。後に取り上げる裁判例(IV4))がこれである。もう一ついわれている のは,明らかな公序良俗違反・暴利行為である(民法138条)。明らかにこ

32) 連邦弁護士法第50条〔弁護士の手元記録〕

 ⑴弁護士は,手元記録を作成して,その活動を整理された形で示せるように しておかなくてはならない。

 ⑵~⑸略

33) 弁護士職業規則11条

 ⑴依頼者に対しては,事件の進捗にとり重要な経緯と処置を遅滞なく報告し なくてはならない。依頼者には,特に,取得しあるいは受送した重要な書面の 内容を知らせなくてはならない。

 ⑵依頼者からの質問には,遅滞なく回答しなくてはならない。

34) 詳しくは,森勇「ドイツにおける勤務弁護士とそれを取り巻く環境─弁護士 の独立性の一断面─」,伊藤壽英編著・法化社会のグローバル化と理論的実務 的対応(2017・中央大学出版部)321頁以下参照。

(19)

れに抵触する条件で弁護士を勤務させたり,あるいはオープンでの弁護士 募集に際しこうした不当な条件を提示した場合には,やはり懲戒対象にあ たるとされている。

 c)以上,連邦弁護士法43条によって弁護士の職業上の義務にトランス フォーマットされるものを一瞥したが,それでは職務外についてはどう か。先にもみたように,職務外については連邦弁護士法113条 ₂ 項が,懲 戒の対象となる行為にかなりの制限を加えている。もし限定を加えなかっ たなら,連邦弁護士法43条 ₂ 文の下では,ドイツ法上禁止されている行為 すべてが懲戒原因となってしまう可能があるからにほかならない。まず第 一に,対象となる行為は違法行為と反則金の制裁が科せられるものに限定 される。ここでいう違法行為とは,刑事罰つまりは刑法犯を指す。したが って,(かなり以前には「離婚」ですら懲戒原因とされた時代もあったよ うだが,)私法上の行為が問題とされることは,例外も含め一切ない。加 えて,簡単にいうと,その行為のせいで,(その弁護士だけではなく)弁 護士全体がその職責を果たせなくなるまでに市民から「うがった目」でみ られることになる場合に限られている。誤解を恐れずに一言でいうと,

「弁護士は,任すに足らぬ」という意識を市民が持つほどの悪行に限られ る。こうした制限をかけても,そもそも職務外に関して懲戒処分をするこ と自体時代にそぐわず, 連邦弁護士法53条 ₂ 項は適用の余地はないとす る,懲戒にかなり禁欲的な立場35)もあるが,実務は次のようだといわれて いる。すなわち,単発的な過失事犯は問題外である。問題となるのは,故 意犯とそこから法の求めを無視する態度,あるいは自己の利益のために法 秩序をないがしろにしてもよいという姿勢がうかがわれるような場合,あ るいは,利益目的で多大な損害を与えた場合には,懲戒対象となる頻度は 高い。また,真実義務は弁護士職業の根幹をなすことから,職務外におい ても真実義務を負う。真実義務に反する行動は,弁護士の信頼性に対する 権利保護を求める市民の疑念を生じさせるものであるから,常に懲戒の要

35) Henssler/Prütting/Prütting. BRAO 5Auf. §43 Rdn. 31.

(20)

件を満たす。筆者の推測では,例えばまったく職務と関係のない事件での 偽証教唆はこれにあたろう。そのほかの財産犯や重罪も,懲戒対象となる 頻度は高いとする36)。もっとも,そこで共通して具体例としてあげられて いるのは,常習的な飲酒運転の例37)である。懲戒の対象を限定する現在の 法状態の下では,あまり実例はないと思われる。筆者のひろった最近の例 としては,悪質な当て逃げ38),あるいは公的機関の就業証明書の偽造39) 報告されている。

IV.裁 判 例

 すでに述べたように,実務は連邦弁護士法43条が受け皿構成要件として 機能し,同条単独で懲戒根拠規範となるとするが,具体的にはどのような ケースが問題とされているのであろうか。個人のデータバンクにある連邦 弁護士法43条の適用が問題とされた弁護士裁判所ないしは弁護士法院のこ こ10年ほどの裁判例の提供を受けることができたのは僥倖であった40)。た だその数はさほど多くはないし,いわゆる受け皿構成要件,つまりは連邦

36) Feuerich/Weyland, BRAO 9 Aufl. §113 Rnd. 20.

37) これを肯定した例については,Kleine-Cosack, BRAO 5Aufl. (2015), §113 Rnd.

21.

38) AnwG Köln, Urt. v. 20. 3. 2017 - 1 AnwG 40/16, NJW 2017, 2293.被告訴人は,

ショッピングセンター駐車場内で,駐車中の他人の車に接触したが,届け出る ことなく別の階の駐車スペースに駐車してそのまま買い物をした。戻って駐車 場を出る際,接触した車の前をとおり,当該車両の所有者等がいるにもかかわ らず走り去ったというケース。

39) AnwG Köln Urt. v. 12. 12. 2017 - 2 AnwG 49/17, BeckRS 2018, 1857.被告訴人 は,公官署の法務担当官に応募したが,その際経歴を偽り,勤務実態のない他 の公官署の勤務証明書を偽造したケース。

40) 注38)および39)のケースも含め提供してくださったケルン大学弁護士法研 究所教授・Soldan研究所代表Mathias Kilian博士, そのデータを整理・ 抽出 してくださった同氏の副手(Studentische Hilfskraft)のWetter女史には,この 場を借りて心より感謝申し上げる。

(21)

弁護士法43条単独での懲戒が弁護士裁判所(二審である弁護士法院)にお いて問題化したものはわずかしかないようである。なぜ裁判例として顕在 化しないのか。それは連邦弁護士法上のとる職業法上の制裁システム41) ある,つまり,先に触れたように連邦弁護士法の職業法上の処分の仕組み は,二本立てとなっていることからあまり裁判例として顕在化しないとの 説明を受けた。すなわち,本則ともいうべきは弁護士裁判所,弁護士法院 そして連邦通常裁判所弁護士部からなる弁護士裁判権が「懲戒(Ahn-

dung)」について管轄するが42),軽微なものであれば,連邦弁護士法74条

により弁護士会理事会が叱責(Rüge)さらには実質叱責に異ならないと される同73条 ₂ 項 ₁ 号の教示(Belehrung)をもってすますことができる。

理事会の叱責処分およびある種の教示処分に対しては弁護士裁判権への道 が開かれてはいるが,教示はもちろん叱責を受けたとしても,不名誉とい ったことは別に,何らの不利益とは結びつかない。ということで,叱責あ るいは教示を受けたとしても不服を申し立てずに済ませてしまうのが大方 だからだということのようである。

 本題に戻って,裁判例をみていくことにしよう。なお,以下での判例の 紹介にあたっては,事案の概要と理由は,そのままでは長くなりすぎるの で,判例誌等に掲載されているものをかなり要約したし,その濃淡もかな

41) ドイツの懲戒機関の組成等について,詳しくは,森勇「利益相反禁止違反の 効果」 森勇編著・ 弁護士の基本的義務(2018・ 中央大学出版部)321頁以下

(443頁以下)参照。

42) 叱責あるいは教示の一部(後掲注47)参照)に対する異議事件を含む弁護士 裁判所事件の数は,2016年で720件,1980年は451件である。Vgl. Matthias Kili- an u.A (Hrsg.) Stataitiasches Jahresbuch der Anwaltschaft2017/2018, S. 249. 護士の数をこの件数で割ると,2016年は,227人あたり ₁ 件,1980年は,79人 あたり ₁ 件であり, ₃ 分の ₁ 以下になっている。統計がないので確たることは わからないが,決してドイツの弁護士が品行方正の度を増したということでは なく,弁護士裁判権による懲戒対象が重い義務違反に限られるようになる一 方,他方では弁護士会理事会の叱責ないしは教示ですます案件が多くなったと 推測したほうがよさそうである。

(22)

りあることをまずはお断りしておく。

 1)まず取り上げておくべきは,フライブルク(Freiburg)弁護士裁判 所2004年 ₈ 月 ₄ 日決定43)である。少し以前のものではあるが,ここには,

先に判例に譲るとした連邦弁護士法43条を受け皿構成要件になるとする見 解が凝縮されている。

【事案の概要】

 X弁護士は,原告となった甲社の訴訟代理人として,A弁護士が訴訟代 理人となっている被告乙会社と区裁判所において自動車の修理代金に関し 撤回権留保付き和解を締結44)。その後さらに,他の車両の代金に関し追加 的に和解が結ばれた。その内容は,一定額の損害金の支払いや訴訟費用の 負担割合等である。この際総額は定められず,賠償対象の車両をグループ 分けして,それぞれに補償割合ないしは金額が定められていた。和解締結 X弁護士は,A弁護士に宛てた書簡で2002年 ₅ 月の期限までに, 乙社 は,X弁護士の事務所名義の口座に合意した金額を振り込むよう督促。こ れに応じて乙社は,二度に分けて合計約16,600ユーロ(数額は概算。以下 同じ)を指定口座に送金した。弁護士Xは,書面で上記金額の振り込み があったことを確認の上で,次のように要請した。すなわち,「本来支払 われるべきは,約13,300ユーロ弱であるから,3,300ユーロ弱が余分に振り 込まれている。そのうち300ユーロは,甲社が請求できる訴訟費用だから,

それを除く3,000ユーロは返却する。ついては,誤振り込みを避けるため,

被告乙社代理人としてそもそも損害額等の正確な計算書を出してほしい。」

ということであった。これを受けてA弁護士の事務所所属のB弁護士は,

返還すべき金額は,3,400ユーロであり,その金額を自分の事務所の口座 に振り込むよう要請した。X弁護士がこれに応じなかったことから,B

43) AnwG Freiburg Bechluss v. 4. 8. 2004-ohne Az, BRAK-Mitt. 2005, 28ff.

44) わが国になじみのないこの「撤回権留保付き和解」については,森勇「撤回 権留保付き和解における撤回の意思表示の相手先をめぐるドイツ裁判例の展 開」比較法雑誌48巻 ₂ 号101頁以下を参照されたい。

(23)

護士はまずはX弁護士が自ら誤振り込みだと認めた額,3,000ユーロを自 分の事務所の口座に振り込むよう,そうでないと民事以外(つまりは職業 法上の処分を求める)の手続を始めると脅しをかけた。これに対し,X 護士は,すでにその分は甲社に対する別の報酬請求権との相殺で実質的に は甲社に渡っておりもはや返金するべきものはないと反論した。そこでB 弁護士はフライブルク弁護士会に,苦情(Beschwerde)を申し立てた。

弁護士会はこれを受けて,X弁護士は預かり金の取扱いを規定する連邦弁 護士法43条a 5項45)そしてこれを敷衍する弁護士職業規則 ₄ 条に違反する として,連邦弁護士法74条 ₁ 項が定める弁護士会理事会による「叱責」処 分を課した。これに対しX弁護士は異議を申し立てたが,弁護士会理事 会はこれを棄却。その際理事会は,連邦弁護士法43条a 5項違反を認定す るとともに,仮にそうではないとしても,X弁護士は,自ら過振り込みの 事実を認め,返却するとしたことで,相手方弁護士への返却義務が明確に 生じ,事後,相手方からすると,預かり金とした旨の通知と受け止められ てよく,このX弁護士の返却を認める通知を,後に甲社から自分に支払 われるべき費用と精算したとして覆すことは許されないとした。このよう な行いは,弁護士としてふさわしくないものであり,このような行為によ り,弁護士に対する尊敬(Ansehen)とその地位が危険にさらされる。こ の点で連邦弁護士法43条に違反するとして, 異議を棄却した。 そこでX 弁護士は弁護士裁判所の判断を求める申立て(連邦弁護士法74条a 1項)

をした。

 弁護士裁判所は,預かり金の取扱いに関する連邦弁護士法43条aの「預 かった」金銭という要件が欠けるとして,同項の適用は否定したが,受け 皿構成要件としての連邦弁護士法43条の適用を認め,以下のように述べて 申立てを棄却。

45) 連邦弁護士法43条a 5項「弁護士は,弁護士に委託された財産の取扱いにあ たっては,必要な注意をはらう義務を負う。他人の金銭は,直ちにその受領権 者に引き渡すか,あるいは,別の口座に振り込まなければならない。」

参照

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