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わが国の複式簿記形成期における 簿記教科書の分析 ⑵

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(1)

1 は じ め に

 本稿は,わが国の複式簿記形成期として捉えられる明治期以降の簿記教 科書を分析の対象として,その中で論じられる簿記理論 1)を明らかにする ことを目的とする。つまり,当時を代表する簿記論者がその簿記書で明ら かにした「簿記」の諸概念を説明するとともに,どのように複式簿記を教

1) 「簿記理論」をどのように定義するかは,非常に難しい問題であるが,さ しあたり簿記目的論(勘定機能論),⑵簿記対象論(取引論(取引分類 論を含む)),⑶ 簿記形式論(勘定論(勘定分類=体系論または勘定組織=

計画論を含む)),⑷簿記手続論(勘定記入論)といったものが考えられる

(高寺(1967)111頁)。本稿においても,この定義に従うものとする。

わが国の複式簿記形成期における 簿記教科書の分析 ⑵

──東奭五郎『新案詳解 商業簿記』および   『最近學説 簿記法大意』にみる単式簿記──

𠮷 田 智 也

   目   次 1 は じ め に 2 単式簿記の定義

3 『新案詳解 商業簿記』(1903)における単式簿記 4 『最近學説 簿記法大意』(1913)における単式簿記 5 おわりに──東奭五郎の考える単式簿記

(2)

授しようとしたのかを解明する。本稿では,具体的に,わが国の複式簿記 形成期における代表的な簿記研究者である東奭五郎の著作『新案詳解 商 業簿記』(1903)および『最近學説 簿記法大意』(1913)における単式簿 記の取扱いに焦点をあてて検討する。

 現代の簿記教科書においては,単式簿記がどのようなものかについての 詳しい説明は,ほとんどなされない(島本(2015)125頁)。また,安藤

(2001,2‑3頁)によれば,「片野一郎著『新簿記精説(下巻)(同文舘,昭和 58年)のように単式簿記について独立の章(第11章,全8頁)を設けている 簿記書がないわけではない。しかし,流れとしては,黒澤清著『商業簿 記』(千倉書房,昭和19年)あたりが単式簿記をも本格的に扱った(第二編,

全3章18頁)最後の簿記書の1つといえるのではないか。」と指摘している。

 本稿で分析の対象とする東の著作においては,もちろん単式簿記に関す る説明がなされている。また,「明治期には単式簿記についての書物も出 版されていることから察するに,単式簿記についての指導がなされてい た。」(島本(2015)132頁)とされる。そうであれば,東が単式簿記をどの ように説明するのかを分析することを通じて,彼の考えていた複式簿記の 本質がより明確になるのではないかと考える 2)

 東の経歴や著作については,他稿(たとえば岡部(2017)および𠮷田(2018))

に譲ることとするが,先行研究において,彼の単式簿記を取り上げたもの は存在していない。以下,第2節では現代における単式簿記の定義につい て概観した後,第3節で『新案詳解 商業簿記』における単式簿記の説明 を,第4節で『最近學説 簿記法大意』における単式簿記の説明をそれぞ れ分析し,第5節でその特徴を明らかにする。

2) 石川(2011317頁)によれば,複式簿記の本質的特徴を理解するために は,単式簿記とは何かを理解することが重要であるとされる。

(3)

2 単式簿記の定義

 それでは,現代的に,単式簿記はどのように定義されるか。島本(2015,

126頁)によれば,「単式簿記の定義を調べてみると,単式簿記そのものを

定義する場合と,複式簿記を定義し,それ以外をすべて単式簿記とする場 合とに分かれ」,「後者の場合には単式簿記そのものの意味を明らかするこ とができない」とされる。以下では,前者を積極的定義,後者を消極的定 義としておこう。

 辞書・辞典的にはどのように定義されているだろうか。

 まず,安平(2007,925‑926頁)によれば,「簿記は,その記録・計算がど のような原則によって行われているかを基準として,複式簿記と単式簿記 に分けられる。貸借二面的記入のルールをもつ簿記を複式簿記というのに 対して,このようなルールをもたない簿記を総称して単式簿記という。」

とされ,複式簿記以外が単式簿記とされる消極的定義を行っている。ま た,「単式簿記には種々の形態のものがあるが,そのうち最も単純でかつ 一般的なものは,個人・家計・小規模企業などで通常行われている,現金 出納帳しか記入しない簿記である。」(安平(2007)926頁)と述べ,単式簿 記では,最低限,現金出納帳が設けられ,現金の収支のみが記録(一面的 に記入)されることになる。さらに「複式簿記と単式簿記の違いは,……

記帳が例外なき二面的記入のルールによって行われているかどうか,その ような原理的仕組みをもっているかどうかという点にある」(安平(2007)

926頁)と論じられる 3)。つまり,すべての取引が二面的記入のルールにし

3) なお,単式簿記においても,「ある種の事象(一部の事象)については二 面的記入が行われることがあり得る」とされるが,「その二面的記入が記帳 対象の複数化に伴う偶然の産物にしかすぎず,例外なきルールにまで高めら れた仕組みをもつのでない限り,すなわち,一部の事象は二面的記入,他の

(4)

たがって記帳されていなければ,それは単式簿記によるものとされること になる。

 また,中野(2007,825頁)によれば,「単式簿記の定義は必ずしも一義 的ではない。むしろ多義的であるといっても過言ではない。」とされ,「論 者により,「単式簿記」として想定される記録の範囲は多様である」が,

それらの「共通するものを抽出すれば,企業その他の組織の経済活動を記 録する場合,単式簿記にあっては,財産とその変動について,それが部分 か全体かは別にして,何らかの記録が行われるのに対して,財産変動の原 因については,複式簿記に見られるような組織的な記録が行われない」と いう点が指摘される。つまり,財産変動の原因記録(複式簿記による勘定記 録でいえば,収益・費用勘定の記録)が組織的に行われるか否かで,複式簿 記か単式簿記かを区別しており,積極的定義がなされているといえよう。

 さらに,大藪(2008,386頁)によれば,「複式簿記以外の簿記を総称し て単式簿記という。よって単式簿記の実態はケース・バイ・ケースで異な る。しかし,複式簿記と比較して,単式簿記の特徴は少なくとも,次の3 点にある。① すべての取引を貸借に分析して記帳する方法ではない,

② よって貸借平均の原理は成立していないから,試算表の作成は不可能 である。③ ということは,財務諸表の作成は,元帳記録によって行うも のではない。」と述べ,消極的定義を行い,記帳および決算手続に関して,

複式簿記との相違点を指摘する。

 なお,単式簿記について独立の章を設けている片野(1983,685頁)によ れば,「複式簿記はすべての取引を1つの勘定の借方と他の勘定の貸方と に複記入するが,単式簿記はこのような複記入を行う2元的勘定記録(仕 訳帳・総勘定元帳)をもたない。したがって,財産の変動は,生産経済体 事象は一面的記入というような事情が存在する限り,その種の簿記は依然と して単式簿記たるにとどまる」(安平(2007)926頁)とされる。

(5)

(企業)の場合でも,消費経済体の場合でも,単式簿記では,個々の貨幣 形態計算項目,個々の貨幣原因計算項目ごとに,それぞれ独立に,その増 減のいきさつが各明細帳簿に記入されるだけである」と述べられる 4)。つ まり,複記入を行う2元的勘定記録の有無により,複式簿記と単式簿記を 区別している。

 また,複式簿記と単式簿記の帳簿組織との相違は,それぞれ次頁の図1 のようになるとされる。

 図1で明らかなように,複式簿記は「取引歴史記録・勘定分解記録・勘 定分類記録・取引明細記録の有機的体系を通じて,財産の変動過程につい て生ずる会計主体の受託会計責任の推移のいきさつを首尾一貫して明らか にし,この会計帳簿から誘導して会計報告書が作られる」のに対して,単 式簿記は「機構上この機能において不完全であり,財務表を作り得るに止 まる」とされる(片野(1983)688頁)

 それでは,単式簿記による決算はどのように行われるか。片野(1983,

688‑689頁)の記述によれば,単式簿記の場合には「帳簿組織が簡単であり,

記帳の内容も質的に単純であるのが普通であるから,企業の場合でも次の

4) 片野(1983686687頁)は,複式簿記と単式簿記の相違点を箇条書きで 6つ指摘している。単式簿記についてのみ記述すると,⑴ 貨幣形態計算と 貨幣原因計算とを切り離し,両者の間に体系的な結びつきのない単記入であ る,⑵ 多くの場合,他人との債権・債務関係を記録する帳簿および現金出 納帳のみを有し,財産変動の経過を残すところなく記録した総勘定元帳を欠 く,⑶ 複記入による総勘定元帳がないから,試算表によって,会計帳簿記 録の正否を検証する能力がない,⑷収益・損費に関する記録が完備してい ないから,損益法による損益計算はできない,⑸ 収益・損費を完全に記録 した資料がないから組織的な方法で損益計算書を作ることができない,

⑹ 貸借対照表(財政一覧表)を作るには,実地調査によって資産・負債の 有高を調べて財産目録に計上し,これに基づいて作る財産目録法もしくは棚 卸法によるほかない,とされる。

(6)

ような簡単な方法ですむ。」とされる。具体的には,次の手続による。

 1.実地調査によって得た資産・負債の各項目を財産目録に計上する。

 2 .現金出納帳・債権・債務などの諸帳簿の期末有高記録を財産目録計 上の当該項目の有高と突き合わせて,誤差があれば,帳簿の記録を訂 正する。

 3 .期末純資産有高(財産目録の資産有高と負債有高との差額)を期首すな わち前期末純資産有高と比較して,その差額を当期の純損益とす 5)

 4 .各種帳簿の締切と繰越を行って,今期と次期の計算を記録の上で区

5) 片野(1983689頁)は,この財産目録における純資産有高によって純損 益を算出する計算表を貸借対照表とよぶこともあるが,複式簿記の誘導法で 作る貸借対照表と区別するために,「財政一覧表」または「資産負債表」と 名づけるほうがよいと述べている。

図1 複式簿記と単式簿記の帳簿組織

【複式簿記】

【単式簿記】

取引

( )

( ) ( )

( )

日記帳

(取引歴史記録)

仕訳簿 取引勘定 分解記録

補助簿

(取引明細記録) 照合修正 総勘定元帳

取引勘定 分類記録

貸借対照表 財産計算 総括報告 損益計算書

損益計算 総括報告 財産目録

(財産実地調べ)

出所:片野(1983)687項。

財産目録

(財産実地調べ)

取引 日記帳

(取引歴史記録)

各個帳簿

(取引明細記録)

貸借対照表

(財政一覧表)

照合修正

(7)

分する。

 これらの手続からは,財産目録のみが作成されることになるが,その財 産目録の内容から貸借対照表を作成し,貸借対照表上の純損益の発生経路 を明らかにするために,収益要素と損費要素を期中の取引より拾い出して 損益計算書を作成することが説明される。

 視点を変えて,普段から簿記・会計を教える立場にいる学界人の間にお ける「単式簿記」の共通的理解はどうであろうか。中野編(2007)が日本 会計研究学会の会員宛に行ったアンケート調査の質問票に対する自由記入 回答を整理したものによれば,「取引を1つの側面(現金収支の側面)から 記録する技法」,「財産の増減のみを記録する帳簿システム」,「一部の資 産・負債を対象とした不完全な計算システム」,「自己検証機能が内包され ていない測定用具」,「複式簿記に至る前段階の遅れた不完全な記帳技術」,

「組織的かつ体系的な機構を持つ複式簿記以外の簿記の総称」,「貸借対照 表と損益計算書の作成を前提としない,または貸借対照表と損益計算書の 対応関係を前提としない取引記録の集計の仕組み」(中野編(2007)43頁)

といった多種多様な定義がなされており,「「複式簿記」のそれ以上に複雑 多岐な内容に及んでいる」(同上)とされる。

 また,同調査において,複式簿記と単式簿記との相違点については,

「記録対象となる取引の範囲の差異,取引のすべてが組織的に複式記入(二 面的に記帳)されるか否か,取引記録に網羅性・組織性・秩序性が見られ るか否か,自己検証機能が内包されているか否か,組織的な取引記録(=

勘定記録)から財務諸表を作成(誘導)できるか否か」6)(中野編(2007)44頁)

6) なお,取引のすべてが複式記入されない,取引記録に網羅性・組織性・秩 序性がみられない,自己検証機能が内包されていない,組織的な取引記録か ら財務諸表を作成できないことが,単式簿記の特徴であるということができ るかもしれない。

(8)

といったものが挙げられている。

 以上の辞書・辞典的な定義や特徴,学界人の共通認識を踏まえて,次節 以降では,東が単式簿記をどのように説明するのか詳細に分析する。

3 『新案詳解 商業簿記』

(1903)における単式簿記

 それでは,東が単式簿記をどのように説明していたのか,具体的にみて いこう。

 まず,『新案詳解 商業簿記』において,単式簿記は「第一編 総論  第四章 簿記の種類」(25‑30頁)と「第三編 帳簿の變化及組織其他 第 四章 單記式簿記法」(552‑557頁)の2箇所で説明されている。

 前半の「第一編 総論 第四章 簿記の種類」においては,業種ごとに 異なる簿記が存在することを述べた後,「單記式簿記」と「複記式簿記」

の区別があると指摘する。そして,「この區別の基く所は簿記の講述中最 も大切とする彼の借貸てふ兩熟語の使用せらるゝ範圍の廣狹如何にあれは 未たこの熟語を詳説せさるに先たつてこの區別に論及するは時機尚早きに 失するを以て茲には只その大要のみに留めん」(東(1903)28頁)と述べ,

単式簿記と複式簿記の違いは「借」・「貸」の術語をどのように使用するか という範囲の違いであると指摘している。それでは,単式簿記では,

「借」・「貸」という語句はどのように利用されるのか。

 東によれば,「この方式(単式簿記)にありては借主及貸主とて簿記學上 一種特別なる熟語を普通に稱ふる借主及貸主の意義にのみ使用し換言すれ はこの兩語を唯人のみに用ひて財政を記録する方式なり」(東(1903)28頁,

カッコ内は筆者)とされ,人を対象とする語句としてのみ,つまり他者と の貸借関係にのみ使用することが述べられる。一方,「複記式とは借主及 貸主なる熟語を獨り人のみに限らずして物品及事柄に對しても亦之を使用 し以て財政を整理記錄するの方法を云ふ」(東(1903)29頁)とされ,物品

(9)

や事柄に対しても必ず「借主」と「貸主」の両者の対立があると考えて記 帳することになる。

 また,單記式簿記(単式簿記)は,「複記式てふ他の複雜なる記錄の方式 に比してその記入式の大に簡單なる所より附せられたる名稱」(東(1903)

28頁)とされ,簡単

4

な記

4

入方式

4

であることから,その名称が付され,「複 雜したる財政の整理記錄に當りて屢々誤記脱漏等を生し易きの不利益ある ことを免れさるなり」(東(1903)28頁)と,複雑な取引を記録するには向 かない方法であることが述べられている。そして,「蓋し複記式の現時の 意匠は全く單記式より進化し來りたるものなれは今日財政を記錄するに最 も進歩したる唯一の方式として一般の承認する所たる複記式簿記を習得せ んとするものはこの單記式をも亦輕々に看過せさらんことを要するなり」

(東(1903)29頁)と述べ,単式簿記が進化して現在の複式簿記になってお り,複式簿記の理解のためにもその方法を見過ごしてはならないとの認識 を示している。

 また,後半の「第三編 帳簿の變化及組織其他 第四章 單記式簿記 法」においても,「複記式簿記法を財政の測定器として今日の完備したる 時計に喩ふるときは單記式簿記法は云はゞこれ昔時の水時計若くは砂時計 に對するものなりと云うことを得べく」(東(1903)553頁)と述べ,複式簿 記と単式簿記の差は機械式の時計と水時計ないし砂時計の差に相当すると 論じている。それらはいずれも時間を知ることができるが,その仕組みが 大きく異なっている。

 それでは,単式簿記は複式簿記とそれほど異なっているのか,彼の説明 をみてみよう。「單記式の元帳中に記錄さるべき勘定科目は單に人名のみ に留まり唯く一の例外として最初の資本の正味高に限りては資本主てふ假 定人の設けあり,この故に元帳の用は他人との借貸關係を知るのみにあ り」(東(1903)554頁)と述べる。つまり,単式簿記においても「元帳」は

(10)

必要とされるが,その勘定としては取引相手および資本主の人名勘定のみ が設けられ,他人との貸借関係(そして債権債務の残高)と資本主からの拠 出額が明らかにされる。

 それでは,債権・債務(および資本)以外の金額はどのようにして記録・

把握されるのだろうか。東によれば,「現金の入出は普通一般に別帳簿と して必ずや記錄さるゝ彼の現金帳に就き之を知り,商品の賣買はこれ亦別 帳簿として記錄さるゝを常とする彼の商品仕入及商品賣上の兩帳簿に依り 之を知り,受取及支拂手形の入出はその爲,平素記錄さるゝ彼の受取及支 拂の兩手形帳に依り之を知り,その他,什器,地所,家屋,公債證書,株 券の如きはその增減の時々に之を諸種の補助簿へ控へ置くか若くは必ずし も之を控へざるも是等は元來その現物の有高を取調ふること至つて容易な るを以て必要の時機に應して現在品に就きその有高を知り,かくてその資 産及負債の状況即ち彼の貸借對照表は入用の時期に至りて調製せらるゝな り」(東(1903)554‑555頁)と述べ,現金・商品・手形等は各種の帳簿(複 式簿記では補助簿)によって記録され,有形財については帳簿の記録もしく は実地棚卸によって,その金額を明らかにするとされる。

 また,単式簿記における収益・費用の記録はどうであろうか。「單記式 の大なる短所は損益勘定の整然たる記錄を缺くにあれどもこれ亦種々の帳 簿を彼れ是れ參照して多少の手數をさへ惜まざる時は之が計算に難から ず」(東(1903)555頁)と述べ,損益に関する情報もまた様々な帳簿から入 手して,計算することができると論じている。

 すなわち,「營業費としての損失額は平素普通に記録さるゝ所たる彼の 雜費控帳より之を計出し,商品賣買より生ぜし損失若くは利益高は商品賣 買帳に依り之を計出し,利息としての損益は元帳各人名勘定の借貸殘高を 參考するか若くはその爲受拂ひたる現金の口々を現金帳より摘出計算し,

又手數料に生ぜし損益高はその受授に關係ある諸種の書類に徴するか若く

(11)

はこれ亦現金帳の諸所を參考して之を計出するが如く,惣てこの類の方法 に依るときは損益の依て生ぜし詳細の理由を知ることは敢て不能にあらざ るを以て斯くして彼の損益計算書なるものは調整せらるゝなり」(東(1903)

555頁)と論じ,具体的に,各種の収益・費用を集計する術が明らかにさ

れる。つまり,このために各種財貨の管理のために設けられた帳簿が使用 され,それらから収益と費用の金額を拾い集めてくることで損益計算書が 作成されることになる。

 ただし,この方法によって損益計算を行うことについては,「これ等の 手數は頗る煩雜なるに源由してその間誤記違算を生じ易きの缺點は單記式 の甘受せさるべからざる處なり」(東(1903)555頁)と述べ,収益・費用の 集約が組織的・誘導的な方法ではないため,誤記入や計算間違い等が起き やすくなってしまうことが指摘されている。

 元帳に取引先ごとの人名勘定が設けられることは先述したとおりだが,

単式簿記においても仕訳帳は作成されているのであろうか。彼によれば,

「借貸仕譯帳は單記式にありても亦記録さるゝ處なれども單記式の借貸兩 主は常に人名に限らるゝものなりを以て某人名が借り又は貸しなるときの 取引のみに限りて之か記錄を要し且又或る取引に對しては借主のみ記錄せ らるるあり又或る他の取引に對しては貸主のみ記錄せらるゝありて彼の複 記式に於けるが如く借主貸主は毎取引に兩々相對して必ず生ずるの類に非 ず」(東(1903)555‑556頁)と述べ,仕訳帳は作成されるものの,掛取引等 による取引先との債権・債務の発生(および決済)時にのみ,記帳が行わ れることを明らかにしている。

 単式簿記において作成される帳簿である,「現金受拂帳,商品仕入及賣 上帳,受取手形及支拂手形の諸帳簿,その他諸種物品の入出帳,外に損益 計算上單記式にて必要とする營業費控帳,利息,手數料等の受拂帳は假 令,複記式の簿記法を採用する會計部内にありても亦之を廃止すべから

(12)

ず」(東(1903)556頁)と述べ,単式簿記において作成される帳簿を列挙し た上で,それらは複式簿記であろうとも作成されるべきであることが主張 される。

 なお,「これ等は複記式にありては補助簿即ち明細若くは内譯の控帳と して必ずや記錄さるゝものなれば若し故らに複記式の短處を擧けんとなら ば未た必ずしもその絶無を期すべからず即ち複記式の記錄方法の正確にし て且其秩序の整然たるには單記式の企て及ふ所に非ざれども單記式に比し て正しく二重の手數と煩勞とを要する處少なからざるは之れ複記式に避く べからさるの缺點なりとす」(東(1903)556‑557頁)と述べ,単式簿記にお いて記帳される帳簿は,複式簿記では補助簿として記帳されることが指摘 されるとともに,記帳の点から比較した際に,複式簿記は単式簿記よりも 複雑で手間がかかることが欠点として挙げられている。

 もちろん,複式簿記の欠点として挙げられている記帳の手間をなるべく 少なくするべく,複式簿記における記帳の改善・合理化が考案されること になる。すなわち,「現金受拂帳,商品賣買帳その他の諸補助簿を以てそ の一部若くは全部を仕譯帳に代用することを得べき記錄の方式はこれぞ即 ち複記式に加味するに單記式の長所を以てしたるもの」(東(1903)557頁)

と述べ,補助簿を仕訳帳として利用する,いわゆる特殊仕訳帳制について も,単式簿記の長所を生かした記帳であると論じている。

 また,「凡そこの類の單複折衷的記錄方式は今や實際の會計部内には盛 んに工夫實行さるゝ處なれば單記式を以て徹頭徹尾不完全なりと誹譏し複 記式を以て絶對的に無缺なりと賞賛するが如きは時に或は偏頗不公平の評 論たることあり」(東(1903)557頁)と述べており,単式簿記の思考を不完 全なものと切り捨てるのでなく,それを複式簿記にうまく取込み組入れる ことが必要であると主張する。

 なお,『新案詳解 商業簿記』のいずれの箇所においても,帳簿の提示

(13)

や図表による説明,設例等はなく,文章のみで単式簿記を説明している。

4 『最近學説 簿記法大意』

(1913)における単式簿記

 『最近學説 簿記法大意』においては,単式簿記は全15章の後半の「第 十四章 單記式簿記法と複記式簿記法」(126‑137頁)でのみ,取り上げら れている。

 東によれば,「「單記式」とは蓋し「複記式」なる名稱ありて然る後初め て附せられたるものなるべく随て先づ「複記式」なるものを解すべし」

(東(1913)126頁)とされ,複式簿記の説明から始める。すなわち,「この 簿記法の特色は讀者の已に知るが如く財政に變化を及ぼしたる一事實毎に 必ず之を借主

4 4

及貸主

4 4

なる兩者に分解しこの兩者の同種類に屬するものを適 當に整理按配するにありき」(東(1913)127頁)と,財政に変動を及ぼす事 柄を必ず借主と貸主の2つに分解(仕訳)することを複式簿記の特色とし て指摘している。

 そして,「「複記式」と「單記式」の區別は借

4

及貸

4

なる兩語の使用せら るゝ範圍の廣狹

4 4

に由ると云ふことを得べく即ち前者

4 4

にありてはこの兩語を 人以外の物品又事柄に

4 4 4 4 4 4 4 4 4 4

對して迄も比喩的又は假定的に廣く使用するに反 して後者にありてはこの兩語を普通の意義に解釋して

4 4 4 4 4 4 4 4 4 4

即ち單に人のみ

4 4 4 4 4

用ゐる記錄の方式と解すべきなり」(東(1913)128頁)と述べて,複式簿記 との区別は,借・貸を使用する範囲の違いにあると論じる。つまり,人以 外の物品や事柄も借主・貸主を仮定的に分類する簿記が複式簿記であり,

他人との金銭の借貸関係のみに借主・貸主を使用する簿記が単式簿記であ る。

 また,単式簿記において記録されるべき帳簿として,東は,以下の11種 の帳簿を取り上げている(東(1913)129頁)

(14)

1.日記帳,2.借貸仕譯帳,3.元帳,4.現金受拂帳,5.商品仕入帳,

6.商品賣上帳,7.商品有高帳(若し必要あらば),8.受取又支拂手形記入 帳,9.營業費扣帳,10.利息受拂帳,11.手數料等受拂帳

 これらの帳簿について,まず「日記帳」は「日附を追ふて毎取引を記錄 すること「複記式」の場合と異る所なし」(東(1913129頁)と述べ,すべ ての取引が日付順に記録されることが明らかにされる。一方,「借貸仕譯 帳」には,「人名の借貸關係のみを仕譯す」(東(1913129頁)とされ,信 用取引を含む,金銭の貸借関係の生じる取引について,その借主もしくは 貸主が誰なのかを明らかにするための仕訳が記帳される。

 また,「元帳」には「單に人名のみの借貸を記錄する口座を設く但除外 例として資本主の口座あり」(東(1913129頁)とされ,取引相手および資 本主の人名勘定のみが開設され,仕訳帳から転記されることになる。つま り,単式簿記においても「仕譯帳」の記録は「「元帳」への記錄に對する 豫備的記錄」(東(1913130頁)として機能している。ただし,その仕訳 は,「借りたる人名或は貸したる人名のみを起るときに限りて記錄するに 留るを以て借貸兩方の金額を等くするが如きは一切望むべからざるなり」

(東(1913131頁)とされ,貸借の両方(の勘定)が記録されるわけでも,

ましてそれらに同じ金額が記入されるわけでもない。

 なお,「現金受拂帳」,「商品仕入帳」,「商品賣上帳」,「商品有高帳」,

「受取及支拂手形記入帳」については,「「複記式」に補助簿として記錄し たる同諸帳簿と異る所なし」(東(1913129頁)と説明される。

 また,「營業費扣帳」は,「營業諸入費の明細を記錄す「複記式」にあり ては其實記錄されざるにあらず」(東(1913129頁)とされ,「利息受拂帳」

と「手數料等受拂帳」については「利息又手數料の受拂ひに關する明細を 記錄す」(東(1913129頁)る帳簿とされる。これらは,複式簿記において

(15)

も記録される帳簿とされるが,単式簿記において,これらが「必ず記錄す るにあらざれば後日損益決算期に至りて計算上正確に缺くことあり」(東

(1913)131頁)とされ,単式簿記における正確な損益計算のためには,必 要不可欠な帳簿であるとされる。

 そして,東は「單記

4 4

及複記

4 4

何れの式にありても帳簿記錄の目的は人の財 政の状況を何時にても一目明瞭ならしむるにあることは同一なり」(東

(1913)131‑132頁)と述べた上で,單記式(単式簿記)においては,どのよ うにこの目的を達成するのかについて,以下の設例を用いて説明する(東

(1913)132‑134頁)

 營業主は現金壹千圓,商品貮千五百圓,五百圓の什器,參千圓の家 屋,五千圓の地所 合計壹萬貮千圓の元入れをなしたり

 原價壹千圓の商品を壹千貮百圓に賣渡し現金を受取り依て利益金高貮 百圓なり

⑶ 商品壹千圓を甲某より掛けにて仕入れたり

 乙某へ元價壹千五百圓の商品を貮千圓に賣渡し代金を掛けとす依て利 益高五百圓なり

 營業費として現金壹百圓を支拂ひ又手數料として現金五拾圓を受取り たり

 これらの取引を,まず日記帳に記帳すると,表1のようになる 7)  日記帳の摘要欄には,まず日付(本設例では取引番号 ⑴ など)を記入し,

その次に取引の内容を記述する。取引金額に内訳がある場合には,摘要欄

7) 単式簿記における日記帳は,東の2つの著作のどこにも示されていないた め,表1は東(1903)で示された複式簿記の設例において示されたものに基 づいて作成している。そのため,見出し行の摘要欄の左側には「仕譯済記 號」を記入する欄が存在する。単式簿記における日記帳にこの欄があったか どうかは不明である。

(16)

においてそれも示す。すべての取引が記帳し終わったら,金額欄に計算線 を引き,取引額の合計額を計算している。

 それでは,個々の取引について,いかなる帳簿に記帳されるのかをみて いく。

 まず,⑴ の取引について,現金1,000円は「現金受拂帳」の受入に記録 され,商品2,500円は「商品仕入帳」に記録されるが,什器・家屋・地所

金 額

12,000 1,200 1,000 2,000 100

50 16,350 仕譯済記號 摘     要

────────── ⑴ ──────────

營業主 左ノ資産ヲ以テ商業ヲ始ム

 現 金  所有高 ¥ 1,000

 商 品 2,500

 什 器  見積代價 500  家 屋  見積代價 3,000  地 所  見積代價 5,000

  合  計 12,000

────────── ⑵ ──────────

(○○氏ヘ)商品ヲ賣渡シ代金ハ現金ニテ受取ル

────────── ⑶ ──────────

甲某ヨリ商品ヲ買入レ代金ハ掛トス

────────── ⑷ ──────────

乙某ヘ商品ヲ賣渡シ代金ハ掛トス

────────── ⑸ ──────────

営業費トシテ現金ヲ支拂フ

──────────(〃)──────────

手數料トシテ現金ヲ受取ル 合   計 出所:東(1903)191頁を参考に筆者が作成した。

表1 日記帳の例示 日 記 帳 明治×年×月

(17)

の金額については特に記録されない。また,資本総額の12,000円は,「元 帳」内に他人と仮定した「資本主」という勘定口座の貸方に記録しようと するため,「仕譯帳」に,

 資本主    貸方       一二,○○○圓

という仕訳記帳がなされる(東(1913)132頁)

 複式簿記との大きな違いとしては,什器・家屋・地所の金額が記録され ないことであるが,これらは「現に什器,家屋及地所なる物體の目前に存 在するに依りて之を知ることを得るにあり」(東(1913)132頁)とされ,特 に記録しなくとも,その金額(もしくはその実在性)を確認することができ るからであるとされる。

 次に,⑵ の取引について,商品売上の対価として受け取った現金1,200 円は「現金受拂帳」の受入に記録され,商品の売上(売価)1,200円は「商 品賣上帳」に記録される。なお,商品売買による利益額200円については,

「複記式に於けるが如く別段の記錄を要せず 8)然れども若し利益高を知ら んとならば「商品仕入帳」を參考し且又商品の手許に現在する残高を取調 ぶるときは容易に之を計算し得べく」(東(1913)133頁)と述べ,販売され た商品に関する仕入情報や販売後の手許残高の情報から利益額を計算する ことができると主張している。

 ⑶ の取引について,仕入れた1,000円の商品は「商品仕入帳」に記録さ れる。掛取引の相手である甲某は,実質的に決済日まで仕入代金1,000円 を貸与している貸主となっており,「元帳」の人名勘定である「甲某」の

8) ここでは,商品売上時に,複式簿記の場合でも利益額の記録がなされない と述べているが,東は複式簿記による商品売買取引の説明時には,いわゆる

「分記法」によって記帳することを説明していたため,販売のつど,利益額 が明らかになっている(東(1913)73頁)。

(18)

勘定口座の貸方に記入するため,「仕譯帳」に,

 甲 某    貸方        一,○○○圓

という仕訳記帳がなされる(東(1913)133頁)

 また,⑷ の取引について,⑵ の取引と同様に,商品の売上(売価)

2,000円は「商品賣上帳」に記録されるとともに,掛取引の相手である乙 某は,商品代金2,000円を決済日まで借り入れている借主となり,「元帳」

の人名勘定である「乙某」の勘定口座の借方に記入するため,「仕譯帳」

に,

 乙 某    借方        二,○○○圓

という仕訳記帳がなされる(東(1913)133‑134頁)

 ⑸ の取引については,支払った營業費100円は「現金受拂帳」の支払に,

受け取った手數料50円は「現金受拂帳」の受入に記録されると同時に,

「營業費扣帳」および「手數料受拂帳」に記録される。ただし,「後なる兩 帳簿へは強ち記錄を要せずと云ふは若し之を知らんと欲せば縱令多少の面 倒を要するとは云へ「現金受拂帳」の諸所に就きて之を取調ぶるの道あれ ばなり」(東(1913)134頁)と述べ,「營業費扣帳」や「手數料受拂帳」へ の記帳は必ずしも必要なものではなく,もしそれらに記録しなかったとし ても,「現金受拂帳」を精査することで,収益・費用の金額を知ることが できることを指摘している。

 このように,単式簿記においても,「多くの取引の一つ毎に事實上何れ かの帳簿に結局二ヶ所の記錄を行ひ」(東(1913)134頁),2つの帳簿に対 応する1つずつの記帳を行うことになる。ただし,単式簿記においては,

それらの帳簿への記帳に有機的な結びつきは存在していない。

 さらに,「決算期に至りて「貸借對照表」を作らんとならば「財産」の

(19)

種目の内,現金

4 4

は「現金受拂帳」最後の殘高と符合一致すべき金庫内なる 實際の現金有高

4 4 4 4 4 4 4

に依り商品

4 4

は「商品仕入」及「賣上」の兩帳簿を參照して 倉庫内なる實際の商品有高に

4 4 4 4 4 4 4

依り什器

4 4

,家屋

4 4

,地所等

4 4 4

は事實目前に存在す るその現品

4 4

に就き又公債證書

4 4 4 4

,株券

4 4

,受取手形

4 4 4 4

等も亦事實手許に所有する 現物

4 4

に就き更に諸貸金

4 4 4

はこれ「元帳」なる各人名への貸金殘高

4 4 4 4

に依りて茲 に財産の總額

4 4 4 4 4

を計算」(東(1913)134‑135頁)することになる。つまり,財 産の額について,現金および商品は帳簿残高と実際有高が照合された後の 金額が,他の有形財についてはその実際有高が,諸貸金(売掛金,貸付金な ど)は「元帳」における人名勘定の各残高が,それぞれ計上されることに なる。

 一方,「借財」の金額も同様に,「諸借金

4 4 4

はこれ亦「元帳」なる各人名よ りの借金殘高に基き而して諸支拂手形

4 4 4 4

は「同手形帳」の記錄を參考して 9)

茲に借財の總額

4 4 4 4 4

を計算」(東(1913)135頁)する。

 なお,財産と借財の「兩總額の差額にして若し財産額の多き丈は

4 4 4 4 4 4 4 4

これそ の時の正味財産高

4 4 4 4 4

即ち「現在資本高」なりと見るべく而して若し借財額の

4 4 4 4

多き丈

4 4 4

はこれその時の正味借財高

4 4 4 4 4

なるべきは明かなり」(東(1913)135頁)

と述べた上で,「この「正味資本高」若くは「正味借財高」をば當初元帳 内「資本主」なる假定人の口座に記錄したる資本高

4 4 4

即ち最初の元入高

4 4 4

と比 較するときはその營業期間に於ける純利益高

4 4 4 4

又は純損益高

4 4 4 4

は容易に計算し 得べく」(東(1913)135頁)と論じ,期末の資産・負債差額と,元帳に記録 された「資本主」の金額との差額として,当期の純損益が計算されること を説明する。

9) 受取手形は手許に所有する現物によって金額を明らかにする一方で,支拂 手形は「同記入帳」の記録を参照して金額を明らかにするのは非対称的な取 扱いであるが,約束手形や為替手形そのものは手形債権者が保有しているた め,手形債務は記録に基づいて把握されるほかない。

(20)

 もし,当該期間の純損益がどのような原因で生じたのかを明らかにしよ うとするならば,各種の帳簿から収益と費用の金額を拾い上げる必要があ る。すなわち,「商品仕入及賣上の兩帳簿,及商品の手許現在高を參考し て商品賣買に生じたる損益を計算し又已に支拂ひたる營業費,利息其他の 諸入費若くは已に,受取りたる利息,手數料等の諸収入は之を「現金受拂 帳」の諸所より計出する」(東(1913)136頁)と述べている。そして「縱令 可なりの面倒煩勞は避くべからずとは云へ彼の「損益表」なるものは以上 の手續に依りて作成し得べきなり」(東(1913)136頁)と,単式簿記におい ても手数はかかるものの「損益表」が作成可能であることを主張してい る。

 上記の設例に基づいて,「貸借對照表」を作成すれば,表2のようにな 10)

 現金は「現金受拂帳」と実際有高の照合後の金額が,商品は「商品有高

10) 単式簿記を利用して作成される貸借対照表および損益計算書は,東の2つ の著作のどこにも示されていない。そのため,表2および表3は東(1903 で示された複式簿記の設例において示されたものに基づいて作成している。

表2 当期末における貸借對照表(財政一覽表)

貸借對照表 財   産

現   金 商   品 什   器 家   屋 地   所 乙某へ貸金

甲某ヨリ借金 資 本 主 純 益 増 現在資本高 2,150

1,000 500 3,000 5,000 2,000 13,650

1,000

12,650

13,650 借   財

12,000 650 12,650

金  額 金  額

出所:東(1903)144頁を参考に筆者が作成した。なお,太字での記入部分は朱記される。

(21)

帳」の残高もしくは「商品仕入帳」と「商品賣上帳」を参照して計算され た有高が,什器・家屋・地所については実地棚卸により把握された金額 が,貸金(債権)のみは元帳残高が,それぞれ貸借対照表に集計されてい る。

 また,貸借対照表の作成時に計算される正味資本高と元入高とを比較す ることで,当期の純利益は650と計算される。この純損益がどのように生 じたのかを明らかにするために,「損益表」を作成すれば,表3のように なる。

 「損益表」の収益・費用(利益・損失)の各金額は,「現金受拂帳」,「商 品賣上帳」,「商品仕入帳」,「營業費扣帳」,「手數料受拂帳」といった諸帳 簿から拾い上げてくる。期中の取引数や収益・費用の項目数が増えてくる と,この作業は煩雑になることが予想される。

 東は,「單記式は複記式に比して甚だ幼稚なる記錄法たることは疑ひな し」(東(1913)136頁)と述べ,単式簿記は「幼稚なる記錄法」であるとま とめている。さらに「就中彼の「損益表」を作成するに當りてその煩勞多 く且又正確綿密を缺くは單記式の短所

4 4

と云はざるべからず」(東(1913)

136頁)と,損益表の作成が困難であることが単式簿記の短所であると指

摘する。

表3 当期の損益表 損 益 表

日付 損   失 日付

營 業 費 正 味 利 益

利   益 商品賣買益   〃 手 數 料 金  額

100 650  750

金  額 200 500 50 750

出所:東(1903)145頁を参考に筆者が作成した。なお,太字での記入部分は朱記される。

(22)

 しかし,東は,「單記式」だけでなく「複記式」にもまた短所があると 指摘する。つまり,複記式によれば,「取引の總て必ず「仕譯帳」及「元 帳」へ記錄さるゝの外に彼の補助簿

4 4 4

なるものは稍々重複煩雜の記錄を行ふ にあり」(東(1913)136頁)と述べ,取引の仕訳帳(および元帳)への記帳 と補助簿への記帳が重複することを指摘する。この重複を減らすために は,「成るべく補助簿の記錄を重視し

4 4 4 4 4 4 4 4 4 4

かくて仕譯帳に仕譯すべき材料は諸 補助簿なる記錄の結果を一括したるものに依るの簡便法を取るか若くはこ の結果を一括して直に「元帳」に記錄するかにあり」(東(1913)136頁) 述べ,複式簿記の合理化のために補助簿への記帳結果を一括して仕訳(合 計仕訳)するか,もしくは記帳結果を仕訳することなく元帳へ転記(合計 転記)することを提案する。

 すなわち,「諸補助簿

4 4 4

を所謂主要簿的に記錄する

4 4 4 4 4 4 4 4 4 4

にあり而してかく説き 來りときは複記式簿記法

4 4 4 4 4 4

實地の運用に當りては單記式

4 4 4

をも亦大にこれに加 味配劑するの必要あり」(東(1913)136‑137頁)と述べ,複式簿記における 記帳の合理化の際には,単式簿記による記帳方法が利用されていることを 指摘する 11)

5 おわりに──東奭五郎の考える単式簿記

 以上が,東の『新案詳解 商業簿記』および『最近學説 簿記法大意』

における単式簿記の内容である。それらの共通点および特徴を明らかにし て,彼の考えていた単式簿記を分析し,まとめることとする。

 彼は,2つの著作のいずれにおいても,単式簿記は,「借」・「貸」とい う両語を,普通の金銭の貸借関係のみに用いて,財政を記録する方法であ ると積極的に定義していた。

11) 東によれば,この方法は「單複折衷簿記法」と呼ばれている(東(1903 137頁)。

(23)

 また,単式簿記における帳簿への記帳について,複式簿記と同様,すべ ての取引が日記帳に記入されることを説明している。ただし,元帳に記録 されるのは,金銭の貸借や商品の掛売買による人的債権・債務と資本主の 拠出額のみであるため,元帳への準備的記録である仕譯帳においても,取 引相手(の人名)が借主なのか貸主なのか(もしくは資本主なのか),そして その金額がいくらなのかを明らかにする仕訳のみが記帳される。なお,債 権債務以外の財産・借財は,各種の帳簿に記帳される。たとえば,現金収 支は「現金受拂帳」の受入欄もしくは支払欄に記録され,商品の仕入取引 の詳細は「商品仕入帳」に,売上取引の詳細は「商品賣上帳」にそれぞれ 記録される(そしてもし必要であれば,「商品有高帳」に,受入・払出・残高が記 録される)。これらの帳簿は,複式簿記においては補助簿といわれる帳簿で あるが,複式簿記では主要簿であった仕訳帳と元帳も含め,単式簿記では 主要簿と補助簿の区別はなされない。いま,東の説明する単式簿記の帳簿 組織を,前述の片野(1983)の図を利用して図示すれば,図2のようにな る。

 期末決算に関して,東の説明する単式簿記においては,貸借対照表と損 益計算書はいずれも,帳簿記録からは誘導的に作成されておらず,帳簿に

図2 東に説明する単式簿記の帳簿組織

財産目録

(財産実地調べ)

取引 日記帳

(取引歴史記録)

各帳簿

(取引明細記録)

債権債務取引:仕譯帳→元帳 現金収支取引:現金受拂帳

商品売買取引:商品仕入帳・商品賣上帳 手 形 取 引:受取又支拂手形記入帳 その他損益取引:營業費扣帳など

貸借対照表

(財政一覧表)

照合修正

(24)

おける取引高・残高の集計および実地棚卸によって作成されていた。さら に,期間損益は,貸借対照表の作成時に,期末の資産・負債差額と元入資 本の金額との差額として計算されていた。なお,この当期純損益がどのよ うな取引によって生じたのかを明らかにするためは,現金受拂帳等の各種 帳簿から,収益・費用項目を拾い上げる必要があった。この拾い上げ計算 の手間(困難さ)は,単式簿記の短所として指摘されていた。

 しかし,いずれの東の著作においても,単式簿記を説明する箇所で,複 式簿記の記帳の合理化のために単式簿記の思考が利用されることを指摘し ていたことは興味深い。同じ取引について,仕訳帳・元帳という主要簿の ほかに関連する補助簿も記帳しなければならないということは複式簿記の 短所であり,記帳の合理化を行うためには,単式簿記により記帳された帳 簿(補助簿)の内容を合計仕訳もしくは合計転記すればよいと論じられて いた。

 なお,補助簿の内容を合計仕訳することは,今日の初等簿記において も,小口現金に関する記帳の説明で一般的に行われている。つまり,一定 期間,少額の経費の支払いは用度係(小口現金係)自身が保有・管理する 小口現金によって行われ,後日,その支払明細について会計係(仕訳記帳 係)が報告を受けた段階で合計仕訳がなされていることになる。ほかにも,

商品売買について,仕入帳を月末などに締め切る際に,総仕入高や仕入値 引・返品高,純仕入高を計算しているが,もしその計算結果の金額に基づ いて,取引を初めて仕訳帳に記帳すれば,月間取引額での合計仕訳がなさ れることになろう。

 つまり,東の指摘するように,単式簿記による記帳を理解することで,

それが発展ないし進化した姿であるとされる複式簿記による記帳の意味が より明らかになっていくといえる。

 たしかに,単式簿記では,財産の増減を中心に記録が行われており,1

(25)

つの帳簿に対して複式記入がなされるわけではないため自己検証機能は内 包されておらず,複式簿記に至る前段階の「幼稚なる記錄法」であるかも しれない。また,損益の原因別計算を勘定を利用して組織的に行う仕組み も持ち合わせておらず,そこで行われるのは資産・負債の増減記録の結果 として,当初資本と比較して資本がどれだけ増減したのかという「結果と しての損益計算」であった。

 最後に,東は単式簿記と複式簿記の関係について,「複記式は元と單記 式に生じたるもその發達の極度は更に再ひ單記式に接近するの傾向なきに あらざれは單記式必ずしも捨つべからず」(東(1903)553‑554頁)と述べて いる。これは,複式簿記の進化の果てにあるものは,再び単式簿記に接近 していく傾向にあることを指摘しているが,まさに今日の企業における簿 記システムがあてはまるのではないか。つまり,現代におけるコンピュー タ上での記帳(さらにはAIを利用した記帳)を主とした複式簿記のシステム では,複式簿記と単式簿記との区別に重要な役割を果たしていた「借方」

と「貸方」の語句はもはや符号に過ぎず,ある帳簿への単式記入と他の帳 簿への単式記入を結び付けて,いわば複式化しており,財産の増減計算と 増減原因計算を行っていると考えられる。

参 考 文 献 安藤英義(2001)『簿記会計の研究』中央経済社。

石川純治(2011)『複式簿記のサイエンス』税務経理協会。

大藪俊哉(2008)「単式簿記」森田哲彌・宮本匡章『会計学辞典 第五版』中央経 済社,386頁。

岡部孝好(2017)『神戸高商と神戸商大の会計学徒たち─その苦闘と栄光─』神戸 新聞総合出版センター。

島本克彦(2015)『簿記教育上の諸問題』関西学院大学出版会。

高寺貞男(1967)『簿記の一般理論』ミネルヴァ書房。

中野常男(2007)「単式簿記」神戸大学会計学研究室編『会計学辞典 第六版』同

(26)

文舘出版,825頁。

中野常男編(2007)『複式簿記の構造と機能』中央経済社。

東奭五郎(1903)『新案詳解 商業簿記』大倉書店。

東奭五郎(1913)『最新學説 簿記法大意』東京寳文館。

安平昭二(2007)「単式簿記」安藤英義・新田忠誓・伊藤邦雄・廣本敏郎編集代表

『会計学大辞典 第五版』中央経済社,925‑926頁。

𠮷田智也(2018)「わが国の複式簿記形成期における簿記教科書の分析(1)」『商学 論纂』第60巻第12号,245‑277頁。

参照

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(注)

分類記号  構 造 形 式 断面図 背面土のタイプ.. GW-B コンクリートブロック重力式

被保険者証等の記号及び番号を記載すること。 なお、記号と番号の間にスペース「・」又は「-」を挿入すること。

Ross, Barbara, (ed.), Accounts of the stewards of the Talbot household at Blakemere 1392-1425, translated and edited by Barbara Ross, Shropshire Record series, 7, (Keele, 2003).

欄は、具体的な書類の名称を記載する。この場合、自己が開発したプログラ

高さについてお伺いしたいのですけれども、4 ページ、5 ページ、6 ページのあたりの記 述ですが、まず 4 ページ、5

(注)

記録 記録すべき場合 ※1 保存期間 19.安全確保設備等の事故後の処置 同上 ※5