非線形特性をもつ付加構造物系の初通過破壊確率の 推定法(最大応答を用いた簡易推定法)
著者 青木 繁
雑誌名 東京都立産業技術高等専門学校研究紀要
巻 11
ページ 15‑21
発行年 2017‑03
URL http://id.nii.ac.jp/1282/00000204/
1. 緒言
産業施設内の建物などの主構造物系に設置されている 重要度の高い機器・配管などの付加構造物系は地震動入 力を受けた後もその機能を維持していなければならない.
付加構造物系の地震応答は,主構造物系の振動特性によ って大きく増幅されることがある.そのために,地震時 に破壊が起こらないように設計する必要がある.応答が 特定のレベルを超過した瞬間に破壊する初通過破壊はひ とつの構造物の重要な破壊様式である.地震動が不規則 振動であるために,応答も確率論的な評価が必要であり,
破壊が起こる現象も確率論的に評価する必要がある[1]. そのために初通過破壊確率を求める必要がある.
一方で,付加構造物系には種々の非線形特性がみられ る.たとえば,応答が降伏応力を超えたためにみられる 履歴復元力特性がある[2].この特性は,破壊が問題とな る大きな地震動入力を受け,主構造物系の振動特性によ って応答が増幅される場合に想定される.また,支持部 や締結部などにみられる衝突および摩擦特性などがある
[3] [4].さらに,これらの非線形特性を利用した制振装置
や免震装置も開発されている[5].重要度の高い付加構造 物系ではこのような非線形特性も考慮する必要がある.
著者はこれまでに地震動入力を受ける付加構造物系の 初通過破壊確率を求める手法を提案し,応答が大きく増 幅される付加構造物系と主構造物系の固有周期が一致す る条件での初通過破壊確率について論じてきた[6].前述 のような非線形特性を考慮した場合の初通過破壊確率に ついてもその特徴を明らかにした[7]-[9].この中で,破壊 レベルを非線形特性のない付加構造物系の最大応答で無 次元化すると,固有周期によらずに初通過破壊確率を推 定することができることを明らかにしてきた[7]-[9].一方 で,非線形系の最大応答を推定する方法も提案されてい
る[10][11].破壊レベルを非線形系の最大応答で無次元化
することによって,さらに実用的な初通過破壊確率の推 定法が得られることが期待される.すでに,摩擦特性を 考慮した場合にその可能性について言及した[9].本報告 では,摩擦特性も含めた非線形特性をもつ付加構造物系 に同様の考えを応用し,無次元化した破壊レベルで整理 すると,非線形系のパラメータによらずに初通過破壊確 率を推定することができることを示した.
2. 力学モデルおよび運動方程式
図1(a)に塑性変形を考慮した履歴特性をもつ力学モデル
非線形特性をもつ付加構造物系の初通過破壊確率の推定法
(最大応答を用いた簡易推定法)
Estimation Method for First Excursion Probability of Nonlinear Secondary System (Simplified Estimation Method Using Maximum Response)
青 木 繁 1 )
Shigeru AOKI
1)Abstract : The important secondary systems such as pipings, tanks and other mechanical equipment installed in the primary systems
such as building should be designed so as to maintain their function even if they are subjected to destructive earthquake excitations..
Estimation of reliability of the secondary system subjected to earthquake excitations is important problem for aseismic design.
Reliability of such system should be evaluated in probabilistic manner. First excursion failure is one of the most important failure modes of structures and one of a factor of reliability. Many secondary structures have nonlinear characteristics. Hysteresis loop characteristic caused by plastic deformation is one of the most common nonlinear characteristics observed in many systems.The collision and friction characteristics, which are seen in mechanical supports and joints, are other common nonlinear characteristics. In this paper, an estimation method for the first excursion probability of structure with hysteresis loop characteristic, collision characteristic and friction characteristic is proposed. The first excursion probability is the function of many parameters. First excursion probability is obtained by using artificial time histories. It is shown that when the tolerance level is normalized by the expected values of the maximum response of the secondary system, the first excursion probability can be shown independent of many parameters.
Key Words : Reliability, Secondary System, Random Vibration, Hysteresis Loop, Collision, Friction, Maximum Response
1)
東京都立産業技術高等専門学校 ものづくり工学科 機械システム工学コースを示す.図中のmは質量,cは減衰係数
,
kはばね定数,xは 絶対変位を表す.添字sは付加構造物系,pは主構造物系 を表す.yは地表面の絶対変位を表す.付加構造物系のば ねが履歴復元力特性をもつものとした.この復元力をfと すると運動方程式は,
y f z z
z z
z y f z z
s s s p p p p p p
p s
s s s
2 2
2
2
(1)
ここで,
c/ 2
mk
は減衰比, k/
m
は固有円振
/
m
は固有円振動数,
ms/
mp
は付加構造物系と主構造物系の質量比 を表す.図
1(b)
に本報告で用いた履歴特性を示す.図のようなbilinear
履歴復元力特性を用いた.図中の
は降伏後剛性と降伏前剛性の比,Zeは降伏変位を表す.この場合,式
(1)
のfは次式で与えられる.
0 , :
0 , :
:
2 2 2
s e s s s
s e s s s
e e
s s
z Z z z
z Z z z
Z z Z z
f
(2)
ここで,
は永久変位を表す.図
2(a)
に衝突を考慮した場合の力学モデルを示す.図中 のkgは被衝突物のばね定数,dはギャップ幅を示す.運動方程式は式
(1)
と同じである.図2(b)
に衝突を考慮した場 合の復元力を示す.図中のbは被衝突物のばね定数と付加 構造物系のばね定数の比を表す.この場合,式(1)
のfは次 式で表される.
d z d z b d
d z d z
d z d z b d f
s s
s s
s s
s
s s
s s
: 1
:
: 1
2 2 2
2 2
(3)
図
3(a)
に摩擦を考慮した場合の力学モデルを示す.付加 構造物系と主構造物系の間に摩擦があるものとする.こ の場合のfは次式で表される.
s r s s
s z
f z z
f
2(4)
図
3(b)
に本報告で用いた摩擦特性を示す.図のようなクー ロン摩擦を用いて,静止摩擦と動摩擦の区別はしなかっ た.3. 入力地震動
設計用応答スペクトルが耐震設計に用いられているこ とから,入力地震動として応答スペクトルに適合する模 擬地震動を用いた.図
4
に本報告で用いた5%
減衰比に対(a)
力学モデル(b)Bilinear
履歴復元力特性図1 履歴特性をもつ付加構造物系
(a)
力学モデル(b)Bilinear
復元力特性 図2 衝突特性をもつ付加構造物系1
s2 f
zs 1
s2
Ze f e
1 e2
Z
-Z
s s
kp ms
xs
cp cs mp
xp
y
mp
ms d d
y xp
cs
x s
cp kg kg
kp ks s2(b+1)
f
zs 1
s2 -d 1
d
1 eq2
Zs -Zs
する目標応答スペクトル
[12]
を示す.地震動は非定常不規 則振動であることから,図5
に本報告で用いた非定常包絡 関数[13]
を示す.100
波の模擬地震動を作成し,パワース ペクトル密度の平均値を次式の多治見モデル[14]
にあて はめた.
2 2
2
2 04 2
2
2
GG
g g g
g g g
(5)
ここで,
gは地盤の減衰比,
gは地盤の卓越円振動数,G0は基盤への入力が定常白色雑音であるとしたときのパ ワ ー ス ペ ク ト ル 密 度 を 表 す . そ の 結 果 ,
g=0.5
,Tg
(2/
g)=0.285s
,G0=1.94x10
-3(1/s)
となった[6]
.基盤の絶対変位をygとすると,基盤に対する地表面の
相対変位zg
=(y-y
g)
に関する運動方程式は,
g g
g g g g g g g
y z t I y
y z z z
) (
2
2(6)
ここで,I(t)は包絡関数を表す.
4. 等価線形化
式
(1)
の fを次式のように等価線形化した.f
2
eq
eqzm
eq2zm(7)
ここで
eqおよび
eqはそれぞれ等価減衰比および等価固有 円振動数を表す.
eqおよび
eqは主要動が比較的長いこと から,定常確率過程論に基づいて近似的に求めた.以下 にそれぞれの非線形特性に対する式を示す.Bilinear
履歴復元力特性に対して
0 2 0
02 2 2
2
0 2 0
1 exp
1 1 2 2
y erfc y y
y erfc y
s s
s eq
s eq s
eq
(8)
ここで,erfcu
0u
y dyexp
21 2 )
(
衝突特性に対して,
1 2 1 1
2 2
2
exp
0 2
erfc b
b s s
s eq
eq
eq
(9)
ここで,
2
zs/
d 摩擦特性に対して,(a)
力学モデル(b)
クーロン摩擦特性 図3 摩擦特性をもつ付加構造物系図2
5%
減衰比に対する目標応答スペクトル図5 包絡関数
mp
ms fr fr
y xp
cs
x s ks
cp kp
f
zs fr
5
1 0.5
0.05 0.1 0.5 1 5
Natural Period(s)
S
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1
0 10 20 30 40 50
t(s)
I(t) A B
C 0A:I(t)=t2/16
D AB:I(t)=1.0
BC:I(t)=exp{-0.0924(t-15)}
CD:I(t)=0.05+0.0005(50-t)2
2 2
2 2 2
s eq
z s eq r eq
s
f
(10)
ここで,
zs は付加構造物系の主構造物系に対する相対 変位の標準偏差を表す.5. 初通過破壊確率の計算法
主構造物系に対する付加構造物系の相対変位
z
sの絶対値 が最初に破壊レベルBDを超過した瞬間に破壊が起こると する.初通過破壊確率はポアソン過程を考慮すると,次 式から求めることができる[13]
.
tf t tdt
P
( ) 1 exp 2
0
(11)
zsの確率密度関数が正規分布であると仮定すると,式(11)
の (t)
は次式で与えられる[14]
.
C B erf
B D
D B
t D
s s
s s
s s s s
z D z
z z D
z z z D z
2 1 2 exp
2 1 2 exp
1
2 2 2
2 2
2 2
(12)
ここで,
u
z z z z z
D z z
dy y u
erf D D
B
C k s s ss
s s s
0 2
2 2 2 2
2 exp ) (
, 2 ,
2 および
はそれぞれ添字で示される分散と共分散を表 す.式
(11)
および式(12)
から,zsおよびzsに関する分散およ び両者の共分散がわかれば初通過破壊確率を求めること ができる.これらの値は式(1)
,式(6)
および式(7)
より得ら れるモーメント方程式[6]
から求めた.モーメント方程式 は21
元連立1階常微分方程式となる.6. パラメータの表し方
付加構造物系の応答は付加構造物系と主構造物系の質 量比
,両構造物系の減衰比
s,
pや固有周期Ts(2/
s)
, Tp(2/
p)
のような多くのパラメータの影響を受ける.こ こでは,付加構造物系の質量が主構造物系の質量と比較 して十分に小さい場合を対象とし, =0
とした.固有周期 に関しては,付加構造物系の応答が最も大きくなる両構 造物系の固有周期が一致する条件とした.減衰比につい ては代表値として付加構造物系に対しては
s=0.01,主構 造物系に対しては
p=0.05
とした.初通過破壊確率Pfは式(11)
のように時間の関数となる.重要度の高い付加構造物系は地震動終了後もその機能を維持している必要がある ことから,地震動終了後の初通過破壊確率を求めた.
構造物の耐震設計では非線形特性のない弾性系の最大 応答が用いられることが多い.非線形特性がない付加構 造物系の最大応答は主構造物系に対する増幅係数
[17]
ある いはモード解析[18]
によって得られる.破壊レベルBDは非 線形特性がない付加構造物系の最大変位zs max
z を用いて
次式のように無次元化した.
s max D tB /z
(13)
s max
z は次式で求まる.
s2 pmax
s max Rx /
z
(14)
ここで,Rは非線形特性がない付加構造物系と主構造物系 の最大応答の比,pmax
x
は主構造物系の最大加速度を表 し,図
4
のSと入力地震動の最大値の積で与えられる.Bilinear
履歴復元力特性に対して,降伏力Zeは次式のように無次元化した.
Ze/zsmax(15)
衝突特性に対して,ギャップ幅dは次式のように無次元 化した.d* d/zsmax
(16)
摩擦特性に対しては,付加構造物系は xp frの条件が 満たされるまで主構造物系に対して動かないことからfrは 次式のように無次元化した.
fr/xpmax(17)
7. 計算結果
式
(13)
のように破壊レベルを無次元化すると固有周期に よる初通過破壊確率の変動が小さくなることから[7]-[9]
, 代表としてTs=T
p=0.3s
の場合の結果を示す.Bilinear
履歴復元力特性を考慮した場合として,図6(a)
および
(b)
にそれぞれ降伏後剛性と降伏前剛性の比である
が0
および0.5
の場合の初通過破壊確率を示す.降伏変位 を表す
が小さくなるほど初通過破壊確率が小さくなる.また,
が小さいほど初通過破壊確率が小さくなる.衝突特性を考慮した場合として,図7
(a)
および(b)
にそ れぞれ被衝突物の剛性と付加構造物系の剛性の比 b を5
としてギャップ幅を表すd*を変えた場合およびd*=0.8として b を変えた場合の初通過破壊確率を示す.d*が小さ いほど,bが大きいほど初通過破壊確率が小さくなる.
摩擦特性を考慮した場合として,図8に摩擦力に相当 する
を変えた場合の初通過破壊確率を示す.
が小さい ほど初通過破壊確率が小さくなる.
8. 非線形系の最大応答を用いた計算結果
非線形特性をもつ付加構造物系の最大応答の推定法
[10]
[11]
も提案されている.そこで,非線形特性をもつ付加構 造物系の最大応答を用いた初通過破壊確率の推定法を提 案する.破壊レベルを非線形特性をもつ付加構造物系の 最大応答 zscmaxで次式のように無次元化する.scmax
* D t B /z
(18)
ここで,図6
から図8
で初通過破壊確率Pfが0.5
となる ときの破壊レベルが非線形特性をもつ付加構造物系の最 大応答の平均値と考えられることから.このときの破壊 レベルを zscmaxとして用いる.Bilinear
履歴復元力特性を考慮した場合として,図9(a)
および
(b)
にそれぞれ =1.0
として
を変えた場合および =0
として
を変えた場合の結果を示す.
および
による 初通過破壊確率の変動が非常に小さくなっている.(a) =0 (b)b=0.5
図6 履歴特性をもつ付加構造物系の初通過破壊確率
( =0,
s=0.01,
p=0.05, T
s=T
p=0.3s)
(a)b=5
(b)d*=0.8
図7 衝突特性をもつ付加構造物系の初通過破壊確率
( =0,
s=0.01,
p=0.05, T
s=T
p=0.3s)
図8 摩擦特性をもつ付加構造物系の初通過破壊確率
( =0,
s=0.01,
p=0.05, T
s=T
p=0.3s)
0 20 40 60 80 100
0.5 1.0 1.5 2.0
P
f(%)
t
0 20 40 60 80 100
0.5 1.0 1.5 2.0
Pf(%)
t
0 20 40 60 80 100
0.2 0.6 1.0 1.4 1.8 2.2
t
Pf(%)
d*=0.2 d*=0.4 d*=0.6 d*=0.8
0 20 40 60 80 100
0.8 1.2 1.6 2.0
t
Pf(%)
b=2 b=5 b=10 b=20 b=30 b=40
0 20 40 60 80 100
0.8 1.2 1.6 2 2.4 2.8
tP
f(% )
衝突特性を考慮した場合として,図
10(a)
および(b)
にそ れぞれb=5としてd*を変えた場合および d*=0.8としてb を変えた場合の初通過破壊確率を示す.bおよび d*によ る初通過破壊確率の変動が非常に小さくなっている.摩擦特性を考慮した場合として,図
11
に
を変えた場 合の初通過破壊確率を示す.
による初通過破壊確率の変 動が非常に小さくなっている.9. 結言
産業施設内の建物などの主構造物系に設置されている 重要度の高い機器・配管などの付加構造物系が履歴特性,
衝突特性および摩擦特性のような非線形特性をもつ場合 の初通過破壊確率を求める方法を示した.破壊レベルを 非線形特性をもつ付加構造物系の最大応答で無次元化す ると,初通過破壊確率が非線形特性を表すパラメータに よらずに推定することができることが明らかになった.
10. 参考文献
[1] Ang, A.H-S.
:Perspectives on Reliability-Based Engineering, Proceedings of the Third Asian- Pacific Simposium on Structural Reliability and Its Applications, pp.3-27, 2004.
[2] Jalali,S.A, and Banazadeh,M.
:Development of a new deteriorating hysteresis model for seismic (a)a=1.0 (b) =0
図9 式
(18)
を用いた場合の履歴特性をもつ付加構造物系の初通過破壊確率( =0,
s=0.01,
p=0.05, T
s=T
p=0.3s)
図11 式
(18)
を用いた場合の摩擦特性をもつ付加 構造物系の初通過破壊確率( =0,
s=0.01,
p=0.05, T
s=T
p=0.3s)
(a)b=5
(b)d*=0.8
図10 式
(18)
を用いた場合の衝突特性をもつ付加構造物系の初通過破壊確率( =0,
s=0.01,
p=0.05, T
s=T
p=0.3s) 0
20 40 60 80 100
0.5 0.7 0.9 1.1 1.3 1.5
t*P
f(% )
0 20 40 60 80 100
0.5 0.7 0.9 1.1 1.3 1.5
t*P
f(% )
0 20 40 60 80 100
0.6 0.8 1.0 1.2 1.4 1.6 1.8
t*
P
f(% )
d*=0.2 d*=0.4 d*=0.6 d*=0.8
0 20 40 60 80 100
0.6 0.8 1.0 1.2 1.4 1.6 1.8
t*
P
f(%)
b=2 b=5 b=10 b=20 b=30 b=40
0 20 40 60 80 100
0.4 0.8 1.2 1.6 2.0
t*