2019 年度修士論文
現代公共建築におけるシンボル性獲得手法に 関する研究および設計提案
首都大学東京大学院 都市環境科学研究科 建築学域 指導教員 小泉 雅生
18852519 北山勝哉
目次
論文要旨 02 第1章 背景と目的 05
第2章 建築におけるシンボリズム 07 2−1 建築のシンボル性に関する諸言説
2−2 建築におけるシンボリズムの定義
第3章 事例抽出 14 3−1 事例抽出の方法
3−2 事例抽出
第4章 事例分類 17 4−1 象徴の目的の分類
4−2 操作部分の分類 4−3 設計手法の分類
第5章 分類相互の関係性分析 24 5−1 象徴の目的と操作部分の関係性
5−2 象徴の目的と設計手法の関係性 5−3 操作部分と設計手法の関係性
5−4 小結 - 象徴の目的から見る分類相互の関係性
第6章 設計提案 43 6−1 分類相互の関係性モデルからシンボル性獲得手法への変換 6−2 象徴の目的に対応するコンセプトモデル
6−3 設計提案 - 市庁舎を対象として
第7章 結 - 現代におけるシンボリズムについての提言 61 参考文献 63 謝辞 65 付表 梗概
現代公共建築におけるシンボル性獲得手法に関する研究および設計提案 目次
論文要旨
建築のシンボリズムは古くから語られており、その地 域やコンテクストを代表する代名詞となり得る力がある ことが広く知られている。しかし現代では「ハコモノ建築」
と揶揄されることを危惧し、力強い建築表現とすること を避けることも少なくない一方で、公共建築においては シンボルや象徴に対して説明が求められる機会が多い。
そこで、現代建築においてシンボル性を持たせることを 意図している事例を抽出し、その事例を目的・操作部分・
設計手法の観点から分析することで、今後の公共建築に おけるシンボル性獲得に適した手法を考察、提案するこ とを目的とする。
第1章は上述した背景と目的に加え、歴史的に見られ る建築のシンボリズムや現代公共建築の設計プロポーザ ルの募集要項やコンセプトに見られるシンボル性に関わ るテキスト類を参照することで、建築的シンボルの必要 性について論じた。
第2章ではまず、建築のシンボリズムに関する諸言説 について整理した。磯崎新による「大文字の建築」や、
黒川紀章による「アブストラクト・シンボリズム」など、
これまでのシンボリズムに用いられてきた建築言語を取 り上げ、建築におけるシンボリズムの流れについて概観 するとともに、その実例と効果を確認した。次にこれら を参考に、建築で用いられる (a) 記号 (sign) と (b) 表象 (representation)、(c) 象徴 (symbol) の 3 つの類語の整理を 行った。これにより本研究で扱う (c) 象徴 (symbol) を、
(a) 記号 (sign) と (b) 表象 (representation) を包含する概念 として「抽象的な思想・観念・事物などを、具体的な事 物によって物理的あるいは心理的に理解しやすい形で表 すこと。」と定義した。
第 3 章では具体的な事例抽出を行った。2000 年以降の 建築雑誌(新建築、a+u など)に絞って事例を抽出し、現 代建築家のシンボリズムに対する意識を調査し考察した。
「シンボル」や「象徴」などについて言及しているものを 対象とし、言説に基づいて調査を行った。また前後の文 脈から類推し、「ランドマーク」や「アイストップ」、「独 特な外観」といった表現でもシンボル性獲得に積極的で あると考えられるテキストとして抽出した。
第 4 章では抽出した事例を「象徴の目的」「操作部分」「設 計手法」の異なる3つの尺度により分類した。まず 4-1.
においては、「象徴の目的」として、何を象徴することを 目的としているかを軸に分類し、結果としては①建築空 間の独自性、②敷地コンテクスト性、③商業的アイコン性、
④内部機能の表出、⑤都市的ランドマーク性、という5種 を得た。次に 4-2. においては、「操作部分」として象徴性 を持たせるために建築のどの部分に操作を行ったかを軸 に分類した。結果として、「全体構成」や「屋根」「壁面」
など合計 9 種に分類し、その傾向を明らかにした。最後 に 4-3. においては、「設計手法」として象徴性を持たせる ために具体的にどのような操作を行ったかを軸に分類し、
「スケールの拡大」や「幾何学形態の挿入」「色彩の差異」
など、合計 28 種に分類しその傾向を示した。
第 5 章では分類相互の関係性を考察した。ここでは 5-1. 象徴の目的と操作部分の関係性、5-2. 象徴の目的と 設計手法の関係性、5-3. 操作部分と設計手法の関係性、 の3パターンの関係性について分析を行った。これにより、 象徴の目的・操作部分・設計手法のそれぞれの分類に対 して、相互に関連性の高い分類を把握することができた。 また 5-4. においては象徴の目的を主軸として分類相互の 関係性を分析することで、象徴の目的と操作部分と設計 手法に一貫する関係性を見出した。これらを通じて現代 建築におけるシンボル性獲得手法の一端を明らかにする ことができた。
第 6 章では前章の分類相互の関係性モデルを整理し、 象徴の目的に対応するシンボル性獲得のための設計手法 を考察した。①〜⑤の象徴の目的に対応するコンセプトモ デル 5 種を作成し、その後にそれらを結合させるような 形で、具体的なプログラムに基づく市庁舎の設計提案を 行った。これによりシンボル性を強く意図した公共建築 について、その効果を提示した。
最後に第 7 章ではここまでの分析と設計提案から、現 代公共建築におけるシンボリズムに対する啓発や、今後 の建築におけるシンボリズムの必要性とその扱い方に関 する課題などを総括と提言として示した。
現代公共建築におけるシンボル性獲得手法に関する研究および設計提案 論文要旨
建築のシンボリズムは古くから語られており、その地 域やコンテクストを代表する代名詞となり得る力がある ことが広く知られている。しかし現代では「ハコモノ建築」
と揶揄されることを危惧し、力強い建築表現とすること を避けることも少なくない一方で、公共建築においては シンボルや象徴に対して説明が求められる機会が多い。
そこで、現代建築においてシンボル性を持たせることを 意図している事例を抽出し、その事例を目的・操作部分・
設計手法の観点から分析することで、今後の公共建築に おけるシンボル性獲得に適した手法を考察、提案するこ とを目的とする。
第1章は上述した背景と目的に加え、歴史的に見られ る建築のシンボリズムや現代公共建築の設計プロポーザ ルの募集要項やコンセプトに見られるシンボル性に関わ るテキスト類を参照することで、建築的シンボルの必要 性について論じた。
第2章ではまず、建築のシンボリズムに関する諸言説 について整理した。磯崎新による「大文字の建築」や、
黒川紀章による「アブストラクト・シンボリズム」など、
これまでのシンボリズムに用いられてきた建築言語を取 り上げ、建築におけるシンボリズムの流れについて概観 するとともに、その実例と効果を確認した。次にこれら を参考に、建築で用いられる (a) 記号 (sign) と (b) 表象 (representation)、(c) 象徴 (symbol) の 3 つの類語の整理を 行った。これにより本研究で扱う (c) 象徴 (symbol) を、
(a) 記号 (sign) と (b) 表象 (representation) を包含する概念 として「抽象的な思想・観念・事物などを、具体的な事 物によって物理的あるいは心理的に理解しやすい形で表 すこと。」と定義した。
第 3 章では具体的な事例抽出を行った。2000 年以降の 建築雑誌(新建築、a+u など)に絞って事例を抽出し、現 代建築家のシンボリズムに対する意識を調査し考察した。
「シンボル」や「象徴」などについて言及しているものを 対象とし、言説に基づいて調査を行った。また前後の文 脈から類推し、「ランドマーク」や「アイストップ」、「独 特な外観」といった表現でもシンボル性獲得に積極的で あると考えられるテキストとして抽出した。
第 4 章では抽出した事例を「象徴の目的」「操作部分」「設 計手法」の異なる3つの尺度により分類した。まず 4-1.
においては、「象徴の目的」として、何を象徴することを 目的としているかを軸に分類し、結果としては①建築空 間の独自性、②敷地コンテクスト性、③商業的アイコン性、
④内部機能の表出、⑤都市的ランドマーク性、という5種 を得た。次に 4-2. においては、「操作部分」として象徴性 を持たせるために建築のどの部分に操作を行ったかを軸 に分類した。結果として、「全体構成」や「屋根」「壁面」
など合計 9 種に分類し、その傾向を明らかにした。最後 に 4-3. においては、「設計手法」として象徴性を持たせる ために具体的にどのような操作を行ったかを軸に分類し、
「スケールの拡大」や「幾何学形態の挿入」「色彩の差異」
など、合計 28 種に分類しその傾向を示した。
第 5 章では分類相互の関係性を考察した。ここでは 5-1. 象徴の目的と操作部分の関係性、5-2. 象徴の目的と 設計手法の関係性、5-3. 操作部分と設計手法の関係性、
の3パターンの関係性について分析を行った。これにより、
象徴の目的・操作部分・設計手法のそれぞれの分類に対 して、相互に関連性の高い分類を把握することができた。
また 5-4. においては象徴の目的を主軸として分類相互の 関係性を分析することで、象徴の目的と操作部分と設計 手法に一貫する関係性を見出した。これらを通じて現代 建築におけるシンボル性獲得手法の一端を明らかにする ことができた。
第 6 章では前章の分類相互の関係性モデルを整理し、
象徴の目的に対応するシンボル性獲得のための設計手法 を考察した。①〜⑤の象徴の目的に対応するコンセプトモ デル 5 種を作成し、その後にそれらを結合させるような 形で、具体的なプログラムに基づく市庁舎の設計提案を 行った。これによりシンボル性を強く意図した公共建築 について、その効果を提示した。
最後に第 7 章ではここまでの分析と設計提案から、現 代公共建築におけるシンボリズムに対する啓発や、今後 の建築におけるシンボリズムの必要性とその扱い方に関 する課題などを総括と提言として示した。
現代公共建築におけるシンボル性獲得手法に関する研究および設計提案 論文要旨
建築のシンボリズムは古くから語られており、その地 域やコンテクストを代表する代名詞となり得る力がある ことが広く知られている。しかし現代では「ハコモノ建築」
と揶揄されることを危惧し、力強い建築表現とすること を避けることも少なくない一方で、公共建築においては シンボルや象徴に対して説明が求められる機会が多い。
そこで、現代建築においてシンボル性を持たせることを 意図している事例を抽出し、その事例を目的・操作部分・
設計手法の観点から分析することで、今後の公共建築に おけるシンボル性獲得に適した手法を考察、提案するこ とを目的とする。
第1章は上述した背景と目的に加え、歴史的に見られ る建築のシンボリズムや現代公共建築の設計プロポーザ ルの募集要項やコンセプトに見られるシンボル性に関わ るテキスト類を参照することで、建築的シンボルの必要 性について論じた。
第2章ではまず、建築のシンボリズムに関する諸言説 について整理した。磯崎新による「大文字の建築」や、
黒川紀章による「アブストラクト・シンボリズム」など、
これまでのシンボリズムに用いられてきた建築言語を取 り上げ、建築におけるシンボリズムの流れについて概観 するとともに、その実例と効果を確認した。次にこれら を参考に、建築で用いられる (a) 記号 (sign) と (b) 表象 (representation)、(c) 象徴 (symbol) の 3 つの類語の整理を 行った。これにより本研究で扱う (c) 象徴 (symbol) を、
(a) 記号 (sign) と (b) 表象 (representation) を包含する概念 として「抽象的な思想・観念・事物などを、具体的な事 物によって物理的あるいは心理的に理解しやすい形で表 すこと。」と定義した。
第 3 章では具体的な事例抽出を行った。2000 年以降の 建築雑誌(新建築、a+u など)に絞って事例を抽出し、現 代建築家のシンボリズムに対する意識を調査し考察した。
「シンボル」や「象徴」などについて言及しているものを 対象とし、言説に基づいて調査を行った。また前後の文 脈から類推し、「ランドマーク」や「アイストップ」、「独 特な外観」といった表現でもシンボル性獲得に積極的で あると考えられるテキストとして抽出した。
第 4 章では抽出した事例を「象徴の目的」「操作部分」「設 計手法」の異なる3つの尺度により分類した。まず 4-1.
においては、「象徴の目的」として、何を象徴することを 目的としているかを軸に分類し、結果としては①建築空 間の独自性、②敷地コンテクスト性、③商業的アイコン性、
④内部機能の表出、⑤都市的ランドマーク性、という5種 を得た。次に 4-2. においては、「操作部分」として象徴性 を持たせるために建築のどの部分に操作を行ったかを軸 に分類した。結果として、「全体構成」や「屋根」「壁面」
など合計 9 種に分類し、その傾向を明らかにした。最後 に 4-3. においては、「設計手法」として象徴性を持たせる ために具体的にどのような操作を行ったかを軸に分類し、
「スケールの拡大」や「幾何学形態の挿入」「色彩の差異」
など、合計 28 種に分類しその傾向を示した。
第 5 章では分類相互の関係性を考察した。ここでは 5-1. 象徴の目的と操作部分の関係性、5-2. 象徴の目的と 設計手法の関係性、5-3. 操作部分と設計手法の関係性、
の3パターンの関係性について分析を行った。これにより、
象徴の目的・操作部分・設計手法のそれぞれの分類に対 して、相互に関連性の高い分類を把握することができた。
また 5-4. においては象徴の目的を主軸として分類相互の 関係性を分析することで、象徴の目的と操作部分と設計 手法に一貫する関係性を見出した。これらを通じて現代 建築におけるシンボル性獲得手法の一端を明らかにする ことができた。
第 6 章では前章の分類相互の関係性モデルを整理し、
象徴の目的に対応するシンボル性獲得のための設計手法 を考察した。①〜⑤の象徴の目的に対応するコンセプトモ デル 5 種を作成し、その後にそれらを結合させるような 形で、具体的なプログラムに基づく市庁舎の設計提案を 行った。これによりシンボル性を強く意図した公共建築 について、その効果を提示した。
最後に第 7 章ではここまでの分析と設計提案から、現 代公共建築におけるシンボリズムに対する啓発や、今後 の建築におけるシンボリズムの必要性とその扱い方に関 する課題などを総括と提言として示した。
現代公共建築におけるシンボル性獲得手法に関する研究および設計提案 論文要旨
第1章 背景と目的 01
現代公共建築におけるシンボル性獲得手法に関する研究および設計提案 第1章 背景と目的
建築のシンボリズムについては古くから語られており、
建築にはその地域やコンテクストを代表する代名詞とな り得る力があることが広く知られている。しかし現代で は「ハコモノ建築」と揶揄されることを危惧し、力強い 建築表現とすることを避けることも少なくない一方で、
公共建築においてはシンボルや象徴に対して説明が求め られる機会が多い。現代の建築設計を行う際においても、
プロポーザルの募集要項に「地域のシンボルとなるよう な」「地域を象徴する」などが記載されていることからも 現代建築もシンボル性が求められていることは自明であ ろう。
そこで現代建築の中でもシンボル性を持たせることが 意図されている事例を抽出し、その設計手法の観点から 分析することで、今後の公共建築におけるシンボリズム 獲得に適した手法を考察、提案することを目的とする。
第1章 背景と目的
現代公共建築におけるシンボル性獲得手法に関する研究および設計提案 第1章 背景と目的
第2章 建築におけるシンボリズム 02
2−1 建築のシンボル性に関する諸言説 2−2 建築におけるシンボリズムの定義
現代公共建築におけるシンボル性獲得手法に関する研究および設計提案 第2章 建築におけるシンボリズム
第2章 建築におけるシンボリズム
2−1 建築のシンボル性に関する諸言説
①磯崎新「大文字の建築」
磯崎によれば、日本は西洋に比べて近代都市としての 歴史が浅いため、日本の都市空間には理念化された文脈 が見つからず完全に無秩序状態であると述べている。こ の無秩序空間に新しい建築を投入する場合には、最初か ら都市空間との連続状態を放棄していなければならず、
ひとつのシンボリズムを閉鎖系として成立させるような 建築をつくることこそが有効であるとして「大文字の建 築」を提唱した。
この概念は彼の実作である神岡町役場に顕著に現れて いる。通常では壁、床、柱、屋根、塀などと呼ばれる建 築学的形態言語を手懸かりとして、必要とされる諸室を 構成するという方法が取られるが、この作品においては、
まず立体的な形態を自立させ、それが存在化する過程に 介入しながら、先験的な構成概念をたよりに、具体的な 用途(内容)と適合する形状に調整した。
このような、建築に対して機能より先に形態を与え、
その後に機能を与えるという方法は、50 年代の伝統主義 や 70 年代の地方主義に代表される、建築家の提出する形 態言語を受け手側との共通の了解の上に成り立たせよう とする意図(イデオロギー)とは全く異なるフォルマリ ズムとして、その後の建築業界に多大な影響を与えたと 言える。
現代公共建築におけるシンボル性獲得手法に関する研究および設計提案 第2章 建築におけるシンボリズム
②黒川紀章「アブストラクト・シンボリズム」
黒川は実態の構造と関係の構造とを組み合わせて、よ り複雑な総体を表現する一つの方法としてアブストラク ト・シンボリズムを提唱した。これは幾何学構造を人類 共通の形態言語と考え、その構造にねじれやゆらぎを与 えて、その意味の拡大(曖昧性の導入)を計るものである。
このアブストラクト・シンボリズムによる設計手法に は大きくふたつのアプローチがあるとしている。ひとつ は抽象的な幾何学形態を用いながら、それら相互の関係 を操作し、変化させ、ずらすことによって、全く異なる 意味や物語性を生み出すことである。もうひとつは、前 者とは全く逆の概念として、歴史的象徴の断片化がある。
これは屋根の形態や構造体のプロポーション、ファサー ド、開口のディテールなど、歴史に裏付けされた慣習的 な形態を断片的に抽象化して扱うことである。
そしてこのふたつのアプローチを同時に扱うことによ り、それまでは二項対立的に考えられていた幾何学形態 による形態と歴史的な形態を共存させて扱い、グローバ リズムに対応しようとしたものと言える。
現代公共建築におけるシンボル性獲得手法に関する研究および設計提案 第2章 建築におけるシンボリズム
③レム・コールハース「ビッグネス」
コールハースは自身の著書『S,M,L,XL』において「ビッ グネス、または大きいことの問題」としてある一定のス ケールを上回った建築は「巨大さ」という属性が付与され、
支配すると論じている。
彼によると、ある臨界量を超えると、単に大きいとい うだけで、建物は善悪を超えた、道徳と無関係の領域に 入るとしている。こうしてスケール、建築構成、伝統、
透明性、倫理性から一挙に離脱するということは、都市 からの究極の、根本的な決別を意味する。そこに存在は する。せいぜいのところ、共存する。だが本当は、まわ りの状況(コンテクスト)なんか糞食らえ、と言っている。
さらに、ビッグネスはもはや都市を必要とせず、むし ろ都市と競合しあい、都市を表象する。都市をつくりだ すものであり、むしろそれ自体が都市であるとしている。
このような考えはコンテクチュアリズムから独立し、
建築自らを存在理由、新たなコンテクストとして認めさ せることに等しいと考えられる。またこのことは、建築 をあたかも当たり前のようにそこに存在させるという観 点において、形態操作を超越したある種の意味的シンボ リズムなのではないだろうか。
現代公共建築におけるシンボル性獲得手法に関する研究および設計提案 第2章 建築におけるシンボリズム
④奥山信一「風景の構築とシンボリズム」
奥山は「風景の構築とシンボリズム」として「南飛騨・
健康学習センター」の設計に際して、周辺環境との調和 とシンボル性の両立を図ったシンボルについて述べてい る。ここでは「空間の経験としてのシンボリズム」と「か たちの相貌としてのシンボリズム」のふたつを両立させ ることにより要求される条件に答えている。
まず「空間の経験としてのシンボリズム」では、一般 にシンボルと言われて想起する、周囲から際立つ視覚優 先のシンボルとは異なり、敷地条件にあわせて分節され た建築ボリュームを連鎖的に繋げることで、視覚のみで はなく、五感レベルでのシンボリズムを生じさせること を試みた。
次に「かたちの相貌としてのシンボリズム」では、ひ とつの形とひとつの意味が直結する単純なシンボリズム とは異なり、複数の形態(ボリューム)に対して複数の 意味を持たせ、それらを滑らかに結合させた。これにより、
ある種、非調和的とも言えるアイコン的シンボリズムか ら脱した、調和的シンボリズムを生じさせることを試み た。
これはシンボリズムを単なる比喩の形式とせず、空間 体験や流動的な意味性の形式として捉えて構成すること で、コンテクスチュアリズムとシンボリズムの共存を図っ たものであると考えられる。
現代公共建築におけるシンボル性獲得手法に関する研究および設計提案 第2章 建築におけるシンボリズム
具体的なシンボリズムの定義は画一ではなく、曖昧で ある。そこで、ここでは前節の言説を踏まえ、建築にお けるシンボリズムを扱う上での定義を、類語を整理した 上で行う。そこで、ここからは (a) 記号 (sign) と (b) 表象 (representation)、(c) 象徴 (symbol) に着目する。
(a) 記号 (sign): 一定の事象や内容を指し示すはたらきをも つ知覚可能な対象。この中でも、多義的・間接的である(規 則性が緩やかである)ものを「象徴」と呼ぶ分類も存在 する。
(b) 表象 (representation)
感覚の複合体として心に思い浮かべられる外的対象の像 であり、知覚内容・記憶像など心に生起するもの。
(c) 象徴 (Symbol)
直接的に知覚できない概念・意味・価値などを、それを 連想させる具体的事物や感覚的形象によって間接的に表 現すること。直接的に表しにくい観念や内容を想像力を 媒介にして暗示的に表現する手法。
2−2 建築におけるシンボリズムの定義
現代公共建築におけるシンボル性獲得手法に関する研究および設計提案 第2章 建築におけるシンボリズム
前項の 3 つの類語から考えると、象徴 (Symbol) が最も 広義的であり、その物理的側面が記号 (sign) であり、心理 的側面が表象 (representation) であると考えられる。(図 1)
このことから本研究で扱う象徴 (symbol) については「抽 象的な思想・観念・事物などを、具体的な事物によって 物理的あるいは心理的に理解しやすい形で表すこと。」と 定義する。
象徴(Symbol) 記号(Sign)
物理的側面 心理的側面
表象(Representaion)
図 1. 象徴 (Symbol) の定義
現代公共建築におけるシンボル性獲得手法に関する研究および設計提案 第2章 建築におけるシンボリズム
第 3 章 事例抽出 03
3−1 事例抽出の方法 3−2 事例抽出
現代公共建築におけるシンボル性獲得手法に関する研究および設計提案 第 3 章 事例抽出
事例は 2000 年以降の建築雑誌(新建築・a+u・ja など)
に掲載されている作品から抽出する。これは、2000 年以 降の建築とすることで現代建築家のシンボリズムに対す る意識を調査し考察することが目的である。
特に「シンボル」「象徴」などについて言及しているも のは、そのテキストを抜き出した上で分析を行う。また この際、「シンボル」「象徴」などのテキストを用いてい なくても前後の文脈から類推し、「独特な外観」や「ラン ドマーク」「アイストップ」なども含めて抽出する。この ように言説に基づいて調査することで、意識的にシンボ ル性を獲得するための手法について知見を得られると考 える
第 3 章 事例抽出
3−1 事例抽出の方法
現代公共建築におけるシンボル性獲得手法に関する研究および設計提案 第 3 章 事例抽出
前項の手法によりシンボル性を獲得することに意識的 な事例を抽出した。これによって 211 事例を抽出するこ とができた。(付表 1)
次章よりこれらの事例について手法を類型化して分析を 行う。
3−2 事例抽出
現代公共建築におけるシンボル性獲得手法に関する研究および設計提案 第 3 章 事例抽出
第 4 章 事例分類 04
4−1 象徴の目的の分類 4−2 操作部分の分類 4−3 設計手法の分類
現代公共建築におけるシンボル性獲得手法に関する研究および設計提案 第 4 章 事例分類
抽出した事例に対して、何を象徴することを意図して いるか、またどのような目的から象徴性を持たせている か、について分類する。
結果としては①建築空間の独自性②敷地コンテクスト 性③商業的アイコン性④内部機能の表出⑤都市的ランド マーク性の 5 種に分類した。
分類の結果としては①建築の独自性に関するものが最 も多くみられた。このことからシンボル性獲得を意図し た場合は外的な対象によらず、その建築のみの閉じた閉 鎖系で語られる傾向があると考えられる。また最も少な い分類は③商業的アイコン性であった。このことは商業 的外観デザインにおいては建築を説明する際に、ブラン ドコンセプトと建築コンセプトの対応によって語られる ことが多いなど、シンボル性よりも他の要素が重要視さ れていることによるのではないだろうか。
これら分類の内訳と総計については表1に示し、次項 からはそれぞれの分類の定義と、その例について事例を 交えて示す。
第 4 章 事例分類
4−1 象徴の目的の分類
象徴の目的 建築空間の独自性
敷地コンテクスト性 商業的アイコン性
内部機能の表出 都市的ランドマーク性
総計
表 1. 象徴の目的の分類
事例数 ( 重複を含む)
64
39 25 57 52 237
現代公共建築におけるシンボル性獲得手法に関する研究および設計提案 第 4 章 事例分類
①建築空間の独自性:外的な対象に依らず、その建築自 体が特徴的であることが主眼にある分類(例 . 図 2)
②敷地コンテクスト性:建築が敷地やそのエリアのコン テストに基づくことを主眼とした分類(例 . 図 3)
「外観には開口部をほとんど持たず、黒い箱が重なりあっただけの抽象 的なかたちである。家らしくも店らしくもなく、その境目もわからない、
ボリュームだけが街角に現れたような存在を目指した。人の生活がつく りあげたいわゆる住宅街の光景の中にあって、それとは全く違う大きな 営みの中に揺るぎなくある建築であってほしいと思ったからである。」
八街の家 NIIZEKI STUDIO 名称
設計者
テキスト
図 2. 建築空間の独自性の例
「この形は、八幡町のシンボルというべき水を司る月の、満ちる直前の 十二夜の姿を現している。」
郡上八幡スポーツセンター 黒川哲郎 + デザインリーグ 名称
設計者
図 3. 敷地コンテクスト性の独自性の例
現代公共建築におけるシンボル性獲得手法に関する研究および設計提案 第 4 章 事例分類
③商業的アイコン性:ブランディングや広告的な目的で 目立つことを主眼とした分類(例 . 図 4)
④内部機能の表出:その建築の機能やビルディングタイ プに基づいたコンセプトを表現することを主眼とした分 類(例 . 図 5)
「建物前面にオープンスペースを設けた。この部分に大庇をかけること で(中略)店舗としてアイキャッチ性のある造形としている。」
開運堂本店 竹中工務店 名称
設計者
テキスト
図 4. 商業的アイコン性の例
「低く湾曲した屋根はこの施設のあり方を象徴しております。壁面や屋 根、柱、庇などは奥行き感を強調し、覆われ、守られ、支えられるといっ た感じを出すことを考えました。」
犬山市民健康館さら・さくら 内井昭蔵建築設計事務所 名称
設計者
図 5. 内部機能の表出の例
現代公共建築におけるシンボル性獲得手法に関する研究および設計提案 第 4 章 事例分類
⑤都市的ランドマーク性:遠景からの目印や、見る人の 意識に残ることを主眼とした分類(例 . 図 6)
「ステンレス鋼管でできたエントランスゲートは、都市空間と美術館を 結ぶ大事な仕掛けです。エントランスゲートが光を一身に集めた姿は、
ふたつの川両護岸から都市のランドマークとして、市民の記憶に残って いくものと考えています。」
国立国際美術館 シーザー・ペリ 名称
設計者
テキスト
図 6. 都市的ランドマーク性の例
現代公共建築におけるシンボル性獲得手法に関する研究および設計提案 第 4 章 事例分類
ここでは抽出した事例に対して、象徴性を持たせるた めにどの部分に建築的操作をしたかを分類する。操作部 分は 9 種に分類することができた。( 表 2)
結果としては、「全体構成」によってシンボル性を獲得 する意図がうかがえる事例が最も多く見られた。次いで
「壁面」、「屋根」による例が多くなっており、「構造体」や「工 作物」による事例は少数であった。これらのことは、操 作する面積が大きい部分において事例数が多く、面積が 小さくなるにつれ事例数が少ないことを表していると言 え、スケール感との関係性が深いと考えられる。それと 同時に、面的な操作がより多く、構造体など一般に線的 な操作は少ないことが明らかになった。
4−2 操作部分の分類
操作部分
全体構成 97
壁面 40
屋根 31
動線空間 16
吹抜け 16
中心的空間 15
開口部 9
構造体 7
工作物 6
事例数 ( 重複を含む ) 操作部分 事例数 ( 重複を含む )
表 2. 操作部分の分類
現代公共建築におけるシンボル性獲得手法に関する研究および設計提案 第 4 章 事例分類
抽出した事例に対して、象徴性を持たせるために具体 的にどのような操作を行ったかを分類する。設計手法は 28 種に分類することができた。( 表 3)
結果としては「スケールの拡大」の分類が最も多く見 られた。前項の操作部分の分類においてもスケールとの 相関が見られたが、設計手法においても特定の部分を拡 大することはシンボル性獲得に一般的な手法となってい ると推測できる。またこのようなスケールとの相関は、
建築内にボイドをつくるような手法である「ボリューム の切削」が最も少なかったことからも見て取れる。
2 番目に多かった分類は「幾何学形態の挿入」であった。
これはある意味で磯崎新や黒川紀章が用いた幾何学形態 によるシンボリズムとも近いものであり、幾何学形態を 用いることはシンボル性を意図した設計に大きな影響を 与えていると考えられる。
4−3 設計手法の分類
設計手法
スケールの拡大 28 幾何学形態の挿入 23 異デザインの対比 18 色彩の差異 18 構造表現の強調 15 構成の単純化 15
隣地への応答 9
塔状のボリューム 9 ヒエラルキーの排除
求心的な配置
8
複層的な構成 7
8
線材による構成 垂直性の強調
6 5
事例数 ( 重複を含む ) 設計手法 事例数 ( 重複を含む )
同一単位の反復 14 透明感の表現 11 軸線の挿入 11 慣習的な形態 11 自然形態の引用 10 正面性の排除 10
ボリュームの包み込み 5
不規則な配置 4
精神性の具体化 5
水平性の強調 4
異コンテクストの挿入
空間の離隔
3 有機的な形態 10 3
ボリュームの浮遊感 10 ボリュームの切削 3
現代公共建築におけるシンボル性獲得手法に関する研究および設計提案 第 4 章 事例分類
第 5 章 分類相互の関係性分析 05
5−1 象徴の目的と操作部分の関係性 5−2 象徴の目的と設計手法の関係性 5−3 操作部分と設計手法の関係性
5−4 小結 - 象徴の目的から見る分類相互の関係性
現代公共建築におけるシンボル性獲得手法に関する研究および設計提案 第 5 章 分類相互の関係性分析
ここでは象徴の目的と操作部分の関係性について考察 する。ここでは事例数における各象徴の目的に対する各 操作部分の割合を算出し、その割合が他分類と比較して 高いものを関連づけている。
5-1-1. 建築空間の独自性と操作部分の関係性
建築空間の独自性に対しては全体構成・動線空間・構 造体の 3 つが関連づけられた。(図 7)このことから建築 全体の構成の中で移動を伴う空間のシンボル性が建築空 間の独自性に寄与していることがうかがえる。また構造 体および構造形式を特徴的にすることも、独創的なシン ボル性に関連していることがうかがえる。
第 5 章 分類相互の関係性分析
5−1 象徴の目的と操作部分の関係性
図 7. 建築空間の独自性と操作部分の関係性モデル 建築空間の独自性
象徴の目的 操作部分
全体構成
動線空間 構造体
現代公共建築におけるシンボル性獲得手法に関する研究および設計提案 第 5 章 分類相互の関係性分析
5-1-2. 敷地コンテクスト性と操作部分の関係性
敷地コンテクスト性に対しては全体構成・屋根の 2 つ が関連づけられた。(図 8)このことから建築全体の構成 でコンテクスト表現をすることが有効な手法としてい用 いられていることがうかがえる。また、屋根が関連付け られたことは、屋根形状は平面計画に比して自由度が高 く、それぞれのエリアの特徴がわかりやすく表出しやす いことに起因していると考えられる。
5-1-3. 商業的アイコン性と操作部分の関係性
商業的アイコン性に対しては壁面・開口部の 2 つが関 連づけられた。(図 9)特筆すべきは、商業的アイコン性 に対してのみ全体構成が関連付けられなかったことであ る。このことは商業的シンボル性においては全体構成で はなく、壁面や開口部が特徴的であること、つまりディ スプレイとしての表層的な操作が有効であることを示し ている。
敷地コンテクスト性
象徴の目的 操作部分
全体構成 屋根
図 8. 敷地コンテクスト性と操作部分の関係性モデル
商業的アイコン性
象徴の目的 操作部分
壁面 開口部
現代公共建築におけるシンボル性獲得手法に関する研究および設計提案 第 5 章 分類相互の関係性分析
5-1-4. 内部機能の表出と操作部分の関係性
内部機能の表出に対しては全体構成・吹抜け・工作物 の 3 つが関連づけられた。(図 10)このことから、内部 機能の表出に対しては吹抜けや工作物など、建築的機能 の弱い空間においてシンボル性獲得の意図がうかがえる。
またこのことから、内部機能の表出は建築のメインコン セプトとして強く現れるというよりは、補助的・部分的 に現れることが多いことがうかがえる。
5-1-5. 都市的ランドマーク性と操作部分の関係性
都市的ランドマーク性に対しては全体構成のみが関連 付けられた。(図 11)一般にランドマークとして想起され るタワー形式にも見られるように、ランドマークにおい ては表層的あるいは部分的なシンボル性はあまり有効で はなく、全体形のみが優先されることがわかる。
都市的ランドマーク性
象徴の目的 操作部分
全体構成 内部機能の表出
象徴の目的 操作部分
全体構成
吹抜け 工作物 図 10. 内部機能の表出と操作部分の関係性モデル
現代公共建築におけるシンボル性獲得手法に関する研究および設計提案 第 5 章 分類相互の関係性分析
ここでは象徴の目的と設計手法の関係性について考察 する。ここでは事例数における各象徴の目的に対する各 設計手法の割合を算出し、その割合が他分類と比較して 高いものを関連づけている。
5-2-1. 建築空間の独自性と設計手法の関係性
建築空間の独自性に対してはヒエラルキーの排除・異 デザインの対比・幾何学形態の挿入・構造表現の強調・
ボリュームの切削の 5 つが関連づけられた。(図 12)ヒ エラルキーの排除・異デザインの対比はいずれもデザイ ンを並置する際に用いられる手法である。対して幾何学 形態の挿入・構造表現の強調・ボリュームの切削は特定 の部分を強調する手法であると言える。これらのことか ら、建築空間の独自性に対しては、デザイン同士のヒエ ラルキーの有り無しを明確に表現することが有効である ことがうかがえる。
5−2 象徴の目的と設計手法の関係性
建築空間の独自性
象徴の目的 設計手法
ヒエラルキーの排除 異デザインの対比 幾何学形態の挿入 構造表現の強調 ボリュームの切削
図 12. 建築空間の独自性と設計手法の関係性モデル
現代公共建築におけるシンボル性獲得手法に関する研究および設計提案 第 5 章 分類相互の関係性分析
5-2-2. 敷地コンテクスト性と設計手法の関係性
敷地コンテクスト性に対しては自然形態の引用・隣地 への応答・透明感の表現・軸線の挿入・慣習的な形態の 5 つが関連づけられた。(図 13)透明感の表現を除く 4 つ の設計手法に関しては周辺敷地あるいはコンテクストに 対応する、直喩的手法として関連付けられた。一方で透 明感の表現は、建築の透明感によって周辺敷地を借景と し馴染むことでコンテクスト表現をしていることがうか がえる。
敷地コンテクスト性
象徴の目的 設計手法
自然形態の引用 隣地への応答 透明感の表現 軸線の挿入 慣習的な形態 図 13. 敷地コンテクスト性と設計手法の関係性モデル
現代公共建築におけるシンボル性獲得手法に関する研究および設計提案 第 5 章 分類相互の関係性分析
5-2-3. 商業的アイコン性と設計手法の関係性
商業的アイコン性に対しては色彩の差異・線材による 構成・複層的な構成・有機的な形態の 4 つが関連づけら れた。(図 14)線材による構成・複層的な構成の 2 つは いずれもボリュームを量塊的に見せることを避ける手法 であることから、商品を伴うことの多い商業ファサード との相性が良いものであると考えられる。また色彩の差 異と有機的な形態は、通常用いられる形態や仕上げとの 違いが明確な手法であり、アイキャッチ性をもつための 手法として関連の深さがうかがえる。
図 14. 商業的アイコン性と設計手法の関係性モデル 商業的アイコン性
象徴の目的 設計手法
色彩の差異 線材による構成
複層的な構成 有機的な形態
現代公共建築におけるシンボル性獲得手法に関する研究および設計提案 第 5 章 分類相互の関係性分析
5-2-4. 内部機能の表出と設計手法の関係性
内部機能の表出に対しては、スケールの拡大・ボリュ ームの包み込み・求心的な配置・空間の離隔・ボリュー ムの浮遊感・精神性の具体化の 6 つが関連づけられた。(図 15)スケールの拡大とボリュームの包み込みおよびボリ ュームの浮遊感の 3 種はいずれも量塊的な操作であり、
内部機能を表出させる際にはある程度の大きさを持って いる必要性がうかがえる。また、求心的な配置と空間の 離隔はボリューム配置に関する手法であり、他分類の関 係性と異なる点である。
内部機能の表出
象徴の目的 設計手法
スケールの拡大 ボリュームの包み込み
求心的な配置 空間の離隔 ボリュームの浮遊感
精神性の具体化 図 15. 内部機能の表出と設計手法の関係性モデル
現代公共建築におけるシンボル性獲得手法に関する研究および設計提案 第 5 章 分類相互の関係性分析
5-2-5. 都市的ランドマーク性と設計手法の関係性
都市的ランドマーク性に対しては、垂直性の強調・異 コンテクストの挿入・塔状のボリューム・同一単位の反復・
正面性の排除・不規則な配置・構成の単純化・水平性の 強調の 8 つが関連づけられた。(図 16)都市的ランドマ ーク性においてはもっとも多くの設計手法が関連づけら れた。また、垂直性の強調と水平性の強調、不規則な配 置と構成の単純化、など背反する要素が混在して見られ ることから、都市的ランドマーク性と設計手法の関係性 だけを見ると、その手法は画一的なものとして決定する ことは困難であることが考えられる。
図 16 都市的ランドマーク性と設計手法の関係性モデル
都市的ランドマーク性
象徴の目的 設計手法
垂直性の強調 異コンテクストの挿入
塔状のボリューム 同一単位の反復
正面性の排除 不規則な配置 構成の単純化 水平性の強調
現代公共建築におけるシンボル性獲得手法に関する研究および設計提案 第 5 章 分類相互の関係性分析
ここでは操作部分と設計手法の関係性について考察す る。ここでは事例数における各操作部分の各設計手法に 対する各操作部分の割合を算出し、その割合が他分類と 比較して高いものを関連づけている。
また、全体構成に関してはいずれの設計手法とも関連 性が深いため、操作部分と設計手法の関係性としてのみ では論じきれないことが示された。そこで、全体構成に ついては次節において象徴の目的を含めた上で関係性を 論じる。
5-3-1. 壁面と設計手法の関係性
壁面に対しては色彩の差異・空間の離隔・不規則な配置・
異デザインの対比の 4 つが関連づけられた。(図 17)色 彩の差異・異デザインの対比の2つは壁面による面的な 対比として、また空間の離隔・不規則な配置の2つは壁 面による領域形成的機能として、シンボル性獲得を意図 していることが示された。
5−3 操作部分と設計手法の関係性
設計手法 色彩の差異 空間の離隔 不規則な配置 異デザインの対比 操作部分
壁面
図 17. 壁面と設計手法の関係性モデル
現代公共建築におけるシンボル性獲得手法に関する研究および設計提案 第 5 章 分類相互の関係性分析
5-3-2. 屋根と設計手法の関係性
壁面に対しては有機的な形態・慣習的な形態の 2 つが 関連づけられた。(図 18)このことから、屋根型によりシ ンボル性獲得を意図する際には、柔らかい形でうねるよ うな形態、もしくは切妻や寄棟その他慣習的に用いられ る形態を用いることが有効であることがうかがえる。
5-3-3. 動線空間と設計手法の関係性
動線空間に対してはヒエラルキーの排除・垂直性の強 調・透明感の表現・軸線の挿入の 4 つが関連づけられた。
(図 19)垂直性の強調と透明感の表現から、縦動線を強調 し、透明化することで移動が見えるように計画すること が有効であることが考えられる。また、ヒエラルキーの 排除と軸線の挿入からは動線空間を建築のサーバント・
スペースとして扱うのではなく、空間として明確に表現 することが有効であることが示される。
操作部分 動線空間
設計手法
ヒエラルキーの排除 垂直性の強調 透明感の表現 軸線の挿入 設計手法
有機的な形態 慣習的な形態 操作部分
屋根
図 18. 屋根と設計手法の関係性モデル
現代公共建築におけるシンボル性獲得手法に関する研究および設計提案 第 5 章 分類相互の関係性分析
5-3-4. 吹抜けと設計手法の関係性
吹抜けに対してはスケールの拡大・透明感の表現・同 一単位の反復・ボリュームの切削の 4 つが関連づけられた。
(図 20)スケールの拡大と透明感の表現から、建築外部か ら見た際に、アトリウムなどの大きな吹抜けの存在が明 らかであることが有効であることが考えられる。また一 方で同一単位の反復とボリュームの切削から、建築の全 体構成に間を開けていくようにボイドを配置することも 有効であることが示された。
5-3-5. 開口部と設計手法の関係性
開口部に対しては塔状のボリューム・複層的な構成・
構成の単純化・の 3 つが関連づけられた。(図 21)この 3 つに関しては開口部と設計手法の関係性だけを見ると、
その手法は画一的なものとして決定することは困難であ り、開口部は多様なデザインによってシンボル性獲得が 意図されていることがうかがえる。
設計手法
複層的な構成 構成の単純化 塔状のボリューム 操作部分
開口部 操作部分
吹抜け
設計手法 スケールの拡大
透明感の表現 同一単位の反復 ボリュームの切削 図 20. 吹抜けと設計手法の関係性モデル
現代公共建築におけるシンボル性獲得手法に関する研究および設計提案 第 5 章 分類相互の関係性分析
5-3-6. 構造体と設計手法の関係性
構造体に対してはボリュームの包み込み・構造表現の 強調の 2 つが関連づけられた。(図 22)このことから、
構造形式が全体形が形作られるもしくは構造体が全体の 外側に現れるがことが有効であることが示された。それ と共に構造形式が共に特殊もしくは強調されることによ る力強さの表現がシンボル性獲得に有効であることがう かがえる。
5-3-7. 工作物と設計手法の関係性
工作物に対しては自然形態の引用・線材による構成・
求心的配置・ボリュームの浮遊感・精神性の具体化の 5 つが関連づけられた。(図 23)自然形態の引用と精神性の 具体化から、工作物によって象徴の比喩表現的にシンボ ル性を獲得することが考えられる。また、線材による構 成とボリュームの浮遊感から、軽やかな形態による構成 が有効であることが示された。
操作部分 構造体
設計手法
ボリュームの包み込み
構造表現の強調
操作部分 工作物
設計手法 自然形態の引用 線材による構成 求心的な配置 ボリュームの浮遊感
精神性の具体化 図 22. 構造体と設計手法の関係性モデル
現代公共建築におけるシンボル性獲得手法に関する研究および設計提案 第 5 章 分類相互の関係性分析
5-1.5-2.5-3. で行った分類相互の関係性を、象徴の目的 を主軸としてまとめる。(図 24)
5−4 小結 - 象徴の目的から見る分類相互の関係性
象徴の目的 操作部分 設計手法
象徴の目的を主軸に操作部分と設計手法について関連性を紐付ける 設計手法
図 24. 象徴の目的から見る分類相互の関係性モデル例
現代公共建築におけるシンボル性獲得手法に関する研究および設計提案 第 5 章 分類相互の関係性分析
5-4-1. 建築空間の独自性から見る分類相互の関係性 建築空間の独自性を主軸とした分類相互の関係性をモ デル化したものを以下に示す。(図 25)
建築空間の独自性
象徴の目的 操作部分
全体構成
動線空間 構造体 設計手法
設計手法
ヒエラルキーの排除
異デザインの対比 幾何学形態の挿入
ヒエラルキーの排除 垂直性の強調 透明感の表現 軸線の挿入
ボリュームの包み込み
構造表現の強調 異デザインの対比
幾何学形態の挿入 構造表現の強調 ボリュームの切削
図 25. 建築空間の独自性から見る分類相互の関係性モデル
現代公共建築におけるシンボル性獲得手法に関する研究および設計提案 第 5 章 分類相互の関係性分析
図 26. 敷地コンテクスト性から見る分類相互の関係性モデル
5-4-2. 敷地コンテクスト性から見る分類相互の関係性 敷地コンテクスト性を主軸とした分類相互の関係性を モデル化したものを以下に示す。(図 26)
敷地コンテクスト性
象徴の目的 設計手法
自然形態の引用 隣地への応答
軸線の挿入
有機的な形態 慣習的な形態 操作部分
全体構成 屋根 設計手法
自然形態の引用 隣地への応答 透明感の表現 軸線の挿入 慣習的な形態
現代公共建築におけるシンボル性獲得手法に関する研究および設計提案 第 5 章 分類相互の関係性分析
5-4-3. 商業的アイコン性から見る分類相互の関係性 商業的アイコン性を主軸とした分類相互の関係性をモ デル化したものを以下に示す。(図 27)
商業的アイコン性
象徴の目的 設計手法
色彩の差異 空間の離隔 不規則な配置 異デザインの対比
複層的な構成 構成の単純化 塔状のボリューム 操作部分
壁面 開口部 設計手法
色彩の差異 線材による構成
複層的な構成 有機的な形態
図 27. 商業的アイコン性から見る分類相互の関係性モデル
現代公共建築におけるシンボル性獲得手法に関する研究および設計提案 第 5 章 分類相互の関係性分析
5-4-4. 内部機能の表出から見る分類相互の関係性
内部機能の表出を主軸とした分類相互の関係性をモデ ル化したものを以下に示す。(図 28)
内部機能の表出
象徴の目的 操作部分
全体構成
吹抜け 工作物 設計手法
設計手法
スケールの拡大
スケールの拡大
スケールの拡大 透明感の表現 同一単位の反復 ボリュームの切削
自然形態の引用 線材による構成 求心的な配置 ボリュームの浮遊感
精神性の具体化 ボリュームの包み込み
求心的な配置 空間の離隔 ボリュームの浮遊感
精神性の具体化
図 28. 内部機能の表出から見る分類相互の関係性モデル
現代公共建築におけるシンボル性獲得手法に関する研究および設計提案 第 5 章 分類相互の関係性分析
5-4-5. 都市的ランドマーク性から見る分類相互の関係性 都市的ランドマーク性を主軸とした分類相互の関係性 をモデル化したものを以下に示す。(図 29)
都市的ランドマーク性
象徴の目的 操作部分
全体構成
設計手法
設計手法
塔状のボリューム 正面性の排除 構成の単純化 垂直性の強調
異コンテクストの挿入 塔状のボリューム
同一単位の反復 正面性の排除 不規則な配置 構成の単純化 水平性の強調
図 29. 都市的ランドマーク性から見る分類相互の関係性モデル
現代公共建築におけるシンボル性獲得手法に関する研究および設計提案 第 5 章 分類相互の関係性分析
第 6 章 設計提案 06
6−1 分類相互の関係性モデルからシンボル性獲得手法への変換 6−2 象徴の目的に対応するコンセプトモデル
6−3 設計提案 - 市庁舎を対象として
現代公共建築におけるシンボル性獲得手法に関する研究および設計提案 第 6 章 設計提案
ここではそれぞれの象徴の目的に対して、シンボル性 獲得手法を設定する。これは全章の分類相互の関係性を もとに、象徴の目的に対しての操作部分、設計手法を整 理するものである。これにより前章では非線形であった モデルを線形なものに変換し、設計手法として設定する。
( 図 30) それぞれの象徴の目的に対する具体的な設計手法 モデルを以下に示す。
第 6 章 設計提案
6−1 分類相互の関係性モデルからシンボル性獲得手法への変換
図 30. シンボル性獲得手法への変換イメージ
象徴の目的 操作部分 設計手法
目的→操作部分→設計手法の流れを明確化
象徴の目的 操作部分 設計手法
共通する設計手法のみ残す 設計手法
現代公共建築におけるシンボル性獲得手法に関する研究および設計提案 第 6 章 設計提案
敷地コンテクスト性
象徴の目的 操作部分
全体構成
屋根
設計手法 自然形態の引用
隣地への応答 軸線の挿入
慣習的な形態
敷地コンテクスト性におけるシンボル性獲得手法
全体構成
軸線の挿入 自然形態の引用 隣地への応答
建築空間の独自性
象徴の目的 操作部分
全体構成
動線空間 構造体
設計手法
異デザインの対比 幾何学形態の挿入
ヒエラルキーの排除
構造表現の強調
建築空間の独自性におけるシンボル性獲得手法
全体構成 異デザインの対比 幾何学形態の挿入 ヒエラルキーの排除 構造表現の強調 動線空間
構造体
現代公共建築におけるシンボル性獲得手法に関する研究および設計提案 第 6 章 設計提案
商業的アイコン性
象徴の目的 操作部分
壁面 開口部
設計手法 色彩の差異 複層的な構成
商業的アイコン性におけるシンボル性獲得手法
壁面 色彩の差異 複層的な構成 開口部
内部機能の表出
象徴の目的 操作部分
全体構成
吹抜け 工作物
設計手法 スケールの拡大
スケールの拡大
求心的な配置 ボリュームの浮遊感
精神性の具体化
内部機能の表出におけるシンボル性獲得手法
壁面 色彩の差異 複層的な構成 開口部
塔状のボリューム 正面性の排除 構成の単純化 全体構成
現代公共建築におけるシンボル性獲得手法に関する研究および設計提案 第 6 章 設計提案