古典学派の物価 : 正貨流出入機構
その他のタイトル Price‑Specie Flow Mechanism
著者 木村 滋
雑誌名 關西大學商學論集
巻 9
号 5
ページ 391‑428
発行年 1964‑12‑30
URL http://hdl.handle.net/10112/00021584
391
この問題にかんして古典学派の中にあって異端と解されるリカードをさておき︑ソーントン︑J.S・ミルによ
って主張された物価I
正貨流出入機構
( p r i
c e ' s
p e c i
f l e o w m
ec
ha
ni
sm
)
~、凶作その他なんらかの原因によって
生じた貿易不均衡が︑金輸送点への為替相場変動←金流出入←通貨数量の変動←物価変動←貿易変動を通じて自動
的に均衡を回復する過程︑あるいは︑貢納金や賠償金などの一方的移転とか資本移動とかの貨幣的トランスファー
が︑これと同様な経路を通じて︑同額同方向の財の追加的な実物的トランスファーをもって完結される過程を構想
するものである︒
古典学派の物価
I正貨流出入機構はヒュームにその想源を発する︒
﹁英国にある一切の貨幣の五分の四が一夜のうちに消減したものとせよ⁝⁝その結果はどうなるであろうか︒すべての労働や商 品の価格はそれと同率に下らざるを得ないのではなかろうか⁝⁝︒このときいかなる国が外国市場でわが国と競争し得ようか︑す なわち︑わが国にたいして十分な利潤を与える価格と同じ価格で商品を輸出しまたは販売することができようか︒したがって︑わ が国が失った貨幣が再び持ち帰られ︑わが国の物価が一切の近隣諸国なみに引き上げられるのにはきわめて短期日をもって足るの ではなかろうか︒われわれはたちまちにして労働や商品の低廉であるという有利な地位を失い︑それ以上の貨幣の流入はわが国が
古典学派の物価I
正貨
流出
入機
構︵
村木
︶
第一節
古典学派の物価I正貨流出入機構
古典学派の物価
I正貨流出入機構
木
村
滋
392
点である︒この点にたいしてリカードは次のように反対する︒
古典学派の物価I
正貨
流出
入機
構︵
木村
︶
飽和状態に達することによって停止される︒⁝⁝かくして明らかなことは︑かかる途方もない不均等を匡正すぺきその同じ原因こ
そは•…・・またかかる不均等が事物自然の成行において発生することを阻止すべきものであり、かくしてあらゆる隣接諸国にたいし山て︑各国の工芸ならびに産業とほぼ比例する貨幣を永久に保有せしめるに相違ないということである︒﹂
このヒュームの章句の中には︑まさに物価
I
正貨流出入機構の核心たる正貨流出入の作用と貨幣数量説が含意さ れ︑貨幣的攪乱に帰因する不均衡の短期調整過程と︑長期的な通貨の自然的水準の理念が示されているのである︒
このヒュームによって述べられた貨幣的攪乱を︑穀物輸出国の凶作がその国の貿易差額の逆調をもたらした場合の 貿易収支調整過程に適用したのはソーントソである︒
﹁貿易差額が︵たとえば収穫の不良から生じて︶はなほだしく不利なときには︑ある国は海外から穀物の大量の供給を仰ぐ必要
にせまられる︒がしかし︑その国がそれと引き換えに十分な量の財貨を即座に供給する手段を持っていないこともあり︑あるいは
⁝⁝不利な差額をもっている国がその債務を弁済する手段として提供し得る財貨が︑海外ではあまり需要されないので︑その際に
輸出を誘う価格も︑または我慢のできる価格さえも期待することができないという場合がある︒⁝⁝それゆえに︑貿易差額の有利
な国が︑ある程度までしきりに支払を求めておりながら︑しかもその差額の支払に必要とされる財貨を補給しても︑これを差しあ
たって全部は欲していない状態にあれば︑その国は少なくとも決済の一部として金を好んで受取ることになる︒けだし手に余るほ
ど非常に莫大な他のなんらかの商品よりも︑金ならば何時でもヨリ有利な用途に向け得られるからである︒そこで差額の有利な国
をして支払額の全部を財貨で受取らせ︑たとえその一部をも金では受取らないようにさせるためには︑財貨が非常に高値になるのg を阻止するばかりでなく︑さらにそれらを極端に廉くさせることが必須となるであろう⁝⁝﹂
ここで注意すべきは︑
ソーントンによれば︑金の輸出は他の原因にもとずく不利な貿易差額の結果であるとする
﹁ソーントン氏はなぜ外国がその穀物の対価としてわれわれの財貨の受取りを喜ばないかを説明していない︒しかも氏としてほ
393
﹁わが英国が外国列強に援助金の支給を承諾したというような場合においてもまた︑その支払をより低廉に実行し得る財貨の存
ち ︑ る かかる不同意の存する場合においては︑なぜわれわれの鋳貨の提供を承認して相手方の不同意を満足せしめるのであるかを説明す
必要
があ
るで
あろ
う︒
もしわれわれが財貨の対価として貨幣を提供したならば︑それは必ずや任意の選択から行なったものであって強制的な必要から
行なったものではない︒われわれが過剰な通貨をもち︑したがってそれをわれわれの輸出の一部たらしめることが適当だという場
合でなければ︑われわれは輸出するより以上の貨物を輸入しないであろう︒鋳貨が輸出されるのはそれが低廉なためである︒鋳貨抑の輸出は不利な貿易差額の結果ではなくてむしろその原因である﹂
ソーントンとリカードの相違は明白である︒金の流出はソーソトンにあっては凶作から生じた貿易差額の結果で
あるのにたいして︑リカードにあっては金の輸出といえども他の財貨と同様に︑あくまでも利害打算の結果行なわ
れるものであって︑金の低廉さ︑いいかえれば通貨の相対的過剰がその輸出の唯一の原因となるのである︒そもそ
もリカードには諸国の金の価値の等価である自然的水準がその思考の根底にあり︑これが破壊された場合︑それは
金の輸出入を通じて回復されるが︑その間に金の輸出の結果として貿易差額が生じたとしても︑それは自然的水準
を回復するまでの一時的な現象にすぎず︑自然的水準が回復されるや貿易は均衡し︑物価水準も旧に復するのであ
る︒﹁金は通貨の相対的過剰が存在するときにのみ輸出される﹂という命題を︑リカードの通貨過剰の原理とよぶ
ならば︑この原理こそ︑当時の︑物価騰貴︑金紙の開き︑為替の下落は︑ナボレオン戦争のための対外支出に帰因
すると主張する反地金主義者に対立し︑それらは銀行券の過剰発行によるものであるとする地金主義者としてのリ
カードの面目を躍如たらしめるものであるといえよう︒
ところでリカードはこの通貨過剰の原理を︑貿易にもとづかない国際債務の決済の場合にも当てはめる︒すなわ
古典
学派
の物
価'
正貨
流出
入機
構︵
木村
︶
394
貨は還流し︑旧の自然的水準を再び回復するので︑ 開は︑後に付加されたその付録において︑ 古典学派の物価I
正貨
流出
入機
構︵
木村
︶ 在する限り︑貨幣は輸出されないであろう︒すなわちこの場合︑個人の利害打算は貨幣の輸出を不必要なものたらしめるであろ
④ う ︒
リカードの主張には次のことが含まれていたとする︒すなわち凶作︑援助金の支後世の学者はさらに推論して︑ ﹂
1 5 1
給︑対外貸付は貨幣の過剰を作らず︑したがって金の流出をひき起こさずと︒さらにこのことから︑均衡は単なる
購買力の移動によって︑金の移動や物価水準の変動なしに回復されるとする考え方が含意されていたのであると︒
ところがリカードの﹃地金高価論﹄
(H
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B u l l i o n ,
18 11 )
では︑凶作︑援助金の支給︑対外貸付は貨幣
の過剰を作らずという積極的な証拠は見あたらない︒ただ彼は︑貨幣はそれが相対的に過剰でない限り︑たとえ凶
作の場合といえども輸出されないという通貨過剰の原理を述べるにすぎないのである︒そしてリカードの思考の展
﹁イギリスは︑凶作の結果︑⁝⁝その貨物の一部を失って流通媒介物が減少した国となるであろう︒したがって以前には︑この 国の支払に相当していた通貨も︑いまは︑生産物の減少率⁝⁝だけ過剰となり︑しかして低廉となるであろう︒それゆえに︑これ
m
だけの額を輸出すれば︑この国の通貨は他国の通貨にたいして︑その価値を回復することとなるであろう︒﹂
と述べるように︑通貨の過剰となることは考えられたのである︒ただリカードは︑凶作が支払差額を攪乱すること
が許されるべきとしても︑その攪乱は一時的であって︑それが過ぎ去った後には︑以前にあったものに復帰し︑正
﹁これらの結末が予見されないということ︑ならびに不必要な活動に伴う費用と骨折とが豊富な資本をもち︑商業上のあらゆる 経済の実行されている︑しかも最大限度の競争の行なわれているところの国においては︑有効に防止され得るであろうということ は争うべくもない︒単に一国の貨幣の価値を引上げ︑他国のそれを引下げるためにわざわざ貨幣が外国に送り出され︑しかもこの 方法によって貨幣の復帰が保証されるというようなことは一体考え得られることなのであろうか︒﹂
ニ四
395
二五
と述べて通貨の輸出が阻止される説明としているが︑これははなはだ納得しがたい叙述である︒なぜならば︑通貨 の輸出に代わるべき支払手段ないし支払過程︵たとえば為替が金輸出点を暫時は越えたままであるとか︶について︑
彼はなんら触れるところがないからである︒ヴァイナーもまた︑リカードは個々の貿易業者が金の流出が一時的な ものであるのかいなかを︑またそれが一時的なものであると彼等らが確信していたとしても︑それを阻止すること が彼等の利益となるかどうか︑これらを予見する彼等の能力を過大視していると評するがこの批評は正しい︒
皿
リカードを購買力移転説すなわちイヴェルセソのいわゆる近代理論の先駆者とみなすことは正しいであろうか︒
リカードが﹃マルサスヘの手紙﹄
( L e t t e r s o f D R . i c a r d o t o
T . R .
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ー
18 23 )
で述べた次の二つの
﹁貴下は︑凶作というものほ穀物の価格を引き上げはするが︑他の商品の価格を引き下げもするだろう︑という御意見です︒⁝⁝
もし貴下の御意見が正しいとしますと︑私は断言します︒貨幣の輸出は行なわれないだろう︑けだし貨幣はもっとも低廉な輸出品
ではないからと︒⁝⁝そうしますと二国の物価が不等である間は︑商品だけが穀物と交換されて輸出されるでしょう︒⁝⁝実に︑
貴下は外国市場には諸商品の供給過剰が存するだろうとさえ言われました︒何事でしよう/.商品の供給過剰にしてより高い価格を皿伴うというのほ/不可能です‘|—この二つの事情は両立し得ません」(傍点筆者)
﹁記者︹マルサス︺が推定したように﹃一国における凶作︑または援助金の支払の必要は直ちにしかも確実にモスリン︑金物およ
び植民地産物にたいする需要に変化を生ぜしめる﹄ということは争を容れない︒なんとなれば︑援助金を支給する国または凶作に
︑︑
︑︑
︑︑
︑︑
︑︑
︑︑
︑
苦しむ国が︑他の貨物を︑従来普通に輸入していた量よりも︑より少なく輸入しなければならない湯合には上と同じ結果が起こる四
から
であ
る︒
﹂︵
傍点
筆者
︶ これらのうち︑前の方の引用文は︑凶作が穀物の価格上昇︑他の商品の価格下落を生ぜしめた場合には貨幣の過剰
を生じないので金の翰出は行なわれないこと︑後の引用文は︑穀物の輸入増加のため︑他の輸入品を減少させなけ 章
句︒
古典学派の物価I
正貨
流出
入機
構︵
木村
︶
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古典学派の物価l
正貨
流出
入機
構︵
村木
︶
ればならない場合を述べており︑いずれも金移動なき調整を予想させるが︑
易量が不変という長期的静態の前提を必要とするものであると︒われわれは次のように述べたい︒貨幣が輸出され
ないからそれは購買力移転による調整を述べるものだと速断してはならない︒リカードが念頭にあるのはマーソソ
のいう長期静態たる自然的水準であって︑短期動態たる支払調整過程そのものは軽視されたというにすぎない︒購
買力移転というもそれは短期動態的調整過程の説明に変わりないのであって︑次元を混同してはならない︒右のリ
カードの二つの引用文は︑マルサスとの議論の成り行き上︑傍点を付したように︑たまたまそのような場合︑
り通貨の過剰の生じない場合の特殊な事例にすぎないのである︒リカードの通貨過剰の原理は︑彼自身が︑
﹁貴下︹マルサス︺ほ⁝⁝いつも既に契約された債務を前提し︑私が契約そのものの動機となるものは通貨の相対的状態であると
漁ることなく主張しているのを忘れていらっしゃいます︒穀物は貨幣が相対的に過剰でなければ購買されないだろう︑私はこう言 います︒貴下は既に購買されたものと仮定し︑問題ほただ支払いに関するのだと仮定することによって私に答弁していらっしゃる﹂
と述べるように︑国際支払の契約の動機が論ぜられたのであって︑国際支払の実行過程については何も語っていな
い︒しかし彼は援助金の支払についてはかかる実行過程すなわち調整過程を展開する︒凶作の場合にははじめに貨
幣の過剰があらわれたが︑援助金の場合にはこのことが考えられないので金輸出の動機が生じないわけであるが︑
⑮ リカードはこのことにかんして当然支払過程の為替機構の役割に注意を向けるようになったのである︒そもそもリ
カードは凶作にかんする限り︑
﹁凶作が為替に及ぼす影響は︑従来ちょうどその水準にあったところの通貨を過剰なものとすることによってのみ作用するとい うことが十分に証明され得たことと思う︒しかしまた︑かくして不利な為替は常に通貨の相対的過剰にもとづくとする原理が間然
囮 閻
する
とこ
ろな
く立
派に
証明
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るこ
とと
なる
︒﹂
﹁為
替は
精密
に通
貨の
減価
を測
定す
る︒
﹂
と述べるのであるが︑しかし援助金支払については例外としている︒
つま
マーソンによれば︑これは貨幣量と貿
二六
397
二七
﹁為替の混乱状態というものは︑例をあげれば一外国に供給された援助金によってひきおこされるものですが︑私もこういう状
態が通貨の価値を精密に測定すると主張するつもりはありません︒けだしこのような原因から生ずる為替手形の需要というものは︑
その国の自然的商業の結果ではないからです︒ですからこういう需要には︑為替が提供するところの奨励金によって︑しいて諸商
品の輸出を促進するという効果がありましょう︒援助金が支払われた後には為替はまた再び通貨の価値を精密に表現することにな
るでしょう︒援助金と同じ効果は︑わが政府の対外的支出からも生れてきましょう︒﹂
つまり援助金の支払︑政府の対外的支出を自然的商業の結果ではない特別な場合とみなしているのである︒援助金 の場合の支払過程は次のように述べられている︒
﹁すなわち援助金は︑第一に手形に対する需要を喚起するでしょう︒第二に商品の輸出を喚起するでしょう︑ただしその商品と
いうのは︑価格が二国間ですでに非常に違っていて︑そのために為替の最初の下落が与える程度の些細な刺戟しか必要としないと
いうようなもののことであります︒第三に物価の相対的状態の変更︑つまり輸出国の方の騰貴と輸入国の方の下落とを生じます︒
そしてその程度は︑やはり不利な為替からくる便益を埋め合わすほどのものです︒それから最後に︑援助金の支払が終るまでつづm くところの︑さらにはなはだしい為替の下落︑したがって追加量の財貨の輸出︑次いで貨幣の輸出を生じます︒﹂
つまり援助金の支払←為替の下落←商品輸出の刺戟←物価の相対的変化←貨幣の輸出の過程をたどるのであるが︑
貨幣の輸出に至るには援助金が相当量継続的に行なわれる場合である︒すなわち︑
﹁援助金が少額であるならば︑その全額が諸商品の輸出にて支払われるであろう︒けだし︑この場合の為替の下落は︑諸商品の閲輸出を発動せしめるには十分であるが︑貨幣の輸出を発動せしめるには不十分であるから﹂
注意すべきはリカードでは援助金による金移動は軽視されたとはいえ決して無視されてはいなかったということ である︒しかしながら︑彼の調整機構は︑物貨
I正貨流出入機構のそれではなく︑為替相場変動という価格効果に
よって説明しようとしたものであり︑金移動の軽視は︑既述の言葉︵註⑧︶によっても︑また次の言葉によっても うかがわれるところである︒
古典学派の物価I正貨流出入機構︵木村︶
398
古典学派の物価I正貨流出入機構︵木村︶
﹁︹
貨幣
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以上のことからわれわれはリカードにおいて︑古典学派の典型的な物価I正貨流出入機構の図式を認めることも︑
一方的支払にもと 購買力移転説すなわち近代理論の先駆たるべき証拠を確認することもできない︒彼をもって古典学派の中にあって異端と解されるとともに︑彼を近代理論の先駆者とするイヴェルセンの見解とも袂を分かつ所以でもある︒
ソーントンよりもはるかに体系的に物価I正貨流出入機構を描いたのほ
J . s
・ミルである︒まずミルは︑国際
収支均衡の攪乱すなわち為替の攪乱を偶然的・一時的な原因に結果するものと永続的な原因に結果するものとに分
け︑前者の場合には︑それが大規模でない限り︑為替変動←貿易変動の過程によって均衡は回復されるが︑後者の
場合には為替変動のみでは調整は不可能であって︑この均衡を取り戻すには物価に作用を及ぽす以外にはないとす
四る︒彼はこの永続的な不均衡の調整過程を︑貿易変動にもとづく国際収支不均衡の調整過程と︑
づく不均衡の調整過程とに分けて述べる︒
まず前者からはじめよう0ミルが仮定しているのは︑凶作のような一時的な場合ではなく︑通常の値段にて一国
の永続的な輸入品需要がその国の輸出品にたいする外国の永続的な需要を超過して︑国際需要の均等がまだ樹立さ
れていない場合である︒この場合︑均衡を回復するには︑少なくとも外見上︑物々交換制の場合と貨幣制の湯合と
ではその道行を異にする︒物々交換制の場合には︑その輸出品を安く差し出して︑均衡を回復するに足る需要を生
ぜしめる以外にはない︒しかるに貨幣制の場合には︑輸入超過分は従来と同じ値段で引き取るが︑これと等価の物
品を輸出しないのであるから︑同国は借越しとなり︑為替は不利となり︑その差額は貨幣で支払わなければならな ニ八
399
二九
い︒この貨幣の現送は︑流出国の通貨の減少︑物価なかんずく輸出品価格の下落を生じ︑他方流入国たる外国の物
品の絶対的または相対的な値上りを生じ︑外国のこの国の従来の輸出品にたいする需要増加︑または今まで輸出し
なかった商品にたいする新しい需要が生じ︑他方︑この国の外国品にたいする需要が減退し︑ここに輸出入の均衡
閲が回復されるのである︒
次に一方的な国際支払︑たとえば︑貢納︑不在地主への地代送金︑外国債権者への利払︑政府の国外出費などの
場合の調整過程についてはミルは次のように説明する︒`
物々交換制の場合では︑ここに仮定した年々の仕送りは物品にて行なわれ︑しかもこの輸出には報酬がないので
あるから︑もはや輸出入の相償うことは必要ではなく︑かえって仕送りの価値に等しいだけの輸入超過を年々見な
ければならない︒以前には外国貿易が自然的均衡状態にあったものとして︑この輸出超過を生ぜしめるには︑輸出
品を外国に以前より安く差し出して追加的需要をつくり出す方法より他はない︒貨幣制の場合も同じ結果であって︑
義務的仕送りの始まるとき貿易は均衡の状態にあったと仮定すれば︑最初の仕送りは必ず貨幣で行なわれ︑これが
ため送金国の物価下落︑受領国の物価騰貴を生じ︑かくして輸出入に影響し︑年々の仕送り額に等しい輸出超過が
実現されるや︑もはや貨幣の現送は起こらず︑輸出入の均衡は存在しないが国際収支の均衡は存在し︑為替は平価
にあり︑貢納または送金は事実上物品で支払われるのである︒
このミルの機構は︑われわれが本節の冒頭で示した物価l正貨流出入機構の典型である︒ヴァイナーは﹃カナダ
の国際貸借﹄の検証において︑右のミルのトランスファー機構を適用するのであるが︑この場合︑彼はミルの﹁義
四務的仕送り﹂または﹁貢納金﹂を﹁貸付﹂と読みかえるべしと述べ︑ミルの機構を次のように要約している︒︵ただ
し括弧内は筆者︶
古典学派の物価I正貨流出入機構︵木村︶
400
古典学派の物価I
正貨
流出
入機
構︵
木村
︶ 借入国宛手形の価格が騰貴する︵支払差額←為替相場変動︶
為替が貸付国の金輸出点︵借入国の金輸入点︶に達するに伴い︑貸付国から借入国への金移動が起こる︵為
︵金移動←︵ ②
替相場変動←金移動︶
③両国における物価水準の相対的変動︑すなわち借入国の物価騰貴と貸付国の物価下落が生ずる 通貨数量増減︶←物価の相対的変動︶
山輸出入の変動︑すなわち借入国の貿易収支は不利となり︑貸付国の貿易収支は有利となる︵物価の相対的変
動←貿易変動︶
借入国の輸入超過額が借入額とちょうど等しくなった後︑為替は平価に復帰し︑金移動は止み︑両国の相対
5 的物価は新しい水準に安定する︵国際収支均衡回復︶
ところでミルの機構は両国の物価変動を通じて成就される価格効果のみに限られたものかというと︑必ずしもそ うではなく︑均衡回復の一要因として正貨のトラソスファーから生ずる両国における貨幣所得の高における相対的 なシフトを含むものである︒
﹁その結果︹輸出品の生産改良の︺として第一に︑その物品の価格が下落し︑それにたいする外国の需要が起こる︒この新輸出
は︑貿易の均衡を乱し︑為替の関係を転じ︑貨幣は国内︵イギリスと仮定しよう︶へ流入し︑物価の高まるまでいぜん流れ入るで
あろう︒かく物価騰貴すれば︑新輸出品にたいする外国の需要は幾分阻まれ︑またイギリスの従来の輸出品にたいする外国の需要 もまた減少するであろう︒かくして輸出は減少を見るであろう︒と同時に︑イギリスの公衆は︑より多くの貨幣を所有することと なり︑したがって外国品を購買するの力を増大するであろう︒彼等もしこの増大したる購買力を行使するならば︑輸入は増加する
であろう︒しかしてこの輸入の増加および輸出の減少とによって︑輸出入の均衡ほ回復せられるであろう︒﹂
このミルの章句に含まれる貨幣所得の相対的変動については松井栄一氏は次のように正しく評価している︒それは
゜
401
註 ︑︑︑︑︑︑︑﹁正貨移動の結果生ずるものであることである︒従ってそれは︑近代理論にいうところの購買力の移転
11
需要推移
とは︑いささか性質を異にするものの如くである︒蓋し︑後者にあっては購買力の移転には金の移動を必ずしも必
闘要としないからである︒﹂と︒
ミルをもって整備されたとみなされている古典学派の物価上止貨流出入機構はその後どのような理論的展開と実
証的吟味が行なわれたであろうか︒これが次節以下の課題である︒
山D•Hume,
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皿イヴェルセンは貨幣的トランスファーがいかにして究極の実物的トランスファーまで導かれるかを問題とするいわゆる
古典学派の物価I正貨流出入機構︵木村︶
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402
古典学派の物価I正貨流出入機構︵木村︶
トラソスファー機構論の立場を二つに分け︑一方︑資本移動←金移動←通貨数量の変動←物価変動←貿易変動の過程すな
わち物価I正貨流出入機構を説く立場を﹁古典理論﹂と呼び︑ソーントン︑J.S・ミルを先駆者として︑ゴッシェン︑
マーシャル︑クウシッグ︑ヴァイナーについて検討し︑他方︑資本移動←購買力の移転←両国の需要状態の変動←貿易変
動の過程を説く立場を﹁近代理論﹂と呼び︑バステープル︑ニコルソン︑ヴィクセル︑ホラどクー等について考察し︑さ
らにドイツ賠償金支払問題をめぐるケイソズとオリーソの対立を検討している︒
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なお鬼
頭仁三郎氏はそれぞれ﹁供給説﹂︑﹁需要説﹂と呼び︵鬼頭仁三郎︑国際資本移動論五0︑五八頁︶︑また松井栄一氏はそ
れぞれ﹁価格変動説﹂︑﹁需要推移説﹂と呼ぶ︵松井栄一﹁いわゆる古典学派のトランスファー理論について日﹂︑国民経済
雑誌︑第七0
巻第四号︑五一頁︶︒また﹁近代代理論﹂は一般に︑﹁購買力移転説﹂とも呼ばれている︒
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⑮援助金の場合の支払調整過程についてのリカード解釈ほ︑増井光蔵﹁国際支払理論におけるリカアドォの立場は﹂︑国
民経済雑誌︑第六四巻第三号︑七一ー八七頁に詳しい︒
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一 戸 E I
下如雄叩吹ミル立匹済学子百心呻デ3︑
403
貿易収支︑資本移動へ賠償金などの一方的支払︑これらの結果生じた支払差額は受取国宛の為替手形の価格騰貴
をひき起こし︑それが支払国の金輸出点︵受取国の金輸入点︶に達するや︑金移動が始まるのであるが︑しかし金
移動をまたずに︑為替変動が直接に貿易や資本移動に作用する場合がある︒為替逆調が輸出促進︑輸入阻止の直接
山的効果をもつことは既にリカードやミルにも見られるものであるが︑ヴァイナーは正貨輸送費の低下せる今日︵た
とえば彼の検証したカナダの場合には殊にそのことがあてはまる︒次節参照︒︶︑為替変動の輸出入に及ぼす直接的
岡影響は無視し得ると述べるが︑それが短期資金移動すなわち︑証券︑銀行残高︑期限付債務の決済あるいは延期︑
囚国際短期ローンに及ぽす影響は認める︒このことは田中金司氏によれば︑﹁たとえば甲国の為替の逆調は︑外国の
資本家が甲国貨幣表示の証券︑手形の類を今までよりも少ない自国貨幣をもって買い得ることを意味するからで︑
固さらに偶然的な攪乱のもとでは︑相場ほ回復される予想のもとに︑資本輸入が一層促進されるのである︒﹂後者ほい
古典学派の物価I正貨流出入機構︵木村︶
︵ 一 ︶
(27) (26) (25) (24) ︱ ︱ ︱ 10
ーニ頁︒
閲
I bi d
,
pp
.
37516,訳3
︑三
一五
ー八
頁︒
I bi d
, pp.
3 7 9 1 1 0 ,
~3、三二九・—――-0頁。
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7.
訳3
︑ 一 ︱ ︱
︱ ︱ ︱ 二
頁 ︒
松井
栄一
︑前
掲︑
六八
頁︒
物価
I正貨流出入機構の理論的展開
支払差額←為替相場変動←金移動
第二節