︿論説﹀
公的扶助と生活困窮外国人
高橋保
目次
はじめに
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第 第 第 第 四 三 ニ ー
二︑
三︑生活保護法の国民概念の拡大
四︑住民としての外国人
おわりに 旧生活保護法と生活困窮外国人
現行生活保護法と生活困窮外国人
公的扶助と国際規範
生活困窮外国人の課題
︑内外人平等待遇原則
人間の尊厳と生存権の人類普遍性
はじめに
本稿は︑わが国に居住する生活困窮外国人と公的扶助に関し︑わが国の公的扶助制度である生活保護法の現状を分
析し︑これについての国際規範と比較検討しながら︑今後の課題を明らかにしたものである︒
近年︑経済の国際化の進展が著しく︑これにともなって日本国に居住する外国人が増加してきた︒法務省入国管理
局登録課統計情報(平成六年)によると︑平成五年末現在の外国人登録者総数は︑一︑三二〇︑七四八人であるとさ
れている︒永住者については︑六三一︑八一二人であるとしている︒また︑法務省入国管理局の﹁平成六年における
入管法違反事件について﹂(平成七年)によると︑現在社会問題になっている不法残留者総数は︑平成六年=月一
日現在で︑二八八︑〇九二人であるとされている︒これらの外国人たちは︑韓国︑朝鮮︑中国を上位に︑フィリピン︑
イラン︑マレーシア︑ペルー︑台湾︑バンクラデシュ︑パキスタン︑ミャンマーなど︑あらゆる外国からやってきた
人たちである︒このように︑わが国に居住する外国人が増加してきたことは︑道路や乗物やスーパーなどで︑外国人
と出合ったり︑家の隣りに外国人が住人でいたりしていることでわかる︒いまや︑わが国は︑以前のように単一民族
としてではなく︑多様人種の外国人と共存する時代になっているわけである︒
ところで︑外国人の増加にともない︑生活困窮外国人をめぐる社会問題が惹起してきた︒わが国の国民の多くは︑
外国人に対して友好的ではあるが︑反面︑彼らを客観的に眺めているだけに止まり︑彼らと積極的に連帯.協調して
共存していく意識に乏しい︒その結果︑外国人の側からみると︑日本国民と比べ︑おおくの差別を強いられ︑その延
長線上に生活の困窮問題が存在しているのである︒ある外国人は︑けがの治療はしているものの︑療養休業中の賃金
補償がないため︑生活に困窮している︒ある外国人は︑治療費を支払えないため︑診療拒否されている︒このように︑
公 的扶 助 と生 活 困 窮外 国人
日本国に居住しながら︑生活に困窮している外国人の例をあげれば︑枚挙にいとまがない︒
しかし︑わが国では︑生活に困窮する外国人に対しては︑十分な保護措置がなされていない︒わが国では︑半ば放
置されているのが実情である︒ましてや︑不法入国者や不法就労者の外国人に対しては︑いかに生活に困窮していて
も︑見殺しの状態にあるといってよいであろう︒このような生活困窮外国人に対するわが国の実情は︑ヒューマニズ
ムの立場から問題であることはもちろん︑人権保障や社会秩序︑あるいは国際平和の上からも問題であり︑早急に見
直し︑解決されなければならない︒外国人といえども︑同じ人間であり︑人間として人間尊厳を受ける権利があり︑
それにふさわしい人権が保障されなければならない︒したがって︑外国人の個人的側面からみても︑わが国の実情は︑
早急に見直おさなければならない︒
本稿は︑右の問題意識に立って︑公的扶助制度である生活保護法の現状︑公的扶助に関する国際規範の現状などを
分析した上で︑国際的視野の面から生活困窮外国人に対するわが国の課題を明らかにしたものである︒
第一旧生活保護法と生活困窮外国人
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わが国の公的扶助制度の下で︑生活に困窮する在日外国人は︑いかなる法的地位にあるか︒古く︑わが国の公的扶助が制度らしき型をなしたものとして︑明治七年の﹁憧救規則﹂がある︒この伽救規則は︑
太政官達による時限的な規則で︑その基調も﹁隣保相扶の情誼﹂に置いていた︒つまり︑困窮の救済は︑人民相互の
情誼にするものとして︑国の責任によるものではなかった︒その意味で︑伽救規則は︑近代的な公的扶助制度とはい
いがたい︒また︑救済の対象も制限的で︑独身の老人︑幼者︑身障者︑疾病者に限られていた︒問題は︑この憧救規
則が外国人に適用されたか否かについては︑規定上は明らかでない︒むしろ︑当時の情況から判断して︑否定的に考
えられる︒
昭和四年になると︑﹁救護法﹂が成立してくる︒この救護法も︑血救規則と同様︑その基調を﹁隣保相扶の情誼﹂
におき︑公的扶助制度として不可欠な国家責任についての法文上の規定を欠いていた︒また︑救護の対象者も︑六五
歳以上の老衰者︑一三歳以下の幼者︑その他身体・精神障害者に限られ︑外国人についての規定を欠いてい(起︒一九
二九年の救護法の立案および運用にあたった内務省社会局の見解によると︑﹁本邦在留外人にして救護法第一条に該
当するものあるときは同法により救護すべきものなりや﹂の質疑に対して︑﹁本法関係法令には別段の明文なきも本
法は貧困なる外国人は之を救護せざる建前にて立案せられたるものなるを以て︑仮右の如き者あるも救護せざるを適
を 当とす﹂と答えている︒
昭和一二年になると︑﹁母子保護法﹂が成立してくるが︑同年︑第七四回帝国議会における母子保護法案の審議に
そなえた内務省社会局作成資料︑﹁予想質疑応答﹂で次のように述べているのが注目される︒すなわち︑﹁国内ノ外国
人ハ本法二於テ扶助ヲ為スヤ︒﹂に答えて︑﹁差当リ外国人ハ扶助ヲシナイッモリデアリマス︒﹂としながら︑﹁貧窮外
国人ノ救済二関シテハ現二国際連盟二於ケル貧窮外国人救援二関スル専門委員会二於テ条約案及勧告案を考究中デア
リマシテ我国ヨリモ委員ヲ出席セシメテ居リマスカラ其ノ結果二依ッテハ外国人ヲモ援助スル要ガアルカモ知レマセ
ヨ ン︒﹂と述べている︒
第二次大戦後︑一九四六年(昭和二一年)二月二七日︑GHQは︑SCApIN七七五号指令︑﹁公的扶助に関す
る覚書﹂をだし︑﹁差別または優先的な取扱をすることなく平等に困窮者に対して適当なる食糧・衣料⁝与えるべき
・.・﹂として︑困窮外国人を含む無差別平等の公的扶助をなすべき旨を日本政府に対して指示するに至った︒このSC
APIN七七五号については︑若干の異論はあるが︑それが直接的︑間接的な背景となって︑同年九月に生活保護法
公 的 扶助 と生 活 困窮 外 国人
7 (以下︑﹁旧生活保護法﹂という︒)が成立してきた︒
一九四六年七月一八日の河合国務大臣の旧生活保護法案提出理由説明は︑国会で以下のように述べている︒﹁新た
に︑生活保護法を制定して︑現に生活保護を要する者を広く網羅しまして︑事由の如何にかかわらず︑差別的又は優
ヨ 先的の取扱いを廃めまして︑普遍平等の立場に立って保護の実を挙げんとする次第であります﹂︒こうして成立した
旧生活保護法は︑一般扶助主義︑国家責任︑無差別平等の原則を基調とした︑わが国救貧立法史上の画期的な公的扶
助立法であった︒
ところで︑旧生活保護法︑一般扶助主義の原則に立ち︑その第一条で︑﹁生活の保護を要する状態にある者の生活
を︑国が差別的又は優先的な取扱をなすことなく平等に保護し﹂と定めている︒この法文では︑困窮外国人に対する
適用の有無についての明文を欠いているが︑その趣旨は︑﹁内外人平等の原則を採り︑この法律は日本国民のみなら
ず︑日本国に居住または現存する外国
人勘人にも適用する﹂を建前としたもので掴幡あるとされて蒙.
O
旧生活保護法下で保護iされ た
国 籍
米 国
英 国
ベ ル ギ ー
ブ ラ ジ ル
中 華 民 国
オ ラ ン ダ
フ ィ リ ッ ピ ン
台 湾 省
ド イ ツ
蒙 古 人 民 共 和 国 ポ ル ト ガ ル ポ ー ラ ン ド
ソ ヴ ィ エ ト連 邦
ト ル コ
白 系 ロ シ ア
無 国i籍
合 計
世 帯 数 3 1 1 1 46
1 5 12 13 3 1 1 4 2 3 2 99
人 員
10 3 1 4 89
1 23 18 20 3 1 1 6 5 3 10 198
資料 出所:小 山進治郎編 「生活 解釈 と運用」103頁,
旧生活保護法が内外人平等の原則を
採用していることは︑行政通達︑﹁生
活保護法施行に関する件﹂(第1一般
事項の5)においても確認されている︒
すなわち︑一般事項の5は︑﹁本法に
よる保護は︑差別的又は優先的な取扱
をせず平等に保護するものであるから︑
宗教的社会的又は国籍等の関係で不利に取扱をなさないこと︒﹂としている・
実際︑右の行政指導により︑旧生活保護法の下で保護を受けた外国人も少なからず存在した(前頁図参照)︒
このように︑旧生活保護法が︑生活保護について︑内外人平等待遇の原則を採用した背景はなにか・ポツダム宣言の受諾にはじまる第二次大戦後︑わが国の国情竺変し︑平和と民主主義の強化︑基本的人権確立と並んで・国際協
調主義が重んぜられた︒内外人平等の原則はこのような状況の中で採用されたものといえよう・
第二現行生活保護法と生活困窮外国人
旧生活保護法は︑無差別平等などの原則と並んで︑国家責任による扶助の原理を明らかにしていることにおいて・
評価すべきものがあった︒しかし︑せっかく国家責任の原理を確立したものの︑個々の要保護者による保護請求権の
有無については︑明らかでなく︑むしろ否定的に解されてきた︒他方︑旧生活保護法の下で︑その保護に依存しなけ
ればならない人の数も次第に増加してきた︒こうしたなかで︑一九五〇年(昭和二五年)五月に・現行生活保護法が
成立した︒昭和二五年三月二二日の林国務大臣による同法の法案提出説明によると︑以下のように述べている・﹁⁝わが国現下の情勢より見まするとき︑ここしばらくの間は︑その制度の保護に依存しなければならない者の数の漸増
する.﹂とが予想されますので︑.﹂の際︑.﹂の制度を急速に整備強化することが︑必要となって参ったのであります・
・.・現行の生活保護制度を真に憲法第二五条の定める理念にふさわしいものたらしめるよう︑ここに生活保護法の全
面的改正を提案することといたしたのであり浅壁︒﹂
このように成立した現行生活保護法は︑旧生活保護法とどこが違うのかについて触れておきたい・その主な相違点