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陶材焼付鋳造冠の色調選択に関する 色彩学的検討

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(1)

岩医大歯誌 15:1−8,1990

原 著

陶材焼付鋳造冠の色調選択に関する 色彩学的検討

中里登紀子 石川成美 三善ふみ子 伊藤創造 佐藤理一郎 古川良俊

      石 橋 寛 二

      岩手医科大学歯学部歯科補綴学第二講座          [受付:平成2年2月15日]

 抄録:視感比色法による色調選択は誤差を生じやすく,多くの問題点が指摘されてきたが,その現状 および精度に関して詳細に分析した報告はない。そこで色調選択の指針を探ることを目的として歯科医 師による日常臨床に即した条件下での色調選択の現状に関して色彩学的に分析,検討した。

 その結果,色調選択の精度は対象歯の歯冠全体の色分布に影響を受け,色分布が複雑な症例において は,著しく精度が低下した。また,色調選択に苦慮するような症例においては明度が低く,青一緑方向 のシェイトガイドを選択する傾向があった。さらに,色調選択の精度に対して臨床経験年数による差は 認められないものの,経験年数の多い歯科医師は著しく色調の異なった選択を避ける傾向にあった。

Key words:Porcelain−fused−to−metal Restoration, Shade selection, Color

緒 言

 陶材焼付鋳造冠は天然歯に近似した自然感の ある色調が得られる歯冠補綴物として広く臨床 に用いられている。審美的に良好な色調を再現 するためには,支台歯形成をはじめとした臨床 術式や一連の技工操作はもとより,色調選択の 精度が重要な因子である。色調選択の方法とし ては視感比色法と測色機器を使用した物理的な 測色法に分けられるが,日常臨床においてはほ とんどの場合,シェイドガイドを用いた視感比 色法が行われている。色調選択に際して,口腔 内の諸条件,周囲の照明条件,個人の色彩感覚,

さらに対象歯の色調の複雑さなど多くの因子が その精度に影響を与えており,色調の選択に苦 慮する場合も少なくない。しかし,臨床におけ る色調選択の精度や方法論に関する報告は少な く,また適正な選択方法も確立されていない。

 そこで,色調選択の精度向上を目的として,

その指針を得るために日常臨床の色調選択の現 状をふまえて,色彩学的に検討した。

実 験方法

1)測色装置

歯冠色およびシェイドガイドの測色には,三 刺激値直読型のライトガイド方式色差計CD一

Colorimetric study on the shade selection of porcelain−fused−metal restoration.

 Tokiko NAKAsATo, Shigemi IslHKAwA, Humiko M【YosHI, Sozo IToll, Riichiro SATo,

 Kazutoshi FuRuKAwA, Kanji IsHIBAsHI

  (Department of Fixed Prosthodontics, School of Dentistry, Iwate Medical University,

 Morioka O20)

岩手県盛岡市中央通1丁目3−27(〒020)       Dθπε.正∫ωαZθMe♂σπiu.15:1−8,1990

(2)

CER

竺襯;

撚・÷・

CEN

㌫轍 灘撚1

INC

Fig.1:Localization of color measurement    Cer; Cervical region. Cen; Central    region Inc;Incisal region

270(村上色彩技術研究所製)を使用した。本 装置は口腔内の微小部位の測色を目的とし,石 川ら1)が改良を加えたもので,光源は12V,50 Wのハロゲンランプを使用し,外部照明の影 響を受けずに測色が可能である。今回の実験に

は長径3mm,短径2mmの楕円形の測色範囲 を有するライトガイドMを使用し,測色値は 3回測色の平均値とした。

2)評価および選択対象歯

 色調選択の評価者は岩手医科大学歯学部歯科 補綴学第二講座の歯科医師14名とし,その内訳 は臨床経験1年の歯科医師が3名,2年が4名,

3年が3名,5年以上が4名である。また色調 選択の対象歯は,20歳代男子の健全な上顎右側 中切歯とし,切縁から歯頸部へかけての色調が 視覚的に単純な症例(単純例と略す)と,複雑

Table 1:Color variations in the subjective tooth

な症例(複雑例と略す)の合計2例とした。な お,測色は唇面を近遠心的および上下的に3分 割した,中央部分の歯頸部,中央部,切縁部の 3部位とした(図1)。

3)色調選択の方法および分析内容

 色調選択は昼日の自然光下で室内において行 い,シェイドガイドとしてLUMIN−VACUM⑧

(VITA社製)を使用した。色調の選択術式は,

評価者各々が日常臨床で行っている方法のまま,

特別に指定せず選択させた。対象歯の各部位に おいて選択されたシェイドの数と割合,歯冠色 との色調差にっいて分析し,色調選択の精度お よび方向性にっいて検討した。さらに対象歯の 色調構成と色調選択の傾向との関連性にっいて も検討した。なお,表色系はCIELABを使用 し偏色判定法により色差およびその内容に関し て色彩学的に分析した。

 統計的分析は,平均値の検定として一元配置 分散分析およびNewman−Keuls testを使用し

た。

結 果

1)対象歯の色調

 色調選択の対象とした上顎右側中切歯の単純 例と複雑例に関する色調分析結果を表1に示す。

単純例では歯冠中央部に対し切縁部および歯頸 部の色差dEは2.0以下で,さらに歯頸部と切縁 部ではdEO.62と非常に小さな色差を呈してい

(CIELAB)

subject region dE

dL da命 db

dC

dH

simple case

Cen→Inc Cen→Cer Inc→Cer

1.91

1.63 0.62

 0.05

0.11

0.16

1.10

0.51  0.60

 1.55  1.54

0.01

1.36 1.36 0.01

1.33 0.89 0.60

complex case

Cen→Inc Cen→Cer Inc→Cer

3.38 3.28 5.17

3.05  1.98  5.04

一 〇.23

0.35

0.12

1.43 2.59 1.16

1.35 2.48 1.13

0.52 0.82 0.30

Cen:Central region  Inc:Incical region  Cer:Cervical region

(3)

岩医大歯誌 15:1−8,1990

た。また色差の内容,すなわち明度差dL 色相 差dC彩度差dHAのどの成分にも特徴的な傾向 は認められず,切縁から歯頸部にかけて単調な 色調を呈していた。

 一方,複雑例においては中央部,切縁部,歯 頸部いずれの間の色差ともdE3.0以上で,切縁 と歯頸部ではdE5.17と高い値を示した。その

内容に関しては明度が切縁部から中央部,歯頸 部にかけて増加しており,切縁部と歯頸部では 特に大きな差が認められた。また色相には大き な差は認められないものの,彩度に関しては中 央部に対して歯頸部および切縁部において高い 値を示し,歯冠全体の色調分布が複雑で多岐に

およんでいた。

Table 2 a l Analysis of the selected shade guide in regard to simple color examples、

      InCiSal regiOn

color variables ofthe shade

guide

shade No、 %of selection

dE

dL da* db章

dC

dH

A2 50

2.06

〇.14

1.67 工20 1.17

1.69

C1

7 2.38

〇.55

2.25 0.56 0.66 2.22

B1

14 3.75

1.55

2.37

2.46

2,05 2.73

A1

21 3.92 3.58

1.34 0.87 0.81 1.38

B2 7 4.54 2.26

1.26 3.73 3.66

1.46

*:Optimal Guide

Table 2 b:Analysis of the selected shade guide in regard to simple color examples.

      Central region

color variables of the shade

guide

shade No. %of selection

dE

dL     da     db

dC

dH

A1零

Bl A2 C1

29

14

43

14

3.30 3.62 4.76 7.64

一 1.71    −2.45     1.40  0.82    −3.16     1.55

− 0.43    −1.71     4.42

− 6.20    −3.89     2.19

1.58 2.07 4.28

3.01

2.34 2.85 2.05 3.30

*:Optimal Guide

Table 2 c:Analysis of the selected shade guide in regard to simple color examples.

      Cervical region

shade No. %of selection

color variables of the shade

guide

dE

dL°     da°     db°

dC dH

B2零

Al A2 C1

21 14

50

14

1.68 3.23 3.90 5.11

一 1.52    −0.61      0.37

− 3.00    −1.03    −0.60

− 3.76    −0.87    −0.59

− 4.58    −0.98    −2.05

 0.46

0.33

0.39

− 1.58

0.55

1.14

0.98

1.64

*:Optimal Guide

(4)

2)色調選択

 選択されたシェイドの種類と割合,および色 差とその内容にっいて表2,3に示す。単純例 の歯頸部,中央部で選択されたシェイドは各々 4種類,切縁部では5種類であった。一方,複 雑例においては選択されるシェイドの種類が多 く,歯頸部,中央部では7種類,歯頸部では9 種類にもおよんでいた。選択されたシェイド

と対象歯との色差は,単純例の切縁部ではdE 3.48±1.43(mean±S.D.),中央部ではdE4.83

±1.97,歯頸部ではdE3.33±1.06,複雑例の切

岩医大歯誌 1511−8,1990

縁部ではdE5.24±1.59,中央部ではdE5.49±

2.06,歯頸部ではdE5.37±1.91であり,複雑例 において色差が大きくなる傾向を認めた。

 また対象歯に最も近い色調を有するシェイド

(Optima仁Guideと表す)が選択される割合 は,部位により異なるものの,単純例では平均 31%であるのに対し,複雑例では16%と低かっ

た。

 っぎに選択されたシェイドと対象歯との色差 の内容を分析し,色調選択の方向性にっいて検 討した。単純例では色度的には偏色判定図の第

Table 3 a:Analysis of the selected shade guide in regard to complex color examples.

      Incisal region

color variables of

the shade guide

shade No. %of selection

dE

dlノ da db

dC

dH

C2

7 3.92

一 L34

2.21

2.95

3.19 1.84

C4

7 4.82

3.13

2.18

2.95

3.02 2.09

B2

14 5.08

1.92

2.80

3.77

3.93 2.58

D2 7 5.08

〇.11

3.10

4.02

4.08 3.01

C3

7 5.10

3.13

2.73

2.95

3.14 2.52

A1 7 5.46 0.45

2.66

4、74

4.59 2.91

A2

21 5.65

〇.31

3.06

4.73

4.77 3.01

B1 7

7.01

2.07

3.64

5、63

4.70 4.77

C1 21 7.05

1、33

3.16

6、19

5.96 3.58

*:Optimal Guide

Table 3 b:Analysis of the selected shade guide in regard to complex color examples.

      Central region

color variables of

the shade guide

shade No. %of selection

dE

dlノ da db治

dC

dH

A2

21 2.43

〇.23

2.42

〇.08 〇.22

2.41

B2

14 3.86

1.86

3.15

1.25

1.29 3.16

A1 14 4.68

一 1.51 一

3.16

3.10

2.92 3.32

B1 7 4.97 1.03

3.87

2.95

2.43 4.22

C3

7 6.96

一 6.61 一

2、18 0.21 0.05 2.19

C2

14 7.64

6.34

3.12

2.91

2.77 3.25

C1 21 ?.90

6.00

4.60

2.32

1.49 4.93

*:Optimal Guide

(5)

岩医大歯誌 15:1−8,1990

Table 3 c:Analysis of the seleced shade guide in regard to complex color examples.

      Cervical region

color variables of the shade gu三de shade No. %of selection

dE d『

da治 db≠

dC

dH

B2

21

1.81

〇.47

1.62

〇.67

一 〇.74

1.58

A1 7 4.00 0.85

1.70

3.52

3.59

1.56

C2

14

456

4.19

1.10

1.40

一 1,48

0.99

A2

21 4.76

一 2.87 一

2.03

3.20

3.23 1.99

A3

14 5.29

一 4.54 一

1.55

224

2。32

1.44

C1

7 5.68

3.28

2.61

3.84

3.74 2.75

C3

7 6.65

6、59

〇.85 0.33 0.26 0.87

D2

7 7.94

5.29

2.38

5.43

5,32 2.59

*:Optimal Guide

4象限に位置しており,色成分すなわちb*の増 加とa*の低下で黄一緑方向のシェイドを選択 する傾向が認められた。また明度に関しては切 縁部から歯頸部にかけてやや明度の高いシェイ ドを選択する傾向が認められた。一方,複雑例 においては偏色判定図の第3象限に位置し,色 成分すなわちa寧,b享の低下で縁一青方向のシェ イドが選択されやすく,切縁部から歯頸部にか けて,より明度の低いものを選択する傾向が認 められた。

 被験者を経験年数で分類した場合,選択され たシェイドの平均色差を表4に示す。経験年数 の違いによる平均色差の大きさに一定の傾向は 認められず,1元配置分散分析の結果いずれの

部位においても経験年数の違いによる色差に統 計学的な有意差は認められなかった。

考 察

 陶材焼付鋳造冠の色調再現性に影響をおよぼ す因子は複雑多岐におよんでいる。特に色調選 択は色調の認識伝達という点で最も大きな影 響力を有するステップであり,可及的に対象歯 に近似したシェイドの選択が要求される。しか

し,その重要なステップである現行の色調選択 には臨床上多くの問題が指摘されている。天然 歯は歯面各領域でその構成要素や,透明度,光 沢などにより色調が微妙に異なり,またこれら は顔色,口腔内環境や周囲照明などにより影響

Table 41dE of selected shade guides from the standpoint of clinical experience.

region clinical

experience compared with contra tooth compared with approximal tooth Cer    Cen Inc

Cer     Cen     Inc over 5 y

    3y     2y     ly

5.21    4.20 4.02    7.81 4.79    5.66 3.85    4.12

5.51 5.35 6.48 5.21

4.46        4.11        2.95

3、16       4.76       2.06

4.04        6.44        4.24 3.34        4.75        3.41

Cen:Central region  Inc:Incisal region  Cer:Cervical region

(6)

されやすい。さらに色彩感覚の個人差が加わり,

視感比色法による色調選択の精度低下を招く要 因はより複雑化するものと考えられる。ところ が,臨床での色調選択は術者の主観,経験個 人の色彩感覚に委ねられ,現状分析や精度向上 に関する研究報告は少ない。

 本実験は臨床のシェイドテイキングを対象と しており,表面色の比較方法としてのJIS−Z 8723の方法2)には直接従わないものの,周囲の 照明条件を一定にし,同一のシェイドガイドを 使用し,評価者が普段行っている臨床術式のま

ま選択された。したがって,本実験における色 調選択の精度には臨床に対応した形での被験者 の色彩感覚や視感比色能力の違いが大きく影響 する因子となっている。色調選択の方法として 応用されている視感比色法はその術式が簡便で,

特定の機器を必要とせず,臨床の場においては きわめて応用しやすい方法であるが,物理的な 測色法に比較して客観性,正確性に劣る2)。人 間の視感比色能力に関しては,系統的な色彩学 的訓練により識別閾が有意に向上することが報 告されている3〜㌔しかし,それと同時に視感 比色能力に影響をおよぼす因子も数多く存在す る。ある照明下では等色していたものが,他の 照明下では等色しないという,いわゆる条件等 色6〜8)(metamerism)があり,色調選択に際 しての照明条件が問題となる。また背景色に関 しては,無彩色の背景は識別能力に影響をおよ ぼさないという報告9)もあるが,臨床での色調 選択においては,視野内に何が入り込むかわか らず,背景の影響は無視できないものと考える。

さらに術者の識別能力や色彩感覚には違いがあ るため,色調選択に際してはこのような視感比 色法の欠点を十分に認識した上で,誤差を最小 限にするための条件の設定が必要と考える。

 本実験における対象歯2例の色調は異なるも のの,最も近似した色調を有するシェイドすな わちOptimal Gufdeとの色差は各部位におい てほぼ同程度である。したがって対象歯に認め

られる色の違いは歯冠全体の色調分布の程度,

すなわち単純な色調を呈しているか,複雑な色

調を呈しているかということになる。対象歯2 例において選択されたシェイドの数や対象歯と の色差を比較すると両者に大きな差があること,

さらに複雑例においては明度,彩度のみならず 色相までに大きな差が認められるシェイドを選 択していることなどから,色調選択の容易な歯 と困難な歯が存在することがわかる。複雑例で はOptimal Guideを選択することができずに,

色系統を越え,かけ離れた色調のシェイドを選 択する割合が大きい。したがって,色調選択に 際して,注視部位と周囲の色調が大きく異なる ことはその選択に大きな誤差を生じる危険性が

ある。

 上顎中切歯の色調は切縁と歯頸部での色差が dE4.0〜8.0のものが半数以上を占めており,ま たdE8.0以上の色差を呈するものが12%存在す る1°)と報告されている。今回対象とした複雑例 では色差dE5.17であり,著しく複雑な色調と は言えないものの,本実験において色調選択の 精度低下を招いた原因としては,歯の色調を認 識する際に単色として認識しやすい傾向があっ たためと考えられる。歯冠色は歯種や部位によっ て色調が異なるこど⑩を知識的には理解して いても,臨床で用いられているシェイドガイド 自体が一っの歯の状態をとったものであり,歯 冠全体の色分布に変化が少ない。また,各シェ イドのCompartmentの方向性は必ずしも天然 歯色調の方向性と一致せず歯冠色に即応しない という問題点も指摘されており1劔,シェイド ガイドの色調にも多くの問題が残されている。

 経験年数が色調選択の精度に与える影響を検 討したところ,単純例,複雑例のいずれの部位 においても選択されたシェイドの色差に統計学 的に有意な差は認められなかった。経験年数が 多いほど色調選択を行う機会は多く,訓練や学 習効果があるとすれば,経験年数の多い歯科医 師のシェイドテイキングの精度は高いものと予 想された。しかし,経験年数による色調選択の違

いが認められなかったことから,臨床でのシェイ

ドテイキングには系統的な視感比色能力の訓練

効果より,個人差による相違が大きいものと推

(7)

岩医大歯誌 15:1−8,1990

察される。識別閾の向上に関するこれまでの実 験3〜 )は,系統的に整理された色票や試料片を 使用しており,また被験者自体が訓練を意識し ているものと考えられる。しかし,日常臨床で の色調選択では症例内容も多岐にわたり,視感 比色を行う環境にも大きな違いがあり,色調選 択に対し視感比色能力向上という目的意識を持っ ているとは考えにくい。さらに臨床における色 調選択は識別試験のように色調の同一性を判断 するのとは異なり,明度差,色相差,そして判定 の難しい彩度差14)が複雑に混合した色調を対象 としており,近似した色調を選択することは決 して容易ではない。さらに臨床経験年数は必ず しも色調選択の訓練経験を直接的に表すわけで はなく,ただちに色調選択に影響を与える因子 ではないと考えられる。

 一方,選択されたシェイドの平均色差値を経 験年数で比較すると有意な差は認められないも のの,経験年数が5年以上の歯科医師は極端に 色調の異なるシェイドを選択することはなく,

選択に大きなばらっきがない傾向が認められた。

このことは,視感比色能力という色彩学的な判 定基準では読み取ることはできないが,なんら かの臨床的経験にもとずく選択基準が存在して いるものと考えられる。すなわち,色調を良く 再現できるシェイドと再現しにくいシェイドを 区別し,また金属へ陶材を焼成した後の色調が シェイドガイドと構造的に異なることなどを十 分に理解しているために,再現性の低い色調を 避ける選択を行ったものと推察される。

 本実験の結果から色調選択の指針を探ると,

色調選択に苦慮するような場合においては,や や明度が高く,黄一赤方向の色味の強い,全体 的には明るめの色調のシェイドガイドを選択す

ることが望ましいと考える。

 近年,歯科における審美性追求の動きが活発 になり,患者側の審美要求が高まっている現在,

歯科医師側の色調認識,伝達の場である色調選 択の現状を見直し,新しい選択基準の開発や補 綴物の製作方法の改良など,色調再現の努力や 配慮が必要であろう。

結 論

 臨床における色調選択の現状を色彩学的に分 析した結果,以下の結論を得た。

1.対象歯と色調の近似するシェイドガイドが あっても,歯冠全体の色分布が複雑な症例では,

色調選択の精度は著しく低下する。

2.色調選択に苦慮するような複雑な色調を呈 する症例では,明度が低く,青一緑方向のシェ イドガイドを選択しやすい傾向がある。

3.色調選択の精度に対し,経験年数による有 意差は認められないものの,経験年数の多い歯 科医師は著しく色調の異なった選択を避ける傾 向がある。

 なお,本論文の要旨の一部は第23回岩手医科 大学歯学会例会(1987年2月28日)にて発表し

た。

 Abstract:It has been reported that color selection by visual matching tended to lead to various problems, including mismatch of color. In none of the earlier studies, accuracy of

visual color matching and other underlying problems had been examined in detaiL To formulate guidelines for color selection, colorimetric analysis was皿dertaken with the

help of dentists who were requested to select color tones according to usual their clinical

procedures.

 The results showed that the accuracy of color matching was considerably influenced by

distribution of color in adjacent teeth as a whole, and that the accuracy was dramatically diminished, as distribution of color in adjacent teeth became more complex. Difficulty in color selection was increased with a decrease in the lightness of tone. In such a case,

dentists tended to select color tones from bluish to greenish shade. Although the accuracy of color matching did not depend on the term of clinical practice, experienced dentists tended to avoid selection of obviously different colors.

(8)

       文     献

1)石川成美,古川良俊,伊藤創造,中里登紀子,

根本ふみ子,佐藤埋一郎,山岸篤,和賀浩幸,畠  山康人,河原木千佳子,石橋寛二:歯肉の測色に

関する基礎的検討一測色装置および測色方法につ いて一,補綴誌,32:462〜470,1988.

2)日本色彩学会偏:新偏色彩科学ハンドブック,

東京大学出版会,東京,1980.

3)Ibusuki, M:The color 6f Gingiva studied

by Visual Color Matching. Part 1. Experi−

mental Studies on the Discrimination Threshold for Color Difference and Effect

of Training. Bul1. Tokyo Med. Dent. Univ.,

22:249〜261, 1975.

4)鬼島成和,塩治孜,片山伊九右衛門,元呑照夫:

歯科医師の色彩感覚能力について一歯冠色範囲の 色票による二点識別能力について一日歯保誌29:

69〜80, 1986.

5)鬼島成和,塩治孜,片山伊九右衛門:歯科医師 の色彩判別テストにおける訓練について:日歯保

誌, 28:909〜924, 1985.

6)指宿真澄,太田忠興,木村益巳,土田隆司,野

 下昭彦他,金田洌二歯冠色の条件等色に関する研

 究,補綴誌,27:1120〜1128,1983.

7)川上元郎:色の常識 第2版,91〜102,日本規  格協会,東京.1986.

8)太田忠興:各種の照明光源下における歯冠色の  見えに関する研究.口病誌,50:450〜465,1983.

9)川瀬誓子:視感比色による陶材色の職別一光源  および背景による影響一,補綴誌,281608〜621,

 1984.

10)中川喜晴:歯冠色分析に関する研究,補綴誌,

 19:109〜130, 1975.

11)加藤愛子:歯冠色の構成に関する色彩学的研究,

 補綴誌,21:570〜584,1974.

12)指宿真澄,加藤愛子,浅岡一馬,今井基泰:バ  イオブレンドシェードガイドの色調に関する研究,

 補綴誌, 20:546〜550.

13)申川喜晴,丸山剛郎,下総高次:陶材補綴によ  るシェイドセレクション(色調選択)に関する研  究,第1報 各種シェイトガイドの構成分析にっ  いて,補綴誌,16:144〜157,1972.

14)平井敏夫:色相差,明度差,彩度差,の色差判断,

色彩研究,27:2〜9,1980.

Table 3 c:Analysis of the seleced shade guide in regard to complex color examples.

参照

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