浅 草 海 苔 の 品質 に 関す る研究―Ⅲ
螢 光 分 光 光 度 計 に よ る フ ィ コエ リス リ ン の 螢 光 分 析
保 田 正 人 ・上 田泰 司 ・山 添 義 隆
(昭 和36年11月20日 受 理)
Studies on the Quality of "Asakusanori"
(Porphyra tenera) —III
Fluorometric Analysis of Phykoerythrin by Fluoro-Spectro-Photometer
Masato YASUDA, Taisi UEDA and Yositaka YAMAZOE
前 報1,2)で は異 っ た保 存 条件 に よ る フ ィ コエ リス リン の 含 有 量 変 動の 相 対 的 な 比較 を試 料 片 の オパ ー ル グ ラ ス法 と濾 紙 に吸着 させ た抽 出色 素 のデ ン シ トメ ー タ法 に よ って行 っ たが,何 れ も色 素の 絶 対 量 を 知 る事 は 出 来 なか っ た.服 部 等3)は 抽 出液 の比 色 に よ る定 量 法 を提 唱 して い るが,フ ィ コ エ リス リン溶 液 は 透 明 で あ る が,海 苔 の 抽 出液 を完 全 透 明 な状 態 に保 つ事 はか な りむ づか し く,し た が って この方 法 では 比 色 は可 能 で は あ るが,不 注 意 な 操 作 に よ って大 き な誤 差 を と もな う可 能 性 もま た強 い,ま た粗 色 素 を分 離 し重 量分 析 に よ る方 法 もあ るが,操 作 が煩 雑 な割 に は好 結 果 が得 られ ず,時 間 的 に も多 数 試 料 の処 理 は 出来 な い.こ の よ う な 欠 点 を 持 た ず比 較 的 簡 単 な方 法 で か な りの 精 度 を も って含 量 を求 め た い と考 え,螢 光分 析 に つ いて 検 討 し た.即 ちフ ィコ エ リス リンは励 起 光 照 射 によ って570〜675の 間 に螢 光 を 発 す る4)の で,こ の 螢光 エ ネル ギ ー 量 を螢 光 光度 計 に よ って 比 較 す る こと で 定 量 を試 み た.一 般 に螢光 分 析 は微 量 定 量法 として の特 徴 を もつ も の で,誤 差 原 因 も少 くな く,か な らず し も比 色 法 に優 る もの で はな い が,抽 出試 料 の稀 釈 率 を 考慮 し,分 析 操 作 を 可 及 的一 定 に し,螢 光 分 光 を 行 って 測定 すれ ば,フ ィ コエ リス リンの 定 量 に充 分 利 用 出来 る ことを 知 った.
実 験 成 績
1.実 験 試 料
フ イ コエ リス リンの 結 晶 化 は服 部3)等 によ って行 われ て い るが,本 実 験で はFig.1の 方 法 を も って 浅 草 海 苔 よ り抽 出純 化 した もの を 使 用 し た.
純 化 物 の 純度 は水 溶 液 の 吸収 ス ペ ク トル よ り 他 の 同系 色 素等 の 混 入 は な く,残 存 硫 酸 ア ンモ ニ ァ も無 視 出
来 る程 度 に微 量 で あ っ た.純 化 直 後の もの 程水 に易 溶 で あ る が,時 間 を経 過 す る と難 溶 性 とな り,ま た純 化
操 作 特 に 中和 が 不 適 当 な 場 合 に も速 か に再 溶 解 性を 消 失 した.本 品 は や や 黒 味 を 帯 び た 紫 紅 色 無 晶状 粉 末
で,水 溶 液 は澄 黄 色 の 螢 光 を も った美 しい 鮮 紅色 を呈 す るが,保 存 に堪 えず 低 温 遮 光下 で も槌 色 を認 め た.
Fig.1フィコエリスリンの抽出純化方法 浅草海苔
←海砂と磨砕 ←水 抽出(24hr)
1 濾 過 T
濾液 残渣
1一四四 1
遠心分離(3000rpm,20min)
1 /
1 [ , 上短∴欝欝
1 1 1 上清 沈 澱 1
乾燥濾紙間で圧搾(水分除去)
←水に溶解(即興のY5容)
←0.5%HCI(pH3〜4に調整)
遠心分離 1 1 1
上清 沈澱(可及的水分除去〉
一s−O.IM−NH40H i
(pH6.3〜6.5に調整)
遮光減圧乾燥 1
純化フィコエリスリン 2.フィコエリスリンの螢光スペクトルと螢光収率の変動
フィコエリスリンの水溶液について螢光スペクトルを求めるとFig.2の如くである.螢光分光には分光光 電光度計附属螢光測定装置(日立EPU 2型,主起励波長365mμ)を用い,光電管の分光感度補正は行ってい ない.螢光エネルギー一の分布は文献値4)よりやや広く55Q〜700mμにわたり,573mμと646mμに極大波長を,
また585mμと694mμに螢光曲線の肩の存在が認められた.
螢光分析において,励起光照射によって起る温度消光等の螢光収率に対する安定性や低下率は標準液とし て純化試料を使用し得るか否かを定めるも
のであり,また測定結果にも影響をあたえ る. フィコエリスリンについて照射時間に よる変動をみるとFig.5の如く,その螢光 量は時間経過に対し直線的に低下し,60分 間では13%に達した.したがって螢光収率 低下による誤差を避けるためには迅速な測 定が必要であり,少くとも励起光による照 射は数分以内に止めなければならない.
螢光量を定める標準物質としては結晶フ ィコ孟リスリンの使用が望ましいが,結晶 の入手が難しぐ,純化物の保存性や測定中 の分解等を考慮すれば,入手が容易で受定 な溶液を作る螢光性をもった高純度の他物
む ⑳壁光エネ匹ギー
50
o
F;g.2 フィコエリスリンの螢光スペクトル
500 600 mo
波畏(撃)
質を選択する必要がある.
3e螢光強度と水素イオン濃度と の関係
一般に溶液の螢光強度はその溶液のpH によって影響をうけ,時には螢光色も変化 することがある.しかしpHによる変動は 普通再現性が完全であるといわれている.5)
フィコエリ.スリンは純化のため溶液のpH を著しく変動させるが,この際肉眼的にも 螢光の消失再現が認められる.したがって pH復元による螢光強度の完全な再現性の 確認と最大の螢光強度を示す測定至適pH 範囲を決定する目的で,pHの異なる溶液に ついて螢光量を比較した.pHの調整は塩 酸又は苛性ソーダを用い,測定の条件は総〆 て同一である.溶液は酸性側に移行すると 帯赤紫色の微梱濁液となり螢光を減じ,pH
3〜4の間では完全に沈降する.アルカリ 性側では槌色はするが沈澱は生じない.螢 光量はFig.4の如くpH:5〜9において殆 んど一定して最高値を示すが,この範囲を 越えると急激に減少する.pH調整後時間 がたつとアルカリ性側で変化がおこり,pH
5〜8と至適範囲の縮少を示した.この結 果は吸光度による観察において安定域がpH 5〜7であった2)こととよく一致してい
る.
Fjg.5励起光照射によるフィコエリスリンの螢光量変動
駅
蛍・光量曾︶
so
o
o
a
pH:6.9
o 20 40
蛍光量宏︶ 欄
so
60 時陶㈲
Fig。4 フィコエリスリン溶液のpHと螢光量
0 4 6 8
A:pH調整後20分 B:pH調整後2時間
X NA x
st
k ts Xo x
10洲
またこれ等の溶液の螢光スペクトルはFig.5の如く, pHの相違による極大波長の位置や螢光エネルギー一 の分布には変りはなく,螢光色が無変化であることを示している.
4.試料濃度と螢高強度
螢光強度は一定の濃度を最強とし,それより高濃度或は 低濃度では低下するものである.フィコエリスリンでは 573mμの測定においてF;g.6の如く!mg/m2溶液にお いて最高であったi試料を稀釈してゆくと濃度螢光強度 曲線は段々と直線に近づき,0.04mg/m4(4mg%)溶液 の螢光を基準とした場合(図のIV線)には殆んど直線関係 が成立する.しかしIV線では若干誤差が大きくなる.定量 用標準曲線としてはIV線又は0.2mg/m 4(20mg%)溶液 を基準とする皿線の使用が適当であるが,誤差的には皿線 の使用が有利ではないかと考える.
5.標準物質の選定
Fig.5pHを異にするフィコエリスリン 溶液の螢光スペクトル
櫛璽光茉ルヤー刃 ︒ 砂塑雛稲
フィコエリスリンを螢光分析の標準物質とすることは前 にあげた理由によって不適当であるから,これに代るべき
igo
600
波長(MJt)
30
物質をえらぶ必要がある.一般にこのよう な目的のために,;硫酸キニーネ,フルオレ センソーダ等の螢光性物質が繁用されてい るが, それ等の螢光極大波長は前者で455 mμ,後者では540mμ近辺にある.本実験に おいてはフィコエリスリンに近似した螢光 極大波長(586mμ)をもち,純品の入手も 容易で安定な物質であるという条件を考慮
してu一ダミンBを選定したが, これ等の 物質の螢光スペクトルはFig.7のようにな っている.
フィコエリスリンとu一ダミンBとの濃 度一高光強度曲線を光度計の絞り,感度等 の測定条件を全く動かさないようにして求 めるとFig.8のようになった. n一ダミン Bでは図のRI線の示す如く,4mg%溶液 までは急激に増加して最大となり,それ以 上の濃度では減退する. 両者の螢光強度の 一致点はローダミンBのRI線とフィコエ リスリンのF線との交点及び近似的に一致 するR皿線とF線上にあり, これ等の各位 躍における両者の濃度が基準及びその対応 濃度として適している.RI線とF線の交点
では両者共20mg%と一致し好都合にみえる が,欠点としてその前後における螢光強度 の変化がn・一ダミンBでは比較的大である,
したがってR混線一F線上において測定し た都合のよいフィコエリスリン濃度を定め,
これと対応するm一ダミンBの濃度を基準 液濃度とすることにした.即ちF;g.6にお
佃壁光量2
>o
o
F;g.6 フィコエリスリン溶液濃度と螢光強度 」
o
.
e/Y
1
(噂/mし)
F;g. 7
100
蛍 渉
手禿 ず
50
o 166
孟4 謙 毯 號︑ 擬B
l瑠
ローダミンB等数種螢光性物質の螢光スペクトル
工 皿
ゴ ノ ノ ノ
It/
l目皿 il,
1 i
:x k x k IN
t 1 N N
N x
ける標準曲線として使用出来る皿及び】V線の螢光量 基準となる濃度(20mg%及び4mg%)に相当する u・一一ダミンBの0.lmg%及び20μg%溶液を用いるこ ととした.
6.海苔の水抽出液の螢光スペクトル
有機物の螢光は測定操作を一致させた場合にも,
試料の物理的状態,濃度,第三物質の存在等によっ て微妙な影響をうけ,しばしば消光現象による誤差 を生ずることが認められている.
海苔の抽出液はフィコエリスリン溶液に比較する と粘度其他の物理的性状もかなり異っており,第三 物質の混入も著しく多く,測定値にどの程度の影響 をあたえるかは不明である.しかし螢光スペクトル によって両者を比較するとFig.9に示す如く,
1皿皿F
Fig.
500
:硫酸キモーネ
:フルオレセンソLダ
1 壁光量︵π︶ oo
50
o
600
波長(ツ)
n一ダミンB フィコエリスリン
8同一測定条件によるフィコエリスリン及 びローダミンBの溶液濃度と螢光強度 rfff
,ノで
R 7 コ
RI
0一α
RI〜血 F
2.0 30 40 Ml)(F)
2 3 4(R皿)
O.1 O, ls O,2 (RIZ)
9R;鍍(領3勿)
ローダミ
唐a
フィコエリスリン
31
600mμ以上の長波長域での不一致が目立つが,そ れ以下の渡長域では大差なく,、特に極大波長附近 では良く一致している.したがって螢光全量測定 法による定量ではこの不一致点が原因となってか なりの誤差を生ずる恐れもあるが,螢光分光法に より極大波長(573mμ)のみに限定して螢光量を 測定すれば殆んど影響はうけないと考えられる.
抽出一中の第三物質による消光現象等の影響を みるため,含有フィコエリスリンの殆んど大部を 湿潤状態で紫外線照射により分解した海苔の水抽 出液を作り,フィコエリスリン溶液に添加して螢 光量の変動をみた.この抽出液は淡黄色で,573 mμにおける螢光量は本実験に使用したフィコエ リスリン溶液(濃度不明)をIOO %とした場合12
%であった.その結果はTab.1の如く,抽出液 の添加量と消光率との間には一定の関係はなく,
平均3.5%の減少となった.
G
10
一覧エネルギーo
Fig.9海苔の水抽出液の螢光スペクトル
ノ
1 一
﹂6
K
X.=. 一tt NN
N
sN
N N
蜘
600海苔抽出液
一一一一一 @フィコエリスリン溶液
700
灘…!mJL)
丁ab.1海苔水抽出液によるフィコエリスリンの螢光収率の変動
螢光測定溶液の混合比
フィコエリスリン
i
±
1 1 1
水
1
O.7O.5
O.3
o
海苔抽出液
o
O.3O.5
O.7
1
平 均
予定螢光量 (%)
ICO 104 106 1e8
U2
測定螢光量 (%)
IOO IOi 100 106
!08
消 光 率 (%)
︶Q︶ 準λ
基
︵
5.8
L8
3.9
3.5
したがって天然物を取扱った場合,若干の誤差の生ずることは避けられないが,
のものによる抽出等特殊な場合を除くとその程度は比較的小さいものといえる.
塩類添加試料とか水以外
フィコエリスリンの螢光定量法
実験結果を綜合し,海苔中のフィコエリスリン量は次の方法で定量することが出来る.
1.試料抽出液及び標準液の調製
(1)試料50〜10M2(生鮮物では約10倍量)に少量の海砂と水を加えて磨恥し,全量を正確に20m6とし,
・一
許骼ユ光下室温で放置する.放置後遠心沈澱し上清の一部をとり,その螢光量がローダミンB基準液の示 す螢光量以下となるように稀釈して測定用稀釈抽出液とする.
(2)基準液は1%n 一一ダミンB水溶液の工OOO倍稀釈液(lM9%液)を原液として遮光下密栓をして貯え,
測定時その10倍(基準液〔1〕)又は60倍(基準液〔皿〕に稀釈して使用する.
2.螢光測定と含量の算出
基準液〔1〕又は〔1[〕を用い,螢光分光光度計の指針を586mμでIOO%に合せ,絞り,感度等の条件を動
かすことなく波長のみを5731hμに切り換え,基準 液を測定用稀釈抽出液ととり換えた場合の螢光量 を測定する.
測定結果よりFig.10の検量曲線〔1〕又は〔丑〕
(基準液によって定まる)と次式によりフィコエ リスリン量を算出する.
検量線より求めた量×20×稀釈倍数÷(IO×試
:料重量脆の=フィコエリスリン量(%)
考 察
浅草海苔の槌色をフィコエリスリン含量の変動 によって追究する場含,比較含量によることは簡 単であるが,その絶対量は適当な定量法がないた め測定が困難であった.この点を螢光分析によっ て解決出来ることを知った.しかし螢光分析は試 料の状況や測定の条件によって大きな誤差を生じ やすい欠点がある.したがってこの方法の精度や 結果の再現性については尚充分慎重な検討が必要 である.測定例についてはフィコエリスリンの完 全抽出の方法や,これにともなう塩類溶液 する必要があり,
π畳光量身︶
5
F;9.8 フィコエリスリン定量用検量曲線
r
五
Ormt loo e poo4(p
lo 20 30 40(g)
74:エワスリン㈹ノinり
測定方法:標準液の586μmにおける螢光強度を100に 合せ,同一条件で576mμにおける試料の螢 光強度を測定する。
標準液:(1)ロ■一一一ダミンBの0ユηg%溶液 (皿)ローダミンBの20μ9%溶液 (主として食塩)
これ等の点を含めて次報で報告する.
による抽出液と螢光との関係について更に検:討
︶︶︶︶︶ 12345
文 献
保田正入,上原 亮,山添義隆:長崎大学水産学部研究報告,8,280(1969)
保田正入,上田泰司,山崎義隆=長崎大学水産学部研究報告,10,159(196!)
服部明彦,藤田善彦:化学の領域,54,工42(1968)
服部静夫:植物色素,517(1936)岩波書店
八木国夫,太幡利一=螢光,204(1958)南江堂
ERRATA
(English only)
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Remarks
9
The Bulletin of
TAN JGUTI
RHYSTOLOGICAL QUANTIATVE
Recentry
コ
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auther wich where charactors
waterco ntribu tion
reflactio11.echosunder caluculated aproaching Plancton fisfes refroat
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the Faculty of Fishe ries, Nagasaki University, No. 14.