【理工学研究部】
関数解析学の応用に関する研究
応用関数解析チーム(課題番号:0 9 5 0 0 2)
研究期間:平成2 1年4月1日〜平成2 4年3月3 1日
研究代表者:黒瀬秀樹 研究員:井上 淳、高倉真由美、中岡史絵
上記研究課題の下で行った調査・研究の内容を以 下に述べる。
1.ウェーブレットと
Cuntz環の関係について研究 を行った。実数の集合
R上の二乗可積分関数全体 のなすヒルベルト空間
L2(R)において、スケーリ ング数
Nのスケーリングユニタリ作用素
Uを考え る。スケーリング数
Nのウェーブレットによる任 意の多重解像度解析に対して、Cuntz 環
ONの2つ の表現{ (S
i) ,l (N
2 0) }と{ (V
i) ,L (T)
2}が存在 し て、スケーリング作用素
Uは(S
i)と(V
i*)のテン ソル積に分解できる。ここで、N
0は0以上の整数の 集合、T は1次元トーラス
R/Zである。
2.ある種のフラクタル図形については、ウェーブ レットと関連があり、それに付随するヒルベルト空 間と多重解像度解析を構成できることがわかってい る。これについても、スケーリングユニタリ作用素
を
Cuntz環
ONの2つの表現のテンソル積の形に表
すことができる。カントール集合
Cを例にしてこ れを述べると、C + N 上のハウスドルフ測度に関し て二乗可積分である関数全体のなすヒルベルト空間
Hにおいて、スケーリングユニタリ作用素
U:f→21/2 f(3・)はCuntz環
O3の2つの表現(S
i)と(V
i*) のテンソル積に分解できることがわかる。また、そ れに付随してウェーブレットによるヒルベルト空間
Hの正規直交基底が構成できる。
3.ウェーブレット関数については、マルチウェー ブレット等新しいものが定義され、いろいろな応用 のされかたをしている。新しいウェーブレットを構 成する方法に関する研究も重要である。この方向で 次のような研究を行った。スケーリング関数
sと ウェーブレット関数
wに対して、R 上の可積分関
数
fがある条件を満たすとき、f による合成積
s*f,w*f
は新しいスケーリング関数とウェーブレット関 数を定める。可積分関数
fを変えることで構成され るウェーブレット関数の性質についても調べた。
4.フラクタル図形の重要なクラスに、縮小変換の 族から構成される自己相似集合がある。その一般化 である部分自己相似集合について研究をすすめた。
部分自己相似集合
Kは有限個の部分集合
Kiに分解 され、それらのミニチュアで
Kが構成されるもの である。部分自己相似集合に対して、ある種のグラ フを対応させることで、その構成法を調べた。また、
部分自己相似集合のいくつかの例で、付随するグラ フを用いてハウスドルフ次元の計算を行った。
5.C
*‐代数の非可換微分構造については、Blacka-
darと
Cuntzが
differential seminormの概念を定義し、
l1
‐
summabilityの仮定の下での研究がすでにあった。
井上等は
l1‐
summabilityの仮定なしで、微分ノルム によって定義された微分
Fréchet代数のスムーズ性 について調べ、非可換スムーズ部分代数のクラスを 構成し、非可換微分構造 (スペクトラル不変性、
func- tuinal calculus、K‐理論等)を研究した。さらに、非 可 換 微 分 幾 何 学 に 現 れ る
Arvesonの 極 限 代 数 と
Connes
の極限代数の構造を調べた。またこれとは
別に、量子物理で考えられている
commutation rela- tionの一般化である
weak commutation relationsの概 念を定義し、それらのスペクトル等を研究した。
【研究業績】
1.F. Bagarello, A. Inoue and C. Trapani, Weak com-
mutation relations of unbounded operators and ap- plications, to appear in J. Mathematical Physics2.M. Fragoulopoulou, A. Inoue and M. Weigt, Tensor
―26―
products of unbounded operator algebras, to appear in Rockey Moun. J. Math.
3.S-J. Bhatt, A. Inoue and H. Ogi, Differential struc-
tures in C*-algebras, J. Operator Theory, Vol 66, 2011, 301-334―27―
【理工学研究部】
微生物を用いた環境汚染物質分解技術の開発研究
バイオレメディエーション研究チーム(課題番号:0 9 5 0 0 5)
研究期間:平成2 1年4月1日〜平成2 4年3月3 1日
研究代表者:鈴木慎也 研究員:平田 修【研究成果】
本研究チームは、かつて除草剤が使用されていた 水田土壌およびその跡地を対象に、物理化学的処理 と比較して安価なバイオレメディエーション(生物 的修復)という技術に注目し、土壌中のダイオキシ ン類分解技術の開発を目指すものである。ダイオキ シン類は、その強い毒性や環境中での蓄積性などか ら社会的関心の高い物質である。その化学構造の安 定性から一度環境中に拡散すると土壌や底質へ蓄積 されるなど、長期に亘る環境汚染をもたらす物質の 一つであり、生体内で蓄積したダイオキシン類は濃 縮され、催奇形生や発癌性などの慢性毒性があるこ とが知られている。残存しているダイオキシン類の 多くは焼却由来のものだけでなく、むしろ1 9 6 0年代 か ら1 9 7 0年 代 に か け て 除 草 剤 と し て 使 用 さ れ た
PCPや
CNPに含まれるダイオキシン不純物が占め る割合の方が高いと考えられている。本研究では、
白色腐朽菌
Phlebia brevispora TMIC3 3 9 2 9を用いた バイオレメディエーションによるダイオキシン類の 有効な浄化法の確立を目指した。
既往の研究結果により、黒ぼく土をはじめとする 有機質土壌には何らかの阻害成分が含まれており、
それが
Kirk液体培地と呼ばれる栄養源培地によっ て抽出され、結果として著しく分解率が低下するこ とが課題として挙げられていた。本研究チームでは、
阻害成分の特定及び阻害メカニズムについてまだ解 明出来ていない現状を踏まえ、以下の検討を行った。
なお、阻害の種類としては、吸着阻害、競合阻害、
増殖阻害等が考えられるが、 本研究では 「増殖阻害」
に注目し、検討を進めた。
1)まず、塩素置換数による分解率の違いを明らか にした。2,7‐
DCDDを対象とした分解実験 では、土壌成分を添加しない液相培養条件下に
おいて、1 4日間で7 1. 3%の分解率に対し、黒ぼ く土を添加した固相培養条件下では、3 6. 8%に 低 下 す る こ と が 確 認 さ れ た。た だ し、
1,3,6,8‐
TCDDを対象とした場合、液 相培養条件下において3 0日間培養を行っても分 解率は3 1. 8%に過ぎず、黒ぼく土を添加すると 分解率1. 1%と、著しく分解が阻害されること が確認された。
2)続いて液固比の設定条件による阻害影響を明ら かにした。微生物は一般に含水率の高い環境条 件において高い活性を有する。特に、水分添加 量を増加させることで生物利用性(バイオアベ イラビリティー)を向上させることが可能であ る。水分添加量を増加させ、その分解促進効果 を明らかにした。水分添加量の低い条件下にお いては、土壌成分による阻害影響を大きく受け、
著しく分解率が低下することが確認された。た だし、その要因には酵素分解活性の低下、土壌 成分による吸着阻害、腐朽菌の増殖阻害など、
多くのメカニズムが推測され、必ずしも阻害影 響の詳細を把握できていなかった。
3)そこで、対象土壌である黒ぼく土に対し、予め
Kirk液体培地、純水による前洗浄処理を施し、
その「抽出液」を添加した上で分解実験に供し た。前洗浄としては、各種溶媒を用いて液固比 6で2 4時間の振とう処理を施し、3, 0 0 0
rpm、1 0分間で遠心分離に供したのち、ろ液を添加し た。その結果、Kirk 液体培地のみならず、純 水による抽出液についても分解に対する阻害作 用があること、分解率と低下と同程度の菌体増 殖抑制作用があることが確認された。各実験条 件に対し、菌体量あたりの分解率を確認したと ころ、土壌添加のない液相培養条件を含め、全 てにおいて2 0 0(ng ‐2,7‐
DCDD/!‐
Fungi)―28―
程度の分解量を示していることから、純水に よって抽出される阻害成分には、菌体に対して 増殖阻害を引き起こすものであることが確認さ れた。また、黒ぼく土に含まれる成分が菌体増 殖に対し阻害的に作用するのは、全阻害要因の うち5割程度の寄与率を示すことが明らかに なった。
4)さらに、Sep ‐
Pak Plus CSP‐ 8 0 0を用いて、抽出 液の分画を行った。CSP ‐ 8 0 0(Waters 社製)は、
三 菱 化 成 製
MICゲ ル
CSP‐ 8 0 0樹 脂 を カ ー ト リッジに充填しており、極性が非常に高い物質 以外の幅広い有機物を効率的に吸着するもので ある。この
CSP‐ 8 0 0を用いて抽出液を無機物 を主体とする溶解性成分、有機物を主体とする 不溶解性成分に分画した。その結果、阻害作用 が見られるのは、主に溶解性成分によるものが 主体であることが明らかになりつつある。溶解 性成分には無機物のみならず溶解性の有機物も 含有している可能性があり、これら阻害成分の 性状等を分析していくことが今後の課題である。
【研究業績】
1)Shinya Suzuki, Ayako Tachifuji, and Yasushi Mat-
sufuji: Growth inhibition by soil components for degradation of dioxins using white rot fungus, Pro- ceedings, Sardinia 2011. Thirteenth International Waste Management and Landfill Symposium, CD- ROM, Oct. 2011.2)河島弘治・鈴木慎也・松藤康司・立藤綾子:ダ イオキシン類の微生物分解に及ぼす土壌成分の 阻害影響、平成2 3年度廃棄物資源循環学会九州 支部研究ポスター発表会、2 0 1 1年5月。
3)尾形裕・鈴木慎也・松藤康司・立藤綾子:ダイ オキシン類の微生物分解に及ぼす土壌成分の阻 害影響、平成2 3年度廃棄物資源循環学会九州支 部研究ポスター発表会、2 0 1 0年5月。
4)小拂美穂・鈴木慎也・松藤康司・立藤綾子・近 藤隆一郎・森智夫:ダイオキシン類の微生物分 解に及ぼす土壌成分の影響、第2 1回廃棄物資源 循 環 学 会 研 究 発 表 会 講 演 論 文 集、pp. 6 0 9 ‐ 6 1 0,2 0 1 0年1 1月。
5)Miho Kobarai, Shinya Suzuki, Yasushi Matsufuji,
Ayako Tachifuji, Toshio Mori, Ryuichiro Kondo:
Remediation of Dioxin-Contaminated Soil using White Rot Fungus, Proceedings of The 12th Korea- Japan Joint International Session, Korea Society of Waste Management, pp.125-127, 2010.
―29―
【理工学研究部】
口腔外科における高精度で実用的な術後評価方法の提案と 手術の最適化
口腔外科手術の最適化チーム(課題番号:0 9 5 0 0 6)
研究期間:平成2 1年4月1日〜平成2 4年3月3 1日
研究代表者:森山茂章 研究員:古田治彦(平成23年3月31日まで)、喜多涼介・吉村一朗(平成22年4月14日から)、 金 孝鎮・瀬戸美夏(平成23年4月1日から)、坂本裕紀(平成22年3月31日まで)
【はじめに】
歯科口腔外科における顎変形症治療には、術前後 の骨格形態や骨格安定性の評価が不可欠であり、術 前計画や術後評価に通常は二次元の頭部
X線規格 写真によるセファロ分析が行われている。近年
CTなどの三次元画像を用いて評価する試みがなされて いるが、セファロ分析のように一般的な評価方法に は至っていない。そこで、二次元のセファロ分析の 手順と同様に三次元画像において座標系を設定し、
術前後の画像を自動で重ね合わせる手法を提案する とともに、臨床画像の解析を試みた。
【方 法】
下顎非対称を伴う下顎前突、開咬症に対し、両側 下顎枝矢状分割術を施行した1症例を対象とし、撮 影条件を一定として、術前および術後3月後、術後 1年後の三次元画像を取得した。これらの画像から 対象とする領域を抽出し、骨の
CT値で二値化した。
骨の三次元的な状態を表現するためには、3方向の 位置および3つの回転角の合計6変数が必要となる。
そこで三次元画像を重ね合わせる手法として、術後 の三次元画像に対して、全6変数をそれぞれに変化 させ、術前画像に重ね合わせを行う全探索法を採用 した。この探索法は、術後の画像を6自由度(位置 3自由度および姿勢3自由度)それぞれを変化させ ながら、術前画像と術後画像が最も重なる状態を探 索するものである。実際の重ね合わせは計算時間を 考慮して、探索ピッチを4
!、4°から探索を開始 し、最も重なった位置および姿勢において探索ピッ チを半減し、0. 1 2 5
!、0.1 2 5°まで探索し、術前画 像と術後画像を重ね合わせた。座標系の設定は、基 準となる頭蓋においては、左右の骨耳孔上縁の中点
と左右の眼窩縁最下点から設定した。
【結 果】
図1に術前画像に術後の下顎体を重ねた画像を示 す。ここで下顎体において3方向の移動と軸まわり の回転を定量することが可能であった。対象とした 症例が下顎非対称を伴う下顎前突、開咬症例であっ たため、下顎体において上方および側方への変位が 認められ、また、下顎頭は、全方向に対して変位は ほとんどなく、近位骨片が復位されていたが、大き
図1 術前画像と術後画像の重ね合わせ
図2 術後の骨の形状変化
―30―
な回転と、ねじれが生じていた。図2に術後3ヶ月 と1年後の画像を重ね合わせた結果を示す。全ての 部位で術後3月における骨片の移動量とは逆向きに 移動、回転しており、後戻りが確認された。
【考 察】
顎変形症の治療における顎矯正手術において、頭 部
X線規格写真を用いた二次元的セファロ分析が 多く行われている。しかし、実際の手術は骨の三次 元的移動である。三次元空間上の剛体は6自由度を 有し、その状態を表現するためには、位置3変数と 回転3変数の6変数が必要となり、画像の重ね合わ せを手作業で行うことは困難である。そこで、術前 および術後の画像において座標系を設定し、この座 標系を一致させることにより重ね合わせを行う手法 が考えられるが、術前後の画像を正確に重ね合わせ ることはできないため、三次元画像を正確に重ね合 わせられるよう6自由度に対する全探索法を考案し た。これは、術後画像を変位および回転の全6変数 に対してそれぞれ座標変換し、術前後の骨の重なり を全ての位置および回転で調べる手法である。手動 での重ね合わせや設定した座標系を重ねる方法と比 較して、術前後画像の重なり状態を全探索している ため、正確な評価が可能な手法であると考えられる。
しかし、三次元画像を全て座標変換しているため計 算時間が長く、すべての位置および回転評価に要求 されるピッチで探索することは困難である。そこで 実際には、4!、4°という大きなピッチから探索 を行い、もっとも重なった状態の周辺においてピッ チを半減させた。探索ピッチが大きい場合は重なっ た画素の割合は低いが、探索ピッチを半減すると重 なった割合は増加するが、0. 5
!、0. 5°以下の探索 ピッチでは、この割合の変化は小さくなり、術前後 の画像の重なりの程度は向上しなくなる。これは、
CT
画像の画素よりも小さな探索ピッチで6自由度 全探索を行ったため、得られた結果以上に術前後の 画像が重なった状態は存在しないと考えられる。
CT画像の画素の大きさが0. 5
!であることを考慮する と、原理的に画素の大きさよりも高い精度は期待で きないため、本手法で術前後の三次元画像の重ね合 わせが可能であると考えられた。本手法において必 要となる作業は、術前および術後の座標系の設定で
ある。術後の座標系は探索の初期値のみに影響を与 え、最終的な結果には影響を及ぼさないため、本手 法は術前の座標系の設定のみで自動的に評価でき、
撮影時の頭位の変化にも対応できた。また、本手法 は術後の骨形状の変化を測定することができ、術後 の経過において重要な後戻りの評価も可能となった。
以上より、本手法は歯科口腔外科における顎変形症 治療の骨格形態および骨格安定性の三次元評価に有 用であることが確認された。
【関連業績】
論 文
1)Three lateral osteotomy designs for bilateral split os-
teotomy:biomechanical evaluation with three−di- mensional finite element analysis, Hiromasa Taka- hashi, Shigeaki Moriyama, Haruhiko Furuta, Hisao Matsunaga, Yuki Sakamoto, Toshihiro Kikuta, Head& Face Medicine, 2010, 6/4
2)Assessment of Three Bilateral Sagittal Split Osteot-
omy Techniques with Respect to Mandibular Biomechanical Stability by Experimental Study and Finite Element Analysis Simulation, Hiromasa Takahashi, Haruhiko Furuta, Shigeaki Moriyama, Yuki Sakamoto, Hisao Matsunaga, Toshihiro Kikuta,福岡大学医学紀要,2 0 0 9,3 6/3,1 8 1 ‐ 1 9 2 3)骨切り術における
CT画像の三次元的評価 喜
多涼介、森山茂章、岩崎泰晃、田中祥継、中村 好成、内藤正俊、喜久田利弘、福岡大学医学紀 要、2 0 1 2、3 9/1、5‐ 1 1
―31―
【生命科学研究部】
膵癌治療成績改善に関する研究
膵癌治療成績改善研究チーム(課題番号:0 9 6 0 0 2)
研究期間:平成2 1年4月1日〜平成2 4年3月3 1日
研究代表者:佐々木隆光 研究員:山内 靖【はじめに】
膵癌は悪性度の高い癌の一つであり、わが国では、
毎年2 6, 0 0 0人以上が膵癌で死亡しており、癌関連死 の第5位である。切除が唯一の根治療法であるが、
早期診断が困難であり、診断時に根治手術を受けら れるのは、全体の1 0〜2 0%程度である。日本膵臓学 会膵癌登録による通常型膵癌全症例の5年生存率は 1 1. 6%と消化器癌のなかで最も予後不良である。し たがって、早急な治療戦略を確立することが望まれ ている。
このような現状の膵癌治療の成績を改善するため に、治癒切除(R0,R1)が行われた膵癌に対す
る
gemcitabineを用いた術後補助化学療法の有効性
と毒性を評価する臨床試験(CONKO ‐ 0 0 1)がおこ なわれ、gemcitabine 投与群は無治療観察に比べ有 意に膵癌術後の再発を減少させた。
近年では、切除術が行われるものの、術後早期に 局所再発と転移を起こす、いわゆる
Borderline re- sectable膵癌に対しても術前化学療法として
gemcit-abine
が用いられるようになってきている。
Gemcitabine
は膵癌化学療法の標準治療となり、
長期生存例も散見されるようになってきたが、その 薬剤感受性はさまざまである。特に
Borderline re-sectable
膵癌の術前化学療法として用いる場合には、
その症例に対する感受性は非常に重要になってくる。
今回我々は、膵癌に対する
Gemcitabineの感受性を 検討した。
【研究方法】
6種類の膵癌細胞株を用意した。各々の膵癌細胞 株を
IC5 0値の濃度の
Gemcitabineで6ヶ月間培養を おこない、そのなかで、Gemcitabine に対する耐性 取得した耐性株を作成し親株と耐性株の表現型、増 殖能、浸潤能の検討をおこなった。また、親株と耐
性株を
DNA microarrayを用いて比較検討した。
【結 果】
6種類の膵癌細胞株(Mia-Paca2,Panc1,SUIT 2,KP2,KP4,KP8)を
IC5 0値の 濃 度 の
Gem-citabine
で6ヶ月間培養をおこなったところ、Mia-
Paca2のみがGemcitabine
に対して耐性を取得した。
Mia-Paca2耐性株の表現型は親株と比して、紡錐
形を呈していた。Mia-Paca2耐性株の増殖能は親株 の5 1. 7%であった。しかしマトリゲルを用いた浸潤 能は
IC5濃度Gemcitabine添加下でおよそ7倍を示 した。
Mia-Paca2耐性株と親株をDNA Microarray
で比 較検討すると、耐性株において
MAST4が53 3倍強 発現していることがわかった。
【考 察】
膵癌に対する化学療法は
Gemcitabineを用いたも のが標準治療となった。特に術後補助化学療法に用 いられるようになり、生存期間を観察群と比べ9%
から2 1%へ改善され、また非切除例に対しても2年 を超える長期生存例が散見されるようになった。
しかし、Borderline resectable 膵癌に術前化学療法
として
Gemcitabineを用いる場合は、膵癌の悪性度
を考慮した場合、不成功例は容易に切除不能になる ため、その投与は慎重になる。したがって、個々の 症例に対する感受性を知ることは今後の集学的膵癌 治療の戦略を立てるとき非常に重要になってくる。
今回、われわれは膵癌細胞株を用いて、Gemcit-
abine
に対する感受性の検討をおこなった。まず、
Gemcitabine
添加の6ヶ月間長期培養で、emcitabine 耐性膵癌細胞株を樹立した。その、表現型は紡錐形 を呈していたおり、増殖能は低下していた。しかし ながら、浸潤能はおよそ7倍に増加していた。DNA
―32―
Microarray
の検討で強発現していた
MAST4はその機能についての報告はほとんどないが、tube forma-
tionにかかわる遺伝子であることはわかっている。
近年、抗癌剤耐性に
cancer stem cellあるいは
Epithelial-Mesenchymal Transition(EMT;上皮間葉移行) (癌細胞の浸潤との関連も示唆されている上 皮細胞が間葉系様細胞に形態変化する現象)の関与 が報告されている。我々が樹立した
Gemcitabine耐 性膵癌細胞株の親株と比して増殖能は低下してる点、
浸潤能が増加している点、表現型が紡錐形でより間 質細胞様に変化している所見より、EMT 様変化を 示した可能性があると思われる。
今後
Gemcitabine耐性と
cancer stem cellあるいは
Epithelial-Mesenchymal Transitionとのかかわりは検 討が必要と思われる。今後、さらに検討を加え、集 学的膵癌治療の戦略をたて、治療成績の向上を目指 したい。
―33―
【生命科学研究部】
VRE 院内感染防止対策システムの確立
Establishment of infection control system against VRE(EICAV)
福岡大学感染対策チーム(課題番号:0 9 6 0 0 5)
研究期間:平成2 1年4月1日〜平成2 4年3月3 1日
研究代表者:大城知子 研究員:藤田昌樹、志村英生、高田 徹、田中美紀、尾畑由美子
【研究概要】
1)背景と目的
バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)は、多くの抗 菌薬に耐性を獲得し国際的に問題となっている。米 国では、ICU 入室患者の約半数から
VREが検出さ れたという報告もある。
VRE
は本来常在菌である腸球菌が耐性化したも ので、腸管内保菌状態で存在し、VRE 自身では下 痢などの消化器症状は伴わない。しかし免疫力が低 下している状態では、心内膜炎や敗血症、尿路感染 症などを引き起こす可能性が指摘されている。近年 では、市販されている食品中から
VREが検出され ており、多くの人が腸管内に保菌していることも予 測される。しかし、スクリーニング方法は一定でな く、便培養による
VREスクリーニング法は感度が 6割程度と不良で、保菌者を見逃す可能性が高い。
保菌者が入院し病気の治療のために抗菌薬を長期に 投与された場合、菌交代によって
VREが検出され る可能性が指摘されている。便検査を行い
VREス クリーニングしなければ、発見されることはないた め、一人の患者から検出された時にはすでにかなり の範囲で感染が拡大していることがある。このよう な集団感染が発生した場合、施設は経済的にも社会 的にも多大な損失を被る。
福岡大学病院では、2 0 0 7年1 0月から2 0 0 8年3月ま でに、1 9名の患者検体より
VREが検出されアウト ブレイクと認知された。調査によりこの集団には、
患者から環境や医療器具、医療従事者の手指などを 介して患者間で伝播した集団と検体採取から検査ま でのどこかで
VREが混入したと推測される集団と に分かれた。しかし、この事例においても、入院前 から保菌していた患者も含まれていた可能性も考え られる。
本研究は、病院や施設において
VREを早期に発 見し、交差感染を未然に防ぐシステム作りを視野に 入れ、研究を行った。
【研究成果】
1.福岡大学病院における2 0 0 4−2 0 0 8年の
VRE検 出状況と検出患者のリスク要因の検討
福岡大学病院では1 9 9 9年より、入院患者の便培養 検査時にバンコマイシン耐性腸球菌 (VRE) スクリー ニング培地を用い、VRE の積極的なモニタリング を行ってきた。そこでまず最初に、保存されている 検出株について、VRE のタイプと耐性遺伝子型に ついて検討した。その後、VRE が検出された患者 がどのような背景を持ち、何が
VRE保菌のリスク 要因となっているかを検討した。
2 0 0 4年1月までは
vanA、vanBの耐性遺伝子を持 つ腸球菌(VRE)は検出されなかったが、それ以降 2 0 0 8年1 2月までに5 4名、5 6検体から
VREが検出さ れた。VRE の種類は、E.feacium vanA:3 2検体、E.
feacium vanB
:2検体、E.faecalis vanA:1 1検体、E.
feacalis vanB
:3検体、E. avium vanA:5検体、E.
gallinnarumA&C
1 :3検体であった。
また、1 9 9 9年1月より2 0 0 8年1 2月まで
VREが検 出された患者5 4名のうち、コンタミネーションによ ると考えられた7名を除く4 7名を対象に多変量解析 を行い、リスク要因の検討を行った。その結果、抗 菌薬の投与なしを
Referenceにした時、 「グリコペ プチド系抗菌薬投与あり」はオッズ比が7 9. 0 9(p=
0. 0 0 1) 、 「経管栄 養 あ り」は1 5. 7 8(p=0. 0 1) 、 「喀 痰吸引あり」は5. 9 1(p=0. 0 0 4) 、 「中心静脈カテー テルあり」は5. 7 1 (p<0. 0 0 0 1)、「リハビリテーショ ンあり」は5. 1 5(p=0. 0 0 4)であった。
VRE
伝播のリスク因子として、ADL の不良やオ
―34―
ムツ装着や下痢を伴う例に対する濃厚な治療・看護 や共通の器具使用の他、グリコペプチド系抗菌薬の 使用が明らかとなった。この結果を元に、その後、
入院時とグリコぺプチド系抗菌薬などの抗菌薬を1 週間以上使用した患者に対し、VRE の積極的スク リーニングを継続し、結果を感染対策に役立ててい る。
2.LAMP 法を用いた
Vancomycin Resistance Entero-coccus
(VRE)迅速検出法の試み
Van A
は、バンコマイシン(以下
VCM)とテイコプラニン(以下
TEIC)に高度耐性を示し、Van Bは
VCMのみ耐性を示し
TEICには感受性があると いわれている。また、Van C は
VCMには軽度耐性 を示し
TEICには感受性を示すと言われている。そ のため、治療決定する上では、Van A か否かの鑑別 は重要である。しかし、遺伝子解析は、DNA 増幅 に約4時間、電気泳動で
TAE bufferを使用し3時間 と時間、手間、使用器具が必要で容易に検査ができ ないのが現状である。
一方
LAMP(Loop-mediated isothermal amplifica- tion)法は、栄研化学が発明した方法で、標的遺伝子の6つの領域に4種類のプライマーを設定し鎖置 換反応を利用し一定温度で反応させる事で迅速、簡 便、精確な遺伝子増幅法ができる。そこで、今回臨 床の細菌株を使用し
LAMP法による迅速診断法の 開発を試みた。
LAMP
法では
VanAのプライマーを使用し増幅を 行った。今回は臨床分離株2株から
Van A遺伝子の 検出をすることができ、LAMP 法が応用できるこ とが確認できた。今後、遺伝子タイプの違う
VREを複数株に増やし同様の結果が得られるか確認を行 う予定である。
3.新たなる
VREスクリーニング法の開発
便培養による
VREスクリーニング法は感度が6 割程度と不良で、保菌者を見逃す可能性が高いこと が指摘されている。簡易的に
VREを検出すること ができることから、臨床的には
VREスクリーニン グ培地が広く使用されている。 現在は、 このスクリー ニング法を用い検出されなかった場合には、 「保菌 していない」とみなされている。検出率が低い原因
の一つに、便中の
VRE菌量が少ないことや抗菌薬 を使用しない状況下で耐性度が低下することなどが 考えられる。そこで、現在行われている
VREスク リーニング培地を用いた場合に、未検出になる条件 について検討を行った。
その結果、VRE スクリーニング培地を用いた場 合、1ml 中1 0 0コロニー以下の条件では検出できな いにくいことが分かった。また、VanA 遺伝子を持 つ株は2 4時間で判定が可能なのに対し、VanB 遺伝 子をもつ株は2 4時間では全く発育せず、判定には少 なくとも4 8時間を要することが分かり、VRE の保 有する遺伝子タイプによって検出判定の時間を考慮 する必要があることが分かった。
この結果から、市販の
VREスクリーニング培地 を用いず、液体培地を用いて
VREを検出すること ができないか検討を行った。VRE の菌量が少なく なるほど、VCM による発育阻止濃度は低くなるこ とが分かったが、肉眼的に混濁はみられず発育が阻 止されていると判定される濃度でも、培地で確認す ると菌が生息することが分かった。しかし、この工 程は
VREスクリーニング培地を用いた時と比較す ると判定までのステップが複雑になる難点も明らか になった。
近年では、VRE は食物などからも検出されてお り、経口で人体に容易に取り込まれ、生体内に長く 生息するうちに常在細菌が優勢となり、増殖が抑制 されていることが考えられる。液体培地を用い、便 中の
VREを増菌させ検出感度を上げ、さらに簡便 で臨床的に応用可能な方法について検討を重ねてい る。便中の
VREのみを増菌させることができれば、
LAMP
法を用いた検出にも貢献できると考えられ る。
4.福岡大学病院における
VREの
MLSTによるタ イピングの検討
DNA
配列を解析しタイピングする
multilocus se-quence typing(MLST)法は、複数の遺伝子領域の
塩基配列を解析し、各遺伝子配列の差異によってタ イピングする方法である。そこで、MLST 法を用い て福岡大学病院での流行株と世界的な流行株との比 較を行った。
福岡大学病院の臨床分離株であ る
VRE株 よ り
―35―
領域についてプライマーを設計し、PCR 法を用い て遺伝子を増幅させ、増幅した遺伝子を用いてサイ クルシーケンスを行い塩基配列を解析をおこなった。
現在、この遺伝子タイプを解析中である。
【謝 辞】
最後に、本研究を遂行するにあたってご協力いた だきました福岡大学医学部 畝 博教授、佐賀大学 病院臨床検査部 永沢善三氏、 福岡大学臨床検査 部 吉村尚江氏、株式会社キューリン.村谷哲郎氏 に感謝申し上げます。
【研究業績】
福岡大学病院における
VRE検出状況と病院感染に ついての考察
日本医療マネジメント学会第9回佐賀支部学術集 会 2 0 1 0,2
大城知子 高田徹 橋本丈代 藤田昌樹 志村英 生 田中美紀 田中正利
福岡大学病院における2 0 0 4 ‐ 2 0 0 8年の
VRE検出状況 と検出患者のリスク要因の検討
著書 第8 4回日本感染症学会総会・学術集会 2 0 1 0,4 大城 知子、高田 徹、橋本 丈代、
藤田 昌樹、志村 英生、田中 美紀、田中 正 利
VRE
スクリーニング法の検討 第2 8回日本環境感 染学会総会・学術集会(発表予定)
大城 知子、高田 徹、橋本 丈代、藤田 昌樹、
志村 英生、田中 美紀、田中 正利
―36―
研究チーム報告
【生命科学研究部】
蚊媒介性新興・再興ウイルス感染症に対する防疫拠点の形成
ウイルス感染症対策チーム(課題番号:0 9 6 0 1 0)
研究期間:平成2 1年4月1日〜平成2 4年3月3 1日
研究代表者:鹿志毛信広 研究員:見明史雄、三島健司、佐藤朝光(平成23年3月31日まで)
【研究成果】
我が国には、日本脳炎ウイルスのように蚊によっ て媒介され、ヒトに重篤な疾病を引き起こす
RNAウイルスが存在している。また、近年の地球温暖化 による蚊の生態の変化により、東南アジアなどの都 市部を中心に脅威となっている蚊媒介性のデングウ イルス(DENV)などが、我が国へ侵入する可能性 が示唆されている。一方、2 0 0 0種以上が存在する蚊 は、種によって媒介する
RNAウイルスが異なり、
それぞれの蚊の種によって特徴的な生態行動を行う。
したがって、DENV のようなワクチンが存在しな い蚊媒介性の
RNAウイルスの流行を抑えるために は、感染症発生の初期段階において、RNA ウイル スを迅速に同定すると同時に、殺虫剤などを使用し た蚊の防除を実施するために、蚊の生態を知ること が必要となる。このような状況の中、蚊の生態に関 する研究が数多く行われているにもかかわらず、蚊 媒介性の
RNAウイルスの研究はあまりなく、いま だ未知の
RNAウイルスが存在していることが予想 されている。近年、重症急性呼吸器症候群ウイルス が示すように、未知の
RNAウイルスが、突然変異 などによりヒトに対する病原性を獲得し、世界規模 で流行する事象が頻繁に報告されるようになった。
この事象は、蚊媒介性の
RNAウイルスを迅速に同 定するためにも、我々が、未知の蚊媒介性の
RNAウイルスを知ることの重要性を示している。
2 0 0 7年、水谷らは、未知の
RNAウイルスを網羅 的に検出するための方法として、特異的な抗体やプ ライマーを必要としない
Rapid determination of viral RNA sequences(RDV)法を考案した。我々は、この
RDV法を改良し(RDV 法
ver4. 0) 、タイのバン コク郊外にて野外採取されたネッタイシマカの幼虫 からイネ縞葉枯ウイルスに高い相同性を持つ、ブニ ヤウイルス科に属する新しい
RNAウイルスを発見
し、Phasi Charoen virus(PhaV)と名付けた。そし て、以前の領域別研究チームの研究成果として報告 した。その後、PhaV の感染率に関する野外調査を 行った結果、タイで採取されたネッタイシマカの成 虫雌の2 0%以上から
PhaVが検出さ れ、PhaV は、
ネッタイシマカにひじょ う に 高 い 感 染 率 を 持 つ
RNAウイルスであることが示された(Sayama et. al.,
J Parasitol. Vector biol. 2011)。
以上の成果は、未知の蚊媒介性の
RNAウイルス の検出に
RDV法
ver4. 0が有効な方法であることを 示している。したがって、国内に生息する未知の蚊 媒介性
RNAウイルスを発見することを目的として、
国内で捕集された蚊から
RDV法
ver4. 0による
RNAウイルスの検出を行った。その結果、秋田県雄物川 流域と東京港野鳥公園で捕集されたイナトミシオカ より、Penaeid shrimp infectious myonecrosis virus の
RNA-dependent RNA polymerase(RdRp)と相同性の高い配列を検出した(Isawa et. al.,Virus Res. 2011) 。 このウイルスの完全長
RNA genome配列を決定した ところ、7. 6
kbの二本鎖
RNAを有するウイルスで あることが示され、Omono River virus(OMRV)と 名付けた。また、この
RNA genome上には、2つの 重なった
open reading frames(ORF1および
ORF2)が 存 在 し て い た。そ し て、ORF1と
ORF2は、カプシドタンパク質と
RdRpなどをそれぞれコードし ていることが示された。さらに、RdRp 配列を用い た系統樹は、
OMRVが、
penaeid shrimp infectious myo-necrosis virus
およびトティウイルスに相同性が高く、
トティウイルス科に属する新しいウイルスであるこ とを示した。
一方、Universiti Sains Malaysia の
Abu Hassan Ahu- mad所長および
Hamady Dieng准教授らと、マレー シアのペナン島における蚊媒介性の
RNAウイルス の
RDV法
ver4. 0を用いた検出を実施する中、屋外
―37―
て吸血行動をとる生態的変化を起こしていることを 示した(Satho T. et al. J. Parasitol. Vector Biol. 2009, Di-
eng H. et al. J. Parasitol. Vector Biol. 2010, Dieng H. et al. PLoS ONE 2010)。対照的に、一般的に屋内にて 吸血行動をとるネッタイシマカは、屋外において吸 血行動をとるこが示された(Saifur RG. et al. PLoS
ONE 2012)。
これまで研究成果は、未知の蚊媒介性の
RNAウ イルスが数多く存在していることを示した。そして、
RDV
法
ver4. 0は、既知の蚊媒介性の
RNAウイルス だけでなく、未知の蚊媒介性の
RNAウイルスの検 出に有効な方法であることを実証した。この実証か ら、今後、RDV 法
ver4. 0が、国内における蚊媒介 性の
RNAウイルスの流行に対する検疫体制の強化 に貢献することを期待している。
【研究業績】
1)Satho T. et al. Fluorescence can be used to trace the
fate of exogenous micro-organisms inside the ali- mentary tract of mosquitoes.J. Parasitol. Vector Biol. 2009; 1(2)13-18
2)Dieng H. et al. Lactobacillus infection related to
midgut protein synthesis in the dengue vector Aedes albopictus: platform of non-symbiont bacteria for the control of Aedes vectors.J. Parasitol. Vector Biol.2010; 2(2)14-21
3)Dieng H. et al. Indoor-Breeding of Aedes albopictus
in Northern Peninsular Malaysia and Its Potential Epidemiological ImplicationsPLoS ONE 2010; 5(7) e 11790
4)Isawa H. et al. Identification and molecular charac-
terization of a new nonsegmented double-stranded RNA virus isolated from Culex mosquitoes in Japan Virus Research 2011; 155(1)147-1555)Sayama Y et al. Prevalence of Phasi Charoen virus
in female mosquitoesJ. Parasitol. Vector Biol. 2011; 3(1)19-21
6)Saifur RG. et al. Changing Domesticity of Aedes
Aegypti in Northern Peninsular Malaysia: Repro- ductive Consequences and Potential Epidemiologi- cal Implications―38―
研究チーム報告
【生命科学研究部】
動作の力学的・運動学的熟練度研究
動作の熟練度研究チーム(課題番号:0 9 6 0 1 4)
研究期間:平成2 1年4月1日〜平成2 4年3月3 1日
研究代表者:田口正公 研究員:田口晴康、柿本真弓、田場昭一郎、田原亮二
【研究概要】
ヒトの動作を評価するための指標として効率が用 いられるが、これはスポーツにおけるパフォーマン スを適正に評価しているとは言いがたい。なぜなら 筋によって行われた力学的仕事とパフォーマンスの 間には、技術が介在するからである。したがって真 の意味での効率的な動作を考えるためには、動作の ポイントを明示的に認識し、運動目的の成就にどれ だけ貢献したかという観点で個々の動きを評価する 力学的熟練度を見る必要がある。
本研究は個人種目、採点種目、表現種目における 動作を運動形態的手法(映像の自己観察法、客観観 察法)およびバイオメカ二クス手法(加速度分析法、
流体力学的分析法、力量的分析法)を用いて運動学 的、力学的熟練度の種目特性を検討するとともに効 率的動作獲得の要因を明らかにすることを目的とし て実施した。
【研究成果】
1.器械運動における動作の熟練度
器械運動におけるマット運動の「後方倒立回転と び」を取り上げ、先行研究における直接幇助の改良 を中心に行った。そこでは、大学生1 0 0名を対象に 約1時間1 0分程度の短時間で9 1名(先行研究の8 2%
から9 0%に実施率が上昇)の学生に対し幇助なしの 自力で後転とびを発生させるに至った。一方、 「前 方倒立回転とび」に関し、大学生を対象にフィジオ ロール用具を用いて新たな練習段階の構築と幇助方 法を考案し発表した。そこでは、4 0名中2 8名が腰の 高い位置による着地ができるようになり、しゃがみ 立ちが9名で、合計3 7名の学生が粗形態および精形 態獲得に成功した。
体操競技におけるゆか運動の「反転跳躍技」を取 り上げ、その運動構造体系を整理し、習熟度を増す
ための間接指導方法について運動形態学的視点から 明らかにしていった。そこでは、反転跳躍技の創発、
促発活動においてウレタンマットの使用がうまく機 能した場合とそうでない場合を比較検討した。結果 として、間接幇助において指導者は、技の遂行を容 易にすることや、学習者の安全性の確保や動感交信 を頼りに学習者に適した場の設定を模索する必要性 を指摘した。一方、つり輪の倒立、鉄棒の手放し技 を取り上げ、その運動構造を明らかにし、技術的解 明を試みた。そこでは、習熟者と未習熟者に対し動 感地平の視点から運動形態学的に比較分析するとと もに、習熟度を高めるための肩から腕の筋肉の使い 方、肩に乗せる、上に伸びあがる操作感覚づくりの 練習を提示した。また、理想像を身につけるための 動感アナロゴンを持つ動きに関し、トランポリンを 利用した練習方法について指摘した。
2.高齢者の音楽体操による習熟と生活動作への効 果
本研究は高齢者における音楽体操のもたらす効果 についてアンケート調査を行った。体操教室の参加 者は8 0代7名、7 0代1 7名、6 0代2名の健康な女性2 7 名であった。教室は月2回の頻度で8年間継続して きた。
体操のねらいは、!正しい骨盤の位置とその動か し方を理解する。
"股関節の可動域を広げる。
#下 肢の筋肉と体幹を強化する。$リズム感を良くする ことであった。具体的には、骨盤と股関節を意識し たストレッチや柔軟はスローテンポの曲を用い、下 肢と体幹のトレーニングにはテンポの良い曲を用い た。さらに、リズム感を良くするためにいろいろな 曲調に合わせた一連の動きを繰り返し練習した。
調査内容は、音楽体操を継続してきた結果、日常 生活における身体的・精神的変化についてであった。
―39―
た、階段の登りなどで息切れが少なくなったなど身 体的改善の傾向が見られた。また、気分がスッキリ していることが多くなった、くよくよと考えなく なった、外出する(人に会う)ことが億劫ではなく なったなど精神面においても改善の傾向が認められ た。主観的に見ても、入会当時よりも姿勢が良くな り、若く見えるようになった。筋力トレーニングは 回数を増やしていき、様々な動きを組み合わせた一 連の動きは、複雑な内容になっていった。
今後は得られた成果を、指導に反映させ、ひいて は生活の質の向上に繋がるよう継続していく予定で ある。
3.新体操競技における手具交換動作の特徴
本研究は新体操競技における手具を用いた演技の 投動作の特徴を定量的に示し、内省評価を基に動作 の比較を行い、その相違を明らかにすることを目的 とした。新体操競技大学女子選手を対象として、団 体演技中の投げによる手具の交換を想定し、体育館 内に敷設した競技用フロアマット上で、被験者背面 方向約1 0
!の位置にいる受け手に向かって手具を投 げさせた。試技は2台のビデオカメラで、被験者左 右前方から撮影し、DLT 法を用いて身体の運動学 的変量を算出した。試技終了直後に被験者本人に1 0 段階での内省評価を行わせた。各被験者で1 0試技を 試行させ、内省評価の最も高かった試技と、最も低 かった試技を分析対象とした。手具をリリースする 局面において、内省評価の高かった試技は肘関節お よび肩関節が、内省評価が低かった試技よりも伸展 している特徴が認められた。また、身体重心が最も 低くなる局面において、内省評価の低かった試技は 股関節および膝関節が、内省評価が高かった試技よ りも伸展している特徴が認められた。これらの結果 から、手具を投げる前の準備局面での沈みこみ(タ メ)の不足が、早急な身体の伸び上がりを誘発した ことが推察される。さらにこのことが、腕部の伸展 が不完全な状態でのリリースへと起因し、主観的感 覚に基づく評価が悪くなったことにつながったと考 えられる。
4.ボール方向の転換を伴うサッカーのトラップ動
本研究ではサッカーの試合において頻繁に用いら れる、ボール方向の転換を伴うトラップ動作に関し て、身体各部の運動学的変量から動作のメカニズム を明らかにすることを目的とした。熟練度の異なる 被験者を対象として、5
!の距離から3段階のス ピードで蹴り出されたパスを、パス方向に対して4 5
(deg)の角度にコントロールして止める課題を行 わせた。各被験者によるトラップ動作およびボール の挙動を2台のカメラで撮影し、DLT 法を用いて 運動学的変量を算出した。熟練者群は非熟練者群と 比較して、ボール接触前後で股関節の伸展および外 転角度の変化が小さく、膝関節の外旋角度の変化が 大きかった。また、トラップ後のボール速度は熟練 者群が有意に低かった。このことよりボール方向の 転換を伴うトラップ動作においては、股関節を中心 とした動作よりも、膝関節を中心とした動作が有効 であることが示唆された。
5.競泳選手のトレーニング効果の検証と熟練度
本研究は、競泳女子長距離選手を対象に、泳速度 増加に伴うプル泳中の心拍数と筋電図による2つの 実験を行った。被験者はレース中のストローク数が 減少し、さらにベスト記録を大幅に更新した。その 背景にはプル泳によるレジスタンストレーニングを 意図した部分的強化が影響しているものと推察され る。そこで異なるパドルサイズと水着着用時の泳速 度増加に伴う心拍数と筋放電分析を実施した。実験 1は2種類のパドルと2種類の水着を着用した時の 4 0 0
!プル泳を3段階で泳いだ時の心拍数を観察し、
実験2は3種類のパドルとパドルなし、そして2種 類の水着を着用し3段階のストロークテンポで泳い だ時の上肢(尺側手根屈筋、上腕二頭筋、上腕三頭 筋、三角筋、大胸筋、僧帽筋、広背筋)の筋活動を 観察した。実験1の4 0 0
!プル泳中の全ての試技に おける平均心拍数は被験者の最大心拍数の8 0%以下 を示 し、ま た 試 技 直 後 の 血 中 乳 酸 値 も1. 2 8±0. 6
mmol/l
であった。このことからプル泳ではパドル
サイズや水着を変えることは有効ではあるが、心肺 機能への負荷は低く、さらに強度設定を高く設定し、
スイムに近いストローク頻度で泳ぐ必要があること が示唆された。また泳速度増加に伴いパドルサイズ
―40―
が小さい方が心拍数は増加し、抵抗タイプ水着を着 用する事で心拍数が高くなる事が示唆された。また 実験2の2 5
"プル泳中の筋放電分析からは、最大ス トロークテンポ時の筋放電積分値はパドルサイズの 増大に伴い低下する傾向を示し、また同じストロー クテンポにおけるパドルサイズの増大に伴いスト ロークの主働筋である上腕二頭筋の筋放電の増加は 見られなかった。
6.競泳選手のスタートにおける熟練度
ルール改定によりスタート台にバックプレートが 採用された。このバックプレートを用いたスタート の有無がスタートパフォーマンスに影響するかどう かを運動学的変量から比較検討した。被験者は大学 女子競泳選手1 0名、大学男子競泳選手1 1名を対象と した。
その結果、女子競泳選手ではバックプレートを用 いたキックスタートは用いないトラックスタートよ り跳びだし速度が平均0. 1 0
"/#向上し、ブロックタイムが平均0. 0 2
#、1 5
"通過時間が0. 1 1
#短縮し、
男子競泳選手では跳びだし速度が0. 1 2
"/#向上し、ブロックタイムが0. 0 4
#、1 5
"通過タイムが0. 1 4
#短縮しており、いずれも有意な差が認められた。こ れは後方脚の進展動作が床反力を高め台上動作の短 縮になったものと考えられる。男女間に有意な差は 認められず、バックプレートはスタート局面のパ フォーマンス向上に貢献することが明らかになった。
【研究業績】
1.吉本忠弘、田口晴康:「間接幇助法」における 指導者の役割。福岡大学スポーツ科学研究4 0巻 1号、2 0 0 9。
2.吉本忠弘、 田口晴康:ゆか運動の 「反転跳躍技」
に関する構造体系論的研究。スポーツ運動学研 究2 2、2 0 0 9。
3.田口晴康他:つり輪の倒立の決めに関する現状 分析。 福岡大学スポーツ科学研究4 0巻1号、 2 0 1 0。
4.柳浩二郎、田口晴康他:鉄棒における「後ろ振 りあがり伸身とびこしひねり懸垂」の練習方法 に関するモルフォロギー的考察。福岡大学ス ポーツ科学研究4 0巻1号、2 0 1 0。
5.田口晴康他:器械運動における後方倒立回転と
びのうごきの発生。福岡大学スポーツ科学研究 4 2巻1号、2 0 1 0。
6.田口晴康他:つり輪の倒立に関する動感地平分 析。スポーツ運動学研究2 3、2 0 1 0。
7.柿本真弓他:高齢者における音楽体操のもたら す効果。福岡大学スポーツ科学部 第4 2号第2 号 2 0 1 2年3月
8.田原亮二、田口正公、柿本真弓:新体操競技に おける投げによる手具交換動作の特徴。第2 3回 日本トレーニング科学会大会、2 0 1 0。
9.Tahara,R., Shimonagata,S., Taguchi,M.: ACCEL-
ERATIONS OF THE FOOT DURING INSIDE TRAPPING.!th World Congress on Science &Football, 2011.
1 0.田場昭一郎、田口正公他:女子自由形長距離選 手のトレーニング効果について。第3回日本ト レーニング科学会大会、2 0 1 0。
1 1.尾関一将、桜井伸二、田口正公:バックスター トを用いたスタート方法はスタート局面時間を 短縮するか−キックスタートとトラックスター トの比較−日本水泳・水中運動学会 2 0 1 0年次 大会
1 2.尾関一将、 桜井伸二、 田口正公他:バックスター トを用いたスタート方法はスタート局面時間を 短縮するか−大学女子選手を対象として−日本 水泳・水中運動学会 2 0 1 1年次大会
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