修士論文
2 頭羽化が稀な寄主齢に対する
準単寄生蜂セグロカマバチの過寄生戦略
三重大学大学院 生物資源学研究科 生物圏生命科学専攻 陸圏生物生産学講座 昆虫生態学研究室
黒田 貴仁
2016年3月
目次
1. 緒言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
2. 材料と方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6
2.1 実験昆虫とその飼育・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6
2.2 既交尾メスによる過寄生実験:行動を調べる実験・・・・・・・・・・・・・・8
2.3 未交尾メスによる過寄生実験:生存率を調べる実験・・・・・・・・・・・・10
2.4 統計解析・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12
3. 結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15
3.1 過寄生受入率・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15
3.2 回避方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15
3.3 非産卵側検査・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17
3.4 産卵場所・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17
3.5 性比・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・18
3.6 生存率・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・18
3.7 2頭羽化率・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20
4. 考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・22
5. 摘要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・30
6. 謝辞・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・32
7. 引用文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・33
8. 表・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・37
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1. 緒言
同種の個体が既に寄生した寄主に産卵する事を過寄生といい(van Dijken & Waage,
1987),野外においても実験室内においても普通に見られる(Salt, 1961)。1寄主から1頭の
成虫しか羽化できない単寄生蜂において,過寄生は寄主探索時間と卵を浪費する行動であ
るため,適応的でないと考えられてきた。しかし,進化生物学の発展により,進化は通常
集団レベルで働くのではなく個体レベルで働くことが分かってきた。その結果,未寄生寄
主密度が低い場合など状況によっては,過寄生することが適応的であると考えられるよう
になった(van Alphen & Visser, 1990; Godfray, 1994)。
過寄生は,第1回目の産卵メスと第2回目の産卵メスが同じ場合(同母過寄生)と異な
る場合(異母過寄生)に区別されるが,両者間では過寄生することの適応的意義が大きく
異なる。異母過寄生の場合では,異なるメスの子の間で競争が起るので,自分の子が生き
残れば過寄生することで利益を得られる。しかし,同母過寄生の場合では,同じメスの子
の間で競争が起こるので,第1回目と第2回目の両方の産卵を込みにした時に得られる適
応度上の利益が,単寄生(未寄生寄主への産卵)時の利益を上回らなければ,利益を得ら
れない。そのため,多くの寄生蜂で,同母寄生寄主(自分が産卵した寄主)と異母寄生寄
主(他個体が産卵した寄主)の識別ができることが報告されている(van Dijken et al., 1992;
Godfray, 1994)。
このように過寄生から利益を得られる可能性はあるが,通常,過寄生が起こった場合,
2
羽化した成虫が第1回産卵起源の個体か,第2回産卵起源の個体であるか分からないため,
これまで,過寄生から得られる利益が明らかにされた種は限られている。しかし,セグロ
カマバチ(以降セグロと略) Echthrodelphax fairchildii Parkins (Dryinidae) では,産
卵から5日程度経過すると,寄生している幼虫が成長し肉眼で見えるサイズになる(これ
を幼虫嚢と呼ぶ)。この幼虫嚢は,産卵場所と同じ位置に出現し,営繭まで移動することは
ないので,産卵場所とそれ以降の発育を記録することによって,先着者と後着者の区別が
可能で,先・後着者別の生存率を明らかにすることができる。また,セグロ以外では、次
の5種で過寄生の利益について明らかにされた。Leptopiline heterotoma (Eucolidae)
(Visser et al., 1992),Venturia canescens (Ichneumonidae) (Sirot, 1996), Trissolcus
basalis (Scelionidae) (Field, 1997), Pachycrepoideus vindemmiae (Pteromalidae)
(Goubault et al., 2003), クロハラカマバチ Haplogonatopus atratus (Dryinidae)
(Yamada & Miyamoto, 1998; Yamada & Watanabe, 2002)。これらの種についての研究は
以下のことを明らかにした。1. 過寄生が起こった場合,第1回産卵と第2回産卵の間隔が
数時間以内の短い場合は,先着者と後着者の生存率は同じであるが,産卵間隔が長くなる
にしたがって,先着者が有利となる。しかし,Pachycrepoideus vindemmiaeは少し変わっ ており,後着者の生存率は産卵間隔が長くなるに連れて最初下がるが,その後に高くなり
一定の値を保つ。ただし,先着者の生存率より高くはならない。2. 過寄生時に先着者に対 して子殺しを行う種では,子殺しによって,後着者の生存率は単寄生時のそれに近くなる。
3
3. 同母過寄生での先着者,後着者の生存率は,上記の種のうち,クロハラカマバチとセグ
ロでしか調べられていないが,クロハラカマバチで4齢の寄主を使った時は,先着者,後
着者とも同母より異母過寄生時の生存率の方が高かった。
セグロは、水田で見られるヒメトビウンカLaodelphax striatellus (Fallén),セジロウン
カSogatella furcifera ( Horváth),トビイロウンカNilaparvata lugens (Stål)の外部寄生
蜂で,母蜂はウンカの体の右側あるいは左側の前翅か後翅の翅芽付け根に卵を産みつける
(Yamada & Ikawa, 2003)。そのため,過寄生は,その産卵場所の違いによって,つまり第
1回産卵側と第2回産卵側が同じか異なるかによって分けられる。第1回産卵側と第2回産
卵側が同じ時,先着者は必ず毒針で刺し殺される(Yamada & Ikawa, 2005)。また,第2回
産卵側が第1回産卵側と異なる場合、非産卵側を毒針で検査して,しばしば先着者を殺す(以
降,毒針検査とは,特に断りがないかぎり非産卵側検査を指す)。その頻度は,5齢寄主で
は,第1~2回産卵の間隔が長くなるにつれて増加し、同母過寄生時より異母過寄生時の方
が若干多い(Yamada & Ikawa, 2003)。ただし,Ito & Yamada(2014)では同母異母間の差
は見られない。短い産卵間隔において毒針検査が低いのは,1頭の寄主から2頭の寄生蜂が
羽化することがしばしば起こる(Yamada & Ikawa, 2005)ためであると考えられる。しか
し,Yamada & Ikawa(2005)の実験では,寄主として5齢が使われた。4齢寄主の場合,
2頭羽化はかなり少なくなると予測される。なぜなら,セグロによって寄生されたウンカは,
寄生された後も植物を吸汁し生きているが,脱皮して齢が進むことはないため,体が小さ
4
い4齢寄主では,セグロ2頭が羽化するためには餌資源が不十分だと考えられるからであ
る。もし,そうであるなら,同母寄生寄主に対しては常に過寄生を避けるべきである。一
方,異母寄生寄主に対しては,未寄生寄主が手に入りにくい状況では過寄生を行い,必ず
非産卵側毒針検査が伴うと予測される。あるいは,子殺しを確実にするため,そして非産
卵側毒針検査にかかるコストをなくすため,先着者と同じ側に産卵するべきである(5齢で はこの傾向はなかった)。ただし,この予想は,同母異母の識別が可能な場合である。同母
寄生寄主と異母寄生寄主の識別ができないときは,他のセグロ成虫との遭遇等のような手
がかりによって(Ito & Yamada, 2016),対象寄主が同母寄生寄主か異母寄生寄主であるか の確率を推定し,受け入れた場合は同母寄生寄主の可能性が多少あっても,先着者と後着
者の共倒れを防ぐため,必ず子殺しをすべきである。5齢では,第1回産卵から45分まで
は同母異母の識別が可能である(Ito & Yamada, 2014)。もし,4齢でも識別可能な産卵間
隔が同じなら,産卵間隔0と1時間との間に,過寄生率と子殺し率に大きな変化がある可
能性がある。
また,5齢を使った過寄生では先着者,後着者ともほとんどの場合メスであった(Ito &
Yamada, 2014)。セグロの性配分は,寄主質モデル(Charnov, 1982)の予測によく合うこ
とが増田(2010)によって示された。つまり,大きく質の良い寄主(5齢)にはメス,小 さく質の悪い寄主(3,4齢),特に3齢にはオスが産下されやすかった。5齢寄主の場合,2
頭羽化の後着者でも羽化時のサイズは,3,4齢に較べて大きいのかも知れない。4齢の場
5
合は,オスが産まれやすいが,メスもある程度産まれる。そのため,過寄生の場合は,成
虫羽化時の大きさが単寄生時より小さいのなら,過寄生時には,未寄生寄主への産卵時よ
りオスが多く産まれるかも知れない。
この研究では,4齢寄主を使用し,過寄生受入率,毒針検査率,性配分における上記の予
想を確かめるため行い,5齢での結果(Yamada & Ikawa, 2003, 2005; Ito & Yamada, 2014)
と比較する。また,産卵側が同じ側の場合は,必ず後着者が勝つので,生存率は第1・2回
産卵の産卵側が同じ側か異なる側かによって影響されるため(Yamada & Ikawa, 2003,
2005),産卵場所がランダムであったかどうかも確認する。そして,過寄生されたウンカを
飼育することによって,過寄生から得られる適応度上の利益(先着者・後着者別の生存率)
を調べる。
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2. 材料と方法
2.1. 実験昆虫とその飼育
セグロとヒメトビウンカ(以降ウンカと略)は,1992年に三重県津市三重大学構内およ び三重大学生物資源学研究科紀伊黒潮生命地域フィールドサイエンスセンター附帯施設農
場で採集し,恒温室(25±1℃,16時間明期;8時間暗期)で累代飼育したものを使用した。
さらに,三重大学構内にて採集した5個体(2011年9月)と紀伊黒潮生命地域フィールド
サイエンスセンター附帯施設農場にて採集した2個体(2012年9月と2013年8月に各1
個体)を,室内で産卵させ繁殖させた後,次世代を飼育集団に加えた。ヒメトビウンカは
2011年から2014まで毎年8または9月に数十個体を採集し,室内で飼育し増殖後,次世
代を飼育ケージに加えた。累代飼育では,ウンカだけの飼育ケージとセグロとウンカの入
った飼育ケージを用意した。ウンカだけの飼育では採集地にかかわらず混ぜて飼育したが,
セグロは採集地ごとに別のケージで飼育した。セグロとウンカの両方入ったケージにウン
カのみのケージから数百頭のウンカを適宜移し,セグロを飼育した。また,実験は,飼育
時と同じ温度,日長条件下で行った。
行動(過寄生率,性配分等)を調べるための実験では,セグロは5日齢の既交尾メスを
使用し,生存率・2頭羽化率を調べるための実験では4~10日齢の未交尾メスを使用した。
どちらの実験においても第1回目産卵時,ウンカは4齢0日齢を用いた。4齢0日齢(脱
皮してから16時間以内)のウンカを得るため,実験前日の夜にウンカのみのケージから,
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3齢ウンカを集め,実験時に脱皮していた個体を実験に使用した。生存率・2頭羽化率を調
べる実験で未交尾メスを使用したのは,性によって競争力に違いがある可能性があり(Field,
1997),それが先着者と後着者の生存率に影響を及ぼすのを避けるためである。また,未寄
生の4齢寄主にはオスが産まれやすいためである(増田,2010)。
実験に用いたセグロは,繭の段階でケージから取り出し,プラスティックチューブに1
頭ずつ繭がついたイネの葉ごと移し,羽化するまで25℃の部屋に置き放置した。羽化した
メスのセグロは,円筒形のプラスティックケージ(360ml;内径95mm,高さ55mm)で
個別飼育した。蓋には直径21mmの換気用の穴を開け,そこにテトロンのゴース(東レテ
トロンⓇC-119)を貼り付けた。この中にウンカの餌となる,根をハイポネックス(Hyponex
Ⓡ)水溶液を染み込ませた脱脂綿でくるんだ約20本の芽出し(第1葉か第2葉が出かかっ
たもの),蜂蜜水溶液(50%)で湿らせた脱脂綿,そして水を入れ脱脂綿で栓をしたキュベ
ット(4.5ml)を入れた。1日1回餌交換を行い,セグロには餌として1齢ウンカ10頭,2
齢ウンカ10頭,5齢ウンカ1頭を与えた。餌交換は,新しいウンカ,芽だし,蜂蜜水溶液
がしみ込んだ脱脂綿,水入りキュベットが入ったケージにセグロを移すことによって行っ
た。また,行動を調べる実験には既交尾メス用いるため,羽化日に上記飼育ケージに交尾
用のオス2頭を入れた。餌交換の際、オスが死んでいた時は新しいオスを補充し,ケージ
内に常にオス2頭がいるようにした。
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2.2. 既交尾メスによる過寄生実験:行動を調べる実験
行動を調べる実験と以下の生存率を調べる実験両方において、第1回産卵と第2回産卵
の間隔が0,1,24時間の場合の過寄生について調べた。0,1時間の産卵間隔の選択は、2
頭羽化の可能性を調べるためと,5齢を使った実験では同母異母の識別が産卵間隔45分ま
でしかなかったからである(Ito & Yamada, 2014)。これらの産卵間隔で,第1回目産卵個
体と第2回目産卵個体が同じ場合(同母)と異なる場合(異母)とで行った。異母の場合
は,異なる採集地由来のセグロ2頭でペアを作り,ペアのそれぞれにペアの相方によって
寄生されたウンカを与えて過寄生を行わせた。また,これによって異母でも過寄生を行わ
せる前に同母と同じように未寄生寄主に産卵する機会を与えた。
個別に飼育したセグロは,暗期から明期への変化直後に,個別飼育ケージから取り出し,
空のキュベット(4.5ml [ 10×10×45mm ] プラスティック容器)に未寄生2齢ウンカ4頭
(餌用)とともに入れた。4時間後,セグロが入っているキュベットから餌用ウンカを取り
除き,未寄生4齢0日齢のウンカ1頭を入れ,第1回産卵をさせた。この時,蛍光下,実
体顕微鏡に取り付けた高感度ビデオカメラで産卵行動を撮影し,産卵の有無,産卵した場
合は産卵場所(左か右?前翅の基部か後翅の基部か?),セグロの産卵管の静止時間による性
(1.5秒以下はオス,2~3.5秒はメス,それ以外は不明)(Yamada & Imai, 2000),毒針検 査の有無を記録した。
産卵間隔0において同母では,第1回産卵後,ウンカをセグロとともにキュベット内に
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残し,第1回産卵と同様に観察,記録した。異母では,第1回産卵をさせ,そのウンカを
取り出した後,セグロをそのままキュベットに残し,別のキュベット内でペアの相方によ
って寄生されたウンカを手早くキュベットに入れ過寄生するかどうかを観察した。
産卵間隔1時間の場合は,明期になって3時間後に第1回産卵をさせた。第1回産卵の
時間を早めたのは,過寄生する時間(第2回産卵)を明期になってから4時間後に統一す
るためである。産卵間隔1時間の同母では,未寄生寄主に産卵させた後,セグロをそのま
まキュベットに残し,ウンカはキュベットから取り出し,イネの芽出し入りサンプル管
(30ml)に入れた。1時間後,寄生されたウンカを元のキュベットに戻し,過寄生を行わ
せた。異母の場合も,ペアの相方によって1時間前に寄生されたウンカをイネの芽出し入
りサンプル管に戻した後,1時間前に未寄生寄主への産卵経験をさせたセグロに与えた。
産卵間隔24時間の場合は,第1回産卵後,ウンカとカマバチはそれぞれ,芽出し入りサ
ンプル管と飼育ケージに戻した。セグロは,第1回産卵と同じように,過寄生をさせる日,
明期に変わる直前に取り出し,餌用2齢ウンカ4頭と一緒にキュベットに入れた。明期に
なって4時間後に,24時間前に寄生されたウンカを入れ,第2回産卵を行わせた。
ウンカとセグロを一緒にして10分経過しても過寄生しない場合は観察を打ち切り,過寄
生回避とみなした。過寄生回避の時は,以下の分類に従って回避の種類を記録した。a.
ウンカに無反応で立ち去る,b.触角でウンカに直接触れて検査した後回避,b2.ウンカ に直接触れず傍で触角検査した後回避(触角先端をウンカの体表に接する間際まで持っ
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ていき,左右交互に上下させる),c.ウンカを持った後すぐ放して回避,d.麻酔中か麻酔
後回避,e.腹部の検査中に回避。また,セグロがウンカと最初に遭遇した時と,10分間観
察の最後に遭遇した時の反応も記録した。
第2回産卵時に過寄生しなかったセグロは,産卵能力がないために産卵しなかった可能
性もあるので,実験後すぐに産卵に適した齢である未寄生5齢寄主を与えた。5齢寄主に産
卵を行わなかった場合は,産卵能力なしと判断し,データから除いた(同母0時間で4例,
異母0時間で4例,同母1時間で1例,異母1時間で3例,異母24時間で1例あった)。
また,摂食があった場合も記録し,過寄生回避とした。過寄生された寄主は,イネの芽出
しを入れたサンプル管で個別飼育し,念のため羽化成虫の性も調べた。
過寄生させる回数は,セグロ1個体につき1回とし、1度実験に使用した個体は次の実験
には使用しなかった。最終的に各産卵間隔において,同母過寄生で33~36回,異母過寄生
で27~30回の繰り返しを得た。
2.3. 未交尾メスによる過寄生実験:生存率を調べる実験
既交尾メスの実験と同様に、個別に飼育した未交尾セグロは,明期になった直後に個別
飼育ケージから取り出し,キュベット(4.5ml [ 10×10×45mm ] プラスティック容器)に
未寄生2齢ウンカ4頭(餌用)とともに入れ,明期になって4時間後から実験を開始した。
セグロが4日齢になってから毎日,同母の0,1,24時間の産卵間隔,異母の0,1,24時
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間産卵間隔の過寄生をさせた。どの種類の過寄生を行わせるかの順はランダムとした。第2
回産卵で10分以内に過寄生しなかった場合は,そこで観察を打ち切った。1日につきこの
6回の過寄生チャンスで過寄生をしなかった場合は,しなかった種類の過寄生について,そ
の日のうちに再度行った。それでも過寄生しなかった場合は,過寄生するまで繰り返した。
当初,これを5,6日繰り返す予定であったが,途中で死亡するセグロや1日に5回以上や
り直しても過寄生しなかった場合もあったので,1個体から1~3回の過寄生しか得られな
かった産卵間隔もあった。最終的に各産卵間隔で,同母では総数37~48頭,異母では34
~47頭の過寄生を受けた寄主を得た。単寄生時の適応度上の利益を調べて比較に使用する
ため,49頭のウンカについては,第1回目産卵後,第2回目産卵を行わせなかった。また,
過寄生するために使った各セグロを使用して,単寄生された寄主を得た。
過寄生あるいは単寄生されたウンカは,既交尾メスの実験と同様に個別飼育し,幼虫嚢
の出現の有無,成虫の羽化の有無を調べた。産卵側が同じ場合,後着者がいつも勝つと仮
定した(Yamada & Ikawa, 2005)。また,産卵側が反対で先・後着者両方の幼虫嚢が出現
し,同じサンプル管内でセグロ2頭が寄主から脱出・営繭すると,どちらが先着者の繭な
のか後着者の繭なのかが区別できなくなる。そのため,幼虫嚢から脱出する瞬間を観察し,
幼虫嚢から脱出した直後の幼虫片方を別のサンプル管に移し,先着者と後着者を区別でき
るようにした。
12 2.4 統計解析
同母異母の差と産卵間隔が,過寄生受入率と子殺し率(第1回産卵と第2回産卵側が
異なる時のみ)へ及ぼす影響を,ロジスチック回帰分析を用いて調べた。産卵間隔はカテ
ゴリー要因とした。セグロの大きさ(頭幅)も要因として入れた。2次の交互作用も要因と
して入れた。解析は,統計ソフトLogXact®(Cytel Software, Cambridge, MA, USA)を用い
て行い,有意性は,正確確率法を用いて判定した(Cytel Inc., 2012)。また,過寄生時の産卵
側について,第1回産卵側かその反対側かをランダムに選んでいるかを2項検定で調べた。
有意性は,多重比較補正を考慮して判定した(P < 0.05;連続Bonferroni多重比較補正(Rice,
1989))。これについては,以下の方法でも検定した。まず,産卵間隔,同母異母の影響を
受けていそうになかったので,それをHomogeneity of Odds-Ratio test(Cytel Inc., 2012)
によって調べて,影響がない場合は,全てを合算して2項検定で調べた。また,上記の行
動については,生存率を調べる目的で計画した実験から得た結果も提示したが,解析には
使わなかった。というのは,同じ個体を同じ日に複数回使っているのと数日間使用したた
め,経験の影響を受けるためである。連続して既寄生寄主に遭遇すると過寄生受入率は増
加し,毒針検査率は過寄生をすると減少することが分かっている(勝山,2011)。
先着者と後着者の生存率については,それぞれに対する同母異母の差,産卵間隔の影響
をロジスチック回帰直線によって調べた。Stratum要因として,母蜂成虫を入れた。加え て,産卵側別の解析をおこない,第1,2回の産卵側が異なるときは,子殺しの有無を新た
に要因として入れた。この解析にも上記の統計ソフトLogXact®を使った。stratum要因(こ
13
の場合親寄生蜂間の差)が入り反応変数が多項変数(2項変数でない)である場合,stratum
要因以外の2要因の影響を同時に調べる解析法は現在存在しないので,過寄生された寄主
からの1寄主当たりの寄生蜂の羽化数の違いは,同母異母の影響と,産卵間隔の影響を別
個に検定した。産卵側が同じ側の時は,後者が必ず勝つため後着者の生存率の解析と同じ
結果となるので,産卵側が異なる場合についてのみ解析を行い,子殺しがある場合とない
場合について分けて行った。同母異母ごとに産卵間隔の差は,Cochran-Mantel-Haenszel
test on singly ordered stratified RxC data (Cytel Inc., 2012)を使って,産卵間隔ごとの同
母異母の差はPermutation test on two ordered multinomials (Cytel Inc., 2012)を使って
解析した。これらの直接確率法による分析には,統計ソフトStatXact ®(Cytel Software,
Cambridge, MA, USA)を使った。
単寄生から得る適応度上の利益と異母過寄生の適応度上の利益,あるいは同母過寄生の
適応度上の利益を比較するため,単寄生時の生存率,異母過寄生の後着者ならびに同母過
寄生の先着者と後着者と比較した。同母の生存率との比較では,先着者と後着者の生存率
の合計とも比較した。産卵側が同じ側と異なる側別に,さらに異なる場合は子殺しを行っ
た場合と行わった場合別に比べた。生存率の比較では,stratumまたはcluster要因(セグ
ロ個体の差)を入れるため異母では,Zelen’s test for Homogeneity of Odds-Ratios(Cytel Inc., 2012;2頭羽化がないため),同母ではPermutation test on two ordered multinomials
(Cytel Inc., 2012)を使った。これらの検定は,StatXact ®を使って行った。有意性は多重比
14
較補正を考慮した(P < 0.05;連続Bonferroni多重比較補正(Rice,1989))。
15
3. 結果
3.1. 過寄生受入率
過寄生受入率は,産卵間隔0時間では,同母過寄生で16.7%と低かったのに対し,異母
では51.9%と高かった(表1)。産卵間隔1時間になると,同母過寄生の受入率が上昇し,
同母と異母の差がなくなった。産卵間隔24時間になると,受入率は同母異母ともに更に高
くなった(表1)。統計解析の結果,親蜂の頭幅と同母異母,頭幅と産卵間隔の有意な交互
作用はなかったが,同母異母と産卵間隔の間に有意な交互作用があった(表2)。そこで,
産卵間隔別に解析したところ,産卵間隔0時間において同母異母間で受入率が有意に異な
り,同母異母別に解析したところ,同母0と1時間,同母0と24時間の産卵間隔間で有意
な差があった(表3)。
3.2. 回避方法
同母の産卵間隔0時間では,寄主との最初の遭遇時に過寄生することはなかったが,産
卵間隔が長くなるにしたがって,最初に遭遇した時に過寄生を受け入れることが多くなり,
産卵間隔24時間で過寄生受入率は38%近くまで上昇した(表4)。異母での最初の遭遇時
の過寄生受入率は,産卵間隔0時間の時は3割程度で,1時間で少し下がり,24時間では
70%近くまで上がった。異母24時間の1例を除いて,第2回目産卵時に摂食で過寄生回避
した個体は全く観察されなかった(表4)。しかし,行動を調べる実験と生存率を調べる実
16
験において,寄主に産卵した後,摂食類似行動が,第1,2回産卵の両方で,第2回目産卵
では同母と異母とでしばしば観察された(表5,6,7,8)。産卵後の摂食類似行動は,腹部
から寄主の血リンパを吸う通常の摂食とは異なり,口器を寄主の胸部の前・中側板に当て,
寄主の皮膚を撫でるように動かす非破壊的な行動である(野田,2014)。また,産卵後,直
ぐに寄主を摂食することが,行動実験で4例観察された(同母0時間で1例,同母1時間
で1例,異母0時間で1例,異母1時間で1例)。産卵後摂食された寄主の内,異母1時間
では寄主が死亡せず,後着者のセグロが羽化したが,それ以外では寄主が2~4日後に死亡
し,セグロも羽化しなかった。
寄主との最初の遭遇時の反応では,第1・2回産卵両方で,同母異母ともに無反応(a)
か触角検査(b,b2)で回避することが多かった(表9)。例外は異母24時間で,ウンカに
直接触角を触れない触角検査による回避とウンカを掴んだ後直ぐに放して回避が多くなっ
た。触角を使って寄主を調べる時は,寄主に直接触れての検査(b)より,直接触れず寄主
の傍で検査すること(b2)が多かった(表9)。10分間での最後の遭遇時の反応では,同母
の0,1時間を除いて,無反応が減った(表10)。麻酔中の回避は異母1時間の観察10分
間での最後の遭遇時の反応の1例を除いて観察されず,麻酔後毒針検査中の回避は全産卵
間隔で一度も観察されなかった(表10)。
17 3.3. 非産卵側毒針検査
産卵側が同じ場合の毒針検査は,産卵間隔24時間の同母を除き全く見られなかった(表
11)。産卵側が異なる場合の検査率は,産卵間隔0時間の時は同母異母ともに少なかった。
同母異母ともに産卵間隔24時間で検査率が最も高く,同母異母とも産卵間隔が長くなるに
したがって,検査率が上昇した(表11)。異母では検査率が常に高いことが予想されたが実
際はそうならず,どの産卵間隔でも同母異母の差はなかった。ただ,有意な差ではなかっ
たが,産卵間隔1時間で異母の方が少し高かった。しかし,短い産卵間隔(0,1時間)と
長い産卵間隔(24時間)との間で差がみられた(表13)。
生存率を調べる実験において,行動を調べる実験と同じような結果が出たが,行動実
験より全体に毒針検査率が低かった(表14)。
3.4. 産卵場所
第1回産卵は,行動を調べる実験と生存率を調べる実験の両方において,ウンカの左右
にほぼ同じ割合で起こり,左右の選好性はなかった(表15,16)。また,第1回目産卵の
際,後翅翅芽基部に産卵することはなかった。第2回目産卵も,生存率実験の同母24時間
を除き(ただし,多重比較の補正を考えると有意ではない),左右の選好性はなかった(表
17,18)。第2回産卵では後翅基部に産卵されることがあった。これは,産卵側が同じで前
翅基部がふさがっている時に起きた(Yamada & Ikawa, 2005)。
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行動を調べる実験と生存率を調べる実験の両方において,ほとんどの産卵間隔で,産卵
側は同じ側になるより異なる側に産卵することが多かった(表19,20,21,22)。ただ,
産卵間隔による有意な差はなかったが,長くなるにつれてその傾向は弱まった。また,同
母異母間の差もなかった。これは,カマバチが過寄生時に第1回目の産卵側を認識して,
それを避け,異なる側に産卵する傾向があることを意味する。
3.5. 性比
当初の予想通り,産卵管の静止時間による性と羽化成虫の性の両方において,同母異母
に拘らず全産卵間隔でオス率が最低でも73%あり極めて高かった(表23,24)。
3.6. 生存率
第1・2回目の産卵側が同じ場合,後着者がいつも勝つとしたため,出現した幼虫嚢は全
て後着者とした(表25;Yamada & Ikawa, 2003)。第1・2回産卵側が反対側で,毒針検
査がなかった場合,ほとんどの場合,先着者の幼虫嚢が出現した(表26)。一方,産卵側が
反対側で毒針検査があった場合,先着者の幼虫嚢はほとんど出現しないが,稀に出現する
ことがあった(表26)。これは,毒針検査は高い確率で成功するが,毒針検査が失敗するこ
とがあることを意味する(Yamada & Ikawa, 2003)。
産卵側が同じ場合と異なる場合を合わせた時の先着者と後着者の生存率は,同母異母の
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全産卵間隔で,先着者より後着者の生存率の方が高くなった(表27)。これは,産卵側が同
じ場合,後着者がいつも勝つと仮定したためである。
先着者の生存率への同母異母と産卵間隔の影響の解析では,同母異母と産卵間隔の間に
交互作用が見られた(表28)。第1・2回の産卵側が同じ場合は,先着者の生存の可能性は
ないので,産卵側が異なる場合に対して同様の解析を行ったが,同様の結果が得られた(表
29)。交互作用があったので,同母異母別に解析した。また,毒針検査があった時とない時
では,生存率が全く異なるので,検査の有無別に行った(表30)。異母では産卵間隔が長く
なった時,先着者の生存率が良くなったのに,同母ではそうではなかった(表31,32)。こ
れが交互作用をもたらした原因と考えられた。ただし,同母24時間の検査なしのサンプル
数は3と非常に少なく,同母と異母とで差があるという結論を出すことは現時点では避け
た方が良い。
後着者の生存率に対する同母異母と産卵間隔の影響の解析では,2つの要因間の交互作用
はなく(表33),同母異母ともに産卵間隔が増大するにつれ,その生存率が高まった(表
27)。これは,産卵側が異なる場合は,その傾向がなかったが(表32,33),同じ場合はそ
の傾向があったためである(表34,35)。
異母過寄生の適応的意義を調べるため,異母後着者の生存率と単寄生時の生存率を調べ
た(表36)。第1・2回産卵側が同じ場合,後着者の生存率は,産卵間隔0,1時間で単寄
生時の値より低かった(ただし,多重比較補正すると有意ではない)。第1・2回産卵側が
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異なり,毒針検査がない時は,単寄生時の値より低かった。
単寄生時の平均生存率と過寄生された寄主1頭から少なくともセグロ1頭が羽化した寄
主の割合を比較すると,単寄生時と有意な差は同母異母に拘わらずどの産卵間隔にも見ら
れなかったが,異母の24時間を除いて,単寄生時の方が高かった(表37)。産卵側が同じ
場合,少なくとも1頭が羽化する割合は,後着者のみが出現するため,前述の後着者の生
存率の結果と同じである。一方,産卵側が異なる場合の少なくとも1頭羽化する割合は,
単寄生時と有意な差は同母異母に拘わらずどの産卵間隔でもなかったが,同母0時間と異
母24時間を除き単寄生時を下回った(表38)。
過寄生時の1寄主からの平均羽化数は,同母24時間と異母0時間以外では単寄生時の平
均羽化数(約0.79頭)より多かった(表39)。統計解析の結果,1寄主からの平均セグロ
羽化数は,産卵間隔間では有意な差は見られなかったが(表40),産卵間隔0時間では同母
異母間に有意な差があり,同母の方が有意に多かった(表41)。単寄生時の平均羽化数と過
寄生時の1寄主からの平均羽化数との比較では,同母異母ともに全産卵間隔で有意な差は
なかった(表42)。
3.7. 2頭羽化率
産卵側が同じ場合は,後着者しか出現しないため,2頭羽化は見られなかった。産卵側が
異なる場合の2頭羽化率は,同母0時間で比較的高い率(8/28)で見られたが(表43),そ
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の他では同母と異母の1時間で少し見られた以外,2頭羽化は全く見られなかった(表45)。
検査があった場合,2頭羽化は見られなかった(表43)。産卵間隔0時間において,同母異
母間で2頭羽化率に有意な違いがあった(Zelen’s test for Homogeneity of Odds-Ratios,
P=0.012)。毒針検査がなかった場合,2頭羽化が起こるのは,先着者と後着者がほぼ同時
に幼虫嚢から脱出を開始させた時に多かった(表44)。また,幼虫嚢からほぼ同時に脱出し
た場合は,2頭羽化になるパターンか,共倒れとなり先着者と後着者のどちらも羽化しない
パターンになりやすかった(表44)。一方,同じ寄主に寄生しているカマバチ幼虫2頭のう
ち,どちらか片方が先に幼虫嚢から脱出した場合,先着者であるか後着者であるかに関係
なく,先に脱出したカマバチ幼虫の方が,有利だった(表44)。
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4.考察
過寄生受入率は,産卵間隔0時間では異母より同母の受入率はかなり低く,同母異母間
で差があったが,産卵間隔1時間になると同母の受入率が上昇し,同母と異母の差はなく
なった。このことから,5齢寄主の時と同様,産卵直後は同母寄生寄主を識別し,同母過寄
生を回避するが,前回の産卵から1時間経過すると同母異母を識別できなくなり,同母寄
生寄主の受入率が上昇したと考えられる。また,5齢寄主では同母0時間を除いて,ほとん
どの産卵間隔で過寄生受入率が70%以上とかなり高かった(Yamada & Ikawa, 2003; Ito &
Yamada, 2014)。それに対し,4齢での受入率は,全産卵間隔で5齢の時を下回っていた。
この受入率の差は,セグロにとっての4齢寄主と5齢寄主の寄主質の違いによるものだと
考えられる。セグロが産卵に使用できる寄主齢は,3齢,4齢,5齢の3種類であり(高山,
1996;佐原,2010,野田,2014),産卵選好性は高い順から5齢,4齢,3齢である。セグ
ロは大きい寄主に好んで産卵するので,この受入率の差は,元々の産卵選好性の違いによ
って生じたと考えられる。
生存率実験では,行動実験に比べて,セグロが過寄生を全体的に受け入れやすくなった。
これは,既寄生寄主と複数回遭遇した後だと,過寄生を受け入れやすくなるためであった。
このことは,勝山(2011)によって既に報告されている。連続して既寄生寄主と遭遇させ ると,セグロは悪い生息地にいると推定し,既寄生寄主,つまり質の劣る寄主を受け入れ
やすくなると考えられる(勝山,2011;Ito and Yamada,2016)。
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毒針検査は,5齢では同母異母ともに産卵間隔0,1hでほとんど起こらず,24時間で高
くなった(Ito & Yamada, 2014)。一方,4齢では産卵間隔0時間で同母異母とも起こらな
かったが,1,24hと産卵間隔が長くなるにつれて同母異母ともに毒針検査率は同様に高く
なった。当初,4齢では2頭羽化が少ないので,異母ではどの産卵間隔でも検査率が高くな
ると予想していたが,予想に反して異母0時間で、検査はほとんど見られなかった。過寄
生受け入れにおいては同母異母の識別ができたのに検査を控えたことは,一見矛盾するよ
うに思えるが,過寄生受け入れの際に使う手掛かりと,毒針検査の際に使う手掛かりは異
なるのかもしれない。King & skinner(1991)は寄生蜂N.vitripennisのメスが未寄生寄
主と既寄生寄主を識別するための手掛かりについて,性配分の際に使う手掛かりと1回産
卵での産卵数を決める際に使う手掛かりとは異なっていることを明らかにした。セグロは
過寄生を受け入れる時は同母異母識別のための手掛かり(匂い)と,そして恐らく第1回
産卵からの経時時間を示す手掛かりの両方を使うが,毒針検査をする際は後者のみを利用
するのかもしれない。あるいは,何らかの理由で,同母異母識別のための手掛かりを使え
ないのかもしれない。ただ,自然界では,第1回産卵直後の寄主に遭遇することは極めて
稀と思われるので,そういったメカニズムでも十分かもしれない。
産卵間隔1時間で同母異母ともに毒針検査率が少し上がったが,これは,異母過寄生で
ある確率が,第1回目産卵直後に比べて上がるためであると考えられる。この場合も,同
母異母識別のための手掛かりは使わず(使えず),第1回産卵からの経過時間のみを示す手
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掛かりを利用しているため,同母と異母の間に検査率の差はでなかったと考えられる。
産卵間隔24時間では,先着者が1日早く寄生している分,後着者より大きく発育してお
り,毒針検査なしの場合は後着者が不利となる。そのため,第1回産卵からの経過時間を
示す手掛かりを察知し,毒針検査率を高めたと考えられる。産卵間隔1時間において,検
査率は5齢より4齢で高かったが,この検査率の齢期間の差は,検査にかかるコストの差
および2頭羽化率の差を反映していると思われる。勝山(2011)は,セグロが連続して既
寄生寄主に出会うと,後になるほど毒針検査を控えることを発見した。これは,検査が,
セグロにとって重労働で,かなりの生理的コストがかかるのだろう:恐らく寿命の減少を
引き起こす。生存率を調べる実験から得られた検査頻度が,行動を調べる実験から得られ
た頻度より低かった理由としても,検査にかかる生理的コストが考えられる。生存率を調
べる実験では5,6日間1日当たり6回連続して過寄生を行うため,検査を控えやすくなる
ためと考えられる(勝山, 2011; Ito & Yamada, 2014, 2016)。
セグロは元々,未寄生寄主に対して非産卵側検査を行うことはかなり稀で,過寄生時で
も短い産卵間隔では検査を行わないことが多かった。それとは対照的に,別種のクロハラ
カマバチでは既寄生寄主にも未寄生寄主にもかなり高い頻度(7~8割程度)で毒針による 非産卵側検査を行う(Yamada & Miyamato, 1998; Yamada & Watanabe, 2002)。毒針検 査を行うことは,クロハラと比較して,セグロにとっては生理的な負担が大きいため,産
卵間隔が長く,検査なしだと後着者が不利な場合を除き,非産卵側検査を極力控えるのか
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もしれない。あるいは,セグロの方が未寄生寄主と既寄生寄主を識別する能力が高いこと
を示しているのかもしれない。
セグロがウンカの体の右側に産卵するか左側に産卵するかの選好性はなく,ランダムで
あった。5齢寄主を用いた実験では,産卵側が同じ側か異なる側かの選択は,同母ではラン
ダムで,異母では若干第1回産卵と第2回産卵の産卵側と異なる側を選ぶ傾向があった
(Yamada & Ikawa, 2005)。4齢では同母異母とも第1回産卵と第2回産卵側が異なるこ
とが多かった。その傾向は産卵間隔が短い場合で顕著であった。通常,セグロは,ウンカ
の右側から接近した時は左側の翅芽基部に産卵し,左側から接近した時はウンカの右側の
翅芽基部に産卵する。しかし,今回の実験で,セグロがウンカを捕獲した後,ウンカを持
ち替え,本来の産卵側とは反対側に産卵することが数回のみだが確認できた。詳しく観察
するともっと多いのかもしれない。5齢ウンカは4齢に比べて大きく,この操作を行い難い
ので,第1回産卵側と異なる側へ産卵する傾向がはっきりしなかったのかもしれない。
異母では同じ側に産卵した方が,毒針検査をせずに先着者を必ず殺すことができるので,
同じ側のほうが良い。しかし,同母で産卵間隔が短い場合は,2頭羽化があるため反対側が
良い。毒針検査のところで議論したように,野外では産卵間隔0,1時間の異母寄生寄主と
出会うことがほとんどないため,産卵側の選択(恐らく,ウンカを捕らえた直後起こる)
の際,同母異母識別のための手掛かりが使われず(または,使うことができず),第1回産
卵側からの経過が短いと推定した時は,反対側を選ぶのかもしれない。しかし,産卵間隔
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24時間では2頭羽化がないため,また,先着者,後着者を合わせた生存率が高くなるわけ
でもないので,同母でも異母でも反対側を選ぶことに適応度上の利益はない。そのため,
産卵側の選好性がかなり減ったと考えられる。しかし,ウンカを捕獲した直後は第1回産
卵からの経過時間の手掛かりが不正確なため,産卵間隔24時間でも多少産卵側の選好性が
残ったと考えられる。
過寄生時の性配分に関して,5齢寄主ではほとんどメスしか羽化しなかったが,4齢では
第1・2回産卵ともにほとんどがオスであった。しかし,メスも多少産まれた。永尾(2016)
は,実験前日までの飼育に使った寄主齢期が,実験当日の性配分に影響することを示した。
前日まで5齢寄主で飼育した場合は,5齢より寄主質の劣る4齢には全てオスを産卵するの
に対して,2齢で飼育した場合は4齢でもメス率が数十%に達することがあった。今回の実
験では,主に1,2齢寄主を与えて飼育したので,メスも産まれたと考えられる。
5齢寄主に過寄生した時と比較して,4齢寄主で2頭羽化が起こることは,同母0時間を
除き産卵間隔が短くてもほとんどなかった。4齢寄主は,5齢寄主より体が小さいので,セ
グロ2頭が羽化するには利用できる寄主の餌資源が不足していたと考えられる。セグロの
幼虫は寄主から脱出する際,寄主の体液(血リンパ)をできるだけ多く吸収してから脱出
する。セグロ1頭に寄生された5齢寄主の場合,セグロ幼虫が脱出した後でも寄主の体液
は少し残っているのを著者は観察した。しかし,4齢寄主では,幼虫1頭が脱出すると,寄
主の体液は吸いつくされ,複眼の色素も完全に抜け,ほとんど表皮しか残っていない状態
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だった。これは,過寄生時に幼虫嚢から脱出する際に起こる餌資源をめぐる競争が,5齢寄
主より4齢で更に苛烈であることを示している。つまり,5齢寄主では片方のセグロ幼虫が
先に幼虫嚢から脱出しても,利用できる寄主の体液がまだ残っており,後から脱出する幼
虫も残りの体液を吸収できるため,2頭羽化が起こりやすい。しかし,4齢寄主では片方の 幼虫が先に脱出すると,後から脱出する幼虫が利用できる体液が残っていないため,後か
ら脱出する幼虫は不利になるのかもしれない。実際,今回の実験では,幼虫嚢から脱出を
開始するタイミングに差があった場合,先に脱出を開始した個体のみが羽化し,後から脱
出した個体は羽化できないことが多かった。また,今回,2頭羽化が多く起こったのは,過
寄生しているセグロ2頭がほぼ同時に幼虫嚢からの脱出を開始した場合だった。この場合
では,脱出したセグロ2頭の血リンパ摂取量が同程度になるため,2頭羽化か共倒れになり
やすかったと考えられる。5齢で2頭羽化が起こったのは,8時間以内の短い産卵間隔のみ
(同母24時間の1例を除く)であり(Yamada & Ikawa, 2003),4齢でも2頭羽化が起こ
ったのは24時間よりも短い産卵間隔(0,1時間)のみであった。4,5齢に寄生したセグ
ロ幼虫は,産卵から通常8日後に幼虫嚢から脱出するので,24時間以上の産卵間隔で先・
後着者ともに通常通り発育すると,同時に脱出することは難しく,その結果2頭羽化は難
しいと考えられる。
5齢寄主の時と同じく,産卵側が同じ場合,先着者の幼虫嚢は出現せず,後着者のみが羽
化した。検査があった場合,先着者はほとんど出現しなかったが,稀に出現した。毒針検