92
金沢大学十全 医学会雑 誌 第
84巻 第
1号
92‑102 (1975)ヒ トの下 オ リー ブ核 に関 す る細 胞 構築 学 的研 究
金沢大学 医学 部 神経 精 神 医学 講 座 (主任 :故大塚良作教授 )
斉 藤 チ カ 子
(昭和
49年
11月22日受付 )
下 オ リー ブ核 は延髄 の全 長 にわ た って ,延 髄 錐 体 の 背外側 に位 置 し,ひだの多 い特 徴 あ る形 態 を 有 す る , 大 きな神 経核 で あ る.
近年 . この下 オ リー ブ核 に関 す る研究 は ,比 較解剖 学的 ,実験解 剖 学 的方 面 や神 経 生 理 学 的方 面 な ど多 岐 にわた り,本 邦 で もこ. の方 面 の研究 報 告 は少 く な い .
しか しそれ に も拘 らず この核 の機 能 や 形 態 に つ い て は ,未 だ十分解 明 されて いな い .最 近 に いた り,神 経 病理 の領 野 にお いて従 来 よ り気付 か れて いた変性 過程 や ,血管性 変化 の他 に ,代 謝 障害 や その他 の内科 的疾 患 にお け る本核 の傾病 性 が注 目 され) ) 〜 6 ) , ま た 神 経 解 剖 の面 で も小 脳 を中心 と した線 維 結 合 の他 に ,錐 体路 や ,錐体外 路系 との関係 が種 々論 じ られ て い る
7)
‑12'下 オ リー ブ核 に関 す る これ らの論 議 を ,基 礎 的 に再 検
討 す る素材 と して ,著者 は ヒ トの下 オ リー ブ核 を細 胞 構築 学的 に観察 し.
〔1
〕下 オ リー ブ核細 胞 の基 本構 造
〔2
〕主核細 胞 の核 の偏位 につ いて と題 し,まとめたので報告 す る.
〔
Ⅰ〕.下 オ リー ブ核細 胞 の基 本構 造 I.研究 対象 お よび観察 方 法
対 象 は臨床 的 に中枢神 経疾 患 を除外 し得 た 日本人 脳 の
5例 で あ る. この
5症例 につ いて は , 表
1の 通 り で .全例男性 で .年令 は
18才
〜72才 で あ り.剖 検時 肉 眼的 に小 脳 ,棉 .延髄 に粗大病 巣 の み られ なか った症 例 で あ る.
観察 に用 いた標 本 は .剖 検時 に頭 蓋 腔 .脊柱 管 よ り 一括 して と り出 した脳幹 部 を
10%ホ ル マ リ ンで 固 定
表
1症 例 の 概 略
・ 例
氏 名年 令 (オ )
性臨 床 診 断 臨 床 歴 脳
重量(
g)脳の 肉眼的所 見
病 理
No. 1 N.Y. 18 i火 腎 不
傷全 身 自殺 し, ガ ソ リン をか ぶ り, 焼
2日後 死 亡
1450頭 皮 浮腫 の 他 者 変 な し
364 2 Ⅰ.S. 37 %亜 急性 肝 炎 抗 結 核 黄 痕 ,
剤曝使 用 気, 堰 吐 , 肝 1
年後 ,
1550
幕切 痕 両 側 に 軟膜 うっ血 , 莱
359肺 結 核 酵 素
値 急騰
し, 昏 睡 に
陥 り死 亡 ・ 回 J ‑、 南平 ル ニ 化
7,脳3 K.J. 48 i
白 血 病 J 亡 違憲 霊 芝 晋 菅 野 鮎 是 頭 頂 部 出 血 頭 皮 浮 腫
361 4 K.K. 69 i輝 癌 腰 痛 , 胃腸 症 状 に は じ ま り, 開 腹 に よ り腰 痛 を確 認 した が
仝 経 過 約
1年 間 で死 亡
1200 度アテローム脳 底 動
形成頭 頂 部 腫 脹 脈 に 軽
353 5 U.N. 72 %心 心 筋 膜 炎 炎 .
呼吸困8 で , こか か 難
わ らず,
頻, 心 不 全 脈 の加 療
発 病
後 5年 で死 亡
1000両 側 々豆 軟 脳 動 脈 硬 イヒ, 脳 に硬 膜 出 血 , 膜 うつ血 , 溝 関 大 自 鱗 部
350 A Study on theCytoarchiteo.tureoftheInferiorOlivein Man.Chikako Saito, DepartmentofNeuropsychiatry(Director:pastPro
f
.R.ヒ トの下オ リーブ核 に関す る細胞構築学的研究
級,6
カ月 ない し 1年以上経過 した もので .脳幹 の長 軸 に は ゞ直角 に下 オ リー ブ核 を含 めて切 断 し,これを 脱水 したのち,ツェロイ ジンに包埋 し,延髄 の全 長 に わた り厚 さ
20〟の連続切片 を作 り
,10枚 日毎 に各 種 染 色を施 して作成 した.
この模本 を顕微鏡写真撮影装置 を用 いて
30×に拡大 撮影 し.さ らに写真引伸装置 にて 印 画 紙 に
2× に拡 大 ,焼付 けを行 って写真模本 を作成 した .細 胞数 の算 定 は光学顕微鏡で ,対物
20×.接眼
60×を使 用 して , 前記写真標本 を参照 しなが ら.廠微鏡 の微動 操作 を行
いつ ゝ,その核小体 の認 め られ る細 胞 のみを数 え行 っ た.また細胞 の大 きさは,対物 鏡
40×.接眼 鏡
10×を 使用 し,接眼 ミクロメー ターの
1目盛 が
4F Lと な る よ うに鏡簡長 を調節 して計測 した .さ らに神 経細胞 につ いては,核 ,核小体 およびニ ッスル頼粒 の状 態 なども 合せ観察 した .
2
.観察結果
1 )下 オ リーブ核 の全 長 につ いて
下 オ リ‑プ核 は.錐体交 叉の吻側端 ない し袖幕交叉 の尾側端 の高 さ附近で現 われ .顔面神経核 の尾側 附近
表
2 全 長症 例 年 令沸
全 長(mm)2bp標本 1 18 18. 数㈱2 910 2 37
21.6 1080 3 48 18.0 900 4 69 20.2
1011 5 72 18.2 91
0
平 均
48.8 19.3 982.293
で消失 す る.この全長 を
5症例各 々につ き
20〟の 連 続 切片 の枚数か ら計算 す ると.表
2の ごと く
,18.0‑2 1.6mm
とな
り.著 しい年令差 はみ られなか った .
2)
細胞数 に つ いて
各症例 につ き部位別 ( 主核 ,内側副核 .背 側 副 核 ) に細胞数 を数えた結果 を表
3に掲 げた .詳述 す ると細 胞数 は主核 に最 も多 く
,508,000で .それ に比 し , 内 側 および背側副核 はそれぞれ平均
73,000と
23,300で
著 明 に少 く,主核 :内側副核 :背側副核 の比 は
21.4:3.1:1.0
であ った .
3核 の合計 で は老人脳 の症例
4,症例
5が他 の
3例 よ りも明 らか に少 い.また 症 例
1.
症例
2および症例
3で は全長 の長 い症例程 . 主核 ,副核 の合計細胞数が多 い
.ただ し以上 は左側 のみ の計測値 であ る
( 図
1‑ 5参腺 ).
3)
細胞 の大 きさおよび形態 につ いて 下 オ リーブ核 は,主核 と副核 (内 側 お よ び
背 側 副 核 )に区別 され ,核 を構成 す る細 胞 で は部位 に よ り
. 大 きさに相違があ り,その径 が
5J J の小型 か ら
35
〟に わた る大型 の細胞 まで種 々計測 された .部位 的
には主 核 で は背側幕 よ りも腹側帯 ,特 にその腹外側 部 で
大型 の細胞 が多 くを占め,また副核 で は内側副核 には
′ ト型 細胞
が主 にみ られ ,背側副核 には大小 の細 胞 が入 り混 って
いた.
形態 につ いて は,小型 の細胞 は多 く円形 また は楕 円 形 を し.大型 の もの
は有突起細 胞 あ るいは角 ぼ った細 胞であ ることが多 か
った .
4)核 ,核小体 およびニ ッスル精粗 の状態 に
つ いて 本研究 で扱 った症例 で は概 して細 胞変化 は少
い.磨 形質 はニ ッスル模本で は,淡青赤色 に可 染 され
,核 は 円形 または楕 円形 で ,中 に核小体
1個 と クロマ
チ ンを 有 す る.核小体 は明瞭 な濃青紫 色 の
1点 と して
認 め ら れ .核 のほ ゞ中央 に位置 して い る.胞体 は リボ
フスチ ン頬粒 を含 み .核 は一方
に偏在 す る傾 向 が強 い .この 表
3細 胞
数 ( 左 側 の み )
症 例 年 令 主 核 内 側 副 核 背 側 副 核
1 18 523000 78300 27600
計
628900 2 37 540000 79000
21500 640500 3 48 522000
75100 25300 622400
4 69 46
3000 61400 19800 544200 5 72
94
斉
核 の偏在 に着 目 してみ ると, リボ フ スチ ン頼 粒 と核 と の位 置関係 に .あ る一定 の方 向性 が あ る こ と に 気 づ く. この点 につ いては ,〔Ⅱ〕で詳述 した い .
ニ ッスル頼粒 もか な り豊富 に存 在 す る.す なわ ち中 等大犠牲 は細 胞 の周辺部 に .微細 頼粒 状 の もの は核 の 周辺部 に多 く認 め られ ,粗大 頬粒 を 有 す る細 胞 は少 い.
〔Ⅱ〕主核細胞の核 の偏位 につ いて
1.研究対象 お よび判定方法
核細胞 の基本構 造 を観察 中 , リボ フスチ ン板柾 と核 小 体 との胞体内配列 に .一定 の規 則 性 を 見 出 した の で ,症例
2,症例
5を対象 と して次 の よ うな観察 を行
っ た .
観察 は主核 につ いてのみ行 い , リボ フ スチ ンを染 め 出す ため
,20F L の凍結切片
1枚 を用 い . ズ ダ ンⅡ 模 本 を作製 し,この模 本 をニ コ ンの投影 顕微 鏡 で拡大 して 自紙上 に写 しと り,一方光 学顕徽 鋲 で確 認 しつ ゝ.吹 の よ うな判定方法 に従 い検索 を進 め た .す な わ ち .下 オ リー ブ核 はよ く.巾着 の よ うだ と言 われ るが . 今 , 判定 を簡潔 にす るために ,下 オ リー ブ核 を巾 を持 った
1本 の巾着状 の リボ・ ンと仮定 し, この リボ ン内 に点在 す る核細胞 を , リボ ンの辺縁 との関係 で ,次 の よ うに 区分 した (図
6参照 ).
a)核小 体 か ら リボ フ スチ ンの 中心 を通 る直線 が ,近接 す る リボ ンの内側 線 に向 うも の ,b) 逆 に この直線 が外側線 に向 うもの ,C) そ の他 の もの ,す なわち直線 の方 向 が決 め難 い もの ,の
3種 であ る.
2
.判定結果
核細胞 は全 て核小体 を
1個 ずつ有 す るが リボ フ スチ ン精粗 を明 らか に内包 す る細 胞 は全 体 の
96%で あ り , 残 り
4%は不 明瞭 であ った . リボ フ スチ ン頼粒 .核小 体 と も確認出来 る細胞 の中 で .
a).b).C)は
蓑4に示 す よ うな結果 とな った .す なわ ち症 例
2で は .a)
,b)はは ゞ同数 で . C) は ,a) .b) の約半 数 とな り.一 方 症例
5で は .a) .
b),C) 共 に . は ゞ同数 とな った .両 症例共 に ,a) と
b)はほとん ど等 しい .胞 体 内 の 核 ′ ト
蘇
体 と リボ フスチ ンとの位 置関係 につ いてみ る と, 約
1/3で は
,a)す なわ ち オ リー ブ核 門 の方 に リボ フ ス テ ン が蓄積 し.残 り
2/3で は .
b),C)す なわ ち オ リー ブ核 門以外 の方 向 に リボ フスチ ンが蓄穂 して い る (図
7,
8
参照 ).
考 接
1)下 オ リー ブ核 の全 長 につ いて
下 オ リー ブ核 は解剖学 的 に は小 さ く限局 して存在 し ているカモ.周囲組 織 と隔絶 して いない本核 の定 量的検 索 は ,必 ず しも明確 にはいか ない .全 長 の計測法 と し て .連続切片 を作 り,その厚 さと総枚 数 をか けて測 る 方法 は,
Haley13)Buskirk14)Tomaschら
15) Blin・kov
ら
7)岡本
10)らの論文 にみ られ る. 同 様 の 方 法 を 用 いて . 本核 の全 長 を二 見1 7 )は
16mm,川 上
16)は
19 mm. Monagleら
18)は ,主核 のみで あ るが平均
17.9 mmと記 して い る.著者 の例 で は,平 均
19.3mmで あ っ′ た.この差 は.検索 までの時 間 ,固 定 方 法 . 染 色 紘 ,切片 の作製過程 ,人種 な どの差 に起 因 す るのか否 か は,文献上 も詳細不 明 で あ る.
Monagle
ら
18)は本核 の主核 の全 長 と加令 の 関 係 に っ いて検討 し. ヒ トで は生後
3カ月 か ら
9才 までの間 に著 しくその長 さを増 すが .
9才以後 で は年 令 に関係 が なか った と述 べて い る.著者 の例 で全 長 の著 しい年 令差 がなか った とい うことは .対象例 が
18才以上 であ ったため と考 え られ .諸家 の所 見 とは ゞ合 致 す る.
2)細胞数 につ いて
細胞数 および全 長 につ いて従来 の報告 と・ 著者 の結 果 とを比較 す ると.表
5の ごと くで あ る. この うち主核 :内側副核 :背側副核 の比 .
21.4:3.1:1.0は二 見 の値
22.1:3.4:1.0に近似 した成績 で あ る . しか し 後述 の ごと く細 胞数 の算定 には測定 条件 .加令 ,脳病 変 の有無 お よびその程度 な どの要因 が考慮 されねばな らない.倉知
6)によ ると下 オ リー ブ核 の高度 の細 胞 変 性 や減少 は,一 般 に
55才以後 の脳 血管 障害 群 に多 くみ られ るとい う.著者 の結 果 で も
55才以前 の症 例 1,症
表4
細 胞 の方 向
3型 と細 胞数
症 例
2症 例
5 合 計平
均
%a 310 246 556
278 37%
b 318 23
8 556 278 37%
C 145 252 .397 199 26%
ヒ トの下オ リーブ核 に関す る細胞構築学 的研究
例
2.症例
3では全長 と細胞数 とが相 関 して増 えてい るが ,老人脳 の症例
4.症例
5で はその関係 が消失 し てお り,剖検時 の脳底動脈 の アテローム形成 お よび脳 動脈硬化 の所 見 と も合致 し,倉知 の見解 を支持 してい
る.
表
5の ごと く下 オ リー ブ核 の細胞数 は,報 告者 によ り多少 の差 がみ られ る.本核 の細胞数 につ いて は従来 よ りしば しば プルキ ンエ細胞数 との対比 にお いて論議 されて来た.すなわち小脳皮質 への登上線維 が全 て下
表5
細 胞総数 につ いて の従 来 の報告 報
告者 細 胞 総数 総 長
m 1.二見
17
)(,60) 530000 16 m19.3 27.1
523663 2.Moatam
ed('66) 3.
著 者
605000表 6 2 症 例
の 5カ所 にお け る細 胞数
位 置 症 例
1症 例
て 「
左 右 左 五
1 950 970 685 5 78 2 1044 1011
815 790 3 952
1003 892 843 4 83
5 803 806 862
5 641 603 715 512
オ リーブ核由来 とすれば , プルキ ン
95エ細 胞 が約
1500万 (Breitenbergら
19))
であ ることよ り.プル キ ン エ細 胞 と著者算定 による下
オ リー ブ核細 胞 との比 は
12 : 1とな り.
1コの
下 オ リー ブ核 の細 胞 が .
12コの プル キ ンエ細胞 を支配
す ることにな る.ちなみ に動物 での 他 の研究者 の報告 を
2.3引
用 す れば ,岡本
9)に よ る と
Escolarらは ネコでの同比
を
3 :1であ ると し, また最近 の
Mlonyeni20)
の報告 は,ネ コの同比 を
10 :1‑ll:1
と述べている.プルキ ンエ細 胞 と の比 率 は動物 の種
類 によって も異 な るのであ ろ う し.一方 プルキ ンエ細
胞 の数 も加令 と共 に減少 す るた め .比率 に変化 の生 ず ることも考
え られ る.プル キ ンェ細 胞数 の加令 に伴 な う減少 は既
に
1928年 に
Inukai2】'に よ り指摘 されてお り.ネズ
ミ,イ ヌのみ な らず ヒ トで も
92才 では
47才 よ りも
25%
減少 して い る と い わ れ て い る. 下 オ リーブ核 に極 めてよ く
似 た形態 を示 す核 と して は,小脳核群 の うちの歯状核
があ る
. Lapresleら
22'の研究 によれ
ば ,歯状核 と下 オ リー ブ核 の主 核 との問 には部位的
相 関 を有 す る線維結 合 が あ るとい う.歯状 核 は小脳諸
核 の中では系統発生的 に新 し い もの で あ り,そ こか ら
発す る線維 がや は りオ リー ブ核 の中 で も 系統発生的 に新 しい主核 の
方 に終 るの は興味深 い所 見 であ る.歯状核 の細胞数 は.
Heidary
ら
23'によれ ば 左側 で約
280,000
といわれてい る.従 って こ こで 歯 状 核 の全細胞数
と著者 の主核 の細 胞数 と比較 す ると約
1 :2とな
るが ,歯状核 か らは,赤核 を経 て , 視 床 に 至 る線維 も出てい るので ,
何個 の 歯 状 核 細 胞 が 下 オ リーブ核細胞 と線維結合 を有 す るの
か ,現在 の ところ 不明 であ る.
表7 表6に基づ く分散 分析表SS df m S F
坐 447485 19 86329.8
l 31.65 1%1%5%
個 人
86329,8 1
左 右
6480.0 1 6480.0 2.38
位 置
243861.5 4 60965.4 22.35
個 人 × 左 右
4380.8 14380.8 1.61
個 人 × 位 置
84604.796 斉
なお近年 .
Johnsonら
21)25)は浮 遊法 に よ る細 胞 数 の数 え方 を提 唱 して い るが , この方 法 に よ る下 オ リー ブ核 の細 胞数 の算 定 はな されて い な い .
3)
細 胞組数 に関 す る推 計学 的考 察
Cammermeyer26)
はパ ラ フ ィ ン固定 に よ る切 片 作 製 中 に生 ず る誤差 の可 能性 の い くつ か を挙 げて い る が , 固定 によ る誤差 を
4%以 内 と して い る.著者 の算 定 し た細 胞数 の平均値 は,
蓑4に示 した ごと く,従 来報告 されて い る もの に比 較 し.か な り多 い .
片側 につ いて連続切 片 の
10枚 日毎 に細 胞 数 を計測 し た もので あ るので , この方 法 の正 確 度 を確 め るた めに 推 計学 的検討 を試 み た .まず左右 差 の程 度 を見 るため に
5症 例 の うち年令差 の大 きい
2症 例 .す な わ ち症例
1
お よび症例
5の模本 につ いて下 オ リー ブ核 の全 長 を
6
等 分 し,その位 置 で同一 模本 につ いて左 右 の細 胞数 を求 め .検討 を加 え た .
表
6よ り分散分析 を行 っ た 結 果 が , 表
7で あ る . た ゞ
Lss:平方 和
,df:自由度
,ms:平 均 平 方
,F:分散比 ,右端 の棚 に示 した% は有 意 水 準 で あ る . その結 果 よ り見 ると,細 胞 総 数 に最 も影 響 す る要因 と して は,切 片 の位 置 並 び に個 体差 で あ る こ とは当然
表
8連 続切 片 に お け る細 胞数 ( 症 例
1)信 早
1 2 34 5 左 935 1944 1043088 971 829 634
986 831 636 950
1044 952 835 641
右
940 1020 998 818 600 938 997 1020 7
96 596
970 1011 1003 803 603
であ り,個人 と位 置 の交 蘇
互 作 用 が大 き くは な いが ,育 意 で あ った ことは .個 人
に よ って オ リー ブ核 の形態 に 差異 のあ る ことを示 して
い る. しか しなが ら左 右差 の 分散 は小 さ く有意 で なか った ことは .片 側 の 計 測 で
, 両側 の細 胞 数 を推定′ して も大 きな誤差 はな い ことを
示 して い るといえ よ う. 次 に
10枚 お きに細 胞数
を観察 した ので あ るが .この 条件 によ る誤差 をみ る
ため に .症 例
1につ い て左右差 を見 た
6等分位 置 の切片
に隣 り合 っ て い る
2枚 を加 え
,3枚 あての切片 の細
胞 数 をみ たのが表
8で あ る . 分散分析 の結果 は表
9に示
した よ うに ,位 置 に よ る差 は当然 の ことと して大 きい
.
3枚 の切 片 に よ る くりか え しの変動 は誤差 項 と し
て現 れて い るが , これ は位 置 によ る変動 などに くら
べ て は るか に小 さい .標準 偏差 に相 当 す る 数値 と して平 均平 方 の
平方 根 を求 め る と
13.3で あ る. .表
8に出 て い る細
胞数 の総平 均 は
881で あ るか ら,それ に対 して
1.5%
に過 ぎな い .要 す る に
3枚 の切片 の うちどれを採用 して も実用 的 に は 問 題 はな い ことを示 し.
10枚 お きに計測 した た め
の誤 差 は小 さ い といえ る. この症 例
1で は左右 の
差 お よ び左 右 と位 置 の交互作 用 項 は有意 で あ った .位
置 に よ って は ,左 右 差 の明 ら か な部位 もあ る ことを示
して い る. しか しこの差 によ る変動 は ,位 置 に よ る変
動 に比 較 して は るか に 少 く , 左右 と左右 ×位 置 の
2要 因 を プ ー
ル して平 均 平方 の平 方根 を求 め ると
,42,1とな り,位 置 の要
E qに よ る平均 平方 の平方根 が .
409.9で あ るの に対 して
,10.4%
で あ る.従 って細 胞組 数 の推 計 に重大 な影 響 を与
えて い るとは考 え に くい . 以上 の結 果 よ り,本研究 に用 いた片 側 につ いて連続 切片
10枚 毎 に細 胞 数 を数 え た方 法 が ,推
計 学 的 に正 し い ことが明 らか とな った .
4)細 胞
の大 きさお よび形態 につ いて 個 々の細 胞形態 につ い
て は .加 令 の他 .種 々の要因 が関係 して い ると思 われ る.脳
病 変 の少 い症 例 に関 す 表
9表
8に 基 づ く分 散 分 析 表
SS df m S F
坐
684398 29 123599.9 8.055%
左 右
1415 1 1415位 置
672026 4 168006.5ヒ トの下 オ リーブ核 に関す る細胞構 築学 的研究
る細胞 の大 きさ,形 につ いて は ,既 に二 見
17)の詳細 な 報告 があ る.また細 胞 の大 きさを
18‑25〃と
5‑10〟の
2型 に分 類 した岡本
9)は .その報告 の中 で ,ニ ッ ス ル頼粒 の中等大 の もの は細 胞周辺 に集 ま る傾 向 が あ る と述べてい るが .著者 の症例 で も同様 の所 見 が観察 さ れた .
Scheibel
ら
12)による
Golgi染 色 模 本 で の 観 察 で は下 オ リー ブ核細 胞 の樹 状突 起 に は,細 胞 体 の近傍 で 特有 の糸球 を形成 す る形態 を とる もの と,通常 の神 経 細胞 にみ るよ うな樹状突起 を持 っ もの とが報 告 さ れ . 特 に後者 は副核 にみ られ るといわれて い る,本 研究 の 観察 で得 られた細 胞分布 よ り推測 すれ ば .大 型細 胞 は 特有 の糸球 を形成 す る細 胞 に相 当 し,小 型 で副核 に存 す る細胞 は通常 の樹状突起 を有 す る細 胞 に相 当す る も の と考 え られ る.
Moatamed
2 7 )は細 胞 の大 きさを主核 で は
,400〟
2, 副 核 で はその半分 で
200〟
2と し,加令 と共 に大 き さ の増 大 がみ られ ,核 や核小体 の直径 につ いて も年 令差 が あ
ると述べて い る.
5)主核細胞 の核 の偏位 につ いて
Obersteiner28)29)
は,脳全般 を系統 的 に検索 し, 神 経細胞 を リボ フ スチ ン頼粒 の含有 度 に よ って .
Lipo‑phile Zellen
と,
Lipophobe Zellenに 区 別 した . 以来神経系 におけ る リボ フスチ ンにつ いて の多 方 面 に
わた る幾多 の報告 があ る
1日30)31).本 邦 で も万年
3O'は人 脳 の神経細 胞構築 におけ る,ニ ッスル小 体 (核 蛋 白 ) と リボ フスチ ン頬粒 (脂質 ) との陰陽関係 を 重 視 し, それぞれの灰 白質 の神 経細 胞 の ニ ッスル小 体 像 に特 殊 性 があ るの と同様 に, リボ フスチ ン頼粒 も特 異 な分 布
を呈 す ると述 べて い る.
下 オ リー ブ核 の リボ フスチ ン轍粒 につ いて は .大塚
5)
は他 の核 に比 し,若年 か ら蓄積 しやす く
,3才 で 既 に認 め られた と してお り,年令 と共 に増 加 す る と報告 して いる.
この リボ フスチ ン頼粒 の胞 休内 の部位 につ い て は . 一般 の成書 には ,核 と神 経突起 との間 に沈 着 す ると書 かれている. しか L
Samorajskiら
32ト 34)は , マ ウ スのプルキ ンエ細 胞 での観察 で . リボ フ ス チ ン頼 粒 は,生後
20‑30カ月 で は大 量 に .核 と尖端 突 起 との間 に集積 して い ると述 べて い る.
リボ フステ ン特捜 と核 との位置 関係 よ り,神 経突起 の方 向 を推定 す る時 ,前 者 の よ うに神 経突 起 が リボ フ スチ ン特捜 をは さんで ,核 の反 対側 よ り出 て い るとす れば ,著者 の観察 で は,下 オ リー ブ核細 胞 よ り出 た全 ての神経突起 が直接 オ リー ブ核 門 へ向 うので はない こ と.換言す れば . a) に相 当す る. 内 側 縁 に 向 う
1/397
は.細 胞 か ら出 て オ リー ブ核 門 へ向 うが ,他 の
b).C)の
2/3はオ リー ブ核 門以外 の方 向 へ向 うこと が 推 定 さ れ る. しか L
Samorajski32)〜34)の説 に準 拠 す る と , この逆 で .b)の外側縁 に向 う1
/3が オ リー ブ核 門 に 向 うことにな る.
勿論神経線維 の走行決定 に は ,
Bielschowski鞄 色 など.他 の方法 によ り検索 され る こ と が 望 ま しい が ,本研究 で行 った リボ フスチ ン頬粒 と核 との位置 関 係 よ り,神経線維 の走行 を推定 す る こ とが出 来 .それ はまた下 オ リー ブ核 内外 の線維 連絡 を間接 的 に知 る
1つの方法 と もいえ よ う.
要 約
臨床 的 に中枢神 経疾患 を除外 した
5症例 の下 オ リー ブ核 を細胞構築学的 に観察 し.次 の結果 を得 た .
1.全長 は年令 に関係 な く
.18.0‑21.6mmの 範 囲 で あ った.
2.
細胞数 は主核 で最多 で .主 核 ,副 核 お よび左右 の合計 では約
120万 であ った .
18才
〜48才 の
3例 で は.
核 の全 長 との間 に正 の相 関 が み られ た .
3
.細胞組数 に関す る推 計学 的処理 で は ,個 体 と位 置 が .左右差 や操作等 か ら生 ず る誤差 よ り も重要 な因 子 と考 え られ ,本研究 で行 った ,片 側 .
10枚 お きの算 定 の有用性 が確 認 された .
4
.細胞 の大 きさ,形 は部位 に よ り相 達 し.
5〟か ら
35βまで種 々の大 きさで あ り,小 型 で は円形 ま た は 楕 円形細胞 が ,大 型 で は有 突起細 胞 .あ るい は角 ぼ っ た細 胞 が多 く,小型細 胞 は副 核 に多 く認 め られ た .
5
. リボ フスチ ンと核小 体 との配列方 向 か ら,下 オ リー ブ核 の核 内 の細 胞配列 の規則 性 が 明 ら か と な っ た .
6.
この規則性 の利用 は ,下 オ リー ブ核 内 外 の線維 結合 を知 る手段 と して役立 っ もの と考 え る.
本研究は,故大塚良作教授の指導による,一連の下オ
リーブ核研究の一部をなすものであります.稿半ばの
10月.忽然として逝かれた故大塚良作教授 に.改めてその
御指導 と御鞭達に深 く感謝 し,護 しんで本稿 を御霊前に
捧げます.またその後の本稿のまとめに御協力いただい
た遠藤正臣助教授,中村一郎講師,倉知正位講師 . 福井
県立精神病院副院長伊崎公徳博士をはじめ.貴重なる標
本を御提供下さった本学第
1病理学教室各位 .組織標本
作製に蕨 しての佐伯峰義氏と本多登美夫氏,写真撮影に撫
しての神戸龍男氏と池田輝男氏に感謝いた します.さら
に本稿の推計処理に御教示いただいた石崎有信衛生学教
授.本研究の機会を与えて下 さった国立療養所北陸荘所
長竹島俊堆博士に厚 くお礼申 し上げます.
98
斉
文 献
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附 図 税 明 図
1下 オ リー ブ核 の吻側端 よ り全 長 の約
1/3尾 側 の 高 さ を通 る断面 .不 規則 に屈 曲 した環 状 の主 核 が認 め られ る.ニ ッスル
×30.症例
5,切片
No.1009( 左 )
図
2下 オ リー ブ核 の吻側端 よ り全 長 の約
1/8尾 側 の 高 さ を通 る断面 .背側副核 が あ らわれ は じめ た と ころ.二
・ てスル
×30・症例
5・切片
No・969(左 ) 図
3下 オ リー ブ核 の吻側端 よ り全 長 の約
1/3尾 側 の′ 高 さ を通 る断面 .細胞 数 は この切片 にお いて最大 で あ る . ニ ッスル
×30,症例
5,切片
No.779(左 )
図
4下 オ リー ブ核 の全 長 の約
3/5を通 る断面 . 内 側 副 核 は,背側部 が広 く腹側 部 が狭 い横形 を呈 す る .ニ ッス ル
×30,症例
5,切片
No.539(左 )
図
5下 オ リー ブ核 の吻側端 よ り全 長 の約
3/4尾 側 を 通 る 断面 .背側 か ら腹外側 に斜 に走 る細 長 い内側 副核 お よ びかな り小 さ くな った主核 とわず か の背側副 核 が認 め られ る.ニ ッスル
×30,症例5.切片
No.409(左 )
図
6細胞 の方 向
3型 の シェーマ
ヒ トの下オ リーブ核 に関す る細胞構築学的研究
図
7ズ ダ ン Ⅱ染色
,×30,症例
5,切片
No.670( 右 )
99
図
8図7
の枠内の細胞で . リボフ スナ ンと核小 体 の位 置 か らみた細胞 の方 向の シェ‑マ
Abstract
Thecytoarchitectureoftheinferiorolivary nucleuswasstudied using 5 human brainsof18‑721year‑Oldmaleswithoutanyclinicalsignsofdisordersinthe central nervous system.
Thenervousblockscontaining theinferiorolivary nucleuswerefixed within 12 hours after death by immersion in neutralisotonic lO% formalin solution.
Theseblockswereembedded in celloidin,and sectioned serially 20
仏
thenthese sectioned tissues stained by a modified Nissl's method for cellcounting or by SudanⅢ
for observing lipofuscin pigment .
The results were as follows :
1.The totallength ofthis nucleus ranged from 18.Omm to 21.6mm.
2.Cellsjudged to haveacompletenucleusweretallied with adigitalcounter. The number ofthe nuclear cells was about0.6×106on the lef
t .
The ratio ofthis numberto the numberofcells in nucleusdentatus was 2:1 and to the number ofPurkinje cells 1:12.
The form ofthe nucleus,like the similarly shaped nucleus dentatus,provided an optimaldesign for the storage ofa large number ofcells and the compact packing ofthe emergentaxons.
3.The cellsizes ranged from 5 to 35〟.The smallcells were plump and rounded,while the large ones were polygon or pickle.
4.In about one‑third of the cells,the lipofuscin pigmentwas concentrated toward the olivary hilus
,
while the nucleolus was laid opposite to the hilus.This regularity may possibly provide a very usefulmethod forstudy on the fiberconnection ofthis nucleus with other nucleiofthe brain.
100