会 計 にお け る交 換 取 引 の認 識 と測 定
‑ 「会計的思 考 モ デ ル」 と損益計算 ‑
山 本 真樹夫
目 次
Ⅰ 問題提起
Ⅱ
「会計的思考 モデル」 と交換取引の認識 1 交換取引の表記
2 商品売買取 引の分析
Ⅲ
損益認識の構造一 自由選択性資金 と拘束性資金‑
Ⅳ
交換取引の分析
1受取債権 の評価
2 固定資産 と固定資産 との交換
Ⅴ
要約 と展望
l 問題提起
交換 は基本的な経済行為であり,交換経済の下では,人々の様々な経済的目 的達成のための基本的手段 となる
。われわれの考察対象である企業 もまた,基 本的には交換を通 じて利潤を追及 し,企業会計 はその過程を認識 ・測定 し,演 益計算を行 っているものと見 ることができよう。
しか し,複式簿記を基本構造 とする現行の企業会計において,交換取引が ど のように認識 ・測定 されているかという点については,必ず しも十全に解明 さ れているように思われない。たとえば,商企業にとって もっとも一般的な取引 である商品売買取引は貨幣 と商品 との交換であり,資産 と資産 との交換取引 と いう意味では同型な取引である
。それにもかかわ らず,なぜ仕入取引と売上取
( 原稿受領 日 :昭和
62年7月
30日)
i 1 .1
2
商 学 討 究 第
38巻 第
2号
引 とでは,損益計算の構造において全 く異 る扱いがなされているのであろうか。
会計人にとって当 り前 と思われる上記のような問題 も,首尾一貫 した会計測 定理論の下で説明す るとなると難 しい問題 となる
。このことは,現在の会計研 究が種々の近代的アプローチによりつつ多 くの成果を蓄積 していなが ら,基本 的な会計測定の局面における研究の蓄積の薄さというものを提起 しているよう に思われる
。本稿 は,上記の認識か ら,会計上,交換取引がいかに認識 ・測定 され,また その過程でいかに損益が計算 されているのかを検討 し,会計測定の基礎理論形 成のための手掛か りを得ようとするものである
。検討にさいしては,杉本典之教授が展開 された 「資金的
2勘定系統説」 1 )吃 い し筆者が これまで提起 してきた 「 会計的思考 モデル」 2 )を分析 モデルとして 用いる
。また損益計算構造の解明という観点か ら,上記分析モデルの 「 資金」
の意味について,森田哲禰教授が提起 された 「自由選択性資金」および 「 拘束 性資金」 という概念
3)を援用す る。会計上の交換取引を分析 し,損益計算の意 味を検討す るためにはかかる分析用具が最適であり,また交換取引の分析 を通 じてかかる分析用具の会計理論 としての妥当性が改めて検証 されることになる と思考 されるか らである
。また検討対象 としては,商品売買取引というもっとも一般的な取引の検討か ら問題提起 し,受取債権 と現金 との交換,および固定資産 と固定資産 との交換 という会計測定上比較的クリティカルな判断を必要 とされる交換取引の分析を 行う。かかる分析を通じて上記分析モデルや首尾一貫性が検証されることになろう
。なお,本稿で交換取引という場合,会計的記号上,資産 と資産 との交換 とし て表記 される取引に醜定する.簿記教育の慣習上 損益取引という概念 との対 比か ら, 資産 と負債,資産 と資本,負債 と資本,あるいは負債 どうし,資本 どう
Lとの交換として表記される取引も交換取引という
。しかし,本稿で用いる分析モデ
1)杉本典之 (1981),第4章,pp.83‑102.
2)山本真樹夫 (1983),Ⅱ 会計的思考モデル,pp.82‑88.
3)森 田哲爾 (1979),pp.57‑64.
会計における交換取引の認識 と測定 3
ルにおいて,資産 は資金運用形態の系統に属する勘定であり,負債 および資本 は資金調達源泉の系統に属する勘定である。 したがって,さしあたり交換取引 を資産 と資産 との交換 として表記 される取引に限定 してお くことが,分析上 、 論理的 と考えるか らである。
Il
「会計的思考モデル」 と交換取引の認識
1
交換取引の表記
い草,あるエンティティの交換取引において,
Aという経済財が得 られ
Bと いう経済財が失われたとすれば,簿記的に下記のように表記 される。
月 日 借方
(A資産)×××
貸方 (B 資産) ×××
かかる会計的記号表記法はいかなる会計的思考を基礎に成立 しているので奉 ろうか。井尻雄士教授 は 「 因果的複式簿記」 と 「 分類的複式簿記」 という
2つ の会計的思考が考え られることを指摘 した4 ) 。すなわち,上記取引における財 の増加 と財の減少 との問に因果関係を認め,交換 という
1つの事象 として認識 するところに会計的思考の基本様式がある,とするのが 「 因果的複式簿記」 で ある
。上記の簿記的表記 はかかる会計的思考の基本的表現 にはかな らない。増 分を借方に,減分を貸方に対置することにより交換を表記 しているのである。
これに対 し 「 分類的複式簿記
」では会計測定対象の相対立す る
2つの分類局 面を認識 し,各々の分類局面を表記する記号を借方 ・貸方に対置させることが 会計的思考の基本的認識様式であるとす る
。上記取引の簿記的表記 は借方 ・貸 方 とも同一の分類局面を表記 しているものと思考されるか ら,後に指摘す るよ
うに,基本的認識様式のある種の応用的表記法である。
筆者 は別稿 において 「 因果的複式簿記」 と 「 分類的複式簿記」 との両者の会 計的思考を検討 し,
2重分類的複式簿記 こそが会計測定者の基本的認識様式 に はかな らない,とした
。そ して
2重分頬的複式簿記を基礎に 「 会計的思考 モデ
4)
井尻雄士
(1968),pp.139‑144.4
商 学 討 究 第
38巻 第
2号
ル」 と称す る考えを提示 した
5)。
「 会計的思考モデル」によれば,エンティティに生起する経済事象はエンティ ティへの資金の流入またはエンティティか らの資金の流出として認識 される。
会計測定者 はかかるエンティティに生起す る資金運動をその資金形態面 と資金 源泉面 という資金運動の相対立する
2面局か ら認識 ・測定 し,その結果 を会計 的記号に表記す る。そのさい,資金の流入または資金の流出という資金 の運動 ベク トルの方向は借方 ・貸方 という記号位置により表記 される
。会計的思考の 基本的表記法 は下記のとお りである6 )
0[ 以下,記号表記においては日付,借方, 貸方の表記を省略する。]
(a)
エンティティへの資金の流入 ( 資金形態面) ×××
( 資金源泉面) ×××
( b) エンティティか らの資金の流出 ( 資金源泉面) ×××
( 資金形態面) ×××
ここで資金形態面を表記する会計的記号 は 「 資産」 として,また資金源泉面 を表記する会計的記号 は 「 負債」
,「 資本」および 「 利益 ( 収益 および費用 ) 」
として分類 されている。かかる 「 会計的思考モデル 」 か ら,当初の交換取引を 分析すれば下記のようになる
。,(A
資産) ×××
( 資金源泉面) ×××
( 資金源泉面) ×××
(B 資産) ×××
すなわち,一方では
A資産の増加をともなうエンティティへの資金の流入が,
5)山本真樹夫
(1983).6)
杉本典之
(1981 )
,p.55,山本真樹夫
(1983),p.86.会計における交換取 引の認識 と測定 5
他方ではB資産の減少をともなうエンティティか らの資金の流出がそれぞれ別 個の事象 として認識 されている
。ただ し,この両者の資金運動の間に因果関係 が認められ資金源泉面の意味内容が同一であり,かっ資金運動量が同一 であ る
と会計測定者が判断 した場合には,資金源泉面が相殺 され,応用形式 と して先 に示 した簿記的表記がなされる7 ) 。
「 因果的複式簿記」 と
2重分類的会計思考を基礎 とする 「 会計的思考亨デル」
との分析上の基本的相違 は
,「 因果的複式簿記」では交換 をひとっの経済事象 として認識す るのに対 して
,「 会計的思考モデル」では,上記 で示 した とお り,
2
つの資金運動 の組合わせ として認識するという点である
。このことか ら,複式簿記 において借方金額 と貸方金額 とが一致す るのは,
「 因果的複式簿記」では会計測定上の規約 として解釈 されなければな らない。
た しかにエンティティに生起 した経済事象の実態が純粋な等価交換である場合 には貸借一致を会計測定上の規約 と解釈す ることはできない。 しか しエンティ ティの意思決定 ( 経営者の意思決定)の下に生起 した経済事象が純粋な等価交 換である場合 はむ しろ稀であろう。エンティティが犠牲にする財よりもエンティ
ティが得 る財の経済的効用が大 きいと判断 した結果, 交換が行われたのであ り, その効用差分がェ ンテイチイの利益の要因である
。エンティティに生起する経 済事象が全て純粋な等価交換であるな らば損益計算の必要性 も可能性 もない。
むろん
,「 因果的複式簿記」は損益計算を否定す るもので はない。一定 の条 件を備えた経済事象 ( 現金ない し現金等価物が増分 として認識される経済事象 : 実現)において利益を認識するために,増分 としてのA 資産の測定値を減分 と
してのB 資産の測定値に 「 等 しいと置 く」 と規約す るのである
8)Q増分が現金 ない し現金等価物であれば増分の測定が先行 し,減分 としての資産に付 された 測定値 との差額が利益 として認識 ・測定 される。すなわち,貸借一致 の原則,
および損益の認識 ・測定 は会計測定上の人為的規約である。
7)
山本真樹夫
(1983),Ⅱ・2 2重分額的会計思考 と会計文,pp.81‑82.8)
井尻教授 はこれを 「 価額帰属境則」 と称 している
。井尻雄士
(1968)
,pp.125,132.
6 商 学 討 究 第
38巻 第
2号
「 会計的思考 モデル」では,貸借一致を成立 させている要因は,エンティティ の資金運動を認識す る会計測定者 の 「 資金形態面 ‑資金源泉面」 とい う分類的 観点である。借方 ・貸方 に対置 され る,資金形態面を表記す る会計的記号 と資 金源泉面を表記す る会計的記号 とは同一 の資金運動を異 る分類局面か ら表記 し た ものであるか ら,その資金運動量 を表記す る金額が各々同額なのは当然 で あ
る。前記交換取引の表記 において,(A資産)の金額 と (B資産 ) の金額 とが 一致す るのは,たまたま, A資産 の増加 をともな うエ ンティティ‑ の資金流入 量 と, B 資産 の減少 を ともな うエ ンティティか らの資金流出量 とが同額 であ る と,会計測定者が認識 ・判断 した結果 にはかな らない。 も し,会計測定者 が, 上記交換取引において,エ ンティテ ィへの資金流入量 とェ ンテ イチイか らの資 金流 出量 とが異 ると認識 ・判断 したな らば,エ ンティテへの資金流入の資金源 泉面 において収益が,エ ンテ ィテ ィか らの資金流 出の資金源泉面 において費用
カミ 認識 され,損益計算が行われることになる
.すなわち
,「 会計的思考 モデル」では,貸借一致 の原則 は会計上 の規約 で は な く,会計的認識様式 の当然 の帰結 であ り,また損益計算 は特定 の事象 につ いてのみ行われ るのではな く,取 引の認識 その ものに内包 されて いるので あ る
。そ こで次に,商品売買取引 とい うもっとも一般的な取引を対象 として とりあ げ,因果的複式簿記 と 「 会計的思考 モデル 」 の分析的相違 を更 に検討 してみ る ことにす る。また同時に,会計上の損益計算 の構造 を成立 させているで あろ う 要因について問題提起 を してみることとす る。
2
商品売買取引の分析
いま,( 現金) と ( 商品) との交換取引を考えてみよ う。 エ ンテ ィテ ィへ の 流入財が ( 商品)であ り,エ ンティティか らの流出財が ( 現金)である場合 に は,簿記上 ,仕入取引 として扱われ,通常,損益 は認識 されない。エンティティ
‑の流入財が ( 現金)であ り,エ ンティティか らの流出財が ( 商品)で あ る場
合 には,簿記上 ,売上取引 として扱われ,通常,損益が認識 され る
。しか し,
会計における交換取引の認識 と測定 7
いずれ も ( 現金)と表記 される財 と ( 商品)と表記 される財 との交換である。
いずれの財 も会計上の 「 資産」であるならば,会計的認識上,形式的には同型 の取引とみな しうる。仕入取引を ( 商品)を代価 とする ( 現金)の売上取引と みなす ことも,あるいは売上取引を ( 商品)を代価 とする ( 現金)の仕入取引 とみなす ことも形式的には可能であろう
。しか し,会計上,両者 の取引に異 る 意味が与え られているのは何故であろうか。
因果的複式簿記によれば,( 商品)/ ( 現金)と表記 され る仕入取引 はひと つの経済事象 として認識 され,増分 としての ( 商品)が借方に,減分 としての ( 現金)が貸方に位置されていると解釈 される
。この簿記的表記 は基本的な会 計的認識様式の直接的表記にはかな らない。貸借 の金額が一致す るのは,増 分 としての ( 商品)の金額を,減分 としての ( 現金)の金額に等 しいと置 く会 計測定上の規約による。
「 会計的思考モデル」では,一方では ( 商品)の増加をともなうエンティティ への資金流入を,他方では ( 現金)の減少をともなうエンティティか らの資金 流出を認識 し,両者の資金運動の組合わせ として仕入取引をみる。ただ,この 両者の資金運動 は仕入 というエンティティの経済行為により因果関係をもつ も
のと判断 され,資金流入の資金源泉面 と,資金流出の資金源泉面 とが同‑であ ると判断 されたため資金源泉面を表記する会計的記号が相殺消去 され,応用形 式 として上記の簿記的表記がなされたものと解釈 される
。また,貸借の金額が 一致す るのは,会計測定者が仕入取引にともなうエンティティへの資金流入量 とエンティティか らの資金流出量 とが同額であると認識 ・判断 したためである。
もし,仕入取引にともなう資金流入量のほうが資金流出量よりも大きいと認識 ・ 判断されるならば,資金源泉面において ( 仕入益)が会計的記号 として表記 さ
れる可能性がある。また,逆の場合には,資金源泉面において ( 仕入損 )が会 計的記号 として表記 される可能性 もある
。すなわち,因果的複式簿記においては,仕入取引に関する ( 商品)/ ( 現金)
という簿記的表記 は会計的認識様式の直接的表現であり,貸借金額の一致 は会
計測定上の規約であり,基本的に損益を認識する余地 はない。「 会計的思考モ
β
商 学 討 究 第
38巻 第
2号
デル」においては,上記の簿記的表記 は会計的認識様式の応用的表現であ り, また,仕入取引にともな うエンティティへの資金流入量 とエンティティか らの 資金流出量 とに関する会計測定者の認識 ・判断のいかんにより損益を認識する 余地がある
。売上取引の場合,因果的複式簿記i T Lおいては借方 に増分 としての ( 現金)が, 貸方に減分 としての ( 商品)が対置されることになる。ここで増分 として認識
される ( 現金)は会計測定上 「 基本財」 として扱われる特別な財である。 した がって,通常の取引とは異 り,( 現金)への数値割当が滅分 に対す る数値割当 に優先す る
9)。もし,( 現金)の金額が ( 商品)の金額よりも大 きければ,貸借 一致 という複式簿記の構造的要請によりその差額が貸方に ( 販売益)として衷 記 される。下記のとお りである
。( 現 金) ×××
( 商 品) ×××
( 販売益) ×××
逆の場合には ( 販売損)が借方 に表記 される。このように,因果的複式簿記 では
,「 基本財」 という概念を導入することによ り,仕入取引 と売上取 引 とは 先験的に異 る事象であることが予定 されている
。また,借方 に位置 される記号 は増分を,貸方 に位置される記号 は減分 を表わ す という意味が ( 販売益)という記号にもあてはまるとするならば,馬場克三 教授 も指摘するように
10),( 販売益)は 「 将来現金 の減分」であ、 るとす る無理 な解釈をせざるをえな くなる。借方に位置 される ( 販売損)を同様に解釈す る な らば
,「 将来現金の増分」 ということになろ う。 このよ うに,因果的複式簿 記においては損益計算 は複式簿記の構造に規定 されたものであり,また会計上
9)井尻教授 はこれを 「価額比較規則」 と称 している。 井尻雄士 (1968),pp.128,132. )
10)馬場克三教授 は 「‑理論が現実を把握す るのではな く,理論のために現実が歪 め ら れて しまうという破綻に陥 って しまう。」 と,批判 している。馬場蒐三 (1975),p.
140.
会計 における交換取引の認識 と測定
9
の損益計算の意味 も不分明なものにとどまらざるをえない。
「 会計的思考モデル」においては,売上取引は ( 現金)の増加をともな うエ ンティティへの資金流入 と,( 商品)の減少をともな うエ ンテ ィテ ィか らの資 金流出という
2つの資金運動の組合わせとして,仕入取引と同様 に,解釈 され
る。すなわち下記のとおりである。
( a) エンティティへの資金の流入 ( 現 金) ×××
( 売 上) ×××
( b) エンティティか らの資金の流出 ( 売上原価) ×××
( 商 品) ×××
ここでエンティティへの資金の流入の資金源泉の局面において収益が,エン ティティか らの資金の流出の資金源泉の局面において費用が認識 される
。した がって,損益計算 は因果的複式簿記におけるように複式簿記の構造に規定 され ているのではな く,会計測定者がいかにエンティティぺの資金の流入およびェ シティティか らの資金の流出を認識 ・測定するかにもっぱ ら依存 している。ま た,会計上の 「 利益」の意味 も,エンティティへの資金流入量 とエ ンテ ィテ ィ か らの資金流出量 との差異を資金源泉面において表記 した ものである,とい う 常識的な意味 と一致するように思われる。
以上のように
,「 会計的思考モデル」では,仕入取引 と売上取引 との間の先 験的な相違を認めず同型な取引として認識 しうること,会計的数値割当手続 を 会計測定構造上の規約 としてではな く,会計測定者の思考 という意味論的観点 か ら分析 しうること,さらに常識的意味に近い会計上の 「 利益」概念を展開 し
うることなどの理由か ら,因果的複式簿記よりもはるかに分析能力の高 い分析 モデルであると思考 される。
しか し,現行の会計実践では確かに仕入取引と売上取引とは異 る扱いがなさ
れている
。何故であろうか。因果的複式簿記におけるように,それを複式簿記
10
商 学 討 究 第
38巻 第
2号
の構造的要請 ( 貸借一致原則の充足)として説明することは容易であろう。 し か し複式簿記の構造にみ られる形式的合理性 は,企業経営者ない し会計測定者 の実質的合理性を基礎 としていることは言 うまで もない。む しろ,仕入取引 も 売上取引 も現金 という財 と商品 という財 との交換であり,その会計的認識様式
は同型であるとする理解か ら出発することにより,両者の会計的認識 ・測定上 の実質的相違を明 らかにす ることができよう。
そこで次節では,会計測定者がェソティティへの資金の流入またはエ ンティ ティか らの資金の流出を認識 ・測定するさいの実質的思考 は何かを検討 し,会 計上の損益計算の意味を若干考察 してみたい。
= 損益認識の構造一 自由選択性資金 と拘束性鷺金一
「 会計的思考モデル」によれば,損益計算 は取引に関する会計的認識様式 に 内包 されている。損益計算の構造 は,取引の先験的属性 ( 損益取引か交換取 引 か) ,あるいは複式簿記の構造的要請 ( 貸借一致原則 の充足 ) とい う観点か ら ではな く,会計測定者が取引におけるエンティティへの資金の流入またはエ ン ティティか らの資金の流出をいかに認識 ・測定 しているのかという会計的思考 上の観点か ら解明されるはずである。
筆者は, 別稿 において1 1 ) ,会計測定 とは一定の物の存在を前提 とし,その物 に 対 して数値を割当てる過程ではないことを指摘 した。会計測定者 は企業の経済 事象をエンティティへの資金の流入またはエンティティか らの資金の流出とし て認識 し,それを一定の会計 目的か ら任意に設定された 「 勘定」という分類範 噂の下に分類 ・集計 しているのである。
たとえば,( 商品)という勘定 は,商品倉庫 あ るいは店頭 に存在す る一定 の 物品を直接的に指示する会計的記号ではない。販売目的に投下 された資金の形 態面を表示 している
。すなわち,仕入諸掛等の販売目的資金への資金投下量 も
( 商品)勘定に集計 され,購入主費を含めた販売 目的資金投下量が ( 商品)敬 定で計算 されているのである。あるいは,( 機械)勘定 は工場 に存在す る一定
ll)山本真樹夫 (1987a).
会計における交換取引の認識 と測定 ll
の機械装置を直接的に指示 しているのではない。機械が経営目的に奉仕する機 鰭,たとえば製造機能に投下 された資金の形態面を表現 している
。したがって,
( 機械)勘定に集計 される資金投下量 は,機械の存在形態,たとえば旋盤 や ド リル等に即 して集計 されているのではな く,その経営目的に対す る機能 をいか に会計測定者が認識 ・測定 したかを表現 している1 2 ) 。 したがって,当該機能を 獲得するにいたる種々の付随費用 も当該 目的資金への投下量 として ( 機械)敬 定に集計 される。
すなわち
,「 資産」 という会計的記号 はエンティテ ィの保有す る経済財の存 在形態を表現 しているのではない。経営者がいかなる目的ないし機能を期待 し てエンティティの資金運動を生起 させたかという点に関する会計測定者の認識 ・ 判断に即 して,その資金形態面を表現する記号 として 「 資産」という記号が成 立 している。
では,現行の取得原価主義を基礎 とする損益計算の構造を成立 させているの は,いかなる会計測定者の資金運動に関す る認識 ・判断であろうか。この問題 に対 して,森田哲禰教授 は 「自由選択性資金」 と 「 拘束性資金」という資金運 動の概念を提起 されている。すなわち,経営上のいかなる意思決定にも自由に 利用 しうる資金を 「自由選択性資金
」と称 し,一定の経営上の意思決定 の下 に 投下 され販売目的,利用日的等にその利用が拘束 されている資金を 「 拘束性資 金」 と称 し,この両者の資金運動の過程 として損益計算の構造を理解す るので
ある1 3 ) 0
通常
,「自由選択性資金」の形態面 は貨幣性資産 として表現 され
,「拘束性資
金」の形態面 は非貨幣性資産 として表現 される。 しか し,貨幣性資産がすべて
「自由選択性資金」の形態面を表現 しているわけではない。 たとえば,経営上 の一定の目的達成のために一定期間以上保有 される拘束性ある預金や,他会支 配 という目的のために保有する市場性の高い有価証券 は,貨幣性資産で はあ っ
12)かかる意味において,〜定の機能を果たす固定資産群を償却単位 とす る,あ る種 の 総合償却 は便宜的方法ではな く,理論的妥当性を持っ 。
13)森田哲爾 (1979),pp.58‑59.
12
商 学 討 究 第
38巻 第
2号
て も
,「 拘束性資金」の形態面 と判断される.他方,都心 にある遊休土地 のよ うな経営 目的達成のために必ず しも不可欠ではな く,かっいっで も一定 の期待 価格で換価処分できるような非貨幣性資産 は 「自由選択性資金」の形態面 と判 断 される。
このように
,「自由選択性資金」および 「 拘束性資金」 とい う概念 は貨幣性 資産 と非貨幣性資産 というような,その存在形態に即 した概念ではな く,また 貨幣性資産 と費用性資産 というような,特定の損益計算構造の理解か ら導かれ る概念で もない。エンティティの資金運動を生起 させた経営者の意思決定ない しそれに対する会計測定者の認識 ・判断に即 した概念である。
では,企業の経済事象をエ ンティティの 「自由選択性資金」と 「 拘束性資金」
との運動 として見 る観点か ら,現行の取得原価主義を基礎 とする損益計算構造 はいかに理解 されるのであろうか。森田教授 は下記のように説明する
。「自由選択性資金たる貨幣資産が非貨幣資産 に投下 されると,その貨幣資本 は当該 資産に拘束 され,自由選択性を失 うのであるが,資本循環のこの過程では資本 の増 減,すなわち損益 は認識 されない。そ して,この非貨幣資産がそのまま保有 されて いるかぎり,貨幣資本の当該資産への拘束状態 は続いていると解され,この段階で も祖益 は認識 されない。それが売却その他の形で流動化され,貨幣資産の形 に転換 されたときに,貨幣資本 は再 び自由選択性資金 となり,ここに,拘束 されて いた貨 幣資本 と流入 した貨幣資本の差額 として計算される扱益が認識 されるのである。」14)
ここで森田教授 は 「自由選択性資金」 の形態面 を貨幣資産 と同義 に,また
「 拘束性資金」の形態面を非貨幣資産 と同義に説明されている
。しか し,ここ では先に説明 したように
,「自由選択性資金」および 「拘束性資金」 という概 念 はその存在形態 とは関わ りな く,経営者の意思決定ないしそれに対す る会計 測定者の認識 ・判断に即 した概念であるとしてお く
。また 「 会計的思考モデル」
に示されるようは,資産 は資金運動の資金形態面を表記する記号 であ り,資金 運動の認識あー局面にす ぎない。会計測定者がエンティティの資金運動を認識 するさいにはその資金源泉の局面 も同時に認識 していることに留意 しなければ
14)森田哲禰 (1979),pp.261‑262.
会計における交換取 引の認識 と測定 13
ならない。
さてかかる資金運動の概念の下で,上記の森田教授の記述を解釈 し,会計上 の損益計算の構造を検討す るならば次のようになろう
。すなわち,当初 「自由 選択性資金」 としてエンティティが調達 した資金 は,経営者の意思決定 の下 に 種々の目的に投下 される
。これ らの目的は利潤追及 という究極的目的達成のた めの補助目的 ということができよう。 これ ら補助目的に投下された資金は意思 決定目的に拘束 された 「 拘束性資金」であり,その形態面 はその補助目的 に即 して管理 されるよう一定の 「 資産勘定」の下に集計 ・計算 される
。かがる補助 目的が達成 され,その見返 りに,より大 きな 「自由選択性資金」が回収 された ならば,その補助目的は利潤追及 という究極的目的に貢献 し,消費 された もの と思考され,損益計算が行われる。すなわち,会計上
,「 拘束性資金 」 が流出し その資金源泉の局面において費用が認識 され,また 「自由選択性資金」が流入
しその資金源泉の局面において収益が認識 される。
以上の過程を交換取引という観点か ら 「 会計的思考モデル」により分析すれ ば次のようである。
「 会計的思考モデル
」によれば,交換取引はエンティティへの資金の流入と, エンティティか らの資金の流出という
2っの資金運動の組合わせとして認識さ れる
。ここで 「自由選択性資金」を
DFF (decision‑freefund)と表記 し,
「 拘束性資金」をDRF (
decision‑restrictedfund)と表記 し,資金流入を Ⅰ,資金流出を
0とするならば,交換取引は形式的に下記の
4つの組合わせ として 認識 され うる一 。
1 Ⅰ:DFF, 0:DFF 2 ユ:DFF, 0:DRF 3 1.・DRF, 0:DFF 4 Ⅰ:DRF, 0:DRF
ここで,
1の場合,もし流入 した 「自由選択性資金」 の大 きさと流出 した
「自由選択性資金 」 の大 きさとが異 ると判断されたな らば損益が認識 され うる
。2 の場合 も損益が認識 され うる。 3 の場合 は 「自由選択性資金」の 「 拘束性資
14
商 学 討 究 第
38巻 第
2号金」への投下 として判断される取引であるか ら損益 は認識 されない。
4の場合 ち,取引として認識 されるが,資金の拘束状態が続いているもの と判断 され る ので損益 は認識 されない。
ここで明 らかなように,いずれの取引 も資金の流入 と資金の流出との組合わ せとして認識 され,その意味では同型な取引である。 しか し損益が認識 され る のは
1と
2の場合であり,3 と
4では損益 は認識 されない。この ことは,会計 \ 上の損益計算が,複式簿記の構造か ら導かれるものではな く,会計 の測定対象 たるエ ンティティへの資金の流入またはエ ンティティか らの資金の流出がいか なる経営者の意思決定の下に生起 したかを判断する会計測定者の認識 ・判断に
もっぱ ら依存 していることを示 している
。また,いずれの取引 も同型の取引であるにもかかわ らず,損益が認識 され る 取紬 ま 「自由選択性資金」が流入 したと判断される取引である
。これは,会計 上の利益 は企業の富の増加分 といった一頃的利益概念のたんなる近似値ではな く,会計上の損益計算 は 「自由選択性資金」の投下 ・拭収計算であ り,会計上 の利益 は 「自由選択性資金」の回収余剰であるという限定的意味を担 っている
ことを示 している。
会計上の損益計算が上記のような限定的意味を担 っているとする理解 はなに も新 しいものではない。いわゆるイ ンフレーション会計の領域における実質貨 幣資本維持の議論においてはかなり明確 にされている。片野一郎教授 は,実質 貨幣資本維持 という場合の資本 は 「自由選択性資金」を意味 し,その資金形態 面および資金源泉面をそれぞれ安定価値で評価 し,そのうえで 「自由選択性資 金」の回収余剰を利益 として計算す る構造が貨幣価値変動会計であることを明
らかに している
15)。このように,会計における資本 ・利益計算の本質を 「自由選択性資金」 の投 下 ・回収計算であるとす る理解 は新 しいものではない。 しか し,その 「自由選 択性」 という概念が貨幣性資産 という存在形態に即 した概念ではなく,エンティ
ティの資金運動を生起 させた経営者の意思決定に対する会計測定者の認識 ・判
15)片野一郎 (1970),pp.321,347‑348.会計における交換取引の認識と測定
15断に即 した概念であり,また資産等の会計的記号 もかかる会計測定者の認識 ・ 判断に即 して成立 しているということは必ず しも明確ではなかったと思われる。
さらにまた
,「自由選択性資金」 という概念が,主 としてイ ンフレー ション会 計を中心 とする資本維持論 という規範的会計モデルの下で論 じられてきたため, かかる概念が現行の会計実践に対 して果た しうる分析的意義について も必ず し
も明確に意識 されてはこなかったように思われる。
そこで次節では
,「「 会計的思考モデル」および本節で示 した概念 を基礎 と す る分析モデルにより,現行の会計実践において,比較的クリテ ィカルな判断
を必要 とす ると考え られる若干の交換取引の分析を提示 し,かかる分析 モデル の妥当性を明 らかにしてみたい。
I V 交換取引の分析
本節では,債権 と現金 との交換,および固定資産 と固定資産 との交換 という, 現行の会計実践において も比較的クリティカルな判断を必要 とすると思われる 交換取引を取 り上げて,これまで示 してきた分析モデルの下でそれ らの取引が
いかに分析 され うるかを明 らかにしてみたい。
ここで取 り上げようとす る取引は,これまでの一般的な議論か らすれば特異 な取引であると思われるか もしれない。 しか し,債権 と現金 との交換取引 は, ( 信用)貨幣 と貨幣 との交換であり,固定資産 と固定資産 との交換取引 は物財
と物財 との交換である。
貨幣経済の下では,無論,貨幣 と物財 との交換が一般的である。 しか し,か かる取引においては貨幣 という存在形態が 「自由選択性資金」と同義に,また 物財 という存在形態が 「 拘束性資金」 と同義に扱われ易い。 したがって本稿で 議論 した意味での 「自由選択性資金」および 「 拘束性資金」 という概念の分析 的意義が明確に意識 されない可能性がある。 したがって,む しろ特異な取引を 取 り上げ,分析す ることにより分析モデルの意義が一層明 らか とな り,さらに
その会計測定の基礎理論 としての首尾一貫性が検証 されることになろう。
16
商 学 討 究 第
38巻 第
2号
1 受取
債 権 の 評 価
いま,名
目額 ¥
100の債 権 を現 金 ¥88で
譲受 し
たとす る 。 こ の 取 引 は一 般 的
には下記 の
よ うに仕 訳 され よ う。
(受
取 債 権 )
100
( 現 金 ) 8
8(受 取 割 引料 ) 1
2ここで (
受 取 割 引料 ) は利 益 と して認
識 され て
いるが ,そ の 内 容 は( a) 文 字 通
りの割引手
数 料 ,( b) 債 権 満 期 日 ま で の利 息
,(C) あ る場 合 に は格 安 譲 受 (l ucky
buying)に
よ る利 益 ,に分 解 す る こ とが で
きよ う。( a) は債 権 譲 受 行 為 と い うサ
ー ビスに対
す る手 数 料 収 益 で あ るか ら,い
ちお う別 個 の取 引 と して扱 う。 い ま
この手数料
を ¥ 2と し,仕 訳 を 区 別 す る。
(現
金 ) 2
( 割 引手 数 料 ) 2
また,この取 引 は合
理的
商人間の取引で あ り,格安譲受 による利益 はない も
の とす る。 この場合 ,上記
取引 は下記 の(1)ま たは(2)の仕訳で示 され る。
(1) (受取債権 ) 9
0
( 現
金 ) 90 (2) (受取債権 )1 00
( 現
金) 90( 受
取利息 ) 10原価主義会計理論 の
古典
のひ とつであ る PatonandLi t t l e t on の著書 によ
れ ば,「原価 」 と侶 即 時払
現金 対 価 (immediatec as h cons i de r at i on) で あ
り16),上記債権 の原価 は¥
90であると主張 されよ うOす なわ ち,仕訳( 1 ) が主 張
され る。 これに対 して,上
記債権 はその名 目額 ¥100で評価 され るべ きであ る
とす る立場か らは仕訳(2) が
主張 されよう。た しかに,仕訳(1)と仕
駅
(2)との相違は,表見上は,債権 の評 価 の問題 に帰 着
す るよ うに見え る。 しかし
,われわれの分 析モデルか らす るな らば,両者 の基
16)PatonandLittleton(1940),p.24.訳書,p.4
1
.会計 における交換取 引の認識 と測定 17
本的相違 は上記取引において損益を認識す るか否かにある
。すなわち,上記取引はエンティティへの ( 受取債権)形態の資金の流入 と, エンティティか らの ( 現金)形態の資金の流出との組合わせとして認識される。
ここで ( 現金)形態のエンティティか らの資金の流出は 「自由選択性資金」の 流出として判断することができる。論点 は ( 受取債権)形態のエンティティへ の資金の流入を 「自由選択性資金」の流入 と判断すべ きか
,「拘束性資金」 の 流入 として判断すべきか,また 「自由選択性資金」の流入 と判断す るな らば, その資金流入量をいかに測定すべきか,という点にある。
もし,当該 ( 受取債権)が再譲渡不能である場合や,たとえ再譲渡可能であっ て も特定の契約あるいは経営 目的達成のために満期 日まで保有することが必要 である場合には,( 受取債権)形態の資金の流入 は 「拘束性資金」 の流入 とし て判断される
。したがって,この取引は 「自由選択性資金」の 「 拘束性資金」
への投下 と判断される取引であるか ら,損益 は認識 されず,仕訳( 1 ) が妥当であ る
。当該 (受取債権)の満期 日が到来 し,契約や経営 目的による拘束が解除 され たと判断されるならば,当該 ( 受取債権)は 「自由選択性資金」の形態 に転換 したものと判断 され,その時点で損益が認識 される。すなわちその時点で下記 の
(3)の仕訳がなされる。
( 3) ( 受取債権) 1 0 0
( 受取債権)
90( 受取利息) 1 0
上記債権譲受取引における ( 受取債権)が特定の契約や目的に拘束 されてお らず,かつ再譲渡可能である場合には
,「自由選択性資金」 が流入 した と判断 され,損益を認識する可能性がある
。この場合,もし 「自由選択性資金」 の流 入量が¥1 0 0であると認識 ・測定するならば,¥1 0の利益が認識 され,仕訳( 2 )
が妥当である。 これに対 して
,「自由選択性資金」 の流入量 は
¥90であると認 識 ・測定するな らば,利益 は相殺 され,結果的に,仕訳 ( 1) が妥当である
。ここ
での論点 は,名目額¥1 0 0の ( 受取債権)の自由選択性資金量をどのように認
ノβ
商 学 討 究 第
38巻 第
2号識 ・測定す るか という点である。
「自由選択性資金」 という概念でいう自由選択性 とは経営上のいかなる意思 決定にも自由に使用できるという意味を持つ。 したがって,上記 ( 受取債権 ) の自由選択性資金量 は再譲渡可能額 と見 るべきであろう
。上記取引が合理的鞄 人間の取引であるな らば,明 らかに名目額
¥100で即時再譲渡す ることは不可 能であり,合理的商人間の合意額
¥90を再譲渡可能額 と見 るべきであろう。 こ
の場合 も,われわれの分析モデルか らするならば,仕訳( 1 ) が妥当である。
また,上記 ( 受取債権)が 「自由選択性資金」であるならば,満期 日が近ず くにつれて再譲渡可能額が増加' し名 目額 に近ずいてい く
。いまか りに,上記 ( 受取債権)の満期 日が
5か月後で,会計期間が
1か月 とす ると,下記 の仕訳 を通 じて時の経過に従い利益を認識 し,( 受取債権)の自由選択性資金量 を明
らかにする1 7 ) 。
( 4) ( 受取債権) 2
( 受取利息)
2当該債権譲受取引を下記のように仕訳することも考え られる。
(5)
( 受取債権)
100( 現 金)
90( 前受利息)
10この仕訳 は,われわれの分析モデルか らするならば,当該取引につ いてエ ン ティティへの ( 受取債権)形態の自由選択性資金流入量が
¥90であると認識 ・ 測定 している点で同値である
。すなわち ( 前受利息)勘定 は ( 受取債権)勘定
に対す る相殺的評価勘定 として理解 され,利益 は認識 されない。また,時の経 過に従い,
( 6) ( 前受利息)
2( 受取利息)
21 7)所有社債 の評価 について,いわゆるアキ ュム レー ション法 ,アモチゼ‑ シ ョン法 を
適用す る場合 は,かか る思考 を基礎 としているもの と考 え られ る。『企業会計原則 』
注解22参照。会計における交換取引の認識 と測定 19
と仕訳することにより
(4)の仕訳 と同値の結果が得 られる。
債権管理の立場か ら,債権の名目額を帳簿上明 らかにしてお くことが望 ま し いとするならば,仕訳
(5)が主張 されよう。 しか し,仕訳( 5) の会計的思考上 の認 識 は仕訳( 1 ) と同 じであることは明 らかである。
2
固定資産 と固定資産 との交換
18)いま,エンティティが固定資産たる
A資産 ( 簿価
¥600,公正時価
¥700)と 交換に,固定資産たるB 資産 ( 公正時価
¥720)を取得 したとする
。ここで,
A資産および B 資産 は共 に製造設備等の利用 日的資金の形態面を表記する 「 資産
l
勘定」であるとする。われわれの分析 モデルか らすれば
,「 拘束性資金
」のエ
】
ンティティへの流入 と
,「 拘束性資金」 :のエンティテ ィか らの流 出 との組合わ l
せ として認識 される取引である。上記取引に対 して,形式的には下記 の( 1 )
,(2)および
(3)の
3つの処理が適用可能であろう
。( 1 ) (B 資産)
600(A資産) 600
すなわち,処理( 1 ) は取得 したB 資産の原価を犠牲 に したA資産 の簿価
¥600とす る立場である。
(2)
( 現 金)
700(A資産) 600
( 固定資産売却益)
100 (B資産)
700( 現 金)
700という思考の下に
(B
資産)
700(A
資産)
60018)本項 は森田哲禰教授講義 「会計学原理」(一橋大学 1983)に関す る筆者 の ノー ト を基礎 としている。また本項の基本内容 は,山本真樹夫 (1987b),pp.57‑59に発
表済である。
2 0 商 学 討 究 第
38巻 第
2号
(固 定 資 産 売 却 益 )
100
すなわち ,処 理 ( 2) は A資 産 を公 正 時 価
¥700で
売却 し, そ の 代 金 で B資 産 を
取得したと す る思 考 を基 礎 とす る処 理 で
ある。
( 3 ) ( 現 金 ) 700
(A資 産 )
600(固 定 資 産 売 却 益 )
100(B 資 産 ) 720
( 現 金 )
700( 購 入 益 )
20という思考 の下 に ,
(B 資 産 ) 720
(A資 産 )
600(固 定 資 産 売 却 益 )
100( 購 入 益 )
20すなわち, 処 理 ( 3) は A資 産 を売 却 し
,その代金 ¥
700で 公 正 時 価 ¥ 7
20の B資
産を格安譲 受 した とす る思 考 を基 礎 と
す る処理 で あ る。
ここでも 問 題 は ,表 見 上 ,交 換 取 得
した (B資 産 ) の 評 価 額 を ¥ 600とす べ
きか¥7 0 0と す べ きか ,あ る い は¥ 720
とすべきか とい う資 産 評 価 の 問 題 に帰 着
するように み え る。 しか し,わ れ わ れ
の分析モ デ
ルか らす る な らば ,論 点 は
( A資産)と (B資 産 ) との交 換 に お い
て損益を認
識す るか 否 か に あ る 。 す な
わち,上記の 交 換 取 引 に お け る エ ンテ
ィティへの資 金 の流 入 と ェ ンテ ィ テ ィ か
らの資金の 流 出 とを会 計 測 定 者 が 認 識
・測定す る さ い ,損 益 を認 識 す る要 件 を
備えている か ど うか に あ る。
まず,処理 ( 3) は (A資 産 )形 態 の資
金流出にと も
ない (固 定 資 産 売 却 益 ) を
認識すると 同 時 に ,(B資 産 )形 態 の資
金流入に と もな い格 安 譲 受 に よ る (購
入益)も認 識 す る立 場 で あ る。 しか し
,われわれ の 仮 設 取 引 に お い て ,(B資
産)は利用 日的 資 金 の形 態 ,す な わ ち
「拘束性資 金 」 の 形 態 と さ れ て い る 。
(B資産)形 態 の資 金 の流 入 は 「自 由
選択性資金 」 の 拭 収 と判 断 され な い の で
会計における交換取引の認識 と測定 21
あり,したがって損益を認識する余地 はない。すなわち,処理 ( 3) は適用不能 な 処理である。
残 された可能性 は処理( 1 ) および処理
(2)ということになるが,現行の会計基準 ではどのような処理を要求 しているのであろうか。わが国の 「 企業会計原則」
の立場 は 『 企業会計原則 と関係諸法令 との調整に関する連続意見書第
3,有形 固定資産の減価償却について』
(1960)に示 されている。すなわち次のよ うに 述べている。
「自己所有の固定資産 と交換に固定資産を取得 した場合には,交換 に供 された 自己 資産の適正 な簿価を もって取得原価 とす るoJlg)
すなわち,基本的に,処理
(1)を要求 しているのである
。当該取引はエンティ ティへの 「 拘束性資金」の流入 と,エンティティか らの 「 拘束性資金」の流 出
との組合わせ として認識すべきとの立場か ら損益を認識 しない処理( 1 ) が要求 さ れているものと解釈 される。す くな くとも,かか る会計基準 は ,(B 資産) の 評価額を
¥600とすべきか
¥700とすべきかという資産評価の観点のみか らでは な く,当該取引において損益を認識す ることが妥当かどうかとい う判断が,そ の思考に見 うけられる。
た しかに,当該取引を 「 拘束性資金」と 「 拘束性資金」 との交換 と判断 し, 損益を認識 しない処理法を要求 していることは妥当なように思われる
。しかし,
「 拘束性資金」ない し 「自由選択性資金」 という概念 は資産の存在形態に即 し た概念ではな く,エンティティの資金運動を,経営者の意思決定ないしそれに 対する会計測定者の判断にかか らわ しめて理解する概念であった。そうだとす れば,上記の結論 は性急にす ぎるのではないか。当該取引を生起 させた経営者 の意思決定過程をもう少 し詳細に検討する必要があるのではないか,とい う疑 念が生ずる
。かかる疑念 に対 しては,アメ リカの会計基準がひとっの手掛か りを与えて く れ る
。す なわ ち,
APB OpinionNo.29,
"Accounting forNonmonetary19)
『 連続意見書第
3』,四
・4022
商 学 討 究 第
38巻 第
2号
Transactions"(May1973)では次のように述べている。
「・‑‑したがって,ある非貨幣資産 と交換 に取得 した非貨幣資産の原価は,それを 取得するために引渡 した資産の適正価額であり,交換による損益の認識が行われ る べきである。」20)
すなわち,非貨幣資産 どうしの交換 においては,基本的に,損益を認識する 処理
(2)を要求 しているのである。ただ し
,「もし,その交換が本質的に収益獲 得の結末 として行われるのでない場合」 2 1 ) には,損益を認識すべきではな く,処 哩( 1 ) が採用 されるべきであるとしている。そのような場合 として
2つの非貨幣 資産交換取引を示 しているが,そのうちのひとっとして下記の取引を挙 げてい
る。
「通常の営業活動の過程 において販売することを目的 として保有 されているのでは ない生産用資産 と,類似の生産用資産または同一のあるいは類似の生産用資産 に対 す る同等の権利 との交換。」22)
したがって,わが国の 「 企業会計原則」の立場 とは異 り,交換 される固定資 産の用途,能力等に関す る判断が会計測定者 に要求 されている。交換 によ り取 得 した固定資産の用途,能力等が,交換により犠牲にした固定資産 のそれ と同 一ない し類似する場合には,損益を認識す る要件を備えていない として,処理 ( 1 ) が,それ以外の場合には処理 ( 2) が要求 されているのである。
では,かかる会計基準において損益を認識す る要件 とは何であろうか。 それ をわれわれの分析モデルか らはどのように分析 しうるであろうか。アメリカの会 計基準において,非貨幣資産交換取引の基本的処理 とされている処理 ( 2) を分析
20)APB OpinionNo.29,par.18.訳書,p.525.21)APB OpinionNo.29,pa
r
.21.訳書,p.525.22)APB OpinionNo.29,pa
r
.21.損益を認識 しない もうひ とつの非貨幣資産 の 交換取引例 として次の取引を挙げている。「通常の営業過程において販売 され るた めに保有 されている製品または財を,その交換の当事者以外の顧客に野売するため に,同一の営業過程 において販売することを予定 した製品または財 と交換 す るこ と」会計における交換取引の認識 と測定 23
モデルによりさらに分析するな らば,損益認識の過程 は
(A資産)の処分 を思 考するのところにある
。(A資産)の処分は下記のように分析 される。
( 固定資産売却原価)
600(A
資産)
600( 現 金)
700( 固定資産売却収益)
700すなわち,エンティティか らの
¥600の 「 拘束性資金」 の流 出と,仮 に ( 覗 金)形態 として示 されている
¥700の 「自由選択性資金」のエ ンテ ィテ ィへの 流入 との組合わせとして思考されている。
ここで,処理
(1)と処理
(2)との基本的相違 は,当該交換取引において 「自由選 択性資金」
¥700の流入を仮定する思考が妥当かどうかという点である。もし,
(A