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イタリア語の冠詞における指示と数量について

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Academic year: 2021

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(1)

著者 青木 洋一郎

雑誌名 明治学院大学教養教育センター紀要 : カルチュー

ル = The MGU journal of liberal arts studies : Karuchuru

巻 8

号 1

ページ 89‑96

発行年 2014‑03‑24

その他のタイトル L'articolo italiano tra dimostrativi e quantificatori

URL http://hdl.handle.net/10723/1940

(2)

青 木 洋一郎

1 .はじめに

日本語には冠詞が無いため,冠詞の使い方は日 本人にとって永遠の課題である。イタリア語にも 冠詞があるが,やはり学習者からの冠詞について の関心は高い。どの言語かを問わず,冠詞の用法 についての研究は,これまでに膨大な蓄積があり,

限られた紙面では,その全体像を描くことなど望 むべくもない。本稿では,現代イタリア語の冠詞 の用法について筆者が日ごろ考えていたことを,

要点だけ手短に書かせてもらうにとどめる。

2 .イタリア語の冠詞の特徴

現代イタリア語には3種類の冠詞がある。定冠 詞,不定冠詞と部分冠詞である。ラテン語に冠詞 は無いので,これらは,ロマンス諸語の層におい て形成された形態である。定冠詞はILLEなどか ら(1,不定冠詞はUNUSなどから(2由来している。

部分冠詞は,フランス語にもある通り,diと定 冠詞の結合形が,冠詞として利用されている形態 である(3。こうした,現代イタリア語における冠 詞の基本的な用法は,普通どのように認識されて いるのだろうか。紙幅が限られているため,主要 な2種類の文法書を引き合いに出すにとどめたい。

そして,冠詞と名詞句における,指示と数量の定・

不定に着目しながらまとめることにしよう。

3 .Serianni: Grammaticaitaliana

LucaSerianniは,その『イタリア語文法』の 第3章で,イタリア語の冠詞について説明してい る(4。まず最初に定と不定の違いについて概論を 述べ,それから,比較的複雑なイタリア語におけ る冠詞類の形態論についての説明が置かれている。

その後,定冠詞,不定冠詞,部分冠詞の順番で更 に細かい用法が説明されている。最後に,冠詞前 置詞に言及して,冠詞についての章が終わりとな る。Serianniの文法書は,規範文法とされてい るため,必ずしも日本人にとってすぐに役に立つ ことが書いてあるわけではないと思う人もいるか も知れない。しかし,現代イタリアの教養ある人々 の意識におけるイタリア語のあるべき姿を,或る 程度代弁しているという点に大きな意味がある。

3.1 定と不定

冠詞とは,名詞と結合・性数一致し,それを様々 に修飾する品詞である。冠詞類の指示的な機能に 関して,SerianniはもっぱらLorenzoRenziの 記述に依拠している。定・不定の区別は,類/個 体と未知/既知(新情報/旧情報)の重層すると ころに成り立つというものである(5。Serianniを 悩ませている問題は,定冠詞・不定冠詞のそれぞ れが明らかに違う意味を担っているのに,発話の 中ではどちらでも用が足りてしまうケースが多い

(3)

ことである。例えば,「犬は人間の忠実な友人で ある。」・Il/Uncaneeunfedeleamicodel- l・uomo.・という発話において,主語の冠詞は,

定・不定のどちらでも構わない。同様に「私は自 分のために犬を買いたい。」・Vogliocomprarmi un/ilcane.・という発話において,直接目的語 の冠詞が定・不定のどちらであっても,同じ発話 意図を達成することが可能である。これらは,定 冠詞が類,不定冠詞が個体を指している例である とみなせる。また,喫茶店においてコーヒーを注 文する際に,「コーヒー一杯!」・Uncaffe!・と 言っても,また「(いつもの)コーヒー!」・Il caffe!・と言っても,同じ結果を達成できるで あろうことは明白である。こちらは,定冠詞が既 知,不定冠詞が未知を表している例であるとみな せる(6。結局のところ,冠詞は発話環境まで含め た文脈によって解釈が変わり,時にその差は中和 する。上で述べた2重の素性を措定することは,

その場にふさわしい意味がすくい上げられるメカ ニズムを説明する方法のひとつである。

3.2 定冠詞

定冠詞の形態論については省略することとしよ う(7。定冠詞の統語論としては,指示語と同等の 用法,固有名詞の前での用法,所有形容詞と共起 する用法,時の表現における用法などが挙げられ ている(8。興味深いのは指示語としての用法が特 記されていることである。Serianniによると,

「時々,冠詞の機能は(中略)指示代名詞あるい は形容詞の機能に接近する」(9そして,ラテン語 のILLEへと部分的に先祖がえりするのである。

その典型的なケースとして,限定用法の関係節を 支配している場合,名詞が省略されて形容詞と接 している場合,直示的な機能を持つ感嘆文,時の 表現のいくつかの場合が挙げられている(10。また,

定冠詞の配分的解釈を,ここに書き加えている。

それから,名前,名字,称号,地名などの固有名 詞と共に定冠詞を使うことの有無を論じている。

そして,所有形容詞と冠詞の共起の有無について 論じる(11。また,時の表現についても,年の前は 男性単数のil,時刻の前は女性複数のleなどと,

初級文法で教えられるように記述されている。

3.3 不定冠詞

不定冠詞については,その複数の扱いが問題と なる(12。イタリア語の形態論としては,不定冠詞 の複数は欠如している。ただし,部分冠詞の複数 が,その代用を果たす場合が多いと言える(13。も ちろん,冠詞を省略しても不定複数の名詞句とな る。

不定冠詞の統語論としては,代名詞的な用法,

意味上の含みが生まれる場合,固有名詞の前での 用法,そして冠詞の省略などが挙げられている(14。 不定冠詞も,定冠詞と同様に,形容詞と接して代 名詞としての意味をもって使用され得る。また,

普段定冠詞と共起することが多い名詞に使われる と,含みが生まれる。抽象名詞や身体の部分につ いて用いられると「とある」とか「特殊な」とい う意味を帯びる。また,数詞と共起すると「約」

「おおよそ」といった概数の意味を帯びる。さら に,言い淀みで中断された文では,不定冠詞はほ のめかしの意味を帯びるに至る。こうした発話に おいて,Serianniは,結果文ないしは結果を示 す関係節が省略されているという表現をしている。

最後の例は,一般的に,日本人の不慣れなイタリ ア語会話では気を付けるべきとされているところ である。また,形容詞を伴った名詞句では無冠詞 よりも不定冠詞が好まれるという事実の裏返しで もある。

固有名詞でも,形容詞と共に用いられると不定

(4)

冠詞が必要となる。また,氏名単体でも,良く知 らない人に使って「某」という意味を帯びること もある。だが,人名の前の不定冠詞は,換称・換 喩に用いられる場合が一番分かりやすいだろう。

だが,不定冠詞の統語論の中で最も字数が割か れているのは,冠詞の省略である。これらの中で,

とりわけ微妙な判断を迫られるのは,前置詞の後 での省略である。イタリア語には冠詞前置詞とい うものが存在するために,前置詞の後では無冠詞 と定冠詞との対立が起こりやすい。また,上述の 通り,定冠詞でも不定冠詞でも用が足りる場合が 多いのも確かである。しかし,Serianniの記述 においては,無冠詞の名詞句は不定扱いというの が基本方針だと言えるのである。

3.4 部分冠詞

部分冠詞の複数形は,不定冠詞の複数形として 機能する。しかし,その単数形は不定冠詞の単数 形相当の意味を持っているわけではない。部分冠 詞の単数形は,「ほぼ,何らかの集合的な観念を 表す名詞と共にのみ,一部分とか不確定の量を示 すために」(15用いられる。部分冠詞の単数形は,

「単独の対象や何れにせよ分割不可能な概念を示 す」(16名詞と共に用いることが出来ない(17。また,

部分冠詞は,形容詞の名詞的用法と共に用いられ ることもある(18

既に述べた通り,Serianniによる冠詞につい ての説明は,Renziの立論に深く依拠している。

しかし,Serianniの『イタリア語文法』におい ては,Renziによる初期の冠詞論がまとめられて いるにしか過ぎない。Renziの冠詞に関する記述 の集大成となるのは,『イタリア語大リファレン スグラマー』(19中の冠詞についての章である。

4 .Renzi: Grandegrammaticaitaliana diconsultazione

『イタリア語大リファレンスグラマー』の主編 者Renziは,その第1巻第7章で冠詞について の記述を担当している(20。そこでは,先ず,冠詞 周りの語順についての説明の後,冠詞の意味につ いての概論が行われる。その後,不定,定,その どちらでもないものの順で説明が進む。最後に,

分かりきった冠詞の省略,移動後の冠詞の省略,

冠詞の代名詞的用法などについての解説がある。

4.1 冠詞の基礎論

同書におけるRenziによる記述の特徴は,冠 詞の用法を, 定 determinato, 不定 (特定)

indeterminato specifico, 不 定 ( 非 特 定 ) indeterminatonon-specificoの3種に分けてい るところである。いわゆる,定・不特定・不定に 相当する(21

上記の3分法において,不定に2種類あること になるが,特定不定においては,冠詞の指示対象 が話し手には分かるが聞き手には分からない。非 特定不定においては,冠詞の指示対象が話し手に も聞き手にも分からない。それに対して,定は指 示対象が聞き手と話し手の双方に了解が取れてい るということになる。特定不定とは,どの個体か 分かっているが必要が無いから敢えて言わない時 のような用法である(22

ここで,冠詞の意味は名詞句の特性でもあるこ とに注意しておこう。不定冠詞を伴えば不定の名 詞句であり,それが特定不定の名詞句であれば冠 詞もまたその意味を担っている。

(5)

4.2 不定冠詞と部分冠詞

特定不定と非特定不定は,意味だけではなく,

ある程度は形式にも現れる。Renziの指摘による と,例えば,不定複数において,部分冠詞は特定 不定,非特定不定のどちらでもあり得るが,無冠 詞の場合は非特定不定となる(23。また,特定不定 はqualunqueやqualsiasiを伴うことが出来な い(24。そして,非特定不定の名詞句は代名詞化す るときにloだけではなくneを含んだ語法で置 き換えることも出来る(25。特定不定の目的語は,

不定冠詞を伴っているが,定の目的語に近い性質 を持っていると言える。無論,特定不定も非特定 不定も不定としての性質は共有しており,必ずし も常に区別しなくてはいけないわけではない(26。 不定冠詞には,もうひとつの両義性がある。イ タリア語の場合は,不定冠詞と数詞unoの形が 重なり, 指示と数量の境目が不明瞭である。

Renziによると,数詞の意味と不定冠詞の意味が,

それぞれ顕在的か潜在的かという違いにしか過ぎ ない。どちらが主でどちらが従かは,文脈によっ てある程度は分かるが,どちらかの意味が消えて しまうものではない(27

不定冠詞は,総称的な意味を持ち得る。つまり,

非特定不定である。ただ,定冠詞よりは,その使 い道が限られている。不定冠詞を用いた総称は,

義務的・認識論的な機能を持った文となるし,述 語の内容は主語の性質と合致するものでなくては ならない(28

4.2.1 不定複数

さて,機能的に考えると,いわゆる部分冠詞の 複数形は,不定冠詞の複数形とみなすことが出来 る。しかし,上述の通り,不定複数は部分冠詞複 数によってのみ表されるわけではない。他に,無

冠詞や不定形容詞(alcuno,certo)などでも表 せる(29。無冠詞の分布には一定の傾向がある。基 本的に目的語や前置詞の補語の位置で見られる。

主語の場合は,動詞に対して後置される場合がもっ ぱらである。無冠詞の不定複数が,動詞に対して 前置される語法は,一部の例外を除くと,官庁的・

儀礼的な文体,そうでなければ文学的な文体とな ると指摘されている(30

(なお,このような無冠詞は,単数でも起こり 得る。現代イタリア語において,不定冠詞の省略 が可能なのは,高尚な文体においてであり,とり わけ動詞に対して前置された重い目的語の場合で ある。主語要素における不定冠詞の省略は,もは や詩的な文体と言って良いだろう(31。)

4.2.2 不定単数

Renziの枠組みにおいて,真の部分冠詞と呼べ るのは,単数形だけである。部分冠詞単数形は物 質名詞と共に用いる(32。Renziによると,部分冠 詞単数形は,主語・目的語のどちらにも使えるが,

主語の際には動詞の後の方が無標の位置である。

ただし,不定の目的語を許容しないなどの,動詞 の共起制限などがある場合には使えない。また,

逆に部分冠詞単数形でも不定冠詞でも変わらない 場合もある(33。同氏によると,ある種の抽象名詞 に部分冠詞単数形が付いているとしたら,それは 物質名詞扱いになっているからである。更に,部 分冠詞は,di,da,inを除いた多くの前置詞の後 でも容易に使うことが出来る。

物質名詞を含む非特定不定の名詞句は,無冠詞 で現れることも出来る(34。主語の場合には,やは り,動詞に対して後置されている必要がある。前 置された主語については,不定複数の無冠詞と同 じ条件が必要になる。なお,抽象名詞や可算名詞 の単数無冠詞の可能性は,後置主語の場合でも,

(6)

基本的に除外される。目的語における単数無冠詞 の用法は,更に広汎である。動詞の後でも,左右 に移動しても用いることが出来る。ただ,共起制 限で不定の目的語が使えないときには,やはり無 冠詞でも使えない。抽象名詞や可算名詞の単数無 冠詞の使用も除外される。一部の抽象名詞が無冠 詞で出現するのは,物質名詞として,あるいは熟 語の一部として扱われているからである。

なお,不定無冠詞は否定との関係に注意する必 要がある(35。打消しと共に生起する際に,動詞の 後に置かれ,結果を表す関係節,何らかの補足語,

あるいは比較級の形容詞を伴う場合は,主語であ れ目的語であれ,加算名詞の単数形が含まれてい ても,無冠詞で現れることが出来る。これらの用 例において,不定冠詞が現れても,また,alcuno やnessunoが現れても,文の意味はほぼ変わら ない。もともと,無冠詞で現れる傾向が多い名詞 句が,この傾向に沿うのはもちろんのことである。

なお,否定文脈があると,特定不定の名詞句でも 無冠詞の使用が可能になる。

4.3 定冠詞

Renziは,定冠詞の説明に当たって,定性を,

前方照応,共通知識,所有,唯一物,類などに分 類している(36。関係節などが付いて限定された名 詞句については,定冠詞による後方照応catafora としている。また,定冠詞と同時に定の名詞句を 記述の対象としているため,固有名詞などの内在 的に定である名詞についてもまとめている。それ らには,人名,地名,固有名詞に準ずるもの(商 標など),親族名称,時の表現,呼びかけ,掲示 などが挙げられている(37。これらのあらかじめ定 とされる名詞・名詞句は,定冠詞と共起しない,

あるいは共起し難いものと言える。つまり,無冠 詞の要素である(38

Renziが定でも不定でもない要素としたものは,

やはり無冠詞の名詞句として現れるものである。

それらには,述語型,感嘆文,前置詞の後,熟語 や準熟語の中などがある(39。論理的に考えると,

こうした無冠詞の名詞句は,何らかの対象を指示 しているものではない。例えば述語内の名詞句の 場合は,もはや属性を表すために,形容詞に近い 役割を果たしている(40

SerianniとRenziの記述を較べてみると,前 者は定冠詞,後者は不定冠詞の説明を重視してい ることが分かる。また,Renziは冠詞の機能の説 明と,名詞句の特性の説明を平行して進めている。

そして,どちらにおいても,無冠詞は定・不定の 下位変種にしか過ぎないと認識されている。両者 の解説は,手法や力点こそ違え,説明していると ころは最終的に一致する。

5 .まとめと考察

以上の説明を,学校文法的な配慮を交えながら まとめると,次のようになる。

5.1 現代イタリア語における冠詞の用法

定冠詞は,定の名詞句を表すために用いられる。

不定冠詞・部分冠詞は不定の名詞句を表すために 用いられる。部分冠詞は,不定性に加えて,不定 の数量も表す。部分冠詞単数形は,不可算名詞,

とりわけ物質名詞と共に用いられ,不定の量を表 す。部分冠詞複数形は,可算名詞の複数形と共に 用いられ,不定の数を表す。部分冠詞の複数形は,

不定冠詞の複数形の役割を果たしている。分かり やすく言うと,部分冠詞は英語のsomeと同じ意 味を担っている。それが形容詞として実現するか,

冠詞類として実現するかという違いである(41

(7)

総称は,定冠詞を用いても,不定冠詞を用いて も表現することが出来る。定冠詞は類を表し,不 定冠詞は類に属する個体を表すからである。ただ,

定冠詞を使う方が紛らわしくはないだろう。無冠 詞は,不定とみなされる。名詞自体は,固有名詞 やそれに準じた要素でなければ,不定とみなされ るからである。無冠詞は,特定の個体を指示して いないので類を表し,総称の表現を担う。

それでは,最後に,RenziやSerianniの記述 を受けた考察を述べて,本稿を終えることにする。

5.2 指示と数量

まず,Renziの説明に顕著であるように,冠詞 の意味は名詞句の意味と切り離せないものである。

冠詞は名詞に接合して用いられる品詞である。冠 詞は名詞句の一部をなし,冠詞の意味は名詞句の 意味の一部をなしている。それは当然のことなの だが,冠詞の意味は名詞句の意味のどこに対応し ているのであろうか。

上記の説明を辿ってみて明らかなように,冠詞 は,名詞句の内,指示と数量の素性を担っている。

指示とは,名詞句が有する指標のことである。指 標も数量も,冠詞以前に名詞句内部に存在し得る 要素であり,冠詞は,名詞句に足りない素性を付 け足したり,結果論ではあるが,名詞句に備わっ ている素性と呼応した姿を身にまとったりすると 考えることが出来る(42

指標について考えると,定冠詞は明確な指標を 持ち,不定類は基本的に指標を持ったり持たなかっ たりする。指示に関して言うと,定冠詞の場合は,

「その(同じ)」あるいは「例の」,不定類は「と ある(他の)」あるいは「どれか」という語感を 持つと言える。数量に関して言うと,不定冠詞は

「ひとつの」,部分冠詞単数は「いくらかの」,同

複数は「いくつかの」という意味を持つと言える だろう。さて,ここで定冠詞は数量に関してニュー トラルなのかという問題が起こる。結論から言う と,定冠詞は「全て」という含みを持つ(43。単数 なら「全部丸ごと」「全体」,複数なら「全数」

「全員」という含みを有していることになる。実 際,全称の不定形容詞tuttoは定冠詞を伴って用 いられる。部分冠詞を用いた場合は,「全数」や

「丸ごと」ではなく飽くまでもそのうちの「部分」

である(44。不定冠詞は,それらの中間的な立場で あり,加算名詞に用いられた場合には,不定であ りながら数量的には 「ひとつ (丸ごと)」 であ る(45。定冠詞・不定冠詞は「全体」を,部分冠詞 は「部分」を表すと言うことが出来るだろう。ま た,これまで数量という言い方をしてきたが,不 定冠詞と否定形容詞が交換可能である文脈が存在 することを考えると,否定極性も含むものであり,

冠詞というものは,広く「存在」の有無を指定す る機能を持っていると言えるだろう。

5.3 冠詞の2重機能

こう考えてみると,冠詞には,指示表現と準数 量表現としての2重機能があるということになる。

日本語のように冠詞を持たない言語の母語話者と して気付かされるのは,イタリア語では,2つの 要素が名詞句中に単一の記号として現れるが,日 本語では別個に現れるということである。日本語 において,指示表現はもっぱら名詞とともに,数 量・存在表現は,しばしば動詞と共に現れる。こ れは冠詞だけでなく,数量表現全般に言えること であるが,冠詞もその例外ではなかろう。日本語 で冠詞の持ち味を十全に訳出しようとした場合,

時として動詞をも巻き込んでしまうということは,

避けがたいことなのかも知れない。

(8)

(1) Serianni1989,p.167。

(2) 同書p.181。

(3) Rohlfs1969,p.115;後述のように,フランス 語法gallicismoと認識されることもある。

(4) Serianni上掲書,pp.161189。

(5) な おRenzi1976aにおいて,これら2対の対立 項は単純な掛け合わせではなく,2分木のノード として表されているのだが,結果的には同じであ る。本稿では,その詳細に立ち入らない。

(6) Serianni上掲書,pp.161163。

(7) 同書,pp.163165。

(8) 同書,pp.168181。

(9) 同書,pp.168。

(10) ただ,指示的な用法とはいっても,1617世紀 における ・lavitadiGesuCristoeladiMaria Vergine・のようなケースはスペイン語法だとし て別扱いである(同箇所)。

(11) 対照言語学的に考えて,所有形容詞が前置され る場合にも定冠詞を伴うというのは,イタリア語 の大きな特徴のひとつである。

(12) 同書,p.181。

(13) なお,前置詞の後での部分冠詞の使用は,その 用例に事欠かないが,19世紀の純正主義者はフ ランス語法として退けていた(同箇所)。

(14) 同書,pp.182186。

(15) 同書,p.186。

(16) 同箇所。

(17) な お,Serianniによると抽象名詞と共には,

部分冠詞よりも副詞・形容詞など他の修飾語を用 いた方が良いということになる。例えば,・Ho della/unpo・dipaura.・などといったように

(同箇所)。

(18) 同箇所。

(19) Renzi1988a。

(20) Renzi1988b。

(21) 以下,本稿においては原語をなぞった用語を用 いるが,特定不定はいわゆる「不特定」,非特定 不定は「不定」と置き換えて読んでもらって差し 支えない。

(22) 同書,p.365。

(23) 同書,p.364。

(24) 同書,p.371。

(25) 同箇所。

(26) 同書,p.368。

(27) 同書,p.372;Renzi1976b。

(28) Renzi1988b,pp.372374。

(29) 同書,p.374;Renzi1982。

(30) Renzi1988b,pp.374376。

(31) 同書,pp.376377。

(32) 同書,pp.377378。

(33) 例えば,del/unpaneなど。なお,unpane なら「ある種のパン」の意味にもなる。

(34) 同書,pp.378380。

(35) 同書,pp.382383。

(36) 同書,pp.383390。

(37) 同書,pp.390402。

(38) なお,これ以外に,無冠詞になることが明白な 表現として,「対」になった名詞句を挙げている。

padreefiglioやvacanzeevacanzeなどのよう に,意味が近いか同一の名詞同士が等位接続詞の eで結ばれた表現である(同書,pp.389390)。

(39) 同書,pp.402417。

(40) Renzi1975;最後に,その他の細かい問題をい くつか扱っている。例えば,等位の名詞句におけ る先頭以外の冠詞の省略や簡潔な文体における冠 詞の省略は,分かりきった復元可能な冠詞の省略 である(Renzi1988b,pp.418419)。また,文 頭・文末に移動させられて孤立している名詞句で は, 無冠詞がしばしば現れる (同書,pp.419 420)。そして,定・不定冠詞ともに形容詞に直接 添えられるなどの代名詞的な用法がある(同書,

pp.420423)。

(41) DaForno1979参照。

(42) Renzi1985,p.275参照。但し,筆者としては 冠詞の無い言語でどうなるかも考えて行きたい。

(43) 例えば,Renzi1988b,p.387など参照。

(44) 例えば, トマトは可算名詞なので本来dei pomodoriであるが, 料理の際に既に裏漉しし てあるものを使ったとすると感覚的にはdel pomodoroである。 実際, トマトソースをil sugodipomodoro,トマトソースのかかったパ スタをlapastaalpomodoroなどと言うのが一 般的である。

(45) 不可算名詞に用いられた場合は,種の複数に対 応する単数である「ある種の」・untipodi・と いう意味を担うことになる。なお,Renziはこう した用法も不可算名詞の加算化に組み入れている

(同書,p.368)。

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参照

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