冠詞と都市名について
川 島 浩 一 郎*
0.はじめに
次の(1)や(2)に見られるように,通常であれば冠詞をともなう必要の ない都市の名前(たとえば
Edgecombe
やVenise)が,不定冠詞や定冠詞に
よって限定されていることがある.(1)La ville[=Edgecombe]
était déserte, c’était une Edgecombe fantôme qu’ils laissaient derrière eux.
(M. Chattam,Le 5
erègne , Collection Pocket, 2003, p.473)
(2)[...]
, mais attention, Saint−Pétersbourg n’est pas la Venise du Nord
[...]
.
(F. Beigbeder,Au secours pardon, Collection Le Livre de Po- che,
2007, p.
203)本稿の主要な目的は,(1)や(2)のような場合に,冠詞がどのような役 割りを担っているかを分析することである.
(3)Et peut−on savoir où tu vas cette fois, dans
l’Oklahoma, le Wisconsin peut−être ?(M. Levy, Toutes ces choses qu’on ne s’est pas dites, Col- lection Pocket,2
008, p.
182)(4)Sur
le Champs de Mars , l’air était glacial.
(G. Musso,Que serais−je
* 福岡大学人文学部准教授
1
sans toi ? , Collection Pocket,2
009, p.
138)(5)Du Pâques suivant elle sera sur
le Le Havre.
(Internet)(3)の
l’Oklahoma, le Wisconsin,
(4)のle Champs de Mars
のような,冠詞をともなうことが普通な土地名については,本稿では扱わない.また
Le
Havre
におけるLe
は冠詞というよりも,都市名の一部と考えたほうがよい.そのことは(5)でのように,
Le Havre
の前に冠詞が現れうるという事実からも 明らかである.論述の手順は次の通りである.
1.
では,選択的な限定と非選択的な限定を区 別する.2.
では,冠詞による限定が,都市名(固有名詞)を普通名詞に接近さ せることを示す.3.
では,冠詞における単数性・複数性の含意について確認す る.4.
では,都市名を限定する不定冠詞の役割りを分析する.5.
では,都市名 を限定する定冠詞の役割りを分析する.6.
では,都市名の限定において,定冠 詞が不定冠詞に対する無標の項であることを示す1.1.選択的な限定と非選択的な限定
限定(détermination)には多様性がある2.ここでは,(6)の
que vous avez
のような限定と,(7)のque j’aimais en secret
のような限定を区別しておこ う.(6)[...]
, je peux voir la liste que vous avez ?(M. Chattam, Maléfices, Collection Pocket,2
004, p.
272)(7)Puis j’ai pensé à Marisa que j’aimais en secret.
(G. Musso,Je reviens te chercher , Collection Pocket,2
008, p.
250)1 渡瀬嘉朗(1990)「定冠詞と「自己」照応形式(その1)」『東京外国語大学論集』第 40号
2 川島浩一郎(2005)「「限定」の下位分類」『フランス語を探る フランス語学の諸問 題Ⅲ』
(6)における que vous avez
は,すべてのliste
の中からque vous avez
に該当する
liste
を取り立てている.何らかの集合(たとえば「リスト」の集合)から,その一部分(たとえば「あなたが持っているリスト」)を選択するとい う意味で,このような限定は選択的(sélectif)であると言われる.選択とい う行為が成立するためには,複数の選択肢の存在が必要なのだから(選択肢が 一つでは,選択にならない),選択的な限定では必然的に,被限定項の複数性 が前提となる.対象が複数(あるいは複数種類)ある場合にしか,その一部分 を選択することはできない.
一方(7)の
que j’aimais en secret
は,Marisaの複数性を前提にしていな い.つまり,複数あるいは複数種類のMarisa
の集合から,que j’aimais en secret
という限定に該当するMarisa
を選択しているわけではない.このような限定 は,非選択的(non−sélectif)な限定と呼ばれる.2.都市名の普通名詞への統辞的な接近
冠詞が普通名詞(nom commun)以外の記号素や連辞を限定するとき,被限 定項は多かれ少なかれ普通名詞に接近する傾向がある.
(8)Tout le monde admire
le « Ah bon ! » présidentiel.
(F. Beigbeder,L’Égoïste romantique, Collection Folio,2
005, p.
346)(9)Il enfile son manteau, articule un vague « à tout à l’heure » et quitte l’appartement.
(G. Musso,Parce que je t’aime, Collection Pocket,
2007, p.
263)(10)Il émit
un petit « tss, tss » réprobateur.
(A. Abécassis,Chouette, une ride ! , Collection Le Livre de Poche,2
009, p.
248)(11)Simon n’accusa pas
le « nous ».
(F. Sagan,Aimez−vous Brahms..., Collection Pocket,1
959, p.
76)3
(1 2)
[...], François hurle un « NON » qui envahit l’espace.
(M. Levy,Les enfants de la liberté, Collection Pocket,
2007, p.
346)たとえば(8)では,Ah bon !という発話の全体が定冠詞によって普通名詞 化されている.(9)においては、à tout à l’heureが不定冠詞の存在によって 普通名詞に接近している.
冠詞による限定には,被限定項の統辞的なステイタスを普通名詞のそれに接 近させる効果がある.冠詞の限定があることは,いわば普通名詞の定義の一部 だと言ってよい.少なくとも,冠詞をともなう
Ah bon !や à tout à l’heure
の ような連辞のステイタスが,冠詞をともなうという統辞的な側面において,普 通名詞のステイタスに接近していることは明らかである.(13)Nous ne voulions pas voir New York devenir
un second Hiroshima .
(S. Brussolo,
La fenêtre jaune, Collection Le Livre de Poche,
2007, p.
127)(14)C’était
le New York des cartes postales,
[...].
(Je reviens te chercher, pp.
214−
215)以上のことから,不定冠詞の限定がある(13)の
Hiroshima
や,定冠詞の 限定をともなう(14)のNew York
は,普通名詞に接近していると考えること ができる.実際,(13)のHiroshima
は単なる都市名というよりも,より具体 的に「被爆地」を意味すると思われる.また(14)のNew York
は絵はがきに 喩えられたNew York
であって,New Yorkという都市そのものではない.3.冠詞と単数性・複数性
伝統的な文法では,le、la、l’に加えて
les
も定冠詞であるとされる.しかしles
には定冠詞だけでなく、複数記号素(複数性を標示する記号素)も含まれ ている.たとえばles animaux
におけるles
はanimaux
の複数性を反映しているのであって,定冠詞に複数性があるわけではない.実際,animauxから複数 記号素を除去すれば,l’animalのように定冠詞の形も変化する.つまり,定冠 詞そのものを示す形態は
le, la、l’
の三つだけである3.同様に,不定冠詞のdes
には,不定冠詞と複数記号素が含まれている.そのため,des yeuxのyeux
か ら複数記号素を除去すれば,un œil
のように冠詞の形も変わる(des yeuxは複数の
un œil
から構成される).したがって,純粋な不定冠詞の形態はun
あるいは
une
に限られる4.(15)Vous aimez
le café ?(A. H. Japp, La saison barbare, Collection J’ai lu, 2003, p.107)
(16)Martin scrutait les moniteurs,
l’œil sombre et la mine inquiète.
(Que serais−je sans toi ?
, p.
233)定冠詞は,それが限定する対象が単数であるか複数であるかを,積極的には 表示しない.たとえば(15)の
café
はこの文脈において,非可算の名詞とし て扱われている.単数か複数かは可算の場合にしか考慮されないのであるから(数えることのできないものは,単数でも複数でもない),(15)における定冠 詞の使用は
café
が単数であるか複数であるかの区別には対応していない.ま た(16)におけるl’œil
では,œilが単数であることも複数であることも明示さ れてはいない(ここでの解釈としては,片方の目ではなく,両方の目).これ らの定冠詞は,非複数性(少なくとも複数ではないこと)に,消極的に対応し ているに過ぎない5.一方,不定冠詞は,それが限定する対象が複数(あるいは複数種類)存在す ることを前提としながら,言及されている対象がその集合の中の不定の一つ
(あるいは一種類)であることを明示する6.
3
M
ARTINET(1979), Grammaire fonctionnelle du français :
394
M
ARTINET(1979), Grammaire fonctionnelle du français :
405川島浩一郎(2010)「定冠詞と人の名前について」『ふらんぼー』第35号
6名詞句中の不定冠詞は,基数形容詞(adjectif numéral cardinal)でもある.
5
(17)Tu as
un chien maintenant ?(G. Musso, Seras−tu là ? , Collection Pocket,
2006, p.
86)(18)Roxane ouvre laborieusement
un œil , puis un autre.
(A. Abécassis,Au secours, il veut m’épouser ! , Collection Le Livre de Poche,
2007, p.
131)(19)Il me regarde avec
un œil de sardine grillée.
(S. Testud,Le Ciel t’aidera , Collection Le Livre de Poche,2
005, p.
154)(20)Elle jette
un œil par la fenêtre.
(G. Musso,Et après..., Collection Pocket,
2004, p.
208)たとえば(17)における
un chien
は,chienという動物が二匹以上存在する ことを前提に,その中の不定の一匹を表している.(18)のun œil
は片方の(つ まり一つの)目を意味する.(19)のun œil de sardine grillée
は,二種類以上 存在しうるœil
の中から,ある一種類のœil
を表示している.(20)のun œil
は「一つの視線」を表す.
4.不定冠詞と都市名
次の(21)から(24)に見られるように,都市名に選択的な限定がある場合 に(
1.
を参照),その都市名を不定冠詞が限定することがある.(21)C’était le véritable esprit de New York.
Un New York pluriethnique et multiculturel, où pendant quelques instants on pouvait presque croire à l’utopie d’un monde fraternel.
(G. Musso,Sauve−moi , Col- lection Pocket,2
005, p.
302)(22)Mais sous les gratte−ciel flamboyants vibre une ville parallèle :
un
New York d’épaves humaines qui irriguent un vaste réseau de tun-
nels, de niches et de cavités.
(Parce que je t’aime, p.12)(23)Il était évident que ces pigeonnes de luxe,[...]
, mourraient de faim dans un Paris où ne pousse aucune graine à colombe sur les trot- toirs.
(N. de Buron,Qui c’est, ce garçon ? , Collection J’ai lu,
1985, pp.
161−
162)(24)Jamais J.P.G. n’avait connu
un Montmartre aussi tumultueux.
(G.Simenon, L’évadé , Collection Folio,1
936, p.
190)たとえば(21)では,pluriethnique et multiculturelという選択的な限定の
ある
New York
を,不定冠詞のun
が限定している.このような場合には,都市名に,少なくとも次の三つの現象が生じていると 考えられる.(i)不定冠詞の存在によって,都市名(固有名詞)が普通名詞へ 接近する.(ii)選択的な限定の存在によって,その都市に複数の側面がある ことが想起される.(iii)不定冠詞の使用によって,都市名に生じた複数性が 顕在化する.
たとえば(21)においては,不定冠詞による限定が
New York
を普通名詞に 接近させている(2.
を参照).冠詞に限定されることが,普通名詞の定義の一 部分だからである.少なくとも,冠詞をともなった都市名の分布が普通名詞の 分布に接近していることは明らかである.またpluriethnique et multiculturel
という選択的な限定は,pluriethnique
でもなければmulticulturel
でもないNew York
の存在を想起させるため,NewYork
に複数性が生じうる(1.
を参照). 不定冠詞によって言及されているのは,このような複数のNew York
のうちの 一つである(3.
を参照).(25)Il avait bien fallu repeupler
une France privée, vingt−cinq ans plus tôt, d’un million et demi d’hommes, morts dans les tranchées de la Grande Guerre.
(Les enfants de la liberté, p.18)(26)La redécouverte d’un Japon
ancien et silencieux me mit les larmes aux yeux.
(A. Nothomb,Ni d’Ève ni d’Adam , Collection Le Livre de
7
Poche,2
007, p.
24)(25)の
une France
や(26)のun Japon
のように,同様の現象は,国名に おいても見られる.非限定項が,ある集合の一部分であることを表示している という点では,不定冠詞のごく通常の用法であると言ってよい(3.
を参照).5.定冠詞と都市名
次の(27)から(35)に見られるように,都市名に選択的な限定がある場合 に(
1.
を参照),その都市名を定冠詞が限定することがある.(27)Je ne connais pas bien
le Paris de la nuit, j’ai besoin d’un guide,
[...](T. Benacquista,
. Malavita encore, Collection Folio,2
008, p.
287)(28)[...]
, il prendrait son café à la porte d’Auteuil, dans le Paris mort du dimanche.
(Aimez−vous Brahms..., p.
99)(29)Le Paris
dans lequel il errait depuis deux heures le déroutait.
(L’évadé, p.189)
(30)Les lieux où ils ont grandi ? Pour Lou,
le Paris chic.
(F. Dorin,En avant toutes ! , Collection Pocket,
2007, p.
53)(31)Plongée dans la nuit, la capitale avait un aspect intemporel. C’était
le Paris d’Arsène Lupin, celui du Fantôme de l’Opéra.
(Que serais−je sans toi ? , p.
38)(32)Elle[...]
regarda à travers la vitre les gens qui marchaient d’un pas vif dans le New York automnal.
(Je reviens te chercher, p.
162)(33)Intime et élégant, l’endroit portait ce joli nom de Gaby, un manne-
quin parisien qui avait fait carrière dans le New York des années
20.
(
Je reviens te chercher, p.
160)(34)Je sais que la ville a changé et que
le New York d’aujourd’hui n’a
plus rien à voir avec celui de ma jeunesse.
(Je reviens te chercher, p.
341)(35)C’était tellement étrange d’avoir remonté le temps et de revoir
le
<<vieux>> New York.
(Parce que je t’aime, p.279)たとえば(27)では
de la nuit
という選択的な限定のあるParis
を,定冠詞 が限定している.(32)ではautomnal
という選択的な限定のあるNew York
が,定冠詞による限定をともなっている.
このような場合には,都市名に,少なくとも次の三つの現象が生じていると 考えられる.(i)定冠詞の存在によって,都市名(固有名詞)が普通名詞へ接 近する.(ii)選択的な限定の存在によって,その都市に複数の側面があるこ とが想起される.(iii)定冠詞の使用によって,都市名に生じうる複数性が非 問題化される.
たとえば(
2 7
)においては,定冠詞の存在がParis
を統辞的に,普通名詞に 接近させている.冠詞に限定されることが,普通名詞の定義の一部だからであ る(2.
を参照).少なくとも,冠詞に限定されるという点で,都市名と普通名 詞のステイタスが統辞的に接近していることは明白である.またde la nuit
と いう選択的な限定は「昼のParis」の存在も想起させるため,Paris
に複数性が 生じうる.ただし,定冠詞の限定によって,Parisに生じた複数性は,いわば 不問に付される.定冠詞は,単数・複数の区別を積極的には表示しないからで ある(3.
を参照).つまりle Paris de la nuit
では,de la nuitという選択的限 定がありながら,Parisに複数の側面があることは顕在化していないことにな る.(32)でも同様に,定冠詞の存在によって
New York
という固有名詞は,統 辞的な面で普通名詞に接近する(2.
を参照).またautomnal
という選択的限定 の成立は,他の季節のNew York
の存在に立脚しているため(複数の選択肢が なければ,選択にならない),New Yorkという都市名に複数性が生じうる(1.
9
を参照).このときに
New York
の複数性を問題にしたくなければ,不定冠詞で はなく定冠詞を使用せざるをえない.単数性を明示する不定冠詞は必然的に,(21)の
un New York
でのように,New Yorkの複数性を問題化させてしまうからである(
4.
を参照).実際(32)では定冠詞による限定があるため,NewYork
の複数性は顕在化しない.定冠詞は,それが限定するものが単数である か複数であるかを,積極的には表示しないからである(3.
を参照).6.定冠詞とその無標性
都市名の限定において,選択的な限定と共起する定冠詞には,不定冠詞に対 する無標の項としての性格が認められる.
(36)Eh bien, la revoilà, un peu de couleur pour
un Paris de novembre !
(Internet)
(37)Je marche dans
le Paris de novembre.
(Je reviens te chercher, p.
208)(36)の
Paris
にはde novembre
という選択的な限定と(1.
を参照),不定冠 詞による限定がある.ここで不定冠詞が使用されているのは,11月のParis
もあれば12月の
Paris
もあるというような,Parisの複数性が問題となっているからである(
3.
と4.を参照).一方(37)において,不定冠詞ではなく定冠詞 が用いられているのは,de novembreという限定によって生じうるParis
の複 数性を,問題化させないためだと考えられる(3.
と5.を参照).不定冠詞を用 いれば,(36)でのようにParis
の複数性が顕在化するのだから,それを避け るためには定冠詞を用いざるをえない.定冠詞は,被限定項の単数性も複数性 も,積極的には示さないからである(3.
を参照).(37)における定冠詞の働きは,少なくとも
de novembre
のような選択的な 限定との共起においては,定冠詞が不定冠詞に対する無標の項であることを暗 示している.(38)L’action se passe dans
un Paris abandonné de toute vie et entouré d’un mur d’énergie qui empêche toute intrusion de l’extérieur.
(In-ternet)
(39)Je traîne dans
Paris abandonné.
(L’Égoïste romantique, p.30)(38)の
un Paris
では,(36)のun Paris
と同様,Parisの複数性が顕在化 している.それに対して(39)では,Parisの複数性は顕在化していない.つ まり,leParis
と無冠詞のParis
のどちらにおいても,選択的な限定によって生じうる
Paris
の複数性は問題とされない.言い換えれば,(37)のle Paris
と(39)の
Paris
はどちらも,不定冠詞の使用(un Paris)と対立しているのである.両者の違いは,固有名詞である
Paris
が普通名詞に接近しているかどうか にある(2.
を参照).以上のように,(37)の
le Paris
(de novembre)と(39)のParis
(abandonné)は,Parisの複数性が問題にならないという点において,意味的にほぼ等価で あると言ってよい.定冠詞も無冠詞も,単数性・複数性を積極的には表示しな い.都市名の限定における定冠詞と無冠詞の意味の近さ(つまり
le N
とN
の 意味の等価性)は,この用法における定冠詞が,不定冠詞に対する無標の項で あることを示していると思われる.7.まとめ
都市名(固有名詞)の限定において不定冠詞は,都市名を普通名詞に接近さ せ,都市名の複数性を顕在化させる.一方,都市名に対する定冠詞の限定は,
都市名を普通名詞に接近させながら,選択的な限定によって生じうる複数性を 問題化させない.不定冠詞は複数性を問題化させる可能性があるため,複数性 の明示を避けるためには,定冠詞の方を選択せざるをえないのである.
(40)C’est
un New York toujours dangereux et marginal pour qui accepte
11
d’ouvrir la porte à ses démonts.
(Que serais−je sans toi ?, p.34)
(41)Francfort est
le New York allemand :
[...].
(L’Égoïste romantique,p.
165)(42)Montréal, c’est
New York qui parle français.
(L’Égoïste romantique, p.
104)(40)の
un New York
では,New Yorkの複数性(New Yorkに複数の側面 がありうること)が明示されている.(41)のle New York
では,allemandと いう限定によって生じうるNew York
の複数性(ドイツのNew York
もあれば アメリカのNew York
もある)は顕在化しない.また(42)のNew York
にお いても,qui parle françaisによって生じうるNew York
の複数性(フランス語を話す
New York
もあれば,そうでないNew York
もある)は問題となっていない.このような(41)の
le New York
と(42)の無冠詞のNew York
の意味 の近さは,都市名の限定において,定冠詞が不定冠詞に対する無標の項である ことを示している.[参考文献]
F
URUKAWA, N.
(1986), L’article et le problème de la référence en français, France Tosho.
川島浩一郎(2005)「「限定」の下位分類」『フランス語を探る フランス語学 の諸問題Ⅲ』三修社,76−87
.
川島浩一郎(2010)「定冠詞と人の名前について」『ふらんぼー』第35号,東 京外国語大学欧米第二課程フランス語研究室フランス研究会,1−18
.
川島浩一郎(2011)「基数形容詞の前の冠詞について―
定冠詞,不定冠詞,部分冠詞の共通部分としての定冠詞
―」
『福岡大学人文論叢』第42巻第 4 号,1203−1216.
M
ARTINET, A.
(1979), Grammaire fonctionnelle du français, Didier.
長沼圭一(2004)『フランス語における有標の名詞限定の文法』早美出版社.
渡瀬嘉朗(1990)「定冠詞と「自己」照応形式(その1)」『東京外国語大学論 集』第40号,65−78