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ポジティブ心理学から幸せについて考える

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ポジティブ心理学から幸せについて考える

著者 山崎 晃

雑誌名 明治学院大学心理学部付属研究所年報 = Annual

Report of the Meiji Gakuin Institute for Psychological Research

巻 7

ページ 41‑49

発行年 2014‑05

その他のタイトル Positive Psychology to Change Your View of Happiness

URL http://hdl.handle.net/10723/00003750

(2)

特   心理学部付属研究所年報 第 7 号 P41―49

ポジティブ心理学から幸せについて考える

【特集 2】

ポジティブ心理学から幸せについて考える

心理学部心理学科 山崎 晃

1. はじめに

 我々は何をもって幸せだと感じるのだろう か。その感じ方は人それぞれあり,仕事や学業 で良い業績や成績を上げることで幸せと感じる 人がいたり,新しい知識や技術,ノウハウを身 につけることで社会経済的に 「勝ち組」 として 生き残ることができれば幸せと感じる人がいた り,対照的に,そのようなことには興味も関心 もなく,何事もほどほどに平凡に暮らすことが できることこそしあわせであると感じる人々も いる(たとえば,勝間,2008 ; 香山,2009)。

 2013 年 の 世 界 幸 福 度 報 告 書(World  Happiness Report; Helliwell, Layard, & Sachs,  2013)によれば,現在,日本の経済はバブル崩 壊後暗黒の時代を乗り越えつつあり,景気は回 復してきているといわれ,社会のインフラも整 備されているにもかかわらず,日本の幸福度は 調査対象となった 156 か国中 43 位であった。

 また,2010 年から 2012 年にかけて国ごとに 1,000 人を対象とした調査結果も明らかにされ て い る(Helliwell,  Layard,  &  Sachs,  2013)。

評 価 基 準 は, 国 ご と の ベ ー ス 値 か ら の 差 分 を 加 算(Base  country (1.977) +  residual),

一 人 当 た り GDP(GDP  per  capita), 社 会 福 祉(social  support), 健 康 寿 命(healthy  life  expectancy), 人 生 選 択 の 自 由(freedom  to  make  life  choices),寛大さ(generosity),腐 敗認識(perceptions of corruption)であった。

調査の結果,日本は健康寿命は高いが,人生選 択の自由,社会の寛容さ,腐敗に対する認識が 低くなっていた。

 さらに,経済協力開発機構(OECD)の「よ

り 良 い 暮 ら し 指 標 」 調 査 に よ れ ば(OECD,  2013),住居(住居費,1 人あたりの部屋など),

家計所得(金融資産,可処分所得),雇用(個 人所得,就業率,長期失業率,雇用保障など),

コミュニティ(支援ネットワークの質),教育(教 育を受ける年数,学生の技能,高校修了者の割 合),環境(大気汚染,水質),市民参加(投票 率など),健康(健康に関する自己申告,平均 寿命など),生活満足度(生活の満足度),安全

(暴行率,殺人率),ワーク・ライフ・バランス

(長時間労働勤務者の割合,余暇や個人活動に あてた時間)についての合計得点をもとにした 順位づけした日本の幸福度は 36 カ国中 21 位(前 年 21 位)であった。内訳をみると,安全が 9.9 で最も高く,教育も 9.0 と高くなっていた。調 査対象となった国全体では,平均寿命が 3 位で あったにもかかわらず,健康は 29 位であり,

健康に関する自己申告は最下位の 36 位,生活 満足度は 27 位,ワーク・ライフ・バランスは 34 位(それぞれ,35 位と 32 位)と低くなって いる。健康について,日本は他の国と比べて,

入院期間が 18 日と長くなっているが(OECD 平均では 8 日),その背景には地域の支えや病 院外での長期的なケアサービスの不十分さがあ ると考えられ,容易に社会全体のシステムの修 正・変更や生活の質(QOL)の改善を図るこ とができる社会づくりの重要性が求められる。

 幸福に関連する要因として複数の資本があげ られる(OECD,2012 ; Figure 1)。一般的に生 活の質と物資的な生活の状態が個人の幸福を規 定し,国民総生産(GDP)も間接的要因とし て関与する。すでに述べたように,生活の質に ついては,健康状態,ワーク・ライフ・バラン

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特  ポジティブ心理学から幸せについて考える

ス,教育と技能,社会とのつながり,市民参加 とガバナンス,環境の質,生活の安全などが関 連し,一方,物質的な生活状態として所得と資 産,仕事と報酬,住居があげられ,さらに,幸 福の継時的持続を支える各種資本の維持,すな わち,自然資本,経済資本,人的資本,社会関 係資本などがあげられる。

 幸福の「客観的」要素と「主観的」要素につ いて,筒井(2011)は,幸福の客観的要素の情 報は生活状態や生活の質を捉えるために,ま た,人が自らの生活をどう評価しどう感じてい るかについての情報は「状態と行為」(たとえ ば,不安感など)の心理的な側面を把握した り,客観的要素と主観的要素の関係を理解した りするために重要であると述べている。また,

現在の幸福に関わる要因として,まず,①物質 的な生活状態:所得と資産,仕事と報酬,住居 をあげている。所得と資産は現在及び将来の消 費可能性を予測であると主張する。また,就業 の有無と仕事の質は物質面での幸福と密接に関 係し,資源を自由にできる機会の増加,願望の 実現,自尊心の醸成に関連しているという。さ

らに,住居とその質は人の基本的なニーズに応 え,個人的な安心やプライバシー,個人的な空 間を確保していると感じることと関連するとし ている。次に,②生活の質をあげている。健康 状態はそれ自体が重要であり,それは就業・活 動とも関わり,また,仕事と家庭の調和のとれ たワーク・ライフ・バランスの両立に向けて有 用であり,報酬を伴わない活動に時間を充てら れる生活は,健康的で生産的であるように働く とする。社会とのつながり,市民参加とガバナ ンスや生活を自分自身でコントロールできると いう感覚,環境の質,生活の安全やその人自身 の評価,感情に基づく主観的幸福が要因として 重要な役割を果たしている,とも主張している

(以上,筒井,2011)。

 ところで,幸福度の感じ方は年齢と共にど のように変化するのであろうか。日本で 2004 年に実施された調査によれば(筒井,2011),

30 歳代が最も高く,年齢が進むにつれて次第 に幸福度は下がっていくことを示している。し かしながら,このような結果は,男性も女性 も 20 歳代 ‑24 歳代から 70 歳 ‑74 歳代にかけ 幸福の継時的持続可能性

各種資本の維持 自然資本 経済資本 人的資本 社会関係資本 生活の質

健康状態

ワーク・ライフ・バランス 教育と技能

社会とのつながり 市民参加とガバナンス 環境の質

生活の安全 主観的幸福

物質的な生活状態 所得と資産 仕事と報酬 住居

GDP

Figure 1 OECD 幸福度白書(2012)

個人の幸福

全人口の平均と集団間の相違

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特   山崎 晃

ポジティブ心理学から幸せについて考える

て U 字型を示した欧米を中心とした研究結果

(Blanchfl ower  &  Oswald;  2004,  2011)とは大 きく異なっている(Figure  2)。その理由につ いて,筒井(2011)は年齢に伴う稼得所得など のさまざまな属性による結果の違いによるもの であると解釈しているが,この解釈の妥当性お よび諸外国との結果の違いの要因や原因につい ては,さらなる詳細で具体的な検討が必要であ る。

 このような幸福感に関する指標として,主観 的幸福感と生活満足度がある(白石,2010)。

主観的幸福感については「全体としてみて,あ なたは現在,幸せですか,あるいは不幸ですか」

と尋ね,その度合いを評定尺度によって測定す る方法がとられる。

 以下は具体的な「幸せ認知尺度」の項目である。

①一般的に,あなた自身の幸福度はどのレベル に該当しますか。

②友人や同僚と比較したときのあなた自身の幸 福度はどのレベルに該当しますか。

③「通常はとても幸せだという人たちがいる。

こういった人たちには,現在の暮らしぶりと

は関係なく,生活を楽しみ,何事であれ可能 な限りのものを手に入れている。」という記 述にあなたの性格を照らし合わせると,どの レベルに該当しますか。

④「通常はあまり幸せでないという人たちがい る。こういった人たちには,落ち込んではい ないのだが,幸せであるはずなのに幸せそう に見えない」という記述にあなたの性格を照 らし合わせると,どのレベルに該当しますか。

 この尺度により測定された幸福度はどのよう な要因によるものであると説明されているのだ ろうか。友人,家族,配偶者を対象とした調査 によって,幸福度は,所得額,消費額,個人の 持つ競争心・利他性・人生の目標・飲酒習慣・

心配性などの要因と関連することが明らかにさ れている。さらに,日本ではおよそ年間 700 万 円以上の所得者になると幸福度は低下し,所得 額による飽和点がみられた結果ことから,その 意味において所得額に関する「所得水準の大幅 な向上は幸福度にほとんど変化を生じさせない という相対的所得仮説は検証されたことになる とされている。

Figure 2 Happiness equations for women in the USA: pooled data 1972‑2006

(Blanchfl ower & Oswald, 2008 より作成)

male female 平均 Age

20-24 Age 25-29 Age

30-34 Age 35-39 Age

40-44 Age 45-49 Age

50-54 Age 55-59 Age

60-64 Age 65-69 Age

70-74 Age 75-79 Age

80-84Ag≧85

−0.600

−0.500

−0.400

−0.300

−0.200

−0.100 0.000 0.100 0.200 0.300 0.400

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特  ポジティブ心理学から幸せについて考える

 さらに,一般的に,他人の生活を意識してい る人やお金を貯めることが人生の目的であると 考えている人ほど,飲酒が多い人ほど不幸であ り,反対に,利他的な人,宗教を熱心に信仰し ている人は無信仰の人に比べて幸福であるとい われている。これは,幸福度には,所得のよう な客観的な指標よりも生活水準のような主観的 な指標で示される要因が影響することを示して いると解釈される。しかし,Table  1 に示され ているように可処分所得や正味金融資産は自己 報告による健康状態,生活満足度,社会的ネッ トワーク,および優位な感情と高い相関を示 しており,Figure  1 にあるように社会的資本 や GDP などの国全体の力などの要因も重要な 要因として機能していると考えられるので無視 することはできないものであり,単純に主観的 指標のみで説明することには慎重さが求められ る。何にそしてどの程度の幸せを感じるかは,

様々な要因が複雑な相互作用と絡み合いなが ら,人それぞれであるということを示している ことになる。

2. 自己実現と学習性無力感と本物の 幸せ

 セリグマン(2004)は,大学生を対象として,

誰かが特別にポジティブな行動を行ったところ を見聞きした話や人間味あふれる良い経験をし た話(エレベーション『上昇』と呼ばれる話)

を収集し , それを考察 ・ 吟味した結果を示して いる。その中の一つがエピソード 1 である。

 エピソード 1(学生の場合):雪の降る 夜,私たちは救世軍の施設から車で家に 戻る途中,年老いた婦人がシャベルで自 宅前の車道の雪かきをしているところを 通りかかりました。すると,仲間の一人 が運転手に下ろしてくれるように言いま した。私は,そこが彼にとっては自宅へ の近道なのだろうと思ったのですが,彼 がシャベルを手にするのを見て感激で胸 がいっぱいになり,涙が出てきました。

(セリグマン,2004, p.19)

 この様なエピソードを基にした研究を行い,

幸福は遊びから手に入れやすいか,あるいは親 Table 1 生活に関わる要因間の相関(OECD,2013)

家計調整純可処分所得 家計保有正味金融資産 就職率 長期失業率 フル平均年間報酬 1

基本的な衛生設備の欠 出生時平均余命 自己報告康状態 長時間労働 レジ

ナル 学齢期母親就業率 学歴 生徒認知技能

社会的ネ

クに 投票率 法規制定協議 大気 殺人率 自己報告罪被害 生活満足度 優位な感情

家計調整純可処分所得 1.00 0.69 0.54 0.88 0.69 −0.70 0.63 0.68 0.63 0.50 −0.48 −0.46 −0.41 0.63 0.38

家計保有正味金融資産 1.00 0.39 0.68 0.48 0.53 0.45 0.46

就職率 1.00 −0.55 0.62 0.57 −0.57 0.62 0.39 −0.47 0.85 0.38 0.45 0.65 −0.39 −0.36 0.64 0.48

長期失業率 1.00 −0.49 −0.38 −0.40 −0.60 −0.56

フルタイム就業者の平均

年間報酬 1.00 0.81 −0.50 0.61 0.73 0.59 0.51 0.81 0.63

1 人あたりの部屋数 1.00 −0.55 0.60 0.61 0.47 0.64 0.40 −0.41 0.70 0.49

基本的な衛生設備の欠如 1.00 −0.61 −0.52 0.54 −0.56 −0.45 −0.74 0.47 0.54 −0.61

出生時の平均余命 1.00 0.40 0.40 0.50 −0.50 0.57

自己報告による健康状態 1.00 0.62 0.37 0.68

長時間労働 1.00 −0.62 −0.50 −0.45 −0.43

レジャーとパーソナルケ

アの時間 1.00 0.51 0.46 0.45

学齢期の子どもを持つ母

親の就業率 1.00 0.57 0.54 0.61 −0.47 0.47

学歴 1.00 0.43 0.41 −0.53

生徒の認知技能 1.00 0.37 −0.45 −0.52 −0.65

社会的ネットワークによる

支援 1.00 −0.52 −0.39 −0.36

投票率 1.00

法規制定に関する協議 1.00 −0.40

大気の質 1.00 0.40 0.44

殺人率 1.00 0.64

自己報告による犯罪被害 1.00

生活満足度 1.00 0.47

優位な感情 1.00

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特   山崎 晃

ポジティブ心理学から幸せについて考える

切な行為から手に入れやすいかを検討するため に,娯楽活動をする群と慈善活動をする群で比 較した結果,2 つの群では幸せを感じる度合い が異なっていたという結果を得ている。すなわ ち,ただ楽しむことと違って , 他者に親切にす ることには充実感がともない,また,義務でも なく見栄でもなく,ただ時間を忘れてその活動 に没頭することであるので幸せを感じる度合い の高くなったのであろうと考えられている。

 また,個人がポジティブな性格を持っていた り,あるいはいろいろなことについてポジティ ブな感情を表すことができたり,こころから 幸せであると感じることができるパーソナリ ティーを持っていることは,自己実現の高さや 寿命の長さとも関連するようである。たとえば,

同じくセリグマン(2004)による 2 つのエピソー ドからこの点について考えてみる。

 エピソード 2(セシリアの場合):計り しれない愛を神からさずけられ,私の生 活が始まりました。ノートルダムで勉学 に励んだこの一年間,私はとても幸せで した。

 そして今,私は聖母マリア様から神聖 なる修道衣をさずかり慈愛に満ちた神に 生涯をささげることを心からうれしく 思っています。(セリグマン,2004 ,p.12)

 エピソード 3(マルグリートの場合) 私は女 5 人と男 2 人の 7 人兄弟の一番目 の子として生まれました。……最初の見 習い期間は化学を教えながら修道女会修 練院本部で過ごし,2 年目はノートルダ ム大学でラテン語を教えました。

 私は神の御加護のもと,宗教の伝道と 私自身を神にささげるために,努力して まいります。(セリグマン,2004, p.13)

エピソード 2 に示されるような人は , エピソー ド 3 に示される人よりも長寿で幸せであるとい う。これら 3 つのエピソードは,何に対して幸 せを感じ,また,その幸せをどのように感じる

かがその人の生き方を示し,同時にそれはその 人の寿命にもまた影響を与えることを示したも のである。いずれの場合も幸せとは何かを我々 に問いかける内容が含まれている。人それぞれ,

何を幸せと感じるかはその生い立ちや置かれた 状況・環境,また,これからの生き方などに関 連づけられる。

 幸せと自己実現との関係について,自己実現 をしている人はそうでない人よりも幸せである と感じており,幸せを感じる心と自己実現は密 接な関係がある。深い愛情を注がれているとい う実感や恍惚の実感,創造活動や素晴らしい仕 事を完成させた,あるいは,自分で意味のある 仕事をやり遂げたという充実感を味わっている 至高体験と呼ばれる体験をしている場合にこの 上ない幸せを感じることができるといわれる。

その意味で,自己実現と幸せを感じるこころと は密接に関係するといえるのである。そもそも 自己実現とは何をさすのであろうか。自己実現 とは理想的な自己像に向かって,それを実現し ようとする欲求とされるものであり,マズロー により提唱されたものとされ Figure  3 に示す ように低次の欲求から高次の欲求に至る回想 からなるものとされることが多い(Maslow,

1954)。最も高次な段階は,自己実現の瞬間的 な達成,一過性の性格的変化,最も幸福で感動 的な瞬間(達成感)である至高体験ができる段 階である。マズローは生理的欲求,安全の欲求,

Figure 3 マズローの自己実現の 5 段階

自己実現の欲求 自己実現の欲求

承認の欲求 承認の欲求 所属と愛の欲求 所属と愛の欲求

安全の欲求 安全の欲求 生理的欲求 生理的欲求 自己実現の欲求

承認の欲求 所属と愛の欲求

安全の欲求 生理的欲求

成長欲求欠乏欲求

精神的欲求物質的欲求

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特  ポジティブ心理学から幸せについて考える

所属と愛の欲求,承認の欲求,自己実現の欲求 の 5 段階を主張し,自己実現の欲求に至るまで の 4 つの欲求を欠乏動機による欲求とし,最終 段階の自己実現の欲求を成長欲求動機による欲 求と位置づけた。マズローは自己実現的人間の 特徴として以下のようなものがある。

・現実をより適切に知覚し,現実とより快適な 関係を保つ

・自己,他者,自然に対して受容的態度をとる

‑ すべてのものをあるがままに 受け止める

・自発性,単純さ,自然さを持つ

・自己中心的ではなく,課題中心的

・孤独,プライバシーを好み,欠乏や不運に対 して超然

・文化や環境から独立し,意志をもった能動的 人間

・認識が絶えず新鮮

・神秘的経験 ‑ 至高体験を持つ

・共同社会感情を持つ

・心の広い,深い対人関係を持つこと

・「民主的性格構造」を持つこと

・手段と目的の区別,善悪の区別が判断できる

・哲学的で悪意のないユーモアのセンスを持つ

・創造性を持つ

・文化に組み込まれることに抵抗し,文化を超 越する

 自己実現的人間について上田(1988)は,自 己実現的人間は緊張し,はじめたことを完成す るまで固執し,失敗してもやり直し,疲労や退 屈や落胆と闘い,あらゆる束縛に耐え,冷静と 忍耐を保ち,平凡な仕事のときは余力を貯え,

抵抗と決断と創意とに満ち,強力な行動が必要 な時に敏速に行動し得ること,忍耐力をもって 集中して物事をやり遂げ,また,敏速に判断し,

行動すべき時には行動することができる人をさ すとする。

 このような自己実現が注目されるようになっ

た背景としては,多様な価値観,個性化の重視,

生涯発達的観点から捉えることが重視されるよ うになってきたこと,不確定な時代,社会化の 時代,急激な環境の変化などが考えられる。マ ズロー自身も自己実現の 5 段階と発達を対応づ けているが,現在ではその考え方を発展させ て,成人におけるごく少数の人間が達成できる ものだけが自己実現をしていると考えるのでは なく,各年齢段階においてそれぞれにふさわし い自己実現の姿がみられる,という考え方をす る研究者が多い。

 ところで,比較文化の視点に基づいた研究に よって,現実の社会での自己実現の様相が異な ることが認識されるようになってきている。す なわち,アメリカンドリームと呼ばれるような 予言の自己実現を信じることによって,目標と してきた夢が達成されるかどうかについては,

日本人に比べてアメリカ人がより多く信じてい るという違いが見られる。このような現象に示 される違いはいわゆる評価効果(ピグマリオン 効果)の受け止め方の違いによるものであると 解釈できる。極論すれば,がんばれば現状を 変えることができ,何とかなると信じるのがア メリカ人に多いのに対し,日本人はいくらがん ばっても報われないと思う人が多い,という傾 向と見なすことができる(ダイアモンドオンラ イン,2012)。日本人に多くみられるといわれる,

いくら頑張ってもどうしようもない,現状を改 善する子とはどうしてもできないので,諦めて しまうなどの態度や考え方の傾向は,あたかも セリグマンのいう「学習性無力感」を思い起こ させる。

 学習性無力感とは,セリグマン(2004)に よれば 1964 年に 「・・スティーブ・マイアー とブルース・オブマイアーとともに『学習性 無力感』と呼ばれる現象の研究に取り組んで いた。・・(中略) 行動を起こすたびに電気 ショックの痛みを受け,どんなにあがいてもそ

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特   山崎 晃

ポジティブ心理学から幸せについて考える

の痛みから逃れられない犬は,しだいに行動そ のものを諦めるようになることを発見した。こ うした犬は , ショックから簡単に逃れる手段が 用意されているときでさえ,ただ悲しげな声を あげながら無気力な表情で,ショックに打た れるままに耐え忍んでいた。」(セリグマン,

2004,  p.34)のような状況を指すものである。

彼らのこの研究は当時の心理学研究の主流で あった行動主義に対する挑戦と見なされる刺激 的な主張であった。同時に,セリグマンはこの 学習性無力感を「単極性うつ病」のモデルで あるとも主張している(セリグマン,2004,  p. 

35)。すなわち,もはや自らの力だけでは解決 できない問題を抱え込み,積極性もなくなり,

学習意欲もなくなるなどを示すものに対する支 援を考える基となる重要な研究であった。しか しながら,一方で,セリグマンは自ら提唱した モデルにうまく当てはまらない最悪の状況に 陥っても,快復の兆しを見せる人々にも注目し ている。すなわち,過去は代えられないが未来 を代えるのは自分次第なのだという事実を確信 する人々の特性を研究することの重要性を強調 し,無気力感に屈しない人たちの心のしなやか さについて,反対に直ぐに諦めてしまう人たち の弱さについて明らかにしている。

 たとえば,「日常の生活においては,学生や 会社員・公務員が,いろいろやっても結局無駄 なんです。今は景気が悪いから,あるいはこち らがいくらアイディアを出し,新しい考え方で プロジェクトを提案しても,上司の考え方が保 守的で何も変わらないし,変えられません。就 職活動で何十社もエントリーしたのですが,す べて門前払いで,2 次面接にすら進めません。

さすがにここまでとは思いませんでしたので,

へこみます。このような例は民間会社も公務員 も関係なく見られる情況のように思われる」(ダ イアモンドオンライン,2012 の一部を要約)。

「いくら頑張っても報われない」との思いは ,

セリグマンの主張したように学習性無力感を生 じさせ,また,どのような事象についてもネガ ティブな受け止め方をさせ,うつなどの病気を 生じさせることにつながる可能性があることを 示している。

 個人の努力だけでは,あるいは個人の考え方 を変えるだけでは社会の考え方の傾向 ・ 雰囲 気,さらに状況を打破することはできない。む しろ個人をサポートするための制度や法律の整 備・充実,社会や会社の規律・雰囲気・風潮な ど個人を取り巻く環境システム全体を変えるこ とが有効である。すなわち,「頑張れば報われ る社会」にできるというポジティブな意識・感 情を持つことができる社会を構築することこそ が大切である。

 同時に,それに加えて,個人としてできるこ とには限界があるが,ポジティブな自己評価を したり,頑張ってやってきたこと,今やってい ること,公的に認められる資格を取得するなど の実力をつけていることを周囲にアピールした りすることができる意識を持つこと,さらにそ れらのことをサポートする人的環境,ネット ワークの構築など個人でもできる身近な環境整 備を心がけておくことも重要である。

3.  ポジティブな感情を培うことは不 可能か ?

 ポジティブな感情は,他者をいとおしみ,愛 情やお互いの絆をさらに強固にする,新しい考 えや教えを受けいれる,柔軟性が高まるなどの 効果をもつ。たとえば,4 歳児を,飛んだり跳 ねたりするようなことをするグループと座った ままでにっこりするような楽しいことを 30 秒 間思いださせるグループとに分けて,知的課題 を行わせる。結果は,事前にポジティブな感情 をインプットされていたグループが,インプッ トをされなかったグループより成績が良かった。

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特  ポジティブ心理学から幸せについて考える

 また,参加者として内科医を,キャンディー をもらうグループ,医学に関する感動的な話を 声に出して読むグループ,じっと待つグルー プの 3 つのグループに分け,その後,診断の困 難な肝疾患の症例を見せられ,診断を下すに当 たって思い浮かぶ言葉をあげるように求められ た。その結果,キャンディーを与えられたグ ループは他の 2 グループより,適切にかつ早く 診断することができた。このような結果は,参 加者が前もって,キャンディーの入ったバッグ をもらう,面白い漫画を読む,ポジティブな言 葉を心を込めて声に出して言うなどの活動を通 して,心地よさの感覚を刺激し,ポジティブ感 情が課題を解く創造性を生み出したことによる と解釈されている。

 以上のような結果から,幸せと思うことと不 幸だと思うことの違いは,様々な思考や行動に 違いを生じさせることを示している。すなわち,

幸せと思うことが物事を都合よく解釈すること につながり,方略や対応のしかたを変えたり,

分析をやり直すという柔軟性や新たな想像力を もたらすことを示している。対照的に,不幸だ と思うことが何に対しても懐疑的で,硬く,柔 軟性に欠ける思考や想像力を働かせることと関 連していることを示している。また,ポジティ ブな感情を持つことは健康と長生きをもたら し,生産性を高めたり,社会性を培ったりする ことにもつながることを示している。 

 これまで,一般的に心理学では,どのような 感情の状態や個人的な特性も努力をすれば改善 することができ,自発的にコントロールできる 要因であり,個人的な努力と環境作りさえすれ ば,すべてをより良く作り変えることができる と考えられていた(セリグマン, 2004)。しか し,近年,幸福の公式,すなわち,永続する幸 福のレベルはその人にあらかじめ設定されてい るという考え方も出てきている。具体的には,

個人特性の約 50% は遺伝的に決定されている

ものあるという考え方である。注目すべきこと は,高い遺伝的な力も個人のすべての特性や行 動を決定することはなく,遺伝以外の要因が約 50% の影響力を持っていることである。長続 きする幸せをもたらす自発的要因は,過去に対 するポジティブな感情として充足感,安堵感,

達成感,誇り,平穏,現在に対するポジティブ な感情として喜び,絶項感,落ちつき,熱意,

快楽,何よりも大切なフロー(完全な充足感の 状態),未来に対するポジティブな感情として 楽観,希望,信念,信頼である。さらに重要で 理解しておくべきことは,これら 3 つの状況に おける幸せの感情はそれぞれ異なり,必ずしも 緊密な連携があるわけではないということであ るという(セリグマン , 2004, p.88)。

 このような考え方を基に幸せに関連づけた親 子関係を再吟味しておくことは,重要であろう。

すなわち,我々は固定的で,ステレオタイプ的 に幸せにかかわる要因を捉えやすく,現状は変 えにくいという考えをしがちであるが,その考 え方を根本から再検討することが必要である。

関係のあり様を変えていくことはでき,同時に 長続きする幸せをもたらす時期ごとに働く要因 は必ずしも関連しているわけではないことを認 識することが必要である。親が子どもを見ると きのまなざしを今一度見直すきっかけとして,

ポジティブなもののとらえ方,それぞれの発達 段階にそれぞれの自己実現があると認識するこ との重要性を再確認していきたいと思う。

引用文献

上田吉一(1988).自己実現の教育,大日本図

OECD(2013).『OECD  Better  Life  Index( よ り良い暮らし指標)』www.oecdbetterlife index.org/ (2014.4.15 アクセス)

OECD 編著 徳永優子,来田誠一郎,西村美 由紀,矢倉美登里訳 (2012).OECD 幸福

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特   山崎 晃

ポジティブ心理学から幸せについて考える

度白書 ‑ より良い暮らし指標:生活向上と 社会進歩の国際比較,明石書店

勝間和代(2008).勝間和代のビジネス頭を創 る 7 つのフレームワーク力  ビジネス思考 法の基本と実践  ディスカヴァー・トゥエ ンティワン

香山リカ(2009).しがみつかない生き方 ‑「ふ つうの幸せ」を手に入れる 10 のルール,

幻冬舎新書

セリグマン・M(小林裕子訳)(2004).世界で ひとつだけの幸せ ポジティブ心理学が 教えてくれる満ち足りた人生(Authentic  happiness, M. E. P. Seligman, 2002),アス ペクト

筒井義郎「大竹文雄・白石小百合・筒井義郎編」 

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ダイアモンドオンライン(2012).“ トトロ ” でアメリカンドリームを掴んだ日本人教 師 ‑ 頑張っても報われない世の中で自ら を 売 り 込 む 心 得 ,  htttp://diaomond.jp/

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参照

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