著者 秋月 望, 岩村 英之, 李 嬋娟
雑誌名 明治学院大学国際学部付属研究所研究所年報 =
Annual report of the Institute for International Studies
巻 21
ページ 77‑80
発行年 2018‑10‑01
その他のタイトル The Use of Mobile Device, Internet, and IR in Education
URL http://hdl.handle.net/10723/00003493
モバイルデバイス・インターネット・IR などを活用した教育
本プロジェクトは、国際学部で行われている現行の教育のいっそうの向上を図るため、教育方 法の新たな方向性を模索し、モバイルデバイスやインターネットを活用した教育方法の確立を目 指すものである。
2017 年度は、そうした教育方法の導入を見据えて、留学が学生のその後の学習やキャリアに 如何なる影響を与えるか、また入学時の選抜方法による学習達成度の差異の有無や相関関係など について、統計学・計量経済学の方法を用いて基礎データの収集と分析・考察を行った。
以下は岩村英之所員と李嬋娟所員による中間報告である。
(プロジェクト代表 秋月 望)
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岩 村 英 之・李 嬋 娟
本プロジェクトでは、(1)留学経験が学生の能力開発やキャリア形成にどのような影響を与え るか、そして(2)様々な入試方式がどのような学生を選抜しているのかを、統計学・計量経済 学の方法を用いて分析・考察する。以下では、最初にこのような研究が国際学部の運営にどのよ うな示唆を持ちうるかを説明する。次に、学生の留学経験や選択した入試方式とその後のパフォ ーマンスの関係を見るために在籍学生へのサーベイ調査が必要であることを説明する。最後に、
2017年に実際どのようにサーベイを行ったか報告する。
1.本研究での分析の意義―どのように活用できるか
私たちは、毎年多くの学生を留学に送り出している。背景には、留学の実績が受験生にアピー ルするといった効果もさることながら、何より留学の経験そのものが学生自身の成長を促すとい う直感がある。留学経験は、学生のどのような能力を伸ばしているだろうか。さらに、学生のそ の後のキャリアにどう影響しているだろうか。留学経験が学生の成長、そしてキャリア形成に大 きく貢献するならば、限られた学部スタッフおよび予算の配分を考える際に、本研究の結果は学 部の留学政策に重要な示唆を与えうると考えられる。また、私たちは、複数の異なる入試方法に よって受験生を選抜している。この背景には、異なるタイプの学生を入学させたいという目的が あるものと思われる。実際には、各入試方法はどのようなタイプの受験生を選抜しているだろう か。仮に入試方法ごとに選抜するタイプの学生が異なるとすれば、学部のポリシーに照らして入 試方法間の定員配分を調整することも可能となる。このように、本調査の分析結果を用いること で、入試を戦略的に利用することが可能となる。
しかし、私たちの判断は、少数の印象的な事例に強く影響される傾向がある。たとえば、かつ て自分のゼミに所属していた学生に、AO 入試(英語免除)で合格し、在学中に留学を経験し、
GPAも高く、卒業後にはNPOを立ち上げてマスコミからも注目されているような人物がいると しよう。このような華々しい経歴のゼミ生を間近に見れば、AO 入試や留学経験に肯定的な印象 を持つのはある程度自然なことと言える。しかし、この学生はAO入試合格者・留学経験者の中 のたったひとりに過ぎず、全体を代表していると考えるには無理がある。したがって、彼/彼女 の事例のみに依拠して留学の意義について判断を下したり、特定の入試方式の意義を論じたりす ることには、相当に慎重にならなければならない。
2.研究方法
上記で説明したように、私たちは特定の事例に偏ることなく、留学経験者全体・様々な入試方 式の合格者全体を見て、留学未経験者とシステマティックな違いがあるか、各入試合格者間でシ ステマティックな違いがあるかを議論する、すなわち統計学の視点から検証する必要がある。そ のために在学生を対象としてサーベイを行うことにする。ここでは、サーベイを通じて、学生の
「能力」に関する情報とパフォーマンスの良し悪しを測る要素としての「達成感」に関する情報 を獲得することが重要なのか説明する。
2. 1 学生の「能力」に関する情報の重要性
留学経験と学生のパフォーマンスの関係を議論するためには、学生のパフォーマンスに影響を 与える留学以外の要因を“コントロール”する必要がある。たとえば、留学後に GPA が改善し た学生と、留学せずに GPA に変化のなかった学生がいるとする。さらに、前者は有名な進学校 の出身で、後者は一般的な高校の出身であったとする。このとき、留学後の成績の差が留学の有 無によるものなのか、潜在的な「能力」の差によるものなのか、判然としない。仮に留学に実質 的な効果がなかったとしても、両者の潜在的な能力の差が成績の差を生み出してしまう可能性が あるためである。なお、ここでいう「能力」とは、生まれ持っての才能や、学校・家庭における 教育・訓練を通じて蓄積されるスキルを含む。
さらに、能力の高い学生ほど留学を選ぶ傾向が強いような場合には、一層厄介な問題が生じる。
すなわち、このような場合、事後的には潜在的な能力の高い学生ほど留学する者が多く、留学後 の成績改善が顕著であるという関係を見つけることになる。しかし、それは単にもともと能力の 高い人だから成長速度が大きいだけであり、留学経験が成長を特に後押ししたわけではない可能 性もある。こうした曖昧さに決着をつけるには、能力の同じような人どうしを比較する(=能力 による影響をコントロールする)ことで、能力の差による結果の差を除去し、留学経験の有無に よる純粋な影響を取り出す必要がある。
入試方式と学生のパフォーマンスの関係を分析する際にも、能力に関する情報が必要となる。
ここで注意しなければならないのは、入試方式が学生のパフォーマンスに影響を与えるのではな いということである。たとえば、同じ学生がAO入試で入学する場合には留学するが、一般入試 で入学する場合には留学をしない、というようなことは考えにくいだろう。むしろ、後に留学す るような学生が特定の入試方式を選択する傾向があると考えるべきだろう。したがって、入試方 式と学生のパフォーマンスの関係を統計的に見るのではなく、学生の「能力」と選択する入試方
式の関係を見ることが要請される。問題は、能力は目に見えないものであるため、データで測定 することは不可能であるということである。そこで、計量経済学では、個人の能力を代理する観 察可能な要素をコントロールすることで、留学経験の影響を取り出すことを試む。そうした代理 要素の例として、初等・中等教育段階の成績、親の学歴、世帯所得といったものがある。しかし、
当然ながらこのようなデータを大学は保有してない。そこで、学生に直接答えてもらうサーベイ 調査によってこれらの情報を収集する必要がある。
2. 2 パフォーマンスの良し悪しを測る要素としての「達成感」の重要性
学生の成功は必ずしも GPA のような目に見える形に現れるとは限らない。たとえば、自身の 興味・関心に基づいて、必ずしも履修した講義とは関係ない本を多く読み、多くのことを考えて 過ごした学生は、学生生活を充実したものと感じているだろう。一方で、読んだ本や思索の内容 が履修した講義に直結していなければ、彼/彼女の得たものは短期的な GPAには反映されない可 能性がある。このような学生の GPA が平凡だからといって、パフォーマンスが「良好でない」
と判断することには、多くの人が違和感を持つのではないだろう。このように、学生時代のパフ ォーマンスの良し悪しは、目に見える数値に表れない要素に影響されるため、そういった部分は 本人に聞くしかない。同じことは卒業後のキャリアについても言える。すなわち、規模の大きな 一部上場企業への正社員での就職が、必ずしもキャリアの成功を代弁しているとは言えない。中 小企業であっても、会社の規模故に自分の裁量の余地が大きいような場合には、本人は高い充実 感を得ている可能性がある。こうした本人にしかわからない情報を得るには、本人に聞くしかな い。
3.2017年度の中間報告
サーベイは、下記のように実施した。約200人の学生が参加した。
① 12月13日に教授会でサーベイの実施について説明
② 12月21日に調査票完成
③ 1月8日に調査票印刷
④ 1月10日-11日に学生が卒論を提出する際にサーベイを実施(対象:14KSと14KC)
このサーベイ調査には家庭環境や就職先のような個人情報が含まれるため、論文として公表す ることで個人が特定されるリスクが発生すると考えるかもしれない。本分析の結果は、具体的に は「特定の入試方法による合格者が、平均的に別の入試方式による合格者を GPA で上回る」と いうような形で出てくる。統計分析とは、「全体の傾向」をあぶりだすものであり、原則として 個人に言及することはない。したがって、「裕福な家庭環境で育ち、高校時に 1 年間米国に留学 し、AO入試(一芸)で入った個人が3年次秋から4年次春にかけてカリフォルニア大学へと留 学をした」というような、個人に関する記述が出てくる必然性はない。万一、個別の事例に言及 する必要が生じた場合には、個人が特定されないよう提示の仕方に細心の注意を払う。一方、あ る属性を持つ人が全体の何割を占めるかというような記述は頻繁になされ、母数が極めて少ない
属性については個人が特定されてしまう可能性もゼロではない。そのような場合には、原則とし て記述しないよう細心の注意を払う。
※本報告書は、国際学部付属研究所共同研究「モバイルデバイス・インターネット・IR などを活用し た教育」の中間報告書である。