2002年度「ボランティア論の構築にむけての国際学 的研究」報告書
著者 森本 栄二
雑誌名 明治学院大学国際学部付属研究所研究所年報 =
Annual report of the Institute for International Studies
号 6
ページ 19‑31
発行年 2003‑12
URL http://hdl.handle.net/10723/461
2002 年度「ボランティア論の構築にむけての 国際学的研究」報告書
森 本 栄 二
「ボランティア論の構築にむけての国際学的研究」では 2002 年度中に下記の公開研究会を明治学 院大学国際平和研究所と共催で実施した。
二つの研究会でのレジュメ(要約)と報告内容を以下に掲載する。なお、この共同研究プロジェク トの他の研究活動についてはプロジェクトのコーディネーター(森本栄二)に問い合わせてほしい。
まず菅原良成さんの「私とボランティア活動との関わりから」と題した報告は、障害を持っている 人とそれを支援する人との関係を考察する。
ボランティアとしてサービスを提供する側と、それを受ける側の対等性、平等性を強調する視点は、
従来のとりわけ福祉ボランティア活動にありがちないわゆる健常者が障害者を助けるという関係に一 石を投じる。レジュメの 3、「点字あゆみの会の活動原則」はボランティア活動全般のありかたを示 唆しているし、報告の結論部分の相手の立場に立つ活動はボランティアが自己満足や自己犠牲に陥る ことを大いに戒める。
この報告ではボランティアにかかわるすべての者が人権を尊重し、さらには市民としての権利を行 使できる能力を高めなければならないことを主張していると言ってよい。
次に立田亜紀子さんの「国際ボランティア貯金における日本人ボランティアの役割」と題する報告 は、いわゆる国際協力型のNGO活動に鋭いメスを入れる。
報告者自身の2年間にわたる現地駐在を通して得た視点と考察は経験が土台になっているだけに説 得力がある。また、海外協力における今後のボランティア及び NGO 活動のあり方についても極めて 示唆に富む。とりわけ、日本人ボランティアの派遣については興味深い。
日本人ボランティアは現地の人々とどのようにかかわっていけばいいのか。報告中では次の視点は 明示されてはいないものの、相手の自立に手を貸そうとするならばそれを通して自分も自立的に行動 できるようになる必要性があるというある意味でボランティアの本質的な意味合いも読みとってほし い。なお、立田さんは現在、明治学院大学国際学研究科博士課程前期に在学中。同時に、2003 年 10 月からは、国際協力機構(JICA)のジュニア専門員としてJICA本部に勤務。
「ボランティア論の構築にむけての国際学的研究」プロジェクト公開研究会 私とボランティア活動との関わりから
2002年6月25日 東京都障害者福祉会館職員
菅 原 良 成
― 講演記録(レジュメ参照)―
1. 自己紹介
1966年生まれ。2歳くらいまでは両親が治療できるのではないかと考え、方々の病院を回っていた。
のちに治らないことが分かってきて、今度はどのように教育を受けていくべきかを考えるようになっ た。東京教育大学付属盲学校の小学部に入学(中学部からは筑波大学付属盲学校と名称変更)、高等 部までの教育を受ける。
2. 点訳ボランティアとの関わりは、小学部のころからあった。私が住む練馬区に「つつじ点訳友の 会」というサークルができ、点訳依頼を呼びかけていたので、参考書をお願いしたのが最初であった。
(このころは、小・中学生の参考書の点訳書は、皆無であった)
そして、盲学校を出て一般大学への進学を考えるようになったころから、本格的な関係が始まった。
当時はまだパソコン点訳が行われておらず、タイプライターぐらいまでがせいぜいであった。手書き ということも多く、点訳というのは本当に時間と労力のかかる作業であった。しかも、訂正が効かな い、複数部作れないという、今日では考えられない非常にやっかいな状況であった。ひとつの教科書 をとってみても、授業に間に合わせるために、1 冊を分担して数人で点訳してもらう、そうすると出 来上がってくる点訳書の順番が 1 章から順に滞りなくくる、ということにはならないことも多い。1 章から勉強したいのに3章が先に届いたりということもある。それを友達と分け合って使うというよ うなことを、予備校にいっているころにはよくやっていた。勉強以上に教材の確保が難題であった。
夏期講習の始まる3日前にやっとその資料が出来上がるというようなこともあった。
大学に入学後もやはり大きな問題となったのは、授業で使う参考書・教科書の点訳が間に合わない ということであった。そこで、私が入学した 1985 年に学内に点訳サークルを作った。そのさい、モ デルとしたのが、1966年に設立されていた「点字あゆみの会」であった。
3. 「あゆみの会」の特徴は、たとえば点訳ボランティアも受け手である視覚障害者も対等な同じ会員 として同額の会費を収め、選挙権も平等であることに代表される。また、レジュメ 3-(2)にあるよう に、依頼者は点訳を頼みっぱなしにせずに必ず読み合わせに参加するようにしていた。
一般的なボランティアグループでは当事者がグループの中にいないのが普通である。(当事者は
“援助されるもの”という位置付けが固定化され、当事者の“参加”は考えられていないといえ
る。)一方あゆみの会では点訳ボランティアグループの中に当事者(視覚障害者)が常に存在してい たわけである。
4. 「あゆみの会」では、依頼者である視覚障害者が読み合わせに加わることを重視してきた。読み合 わせを行うと必ず間違いが見つかる(誤字脱字等)。多くの視覚障害者はそのような活動の中で「点 字使用者として“間違いのあるものを受け取っているだけ”でよいのか」という権利意識が目覚めて くることになった。
(レジュメ 4-(2))一般的なグループではどこまでも「依頼者」と「点訳者(ボランティア)」と いう縦軸(従属?)的な関係が維持されるという点からも、権利を取り戻すために対等な人間が共同 作業をする、という観点が抜け落ちてしまうことになる。
5. しかしもともとはボランティアは当事者の本当のニーズに応えられるべく活動する人を言うので はなかったか、という根本的な問いかけを改めてしたい。
6. (レジュメ6-(4))パソコンが本格的に点訳活動に用いられるようになると、視覚障害者の学習環
境は非常に大きく変わった。しかしながら、先ほど提起した依頼者とボランティアとの関係性は本質 的にはなんら変わっていない。「学習権」についても、保証されているとはまったくいえない。
(レジュメ6-(5))点訳は依頼だけをしてあとは趣味のサークルに打ち込む者が増えている、とい う環境は喜ぶべきものなのか、疑問が残る。(本当に健常者と障害者を対等な関係にあるものとして 考えていれば障害者も任せきりにしてよいはずはなく、健常者も“障害者理解”を実現するためには 障害者の立場に立ち、当事者を支える視点が求められる。
7. より深く“ボランティアとは何か”を考える必要があるのではないか?
(文責:大島、森本)
付 記(2003年9月10日)
発表を行った 2002年6月当時、私は他分野から視覚障害の仕事に戻ってきた直後であったことも あり、ウィンドウズが主流となった視覚障害者のパソコン事情にかなり暗かった。その後仕事を通じ て情報を集める中で、私が当時考えていた以上に激変していることがわかって少なからず驚いた。た とえば「点訳」も「朗読」ということそのものが変わってきている。これからは、私たち視覚障害者 は、既存のデータをいかにうまく利用していくかであり、そのためのサポートが必要とされるように なってきているのである。従来の、ボランティアの要請の仕方を大きく変えなければならないときが、
もうすぐやってくるはずである。
今はいろいろな場でさまざまなことが行われ始めている、混沌の時期である。大学の責務、学習権 の保証のためには、それぞれの学生の障害や適正、そしてもちろん専攻分野に適したパソコンシステ ムを学生と話し合いながら構築し、あるいは改変していく必要がある。これは、お金の問題を脇にお いても容易なことではないが、また避けてとおることもできない。どこまでが大学の責任でどこまで
が学生の責任なのかということは一律にはいえないが、視覚障害者用の機器はとにかく高額なのであ る。大学当局の方々には、是非学生の身になって、そのあたりを考えていただければと思う。もちろ ん、行政の責任もあるのだが、本論とは別のテーマになってしまうのでこれ以上は触れないが、行政 が補助を増やし続けても、結果として価格が下がらないという悪循環が続いているわけである。ただ 補助を要求するだけでは、けっして私たちのパソコンの使用環境(経済的側面)は、よくならないと 思う。そして、もちろん前述したように、パソコンだけ入れればよいということにはならない。最後 に、これは大きな問題であるが、視覚障害学生が学習のための情報収集に忙しく、一般学生とのコミ ュニケーションをとる暇がないというのでは、絶対に困る。それでは、社会人としての人間関係の基 礎ができないと思う。健常学生にとっても、障害学生と出会う機会を失うことになるわけである。セ ミナーハウスの廃止のニュースを聞くと「今の学生気質は違うのかな」とも感じるが、私の場合は学 生時代の生々しい人間関係が、大いに自己を変革させてくれた。
― 公開研究会レジュメ ―
1. 自己紹介
障害は、視覚障害(先天盲)と中程度難聴(後天性)。 常用文字は点字。
2. ボランティア活動との関わり
私とボランティア個々人、およびボランティアグループとの繋がりは、ほとんど「点字」に関係す るものである。
中学生から大学生になるまでは、点訳をお願いし、やっていただく関係だった。これまでの私の人 生で、もっとも多くの点訳依頼をしたのがこの時期である。
大学入学後、学内点訳サークルの運営にも参加することになり、私と点訳ボランティアグループと の関係性は、大きく変ることになる。現在も、中央大学点訳サークルが手本としてきた「点字あゆみ の会」の一員である。
3. 点字あゆみの会の活動原則
(1) 点訳ボランティアも、その「受け手」となる視覚障害者も、同じ会員である。会員としての取り 扱いは、全く平等。同額の会費、役員の選挙権など。
(2) 点訳を依頼した場合は頼みっぱなしにせずに、必ず「読み合わせ」に参加すること。援助を受け ることは大いに結構であるが、情報を得ることは、当事者(点字使用者)自身の選択であり、ま た責務でもあるというのが、原則である。従って、会としては「視覚障害者の方のために、点訳 をしてさしあげている」といった言い方は絶対にしない。もちろん、点訳者会員個々人の意識は 自由であるが。
(3) 視覚障害者会員が例会に常時参加することにより、障害者理解といった堅苦しいことではなく、
人間同士の交流を活発化させている。ことに、点訳は自宅で一人で出来る部分が大半であるため、
例えば手話と比較すると依頼者との関わりは圧倒的に少ない。点字の技術がいかに優れていても、
障害者と一緒に歩いたことがないというようなボランティアは作りたくないというのが、あゆみ の会の考え方である。
4. 一般的な点訳ボランティアグループの「受け手」の位置付け
(1) 依頼者は、ボランティアグループの構成員ではない。あるいは「利用者」として、登録されてい る。従って、会費の有無や額については別の扱いを受ける。
(2) 個人的なお付き合いをするようになったとしても、どこまでも「依頼者」あるいは「点字につい ての講師」という関係が継続される。
5. しかし、もともとボランティアは、当事者の切実な「叫び」に答えて、自発的に、援助を行う存 在であったはずだ。
6. 東京圏の盲大学生と、点訳ボランティアグループとの関わりについて
(1) 点字あゆみの会は、盲大学生の教材の確保を最大の目的として、1966年に結成された。
(2) 当時の盲大学生の学習環境は、今日では想像すら出来ないほど、劣悪なものであったようだ。大 学の教科書を点訳していただけるボランティアは、限られていた。そのため、授業が始まっても 準備が間に合わず、学生自らが進度と並行して、必要なところを読んでもらって点字にしていく のが、普通であったという。
(3) 「点訳グループ東京連絡会」の資料によると、2001年4月現在、都内だけでも50以上の点訳グ ループが、リストアップされている。
図書館や社会福祉協議会等の公的機関専属のグループが多いが、プライベートに学生からの依頼 を快く引き受けて下さるところも、数多く誕生した。
(4) さらに、1980 年代後半になると、パソコンが本格的に点訳活動に用いられるようになり、学習 環境は大変良くなったのである。
(5) 以前は盲大学生として勉学をしていくためには、支援者とともに学内外にサークルを作り、点訳 者を養成していくことが絶対に必要であった。
今日では、学内に点訳サークルがあってもその活動には全く関わらず、単に依頼のみをして、一 般学生と同じように、趣味のサークルに打ち込む者が増えていると聞く。はたして、喜ぶべきこ とか?
(6) ボランティア活動が盛んになっていく一方、当事者との接点が希薄となってしまった。これが、
学内サークルを含め、東京圏の盲大学生と点訳グループとの関りの歴史である。この現実を、ど うみるか?
7. 問題提起
今一度、ボランティアとはなにか? 当事者主体のボランティア活動を継続していくためには、ど うすればよいであろうか?
「ボランティア論の構築にむけての国際学的研究」プロジェクト公開研究会
国際ボランティア貯金における日本人ボランティアの役割
~NGO「緑のサヘル」のプロジェクトを通して考える~
2002年12月10日 NGO「緑のサヘル」チャド共和国元駐在員
立田 亜紀子
1. 問題提起
総務省郵政事業局の国際ボランティア貯金(以下「ボラ貯金」)は、制度成立(1990 年)以来、ア ジア・アフリカ・南米等の発展途上国で活躍する日本 NGO の活動を広く支えてきた。私が植林活動 に従事した環境NGO「緑のサヘル(Action for Greening Sahel)」も、チャド共和国バイリ村プロジェ クトに対し、九年間に亙り助成金を受けている。
しかし私は現場経験の中で、ボラ貯金側の援助理念が現地住民に受け入れられ、彼等の生活環境向 上への取り組みにどこまで協力できているのかを疑問視し続けていた。なぜなら協力する我々が、相 手地域を正しく理解せず、熱意と善意だけで事業に望めば、地域住民の自立を阻害してしまう危険性 すらあると考えるからである。そこで本発題は、ボラ貯金制度における日本人ボランティアの役割を 再考察し、現地にとっていかなるボランティアが受け入れられ、それを私達がどのようにして実践で きるのかを考えてみることである。
2.“強制される”日本人技術者派遣
ボラ貯金について私が問題視しているのは、日本人技術者を現地へ派遣し、住民への直接的な指導 を原則としている点である。NGO 側が地域ニーズに即した事業内容で助成金を申請しても、助成対 象事業を決定する際のポイントとして、日本からの専門家や指導員を派遣することにかなり重きを置 いているように感じる。確かに医療や保健衛生など、分野によっては、現地からの技術移転要請が高 いこともあるし、日本人が途上国に赴くことは、異文化理解の側面からもメリットはあると思われる。
反面、我々先進国側の技術が現地にとって常に最適であるかは判断が難しい中で、日本人派遣を最 優先に考えるのは、まるで我々が活動できる場を途上国に作りだそうとする“逆の発想”ではないか。
今、ボランティアに求められる役割は、日本人ではなく、現地の人々が知恵を出し合いながら活動で きる環境を整え、それを後押しする立場に立つことであると考える。
私がこう考える背景には、第一に日本人派遣にまつわる膨大な資金の問題がある。我々のチャド共 和国でのプロジェクトにおける日本人派遣費を一例として検証すると、総事業費の約7割が日本人派 遣にまつわる必要経費である。我々は砂漠化防止を掲げ、植林事業を中心とした小規模農村開発に従 事しているものの、育苗ポットやスコップ等の資機材費や改良カマドの材料費・作成費、農民組合支 援のための研修関係費などは、実際にはさほど費用のかからないことが多い。
だが一方で、日本人が現地に駐在すれば、渡航費や住居賃貸料は勿論、車両維持費や通信費など多
額な費用を要することになる。日本国内のボラ貯金制度加入者(貯金者)としては、できるだけ直接、
現場の事業へ資金が使われていることを望み、意を同じくする NGO 側も少しでも配分金が現場で活 かされるよう努めている。加えて現地住民も決して現行に満足している訳ではなく、資金の目処がつ けばやりたい活動は山ほどあるのである。例えば、バイリ村住民からは井戸掘削やマイクロ・クレジ ットの要請は常に根強かったものの、私達は財政難を理由に断り続けた。しかし日本人が農村巡回に 用いる車両維持へ破格な経費を費やすという矛盾は大きかったと言えよう。
今一つの問題としては、日本社会における昨今の“ボランティア熱”や“NGO ブーム”によって、
我々のもつ国際協力への情熱が高まるばかりに、現地住民のニーズを見極め、我々に何ができるのか を考える冷静さが見失われている点である。よく考えれば、活動地域は生活環境から文化的習慣まで あらゆる面で我々とは異なり、日本の知識や技術は常に適正とはいいがたい。それどころか、技術移 転のみに意気込めば、土着の技術を等閑視し、住民の自立心を損なう危険性すらあると思われる。地 域には伝統的農法や食習慣があったり、或いは建設関係では建設法規が定められているので、わざわ ざ日本から多額の費用をかけて出向いても期待に応えられないケースが多いのである。
人材に関しても、現地住民が欲する技術を有する専門家は現地に存在するし、その習得のための研 修機関やトレーニング制度は五万とある。本来ならば現地技術者を雇用したり、対象住民の技術習得 を支援することこそが、地域住民の自立を促す人材育成になり得るはずであるが、ボラ貯金は日本人 からの直接的指導にこだわるために、現地で出版されている専門書籍の購入すら認めていないほどで ある。
3. NGO国内活動の充実に向けて
このように日本人派遣による対象住民への直接指導を重視するのであれば、それに値する優秀な日 本人スタッフの育成にも力をそそぐべきであろう。ボラ貯金に限らず、日本のドナー全般にいえる傾 向だが、途上国での活動を重要視するあまりに、事務管理費とされる国内活動経費への助成にあまり にも消極的である。事務管理費の二本柱となるのは、国内事務所経費(賃貸料と光熱費)と国内勤務 スタッフの給与であるが、NPO法人・NGO活動推進センター(JANIC)が1994年に実施した調査に よると(対象NGO247団体)、事務管理費がプロジェクトの全体支出に占める割合はわずか平均18%
足らずである。それゆえ国内勤務スタッフは小さな事務所で無償労働したり、資金源としてフリーマ ーケットに精を出すような脆弱な業務体制を強いられている。
これが日本社会において NGO 活動への関心は高まるものの、そこへ正しい理解が伴っていない実 態の一例であろう。それでも彼等が一度現場へ趣くと、指導者としての任務と責任の全てを負うこと になり、大半の者は経験・実力不足に苦しむこととなる。事務管理費への手当てが低い現状で、優秀 な人材確保と育成は不可能ではないか。それでもドナー側が日本人派遣に固執するのであれば、
NGO 活動への積極的参加を望む若手を中心とした日本人スタッフの人材育成にも力をいれるべきだ と考える。
4. まとめ
最後になるが、私は決して国際協力の場において、途上国へ日本人が赴くことを否定しているので
はない。私自身、適切なトレーニングも受けず、必要言語はおろか、相手国の予備知識も乏しい中で チャド共和国に駐在した。生活や仕事を通じての“体当たり”の異文化理解は失敗も多く、仕事相手 のチャド人にも多大な迷惑をかけた。だが、この経験があってこそ、通説の援助理論を批判的に考え、
自分にできる協力のあり方を考えていこうと意欲が沸いたことは確かである。だから国際協力の仕事 を目指す若者にとって、現場での経験が一番という意見も十分理解できる。
しかしながら、それをボランティア貯金という制度を用いて行うべきかというのは、加入者のご厚 意も鑑みた上で、また別の議論が必要であるように思うのである。今後、日本社会において国際協力 型の NGO 活動が定着・成長し、現地住民の望むボランティア活動を実践していくためには、その担 い手となり得る若い世代に、多くの国際交流・異文化体験の場を提供しなければならないと、私は考 える。例えば、途上国留学制度などを設置したり、NGO「ピース・ボート(Peaceboat)」が実施する ような国際交流の船旅やワークキャンプ活動のための助成金なども提唱できる。ボランティアの第一 歩が、相手を理解し、かつ自分をも理解した上で、両者でできることを考えていこうとする姿勢を持 つことは、ボラ貯金に携わる者の間でも了解されていることであろう。ただ現行のボラ貯金における 理念や制度を見直さなければ、その初歩的な認識がなかなか見えてこないという問題を、本発題を通 じ国際協力の現場からの声として、私は提起したかったのである。
― 公開研究会レジュメ ―
1. NGO「緑のサヘル」とチャド共和国バイリ村プロジェクト〈資料①参照〉
2. 日本人ボランティア派遣のメリット
(1) 技術移転
・国際ボランティア貯金が認める主な事業;
農民への稲作・野菜栽培の農業指導、植林技術指導、農民組合の運営指導、女性への裁縫・手 工芸等の職業訓練、母子保健指導、識字教育、小学校建設と教師や保母に対する教育指導など
…今やアフリカは他のいかなる大陸よりも一人当たりのアドヴァイスを多く受けている地域。
(1992 国連「人間開発報告」)→「一体いつから私達はアフリカ人の医師や教師や親になった のか?」(勝俣p.190)
(2) 国際交流・異文化理解
・国内活動の重要性;
帰国報告会、国際協力イベント参加、小・中学校への講演(修学旅行生の受け入れ)、全国サ イクルキャンペーン、研究者や日本政府との協力、他。
3. 日本人ボランティア派遣のデメリット
(1) 日本人が行くだけで発生する高いコスト〈資料②参照〉
・“日本人による住民への直接的な技術指導”とは?;
N G O 側:ローカルスタッフの現地研修会(IT関連)参加や共同実験参加、書籍購入は認 めるべき。
ボラ貯金側:あくまでも日本人からの直接指導を重視⇒給与を含め日本事務所経費を認めない 現状で、優秀な人材確保(特に若手)は無理。日本の NGO 強化には国内での日 本人スタッフ育成にも力を入れるべき。
(2) 地域住民の“自立”への障害
・トップダウン型からボトムアップ型へのプロジェクト推移〈資料①参照〉;
⇒明確なprogrammingと適切なevaluationの必要性。ex.「緑のサヘル」と「西アフリカ農村自
立協力会」
4. “強制される”日本人派遣;活動資金提供者(ドナー)との関係
・国際ボランティア貯金の援助事業範囲における三大原則;
①「草の根の事業」、②「顔の見える事業」、③「地域の住民の自立を支援する事業」問題は、② 日本人派遣。特に、③と矛盾するか?【参考意見A&B】
・事業継続 5 年が限界で、人件費と運営費を丸抱えのプロジェクトはエンドレスになり、『自立』
への障害か?反面、植林などは、長期に継続して成果が現れるもの。
5. 美化されすぎる日本のNGO活動と実際の現地貢献;真のNGO活動理解のために (1) 「無償奉仕(ボランティア)」では済まされない国際協力の厳しい現場
・現地での健康・安全を含め、活動へ参加する際の自己責任(家族の理解から人生設計まで)
・現地でのプロジェクト・リーダーとしての責任(ローカルスタッフ、対象農民、相手政府、国際 機関との協力関係)
⇒自発的意思や熱意は大切だが、アマチュアリズムからの脱却は必要。
cf. 欧米NGOとの比較における日本NGOの良いところ
・量より質重視のプロジェクト(資金難が功を奏する?)
・日本人とローカルスタッフとの友好・信頼関係(訴訟問題ゼロの緑のサヘル)
(2) 助成金制度の増加で事業自体は拡大したものの、依然として対象外とされる“事務管理費”の改善。
⇒NGO 活動推進センターの実態調査(1994(247 団体対象))では、全体支出に占める“事務管 理費”は18%。【参考意見C】
(3) 一般会費や寄付金における現場活動重視の傾向。(私達の国際協力に対する誤った見方か?)
(4) 日本NGO成長のためには、国際協力に携わる全ての人々のプロ意識化。
⇒適切な評価活動(特に途上国への行き来が多い研究者を中心とした、第三者からの評価)
【参考文献】
―NGO活動推進センター編集,『NGO data book:数字で見る日本のNGO』,NGO活動推進センター, 1994.11
―勝俣誠,『アフリカは本当に貧しいのか~西アフリカで考えたこと~』,朝日新聞社, 1993
―吉田幹正編集,『NGOの現状:国際協力活動の現状と課題』,アジア経済研究所, 1997.8
―吉田鈴香,『NGOが世界を拓く』,亜紀書房, 1995.11
資料① バイリ(Ba-illi)村プロジェクト年表と各スタッフ役割 バイリ(Ba-illi)村 プロジェクト 年①スタッフ役割ブロジェクト 年表 日本人チャド人 幹部チャド人 ワーカー総合的 ブロジェクト推移部門別 ブロジェクト内容 林 業農 業適正技術1992 ワーカー(14) ・育苗センター開設と苗木配布 (無料)開始・試験農場建設 (事務所建設)・改良カマド試作 1993 1994
トップダウン期 ・苗木配布 ・小規模育苗所開始 ・植林区開始
・野菜・果樹栽培 ・緊急食糧援助・改良カマド講習会 ・淡水魚養殖開始 1995 転換期
・苗木配布規模縮小 ・小規模育苗所 ・植林区の住民への移譲 ・アラビアゴム栽培視察(北部)
・野菜・果樹栽培 ・大豆デモストレーシ ョン ・稲作共同実験
・改良カマド技術者研修 ・グルニエ(穀物備蓄庫) 建設 ・井戸掘削(1996) ・水管理講習会 ・女性組合支援(石鹸作 り)
1996 1997
ワーカー(9) ボトムアップ期
・植林区管理委員会② ・苗木配布終了 ・小規模育苗所 ・小学校植林支援 ・アラビアゴム栽培講習
・果樹栽培農家支援 ・野菜栽培終了・改良カマド普及 ・簡易冠水(イリガスク) 開発と導入 1998
林 業 技 術 者農 業 技 術 者
適 正 技 術 者 第3期への移行期・過去の全活動評価と今後のplannning ・砂漠化防止National Forum開催 1999 2000 2001
農業技術者(~ 97前半)
適正技術者(~ 96前半)
チャド人 2名体制③普及員(2) 第3期 (AGSⅢ)
3ヵ年計画テーマ:「環境とうまく付き合う」 ・林・農・適正技術の統合:Agroforestoryを中心とした総合的な農村開発 ・住民組織自らの計画立案 ・視覚教材(スライドプロジェクター)による講習会 ・小規模金融(マイクロ・クレジット)開始(住民側ニーズの変化) ・環境教育など若い層へのプローチetc. 【注意】 ① 1991年は日本人2名によるプロジェクト形成調査。 ② 植林管理組合は、合同育苗所・穀物庫・共同畑・種子貸付などを共同で実施する連合組合。 ③ 首都調整事務所(本部)には、1992年より日本人調整員とチャド人アドミニストレーター勤務。(94年からは調整員補佐(主に会計)配置により日本人2名 体制。) 更に1999年以降は、林業技術者がプロジェクト責任者へ昇格し、本部においてはチャド人スタッフも2名体制に。
資料②-1:プロジェクト総支出に占める日本人派遣費の割合
プロジェクト経費項目 費用(円) 割合 派遣費割合
農場運営費 365,000 2.4%
住民支援費 15,000 0.1%
改良カマド試作普及費 100,000 0.7%
研修普及費 75,000 0.5%
人材育成費 417,000 2.8%
ローカルスタッフ人件費(16人×12ヶ月) 3,348,000 22.4% 臨時労働者人件費 300,000 2.0%
30.9%
車輌維持費 1,497,000 10.0%
日本人スタッフ航空運賃 1,720,000 11.5%
日本人スタッフ日当・滞在費
(1人×10ヶ月/1人×4ヶ月) 2,727,000 18.3%
現地事務所賃借料(12ヶ月) 744,000 5.0%
現地事務所諸経費(12ヶ月) 804,000 5.4%
通信費(12ヶ月) 660,000 4.4%
54.6%
東京事務所 チャド担当者給与 2,160,000 14.5% 14.5%
合 計 14,932,000 100% 100%
(緑のサヘル 1999年度郵政省国際ボランティア貯金申請書より)
資料②-2
~国際ボランティア貯金に関するアンケート調査より
郵政省国際ボランティア貯金推進室1999年8月実施~
参考意見抜粋
A. 配分決定のポイントとして、日本からの専門家や指導員を派遣することにかなり重きをおいてい るように感じる。援助する地域によって様々に事情が異なる。例えば、「医療・衛生」「保育・教 育」分野等では、専門家派遣も必要な場合が多々あるが、農業指導や施設建設等では、必ずしも そうではない。建設関係等ではその国々によって建設法規等が定められており、それに相当する 技術者も現地に存在するので、わざわざ日本から多額の費用をかけての専門家派遣はおかしい。
現地からの要請があれば別だが、その分の費用を直接事業に提供すればいいのではないか。
B. 国際ボランティア貯金の配分金は、途上国の自立を目指すもの。常識的に考えれば、その援助事 業は地域の自立が進むほど、規模も縮小されるべきであり、(日本人派遣を含み)高額な配分金 を長年に亙り受理し続けるのは、おかしいのではないか。
C. 知名度があり、規模の大きな団体は、会員も多く会費も集まり、寄付金も集まり安いので、資金 も多い。その点、小さな団体は、寄付金の他はフリーマーケットで細々と資金を作り出している
のが現状。それゆえ、スタッフは全員無償で活動し、事務所経費も極力押さえるようにし、資金 の多くを現場事業に充当するようにしている。
※本報告書は国際学部付属研究所共同研究「ボランティア論の構築にむけての国際学的研究」の中間 報告書である。