愛知学院大学学長 2018.1.24 佐藤悦成 殿
博士学位請求論文審査報告書
氏名 長谷部亜子(愛知学院大学大学院研究員)
学位種類 博士(文学)[甲]
論文題目 日本語空間名詞の研究
1.本論文の内容
(1)本論文の目的と背景
本論文は現代日本語の相対的空間名詞といわれる語類の、適正な意味的・統語的記述を 目的としたものである。近年の認知言語学の隆盛に伴い、ここで扱われる語類の多義に関 する記述は、比較的盛んに行われている。そこでは比喩を動機付けとした意味派生につい て記述は割かれるものの、多く解釈論的な意味記述に留まり、各義が顕現する際の統語的 条件に意を払わないもの、あるいは記述は行っても不十分なものが少なからず見られる。
一方、ここで扱われる語類の、形式名詞としての用法や複合助辞化したものについての 統語的分析の蓄積もあるが、なぜそのような意味用法を獲得したかについて、意味論的な 動機付けが乏しい記述も少なからず見られる。
本論文はこの両者の欠点を補い、それぞれの研究の良い面を継承し、数万に及ぶ実例デ ータを丹念に読み込み、適正な意味的・統語的な記述を試みている。
(2) 本 論 の構 成 と内 容
本 論 文 は、 序 章 およ び 第 Ⅰ 章~ 第 Ⅵ章 、 終 章 の全 8 章 か ら構 成 さ れ る。 参 考 文献 一覧 を 含 め、A4版 で 約 100頁 か ら 成 る。 各 章 の内 容 は 以 下で あ る 。
【序 章 】
序章 で は 、 上下 に 関 わ る和 語 空 間 名詞 と し て モト 、 ス エ 、シ タ 、 ウ エを 取 りあ げ る 理由 を 述 べ た後 、 ウ エ の関 連 表 現 とし て 接 続 詞コ ノ ウ エ とソ ノ ウ エ を、 モ トの 類 義 表現 と し て ナカ を 、 考 察対 象 と す る理 由 を 述 べる 。 モ ト 、ス エ と い った 上 下空 間 名 詞を 取 り あ げる 理 由 と して 、 そ れ ぞれ の 語 が 上代 か ら す でに 使 用 さ れ、 各 語は 歴 史 的に 様 々 な 比喩 的 意 味 を派 生 さ せ て現 代 に 至 って お り 、 その 多 義 構 造を 明 らか に す るこ と は 意 味論 的 に 有 意義 で あ る から と す る 。続 い て 、 本論 文 を 通 じ、 ど のよ う な 観点 か ら 分 析を 行 う か につ い て 述 べて い る 。 各章 に お け る分 析 は す べて 実 例に 基 づ いて い る 。 用例 の 収 集 方法 は 各 章 によ っ て 異 なる が 、 分 析は 、 意 味 的、 統 語的 観 点 から バ ラ ン ス良 く 行 い 、必 要 に 応 じて 認 知 言 語学 的 な 観 点を 取 り 入 れて い るこ と が述 べ ら れる 。
【Ⅰ 章 モト の 多 義】
第Ⅰ 章 で は 、モ ト の 多 義を 扱 っ て いる 。 モ ト は空 間 的 意 味と 時 間 的 意味 が ある こ と が知 ら れ て いる 。 し か し、 モ ト の 多義 全 体 を 見渡 す と 、 空間 的 意 味 なの か 時間 的
意 味な の か 説 明で き な い もの が あ る 。本 論 文 で は、 モ ト の すべ て の 意 味を 統 一的 に 説 明 す る た め 、「 プ ロ セ ス 性 の 有 無 」 と い う 観 点 を 取 り 入 れ て い る 。 モ ト の 意 味 に 関 与す る 「 プ ロセ ス 性 」 とは 、 実 際 のプ ロ セ ス とは 逆 方 向 の、 時 間 的 にプ ロ セス を 遡 ると い う 意 味で 用 い ら れる 。 時 間 的に 遡 る プ ロセ ス を 含 意す る か し ない か で、 前 者を プ ロ セス 用 法、後 者 を非 プ ロ セス 用 法 と 捉え な お し、こ れに よ っ て多 義 を 分類 、 整 理し て い る 。こ れ に よ り、 空 間 的 、時 間 的 と いっ た 説 明 では 統 一 的 に記 述 でき な い意 味 用 法も 説 明 して い る 。
【Ⅱ 章 スエ の 多 義】
第Ⅱ 章 で は 、現 代 語 ス エの 多 義 構 造を 、 上 代 の意 味 を ベ ース に 据 え 、明 ら かに し て いる 。 第 Ⅰ 章で 、 ス エ の対 義 語 モ トの 意 味 分 析の 際 に 「 プロ セ ス 性 」を 含 意す る か どう か を 問 題に し た が 、ス エ の 分 析に お い て もこ の 観 点 を取 り 入 れ てい る 。ス エ は 、ど の 意 味 にお い て も 対象 と な る ある 事 物 や 事象 の < 最 後> の 部 分 を指 す が、 上 代 にお い て は 空間 的 最 後 (物 理 的 最 後) で あ る か、 時 間 的 最後 で あ る のか 、 とい っ た 観 点 か ら の み で 分 類 で き る 。 し か し 、 現 代 語 で は 、 計 11 種 の 意 味 が 確 認 さ れ 、 空間 、時 間 とい う 用 語の み で は説 明 で きな い 。< 物理 的 最 後> の 下 位類 と し て3種、
< 時 間 的 最 後 > の 下 位 類 に 3 種 、 そ し て 上 代 に は な い < 概 念 的 最 後 > に 分 類 さ れ る意 味 も 5種 あ る 。 この う ち のほ と ん ど は時 間 の 経過 に 沿 った 「 プ ロ セス 性 」 を有 して い る 点で 共 通 して い る。モ トが 上 下 の概 念 を 生か し 意 味を 発 達 さ せた の に 対し 、 ス エは 意 味 の 成立 に 際 し 上下 の 概 念 が関 与 し な かっ た よ う であ る 。 一 方で 、 プロ セ ス 性( モ ト の プロ セ ス 性 は時 間 を 遡 るプ ロ セ ス であ り 、 ス エの プ ロ セ ス性 は 時間 に 即 した プ ロ セ スで あ る ) とい う 点 か らは 、 ス エ もモ ト も プ ロセ ス 性 を 活か し た多 義 が認 め ら れ、 そ れ ぞれ に 独 自 の用 法 を展 開 し て いる こ と を明 ら か に して い る。
【Ⅲ 章 シタ の 多 義】
第Ⅲ 章 で は 、モ ト と 類 義関 係 に あ るシ タ の 多 義の 分 析 を 行っ て い る 。シ タ とモ ト は 、 と も に 「 下 」 と 表 記 し 得 る 点 で 共 通 す る 。 シ タ は 、4 語 の な か で も 多 義 的 区 別 の 少な い 語 で ある こ と か ら、 本 論 で は、 シ タ の 意味 分 析 も 行う が 、 そ の分 析 の成 果 が「X の 下 」と い う 場合 の 「 下」 の 読 み 分け に ど のよ う に 現れ る か と いう 点 に 絞っ て分 析 を 進め て い る。こ のた め 、本章 は シタ と モ ト の類 義 語 分析 で あ ると も 言 える 。
「X の 下 」 と い う 場 合 、 前 接 名 詞 X の 種 類 に よ っ て 読 み が 決 定 さ れ る 。 一 般 的 に は 具体 的 事 物 につ い て は シタ と 読 み 、抽 象 的 な 事象 に 対 し ては モ ト と 読む 。 この 前 接句 の 特 徴は 、第 Ⅰ 章 のモ ト の 分析 結 果 にも 対 応 す る。ただ し 、「Xの 下」の「X」
が 「 人 」 や 「 木 」、「 天 体 」 と い っ た 具 体 物 の 場 合 に 、 ど ち ら の 読 み も あ り 得 、 そ の 場合 も 後 続 文脈 と の 関 係性 に よ っ て解 釈 が 異 なり 、 読 み が決 ま る 。 この 両 語の 読 み わけ に 関 し ては 、 文 体 的な 違 い も 考慮 す る 必 要が あ る 。 シタ は 、 第 Ⅳ章 で とり あ げ るウ エ の 対 義語 で も あ る。 ウ エ が 形式 名 詞 や 複合 辞 と い った 抽 象 的 な機 能 を表 す 用 法を 複 数 持 って い る の に対 し 、 シ タに は 、 そ うし た 抽 象 的な 用 法 が ない 。 基準 よ り 物理 的 に 低 い位 置 を 指 した り 、 表 面に 対 し 裏 側の 部 分 を 指し た り ヒ エラ ル キー 中
【Ⅳ 章 ウエ の 多 義】
第Ⅳ 章 で は 、ウ エ の 多 義を 、 意 味 的側 面 と 統 語的 側 面 の 両面 か ら 考 察す る こと に よ り、 統 合 的 に説 明 し て いる 。 ウ エ の意 味 と し て、 上 下 の 概念 が 意 味 に反 映 され て い ると 一 般 的 には 考 え ら れて い る 。 しか し 、 ウ エは 多 義 化 する 際 、 上 下の 概 念が 関 与 する だ け で なく 、 表 面 性と い う 特 徴が 関 与 す るこ と が あ る。 ウ エ は 、物 理 的・ 空 間 的な 意 味 で 日常 的 に 用 いら れ る が 、一 方 で 、 表面 性 や 、 対象 物 と の 概念 的 位置 関 係 とい っ た 特 徴が 、 形 式 名詞 や 複 合 辞と い っ た 意味 に 展 開 した と 考 え られ る 。こ の 抽 象的 な 意 味 も、 特 殊 な 用法 で は な く、 よ く 使 用さ れ る も ので あ る 。 そし て 、本 論 文で は こ の抽 象 的 な用 法 に お いて も、す べて 物 理 的空 間 に おけ る ウ エ のイ メ ー ジが 、 抽 象的 な 概 念 空間 に あ て はめ ら れ た 結果 で あ る と主 張 し て いる 。 本 論 文で は 、意 味 的 区別 を 、 統 語的 側 面 ら も補 強 、 整 理す る が 、 その 結 果 、 意味 的 な 抽 象度 の 違い が 統 語的 な 制 約 の強 弱 と 関 わっ て い る こと も 示 し てい る 。 空 間名 詞 と し ての イ メー ジ を 形式 名 詞 や 複合 辞 の 意 味に ま で 応 用し 、 そ こ に統 語 的 な 整理 を 加 え たこ と で、 よ り統 合 的 な意 味 分 析が 可 能 に なっ て いる 。
【Ⅴ 章 接続 詞 コ ノウ エ と ソ ノウ エ 】
第Ⅴ 章 で は 、第 Ⅳ 章 ウ エの 多 義 の ひと つ < 累 加用 法 > に 含ま れ る 接 続詞 形 式コ ノ ウ エと ソ ノ ウ エの 使 い 分 けの 議 論 を 行っ て い る 。第 Ⅳ 章 ま では 名 詞 を 対象 に して い た が、 こ こ で は接 続 詞 が 考察 対 象 に なる 。 そ の ため 、 接 続 詞の 前 後 に 表わ さ れる 事 態 (前 件 事 態 と後 件 事 態 )に 注 目 す る。 名 詞 単 独の < 累 加 用法 > ウ エ の分 析 では 前 件 、後 件 の 事 態の 捉 え 方 にお い て 、 話者 の 視 点 とい う も の に注 目 し な かっ た 。し か し 、接 続 詞 コ ノウ エ と ソ ノウ エ の 使 い分 け に は 話者 の 視 点 から 見 た 現 在が ど こに 置 か れる か と い う問 題 が 関 わる 。 ま た 、そ の 置 か れ方 に よ っ て各 事 態 が 既に 成 立し た 事 態な の か 、 まだ 成 立 し てい な い 事 態な の か が 決定 さ れ る こと を 示 す 。コ ノ ウエ の 場 合は 、 話 者 の現 在 は 、 前件 と 後 件 に挟 ま れ る 形で 出 現 す る。 こ の こ とを 、 第Ⅴ 章 で 前件 が 既 然 事態 、 後 件 が未 然 事 態 と把 握 さ れ ると い う 根 拠を も っ て 説明 す る。 さ ら に、 ソ ノ ウ エの 場 合 は 、前 後 件 が 未然 事 態 同 士か 、 あ る いは 前 後 件 が既 然 事態 同 士の 場 合 に選 択 さ れる こ と を 指摘 す る。
【Ⅵ 章 類義 表 現 モト と ナ カ 】
第 Ⅵ 章 で は 、 モ ト が 副 詞 的 用 法 と な る 際 に 、 ナ カ と 類 義 語 に な る (「 厳 し い 状 況 の モト デ み ん なが ん ば っ た」 と 「 厳 しい 状 況 の ナカ デ み ん なが ん ば っ た」 の よう に 類 義関 係 に な る) こ と に 着目 し 、 両 語の 意 味 的 な違 い や 表 現効 果 の 違 いに 関 する 分 析を 行 う。両語 は、こ の よ う に同 じ 文 脈で 用 い られ る 場 合も あ る が、統 語 的 にみ て 、 顕 著な 好 み の 差が 見 ら れ る。 モ ト は 前接 句 に 動 詞句 や 形 容 詞句 を と る こと を 嫌う 傾 向 があ る 。 ま た、 こ の 用 法の 際 に 、 後接 形 式 も 、無 助 詞 か 格助 詞 ニ 、 デし か 許容 し な いこ と か ら 、モ ト は 名 詞性 よ り も 副詞 性 を 帯 びて い る と 考え ら れ る 。一 方 、ナ カ は 、前 接 形 式 、後 接 形 式 とも に 比 較 的自 由 に 語 を選 択 す る こと が で き るた め 、名 詞 性が 強 い ので あ る 。
【終 章 】
終 章 で は第 Ⅰ 章 から 第 Ⅳ 章 で考 察 した 、モ ト 、ス エ、シ タ、ウ エの 多 義 につ い て 、 ど のよ う な 特 徴が 各 語 の 多義 同 士 の あい だ で 関 連し 、 新 た な意 味 へ と 展開 し てい る の か 、 包 括 的 に 考 え て い る 。 ま た 、 第 Ⅴ 章 で 考 察 し た 接 続 詞 コ ノ ウ エ と ソ ノ ウ エ に つい て は そ の分 析 結 果 の応 用 例 と して 、 直 近 の研 究 成 果 につ い て も 触れ て いる 。 第 Ⅰ章 か ら 第 Ⅳ章 で と り あげ た 4 語 につ い て 、 各語 は 、 あ る意 味 に お いて は 類義 語 で あり 、 あ る 意味 に お い ては 対 義 語 にな る と い う関 係 が あ る。 終 章 に おけ る 考察 の 際 の観 点 の ひ とつ め は 、 上下 の 概 念 (空 間 的 な 意味 に お け る上 下 と い う概 念 が、 さ ま ざま な 認 知 領域 に 写 像 され る こ と はそ れ ま で の議 論 で 述 べて い る ) が意 味 の背 景 に 認め ら れ る かど う か で ある 。 ふ た つめ は 、 プ ロセ ス 性 の 関与 で あ る 。プ ロ セス 性 に つい て も 、 それ ま で の 考察 で 主 張 した も の で ある が 、 こ れは モ ト や スエ の 多義 の 展 開に 大 き く 関わ る 。 さ らに 、 こ の プロ セ ス 性 が、 ウ エ の 複合 辞 と し ての 用 法に も 適 用 さ れ る こ と を あ ら た に 指 摘 す る な ど 、4 語 の 意 味 特 性 を 表 の 形 で 示 す 。 み っ つ め の観 点 に は 表現 性 を 挙 げ、 よ っ つ めの 観 点 に 、時 間 そ の もの を 指 す 用法 か どう か と いう 点 を 挙 げる 。 こ の よう な 観 点 を設 け る こ とで 、 ど う いっ た 意 味 特性 で 各意 味 同 士が 関 連 し 類似 し た 意 味に な る の か、 ま た は 対義 的 な 位 置に 置 か れ るの か を示 し てい る 。
本論 文 末 尾 に、 本 論 文 を構 成 す る 、申 請 者 の 既発 表 論 文 の一 覧 を 載 せて い る。 再 掲す れ ば 以下 で あ る。
Ⅰ章 モトの意味分析
「多義語モトの意味分析」(2010)『表現研究』92号
Ⅱ章 スエの意味分析 書き下ろし
Ⅲ章 シタの意味分析 書き下ろし
Ⅳ章 ウエの意味分析
「多義語ウエの意味の分析」(2013)『日本認知言語学会論文集』13号
Ⅴ章 接続詞コノウエとソノウエ
「接続詞コノウエ/ソノウエの選択要因とその優先順」(2014)『日本語文法』14巻1 号
Ⅵ章 類義表現モトとナカ
「モトとナカ -副詞的用法をめぐって-」(2011)『表現研究』94号 終章
書き下ろし
2.審査報告
(1)本論文の評価
既に1-(1)「本論文の目的と背景」で述べたが、本論文は認知意味論的な記述と統 語的な記述、双方の特長を活かし、対象となる語類について、適正な意味的・統語的記述 を行おうとしている。その際、実例に基づく数万のデータを扱い、一つ一つの例を丹念に 検討することで、所期の目的を高いレベルで達成することに成功していると評価される。
内容について、多少の修正を施せば、そのまま研究書として刊行して遜色ないレベルのも のであり、審査員全員、高い評価を下すものである。
ただし上に述べた「多少の修正」が必要な箇所はあり、それについて、口述試験時に出 されたコメントを基に、以下、大きく4点にまとめて指摘をする。
①章と章の間の論の整合性
②用例について、多義の、各派生義の解釈
③図式、表の解釈
④統語的整理に関する浅深
第一に各章に跨がって類義語の意味を扱っているため、それぞれ関与する記述が不整合 なところが一部見られるという点がある。既発表論文の発刊時期が異なり、考えが更新さ れていくという点からは避けがたい事ではあるが、一つの論文として纏める上では整合性 を保つための修正が必要であると思われる。
第二にある意味タイプの事例として、ある用例が妥当であるか、ごくわずかではあるが、
長谷部氏と審査員で見解が異なるものがあったという点がある。これもこの種の意味記述 研究では避けがたい事ではあるが、ある意味タイプ1とある意味タイプ2を設定すれば、
当然その中間タイプ用例もあり得ると考え、必要に応じて中間タイプの事例として、対応 する用例を示しても良かったのではないかと思われる。
第三に本論文では各章末尾に意味的統語的整理をまとめた表が示されていて、本論文の 価値を高いものにしているが、各表について、結果がこうであったというまとめの意味を 持たせるだけでなく、表についてのより深い解釈を記すと記述が豊かになったのではない かと思われる。
第四に章によって統語的整理に関する浅深があると見受けられるという点がある。これ も既発表論文の発刊時期が異なり、考えが更新されていくということからは避けがたい事 ではあるが、特にⅠ章について、統語的整理の記述量が少なく今後充実させる余地がある と思われる。
以上のように指摘すべき点はあるものの、すべて論の根幹を揺るがすものではなく、今 後比較的容易に修正が可能であると考えられる。
結論的にいえば、論文全体として、多義の記述、それぞれの意味があらわれる際の統語 的条件の整理が、高いレベルで達成されていると判断され、学位授与に値するものだと認 められる。
(2)今後の課題
本論文の今後の課題として、ウェッブ上の公開時(学位授与後 1 年以内)までに上記2
-(1)で示した諸点を修正することが挙げられる。
次に他の相対的空間名詞や、それを構成要素とした語群について、新たなテーマを設定 し、記述を推し進めて行くことが課題となる。長谷部氏には、学界に新知見をもたらすで あろうその作業を遂行する十分な学識と能力があると判断される。
3.口述試験及び語学試験の結果
(1)口述試験
2017 年 12 月 22 日、愛知学院大学栄サテライト教室で、本論文の公開口述審査を行っ た。16時から18時30分にかけて、主として上2-(1)に記した内容について、質疑を 行い、長谷部氏からは納得のいく回答が得られた。
(2)博士候補者試験
長谷部氏は本学大学院博士後期課程2年在学時に、外国語2試験に合格し、博士学位取 得の条件を満たしている。
4.結論
以上の点から、長谷部亜子氏の本論文は愛知学院大学学位規則第3条2項により、審査 委員一同、博士(文学)の学位を受けるに値すると判断し、本学位請求論文を合格と判定 した。
5.外部公開
本論文は、学位授与1年以内に、本学リポジトリに登録され、外部公開が為される予定 である。
報告は以上である。
審査委員 主査 教授 多門靖容 副査 教授 杉浦正好 副査 准教授 高田三枝子 副査 東京外国語大学教授 早津恵美子