循環器疾患診療の Future Topics─循環器疾患イメージングの Future Topics
はじめに
遅延造影
MRI
は,局所的な心筋線維化を鋭敏に検 出できる検査法であり,₁₉₉₉
年に心筋梗塞の診断に おける有用性の報告がなされて以来,その応用範囲 は心筋バイアビリティ評価,心筋疾患の鑑別,予後 予測など,多岐にわたる.遅延造影MRI
では正常心 筋と病変部の造影剤濃度の違いを,インバージョン リカバリ法によって正常心筋を無信号化して際立た せ,視覚的診断を容易にする.ただし,本法は正常 心筋が存在することを前提としている点で,あくま で相対的な評価法であり,びまん性の心筋線維化や 軽度の心筋線維化の評価は難しい.そのため,日常 診療において,心筋の組織性状評価を行うには心内 膜下心筋生検がしばしば必要であった.こうした遅 延造影MRI
の弱点を克服できるような新たな非侵 襲的な心筋性状評価方法としてT₁ mapping
が開発 され,近年臨床利用が行われるようになっている.T₁ mapping
とは,MR装置の静磁場内におかれた 組織が持つ性状を反映した固有のT₁
値(単位ms)
をピクセル毎に定量評価し,マップ表示する方法の ことであり,心筋組織性状を客観的かつ定量的に評 価する手法である.
Native T1 と ECV(Extra‑Cellar Volume fraction)
心筋の
T₁ mapping
は₂
通りの方法で心筋組織 性状評価に利用されている.ひとつはNative T₁
で あり,造影剤を使用せずにT₁ mapping
の撮影を行 い,得られたT₁
値をそのまま評価に用いる.もうひとつは,ガドリニウム造影剤投与前後で
T₁
値を 計測し,後述の方法で心筋組織の細胞外容積分画(extra︲cellar volume fraction;ECV)を計算で求め て利用する方法である.
Native T₁は,細胞成分と間質の両者からの信号 で決定される.心筋線維化,心筋浮腫やアミロイド 沈着などの細胞外液容積が増加すると
Native T₁
は 上昇(延長)する.逆に心筋への脂質や鉄成分の沈着 あるいは出血などではT₁
値が低下(短縮)すること が知られている.ECVは,式[1]に示すように,細胞外液に非特異 的に分布するガドリニウム造影剤の性質を利用し て,造影剤投与前後の心筋組織および左室内腔血液 の
T₁
値の逆数の差の比を,採血から得られるヘマ トクリット値で補正することにより定量的に計測さ れる.ECV(%)
=
(₁-Hct)*(₁/T₁myo post-₁/T₁
myo pre)/
(₁/T₁blood post
-₁/T₁
blood pre)*₁₀₀
[1]ECVは細胞外マトリックスを間接的に定量評価 していると考えられており,心筋線維化を反映した 定量的指標とされる.心筋線維化以外の細胞外液容 積が増加する病態でも増加することには注意が必要 であるが,現時点では,びまん性心筋線維化の非侵 襲的評価法として
ECV
が最も正確であると考えら れている.図 1に,
Native T₁
とECV
を用いた心筋組織性状 評価の参考図を示す.T1 mapping の臨床応用
すでにいくつかの疾患において
T₁ mapping
の有CMR T1 mapping の臨床応用
後藤義崇 石田正樹 佐久間 肇
三重大学医学部附属病院 放射線診断科
用性は報告されている.
心アミロイドーシスでは,
ECV
を用いることによ り診断精度が高まり,早期診断にも有用であるとさ れる₁)(図 2).最近の報告では,ECV, Native T₁
を 組み合わせることにより,心アミロイドーシスのサ ブタイプ(AL型とATTR
型)を判別できる可能性 が示唆された₂).他の心筋疾患においても,ECVとNative T₁
を組み合わせて評価することにより,早 期診断,患者予後の層別化や治療効果判定などに有 用であることが期待され,研究が進められている.心ファブリー病では脂質沈着を反映し,肥大型心 筋症や高血圧心,大動脈弁狭窄症,アミロイドーシ スなどの左室肥大をきたす疾患と比べ有意に低い
Native T₁
を示す.最近の報告によると,左室肥大 を有してない心ファブリー病の症例においても有意 に低いNative T₁
を示すことが明らかにされてい る₃).また,シネや遅延造影MRI
といった一般的な 心臓MRI
プロトコールにNative T₁ mapping
を付加することで心ファブリー病の診断能が向上すると いう報告もみられる₄).これらの結果は,T₁ map-
ping
を用いることで左室肥大を認める心疾患から 心ファブリー病を正確に鑑別するのみならず,非典 型例でもより早期に診断治療ができる可能性を示唆 している.心筋炎の診断には,一般に心内膜下心筋生検が推 奨されているものの,侵襲度が高く,病変存在部位 から必ず採取できているとは限らない欠点がある.
一方,心臓
MRI
は心筋全体を非侵襲的に評価できる 特徴を有するものの,心臓MRI
による急性心筋炎の 診断に広く用いられてきたLake Louise
基準は診断 能が不十分であった₅, ₆).最近,心内膜下心筋生検を ゴールドスタンダードとした場合のCMR
での診断 能を検討したMyoRacer Trial
が報告された.その 結果,T₁ mapping
でNative T₁
を評価したほうが,T₂ mapping
や遅延造影,Lake Louise
基準よりも優 れていることが示された(感度:₈₈%,特異度:図 1 Native T1 と ECV を用いた心筋組織性状評価
(Martin Ugander氏のSCMR ₂₀₁₄スライドより改変)
Extra Cellular Volume;ECV(%)
Native T1(ms)
Fat Iron Fabry
Normal
Chronic MI Acute
myocarditis
ATTR amyloidosis AL amyloidosis
Acute MI
HCM DCM
₆₇%)
₇).その後に報告されたメタアナリシスにおい ても同様に,急性心筋炎の診断におけるNative T₁
の有用性が示されている₈).これはNative T₁
が心 筋浮腫により鋭敏であり,心筋組織性状を客観的か つ定量的に評価できる特長によるものと思われる.現在,心筋の浮腫・間質増加の検出において従来の
T₂
強調画像よりもNative T₁
のほうが鋭敏である とされている₉)(図 3).最近になって,拡張機能障害を主体とした心不全 である,いわゆる
HFpEF
(Heart Failure with pre- 図 3 20 歳代女性:心筋炎急性期に撮影されたT₂強調MRIでは,広範囲の浮腫が疑われるものの,NativeT₁ mapおよびECV mapの ほうがより客観的に心筋障害を指摘することができる.慢性期の画像では,可逆的な心筋障害の良好な改善を 確認できる.Native T₁(急性期;₁₄₀₀ ms,慢性期;₁₂₄₀ ms),ECV(急性期;₄₅%,慢性期;₂₉%).₃T装置 で撮影.
T2強調 MRI
急性期
発症6カ月後
遅延造影 MRI Native T1color map ECV color map
図 2 60 歳代女性:AL 型心アミロイドーシス
シネMRIでは良好な収縮能と軽度の心筋肥厚を認める.遅延造影側壁に淡い遅延造影を認めるのみであるが,NativeT₁
mapとECV mapでは著明なT₁値上昇(₁₃₉₀ ms)とECV上昇(₄₀%)を認め,心アミロイドーシスと積極的に診断するこ
とができる.₃T装置で撮影.
シネ MRI:収縮期
シネ MRI:拡張期 遅延造影 MRI Native T1color map ECV color map
served Ejection Fraction)において, T₁ mapping
に より算出したECV
と侵襲的な心筋stiffness
の指標 であるbeta
には有意な相関があると報告された₁₀). このことは,HFpEFの病態に少なからず影響して いる心筋線維化をT₁ mapping
によるECV
で定量 評価することにより非侵襲的に心筋stiffness
の状 態を把握できる可能性を示しており注目を集めてい る.サラセミアなどの心筋鉄過剰症は,心筋に鉄が過 剰に沈着し不整脈などをきたす予後不良の疾患であ る.近年,T₂*強調画像により心筋鉄過剰症の早期 診断・治療が可能になり患者予後が大きく改善して いる₁₁).鉄沈着は心筋
Native T₁
を短縮させる.T₁ mapping
を用いることで,T₂*強調画像と同等の精 度で心筋鉄過剰症を診断することが可能であるとい われている.その上,軽度の鉄沈着についてもT₂
* 強調画像より鋭敏に検出が可能であるため早期診断 や治療効果判定に有用ではないかと期待されてい る₁₂).一方で,現時点では十分な有用性が示されていな い疾患もある.拡張型心筋症においては,T₁ map-
ping
による評価で早期の線維化を指摘できること,それらと組織学的評価とには有意な相関があること が示されている.しかし,拡張型心筋症における
T₁
値の変化は小さく,また菲薄化した心筋ではT₁
mapping
の空間分解能により正確な評価ができない可能性があり,現時点では日常臨床での有用性は 高くない.肥大型心筋症においても
Native T₁
を用 いることで造影剤を用いずに心筋線維化を評価でき る可能性はあるものの,遅延造影やシネMRI
に付加 できる有用性は確立していない.T1 mapping の注意点
Native T₁および
ECV
の評価に関しては,いくつ かの要因を考慮する必要がある₁₃, ₁₄).Native T₁値 は静磁場強度に依存し,同じ組織であっても₁. ₅T
装置と₃T
装置は異なる値を示す.また,T₁ map-ping
の撮像シーケンスには多くのバリエーションがあり,撮像シーケンス間では計測される
T₁
値や 再現性に差がある.さらに,被験者の要因として年 齢や性別による変化が報告されているが,現時点で は一定の見解は得られていない.正常や異常を判断 するためにも,それぞれの施設,装置においてボラ ンティア撮影による正常値の検討が強く推奨されて いる.ECV
は造影前後のデータを用いるため,造影 剤投与以外の要因を基本的には排除でき,得られる 数値の普遍性が高く,施設,装置ごとの正常値の検 討は必ずしも必要ではない.しかし,造影剤投与量 や投与から撮影までの時間により計測値が変動しう ることが報告されており,これらのECV
利用にお いては,造影剤投与に関する条件を統一しておく必 要がある.また,Native T₁に対して,ECVの利用 には,造影剤投与が必要であること,ピクセルごと のECV
マップを得るにあたり造影前後で心筋の位 置ずれの補正が必須であることなどが問題点として あげられる.おわりに
T₁ mappingはここ数年間で研究論文が激増して いる手法である.
Native T₁
により,心筋への脂質・鉄の沈着や心筋浮腫の鋭敏な検出が,
ECV
により,びまん性線維化やアミロイド沈着などによる心筋細 胞外容積拡大の定量的評価が可能となっている.ま た,
T₁ mapping
により,従来の心臓MRI
検査と比 べて,心筋鉄過剰症,心ファブリー病,急性心筋炎,心アミロイドーシスなどをより早期かつ正確に診断 することが可能であるというエビデンスの蓄積が進 んでいる.さらに,T₁ mappingは心不全などのよ り詳細な病態評価において従来法より有用である可 能性も示されている.現時点では,T₁ mappingを 診療ベースで利用するには,検査の標準化やクオリ ティコントロールなどに課題があるものの,非侵襲 的に,心筋全体の組織性状評価が可能である点にお いては
T₁ mapping
の有益性は大きく,さらなる発 展が期待される.文 献
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