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雑誌名 東京家政大学生活科学研究所研究報告

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Academic year: 2021

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坪内逍遥が 「家庭用児童劇」 にて唱える三綱領 「簡 単」 「純樸」 「無邪気」 の意味を探る ‑劇づくりと実 演を通して‑

著者 花輪 充, 二木 秀幸, 竹本 由美子, 川合 沙弥香

雑誌名 東京家政大学生活科学研究所研究報告

巻 35

ページ 27‑31

発行年 2012‑07

出版者 東京家政大学生活科学研究所

URL http://id.nii.ac.jp/1653/00009926/

(2)

坪内逍遥が「家庭用児童劇」にて唱える三綱領

「簡単」「純樸」「無邪気」の意味を探る

―劇づくりと実演を通して―

花 輪   充

*

1 二 木 秀 幸

*

2 竹本由美子

*

1 川合沙弥香

*

3 Mitsuru HANAWA, Hideyuki NIKI, Yumiko TAKEMOTO, and Sayaka KAWAI

研 究 目 的

本研究では、子どものための子ども自身の劇の創始され んことを希望した坪内逍遥の考え方や芸術観に触れるとと もに、逍遥の『家庭用児童劇』第一集に掲載の台帳三作

「親雀と子雀」1)「蠅と蜘蛛」2)「こだま」3)を舞台化、実演す ることから、逍遥の唱える三綱領「簡単」(シンプリシ チー)「純樸」(ナイギチー)「無邪気」(インノーセンス)4)

の意味を探る。

研 究 方 法

遊育研究所〈素劇舎〉研究員による取り組み

1. テキストの作成/坪内逍遥の「親雀と子雀」「蠅と 蜘蛛」「こだま」を構成・脚色する。

2. 遊育研究所〈素劇舎〉研究員を対象として、『家庭 用児童劇』第一集の「親雀と子雀」「蝿と蜘蛛」「こだま」

の台本を、捲り絵芝居、素劇5)、朗読劇の様式で演出する。

手順/①家庭用児童劇脚本「親雀と子雀」「蠅と蜘蛛」「こ だま」の台本(台帳を脚色したもの)を研究員に配布。② 黙読、音読の過程において、登場人物像等について話し合 う。③研究員自身の手で芝居を構成させる。④演出家の手 により演出及び振付がはいる。⑤試演会又は公演等の開 催。⑥「親雀と子雀」「蠅と蜘蛛」「こだま」の取り組みに 関する振り返り。*記録映像を観ながら、家庭用児童劇の シナリオを実演する際の捲り絵芝居や素劇、朗読劇との相 性や可能性に関して検証するとともに、演者の即興的表 現、朗読劇的表現、素劇的表現が、子どもたちの鑑賞態度 や意欲に及ぼす影響について考察する。

実演記録「親雀と子雀」「蠅と蜘蛛」「こだま」から

1. 序章  舞台中央に衝立が置かれている。音楽が流れ る中、それは静かに取り払われる。その後ろにはひな壇に おかれたスケッチブックが3冊。紙面には、幼児が描い たと思われる絵が表されており、音楽が高まる中、3人出 演者が絵を手に持ち、頁を捲りながら、テーマ曲「童話劇 にいらっしゃい」を歌い始める。

舞台転換。「チュンチュン…」と声色を奏でながら、雀

*1 東京家政大学(Tokyo Kasei University)

*2 星美学園短期大学(Seibi Gakuen College) 

(3)

花輪 充 二木秀幸 竹本由美子 川合沙弥香 導入する。

2. 親雀と子雀  チュンチュンの声色。舞台上を親雀が 飛び交い、子雀が親の到来を首をながくして待つ光景。父 母雀が子雀に餌をやる場面が展開される。

母雀の号令で、すず太郎、すず次郎、すず子たちの飛ぶ 練習が始まる。褒められ励まされ、叱咤激励を受け、な んとか飛べたことに誇りを持つ子雀(すず太郎、すず次 郎、すず子)の3羽。

巣立ちができたことに安堵する母雀と父雀。嬉々とする 3羽の子雀。

3. 蠅と蜘蛛  丸椅子を積んで黒布をかけ、第二話の舞 台装置を作る。語りにのせて、母蠅、蠅吉が登場。芝居が 始まる。母蠅が蠅吉に蜘蛛のことを教える。そんなことお かまえなしに、生まれて初めて屋敷の中を飛び回ることに 興奮を抑えきれない蠅吉。

そこに蜘蛛が登場。巣をかけて蠅がかかることを心待ち にする蜘蛛。そうとも知らず、蜘蛛に近づく蠅吉。言葉 巧みに誘導され、蜘蛛の術中にはまってしまう蠅吉。

母蠅が現れる。蠅吉のことを心配してやってきたのだ。

蜘蛛の巣に引っかかった蠅吉をどうにか助け出そうと慌 てふためく母蠅。

助かったことに狂喜乱舞する母蠅と蠅吉。

(4)

そこに女中がやってくる。蜘蛛の巣を箒で払いのける。

慌てて逃げ出す蜘蛛と蠅の親子。2匹を追いかけ一撃を かわす。

4. こだま  朗読劇の様式で語りが始まる。こだまは中 央に、下手に太郎、上手に母親が陣取る。こだまは丸椅子 を回転させて太郎の呼びかけに呼応する。母親とのやりと りはオンステージフォーカス(対面的演技)をとる。

母親の教えを守って、こだまにやさしく話しかける。こ だまとのやりとりがうまくいった太郎は機嫌良く母親に その旨を話す。

5. こだま〈参加劇〉  子どもたちに「今度はみんなが こだまになってね」と参加を促す。太郎は、子どもたちを こだまにみたてて、声をかける。二人の語り手は、手振り 身振りを駆使して、こだまが返しやすいように促す。

子どもたちの声(こだま)に圧倒されて、母親のもとに 逃げ込み、諭される太郎。

改めて、こだまと対峙する太郎。やさしく機嫌良く声を かける。

6. 終章  芝居の終わりは再び「童話劇にいらっしゃ い」で。

日  時:2012124(火)13 : 00〜13 : 30 会  場:中野区・M幼稚園ホール

内  容:1月誕生会の企画 公演団体:遊育研究所 ・ 素劇舎

活動目的:‌‌平成23年度自主研究『坪内逍遥が「家庭用 児童劇」にて唱える三綱領「簡単」「純樸」

「無邪気」の意味を探る』に伴う「親雀と子 雀」「蠅と蜘蛛」「こだま」の実演記録 協  力:中野区・M幼稚園

結果と考察

本研究の目的とするところは、逍遥が劇づくりの三綱領 とする、簡単(シンプリシチー)、純樸(ナイギチー)、無 邪気(インノーセンス)の具現化による意味の探求であ る。演者は本研究の共同研究者であり、遊育研究所・素劇

(5)

花輪 充 二木秀幸 竹本由美子 川合沙弥香 家政大学児童学科卒業生であり、中野区・M幼稚園教諭

である川合沙弥香の3人である。本来、家庭用児童劇の 台帳は、その緒言にも記されているように、「家の中で、

子どもたち自身が、家の人たちや友だちに観せるために演 る劇」とあるが、このたびの試みでは、大人の演者3 が、母、父、子の立場に身を置きながら各題材に登場する 役を演じるといった二重構造をとった。視覚的にも雰囲気 的にも、親子で演れる〈戯れ劇〉としたかったからであ る。逍遥の謂う、ママゴトの心を弁えた劇、いつでもどこ でも起こりうる遊びの火種となる劇としたかったからであ る。したがって、舞台で演じるといった様式はとらず、平 土間に演者と観客の子どもたちが向かい合うといった状況 をつくった。舞台飾りなるものは、衝立が2種類とスツー ル(丸椅子)3脚といった簡素なものである。演出は、

「親雀と子雀」が捲り絵芝居の様式、「蠅と蜘蛛」において は素劇の様式、「こだま」においては朗読劇の様式に則っ て行った。どれもが、逍遥曰く、能狂言や神楽芝居を彷彿 させるかのように、写実的ではなく、より暗示的なもの、

いわば三綱領に適ったものと自負している。捲り絵芝居と いうのは花輪の造語である。これは、スケッチブックに描 かれた登場人物(親雀、子雀)を3人の演者が捲りなが ら、動きながら、語りながら表現していくといったもので ある。素劇は、演出家関矢幸雄6)の提唱する演技法であ るが、ここでは蠅の翅を扇子で、蜘蛛の巣を黒布で表現 し、微細な動きについては身体表現で補うことにした。朗 読劇(前半)では、3台の丸椅子を使うなどして、単純且 つ意外性のある表現を目指した。後半は、子どもたちが実 際 こだま となって、太郎の呼びかけに全身で呼応でき るような構成・演出を試みた。衣裳はいたってシンプルな ものとし、黒の上下に 半纏 といった出で立ちに統一し た。ただし、色は年齢や立場を象徴するものとした。ま た、劇の演出効果を高めるために、全編を繋ぐテーマ音楽 1曲(作詞/花輪、作曲/二木)と、背景曲を1曲(作曲/

二木)、効果音(鳥の囀り等)を使用することにした。

題材の選定については、逍遥が家庭用児童劇第一集の巻 末に記した「彼等が平素見慣れ又聞きなれてゐる物や事を 主にしなければならないと同時に、其間に迚も平素見聞く ことの出來ないやうな異常な又は不思議な、多少目ざまし い又は珍しい事や物が編込まれてゐなければいけない。例 えば、鳥や獸や魚や蟲などが、人間と一しょになつて言動 するやうなことがあるはうがよい。いひかえれば、非常と 尋常、自然と不思議、噓と實、卑近と高遠などといふ反對 の物が、いはば、當り前の事ででもあるやうに、卽ち餘り 刺戟的でなく、自然に滑かに調和されて作り込まれてある やうなのがよい。」7)との文言を参考に、12編の作品群の 中より「親雀と子雀」「蠅と蜘蛛」「こだま」を選んだ。

逍遥の唱えた「簡単」「純樸」「無邪気」の三綱領は、彼 の児童劇における理論上、創作上、実践上の命題であり指 標であった。逍遥は、児童劇の本質を「子供の為の、子供 自身の子供劇」であるとし、「児童劇の本領は高い意味で の教育でなければならならぬ。注入的、干渉的、強迫的の それでない、誘導的、自然的、自発的の教育法に則ったも のであらねばならぬ。ルソーやフレーベル、近くばモンテ ソリーやエレン・ケイなぞの教育主義に副う所の立場で以 て子供らを教え導く所の児童劇が欲しいのである。」8)とし た。これは、それまでの児童劇が専門劇団の興行する子ど もの娯楽なり教養なりのためのものであったり、内容等が ませ過ぎていたり、「用語にも脚色にも表情にも科介にも 扮装にも舞台装置にも音楽にも舞踊にも、子供には味わえ きれない味が附けてある。成人の趣味でできている。」9) とを憂慮するものであり、子どもの発達、興味、嗜好、い わば遊戯感情とは縁遠い児童劇の現状を真っ向から否定す るほどのインパクトがあった。逍遥は、演劇を遊び、と説 くほどに、遊びの重要性に視点を向け、「子供は盛んに遊 ばせなければいけない。さうしない以上、決してまッとう な人間には成り得ない」と述べている。『まッとうな人間』

とは今日の言葉でいえばいわゆる 全人 ということであ ろう。かくて逍遥はまた演劇ないし芸術による全人教育を 理想としたのだった。」10)逍遥は、児童劇の使命について 次のように結んでいる。「本来児童教育の方法としては、

注入と啓発との二様がある。注入は児童を専ら所道的たら しめるので、啓発は彼等をして能動的たらしめるのであ る。〈中略〉いうまでもなく、最近の最も進んだ教育法は いずれも児童を能動的に取扱うことを以て眼目としていま す。〈中略〉つまり、自己表現(セルフ・エクスプレッ ション)と自己訓練(セルフ・ツレニング)を自然にする のが子供の本質である。〈中略〉彼等は自分自身で色々な ことを実行したりすることによって最も多く学ぶのであ る。成るべく手放してやらせておくがいい。そういう自動 性を善道するのが教育の本旨である。」11)これらの指摘が、

現代の教育の現状を考え合わせても卓説なることは明らか である。逍遥は、子どもの遊び(自己表現)を、生きるた めの練習(自己訓練)の最良の機会とし、遊びの中に息づ く子どもたちの自発的・自修的な取り組みを善導すること こそが教師の眼目であるとした。さらに、子どもの能動性 を利導せんがために、子どもの心理や生理を踏まえた教育 の動機や内容の整備の必要性を説き、その役目を児童劇に 託したのである。「自己訓練に適するものでありたい。…

静的よりも動的でありたい。娯楽といふよりも遊戯であり たい。個的の遊戯であるよりも群団的の遊戯でありた い。」12)まさに逍遥は、全人教育を目的とした、子どもの 能動性を喚起する 劇的遊戯 をめざそうとしたのであ

(6)

る。

これらの理念は決して明治・大正の教育の象徴の範疇に あらず、表現教育の次世代の方向性を探る、一大眼目であ り、一大指針であることは言うまでもない。

文   献

1) 坪内逍遥著『家庭用児童劇第一集』(早稲田大学出版部/大正 11年)p 23

2) 前掲書p. 33 3) 前掲書p. 7 4) 前掲書p. 195

5) 演出家関矢幸雄(1927〜)が提唱する演劇の表現様式である.

リアルな美術・衣裳・メイクを排除し,何もない空間の中で の身体表現とモノの見立てを駆使した創造的な表現様式とで も譬えられようか.時としてその様は観客の想像性を大胆そ して繊細に刺激する.関矢は素劇の演技をさして,「必要に して十分な表現であること」の重要性を説いているが,その あり方は能や狂言にも相通ずる洗練された芸術性と様式美の 追求があるのかもしれない.

6)創作舞踊家として『地霊』『黒い沼』で高松宮賞や文部大臣 賞及び舞踊詩『越後山脈』の序章「山ふところ」で芸術選奨 を受賞.東宝で多くのミュージカルのステージングで『マ イ・フェアレディ』『屋根の上のヴイオリン弾き』等を手掛 ける.1962年からは,劇団風の子,劇団むすび座,劇団あ とむ,劇団ひまわり,劇団ともしび等の児童劇団の演出を手 掛ける.平成3年度春の紫綬褒章を受章.平成8年度勲三等 旭日小賞叙勲.

7)坪内逍遥著『家庭用児童劇第一集』(早稲田大學出版部/大正 11年)p. 197

8) 坪内逍遥著『児童教育と演劇』(早稲田大學出版部/大正12 年)p. 119

9) 坪内逍遥著『家庭用児童劇第一集』(早稲田大學出版部/大正 11年)p. 195

10)坪内逍遥著『児童教育と演劇』(財団法人日本青少年文化セ ンター/昭和48年)p. 163

11)坪内逍遥著『児童教育と演劇』(早稲田大學出版部/大正12年)

pp. 123〜125

12)坪内逍遥著『児童教育と演劇』(財団法人日本青少年文化セ ンター/昭和48年)pp. 165〜166

参照

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